七聖剣使いの航海日記   作:黒猫一匹

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またしても一万字近い文字数…!


3ページ目 オカマとマグマ

 

 

 ●月×日 曇り

 

 

 

 あの変な夢を見てから数日後。漸く一段落ついたからこうしてまた日記を再会する。

 この数日はホント戦いの連続だった。まさか賞金稼ぎや人攫い達が襲い掛かってくるとは…。

 

 まぁ今は海賊船に乗ってるし乗組員もオレ以外は全員海賊なワケだし、仕方ないと言えば仕方ないが、しかし、皆さんとりあえず冷静になってくれ。そしてオレを中心に襲うのはやめてくれよなぁ頼むからぁ~。

 海賊達の態度がオレに従順なせいで彼らの船長だと勘違いされたのか、それともオレが持つ七聖剣の影響か、彼らはオレを攫い人間屋(ヒューマンショップ)で高く売りつけるなどと血走った眼で喚いていやがった。

 当然奴隷として売られるなんて勘弁願いたいので七聖剣を使い応戦するのだが、ここからが大変だった。

 

 どうやらここらの海は彼らのナワバリの様で撃退しても次の日にはまた別の賞金稼ぎ達や人攫いのグループがどんどん襲ってきて本当に参った…。

 しかも統率がかなりのレベルで取られており今思い出しても非常に面倒な連携であったなぁと感じる。

 まぁそれでも、七聖剣で応戦した際にまたいつかの様に異常なまでの高揚感のせいで少々好戦的へとなり、七聖剣が発する妖気のごり押しでそんな連携もなんとか力押しで撃退できたが…。

 

 それに統率力でいえば赤い目をした海賊達の方が相手よりも一枚も二枚も上手だった。アイコンタクトや声をかける事もなく連携し、賞金稼ぎ達をなぎ倒す姿は凄かった。それには相手も驚きを顕にしており、自分達のお株を奪うかの様に完璧な連携で仕留めていく海賊達の姿に、相手は焦ったのか連携が少し拙いモノへと変わっていき、そのまま海賊達もヤツらを押し切った。

 

 と、そんな事があり、オレ達はなんとか賞金稼ぎや人攫い達を全員撃退する事に成功する。

 しかしこの海賊達ってこんなに連携がうまかったのか? オレが以前彼らと戦っていた時はこんな統率は取れていなかったと思うんだが。

 やっぱりこの異常なまでに完璧な統率は彼らの赤い目が関係しているような気がする。オレがその様な事を考えていると、傍に立て掛けていた七聖剣がその刀身に埋め込まれた宝石をまるで自己主張でもするかのようにキラリと輝かせた。

 

 …まさか海賊達がやけにオレに従順なのも、あの異常な統率力も全部お前の仕業なのか…?

 

 

 

 

 ×月×日 晴れ

 

 

 今日は先日までの激闘とは打って変わり、平和な一日だった。

 賞金稼ぎや人攫いの襲撃もなくのんびりとした一日を過ごす事ができた。こんなにのんびりした日は久しぶりだ。それこそアスカ島にいた時以来だろうか。

 

 ニュース・クーから買った新聞を船長室…今ではオレの個室…でコーヒーを飲みながら新聞をめくり現在の世界の情勢を知る。

 紙面には、物騒な事件やら愉快な記事が多岐に渡り書かれていた。

 

 水の都ウォーターセブンにて造船会社ガレーラカンパニーが海賊を撃退したという記事や、魔の海と名高いフロリアン・トライアングルにてまたも10隻ほどの船が消息を絶ったという記事、さらにはとある王国にて革命軍がクーデターを起こしたり、四皇のカイドウが酒に酔った勢いで海賊や海軍の軍艦を20隻以上沈めたりなどとメチャクチャな内容もあった。

 

 さらにはサンディ(アイランド)、砂の王国アラバスタでまた反乱軍が国王軍と小競り合いを起こしたり、ナノハナという町が海賊に襲われたが王下七武海のクロコダイルが海賊を全滅させたり、

 その国の王女であるネフェルタリ・ビビが失踪したりなど大々的にニュースに挙げられていた。

 

