ジータちゃんが闇堕ちしたら……   作:もうまめだ

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 この話はエピローグと名前がついていますが、まぁ最終話の続き(?)です、時系列はあれですが……


 本当はこの話を最終話にする予定でしたが、自分が考えた通りにうまくかけず、本編にはいれませんでした。


 闇堕ちが好きな方は最終話までで、この話を読む必要はないと思います。逆に、最終話を読んでちょっとばかし明るい話が欲しい(実際そんなに明るくはありませんが)と思ったら、読んでみてもいいと思います。

 簡単に言えば私の自己満足で書いたようなもんですね………


 前置きはさておき、どぞ~


エピローグ 初めての再会

「……っ!」

 

 はっと目が覚めた。心臓が戦闘時のように激しく鼓動している。深呼吸をして落ち着こうとするが、顔が濡れているのに気づいて、動揺する。

 

 まだまだ暗い部屋の中で手探りし、明かりをつける。時計を見ると日の出一時間前ぐらい。もう一度眠りについたら、またさっきの夢を見るような気がして。椅子に掛けてある服を羽織って、部屋を出る。廊下を歩き甲板に出ると、すぐに新鮮な空気が体中を巡っていく。

 

 

 嫌な夢だった。妙にリアルな夢。未だに手に微かに残るのは、剣を握り、それを振り下ろす感覚。目の前に立っていたのが仲間じゃなかったら、どんなに良かっただろうか。

 

 

 私は夢の中で、グランを、仲間を殺そうとしていた。帝国兵は何人手にかけたかわからない。憎悪で動く身体は私の指示を聞かずに動き、時に嬉々として目の前の相手を死に至らしめる行動に身震いさえした。

 

 

 夢なんだから。そう割り切ってもいい。けれど、私にはそうはできなかった。心の奥底から、みんなに謝らなくちゃいけないと感じて、何について謝るのかさえも分からないのに、居ても立っても居られなかった。

 

 

 柔らかな陽光が遠くの空から差すのに気づくまで、私は悶々としたまま雲の間を泳ぐように翔けていくグランサイファーの上でうずくまっていた。

 

 

 いつものようにルリアとビィ、そしてグランも起きてくる。平和なおはようを交わし、私たちは食堂へと向かう。今日の朝食当番はローアインとファラだっけ。グランの呟きにルリアが返答するいつもの朝。けれど、私はみんなを直視できなかった。後ろめたい何かを隠しているようで、そんな記憶なんて全くないのに、謝らなくちゃいけない気がして、三人の会話を黙って聞いていた。

 

 食堂に入るとすでに何人か団員がいて、こちらに挨拶をしてくる。その中に、いつもはあまり見れないペアで座っている二人がいて、私たちはそこへと向かう。

 

「おはよう、シェロ、それとカリオストロ。珍しい組み合わせだし、それにカリオストロがこんなに早く起きてるなんてどうしたの?」

 

「みなさんおはようございます~。お疲れのことと思いますが、一つ頼みたい依頼がありまして~」

 

「でもシェロも知ってると思うけど、今日からみんなお休みデーだよ? 流石に帝国を相手に勝利をつかむ大仕事をしたばっかだから、しばらくは羽を休めようと思っているんだ。これからアウギュステに遊びに行こうと思っていたんだけど……」

 

「はい、それも知っています~。ただ、たまたま今回の依頼がアウギュステに行く途中にある島でしたので~」

 

「う~ん。まあ話をまず聞いてみようか……、それでカリオストロは?」

 

 グランとシェロが話している間、カリオストロが私を何度かちらっと見ていたのは気づいていた。様子をみるようなそのさまは普段のカリオストロらしくなく、けれど私も後ろめたさからカリオストロに視線を合わすことができなかった。彼女には謝罪だけでは済まされないよな、ひどいことをしたような……そんな気がする。

 

「あ、あぁ。オレ様も久しぶりに驚いたことがあってな、それについてなんだが……。話にするとややこしくなるから、とりあえずグラン、お前はオレ様の部屋に来い。お前に渡すものもあるし」

