「もうナツったら…いっつもこうなんだから……」
階段を駆け上がりながら、ぶつぶつと呟くリーナの息は乱れつつあった。そして、塔の頂きを見上げようと視線を飛ばすが、頂点は見えそうになかった。
「はぁ…何処まで続くのかしら」
溜息の混じりの呟く声は反響する事無く消え失せていった。
「オイ!!」
聞き慣れぬ声が急に此方へと向かって飛ばされた。不思議と自分に向けられたと分かったリーナは驚きながらも振り返る。
「な、なに!?……アンタは確かっ!!」
突如、現れたシモンに対し臨戦態勢に入ったリーナだが、その背負われている者に目を引かれ、自然と力が抜けていた。
「ま、待て!!俺は味方だ!!」
必死に説明をするシモンに取り敢えず、納得したリーナは不安を抱えながらも近寄って、並んで走り出した。
* * *
「ジェラァァァアアル!!!クソッ、クソッ、くそぉお!!!」
大音声を響かせながら、駆け抜けるのは金髪の男、ショウであった。怒りの形相を浮かべ、一心不乱に駆け抜けていた。
「騙しやがって…!!姉さん傷付けやがって…!!!」
怒りとは別に悔しさから目に涙を浮かべ、次々に言葉を吐き出している。止まる気配は無い。
「ショウ…!!落ち着けっ!!私をここから出せっ!!」
と、ショウの胸のポケットから聞こえる声はエルザの声であった。カードの中に閉じ込められたエルザは必死に出せ、と要求するがショウは聞く耳を持たなかった。
「大丈夫だよ、姉さん。姉さんは絶対、俺が守る!!!」
頑固な決意が揺らぐ事は無く、ショウは駆け抜けるのみであった。すると、一変変わった、場所へと辿り着いた。桜色の花びらが舞い降り、鳥居が何重にも重なっている通路であった。しかし、ショウは気にした様子もなく駆ける事を辞めない。
「っ!!?」
そして、漸く目の前の敵に気付き、足を止めた。ゆっくりと近づいてくる桜色の髪をした和風という雰囲気を纏った女性が口を開いた。
「うちは
対してショウはカードを指の間に挟み込み、構えを取った。
「退けよ…」
「てめぇなんかに用はねぇ!!!」
そう叫んでカードを投げる。だが、悠長と佇んだ状態から一瞬にして構えを取った
「バ、バカな…」
「うちに斬れへんものなんかあらしまへんで」
突然、ショウは倒れ、訳も分からず、痛み始めた。
「いやぁ、そんなとこにいはりましたん?エルザはん?」
「ショウ!!!私をここから出せ!!」
「大丈夫だよ、姉さん。そのカードはプロテクトし―――なっ…!!?」
次の瞬間、
「空間を越えて…斬ったのか!!?」
すると、その言葉に頷く様子も見せず、
「ぐああぁぁぁっ!!!」
「くっ…!!!」
ショウはその斬撃を真面に食らい、エルザは辛うじてその剣で防ぎきっていた。
「姉さん…」
突如、カードが消え、光の球体からエルザが現れた。
「
「挨拶代わりどす」
刹那、言葉の直後にエルザの鎧に亀裂が奔り、瞬く間に砕け散った。右腕に痛みを覚え、直ぐに抑える。すると、エルザの目つきが一瞬で変わった。
「そうそう…その目」
(姉さんが本気になった…!!)
