綺麗だった。
純白のドレスに身を包んだお姉ちゃんと、普段はあまり見慣れない純白のタキシードを着た二人の繋がった瞬間を見て、私が一番最初に思いついた言葉はそれだった。
過去これまで感じたことのない想いに心が支配される。
大好きな二人の愛し合う姿はとても綺麗で、とても絵になっていた。
……あぁ、本当にこれで二人は名実ともに夫婦になってしまったのかと思うと、やっぱり寂しい。実際にはこれからも二人は変わらず私に優しくしてくれるだろう。変に余所余所しくなることもありえない。
――私の隣で、お父さんが男泣きをしていた。おばあちゃんも瞳に涙を浮かべている。だけど私はどうしてか二人みたいな態度をとることができなかった。
……なんていうんだろう。どうしてかこう思ったのだ。
――二人がこうなるのは、運命で決まっていた。
だからこれは必然で、しみじみと涙を浮かべることなく、ただ別のことを考えている。
……幸せな未来はきっと訪れる。そしてあの二人はいつまでも笑顔でいるんだろう。
――思い浮かぶのは、そんな二人の間に挟まれて笑顔を浮かべている自分だった。
……そんなことを思っていて、いいのだろうか。いつまでもあの二人に甘えていてもいいのだろうか。
きっと私の心の中で引っかかるのはそこだ。それがどうしようもなく分からないんだ。瀧くんは面倒見がいいから、苦笑いしながらも構わないって言うと思う。お姉ちゃんもしょうがないな、なんていってなんだかんだで甘やかしてくれる。
……それだと、なぜか私だけが取り残されている気がするんだ。さやちんもテッシーも自分たちの道を進んでいる。お姉ちゃんと瀧くんも自分の道を進んでいて――だったら私は、どこに進んでいるんだろう。
自問自答しても、いつまで経っても答えは出ない。だけどどこかに必ず答えがあるはずなんだ。
――それを知ることで初めて二人を心から祝福できる。
……二人のキスする姿を見ていて、それが永遠に続くのではないかと思ってしまう。実際にはほんの数秒のことなのに、私はその姿が何十秒にも感じた。
――あぁ。あの二人に混じりたい。そんな駄目なことを考えてしまう妹を許してください。
……分かりきっていたことだ。私の悩みはひたすらにどうでもいいことだ。だって私はただ――お姉ちゃんと瀧くんがどうしようもなく好きなだけなのだから。
●○●○
『こちらは、新郎の瀧の高校生時代の文化祭での一幕でございまぁす!! 見てください、三葉さん! 瀧の野郎、女子に告白されていますよ!?』
「――おいこら真太ぁ! 何してくれちゃってんだよ、馬鹿野郎!!」
「……瀧くん、後でちょっと話があるからね?」
……マイク越しの高木さんの声で私ははっとした。
――挙式が終わって、今は披露宴だ。会場は先ほどまでの神聖な場所ではなく、少しばかり騒がしい披露宴会場に映っている。今は瀧くんのお友達の高木さんの司会進行で進んでいて、それなりの盛り上がりを見せていた。
ちなみに瀧くんに向けるお姉ちゃんの目は、中々に寒気を催すものであることは私でも分かった。
……私はふと目の前にある料理に口をつける。おいしいとは思うけど……お姉ちゃんと瀧くんの料理に比べたらなぁ。
「……なにをぼうっと呆けているんや」
「……ううん、何でもないよ」
おばあちゃんが目ざとく私にそう尋ねてくるけれど、私は首を横に振って何でもないよ、と返す。
……そんなに楽しくなさそうな顔をしていたのかな。私は自分の今の表情が気になって、さっと席を立った。
「四葉、どこに行くんだ?」
「お父さん、デリカシーないよ?」
「……すまん」
お父さんは私の一言で察したのか、特にそれ以上追及することはなかった。
私は席を離れて披露宴会場から出て、化粧室に向かう。鏡で自分の顔を見つめると、そこにあったのは
「……うん、いつも通りだよね」
特に変化があったとは思えない私の顔だった。何もおかしいところはない、可愛らしい女子高生が映っているだけだ。