 

「へっ、なんで? それに渡すものって?」

 

「話はあとだ。依頼の話は、その、ジータだけで大丈夫だろ?」

 

「えっ、うん、大丈夫だよ」

 

「それじゃあこいつはちょっと借りていくから」

 

 カリオストロに引きずられて食堂を出るグランを見送りながら、私たちは席に着き、よろず屋の話を聞く。依頼は星晶獣絡みのものだったが、そこまで力の強くない星晶獣ようで、私はそれを受けることにした。島の詳細を聞き、ラカムに行き先変更を伝え(ようと思ったら、すでによろず屋が手を回していた)、私たちは依頼の島を目指すことになった。といっても島まで早くても一日の距離であり、結局その日一日は空旅に決まったが。

 

 忙しいのかすぐに艇を出発するシェロカルテを見送る。陽も高く上りはじめにぎやかになり始めた艇上で、視界に団員が入るたびに謝罪の言葉が頭をよぎる。みんながみんな笑顔で私に挨拶してくるのに、私はひきつった笑みしか返せない。いっそ団員全員を集めて謝ろうか、そう思いながら部屋に戻ろうとした私の前方からクラリスが歩いてきた。

 

 

 動悸がする。夢で見た光景がよみがえる。仲間とわかっていながら非情な攻撃で身動きのできないほど衰弱したクラリスを痛めつけ、鼻歌を歌いながら髪を引っ張り、市街地を歩く。そんな光景が、目の前を歩いてくるクラリスに重なる。後ろめたさを超えた罪悪感から、その場から逃げたくなる。

 

「おお、ジータっ、おっはよ~。今日からしばらく休みなんでしょ?、クラリスちゃん頑張っちゃったからねぇ~!」

 

「う、うん、そうだね……」

 

「どうしたのジータ? 調子悪そうだけど……、大丈夫?」

 

「ううん、違うの……。ねぇクラリス、その……ごめんなさい……!」

 

「へ、へぇ? うち、何かジータにしちゃったっけ……」

 

 

 困った顔をするクラリスに私は頭を下げる。そうでもしないと、私の心が壊れてしまうような気がして。クラリスに理由を聞かれても、今朝見た夢の内容を話すわけにもいかず、謝罪だけを残して私は逃げるようにその場を離れる。

 

 シエテにも謝りに行った。ルリアにも、ビィにも謝った。でもみんな不思議そうな顔をして、私に理由を聞いてきた。それならそれでいい。私の気が晴れればいい。

 

 けれど、カリオストロに謝ったときだけ反応が違った。明らかに動揺した表情、そして、何か記憶にあるのかという質問。私が夢の内容について話そうか迷っているうちに、ごまかされたけれど何かを知っているようだった。

 

 そして、グランに謝ったときも、一瞬だけ強張った表情を見せた。

 

 

 

ーー

 

 

 

「……っ!、はぁ、はぁ……」

 

 

 まただ。またこの夢だ。

 

 

 顔に手を触れると、昨日と同じように雫がつく。寝ている間かそれとも、私は知らないうちに泣いていた。明かりをつけ時間を見ると、日の出一時間前を示す時計の針。椅子に掛けてある上着を羽織り、私は部屋を飛び出す。

 

 甲板に出て瑞々しい空気を吸っても、憧憬は消えなかった。昨日よりも悪化した夢の内容はただの夢でいいのか……。昨日カリオストロとグランが見せた反応も相まって、私には今見た夢も昨日見た夢も他人事のようには思えなかった。

 

 陽が出ていないためまだ外は肌寒い。もう一度部屋に戻る気もせず、食堂にでも行こうかと思った矢先、声をかけられる。

 

「ジータ、おはよう」

 

「へっ、グラン?」

 

 薄暗闇に目が慣れてきて、グランが少し離れたところに座っているのが見える。湯気が出ているカップを手に持ち、毛布を肩にかけたグランが顔だけこちらに向けている。

 