 これらの記事を読むとこの世の中はホントに物騒だと改めて実感する。こうして海賊船に乗っているだけでいつまた誰かに襲われるか分かったモンじゃないし、少しでも早く平和なアスカ島へと帰りたくなった。

 

 

 

 

 ○月α日 オカマ日和

 

 

 

 今日はちょっとした出会いがあった。

 いつもの様にジャヤを目指して航海していると、前方からアヒルが船首の奇天烈な船が現れた。しかもその船に乗っている者達は劇団?の人達だったのか中々に個性豊かな濃い人たちばかりだった。中でも一番オレの印象に残っているのはその面々からMr.2ボンクレーと呼ばれていた珍獣だ。そいつはその一団の中でもさらに奇天烈な恰好をしていた男だ……いやオカマだった。

 

 そんでそのオカマと視線が合った時、何やら「あらぁ~っ!!」と騒ぎ出したかと思うと突如進路を変更し、そのままこちらを追走してくる。

 何事だよと思い、そちらに視線を向けるとまたしてもオカマと視線が合う。そしてヤツは「アナタとってもカーワイイわねぇ~い好みよ! 食べちゃいたい!」と投げキッスをよこしながらそんな恐ろしい事をほざきやがった。

 そんなオカマにオレは咄嗟に背中に背負っていた七聖剣に手をかけると、最近何かと物騒な思考回路になるオレはそのままそのオカマをぶった斬ってしまおうかと本気で考えていた。そんなオレの感情に同上するかの様に七聖剣から妖気が溢れだし「お? 斬るのか? なら手伝ってやろうか?」とオレに囁いているかの様に妖気がオレの周辺を踊る。

 そんでそんなオレの姿にオカマの部下達は「なんだあれ!?」「目が赤くなったぞ!?」「なんかオーラの様なモノがでてないか!?」と騒ぎ出し始めたのだが、当のオカマは全く気にした様子もなくそれどころか「あらぁ~!! なんだか色っぽくなったわねい!!」と言い出す始末だ。どうやら逆効果だった様だ。その事にオレは七聖剣から手を放すとオレの周辺を踊っていた妖気が「なんだ…、斬らないの?」とでも言う様に少しがっかりとした感じで収まっていく様な気がした。

 

 その後、オカマは「あちしはMr.2ボンクレーよう! アナタのお名前は?」と尋ねられた。何も答えず無視してもよかったが、そんな事をするとなんか地の果てまで追いかけてきそうな感じがしたので、嫌々ながらも名前を名乗っておいた。

 するとオカマ、Mr.2ボンクレーは「そう、ヒスイちゃんって言うのねい! アナタとはもっとお話ししたかったんだけど、生憎と任務中なのよねい。だから縁が会ったらまた逢いましょう!!」と言ってオカマは去って行った。

 

 …ホントになんだったんだろうかアレは…。いや、もう過ぎた事だ。深く考えるのはよそう。生まれて初めてオカマという人種を目にしたが、できればもう会いたくないな。

 

 

 

 

 ×月β日 晴れ時々マグマ

 

 

 

 オカマと出会い数日、今度は海軍と出くわしてしまった。

 そして当然の様に襲われました。……いやぁ分かってたさ。オレが乗っている船は海賊船。そしてオレ以外の乗組員も全員海賊。そしてそんな彼らはオレに従順。これらの要素からいつかの賞金稼ぎ達の様にオレがこの船の船長だと誤解されてもそれは仕方ない事だと思うよ。でもな、いきなり攻撃して来るのはどうなのさ。

少しは話し合いで解決しようとは思わないのかお前達は!

 

 オレは海軍にその様な事を叫ぶと、軍艦から少し…いやかなり背が高い赤いスーツを着た強面の海兵が現れる。そして頭に被っている軍帽から鋭い瞳でこちらを射貫く。

 

 ――え? 海賊と話す様な事はなにもない? やるんなら徹底的?

 いやだからオレは海賊じゃねぇって。たまたまこの船に乗ってるだけの一般人だって言ってるだろ!!

 

 ――え? ならその海賊達の従順な姿はなにかって?