「なんだかなぁ……」
「――なぁにを悩んてるのかなー、お姫様は」
……びっくりした。私は声の聞こえた方を見ると、そこには瀧くんの先輩でお姉ちゃんの友達の奥寺さんがいた。
手には化粧品が入ったポーチを持ってるから、私と違って本当に化粧直しに来たのだろう。
「浮かない顔してるね。あれかな、二人が結婚するのが嬉しい反面、内心では複雑な感じ?」
「……お姉ちゃんが言ってた通り、勘が良すぎです!」
ま、まさか一発で言い当てられてしまうなんて……。そんなに顔に出ていたのか、と不安になる。恐るべし奥寺ミキさんだ。
この人の旦那さんは確実に浮気なんてできないんだろうなぁ……まあこんな美人な奥さん以上の人なんて、なかなか現れないだろうけどさ。
「まぁまぁ、落ち着きなさいって。何も取って食おうって言ってるわけじゃないんだからさ。……まあ私も、四葉ちゃんの気持ちがちょっとは分かるからね」
「……え、もしかして奥寺さん、お姉ちゃんのことを」
「――そっちじゃないよ」
私が冗談めかしてそう言うと、奥寺さんは私の頭を軽く小突いた。……でも、そっちじゃないってことはそういうことだよね。奥寺さん、もしかして……
「もしかして奥寺さん、瀧くんのことが……」
「昔のことよ――瀧くんが高校生のとき、同じバイト先で働いてたときに、可愛いなって思ってた時期があってね。でも逆に瀧くんは、その時期から私にあんまり興味が無くなっててさ」
「結局、実らず終いの恋、か」
「恋かどうかもわかんないよ。……でも、それを知りたいために色々おせっかい焼いてたのかなって、今になったら思う」
奥寺さんは鏡に映る自分の顔を見て、そう呟いた。その顔が何を意味しているのかは私にはわからない。
……私と同じ感覚なのかも、しれない。奥寺さんの表情はどこか私と似ている。
奥寺さんによって瀧くんは今でも大切な後輩なんだと思う。でも私の場合は……二人に対して、だもんなぁ。だから余計にたちが悪いんだ。一人ならともかく、お姉ちゃんと瀧くん。二人共を同時に好きに思ってしまっているのだから。
「――私はお姉ちゃんと瀧くん、両方とも大好きです」
……包み隠すことなく、私は奥寺さんにそう言った。奥寺さんはそれが最初からわかっていたというような表情を浮かべて、腕を組んで微笑んでいる。どうせ見透かしているなら、全部隠さず話したほうがすっきりするよね。
「だから、色々と複雑なんです。大好きが二人が結婚したら、私だけが取り残されてしまう気がして……二人は優しいからきっと、今までどおり私に優しくしてくれるんだろうけど……それで気を遣わせるのが嫌で――本当に面倒くさいですよね。二人と一緒にいたいくせに、私には気を遣ってほしくないなんて」
私が自傷気味にそういうと、奥寺さんは……ぽんと、私の頭に手を乗せて、私の頭を優しく撫でた。
……私はなんのことだと思って奥寺さんの方を伺うように見ると
「――心配しなくて、あの二人は気を遣わないよ。だって見ていて微笑ましくなるくらい、三人は自然体なんだから」
「……自然体、ですか?」
私は奥寺さんの言ったことが気になって、そう聞き返した。……自分ではわからないことだ。私はただ二人に甘えていて、それを二人が許容してくれている。ただそれだけ。
なのに奥寺さんはそんな私たちを自然体と言った。
「あちゃ~、自覚症状なしか。……よし、こうなればお姉さんが人肌脱ぐよ」
「へ?」
奥寺さんは私の肩をガシッと掴んで、さも「私に任せて」と言わんばかりの心強い表情を浮かべていた。
……何故だか嫌な予感がするも、私はとりあえず助けてくれるということで頷いた。
○●○●
――新郎新婦は大忙しであった。
自由時間は自分の友人らや三葉の友人たち、親戚筋から話しかけられたりで中々ゆっくりとする時間はない。更には司や真太の用意した映像によって三葉の表情が笑っているのに笑っていないものになっているのだ。
