×月×日 晴れ
今日は何だかちょっと変わった兄ちゃんと出会った。
それはロッキーと別れた翌日の昼頃だ。ちょうど昼食をしていた時にその兄ちゃん、エースはどこからともなく食卓に現れては、遠慮なく料理を食べていた。
その後、妙に礼儀正しく自己紹介をして、オレが一体いつの間にこの船に侵入したんだと彼に尋ねると、どうやら彼の船は航海中に大渦に呑まれてしまったらしい。
だが、エースは何とか間一髪で樽の中に避難する事に成功した様で九死に一生を得たが、そこから暫く海を漂流していたそうだ。
そんな中、美味そうな飯の匂いを察知し、その匂いを辿りながら無心に樽を進めていると偶然にもオレ達の乗るこの船を見つけたらしく、エースは一瞬の迷いもなくこの船に乗り込み、そのまま美味しい匂いを辿り食卓に現れた様だ。
……凄まじい生命力と嗅覚だな。
オレはそんなエースに多少の呆れと関心を抱くも、ナミとカリーナの方は「アンタも人間離れしてるのね」と少し引いている様だ。
まぁ普通大渦に呑まれたんなら確実に死ぬからな、それで生きてるエースは確かに色々と人間離れしているかもしれない……て、おい、お前ら「も」ってなんだ「も」って。
何だか軽く流しそうになったが、オレは人間やめてるつもりはないぞ。
オレが二人にそう講義の声を上げると、二人から何言ってんだこいつ? 頭大丈夫か? とでも言いたげな目で見られた。
…いや、言いたい事は解るぞ。今までのオレの戦いぶりを視て来た二人がオレのその言葉を信じない事ぐらい。だが、これだけは言わせてもらうが化け物なのはオレではなく七聖剣の方だからな。
なんか今まで言いそびれてたけど、オレ個人の実力なんてそこまで大した事はないぞ。アスカ島にいた時はラコスさんには一回も勝てなかったし、その辺の一般人よりも多少腕が立つ程度の実力しかないからな。
今は七聖剣の呪いの源たる妖気を操り身体を強化する事で漸く戦える程度だし…。
……て、あれ? 妖気を操ってる時点でもうすでに人間離れしてね…?
ま、まぁ兎に角、オレが人間離れしてるかどうかの議論は取りあえず横に置いておくとして、エースの船が大渦に呑まれた為、彼をどこかの島まで送っていく事になった。船がないのでは仕方ないという事でオレもナミもカリーナも異論はない。
とそんな理由で、暫くの間、エースを入れた四人で航海する事になった。
PS、
その後、食事を再開したエースが食べてる途中に爆睡するという珍事件が起きたり、エースがまだ仲間はいないが海賊だと言ったせいでナミと少し険悪な雰囲気になったり、ナミとカリーナの二人が今頃オレの七聖剣の存在に気づき尋ねてきたりなど騒がしい時間を過ごした。
▼月◇日 曇り
エースと出会って数日。
今度は30隻の海賊艦隊の襲撃に会った。何だかこうして問答無用で襲われるのは随分と懐かしい光景だな。それこそ
で、今オレ達に襲撃を掛けてきたのはこの
30隻の艦隊と3000人の兵力には驚いたもののそれが余り脅威と感じなかったのはやはり
それに脅威を感じていないのはどうやらオレだけではない様で、ナミとカリーナの二人は「これはお宝も相当期待できそうね」と妖しい笑みを浮かべており、エースに関しては自分の腕に自信があるのか「1700万か。こいつは腕が鳴るぜ」と好戦的な笑みを浮かべているだけで、その顔に恐怖はなかった。
そんなこんなでオレ達は(オレとエースが)クリーク海賊団と戦闘を開始する。
そして先に戦いの結果だけ言えば、オレ達の圧勝だった。
相手の人数が多く少し鬱陶しかったが、七聖剣の妖気を駆使し身体を強化したり相手を捕縛したり斬撃を飛ばしたりとして蹴散らしていく。
エースの方も拳や蹴りを使って相手を撃退し、敵の槍やら剣を奪いそれで苛烈な戦闘を繰り広げていく。そしてそんな戦闘を繰り広げる度にエースがとんでもない強さだという事を認識した。それこそ
そんなオレとエースの元にガタイの良いゴリラ顔の大男と無精ひげを生やした目つきの悪い男が現れた。その男達の登場に周囲の海賊達がオォと歓声を上げる。そんな盛り上がる周囲の海賊達からゴリラ顔の大男は
何故なら周囲から首領と呼ばれたそのゴリラ顔の男――たぶんこいつがクリークなのだろう――の声があの過激派海軍とそっくりだったからだ。
その声を聞いた瞬間、なぜか七聖剣から送られてくる妖気がいつも以上に増大でオレの意識が飛びそうになった。そして今まで以上の高揚感がオレを支配し、数多くの兵器を使ってくるクリークを軽くブッタ斬り、そのままヤツの海賊艦隊を一刀両断して沈めていく。
そして確か24隻目を沈めた辺りだっただろうか。オレの中から徐々にあの高揚感が消え失せ、正気に戻った頃には、もう既に彼らから戦意が消えており、青い顔をして震えていた。
その後、生き残った艦隊はそのまま全速力でその場を離脱していき、戦い、というか蹂躙劇は終了した。
そして自分の船に戻ると大量のお宝を盗んだナミとカリーナの二人から「…やっぱ貴方とんでもないわね。ホントに人間?」という失礼なコメントを貰い、エースからは「ヒスイお前すごく強いな。俺の仲間にならねぇか?」とすごくキラキラとした顔で一緒に海賊やろうぜと言った勧誘を受けたりした。
