レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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お疲れ様です。
今回から数話ほど各キャラをメインにしたお話を書こうと思います。
まずは梨花ちゃんからです。




事件後のお話 梨花

俺は今、かつてないほどの自由を実感していた。

誘拐事件から一ヵ月が経った。

俺の頭の傷が完治したことで病院を退院することができ、ダム建造計画についても誘拐事件の裏で取り決められたであろう大臣との取引の影響によるものなのか、動きが鈍くなっている。

 

それによって村の人たちの殺気立った様子も少しは落ち着きを見せ、俺の心に確かな平穏を作り上げていた。

 

ああ、お茶が上手い。

 

「梨花ちゃん、そこのお菓子とってくれるか?」

 

「・・・・」

 

俺の言葉に対して無言のまま鋭い視線を送る梨花ちゃん。

梨花ちゃんの横に置いてあるお菓子を取ってくれる気配はない。

仕方ないので自分で取るために手を伸ばすが、お菓子を握る直前にバシンと叩かれてしまった。

 

「い、痛いぞ梨花ちゃん!」

 

「・・・・」

 

叩かれた腕をさすりながら文句を言うが、梨花ちゃんの無言の圧力に屈してしまう。

ダム戦争が少し落ち着いた中俺は、せっかくの休みを有効活用するために梨花ちゃんの家に遊びに来ていたのだ。

いきなり遊びにきた俺に、梨花ちゃんのお母さんとお父さんは笑顔で歓迎してくれたのだが、肝心の梨花ちゃんはさっきからずっとこのように黙ってこちらを睨んだまま動かない。

 

「まだ俺が黙って誘拐事件の現場に行ったことを怒ってるのか?無事だったんだからいいだろ」

 

あの誘拐事件の件について、俺は梨花ちゃんに園崎家の力を使って大臣の孫を救出すると言っていた。

まさか俺自身が誘拐現場に何度も訪れていて、しかも現場に突入するとは思ってもみなかったのだろう。

 

「・・・・無事なんかじゃない!頭を何針も縫うような大怪我したくせに、よくそんなことが言えたわね!」

 

「・・・・」

 

梨花ちゃんの言葉に思わず自分の頭に手を触れる。

前髪で隠れて見えないが、俺の額にははっきりと誘拐事件の時に負った傷がある。

参ったな、入院中はいつも誰かがいて梨花ちゃんと2人っきりで話せなかった、そのせいで俺への文句が積もりに積もっていたのだろう。

 

「悪かったよ、正直調子に乗ってた。園崎の人たちにおだてられて舞い上がってた。本当にごめん、この通りだ」

 

泣きそうな目でこちらを睨みつける梨花ちゃんに慌てて頭を下げる。

まずった、まさか梨花ちゃんがここまで溜め込んでいたとは思わなかった。

 

「・・・・私は今までずっと絶望と諦めの中にいたわ。何をやっても殺されて、誰かに助けを求めても、誰一人として私の話を信じてはくれなかった」

 

梨花ちゃんはうつむいたまま、今まで溜め込んでいた言葉を吐き出していく。

うつむいた状態では梨花ちゃんの表情を見ることは出来ないが、地面に落ちる小さな水滴を見て、察してしまう。

 

「・・・・もうあきらめていたのよ、死の運命には勝てないんだって絶望してた・・・・そんな時、あなたが私の前に現れてくれた!絶望の中にいた私をあなたは救い出してくれた!私に希望を与えてくれた!」

 

そう言って俯いていた顔を上げて俺を見つめる。

涙を目に溜めながら、ありったけの思いを俺にぶつけてくる。

 

「そんなあなたが大怪我して病院に運ばれたって知った時の私の絶望がわかる!?目の前が真っ暗になって足元が急に崩れていくようにさえ思えたわ!自分の死が近づいてきた時だってここまでじゃなかった!!もうこんな思いはしたくない!!・・・・もう・・・もう絶対に!」

 

