やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。   作:春雨2

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番外編 短編集 たとえばこんなある日の風景。

 

 

ある日の風景

 

 

 

光「奈緒! メダルを!」

 

奈緒「よし……こいつを使え! 光!」 チャリーン

 

光「変身!」 キンッ キンッ キンッ

 

 

 

『ハンサム!』『優しい!』 『真面目!』

 

『ハ・ヤ・マ! ハヤマ! ハ・ヤ・マ!』

 

 

 

麗奈「ふんっ! なら、こっちはコレよ!」 ユキノ!

 

未央「おうともさ!」 ユイ!

 

 

 

『YUKINO/YUI!!』

 

 

 

奈緒「くっ、今のコンボじゃ勝てないな……ならこれだ!」 チャリーン

 

光「おお! これなら勝てそうだ!」 キンッ キンッ キンッ

 

 

 

『卑怯!』『頑固!』『皮肉屋!』

 

『ヒキ~ガヤ~!』

 

 

 

麗奈「むむ、ありゃ厄介ね」

 

未央「面白くなってきたぁ!」

 

 

 

ワーワー! キャーキャー!

 

 

 

凛「あれは何やってるの?」

 

ちひろ「暇だから仮面ライダーごっこですって」

 

八幡「おい。俺の扱いオイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 奉仕部編

 

 

 

由比ヶ浜「うぅ~……ヒッキー、今頃何やってるのかなぁ」

 

雪ノ下「恐らく、プロデュース活動でしょうね」

 

由比ヶ浜「それは、そうだけど……そうじゃなくて!」

 

雪ノ下「なら、レッスンの付き添い。ライブの打ち合わせ。もしくは事務所で企画会議や事務仕事をやっている、というのはどうかしら」

 

由比ヶ浜「別に具体的に何やってるのかとか、そういう意味で訊いたんじゃないから!」

 

雪ノ下「なら、どういう意味で訊いたのかしら?」

 

由比ヶ浜「それは、えっと……」

 

雪ノ下「…………」

 

由比ヶ浜「うぅ……」

 

雪ノ下「……心配なのね、彼の事が」

 

由比ヶ浜「そう、なるのかな……?」

 

雪ノ下「大丈夫よ。彼は目も性根も根性も腐った人間だけれど…」

 

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのんが相変わらず容赦ない」

 

雪ノ下「……けれど、自分の信じたものにはどこまでも真っ直ぐな男よ。それが周りから蔑まれ、虐げられる道であっても、ね」

 

由比ヶ浜「……ふふっ」

 

雪ノ下「な、何を笑っているのかしら」

 

由比ヶ浜「ううん。ゆきのんって、ヒッキーがいない時はあんまり酷いこと言わないなーって」

 

雪ノ下「そ、そうかしら。……気のせいだと思うけれど」

 

由比ヶ浜「あはは♪ ……あっ! そうだ!」

 

雪ノ下「どうしたの?」

 

由比ヶ浜「あたしたちも、アイドル目指そうよ! そうすればヒッキーと一緒にお仕事出来るし!」

 

雪ノ下「それはまた、安直な発想ね……」

 

由比ヶ浜「ねぇねぇ、どうかなゆきのん?」

 

雪ノ下「そうね……私はどちらかと言うと、比企谷くんのやってるようなプロデューサー業の方が興味はあるけれど……」

 

由比ヶ浜「? ゆきのん?」

 

雪ノ下「……やっぱり、私は遠慮しておくわ」

 

由比ヶ浜「えーっ! どうして?」

 

雪ノ下「私が奉仕部の部長である以上、ここを空けるわけにはいかないからよ。……未だついていない勝負も、忘れるわけにはいかないもの」

 

由比ヶ浜「勝負??」

 

雪ノ下「こちらの話よ」

 

由比ヶ浜「ふーん……?」

 

雪ノ下「けれどもちろん、由比ヶ浜さんがアイドルを目指すというのなら、私は応援するわ」

 

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのん……!」

 

雪ノ下「最近では、バカドルというのが流行っているのでしょう? 中々、言い得て妙な言葉ね」

 

由比ヶ浜「ゆきのんが辛辣だ!?」

 

雪ノ下「ふふ……冗談よ」

 

由比ヶ浜「もーうっ!」

 

雪ノ下「ふふふっ」

 

由比ヶ浜「……あはは。それじゃあ、あたしもやーめよっ」

 

雪ノ下「! やめるって、アイドルを目指す事を?」

 

由比ヶ浜「うん。よく考えたら、あたしはヒッキーと……ゆきのんと三人で一緒にいたいから」

 

雪ノ下「…………」

 

由比ヶ浜「だから、ゆきのんを一人にしたら意味ないじゃん? あたしも、ここでヒッキーを待つことにするよ」

 

雪ノ下「……そう」

 

由比ヶ浜「うんっ!」

 

雪ノ下「それなら、今日も活動を始めるとしましょうか」

 

由比ヶ浜「よーし! とりあえずはメールのチェックだね! 張り切っていこう!」

 

雪ノ下「まぁ、あなたがまともに解答した事は殆ど無いのだけれどね」

 

由比ヶ浜「ゆきのんってばもうっ! 一言余計だし!」

 

 

 

ウフフ……アハハ……

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

 

材木座「ふむ……今日の所は原稿を読んで貰うのはやめておくとするか」

 

平塚「おや、どうしたんだね。扉の前に立っていたりして」

 

材木座「すまないが、今ばかりは彼女らの邪魔はせぬようお願い申す。今この部屋には、貴女の失ったもので溢れているのだ」

 

平塚「は?」

 

材木座「けぷこんけぷこん……主に、若さとか」

 

平塚「よーしちょっと着いて来ようか。生徒指導室はコチラだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 その2

 

 

 

美嘉「あれ? それってもしかしてアタシたちが表紙やった雑誌??」

 

八幡「ん……まぁな」 パラパラ

 

美嘉「へー、ほー、ふーん?」

 

八幡「なんだよ、凛の真似か?」 パラパラ

 

美嘉「あはは、別にそんなつもりじゃないって。なに、サンプルでも貰ったの?」

 

八幡「いや、コンビニで売ってたから買ってきた」 パラパラ

 

美嘉「そ、そうなんだ。……で、どう?」

 

八幡「どう、とは?」 パラパラ

 

