赤き「竜」
「みさ…き…!?」
目を見開き、かろうじて不動は声を出す事が出来た。
対するジャッカル岬は特に気にする事も無く、鋭い眼光を放っている。
「ふん、お前達も此処に居たのかよ…厄介だな」
鼻で笑い、辺りの様子を確認しながら彼女は再び不動を睨む。
その瞳は光を無くし「おらず」、黒く濁っても「いない」。
フォーチュンカップ前に倒れた時と同じ、固い意志が伺える。
「ローラ、ここからはテメェの仕事だ。 シグナーとかいう奴らと、そこのおっさんを倒すんだろ?」
「えぇ、ご苦労だったわね。 後は私が…!」
「ッ!? 下がれ、不動遊星!!」
ジャッカル岬に話しかけられたローラは膨大な殺気を放った。
目を見開き、己の闇を解放する様子を見てディヴァインは瞬時に叫ぶ。
不動とディヴァインはほぼ同時に後方へ下がると、その刹那二人がいた場所に地面から黒いナニカが飛び出て来た。
「これは…地縛神の…!?」
「その通りよ、不動遊星。 これは神であり、私の憎しみの権化Ccapac Apu! この力でお前達を潰す!」
ローラの叫び声に応じるかのように辺りからこの世のモノとは思えない雄叫びが響き、地鳴りが響く。
それと同時に先程現れたモノと同じナニカが無数に現れ、二人に襲いかかった。
「くっ…どうしたら…!」
「数が多すぎるか…!」
二人は必死にソレを避け続ける。
不動は持ち前の俊敏さを活かしてギリギリまで相手を誘い躱し、ディヴァインも動きを見切りながら避ける。
しかし、不安定な足場に無限とも言える程の手数を前に対応しきれなくなる。
最初のうちはギリギリでかわせていたが、その内相手の動きについていけなくなっていった。
「っ!?」
最初に限界が来たのはディヴァインであった。
次第に動きが鈍くなっていく彼は徐々に攻撃を受けるようになっていき、ダメージが重なっていく。
それでも彼は必死に動き、神の攻撃を避けようとした。
だが、彼が回避のためにジャンプした時、僅かだができてしまった隙をローラを見逃さなかった。
「そこよっ!」
瞬時に地縛神へと命令を下し、見事に的中させた。
目指したのは、ディヴァインの右足。
「ぐぁっ!? しまっ…」
その強烈な痛みに耐えきれずバランスを崩してしまい、彼は上手く着地できずに地面に体を打ち付けてしまった。
「く…ぐぅ…」
「…ふふ、まずは一人…」
「ディヴァイン!?」
倒れ込むディヴァインを前に、ローラは微笑みを絶やさず悠然と歩み寄っていく。
不動は彼を救出しようとするが、地縛神がソレをじゃましていく。
(アルとランスロットはまだ全快じゃない…リサや他の者達も疲弊したままだ。 いや、ソレ以前に実力差がありすぎる…どうすれば!)
ディヴァインは激痛に耐えながら必死に思考を巡らせる。
しかし、どれだけ考えても答えが出てこない。
そして、遂にローラは彼の眼前まで辿り着いてしまった。
真っ黒な目で見下ろすその姿は美しく、それでいて底冷えする恐怖を孕んでいた。
「ふふ…ボロボロにされる気分はどうかしら、ディヴァイン?」
「くっ…」
「何も言えないの…? だったら、言えるようにしてあげるわ!」
そう言って、彼女はディヴァインに攻撃を再開した。
ただし、殺す様な威力は無い。
じっくりといたぶるように、苦痛を植え付けるかの様な攻撃。
拷問にも近い無惨な様であった。
「ぐぁっ…ぐっ…がぁ!」
「ふ、ふふ…さぁ、答えなさい! 今まで苦しめて来た子達と同じ痛みを受けて、どんな気持ちなのかしら!? アハはははは!!」
狂笑をあげ、それでも彼女は攻撃を止めない。
ディヴァインの体中から血が流れ、抵抗が無くなっても全く弱めないのだ。
「…おい、ローラ。 そこらへんでやめて、さっさとトドメをさせ」
そんな時に、後ろからジャッカル岬が話しかけた。
「アは! アハは! アハはははは!!」
「聞いてんのか! さっきも言っただろうが、コイツらに手加減なんかするな! 殺す時は話す猶予も与えんじゃねぇっ!」
ジャッカル岬は怒鳴るように訴えかけるが、ローラは全く意に介さず攻撃し続ける。
ただ笑い続け、玩具を与えられた子どものように一心不乱に攻撃し続けている。
「このっ…バルバロス!!」
遂に我慢しきれなくなったのか、彼女は自分のデッキの中からカードを一枚取り出すと、その力を解放した。
辺りに稲妻をまき散らし、その中心から人が持つには巨大すぎる槍が放たれる。
その槍は満身創痍のディヴァインをめがけて一直線に放たれたが、寸でのところで神の一部に邪魔された。
ローラが操る神に突き刺さると強烈な雷撃を放ち、動きを止めさせた。
「…お互い、必要以上の干渉はしない約束でしょう? 岬」
「必要な干渉だ。 ここに来るまでに何回も言っただろう。 「遊」と名のつく者、そしてその周りのヤツに手加減ナンカするんじゃねぇ。 一切の時間も猶予もくれてやるな」
「まったく、何を恐れているの? 相手は未だ覚醒していないシグナーにボロボロの犯罪者、確かに異質な能力を持った子が此処に近づいて来ているけど…なんのこともないじゃない」