「こんな朝早くに起きているなんて、ね」

 

「こっちのセリフだよ」

 

「コーヒーあるけど、飲む?」

 

 私が来るのを待っていたのか、グランのすぐそばにはカップがもう一つとコーヒーポットが置いてある。私が頷くのを見ると毛布から腕を出し、カップにコーヒーを注いでいく。香ばしい匂いが鼻腔を刺激し、私はグランの横にうずくまるようにして座る。カップを受けとり、一口飲み、息を吐く。白い息が宙へと漂って消える。

 

 

「グラン、私、夢を見たんだ」

 

「……そうか」

 

 

 沈黙は思い出したくない夢の内容を思い出させる。それが嫌で、ふと気づけば私はひとりごちるように話し出していた。

 

 

「アーカーシャがいた手前の部屋があったよね、多分そこだと思う。グランが空中に浮かんだ縄に首をくくっててね。助ければいいのに、なんでか私、グランを痛めつけてるの。拷問みたいに、机の上にはいろんな武器が並んでいて……。その一つ一つを取って、記憶にない思い出話を語って、グランに……」

 

「……」

 

「ほかにも見たんだ。部屋は同じなんだけど、そこで私は大切な仲間を一人……自分の手で殺した。誰だか思い出せないの、団員じゃないと思う、顔はぼやけて思い出せなくて……。わ、私、夢の世界なのにその人と会っている気がして……それで、謝らなくちゃって……」

 

「……」

 

 

 グランは何も言わなかった。聞いているとは思う、でも空の彼方を見据えたまま表情も崩さず、黙っていた。グランの反応は寂しくもうれしくて、心の淀みを発散するように、私は夢で見た光景をグランにうち明け続けた。

 

 

 空の色が黒から、群青色を混ぜた紫へと変わり、そして不意に一条の光が差す。おぼろげで今まで見えなかった島が、漂う雲に今日最初の影を落とす。その島を見た私の心臓がどくんと、大きく鼓動する。

 

 

「あれが……」

 

「再興の島だ」

 

 

 初めて見るはずの島に懐かしさ、そして心の底から湧き上がる感情がある。気づく間もなく、私の心は聞きたかった、でも聞けなかったことを聞いていた。

 

 

「グラン、あの後、何があったの?」

 

 

 顔も名前も思い出せないから、私にその人を仲間と呼ぶ資格はない。でもその人は私にとって大切な人で、そう

、私はその人を助けようとしたはずたったのに、結果的に手にかけた。その後私は、そしてそばにいたはずのグランはどうしたのか、どうなったのか。忽然とそこで途絶えた夢の場面は、もう一度夜を迎えても二度と巡り合えない、そんな気がしていた。

 

 

 脈絡のない、言ってしまえば意味さえ分からない質問。けれどグランの顔が、何かしら私が知りたいことを知っていることを告げていた。

 

 

「知っている……の?」

 

 

「……うん」

 

 

 私の方を振り向くグランの横顔を陽光が橙色に染める。

 

 

「でも……ごめん。まだジータに話すことはできないんだ。ううん、違う。俺の勝手なわがままなんだけど、まだ話したくないんだ。ジータが見た夢の決着はまだついていないんだ、それは俺にとってもジータにとってもね。いつか必ず話す、だから俺を信じてほしい」

 

 

 

ーー

 

 朝食を昨日と同じように食べ、何人かの団員に声をかけて今回の依頼のメンバーを決めていく。その中に普段は面倒くさがり外にもでないカリオストロが混ざっていることに少し驚きながらも、昨日シェロに聞いた依頼の内容を説明していく。全員の了解を取ったあと、島への上陸の準備をする。

 

 

 再興の島の港に艇を停めた私たちはグランを先頭に島へと上陸した。大部分の団員たちは休養のために艇に残し、今回の依頼は少人数で行うことになっていた。みんなが下りたのを見届け私も艇から降り、地に足を着ける。その瞬間、私の心が何かに囚われた。