美嘉「もう、可愛く撮れてるかに決まってるじゃん? アタシも莉嘉も、今回はかなり良かったと思うんだけど★」

 

八幡「まぁ、良いんじゃねーの」 パラパラ

 

美嘉「だから、そんなテキトーな答えじゃなくてさ。正直な意見を聞かせてよ!」

 

八幡「…………」 パラ…

 

美嘉「?」

 

八幡「……少なくとも、俺が個人的にお金を出して衝動買いしたくなる程には、その…………可愛いと思う」

 

美嘉「…………」

 

八幡「…………」

 

美嘉「……ぶっちゃけちょっとキモイ」

 

八幡「俺の正直を返せ」

 

 

 

 

 

 

莉嘉「?? 二人とも顔赤くなってるけど、どうかしたの?」

 

ちひろ「なんででしょうねー。とりあえず壁殴り代行依頼しておきますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 その3

 

 

 

未央「ねぇねぇプロデューサー! ちょっといい?」

 

八幡「なした」

 

未央「今度、しぶりんのブロマイド発売されるんだよね? もしかして、もうサンプルとか貰ってるのかなーってさ」

 

八幡「……まぁ、無いこともないが」

 

未央「おう! やっぱり!」

 

八幡「それがどうしたんだ」

 

未央「いやね、どうにかそれをね、譲ってもらえないかな~なんて……」

 

八幡「無理」

 

未央「えー! なんで!?」

 

八幡「むしろ何でお前が欲しがるんだよ。いつから凛のファンになったんだ?」

 

未央「いやーある意味じゃ元々ファンみたいなものだけどさ。ほら、持ってたら何かと面白いことに使えるんじゃないかな~と」

 

八幡「諦めろ。もしくは発売まで待て」

 

未央「みんな手に入るようになってからじゃ遅いんだって!」

 

卯月「それなら、直接凛ちゃんに撮らせてもらったらどうでしょう?」

 

八幡「いたのか島村」

 

卯月「ガーンッ! さ、最初からいましたよ!? ね、未央ちゃん!」

 

未央「え? あ、うん。……じゃなくて、しぶりん恥ずかしがって撮らせてなんかくれないって!」

 

八幡「だろうな」

 

卯月「あぁ、そっか。凛ちゃん照れ屋さんですもんね……」

 

未央「うーむ…………ん? 写真? ……それなら!」

 

卯月「どうしたんですか? 急にケータイを取り出して」

 

未央「ふっふっふ……プロデューサー! これならどうだ!」 ババーンッ

 

八幡「っ! これは……!」

 

卯月「あ、可愛い。凛ちゃんの寝顔の写メですね」

 

未央「これと交換で、ブロマイドを私に譲ってくれいっ!」

 

八幡「…………」

 

未央「…………」

 

八幡「…………ブロマイドは」

 

未央「……ッ!」

 

八幡「……ブロマイドは、全3種類1セットだ。お前の手数はそれで全てか?」

 

未央「……フッ、今ならレッスン中のポニテしぶりんもお付けしよう」

 

八幡「乗った!」

 

未央「交渉成立!!」

 

卯月「い、いいのかなぁ……あはは」

 

 

 

 … 後日 …

 

 

 

未央「ねぇねぇしぶりん! 今度のテストちょっとヤバくってさ、勉強教えてくれない?」

 

凛「もう、また? そろそろ自分で出来るようにならないと…」

 

未央「まぁまぁ♪ このプロデューサーの寝顔写真あげるからさ!」

 

凛「ん…………いや、別に私は……」

 

未央「……このネクタイ緩めてる瞬間とか、中々良く撮れてると思わない?」

 

凛「…………」

 

未央「…………」

 

凛「……こ、今回だけだからね」

 

未央「やーりぃ♪」

 

卯月「(似た者同士だなぁ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 その4

 

 

 

加蓮「はー、まさか事務所にケータイ忘れるなんてなー。まだ誰か居ると良いけど」 

 

カタカタ カタカタ

 

加蓮「? パソコンの音? ちひろさんでもいるのかな……」 そー…

 

八幡「…………」 カタカタ

 

加蓮「(あ、八幡さん。まだ会社にいたんだ)」

 

八幡「……ふー」 のびー

 

加蓮「(フフ、口ではあんなに働きたくないとか言ってるくせに、実は頑張り屋さんなんだから)」

 

八幡「……さて、もうちょいやってくか」

 

加蓮「(もう誰もいないのに……仕方ない、ここはアタシがお茶でも淹れて…)」 ドキドキ

 

八幡「…………」

 

加蓮「(……? どうしたんだろう。急に難しい顔して)」

 

八幡「…………」 キョロキョロ

 

加蓮「(って、今度は辺りを見渡し始めた)」

 

八幡「……練習するなら、今か……」

 

加蓮「(練習?)」

 

八幡「……ふー……っし」

 

加蓮「(一体何を……)」

 

八幡「〜〜♪ 〜〜♪(全力のキラメキラリ)」

 

加蓮「ブフォっ!」

 

八幡「!?」

 

 

 

こうしてヒッキーの黒歴史は増えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 その5

 

 

 

凛「いらっしゃいませー……って、小町?」

 

小町「こんにちは凛さん! 店番お疲れさまです!」

 

凛「あ、ありがと。って言っても、今日はお客さん全然いないからすること無いけど」

 

小町「いえいえ。お仕事もあるのに凄いですよ!」

 

凛「まぁ、総武高校でライブやってから仕事もあんまり無いし、休みの日くらいは手伝わないとね。……っていうか、店の場所言ったっけ?」

 

小町「そこはもちろんウチの兄に。いや、教えては貰えなかったんですけど、東京に住んでるってのは聞いてましたから、渋谷って苗字とお花屋さんっていう情報で絞り出しました! ちょ~っと時間はかかっちゃいましたけどね♪」

 

凛「そ、そうだったんだ」

 

小町「ええ! ほぉーこんな花もー……」 キョロキョロ

 

凛「……今日は、私になにか用事でも?」

 

小町「いえいえ、私も今日は休みだったので挨拶がてらお花を見てみようかなと」 キョロキョロ

 

凛「ふーん……」 チラッ

 

小町「あ、残念ながら兄は一緒じゃないですよ?」

 