 ……いや、これはそのぉ~、オレの持ってる刀のせいというか…。とにかくオレは海賊達の仲間じゃねぇから! ただの旅人だから!!

 

 ――え? 海賊船に乗ってるのなら同罪? 悪は可能性から根絶やしにする?

 …何言ってんだこいつ…? 本当に海兵? いくら何でも過激すぎやしませんかね…?

 

 と、オレは海兵とその様なやりとりをした後、ヤツら問答無用で砲弾をぶっ放してきた。マジで撃ってきたよこいつら! しかもそこらの海賊よりも容赦が欠片もないんだが!! クソッ海兵の声音がラコスさんと少し似てたけど性格は全然違うなクソッたれ!

 

 そしてオレの周りには赤い目をした海賊達がオレの指示を待っているという状況。こうなっては仕方ない、全速力で逃げるぞ。オレがそう海賊達に指示を出そうとした時、ドクンッ! と心臓が脈打つと、背中に背負っていた七聖剣から妖気が溢れ出す。そこでいつもなら謎の高揚感がオレを支配するハズだったのだが、その時はなぜか最初に七聖剣を持った時の様に、意識が徐々に薄れていくのだ。

 あっ、これヤバい。と思った瞬間にはオレの意識は途切れ、そして―――

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「撃てぇ!! 海賊船を沈めるのだ!!」

 

 背中にコートを羽織った海兵がその様に指示を出すと、彼の部下である海兵達が急いで行動し、狙撃班の海兵が照準を敵艦である海賊船に狙いを定め砲弾を放つ。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! と次々に砲弾が放たれる音が響き、海賊船に迫る。その内の何発かは水柱を上げ外れるものの、放たれた砲弾の数発は海賊船に着弾し爆発した。船から火の手が上がる光景に周囲の海兵達はオォ! という勝ち鬨を上げるが、その声はすぐさま収まる。

 何故なら、海賊達が一向に動く気配を見せないからだ。何やら指示を待っているかの様にその場で佇んでいる。攻撃されているというのに何の抵抗どころか反応すら示さない海賊達に周囲の海兵達は困惑する。

 

「少佐! 海賊達が一向に動く気配を見せません!」

 

 海兵の一人が先ほど指示を出していたコートを着た者にその様な事を報告すると、少佐は訝しげな視線を海賊達に向ける。

 

「海賊達め、一体どういうつもりだ? このまま抵抗もせずに海に沈む気か…?」

 

 少佐がその様な事を呟き、次の指示を出しかねていると、野太い男の声が響く。

 

「構わん、そのまま撃ち沈めろ…」

 

「っ!? サカズキ大将!」

 

 少佐が声の方に視線を向けると、そこには海軍最高戦力の一人である海軍大将・赤犬が腕を組みながら海賊船を睥睨していた。

 そんな赤犬の姿に少佐は内心ビビるも、周囲で困惑している海兵達に向かい赤犬に言われた様にそのまま船を沈める様に指示を出す。

 

 赤犬はそんな彼らを後目に敵船の海賊達、いや正確にはそんな彼らの中心にいる翠色の髪に背中に巨大な刀剣を所持している少年、ヒスイに視線を向けていた。

 見聞色の覇気を使わずとも分かる。ヒスイの中に潜む膨大な悪意と憎悪を。その存在を赤犬はその身に感じ取っていたのだ。

 先ほどはこちらを油断させる為か、自分はただの一般人だなどと宣い、実に白々しい演技をしていた。確実にだまし討ちをする心算だったのだろう。

 赤犬が内心でその様な事を考えていると、砲弾が再び海賊船に向かい放たれた。

 

 今度は放たれた砲弾全てが全弾命中コースだ。そして砲弾が迫る中、ヒスイは背中に背負っていた七聖剣を抜き放つ。そして剣を一閃させ妖気の斬撃を放ち砲弾を空中で全て爆発させる。

 その光景に海兵達は驚きの声を上げる中、ヒスイは先ほどまでとは別人の様な不気味な笑みをその顔に浮かべると、その赤く染まった瞳で海兵達を射貫く。

 その視線に気の弱い海兵達はビクリと体が震わせ、悪意や憎悪と言った負の感情により歪んだその赤い瞳に呑まれそうになる。

 そんな海兵達の姿を視界に捕らえたヒスイは上機嫌そうに嗤う。

 