……そんな中で、瀧はいの一番に二人の下に来るはずだった四葉が、自分たちのところに来ないことが不思議に思っていた。
「……なぁ、三葉。四葉に何かあったのか?」
「え? ……そうだね。今日はちょっと浮かない顔をしてるよね」
――二人とも、四葉の異変には気づいていた。しかし今日という立場上、中々彼女の元に近づくことができないというのが本音だ。今も彼女の姿を探すも、残念なことに席を外している。
「……もしかして、四葉は私たちの結婚に乗り気じゃないんじゃ」
三葉の頭にそのことが浮かんで、途端に不安そうな表情を浮かべた。
……そんなことがあるはずがないということは、三葉はもちろん理解している。しかし芽生えた不安は自分の思惑とは別方向に転じてしまうため、そのようなことを考えてしまうのだ。
「……馬鹿。他の誰でもない四葉が、そんなことを思うはずがないだろ」
「で、でも」
「でも、じゃない。……知ってるだろ。俺たちが結婚するって知ったとき、誰よりも喜んでいたのがあいつだって」
瀧が三葉に春の旅行のときに告白をした数日後、一番最初にそれを報告したのは四葉であった。瀧と三葉は二人して四葉に対してそのことを報告すると、四葉は……
『え、本当に!? ――おめでとうっ!!』
そう満面の笑みを浮かべて、二人に抱きついたのだ。すりすりと二人に頬擦りをするその姿は、一見すれば子猫のような仕草であったが……。そんな姿を知っているからこそ、瀧は四葉を信じていた。
「……あとで四葉と話そう。あいつって肝心なときに本心を隠すからさ。そういうところ、本当に三葉と似ているよ」
「……わ、私は違うよ? ちゃんと話すからね?」
三葉はそう否定はするも、瀧から完全にスルーされてしまうのであった。
――と、そのときだった。突然会場の照明が暗くなり、会場がどよめいた。これは知らされていないことで、すぐにそれがサプライズ的なものであるということを瀧は理解した。三葉は面白いくらいにオロオロしているが。
今回司会を任せているのは真太で、なおかつ企画はあの司である。これくらいのことは瀧からすれば予想の範疇なのだ。
スポットライトが新郎新婦の近くにいる真太に向けられる。
『ご食事の最中ではございますが、ここでとある匿名の方より一つ、提案がいただきました』
……瀧は「おっ?」と思った。どうせ自分の親友たちのサプライズと思ったのに、二人ではない人の企画であったからだ。
しかし、わざわざ匿名の方と分かりやすく濁すところを鑑みるに、瀧はミキの方をチラッと見た。
「イエイ♪」
ミキは舌をペロッと出してピースサインを浮かべ、なんて擬音が聞こえてきそうな表情を浮かべていた。
その顔は何か悪巧みを考えている時のそれである。
「三葉、奥寺先輩の仕業だぞ、これ」
「え……ミキちゃんかぁ。何やるんかなぁ」
多少の不安はあれど、何が起きるか楽しみでもあるようだ。
真太は会場の反応を見て、少しばかり勿体をつける。しかし次の瞬間――
『二人の愛妹、宮水四葉さんによる二人への想いを告げる時間です!!!』
……そう高らかに宣言するのであった。
会場は静まり返る。暗い会場の中でスポットライトが真太から、宮水家の席――四葉に当てられた時、静寂を破るように
「え、えぇぇぇぇぇえ!?」
……四葉の驚きの声が響き渡るのであった。
○●○●
宮水四葉の緊張具合は最高潮へと突入していた。
突然の指名でスポットライトを当てられ、なおかつ壇上の二人の目の前に立っている。
これで緊張するなという方が無理な話だ。しかし、彼女はこの状況を少しだけだがラッキーであるとも考えていた。
……二人の前か、皆の前かという違いだけだ。どちらにしろ二人に思いの丈を伝えようとは思っていたのだ。
「――お姉ちゃん、瀧くん」
そう思うと、もう四葉には緊張はなかった。ただ今は、二人に言葉を伝えたい。
祝福の言葉を伝えたい。でも少し複雑なことも伝えたい。二人のことが大好きであるということも伝えたい。伝えたいことが多すぎて、何を話していいかも考えがまとまらなかった。