ショウは置物に背中を預けるのみで2人の睨みあいを見届けるだけであった。
「御出でやす」
無数の斬撃が繰り出され、異様な風切り音が舞う。エルザの放った無数の剣が斬り裂かれ、1つとして当たっていない。一方、敵は真っ赤な炎をエルザに浴びせ、凄まじい衝撃を与えた。
「後悔するがいい、換装!!!煉獄の鎧!!!」
跳躍し、大剣を豪快に振り落す。瞬く間に衝撃波が轟き、水がはじけ飛ぶ。しかし、その凄まじい衝撃も
「ぐあぁぁあっ!!!」
エルザの鎧をいとも簡単に砕け散った。
「うちの刀には……ん?」
すると、振り返ったエルザは再び換装した。その行動にあきれ顔になったのはエルザ以外のショウと
「な、なんだ!?あの鎧…いや、装束か…?」
「何の真似どす?」
包帯を胴囲に巻き付け、長い赤い装束を穿いただけの鎧ではない装束。両手には2つの直刀が握られていた。
「うちも舐められたもんどすなぁ」
ただの布だと確信した
「どうしたんだよ…姉さん!!姉さんはもっと強い筈だろォ!!?」
「私は強くなど無い…強くなんか…。弱いから何時も鎧を纏っていた。ずっと…脱げなかったんだ」
「…たとえ相手が裸やろうとうちは切りますえ?」
「鎧は私を守ってくれると信じていた………だが、それは違った」
「何が…どす?」
一呼吸を置いたエルザの目つきが変わる。
「人と人との心が届く隙間を私は鎧でせき止めていたんだ。
そして、言い放った。
「温かいものなのだと…」
そして、体勢を整え、構えを取ると、宣告する。
「もう迷いはない。私の全てを強さに変えて―――討つ!!!」
静寂が舞い降りる。この緊迫した空気をさらに強める静寂は長いものであった。そして、
「ハァ!!」
床を蹴り、駆け出した。そして、2人は一瞬にしてすれ違った。直後、旋風が巻き起こる。そして、一瞬の時を終えて―――エルザの片方の刀が砕け散った。
「ふっふっふ…勝負あり」
次の瞬間―――
「―――お見事どす」
と、言い残し、
* * *
「さっきウォーリーから通信があった。倒れているルーシィとジュビアを発見し、倒れている
駆けあがりながら、説明をしているシモンに耳を傾ける、ナツとリーナ。
「残る敵はジェラール1人。そこはエルザが向かっている。あいつは全ての決着を一人でつけようとしているんだ。あの2人には8年にわたる因縁がある。戦わなければならない運命なのかもしれない。だが、ジェラールは強大過ぎる…頼む、エルザを助けてくれ」
「やなこった」
ナツは不貞腐れたように手を後頭部に回し、そう言う。
「エルザの敵はエルザが決着をつけりゃあ良い。俺が口をはさむ問題じゃねぇんだよ」
「そういう事…」
リーナもナツの言葉に同意する。檄を飛ばすシモンに対して、2人はかなり冷静であった。
「いや…エルザではジェラールに勝てない」
「あぁ!!?」
「そんな筈ないわよ!!!エルザさんの力がどれだけ―――」
「違う!!!力や魔力の話じゃねぇんだよ!!」
更に会話は悪化し、やがて、駆け上がる足は止まっていた。
「エルザは未だにジェラールを救おうとしているんだ。俺には分かる、アイツにジェラールを憎む事はできないから」
ついに2人は黙ってシモンの次々に出される言葉に聞き入っていた。
「ジェラールは狡猾な男だ、エルザのそういう感情も利用してくる。状況はさらに悪い。評議員がここにエーテリオンを落とそうしている事は知ってるな。勿論、そんなものを落とされればここの者は全員、全滅だ。ショウの話ではあと…10分か……」
「何ッ!!?」
「嘘っ!!?」
シモンは振り返り、頂上を見上げた。
「エルザの事はお前たちが良く知っているだろう?まさかとは思うが…エーテリオンを利用して、ジェラールを道ずれにする気かもしれん」
「確かに…エルザさんなら…」
ナツの歯を食いしばる音だけが静かに聞こえた。無意識にリーナは駆けあがっていた。ナツは魔力を震わせ、大きく雄たけびを上げる。
「エルザはどこにいるんだァアアア!!!」
* * *
一方、王座の間では激しい攻防が繰り広げられていた。エルザとジェラールによるものである。
「ハァアアア!!!」