「……バカが、せっかくの獲物だというのに逃げてどうする。そこらの雑魚海賊や賞金稼ぎ共よりはいい“贄”になりそうだってのにあのヘタレが…。まだ本調子じゃねェが、この気を逃すつもりはない。おい海賊共!! 反撃だ!! 海軍の連中を皆殺しにしろ!!」

 

 ヒスイのその言葉に指示を待っていた海賊達は武器を構え『オォォォッッ!!』と鬨の声を上げる。

 

「ふん、やっと本性を現しおったか…。お前らちょいとどいとれ」

 

 人が変わったかの様なヒスイの姿に赤犬はやはりかと鼻で笑うと、周囲の海兵達を下がらせ、変わりに赤犬が一歩前に出る。

 そして赤犬の両腕が突如燃え始める。そして次の瞬間にはボコォッ! と炎がさらに燃え溶岩へとなる。そして赤犬の両腕が完全に溶岩に変化した。これは彼が食した悪魔の実“マグマグの実”の力だ。

 

「――流星火山!!」

 

 すると赤犬はマグマへと変わった腕を持ち上げ、そのまま連続でマグマを空へと放出すると、そのマグマは巨大な拳へと変化し火山弾へとなり海賊船目掛けて落下しっていく。

 対するヒスイは七聖剣を構え、刀身に膨大な妖気を纏うと降り注ぐ巨大なマグマの拳を眺めながら、それと同等の巨大な火の玉を放ち迎え撃つ。

 

「――妖火弾!!」

 

 剣先から妖気でできた爆炎を連続で放ち、迫りくる火山弾全てへと着弾させそのまま相殺する。空中でそれぞれの攻撃が衝突した際に爆発を上げ、マグマや妖気の炎が海へと飛び火する。

 赤犬の攻撃を完全に防いだ。そんな光景に周囲の海兵達は驚きの声を上げる。

 

「なっ!? あいつ赤犬さんの攻撃を…!」

「バカなッ!? 海軍大将の攻撃を防いだだとッ…!?」

「なんだ!? ヤツも能力者か何かか!?」

 

 海兵達は大将の攻撃が、それも破壊力でいえば大将の中でも随一とも云われる赤犬の攻撃を、名もない海賊如きに完全に防がれた事に動揺を顕にする。

 

「ふん、けったいな刀を使いおって…」

 

 赤犬はその様な事をぼやくと、七聖剣とそれを扱うヒスイを睨む。

 ヒスイはそんな赤犬の様子に挑発するかの様な笑みを浮かべている。

 

 そして次の瞬間には海賊達が動き出していた。彼らはそのまま海軍船に乗り込みヒスイに命令された通り、海軍を皆殺しにしろという命令を遂行しようとする。

 そんな海賊達に海兵達も先ほどまでの動揺を打ち消し、気を引き締め直す。

 

「迎え撃てェェッ!! 海賊達を根絶やしにするのだ!!」

 

 少佐の指示に海兵達も武器を構え突撃していく。こうして海軍の軍艦の上で大乱闘が始まった。

 そしてその様子をチラリと眺めたヒスイはすぐさま視線を赤犬に戻し、赤犬の元へと駆ける。海賊達と同じ様に軍艦へと飛び乗って来ようとするヒスイに赤犬は拳を再びマグマへと変え、放つ。

 

「おいおい、容赦ねェな…」

 

 迫るマグマの拳にヒスイはその様な事を呟くと、ヒスイの目の前に赤い目をした海賊の一人がヒスイを守る様に、まるで壁にでもなるかの様に現れた。

 

「……! フン無駄じゃ! その程度の肉壁一つで、ワシの攻撃が防げると本気で思うちょるんか!!」

 

「誰もそんな事思ってねェよ」

 

 赤犬の言葉にヒスイはそう言葉を返すと、目の前に現れた海賊を踏み台にさらに上空へと飛び赤犬からの攻撃を回避する。

 

「なんじゃと…!?」

 