――まとめなくて良いんだ、と四葉は思った。二人には纏めた言葉よりも、感情から湧き出たを本音の欠片を、雑に並べて積んでいっても怒りやしない。
そう思うと緊張はなくなった。
「私は、お姉ちゃんも、瀧くんも……二人とも大好きです」
――会場は、しんと静かになる。
四葉の涼やかな声音に、会場中は惹きこまれたのだ。その中で目を見開いているのは三葉と瀧の二人だ。
……直接言われたことはなかったことを、はっきりと言われたのだ。少なからずの同様が、二人にはあった。
「ごめんね、こんな場所で、みんな聞いてるのに――でも、本当の気持ちなんだ。昔はおねえちゃんのこと、変な人だなって思うときもあったけど……その根本では、ずっと大好きだったんだ。だからお姉ちゃんに彼氏が出来たって知ったときは、やっぱりちょっと寂しかったよ」
とうとう姉にもそんな時期が来てしまったのかと。妹ながらしみじみと悲しくなったものだ。
そんな小話を入れると会場に笑いが生まれる。
「でもやっぱりお姉ちゃんの初彼氏は気になったから、すぐに瀧くんとも仲良くなろうとした――それで納得しちゃったんだ。だって瀧くんは、とっても素敵な男性だったから」
初めてあったときから自分を対等に扱ってくれたこと。みんなが「ちゃん」付けする中、彼は最初から呼び捨てで、親しげに接してくれたのだ。
自分のわがままもたくさん聞いてくれた――彼と接すると、まるで姉と接しているようで……心が温かくなったのだ。
「二人のデートに紛れ込んでごめんなさい。でも嫌な顔ひとつしないでありがとう。二人と一緒にいる時間はすっごく楽しくて、他のどんな友達と遊ぶよりも幸せなんだ。……自分でも呆れるくらいのシスコンだって、思うよ」
「……四葉っ」
三葉が彼女の名前を呟きながら嗚咽を漏らした。そんな三葉の手を、瀧はそっと重ねる。
「お姉ちゃんの好きなところを何十個も言えます。瀧くんの素敵なところも同じくらいに言えます。……二人を大切に思う言葉は、もっと言える。それくらい、私、宮水四葉にとって二人は――かけがえのない、大切な存在!!」
――四葉は満面の笑みで、大きな声でそう言った。会場中に響き渡るその言葉で、涙を見せる人もいた。
しかし彼女の話は、まだ終わらない。
「……でも、一つだけ、どうしても心の整理がつかないんだよ」
四葉の肩が、少し震える。
……ここまでずっと、どうして自分が心から祝福できないのか。四葉は自分でもわからなかった。
でも今、この場に立って四葉は自覚したのだ。
「――私、まだ……二人と、一緒にいたいよぉ……っ」
――頭では理解していた。そろそろ姉離れを、瀧離れをしないといけないと。だけど本音では、もっとずっと二人と一緒にいたかったのだ。
それを理性で駄目だと決め付けて、押し殺していた。だからこそ、四葉は心から祝福することが出来ないのだ。
「わがままでも、私は、私は……っ、お姉ぢゃんと、瀧ぐんと……っ」
ついには、涙を隠すことが出来ず、会場で一人泣いてしまう四葉。スポットライトに照らされながら、泣いてしまう彼女に声援の言葉も届く。
頑張れと。泣いてもいいんだよと。しかしその言葉は決して四葉には届かなかった。
欲しいのはそんな言葉ではない。彼女が欲しいのは――
「「しょうがないな、四葉は」」
――俯きながら泣いている四葉に、呆れたような声が届く。それと共に、彼女の身体が、二つの温もりによって包み込まれた。
「え……?」
四葉は突然のことで、顔を見上げた。
――そこには、先ほどまで新郎新婦の席にいた、三葉と瀧がいた。二人が彼女を優しく抱きしめていたのだ。
「ほんと、そういうことは三人のときにしないよ。人前で泣いちゃうし……」
「それは三葉もだろ? ……ったく、何を心配しているのかと思ったら、お前な。結婚してお前を蔑ろにするとか、お義父さんにバレたら俺、殺される事案だぞ」