凛「ッ!? いや、私は別に…」

 

小町「良っいんですよ~、そんなに取り繕わなくたって♪」

 

凛「あ、あはは(ていうか、今の視線の動きだけで察したんだ。最近の中学生って怖い……)」

 

小町「折角だから、お母さんに何か買っていこうかな~」

 

凛「…………ねぇ」

 

小町「? 何ですか?」

 

凛「……プロデューサーって、さぁ」

 

小町「はい! 兄が何ですか!?」 ズイッ

 

凛「い、いや、そんな大した話じゃ…」

 

小町「いいからいいから、兄がどうかしたんですか?」

 

凛「う、うん…………私が担当アイドルで、良かったのかなって」

 

小町「え?」

 

凛「ほら、私よりも、卯月や未央みたいな明るい子の方がアイドルに向いてるだろうし……」

 

小町「……」

 

凛「奈緒や加蓮の方が、スタイルだって良いし」

 

小町「ああ、それは確かに」

 

凛「うぐっ……」

 

小町「あっ、いやいや、凛さんも充分スタイル良いですよ!?」

 

凛「……でも、やっぱり思っちゃうんだ。もしかしてプロデューサーも、もっと可愛げのある子の方が良かったと思ってるんじゃないかって」

 

小町「……なるほど」

 

凛「だから、家でそんなことを言ってないかなってさ。小町なら知ってると思って訊いてみたんだ」

 

小町「……」

 

凛「……やっぱり、何か言ってた?」

 

小町「いえ、全く」 くすっ♪

 

凛「え?」

 

小町「それどころか、ホントに似た者同士だなって、思ってた所です」

 

凛「似た者同士?」

 

小町「ええ。『俺なんかがアイツのプロデューサーで大丈夫なのか…』とか『凛も、ホントは違うプロデューサーと組みたかったんじゃ…』とか、いっつも言ってますよ」

 

凛「プロデューサーが……」

 

小町「だから、そんなのは心配ご無用です。むしろお互い気遣い過ぎて心配までありますよ」

 

凛「ぷっ……さすがにそれは言い過ぎかな」

 

小町「それくらい、二人とも息ピッタリってことです♪」

 

凛「……そっか」

 

小町「……また、いつでも遊びに来てくださいね。比企谷家はいつでも凛さんを歓迎しますよ」

 

凛「うん。……ウチにも、またいつでも遊びに来て」

 

小町「はい♪」

 

 

 

 

 

 

凛「……他には、何か言ってた?」

 

小町「そーですねー……やよいちゃんがテレビに映るといっつも興奮してますね」

 

凛「ふーん……そう」 メラッ

 

小町「(ふっふっふ、良い感じに燃えてるよお兄ちゃん!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 その6

 

 

 

八幡「……ん?」 テクテク

 

貴音「……おや」 スタスタ

 

八幡「奇遇だな。まさか局で会うとは……この間は世話んなった」

 

貴音「いえ、こちらこそ。真、素晴らしきステージでした」

 

八幡「お前にそう言って貰えるんなら、素直に喜んでよさそうだな」

 

貴音「ふふふ。……今日は、渋谷凛は一緒ではないのですか?」

 

八幡「ああ。生憎と別の現場でな」

 

みく「ちょっと待ってよヒッキー! 先に行くなんてヒドいにゃ……って、あれ?」

 

貴音「? はて、新しい担当あいどるですか?」

 

みく「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃんで貴音ちゃんがいるにゃ!?」

 

八幡「担当ではないな。臨時プロデュースっつう……まぁ代理みたいなもんだ」

 

貴音「なるほど。やはり所属あいどるが多いと、何かと大変なようですね」

 

八幡「そうでもねーよ…………いやそうなのか?」

 

みく「ねぇ! スルーしないで!? みくにもちゃんと説明して!?」

 

貴音「ふむ……では折角なので、この後お食事でもどうですか?」

 

みく「にゃっ!? 貴音ちゃんと食事!?」

 

八幡「お前さっきからちょっとうるさいぞ」

 

みく「だ、だってあの貴音ちゃんと食事だよ? 緊張して喉も通らないにゃ!」

 

八幡「よかったな」

 

貴音「そういえば、近くに回転寿司がありましたね」

 

八幡「よかったな」

 

みく「ホントに喉を通らないにゃ!? みく、お魚はNG!!」

 

八幡「どうせなら勝負すっか」 ←面白がってる

 

貴音「ほう。私に(食べ物で)勝負を挑むとは……面白いですね」 ←本気

 

みく「いやいやいや、みくの話聞いてる!? っていうか、お魚じゃなくても勝てる見込み無いにゃ!」

 

貴音「少しお待ちを。そろそろ響も収録終わりだったので、合流致しましょう」

 

八幡「なら俺も誰か……凛は今から合流無理そうだな。こういう時は黙っとくに限る。どうせならよく食えそうな奴を……そういや、この勝負に勝った時の見返りはどうする?」

 

貴音「そうですね……金銭面での賭け事はあまり良くはないですし…」

 

八幡「だな(真顔)」

 

貴音「……ならばもしも私が負けた時は、そちらの指定したお好きな曲を歌ってさしあげましょう」

 

八幡「マジか。フラワーガール歌ってくれ」

 

みく「ど、どんどん外堀が埋まっていくにゃ……みくの意思は?」

 

八幡「ばっかお前、あの四条が生で「いぇいっ!」って言うんだぞ? 「いぇいっ!」って。期待してるぞ前川」

 

みく「勝てないの分かってて言ってるよね!?」

 

八幡「そうだ、先にカラオケ予約しとくか。収録曲の多い良い店知ってるぞ」

 

貴音「ふふ。既に買った時の事を想定しているとは……余程自信があるのですね」

 

八幡「まぁな。あ、こっちが負けたらギャラ無しでどんな番組でもどんな企画でもゲスト引き受けるわ。前川が」

 

みく「もはやイジめの域!?」

 

貴音「……さて、響も収録が終わったようです。参りましょうか」

 

八幡「もしもし、三村か? 今から回転寿司行くんだがお前も…」

 

みく「…………ふ、ふふふ」

 

貴音「?」

 

みく「もう、ここまで来たら引き下がれないにゃ……いざ尋常に、みくと勝負にゃっ!!」

 

貴音「真、腕が…お腹が鳴りますね」

 