 その事に赤犬は僅かに目を見開き驚く。ちなみにヒスイが踏み台にした海賊はヒスイが上空へ飛んだ勢いにより、そのまま勢いよく海に落下した。

 そのままより上空へと飛んだヒスイは七聖剣を構え、眼下の赤犬目掛けて七聖剣を一閃させる。

 

「妖蛇牙襲斬!!」

 

「チッ、犬噛紅蓮!!」

 

 蛇と犬の形を司った妖気の爆炎とマグマが互いの命を奪おうと雄叫びを上げながら襲い掛かる。その攻撃は上空で絡み合い、それぞれの攻撃が術者から離れてもまるでその攻撃事態に意志でもあるのか、蛇と犬の形をした妖気とマグマは互いに消滅するまでその猛攻をやめなかった。

 その様な光景を後目に赤犬はこちらへと落下してくるヒスイに次の攻撃を与えるべく闘志を燃やす。

 

「これで終いじゃ!! 冥狗!!」

 

 即座に腕をマグマ化させ、落下するヒスイ目掛けて拳撃を繰り出す。上空では逃げ道がない為、この攻撃は当たる。赤犬はそう確信していたが、ヒスイの余裕を持った表情が気に喰わない。赤犬はその様な事を思った。

 そしてヒスイの余裕の表情の理由が次の瞬間に理解できた。またしてもヒスイと赤犬の間に赤い目をした海賊が割り込んできたのだ。

 

「おどれ、またか!?」

 

 赤犬はその様な悪態を吐くと、そのまま割り込んできた海賊の頭を消し飛ばす。そしてその海賊は悲鳴を上げる間もなく命を落とした。ヒスイとの間に割り込まれた事により赤犬の冥狗は僅かに照準がズレてしまう。そんな狙いがズレた攻撃にヒスイは余裕をもって回避に成功する。そして赤犬の大勢が整っていないその隙にヒスイは初速で弾丸を超えた速度で駆け出し七聖剣を一閃させる。

 

 すると、赤犬は肩幅から胸元当たりを盛大に斬り裂かれ血が噴き出す。

 覇気を使われた気配はなかった。なのになぜ? と赤犬は驚愕の表情をその顔に浮かべながら傷口を押さえ、片膝をつく。

 

「ぬぅ…!? なんじゃとッ!!? 貴様なぜワシに攻撃を…!?」

 

 ヒスイをこれでもかと言わんばかりに射貫き、吼える赤犬。対するヒスイは七聖剣の妖気が赤犬の血を吸収し、刀身の宝石と天文が光るのを上機嫌そうに眺めながらその顔に嘲笑が浮かぶ。

 

「…ハン、“自然系(ロギア)”だと思って油断したな。覇気を纏ってない七聖剣(オレ)の攻撃程度、受け流せると高を括っていた様だが、生憎と七聖剣(オレ)の妖気も能力者の実体を捉える事ができるんだよ」

 

「…妖気じゃと…!? クッ…!? けったいな力を持っちょる様じゃなッ…!?」

 

「…お前はかなりの強者の様だ、ならさぞかし七聖剣(オレ)にとっていい“贄”になる事だろう」

 

「贄じゃと…?」

 

「そうだ。七聖剣(オレ)がこれからこの世の全てのモノに破壊と絶望を齎す為の“力の糧”だ。お前を殺したあと、この世を本物の地獄へと変えてやるぜ! ハッハッハッハッ!!!」

 

「…人間は正しくなけりゃあ生きる価値なし。貴様の様な悪はここで確実に消しとかにゃいけのう…!」

 

「…消えるのはお前だよ、海軍大将」

 

 ヒスイの言葉が言い終わると同時に赤犬は再び腕をマグマ化させ、必殺の技を発動させる。

 

「この距離ならば外さん!! 冥狗ォォッ!!」

 

 勢いよく襲い来るマグマの拳撃をヒスイは七聖剣に妖気を纏わせて盾にする。そんなヒスイの行動に赤犬は七聖剣ごと消し飛ばす勢いで放つも、冥狗が七聖剣の妖気に触れた瞬間、赤犬の攻撃は勢いを失くし、七聖剣の刀身に防がれる。

 