「え? え?」
何が起きているのか、四葉は頭が追いつかなかった。
……だが二人は彼女を手元から逃がさないように、強く抱きしめていた。
「……わがままを言ってもいいの。四葉が私たちのこと、大好きなのと同じくらい私たちも四葉が大好きなんだから――そんな悲しいこと、言わないでよ……っ」
「お姉ちゃん――ごめんなさいっ」
……瀧はそっと、二人から離れる。
スポットライトは三葉と四葉の二人を照らす。三葉の純白のドレスは光が照らされて、ひどく幻想的な光景を作り出す。
そんな姉妹愛を前に、瀧は自分に出る幕はないなと感じた。恥ずかしながら、自分では役不足であると。
「……何してんだよ、色男」
「あ? ……司。見てわからないか? 俺は邪魔だろ、今は」
「さぁね。でも四葉ちゃんの告白にはお前も入ってるだろ――お前の泣き面がないのが気に食わない」
舞台脇で司はニヤリと笑うと、瀧の背中を押して再度二人の方にけしかけた。
「おい、司、てめぇ!」
「――お姫様のお迎えには、王子様ってな。今のお前はどっからどう見ても王子様だろ」
司は軽くウインクをして、不敵に笑った。
……気づくと、視線は瀧に向かっていた。三葉と四葉の視線はもちろん、会場全体の視線が彼に向かっていた。
――まるで自分の言葉を待つような視線。
「……腹、括るしかねぇか」
それを前に瀧は諦めたのか、再びスポットライトの中へと入っていく。
「四葉。寂しい想いさせて悪かった。そういえば最近は忙しくて中々話すこともなかったもんな」
「瀧、くん」
「な、泣くなよ! ……いつもの悪戯な笑いはどこいったんだよ。そっちの方が、お前らしいのにさ」
瀧は少し腰を屈め、四葉の頭に手を置いた。
「――心配しなくても、お前との腐れ縁はとぎれねぇよ。何でも俺たちは結びで繋がってるらしいからな」
「……むすび?」
彼女にとっても馴染み深い言葉に、目を丸くする。
それを瀧が口にすることが変に思えるのだが……不思議なことに、その言葉が様になっていた。
「俺らは固結びだ。いいか、固結びはやってしまったら中々解けないんだぞ。不器用な男子だったら一度は通る道だ――絶対に解かない。逆にお前が嫌気が指すくらい構ってやる」
本来なら、こんなことを口もすることも恥ずかしいだろう。それでも瀧は四葉を安心させるために、そして――自分の本心を吐露した。
「――お前は、俺にとっても、大切な妹なんだからな」
「――」
瀧が微笑んでそう言ったときだった。
その微笑みが――隣にいる三葉と重なった。
それを見て、四葉は安堵した――あぁ、大丈夫なのだと。自分の不安も心配も、二人の前では全くどうでもいいことなのだと。
ならば、いつまで駄々をこねているのだ。四葉は涙をぬぐい、いつもの笑みを浮かべた。
「当たり前だよ――瀧お兄ちゃん!!」
多くの人の前で、盛大に瀧のことを兄と言う。
それはまるで自分に言い聞かせるような言葉で――しかしそこには一切の躊躇はなかった。
……四葉はふと足元のものを思い出す。それは二人のために用意した、四葉にしか用意できなかった結婚祝い。
それを渡すのは今しかない。そして今しか、あの言葉は言えない。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん」
四葉はそれを手に持ち、二人の前に立って――
「――結婚、おめでとう!!!」
そう、屈託のない笑顔で二人を祝福した。
「……っ。お、おう」
「やっと、瀧くん泣いたー」
「やっとだね、可愛いよ? お兄ちゃん?」
「う、うるせぇ! これだから、あぁ――ありがとな、四葉」
瀧は涙を拭いながら、そう礼を言う――するとそのときだった。
カメラを持った司が、三人の近くに寄ってきた。
それを見計らい、マイクを持つ真太が声を上げた。
『では、美しい姉妹愛、兄妹愛を見せてもらったことで、三人には記念撮影といきましょう!! 皆さん、盛大な拍手を!!』