八幡「ただ腹減ってるだけだろ」

 

 

 

この後みくにゃんはサイドメニューやデザート系の皿で奮闘したものの、結局お姫ちんには勝てませんでした。むしろかな子にも負けました。

 

でもカラオケには行ったので、なんだかんだ歌を聴けて楽しかったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 その7

 

 

 

八幡「…………」 スタスタ

 

輝子「…………」 イソイソ

 

八幡「ん……?」 ピタッ

 

輝子「…………」 イソイソ

 

八幡「(あの力なく揺れるアホ毛……輝子か?)」

 

輝子「…………」 イソイソ

 

八幡「(何やら机で作業をしているようだが……)」

 

輝子「…………」 イソイソ

 

八幡「(珍しいな。机の下でキノコ育成するならともかく、机に向かって何かしているとは)」

 

輝子「…………」 イソイソ

 

八幡「(……何してんだろうな)」

 

輝子「…………」 イソイソ

 

八幡「(…………気になるな)」 そー…

 

輝子「……っ!」 びくっ

 

八幡「うおっ」 サッ

 

輝子「は、八幡……?」

 

八幡「(ば、バレた…)あ、あーいや、別に覗こうとしてたわけじゃないぞ。ただ、ちょっと、なんだ。魔が差したっつーか、まこちんの曲なら自転車が好きっつーか……」 アタフタ

 

輝子「フヒ……別に、いい」

 

八幡「そ、そうか」

 

輝子「これ、作ってただけだから……」 スッ

 

八幡「ん。……お守り、か?」

 

輝子「うん……中に、縁起の良いキノコが入ってる…フフ……」

 

八幡「お、おう(実に輝子らしいな)」

 

輝子「……こ、これ。八幡と凛ちゃん、に」 2つ

 

八幡「っ! 俺と凛に……?」

 

輝子「うん……さ、最近、二人とも忙しそう」

 

八幡「…………」

 

輝子「健康運と、仕事運が良くなるように……二人にあげる…フヒヒ……」

 

八幡「……そうか。んじゃ、ありがたく受け取っておくわ」

 

輝子「フフ……それを私だと思って、大事にするといい……」

 

八幡「なんかその言い方怖いからやめろ…」

 

輝子「…………」

 

八幡「……? 輝子?」

 

輝子「……最近、あまり会えない、からな」

 

八幡「ッ!」

 

輝子「い、忙しいのが良い事なのは分かってる……でも…」

 

八幡「…………」

 

輝子「…………」

 

八幡「……輝子」

 

輝子「……っ」 ぴくっ

 

八幡「あー……この後、時間あるか?」

 

輝子「……?」

 

八幡「凛も呼んで……そうだな、飯でも行くか」

 

輝子「っ!」

 

八幡「たぶん、まだ仕事終わりまでかかると思うが……どうだ?」

 

輝子「……フヒヒ」

 

八幡「…………」

 

輝子「……もちろん、行く…フフ……」

 

八幡「……そうか」

 

輝子「こ、小梅ちゃんと、幸子ちゃんも、呼んでいい……?」

 

八幡「おう。呼んどけ呼んどけ、いくらでも奢ったる」

 

輝子「フヒッ……さすが八幡。太っ腹」

 

八幡「そうでもある。ちひろさんも誘ってみるか」

 

輝子「賑やかに、なりそう……」

 

八幡「ああ」

 

輝子「……八幡」

 

八幡「何だ?」

 

輝子「……ありがとう」

 

八幡「……ああ」

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

 

八幡「やっぱ仕事終わりは食い放題に限るな」

 

凛「分かってた。誘われた面子の時点でこうなるって分かってたよ!」

 

輝子「フヒ……やっぱり、みんなで食べるのが一番おいしいな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 比企谷家編

 

 

 

八幡「たでーまー」

 

小町「あ、お兄ちゃんおかえりー」 グデー

 

八幡「……どうかしたのか。そんな屍みたくなって」

 

小町「いやー集中力が中々続かなくってねー。……もう今日は色々限界」

 

八幡「ほーん、受験勉強中だったか。お疲れさん」

 

小町「いえいえ。ところでお兄ちゃんはいずこへ?」

 

八幡「それ使い方間違ってんぞ。ちょっとTSUTAYAにな」

 

小町「ツタヤ? なに、ラブライブのTカードでも作ってきたの?」

 

八幡「違う。いやそれも後々作るつもりだが……今回はこれだよ」 つDVD

 

小町「DVD?」

 

八幡「今日からレンタル開始だったからな。すぐに借りてきた」

 

小町「今日から……うーん分かんないなぁ。一体何を……っ!」

 

八幡「フッ」 にやり

 

小町「こ、これは……!」

 

八幡「そう、映画『眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY』だ!!」

 

小町「買いなよ! お兄ちゃん!!」

 

八幡「言うな。今月厳しいんだ……」

 

小町「世知辛いね……」

 

八幡「まぁこればっかりは仕方がない。なんもかんも真骨頂クウガの出来が良過ぎるのが悪い」

 

小町「自業自得だったね……」

 

八幡「とりあえず俺は今から視聴開始するが、小町はどうする」

 

小町「……お兄ちゃん、受験生にそれ訊く?」

 

八幡「…………」

 

小町「たしかポップコーンとコーラがあったから持ってくるね!」

 

八幡「知ってた」

 

 

 

 ー 視聴開始 ー

 

 

 

テレビ「ーねぇ、知ってる? 桜の木の下には、女の子が眠ってるんだってーー。」

 

 

 

小町「奇麗な映像だねー」 もくもく

 

八幡「劇場にも見に行ったが、やっぱ何度見てもワクワクするな」 むしゃむしゃ

 

小町「始まり方が良いんだよね」 もくもく

 

八幡「しかし冷静に考えるとかなり怖いよな、この語り」 むしゃむしゃ

 

小町「確かに。春香さんが言ってるからそう感じないのかな」 もくもく

 

八幡「良いキャラしてるよな」 むしゃむしゃ

 

小町「キャラって言わないでよ。あれは素でしょ……たぶん」

 

八幡「別に批判してるわけじゃない。というかむしろ、765の中では俺はかなり好感を持ってる方だ」

 

小町「およ、そうなの?」

 