エルザの全撃を全て躱したジェラールはエルザの足元に奇妙な魔法を出現させ、エルザをいともたやすく閉じ込めた。
(みんな…)
閉じ込められたエルザは全員の優しい言葉をふと思い出していた。すると、自然に力がこみ上げ来て―――魔法を切り裂いた。
「んなっ!!?」
あっという間に距離を詰め、エルザはジェラールの腹部に一撃を与える。そして、一瞬にして馬乗りになり、その首元に剣を突き立てた。
「お前の本当の目的は何だ?私とて、8年間、何もしていなかったわけではない。Rシステムについて調べていた。このRシステムは完成などしていない。魔力が足りていないハズだ」
「……」
ジェラールは黙ったまま、エルザの言葉を聞き流していた。その表情から目的は読み取れない。
「…お前は何を考えているんだ?」
「エーテリオンまで、あと3分だ…」
不適な微笑みと共に黙り込んだ状態から言ったのはそれだけであった。
「ジェラール!!お前の理想はとっくに終わっているんだ!!!このまま、死ぬのがお前の望みかっ!!!」
自然とジェラールの手首を握る力が強くなり、ジェラールはその痛覚に顔を顰める。それから、少し静寂が続いた後、ジェラールが口を開いた。
「…俺の身体はゼレフにとり憑かれた。何もいう事を聞かない、ゼレフの肉体を蘇らせるだけの人形なんだ」
「…?」
エルザはその言葉にただ沈黙を続け、つぎの言葉を待った。
「全ては始まる前に終わっていたんだ。Rシステムなど完成するハズがないと分かっていた。しかし、ゼレフの亡霊は俺を止めさせなかった。もう…止まれないんだよ。エルザ…お前の勝ちだ…ここで終わらせてくれ」
その言葉に動揺を隠せないエルザは束の間、戸惑う。そして、剣先が震え始めた。それとほぼ同時に地鳴りが生じ始める。エルザはジェラールの言葉を無視し、
「私が手を下すまでも無い。この地鳴り、既に
刀を捨て、そう言葉を吐き捨てた。その表情はあまりに悲しみに浸っていた。
「…不器用なやつだな」
「お前もゼレフの被害者だったのだな」
エルザの言葉に少しの安堵と安らぎが感じられる。
「私もお前を救えなかった罪を償おう」
「俺は………救われたよ…」
あまりに小さな声は地鳴りによって消え失せた。そして、互いに抱きしめ合い、その時を待った。
「「………」」
「うっ…もう間に合わない…!!!」
「エルザァアァァア!!!」
地鳴りは激しくなり、やがて、海の波が荒れ狂い始めた。この空間の全ての大気が恐怖する様に震動し、辺りを揺るがす。まるで、この空間のみが別空間の様である。そして、エーテリオンが落とされた。
この時、エルザは気付いてはいなかった。ジェラールの思惑を―――邪悪な心の笑みを――――。
「…終わった」
そして、全てが光に消えた。
* * *
エーテリオンが落とされたほぼ同時刻、ERAでは次々に大声が飛び交い、辺りは騒音に包まれていた。
「エーテリオン、目標に命中!!繰り返す、エーテリオン、目標に命中!!!」
「破壊は成功か!!?確認急げ!!」
「エーテルナノ融合体濃度上昇。異常気象が予測されます!」
何人もの評議員の人達が慌ただしく動き回り、次々に言葉を飛び交わせる。そんな現状を柵に手を置き、不安を積もらせながら見下ろす老人、オーグは片手で鼻翼をつまんでいた。
「あの塔に何人の者がいたのか……」
目を塞ぎ、そう呟くオーグは少なからず俯いた。
「ゼレフの復活を阻止したのだ。その為の犠牲ならやむを得んよ」
同じく議員のミケロはそう言うが、オーグの表情が晴れる事なかった。増々、悪化している、そうも思えた。
「我々のした事をどう正当化しようと……犠牲者の家族の心は癒されんよ」
その頬には汗が伝っていた。罪悪感に浸りながらも動くことなく見守るだけであった。
* * *
場所は変わり、エーテリオンが落とされた場所。
「え…?生きてる…?」
自分の両手を見、そう呟いたエルザは呆然と座り込む。一方、抱き合っていたハズのジェラールは既に立ち上がり、不適な笑みを浮かべていた。
「クク…あははははははっ!!」
「…どういう事だ?」