……真太の煽りを受けて、会場から盛大な拍手が響いた。
それに包まれて、三人は顔を見合わせる――そして、笑いあった。
「ほら三人とも! 寄って寄って!」
「ほら、お姉ちゃん、お兄ちゃん!!」
四葉は瀧と三葉の手を引いて、自分の左右に立たせる。
四葉を中心に、新郎新婦を左右に配置した状態で、司はシャッターを切った。
――そこには、本当に幸せそうな……そんな三人の姿が写っていた。
○●○●
「ところで、今日、あいつ来るんだっけか?」
「そうらしいよ――今日は騒がしくなるね」
「……まぁ、それもいいだろ」
眠る子供二人を抱きながら、三葉と瀧はそんな会話をしていた。
――手元には思い出のアルバムがある。実はこれこそが、四葉が用意した結婚祝いなのだったのだ。
それは二人が付き合ってからの写真や、三人で撮影した写真が半分を占めていた。そして残りの半分は、これからの将来、みんなで撮ろうという意味で空白になっていたのだ。
とてもロマンチックなものだと、二人は思ったものだ。
「……今日はご馳走作ってやるか」
「やった、瀧くんの料理は久しぶり!」
「ほら、そこは奥さんの立場を考えて遠慮してるんだよ。それに三葉のご飯の方が俺は好きだし」
「……ありがと――あなた」
三葉は子供が寝静まっていることをいいことに、彼の方に頭を乗せた。
……すると、そのときであった。家のインターホンが鳴り響く。
その音が響いた瞬間、龍一と双葉が飛び起きた。
「あ、よつはちゃんだぁ!!」
「おむかえだぞ、ふたば!!」
四葉に非常に懐いている二人は、瀧と三葉を置いて玄関の方に向かっていった。
それを見て、二人は苦笑いを浮かべる。
「……三葉」
瀧は立ち上がって、三葉に手を差し伸べた。三葉はその手を取る――互いの薬指にある銀色の指輪が、掠れるような音がする。
玄関の方では子供と彼女の騒ぎ声が聞こえた。
「元気だなぁ、龍くんは♪ 双葉ちゃんはもうかわいすぎぃ!!!」
「は、はなせぇぇ!!」
「えへへへ~♪」
「龍くん、嬉しいくせにぃ」
……玄関先で何をしているんだと、ついついツッコミたくなる。そこには息子と娘を抱きしめて頬ずりをしている彼女の姿があった。
「なぁにしてるんだよ」
「玩具にしているんだよ、こうして」
「お、おもちゃ!?」
「龍一は構わんけど、双葉は駄目」
「とうちゃん!?」
蔑ろにされる幼き龍一、無残である。
……しかし程なくして龍一と双葉は解放される。そして彼女は手をパンパンと払い、そして――
「――ただいま、お姉ちゃん、お兄ちゃん!!」
「おかえりなさい――四葉」
「少しは静かに来いよな――おかえり、四葉」
――幸せな未来は、確かにある。
幸せとは笑顔であり、心だ。心は笑顔と共に豊かになり、未来への架け橋になる。
そんな彼らの未来の幸せなエピローグの一幕。
……幸せな未来のエピローグは、まだまだ始まったばかりであった。
君とずっと、これにて完全完結です。
多くの読者様に支持されて、書いていて本当に楽しい作品でした。名残惜しいですが、ここから先の瀧や三葉、四葉や子供達の未来をご想像ください。
――さて、このあとがきをお借りして一つお知らせ。
これまで話を更新しなかった理由の一つ、大学における卒業制作を実は公開しています。
それは「小説になろう」にて公開しております。
簡潔にまとめると、芸術系の専門高等学校の美術部を舞台に、様々な登場人物が日常を謳歌していくという「こころのいろ」というタイトルの物語です。
話の雰囲気的にはほのぼの、コメディーがあり、主人公とヒロインを中心に展開する群像劇です。
「 https://ncode.syosetu.com/n4219ek/」←URLです。
もし自分の個人の作品を読みたい方がいらっしゃるなら、ぜひ読んでもらいたいです。そして楽しんでいただけるならば幸いです。
追伸
上記もオリジナル作品をこちらでも投稿しました! 気軽に読んでみてください!