八幡「なんというか……自分の良い所、アピールポイントを理解してる、って言えばいいのか。あれが演技してるにしろ素なのにしろ、アイドルをあそこまで体現してる所は素直に凄いと思ってる」

 

小町「ふーん? よく分かんないや」

 

八幡「まぁ、これは星井にも言えることだがな」

 

小町「あー確かにミキミキは自分の可愛いところ分かってそうだね。ていうか実際カワイイし」

 

八幡「俺の場合あそこまで行くと逆に苦手だ」

 

小町「あはは、それお兄ちゃんが女の子に耐性無いだけじゃない?」

 

八幡「最近妹の言葉の端にトゲを感じる」

 

小町「別に前からでしょ」

 

八幡「それもそうだ」

 

 

 

テレビ「私たちの中から、アイドルが選ばれるかも知れないんだって!」

 

 

 

小町「ハム蔵が透明だよお兄ちゃん」

 

八幡「CGだろ。普通に考えて」

 

小町「最近の技術は凄いね」

 

八幡「けど確かに動きそっくりだし、もしかしたらモーションキャプチャーでも使ってんのかもな」

 

小町「もーしょん……? って、なに?」

 

八幡「G4Uでアッキーが協力してくれたやつだ」

 

小町「もっと分かんないよ」

 

八幡「お、あずささんが色っぽい」

 

小町「あのカーテンに二人で隠れるの、私でもやられたらドキドキするよ」

 

八幡「親父の気持ちが少し分かるな」

 

小町「あれ? お父さんってあずささんのファンなんだっけ?」

 

八幡「……そうか、お前はあの事件の時出かけてたからな。知らないのも無理はない」

 

小町「えっ。なにその不穏な語り口」

 

八幡「あれは俺と親父が竜宮小町のライブをテレビで見ていた時だった……」

 

小町「なんか始まった……」

 

八幡「その時リビングにおふくろがいなかったから、油断していたんだろうな。親父はふと呟いた」

 

小町「何を」

 

八幡「『あ~あずささんと結婚してーなー』、と」

 

小町「うわぁ……」

 

八幡「そしてその時、丁度背後に母がいたのを俺は端から見ていた、と」

 

小町「うわぁ…………」

 

八幡「これが世に言う『比企谷家あずささん罪な女事件』だ。完全に俺の中だけだけど」

 

小町「前にお父さんのご飯だけ一週間パンの耳だったのはそのせいだったんだね……」

 

八幡「まぁ出てくるだけ慈悲を感じるがな」

 

小町「そういえば、お母さんは誰かのファンとか言ってたっけ?」

 

八幡「……まこりん」

 

小町「……分かりやすいなー比企谷家」

 

 

 

テレビ「うぅぅぅ……うぅーーッ!!」

 

 

 

八幡「やよいちゃん、やよいちゃんっ!!」

 

小町「お兄ちゃんうるさい」

 

八幡「これが黙っていられるか。ってかやよいちゃん、完全にあれキメt」

 

小町「あー真さんカッコイイなー。雪歩さんも奇麗だし」

 

八幡「散髪シーンの告白は正直ビビったぞ。遂にか!? って。カップリングも狙いまくりだよな」

 

小町「そこがまた良いんじゃん。貴音さんが悪役ってのもまたね」

 

八幡「確かに。双海姉妹は最初思わず吹き出したが」

 

小町「あれは笑っても仕方ないね」

 

八幡「ってか、いおりんキャラまんま過ぎね?」

 

小町「そこはホラ、そーゆー需要を大事にしてるんじゃない?」

 

八幡「それを言われたら何も言い返せんな。涙目最高だったし」

 

小町「あと、今回は律子さんも出てたから嬉しかったね」

 

八幡「普段は竜宮のプロデューサーやってるもんな。たまにはこういう風に出てほしいもんだ」

 

小町「ん。この曲……挿入歌は新曲だったよね」

 

八幡「普通にカッコ良くて驚いた思い出」

 

小町「それで主題歌が題名にもなった眠り姫、ね。エンディングで流れた時は泣きそうになっちゃった……」

 

八幡「おい、エンディング前にそういうこと言うな。ホントに泣いちゃうだろ」

 

小町「ていうかお兄ちゃん普通に映画館で泣いてたよね」

 

 

 

テレビ「ハルカ、私、アイドルになるわーー!」

 

 

 

八幡「…………」

 

小町「…………」

 

八幡「……良いな、やっぱ」

 

小町「うん。……この間さ、ネットでメイキング映像見たんだ」

 

八幡「マジか。俺まだ見てねぇぞ」

 

小町「公式ホームページで見れるよ。それでね、その中で千早さんが言ってたんだ」

 

八幡「………」

 

小町「『最近は、色んなお仕事が楽しいんです』、って」

 

八幡「……へぇ、あの如月千早がねぇ」

 

小町「すっごい良い笑顔で言うもんだから、なんかこっちまで嬉しくなっちゃった」

 

八幡「前までは、歌にしか興味ありません! って感じだったのにな」

 

小町「うん。……でもきっと、良いことだよね」

 

八幡「……だな」

 

 

 

 ー 視聴終了 ー

 

 

 

八幡「良い映画だった。掛け値なしに」

 

小町「お兄ちゃんほら、ティッシュ」

 

八幡「すまんな」

 

小町「こちらこそ。小町も良い息抜きになったよ」

 

八幡「そら良かった」

 

小町「お父さんとお母さんもそろそろ帰ってくるだろうし、小町はご飯の準備するね」

 

八幡「そんじゃ、俺は風呂でも沸かしますかね」 ピッ テレビ切り替え

 

小町「おや珍しい。どしたの?」

 

八幡「なに、良いもん見た後だからな。気分が良いだけだ」

 

小町「あはは、単純だなぁお兄ちゃんは」

 

八幡「うるせ。それより小町、飯にするならカレーを…」

 

 

 

テレビ「明日夜9時、シンデレラプロダクション特大企画を発表! お見逃し無く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の風景 その8

 

 

 

八幡「…………」

 

 

 

遂に、この時が来てしまったか。

 

 

 

凛「プロデューサー? どうかしたの?」

 

八幡「……いや、なんでもない」

 

 

 

呆然と立ちすくむ俺を不信に思ったのか、首を傾げる凛。

だが少しくらいは察してほしい。今、俺がどれだけ精神的に追い込まれているのかを。

 