ローラは未だ態度を変えず、それどころか自分の憂さ晴らしを邪魔した形となったジャッカル岬を睨みつけ敵視している。
「…ふん、どうせ理解していないと思ってたさ。 言っちまえばお前もその一員なんだからよ」
「あら、聞き捨てなら無いわね。 私があの子達と同類…と言いたいのかしら?」
「あぁそうだ。 不動遊星も、そこのディヴァインって男も…木陰に隠れてコッチを見てるお前もだ遊城十代!!」
彼女は誰もいない筈の方向を睨みそう叫んだ。
するとそこから闇をかき分け、赤を基調とした服を纏った男が現れる。
「なるほど、全部お見通しってことか」
『実力も測りきれていない馬鹿もいるようだけどね』
「チッ、お前もいるんだな…引き際だな」
ジャッカル岬は遊城を睨み付けると忌々しそうに舌打ちをした。
「なに? もう帰るって言うの? まぁ、貴方が帰っても私は続けるから、一人で勝手に帰りなさい」
「ふん、もとからそのつもりだ。 もうお前とつるむ必要もないからな」
そう言って、ジャッカル岬はその場から退散しようとした。
「まぁ待てよ、岬…だよな?」
しかし、それを遊城が遮った。
彼はジャッカル岬がローラと会話をしている少しの間に彼女のすぐ近くにまで寄っていた。
「…なんだ、邪魔をするな」
「そう言うなって、お前の口からどうも聞き逃しちゃいけない言葉が聞こえたんでな…お前、なんで「遊」を知ってんだ?」
「ふん、言うはずがねぇだろうが。 だが、お前達「遊」の魂は先公のために一番排除しなきゃならないモノだ。 少なくとも俺はそう認識してる。 …それよか、もっと相手しなきゃいけない奴がいるんじゃないか?」
「何をワケわかんないこと言ってんだよ!? クソ、とにかくお前を逃がすわけには…なっ!?」
遊城が彼女に詰め寄ろうとした時、事態が急変した。
ディヴァインと不動を相手していたと思っていたローラが、その標的を山崎に変更したのだ。
「フフ、捕まえた…私の…弟…!」
彼女は恍惚の笑みを浮かべながら彼を邪神の触手で絡み取り、はるか上空へと持ち上げたのだ。
「ッ!? やめろ、岬…!」
「グッ…くそ、邪神の…王が…」
不動とディヴァインは弱っている体を鞭打って彼を救出しようとするが、彼らは十分に力を使うことも出来ず、碌な抵抗が出来ないでいる。
「!? しまった! …ちぃッ」
「そういうことだ、あばよ」
ローラとジャッカル岬を何度も見返し、遊城はローラから山崎を奪還することを選択して彼女の下へと走る。
ソレを見届けるとジャッカル岬はビルの陰に体を隠し、そのままその場を後にしてしまった。
『結局岬って小娘からは情報を聞けずじまいだね、十代』
「あぁ、何が何でも聞いておきたかったが…今回はそうも言ってられねぇ。 まぁ、アイツは山崎と一緒に居ればそのうち自分からやってくるだろうぜ。 …行くぞ、ユベルッ!」
彼は相棒へ言葉を投げかけると、その背中より異質な翼を広げた。
明らかに人間のものではない色をした翼は、ユベルの一部を具現化して活用したものである。
彼はソレを羽ばたかせて山崎の所へ一気に近づこうとする。
しかし、それを別の邪神の触手が邪魔した。
「チッ、山崎を放せミスティ・ローラ!」
「貴方こそ、敵わない相手に挑むのは時間の無駄よ? 遊城十代」
二人は各々の光弾を取り出すとソレを相手にぶつけあう。
激しい爆撃音がする中、二人は無数の弾丸を避け続ける。
そんな中、公園で休んでいた一人が目を覚ました。
「う、ん…」
双子の片割れである龍可である。
彼女は眠そうに瞼を起こすと、周りを見渡してその異様さを瞬時に察知した。
「ッ!? この感じ…来てる?」
彼女はすぐさま体を起こすと、感じ取った先を見て走り出す。
「ここに、いるなら…急がないと…!」
ただし、その異変の正体はダークシグナーではない。
「やっと、見つけた…今度こそ…!」
ただ、ひたすら「彼」に会うために走る。
二人の力が拮抗する中、事態はまたも大きく動いた。
ブチリ、と肉が強引に千切れる音。
次に叫び声、地鳴りがするほどの強力な。
恐らく、「邪神」のものと思われるソレは、遊城とローラに何かが起きたことを察知させるには十分すぎた。
「なっ、どうしたの!? なにが…!?」
一方は事態を掴めておらず混乱しているが。
「…まさか、アレが来たのかよ!? おい、遊星とディヴァイン! 早くここから離れろ!!」
一方は瞬時にその正体を察知し、近くにいる仲間に退去を促す。
その額からは汗が流れ、顔もこわばってしまっている。
「ど、どうしたんですか十代さん!?」
「ワケは後だ、直ぐに離れろ! クソ、アバターやドレッドルートは何やってるんだ! よりにもよってアイツを出すなんて…!!」
忌々しげに睨み付ける先には、彼が救うはずの山崎が「立っていた」。
そう、邪神の一部を引きちぎり悶絶の叫び声を上げさせているのは他ならない山崎であったのだ。
ただし。
「…おい、爬虫類。 テメェ、誰に手ェ出してるか分かってんのか?」
その眼は真っ赤に染めあがっていた。
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