「なんじゃと…!? おどれ!! 一体何をしたッ!?」

 

 赤犬の叫び声に周囲で戦っていた海兵達が視線を向ける。ヒスイは赤犬のその言葉に応える事はなくそのまま七聖剣で赤犬の腕を弾き、バランスを崩させる。

 そして体勢が崩れる赤犬にヒスイは七聖剣の刀身を船体に置き、そのまま剣先を滑らせる。

 

「地獄の業火に焼かれろ、――妖火斬!!」

 

 瞬間、七聖剣の剣先から薄緑色の妖気の爆炎が吹き上がり、赤犬を襲う。

 

「グゥワアアァァァァッッッ!!!?」

 

 そしてあろう事か、マグマ人間でハズの赤犬の身体が燃やされ(・・・・)、彼の悲鳴が軍艦中に木霊する。そんなあり得ない光景に周囲の海兵達は全員驚愕の表情を浮かべ、今現在起きている出来事を信じられない様な顔で眺めている。

 

「ウソだろ!? あの赤犬さんが燃やされてる!!?」

「一体何がどうなってるんだ!?」

「それだけじゃないぞ!! 先ほどあの男、覇気も使わずにサカズキ大将に攻撃を当てていたぞ!!?」

「そんなバカな…!? 一体なんのトリックを使ったんだ…!!」

 

 そんな海兵達の声が響く中、妖火斬の炎が漸く収まり赤犬は全身に火傷を負いその場に両膝をつく。そして苦しそうに肩で息をしていた。

 そんな赤犬の様子にヒスイは感心半分驚き半分と言った様な表情を浮かべる。

 

「…業火が当たる直前、とっさに覇気を身体に纏いダメージを軽減させたか…。しかしそれでもまだ意識があるとはな…大した耐久力だ」

 

 ヒスイの言葉に赤犬はギロリと射貫く。ただでさえ鋭い視線がさらに鋭くなった。ヒスイはそんな赤犬の姿を鼻で嗤い七聖剣を振り上げる。

 

「あばよ、海軍大将。このまま死んで七聖剣(オレ)の力となれ」

 

 そんなヒスイの姿に周囲の海兵達は漸く赤犬がピンチである事を理解し、動揺しながらもヒスイの行動を止めに入る。

 

「待て海賊! サカズキ大将はやらせんぞ!」

 

 その様な言葉を叫びながら、海兵達が銃を乱射する。しかし放たれた銃弾はヒスイには効かなかった。七聖剣から溢れ出した妖気がヒスイの身体を覆い銃弾を全て弾いたからだ。

 

「なっ!? 銃が効かないだと!?」

「な、なんだあの薄緑色のオーラの様なものは!!?」

 

 ヒスイはそんな海兵達を一瞥すると、海賊達に念を送り、銃を撃ってきた海兵達の元へ襲い掛かっていく。突如襲い掛かってきた海賊達の相手にその海兵達はそれだけで手一杯になる。

 

「ハッ、そこで貴様らの上司が殺されるところでも眺めてな」

 

 ヒスイは海兵達にその様な言葉を吐き、赤犬から視線を逸らす…逸らしてしまっていた。それがよくなかった。相手は仮にも海軍最高戦力の一人であり、徹底的な正義を掲げている赤犬なのだ。そんな赤犬が少なからずともダメージを負っているからと言って視線を、意識を一瞬でも逸らしていいような相手ではなかった。

 

「大…噴火ァァァッッ…!!」

 

「なっ!? しまっ…!?」

 

 右腕が巨大なマグマの拳を形どり、ヒスイへと迫る。その事に完全に己の力に慢心していたヒスイは赤犬の攻撃を回避も防御もする暇もなくマトモに喰らってしまう。

 

「くはっ…!?」

 

「ヌゥゥン…!!」

 

 そしてそのまま拳を振り切り、ヒスイはその身体に火傷を負いそのまま海賊船へと吹き飛ばされた。船内が崩れ砂煙が舞う中、ヒスイは火傷の痛みに耐え腹部を押さえる。

 

「クソッ…、まだ動けやがったか…! 油断した…。大将という存在を少し舐めてたか…」

 