 

 

凛「じゃあ、この辺で少し待っててくれる? 私はお父さんとお母さんに先に説明してくるから」

 

八幡「お、おお」

 

 

 

そう言ってさっさと店、もとい家の中へと入っていく凛。

俺に比べ、その様子は何とも余裕綽々と見える。なんか俺だけ意識してるみたいで嫌だ。つーか事前に話しておいてくれよ、更に緊張してきただろ。

 

 

 

八幡「……はぁ、憂鬱だ」

 

 

 

そう、今俺は担当アイドル渋谷凛の実家へと赴いている。

 

やはりプロデューサーとして親御さんに挨拶するのは当然とも言えるし、本来であればもっと早くに来なければいけなかったのだが……正直、とてつもなく気が進まなかった。

 

だって自分の娘がアイドルをやってるってだけで心配が尽きないだろうに、その担当プロデューサーが俺だぜ? こんなん紹介されたら不安が加速すること間違い無しだろ。俺だって俺で不安です。

 

 

 

八幡「…………」 そわそわ

 

 

 

意図せずして視線が彷徨う。身体が勝手に忙しなく動く。

 

ダメだ、考えれば考えるほど気持ちが沈んでくるな……

どうするよ、もし凛の父親が漫画に出てきそうなテンプレ頑固親父とかだったら。「お前みたいなガキに娘は任せられん!」みたいな。「お前なんかに娘はやらん!」みたいな。

 

……いや、それじゃまるで結婚の挨拶に来たみたいだろ。

 

違う違うそうじゃない。俺はあくまでプロデューサーとして、担当アイドルのご両親に挨拶に来ただけであって、他意は無い。他意は無いんだ。だから落ち着け俺の心拍数。

 

 

 

八幡「……花でも見て落ち着くか」

 

 

 

凛には店の中で待っていてくれと頼まれたし、特にする事も無いからな。気持ちを落ち着けるには丁度いい。

 

辺りを眺めてみれば、色とりどりの花が陳列してあった。見覚えのあるものもあれば、見た事が無いようなものも。俺は花にはそんな詳しくはないが、見事なもんだな。つーか、花屋自体そんな入った事が無いからそう見えるのかもしれんが。

 

 

 

八幡「…………」 きょろきょろ

 

 

 

歩きながら色んな花を見てみる。

 

しかし実家が花屋を経営しているのは知っていたが、よくよく考えてみれば凄い乙女チックだよな。将来の夢はお花屋さん、というか既にお花屋さん、的な。それもあの凛が言ってたらと妄想するだけで色々捗る。

 

 

 

八幡「……まぁ、今じゃもっと女の子の憧れの的になれたがな」

 

 

 

お花屋さんよりも更に狭き門である、アイドルという存在。そんな誰もが一度は夢見る存在に、凛はなることが出来た。

 

そう考えると、凛は誰よりも女の子してるとも言える。

 

……それだけに、本当に親御さんは可愛がってんだろうなぁ。

 

 

 

八幡「やべぇな……一発殴られるくらいは覚悟しといた方がいいか」

 

 

 

だ、大丈夫だ。普段平塚先生のおかげで少なからず耐性は出来ているはず。もしもの時は応戦もやぶさかではない。俺にはサブカルで培った脳内格闘知識があるからな。脳内梁山泊に脳内勇次郎がついてるし、夜叉の構えから左手回して8時の方角で……

 

 

 

八幡「ん?」

 

 

 

ふと、視線を感じる。

 

最初は凛が戻ってきたのかと思ったが、見渡してみても姿は見えない。それどころか人の影も無い。

はて、ただの気のせいかしらと、そう思った時だった。

 

 

 

八幡「……お前か」

 

 

 

わんっ、という比較的小さな呼びかけに振り向いてみれば、その正体はすぐに分かった。

 

凛が入っていった家の方から、たったかと駆け寄ってくる一匹の犬。

パッと見はヨークシャーテリアかと思ったが、それにしては少し身体が長いな。ミックスか? しかし、小型犬ならではのこのトコトコ歩く感じはなんとも可愛らしい。

 

 

 

八幡「もしかしなくても、お前がハナコか?」

 

 

 

寄って来たワンコの頭を撫でながら訊いてみると、また一回わんっ、と小さく吠えた。当たりみたいだな。まぁ他に飼ってるとも聞かなかったし。

 

 

 

八幡「…………」 なでなで

 

 

 

撫でる毎に、くぅーんと気持ち良さそうに身をよじるハナコ。

ふむ。こう素直で従順な所を見せられると何とも愛らしく見えてくるな。全然敵対心を感じない。猫を飼っている俺でも、やはり犬は可愛いもんだ。あ、でもウサギ派になったんだっけ俺。

 

 

 

八幡「しかし、やけに懐いてくれるな。初対面だろ俺ら」

 

 

 

すり寄るように身体をくっつけて来るハナコに、悪い気はしないながらも不思議に思う。

そういや由比ヶ浜から一時期預かってたあの犬、なんつったっけな。なんかお菓子みたいな名前の犬。鳩サブレみたいな名前の……もう答え言ってんな。サブレだサブレ。あいつもやけに俺に懐いていた。

 

まぁ、あいつの場合は助けてやった恩があるからかもしれんがな。犬がそんな事を考えてるかはともかく、覚えてはいたのかもしれない。となると、なんでコイツはこんな懐いてんだ。不思議だ。

 

 

 

八幡「猫飼ってる奴は匂いが付いてるって言うし、その匂いに反応してんのかね」

 

 

 

それなら逆に嫌がりそうな気もするが、仲良くやってる犬と猫もたまにテレビで見るしな。そのパターンもありえる。

 

 

 

八幡「おーおーそんな尻尾振っちまって」 なでなで

 

 

 

フリフリと、可愛らしく尻尾が動き回る。

うちのカマクラもこんだけ素直ならな。

 

 

 

八幡「…………」 なでなで

 

 

 

ふと、考える。

初対面の俺にこんだけ懐くって事は、凛ともさぞ仲が良いのだろう。

話を聞く分じゃあいつも中々に可愛がってるみたいだし、仲睦まじい絵が想像出来る。

 

……ただ、それだけに。

 

 

 

八幡「……悪いな。ご主人様を連れ回して」

 