「・・・・ごめん梨花ちゃん、俺が軽率だった。本当に反省してるよ、二度と大怪我なんてしないと誓う。だから泣き止んでくれ、お願いだ」

 

涙を腕で拭いながら嗚咽を漏らす梨花ちゃんを抱きしめながら言葉を続ける。

俺という存在は梨花ちゃんにとって羽入以外で初めてできた明確な味方なのだ。

梨花ちゃんが俺のことをどれくらい大切に思ってくれていたのかは、今も彼女から零れる涙が伝えてくれる。

これからもきっと危険な行動をしなければならない時はあるだろう。

そんな時、俺のことを心配してくれる存在が大勢いることを絶対に忘れないようにしよう。

しよう。

 

 

 

 

「ぐすっ・・・・わかればいいのよ・・・・赤坂に起こるはずだった、妻の死という運命を変えてくれたのは本当に感謝してるわ・・・・ありがとう」

 

ずっと言いたかったことを言えた私は、改めて今回の件についてお礼を言う。

今までたったの一度も変えることが出来なかった運命を灯火は見事打ち砕いてみせたのだ。

その事実が、私の中に少なくない歓喜と希望を与えてくれる。

 

「気にすんなよ、それに俺一人の力でやったわけじゃない。みんなの、特に梨花ちゃんの協力があったからこそ、あの決まりきった運命を覆すことが出来たんだ」

 

確かに彼一人の力では運命を変えることは出来なかっただろう。

悲劇が起こる場所はここではなく東京なのだから、子供一人の力でどうこうできる範疇ではない。

だから彼は色んな人に頼った。

園崎家の人たちに協力を求め、自分の考えた策を実行し、見事赤坂の妻を救ってみせたのだ。

 

こんなこと、彼以外に誰が出来ようか。

 

「これから俺たちの前に立ちはだかる運命を越えるためにも、もっと仲間を増やさないといけないな」

 

「仲間ってこれ以上、誰がいるっていうのよ。沙都子に礼奈、魅音、詩音、悟史、赤坂、あと園崎家もそうね、これだけでも十分じゃないの?」

 

「いや、全然足りない!入江さんに富竹さん、大石さんとももっと良い関係を築いていかないとダメだ!鷹野さんはまぁ、うん・・・・頑張るわ」

 

「私たちはともかく、灯火は十分仲いいじゃない」

 

私は入江や富竹はともかく、大石と鷹野のことは好きになれない。大石はどの世界でも今までの怪事件を園崎家のせいであると信じ込み、圭一や詩音の疑心暗鬼を加速させ、同じように鷹野もレナの暴走を駆り立てた。

この二人がいなければ、私の大切な友人たちは凶行に及ばなかったはずなのに!

 

「・・・・梨花ちゃん、顔が怖いぞ。まぁ、徐々にでいいから仲良くしてくれよ。きっとそれが将来の力になるはずだからさ」

 

「はぁ・・・・わかったわよ。頑張ってみるわ」

 

確かにあの二人が味方になってくれるのは心強い。それによって運命が変わるというのなら彼らごとき簡単に翻弄してやるわ。

 

「そういえば、梨花ちゃんって雛見沢症候群の検査のためにもう入江診療所に通っているのか?」

 

「いいえ、まだ私が雛見沢症候群の女王感染者だということには気づいてないはずよ。検査が始まるのはいつも来年からだもの」

 

「そ、そうだったのか・・・・あぶねぇ、じゃあやっぱりあの時はガチのピンチだったのか」

 

質問への回答を聞いて何やらぼそぼそと灯火が呟いているが小さくて聞こえない。

たぶん記憶の整理でもしているのだろう。

 

 

「あうあうあう~!ただいまなのですよ~!」

 

散歩から帰ってきた羽入の声が耳に入る。

ふふ、灯火がここにいると知ったらびっくりするでしょうね。

羽入が慌てふためく様子を想像して、私は小さく笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 


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