 身体に妖気を纏っていたおかげか、それほどダメージはない。先ほどの攻撃で負った火傷も七聖剣の妖力の力により回復していく。

 そのまま妖力を傷口に当てて火傷が完全に完治すると、ヒスイは立ち上がり今度こそ赤犬を確実に仕留めると息巻く。

 すると赤犬はそんなヒスイの姿を射貫くと、身体に鞭を打ち立ち上がると、そのまま両腕をマグマ化させて再び技を放つ。

 

「――流星…火山ッッ!!」

 

 巨大なマグマの拳が流星の様に降り注ぐ。再び放たれたその光景にヒスイは七聖剣を握り締めると、刀身に妖気を纏い叫ぶ。

 

「ハッ、バカの一つ覚えか! 最初と同じだ!! そんなモンまたすぐに相殺して――」

 

 だが、そこでヒスイにとって予想外の事が起きる。

 

「…ッ!? ぐはっ…!? うぅ…ッ!!?」

 

 その場に両膝をつくと、突如頭を押さえて苦しそうに呻く。

 

「クソが…ッ! …こ、こんな時に…宝玉の……あの女の、浄化の力がまた…身体を蝕みやがるッ…!!」

 

 アスカ島で受けた宝玉の…マヤの祈りの力がヒスイの身体を支配する呪いの力を浄化しようと再び蝕み始める。その力により呪いの影響が薄れたのか、海軍船で戦っていた海賊達も苦しげに頭を抱え、正気を取り戻していく。

 そして苦しそうに呻くヒスイの元へマグマの拳が、今度は誰にも邪魔される事なく次々とヒスイに直撃する。

 

「ぬァ…ッ!?」

 

 マグマの拳がヒスイを襲うついでに、海賊船が赤犬の攻撃により火を上げ大爆発した。そしてそのまま船体に穴が開き、海へと沈んでいく。

 その様子に周囲の海兵達は歓声を上げ、海賊達は何が起きているのか理解できていないのか呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

「………」

 

 赤犬はそんな彼らの歓声を聞き流しながら、燃え盛り沈む海賊船を睨み付けながらヒスイを探す。ヒスイは能力者ではなくあの程度で仕留めきれたとは到底思えないと考えた赤犬は海面に浮かび上がってきた所に追撃ちを仕掛け、確実に息の根を止ようと息巻く。

 

 だが、そんな赤犬の考えとは裏腹にどれだけ経とうとヒスイが浮かび上がってくる事はなかった。あの一撃で仕留めたのか、それとも逃げたのか…。そこは定かではないが、どんなに待っていてもヒスイが現れる気配はない。

 

 周囲ではなぜか先ほどまでの戦意が消えている海賊達が「何でおれ達は海軍と戦ってるんだ!?」だの「一体どうなってるんだ!?」などとパニックになっており、そんな海賊達をすぐさま海兵達が捕縛する姿が見受けられた。

 

「おんどれェ…、あの翠髪…! 今度会う様な事があったら、貴様だけは絶対に逃がさんけェのォ…!!」

 

 赤犬は燃え沈む海賊船を睨みながら、まるでヒスイはまだ生きていると言わんばかりの反応を示しながら、ドスの利いた声でその様な事を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ――そして、次に意識が覚醒した時には燦々と輝く太陽に照らされた砂浜に流れ着いていた。前方には穏やかな海、後方には鬱蒼と生い茂るジャングル。

 

 …はて? オレは先ほどまで海の上で海軍に襲われていたハズ…。なのに一体なぜこんな場所にいるのだろうか? 確かあの時は七聖剣から突然妖気が溢れ出し、突如オレの意識がなくなったから…、うん、間違いなく犯人は七聖剣(こいつ)だ。

 

 おいコラ七聖剣! テメェちゃんと説明はあるんだろうな…?

 

 




七聖剣の独自設定
・七聖剣が放つ妖気は覇気と同じく能力者の実体を捉える事ができる。
・妖力で傷の回復ができる。(ただし、欠損した場合は治せない)

と、こんな所ですかね…。
たぶん、これからも七聖剣の独自設定は増えるかもしれない。

あと、赤犬の口調が難しかった。これであってますかね?

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