 

 

自然と、声が小さくなってしまった。

 

別に俺がアイツを独占しようとしてるわけじゃない。仕事上、凛の人気が上がれば上がる程忙しく、時間が取れなくなってしまう。それは凛も了承しているし、仕方の無いことだ。

 

だが、それがハナコに分かるとも限らない。

コイツからすれば、最近は凛の帰りが遅く、中々遊んで貰えないと不満を感じているかもしれない。

そう考えれば、その原因の一端である俺はハナコにとって、少なからず憎らしい存在と思われてるかもしれない。

 

それを知らずにこうして懐いてくれるのか。はたまた、知った上で俺に懐いてくれてるのか。それは俺には分からない。だから、一言謝っておく事にした。意味を成さなかったとしても、それでも、言っておいた方が良い気がしたから。

 

 

 

八幡「ま、アイツのことだ。どうせどんなに忙しくても遊んでやってんだろうな」

 

 

 

苦笑しつつ俺が一人呟くと、ハナコはまた一度小さく鳴いた。

 

 

 

八幡「なんだ、やっぱそうなのか」

 

 

 

抱え上げるようにして、自分と同じ目線まで抱き寄せる。

ちょっとダックスぽいな。

 

 

 

八幡「ってこら、やめんか」

 

 

 

ぺろぺろと顔を舐めてきたので、思わず引き離す。

だがそれでもじゃれて来ようとするハナコを見て、自然と笑みが零れてしまった。

 

なんなんだろうね。やっぱあれか、俺は犬にモテる体質なのか。そう考えれば色々と納得がいく。これはもう人より犬と添い遂げた方が幸せになれるんじゃね? いや待て、犬属性の女の子とかいればそれもう完璧じゃ……

 

 

 

凛「……プロデューサー?」

 

八幡「っ!?」

 

 

 

いきなりの呼びかけに、思わずビクッと身体が反応する。いつの間にか凛が戻ってきていた。

びっくりしたー……全然気付かんかった。

 

 

 

凛「ハナコ、随分プロデューサーに懐いてるね」

 

八幡「あ、ああ。本当にな」

 

 

 

台詞自体は普通なのだが、どこか凛の表情が暗い。いや暗いというよりは、しかめっ面と言えばいいのか。何となく不機嫌な気がする。ま、まさか親御さんの反応が芳しくなかったとか、そういう事なのだろうか。

 

俺が嫌な想像をしていると、凛は俺に近づき、抱えていたハナコを奪い去ってしまう。いやこの表現はおかしいな。どちらかと言えば奪っていたのは俺の方だ。

 

 

 

凛「ハナコ、プロデューサーにあんまり失礼な事しちゃダメだよ。一応お客さんなんだから」

 

 

 

凛の言葉に、心なし項垂れた様子でくぅーんと泣くハナコ。ていうか、別に一応ってつけなくていいんじゃないですかね……

 

 

 

凛「プロデューサーも」

 

八幡「え」

 

 

 

まさか自分にも矛先が向かって来るとは思わなかったので、少し驚く。

 

 

 

凛「ハナコにちょっとデレデレし過ぎじゃない? 変な物とかあげないでよ?」

 

八幡「いやそんな事しねぇよ……」

 

 

 

そりゃ確かに可愛いなとは思ってたけども。そんな施しを与えるような事を俺はしない。むしろ俺が養われたい。

 

しっかし、なんでそんな不機嫌なんかね。もしかしてあまりにハナコが俺に懐くもんだから、飼い主としてちょっとやきもち妬いちゃってんのか? それなら少し納得。

 

 

 

 

凛「……あんな顔、私と話してたってしないのに」 ボソッ

 

八幡「あ?」

 

凛「なんでもない!」

 

 

 

ぷいっとそっぽを向く凛。

いやはや、これだから最近の女の子はよく分からん。やっぱ犬か。犬なのか。

 

 

 

凛「……別に、プロデューサーが謝る必要なんて無いよ」

 

 

 

と、そこでまた凛が小さく呟く。

しかしその声は俺の耳までハッキリと聞こえた。謝らなくていいって……

 

 

 

八幡「……お前、聞いてたのか」

 

凛「…………」

 

 

 

こくんと、小さく首肯する凛。 

 

ま、マジか。犬に話しかけてるのを見られるとか、恥ずかしいってレベルじゃねぇぞ。しかも会話の内容も内容なので、羞恥心がマッハである。フルスロットル!

 

 

 

凛「……確かに最近は忙しくなってきて、あまり散歩も行けてないよ」

 

八幡「…………」

 

凛「お店の手伝いも出来なくなってきたし、迷惑をかける事もあるかもしれない」

 

八幡「いや、それは…」

 

 

 

思わず声をかけようと、凛を見る。

だが、その言葉は途中で消えてしまった。凛の顔を見たら、口から出る事は無かった。

 

凛が、笑っていたから。

 

 

 

凛「でも、私は決めたから。もう覚悟は出来てるよ」

 

 

 

どこまでも真っ直ぐに、どこまでも強く。

その様子を見れば、俺の心配なんて必要ないのが分かってしまった。俺の不安や緊張なんて、とても小さく見えるくらいに。

 

そして凛は抱えていたハナコに向き合い、小さく微笑む。

 

 

 

凛「だからこれは、私が言わなきゃダメなんだよね」

 

八幡「…………」

 

凛「ごめんハナコ、あまり構ってあげられなくなっちゃうけど……待っててくれる?」

 

 

 

少しだけ哀しそうに笑って言う凛に、ハナコは小さく吠える。

 

まるで、愚問だとばかりに。

 

 

 

凛「……ありがとう」

 

 

 

凛は目を閉じ、ハナコのおでこと自分のおでこをくっつける。その様子を見ているだけで、なんつーか……ごちそうさまです。

 

 

 

凛「あ、こらっ。くすぐったいよ…」

 

 

 

ぺろぺろと今度は凛を舐め始めるハナコ。

お、おお……これはヤバイな。とても微笑ましい光景な筈なのにとてもいけない気持ちになってくる。気付けば自然と手が動いていた。

 

パシャっとな。

 

 

 

凛「っ! ちょ、ちょっとプロデューサー! なんで撮ってるの!?」

 