「ついに…ついにこの時が来たのだァ!!!」
高笑いしながら、そう叫ぶジェラールは考えられない程の達成感に満ちていた。
「おまえ…」
それに対して、エルザは全く状況が掴めず、動揺を隠しきれない。その後、ジェラールの笑い声は止んだ。
「くくく、驚いたかエルザ。これが、楽園の塔の真の姿、巨大な
未だにイマイチ状況が飲み込めないエルザはただ動揺し、少しずつ頭の整理をする。騙された、それだけはしっかりと理解していた。
* * *
「目標健在!!何だ、あれは…巨大な
一方、映像に映し出された気の遠くなる様な高い塔に眺め入り、更に慌ただしい驚愕と興奮がERAでは竜巻の様に巻き起こっていた。
「
「何じゃと!?」
この時、全員は完全に完敗したのだ。全てはジェラールの思惑通りに…未だに計画は崩れてはいなかった。刻一刻とゼレフ復活へと進展しているのだった。
* * *
「だ…騙したのか……」
漸く状況が飲み込め、再びジェラールは邪悪に染まっていたのだと、感じる。いや、我に返っただけのなのかしれない。
「かわいかったぞ、エルザ」
突如、後ろから声を掛けられ、エルザはその声に聞き覚えがあったことで、更に驚き、振り返る。
「ジェラールも本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから、騙すしかなかった」
「ジークレイン!!?」
本来ならば、ERAに滞在している筈のジークレインがこの場にいる、それは驚愕を超えたのものであった。
「な…なぜ貴様がここに!!?」
「初めて会った時の事を思い出すよエルザ。マカロフと共に始末書を提出しに来た時か、ジェラールと間違えてオレに襲い掛かって来た。双子を聞いてやっと納得してくれたな。しかし、お前の敵意はむき出しになっていたがな…」
「当たり前だ!!貴様は兄のくせに、ジェラールのやろうとしている事を黙認していた!!それどころか、私を監視していた!!!」
気が動転するあまり、つい怒鳴ってしまうエルザの息が乱れつつあった。
「そうだな、そこはオレのミスだった。まぁ、しかし、お前に出会ったしまったこと自体が1番の計算ミスだな」
「…ならば…
瞬く間にエルザは怒りの形相へと変わり、2人を睨み付ける。だが、敵は不敵な笑みを浮かべるだけで答えようとしない。興奮するエルザは更に怒鳴りつけた。
「貴様“等“がやったのか!!!答えろ!!!」
「貴様…“等”?クク、知らんなぁ…」
その態度、表情、言葉。明らかに自分達の仕業だと示していた。エルザは更に拳を強く握り締めた。
「あぁ、そうだ。だが、お前の言葉には少し誤解があるみたいだな」
ジークレインがそう言葉を吐く。
「…誤解?どういう事だ?」
冷静ではなくなった、エルザの言葉には焦りが見えた。
「貴様“等”ではない…」
ジェラールがそういうと、エルザの表情が驚愕に染められた。
「まさか…!!?」
「そう、オレ達はひとりの人間だ。最初からな」
そう言うと、ジークレインだった筈の人物は透明化し、ジェラールへと融合する様に消えていった。
「思念体!?」
「やっと気づいたか。そう、ジークは俺自身だよ」
「バカな…!!!ならば…」
「ククク、察しが良いな。かりそめの自由は楽しかったかエルザ」
邪悪の笑みを浮かべ、圧倒的な殺気を放ちながら、ジェラールはこう言い放った。
「全てはゼレフ復活させる為のシナリオだった」
と。
* * *
その頃、ERAでは。
「な、何だこれは!?」
施設の至る所に無数の亀裂が奔り、施設全体が崩れ始めていた。そこで誰かが呟く。
「建物が急速に老朽化している?
「あかん!!!崩れよる!!」
誰かが叫ぶ。
「レイジ老師!!」
また誰かが叫ぶ。
「うわあぁあ!!」
「ひいぃぃいい!!!」
「ひゃあぁあ!!」
幾つもの絶叫が響き、建物が崩れ落ち、全て崩壊する。瓦礫が地響きを立て、柱が倒れ込み、砂埃が大量に舞い上がる。柱が柱と激突し、壁を潰す。やがて、建物は完全に崩壊を遂げていた。
「あの方の
その言葉を呟く女性、ウルティア。この老朽化を発生させた張本人であり、黒幕であり、
「叶えられるのです」