…いや、オレは海賊になる気はないからな。アスカ島に帰り次第こんな物騒な生活ともおさらばする予定だから。とエースからの勧誘を断りながらも、「…そういえばマヤ達元気かな~。今頃何をしているのだろうか?」と言った疑問が湧いてきた。
まぁ何はともあれ、こうしてまた海賊からの襲撃には会ったものの割かし平和(?)な一日が過ぎていった。
○月○日 晴れ
あれからエースが一緒に海賊やろうぜとしつこく誘ってくる。
オレは海賊になる気はないと言って断っているのだが、エースは諦める気配がない。その原因は先日のクリーク達との戦いのせいだろう。
どうやらエースは”海賊王”を目指しているらしくいずれ
…悪い奴じゃないんだが、面倒臭い奴だ。
あと、話は変わるが、最近なんだかナミの様子が少し変だ。
カリーナは満面の笑みを浮かべながら「ウシシ、これほどの財宝。軽く3000万はあるわね」といつも通りと言えばいつも通りな様子なのだが、ナミは最近どこか上の空というか難しい顔をしている事が多い。
部屋で海図を描いていたりカリーナと奪ったお宝を平等に山分けしたりしている時はいつも通りの彼女なのだが、たまに一人になると海をぼんやりと眺めていたり、オレの顔を凝視しては「…ヒスイならもしかしたら…」だの「…いえ、さすがにアイツには…。でも…」などとよく解らない事を呟いており、ナミにどうしたのかと尋ねてみても、暫く何かを悩みながら「…なんでもないわ」と答えるだけだ。
…なんでもないわ…って、そんな訳ないだろ。何か隠してるのが丸わかりだぞ。
そんなナミの態度になんかモヤモヤとしたものを感じながらも本人に聞いても「なんでもない」の一点張りなので結局ナミが何を思っていたのかは不明のままだ。
……本人がそう言ってる事だし、これ以上は聞かないけど、一応手を組んでる仲なんだから、本当に困ってるならその時は協力してやらんでもないぞ?
まぁオレはナミやカリーナほど器用じゃないから、オレに出来る範囲なんてかなり限られてくるけどな。
◇月×日 曇りのち炎
【速報】いつの間にかエースが悪魔の実の能力者になっていた。
というのも、オレが自分の部屋で寝ていると、エースがオレの部屋に押し入って悪魔の実の能力者になっちまったと報告してきたのだ。
突然のカミングアウトにいきなり何言ってんだ? とエースを見ながらどういった反応をすればいいのか解らなかった。
そんな困惑しているオレにエースはこれが証拠だ! とばかりに能力を発動した瞬間、エースの身体が炎に包まれたのだ。
その時はさすがに驚いたわ。ただの戯言だと思っていたけど、まさか本当に能力者になってるとは思わなかった。
取りあえず、何で能力者になったのかとその経緯を尋ねると、オレが部屋で仮眠を取って休んでいる間に海賊の襲撃に会ったらしい。…しかし、よく海賊の襲撃に会うな。さすが大海賊時代。
で、オレの変わりにエースが一人でその海賊団を殲滅したらしい。先日のクリーク達とは比べものにならない程弱い海賊達だった様で、お宝も余り持っておらずナミとカリーナがぼやいていたそうだ。
そしてナミとカリーナが回収した宝箱の中に渦模様の入ったオレンジ色のメロンに似た果実が入っていたそうで、ついつい小腹が好いていたエースはその実を食べてしまったとの事。そしてそれが”悪魔の実”だったと。
ちなみに悪魔の実の味はエース曰く「すっげぇマズかった」との事で「アレはもう二度と喰いたくねェな」だそうだ。
その後、よくよく調べると”悪魔の実”にはそれぞれ”
それを最初知った時、攻撃効かないとか無敵じゃん、いくら何でもチートすぎるなんて思いもした。ただリスクとして泳げなくなるそうだが、そんなのは海に落ちなければいいだけの話しで、やはりチートな能力だと思った。
そしてそんなエースの話を聞いている内にオレはあの無人島で見つけた果実の事を思い出していた。
あの果実も宝箱に入れられていた上、実にも変な模様が入っていたし、もしかしたらアレも悪魔の実だったのかもしれない。もしそうなら少し惜しい事をしたかもしれないな…。
◇◆◇
――――――、
―――………。
黒。
重い瞼を開けると、その視界に入ってきたのは足元も覚束ないほど黒い闇に包まれた空間だった。
反射的に周囲に視線を飛ばしてみるもそこにあるのは闇のみで、上下左右前後、どこを見渡してもその結果に変わりはなく、ただ闇が広がっているだけだ。
―――………思いのほか時間が掛かったが、漸く意識が回復するまでになったか。
―――まったく忌々しい。
―――本来なら疾うの昔にこの
―――どこまでも
―――予定が大幅に狂ったが、これで
―――まだあの
―――意識を失う程、大きなモノじゃねェが、
―――チッ、本格的に
―――
―――雑魚を何百匹”贄”にした所でその力なんざたかが知れてる。
―――もっと大物を狙う必要があるが…、暫く
―――不本意だが宿主様に頑張ってもらうしかねェな。
―――勝手に死なれてもらっては
―――だから今だけは大人しく”力”だけを貸してやるが、この貸しは高くつくぜ。
―――後々必ず返してもらうからな。
―――だからよ、次に
―――なんせ、