レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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お疲れ様です。
前話ではアンケートに答えていただいてありがとうございました。
そしてアンケートを確認すると、どっちにも同じくらい票がありました。
というか今確認したら232票と232票でまったく同じでした。

なのでもう両方の話を作ろうと思います!

うみねこの要素がある前話をIFの話として続きを投稿していきます。
なので基本は純粋な「ひぐらしのなく頃に」のお話で進んでいきます。

今回は前話の訂正版になります。
最初から中盤までは前話と一緒です。
内容が変わるところに☆をつけてますので確認してください。

主人公が記憶のせいでおかしくなっていなかったら、この展開になっていました。


IFの話ですが、「うみねこのなく頃に」の要素はほとんどありません。
登場するのは前話で出た少女だけですし、この少女も一応うみねこの登場人物なのですが、半分オリキャラだと思っておいてください(私も彼女の設定にすごく詳しいわけではないので設定に矛盾が出る可能性があるためです)

「うみねこ要素」はほとんどないので知らない人でも問題なく読めると思います。
また作中でどういう人物なのか等はいずれ説明していきます。

最後に、本編とIFの話が本格的に分岐していくのはまだ先です(前話で主人公は再び記憶を封じられ、今回の夜の出来事の記憶も同じく封じられています」

なので少なくともこの悟史と沙都子の問題の解決までは「うみねこ要素」はほとんど出ないです。

というわけでしばらくは純粋な「ひぐらしのなく頃に」のお話を投稿していきます。



覗くもの

悟史と沙都子、親友である2人に俺が出来ることは何だろうか?

今回のお泊り会でそれがわかればと思っていたが、何が最善なのかは結局わからない。

沙都子は両親と共に暮らすことを拒絶し、悟史は沙都子の意見に従った。

なら俺は2人がこれまで通り公由さんの家で暮らせるように動くべきだ。

公由さんも魅音も喜んで協力してくれるだろう。

村のみんなも悟史と沙都子のことを可愛がっているし、ダム建造が完全に凍結すればすぐにでも2人の両親を追い出そうと動き出すだろう。

 

行動の決断まで時間はそう残されていない。

残された時間で少なくとも悟史の本当の意志だけは聞き出さなくてはならない。

思考の海に沈んでいた意識と共に項垂れていた頭を上げる。

 

 

 

と同時に俺の頭は強制的に床へと打ち付けられた。

 

 

「へぶっ!!?」

 

床に顔が接触した痛みと衝撃で間抜けな声が漏れる。

 

「誰が顔を上げてもいいといいましたの?」

 

俺の頭上から凍えそうな程冷え切った声が耳に届く。

 

「さ、沙都子。悪かったって言ってるだろ!何回も謝ったじゃねぇか!」

 

だからいい加減俺の頭から足をどけやがれ!

 

「いいえ!まだまだ足りませんわ!床に頭がめり込むくらい謝ってくださいまし!」

 

俺の謝罪の言葉を聞いて足を退けるどころかさらに力を入れてくる。

うごご、床に顔がふさがって息がうまく出来ない。

俺はお前のために必死に頭を働かせてるのに、この仕打ちはあんまりじゃないのか!

 

「くそ!!俺が何をしたっていうんだ!?」

 

「私と梨花のお風呂を覗きましたでしょう!この変態!!」

 

うん、まぁそうなんだよね。

 

「あれは不幸な事故だったんだ。お前らが入ってると思ってもみなくて」

 

悟史と沙都子の話を聞いた後、ずっとこれからのことについて考えてしまい、誰かが入ってるのを確認せずに浴室の扉を開けてしまったのだ。

2人のために必死に考え事して浴室の確認を怠ってしまった俺を誰が責められようか。

 

「犯人はみんなそう言いますわ!」

 

うん、責めるのは当然沙都子だよね。

くっ、梨花ちゃん!この状況をなんとかできるのは梨花ちゃんだけだ!

今回の件について事情を把握している梨花ちゃんなら、俺がどうして浴室に入ってしまったのか察してくれるはずだ!

 

「り、梨花ちゃんからも沙都子に言ってくれ!あれは避けようのない事故だったんだってことを!」

 

「沙都子」

 

俺の言葉に反応して梨花ちゃんが沙都子に声をかける。

さすがは梨花ちゃんだ、うまいこと言って沙都子の怒りを鎮めてくれ!