八幡「え? あ、いや、ほら。えーっと、こ、これも仕事のなんたらかんたらみたいな…」

 

凛「言い訳すら出来てない!?」

 

 

 

いやーだってこれは撮るでしょ。誰でも撮るでしょ。雪ノ下とか相手だったら即ゴミを見るような目で社会的抹殺されそうだけど、凛が相手なら渋々許してくれそうだし。渋谷だけに。

 

さっきまでとても良い話な雰囲気だったのに、それもどこかへ行ってしまった。俺のせいか。

 

 

 

凛「もう、プロデューサーったら……」

 

 

 

呆れたように笑う凛。

そうやって仕方なさそうに笑って許してくれる所、ちょっと小町に似てるな。なんとなくそう思った。

 

 

 

凛「……ちょっと勝手なのかな」

 

八幡「? 何がだ?」

 

凛「さっきみたいにさ、ハナコはこう言ってくれてるって、勝手に良い方に解釈しちゃうのが」

 

 

 

困った風に笑う凛を見て、なんだそんな事かと溜め息が出る。

 

そんなもん、ペットの飼い主なら誰もがやってる事だろ。自分の良い方に解釈しちまうのは当然だ。なんせ相手は言葉を発しない。

 

……でもよ。

 

 

 

八幡「良いんじゃねーか? 別に、悪いことじゃないだろ」

 

凛「え?」

 

八幡「もし後ろめたいと感じるなら、見方を変えてみればいい。ハナコはこう言ってると“決めつける”んじゃなく、きっとこう言ってくれてるって、“信じる”んだよ」

 

 

 

ただの言葉遊びだ。結局は良い方に考えようとしてる事に変わりは無い。

けど、それでも気持ちに折り合いをつける事は出来る。少しだけ、ハナコの気持ちを尊重する事が出来る。

 

たとえ言葉が通じなくたって、心が通じ合っていると、そう思えるから。

 

 

 

凛「“決めつける”んじゃなくて、“信じる”、か」

 

 

 

俺の言葉を反芻し、やがて凛は笑いを零す。

 

 

 

凛「ふふ……プロデューサーって、捻くれてるけどたまに良いこと言うよね」

 

八幡「捻くれてるもたまにも余計だ」

 

 

 

まったく、素直に褒めることは出来んのか。お前らがそんなん言うからどんどん捻くれていくんですよ? ……まぁお前が真っ直ぐな分、相方の俺が捻くれてる方が丁度いいのかもな。

 

 

 

凛「……ハナコと、プロデューサーも。これからもよろしくね」

 

八幡「犬と一緒ってのもどうかと思うが……まぁ、こちらこそ、な」

 

 

 

たぶん、これから凛はもっと売れて、有名になって、忙しくなってくんだろう。

それこそ、休みも中々取れず、プライベートの時間が減っていくくらい。

 

なら、俺は俺に出来る事をやって、少しでも彼女の力になって、負担を減らしてやろう。

 

 

彼女が可愛い可愛い愛犬と、散歩に行けるくらい。

 

 

 

八幡「……そういや、親御さんはどうだったんだ?」

 

 

 

ふと、思い出す。

そういえば今日は凛のご両親に挨拶に来たんだった。何も愛犬と戯れる為に来たわけじゃない。

 

しかし俺の言葉を聞いても、凛は何も答えない。というより、俺の言葉を聞いて固まっているようだった。

 

 

 

八幡「凛……?」

 

 

 

一体何事かと思って顔を覗き込んで見てみると、凛の顔は青ざめていて、そしてその後瞬く間に赤くなっていく。え、なに、どういうこと?

 

 

 

俺が不信がっていると、凛はぷるぷると腕を上げ店の奥側へと指を指す。

俺は猛烈に嫌な予感を感じながら、追ってその方向へと顔を向ける。あー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「…………………………どもっす」 ぺこ

 

 

 

 

 

 

恐らくは凛の両親が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイエエエエ! リョウシン!? リョウシンナンデ!?

 

いやいやいつから!? いつからそこにいたのん!?

というか、凛の反応を見るに最初からいたのを今思い出しましたよね!

 

 

 

八幡「り、凛さん。何故早く言ってくれなかった……」 顔真っ赤

 

凛「だ、だって、プロデューサーがハナコと話してたから、そのこと聞いてたら、忘れちゃって……ぷ、プロデューサーのせいだよ!」 顔真っ赤

 

八幡「いやいやいやその理屈はおかしい。俺は悪くない。世界が悪い」 顔真っ赤

 

 

 

その後言い争う俺たちを、何故か凛のご両親が宥めるという珍妙な展開になってしまった。

しかし何故か二人とも微笑ましいものを見るかのような視線で、俺と凛は終始顔の熱が治まらなかったのは言うまでもない。いやニヤニヤし過ぎでしょあなたたち……

 

 

 

かくして、俺の担当アイドルお宅訪問は気恥ずかしさMAXで幕を閉じた。

あの後もお茶を淹れて貰ったり、少し話をしたりしたのだが、ただただ俺(と凛)が慌てふためいていただけなので割愛する。誰も自分の恥ずかしい経験を語りたくはないだろう。

 

しかし殴られたりしなかったのは助かったな。親父さん怖い人じゃなくて良かった……

けど、よく考えてみれば当然か。あの凛を育ててきた両親だ。

 

良い人たちでない、はずがない。

 

 

 

帰り際、凛とハナコが見送ってくれた。

本当はご両親も付き添いたかったそうだが、凛が全力で止めていた。正直助かったな。

 

 

 

凛「それじゃ、また明日事務所でね」

 

八幡「おう。また明日」

 

凛「ほら、ハナコも」

 

 

 

抱えていたハナコを、少しだけ俺の方へと寄せる凛。

俺は特に迷いもせずその頭を撫でた。

 

気持ち良さそうにするハナコを見て、自然と頬が緩む。

 

 

 

八幡「んじゃ、またな」

 

 

 

名残惜しそうなハナコにそう言って、俺は歩き出した。

やがて少し離れた所で、誰に言うのでもなく、小さな凛の声が聞こえてくる。

 

 

 

「……ハナコは良いよね」

 

 

 

その言葉の意味はよく分からなかったが、俺は気にせず歩みは止めない。

 

返事は、きっとハナコがしてくれる事だろう。

 

 

 

 

 

 

おわり

 


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