 

 早る心臓に驚きながらもゆっくりとグランの後をついていく。港の入り口に立っている男性が今回の依頼主だろうか。けれど私の視線はその後ろの街中を向いていた。行かなくちゃいけない場所が、会いに行かなくちゃいけない人がいるような気がして、一人でに足が走り出しそうになる。一度それを許してしまえば止められなくなりそうなほどの衝動を抑えられたのはほんの数分だった。

 

 

 グランが依頼主と話をし、港を出て街へと入って数歩、抑えきれなくたった私の心がグランに声をかける。

 

 

「ねぇ、グラン!」

 

 前を歩くみんながこっちを振り向く。そんなのも気にならないほど私は早く、できるだけ早くそこに行きたかった。

 

「わ、私っ!」

 

「ジータ、行ってきていいよ。いるんでしょ?、この島に」

 

「えっ……う、うん!」

 

「俺もすぐに後を追いかけるから」

 

「うん、ありがとっ!」

 

「ジータっ!」

 

 背を向ける私をグランの鋭い声が引き留める。振り向くといつにもまして、真面目な顔をしていた。

 

「俺も仲間も、俺たちはみんなジータの味方だから、だから、無茶はしないで、俺たちのことを頼っていいんだからね?」

 

「もちろん、分かってるって!」

 

 グランに返事をし、みんなに背を向け走り出す。後ろから、お前も早く行くんだよっ!、っていうカリオストロの罵声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 走った。

 

 初めて来た街中を、誰の顔も知らない人々とすれ違いながら。

 

 どこかは分からない。でも会わなくちゃいけない人がそこにいるのが分かる。心でつながっているように、鼓動が伝わってくるのが、距離とは関係なく、分かる。

 

 

「どこっ、どこにいるの?」

 

 立ち止まって耳を澄ます。水の音、人々のしゃべり声。見当たらない情景が心に流れ込んできて、辺りを見回す。ふと視界の隅に、蒼い髪の少女の手を引いて走る、女の子の姿が映る。

 

「あれは……」

 

 

 自然とその方向に足が動き出す。少し陰った裏路地のような道。遠く路地のその先に微かに、ひらけた空間が見える。

 

 

 あそこだ。

 

 心が感じ取り、私に指し示す。

 

 足が走り出し、私は小道を駆けていく。息をするのも忘れるほどの全速力で、心臓が破裂しそうになるのも抑えず、裏路地を抜けて、そして。

 

 

 

 

 水の音。人のしゃべり声。

 

 

 いた。

 

 そうだ、なんで忘れていたんだろう。名前も顔も、声も。見知った、聞き知ったその姿も。全部知っていたのに。

 

 

 一歩近づく。もう一歩、さらにもう一歩。そこで私の足は止まる。

 

 

 何を、言えばいいの。謝るの、それとも感謝を?

 

 彼女が私に気づき、笑顔を向ける。それがなぜか私には辛くて。

 

 地面に水滴が落ち、痕が残る。あぁ、私泣いているのか。

 

 彼女は少し戸惑った表情をし、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。

 

 

 

 

 泣いている暇なんてなかった。迷っている場合じゃなかった。

 

 

 よし。

 

 

 悩むことなんてなかった。だって、言うことなんて決まっていたんだから。

 

 

 伝えたかったことを、夢を、世界を超えて言いたかったことを言うために、私は大きく息を吸い込む。

 

 

 

 そして。

 

 

 広場にいるみんなが振り向くような声は、心からの思いは、灰色だった島に色を届け、島の再興を告げていく。

 

 

 

 

 -完ー

 

 

 

 

 

 

 




というわけでおしまいです!


一応、活動報告的なものをあとで書く予定ですが、内容もなくだらだらと感謝、謝罪を書くだけなので本当に気になった方だけどうぞ!


長い期間にわたってお世話になりましたが、ありがとうございました!

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