 

「沙都子、もっと足に力を入れるのですよ」

 

「梨花ちゃん!?」

 

沙都子にファローを入れてくれるどころか、さらに追撃の指示を沙都子へと加える梨花ちゃん。

なぜだ梨花ちゃん!梨花ちゃんなら俺がわざと覗いたなんて考えてないだろうに!

 

「みぃ、反省の色が見えないのですよ灯火。僕の裸を見ておいて、簡単に許されるとは思わないことです」

 

あ、これマジ切れしてるやつだ。

俺を見つめる梨花ちゃんの絶対零度の視線が頭部に突き刺さる。

たぶん今の梨花ちゃんの目はひぐらしでお馴染みの鬼の目になっていることだろう。

 

「お兄ちゃん!やっぱり梨花ちゃんと沙都子ちゃんにあーんなことやこーんなことをするつもりだったんだね!」

 

沙都子と梨花ちゃんの続いて礼奈からも怒りの言葉を受ける。

不本意だが、礼奈の言葉に反論できない。

結果的に礼奈の言葉通りの行動を俺はしてしまってるのだから。

 

「どうして礼奈も誘ってくれなかったのかな!!かな!!」

 

「礼奈さん!?怒るところが違いましてよ!?」

 

礼奈の的外れな言葉に沙都子のツッコミが入る。

 

「ていうか別に礼奈は覗く必要ないよね。一緒に入ればいいんだしさ」

 

そして魅音からごもっともなツッコミが入る。

 

「ちっちっち、みぃちゃんはわかってないなー」

 

得意げな声を出しながら魅音へ返答する礼奈。

あ、預言するわ。

これから間違いなく礼奈は変態的発言をします。

 

「確かに私は梨花ちゃんと沙都子ちゃんと一緒に入るのは簡単だよ。今までだってそうしてきたし」

 

「・・・・その度に私の身体の至る所を触ってきましたわ」

 

「・・・・みぃ、礼奈とは一緒に入りたくないのです」

 

礼奈の発言にげんまりとした表情を浮かべる2人。

礼奈、お前は2人に何をしてきたんだ。

 

「う、うん。だったら覗く必要はないよね?」

 

礼奈の発言に少し引きながらもやんわりとツッコミを入れる魅音。

魅音、優しくする必要はないぞ。この変態には教育が必要だ。

 

「それだとお兄ちゃんに裸を覗かれて恥ずかしがる2人を見れないじゃない!!」

 

「「・・・・みぃあ!?」」

 

礼奈の魂の叫びを聞いて羞恥の声を上げる梨花ちゃんと沙都子。

 

「はうー!お兄ちゃんに裸を見られて恥ずかしがる梨花ちゃんと沙都子ちゃん。それを想像しただけで礼奈は礼奈は!はうはうはうー!!お持ち帰りー!!」

 

2人の恥ずかしがる姿を想像してトリップする礼奈。

今日もうちの妹は元気いっぱいだ。

 

「うぅ、どうして私がこのような辱めを受けなければなりませんの!元をたどれば原因はこの変態が私たちの覗きをするからですわ!!」

 

そう叫びながら俺の頭への足蹴を再開する沙都子。

やめろ、これ以上バカになったらどうするんだ。

 

くそう、こんなことならもっと強引に悟史もお風呂に誘うべきだった。

そうすれば共犯の罪で痛みを悟史と分けることが出来たのに!

食事の準備があるから先に入っていいよという言葉にすぐにうなずいてしまった自分が憎い。

 

しかも、その悟史は一瞬だけこちらに顔を出し、瞬時に俺がやらかしたことを察したのか、同情した表情を浮かべたままお風呂場へと消えていった。

そう、俺はすでに悟史に見捨てられた後だったりするのだ。

 

いや、逆の立場なら俺もそうしていたかもしれないから迫ることはできないけどさ。

はぁ、悟史が風呂から出て沙都子にやめるように言ってくれるまで待つしかないのか。

 

「まぁまぁ2人とも落ち着きなよ、お兄ちゃんだってわざと覗いたわけじゃないんだしさ。沙都子も本当はわかってるんでしょ?」

 

 

俺が長期戦の覚悟を決めていると、いい加減俺の怒られる姿を見かねた魅音がフォローを入れてくれる。

 

「まぁ・・・・そうですわね」

 

魅音の言葉を聞いて沙都子も少し落ち着いてくれたようだ。

助かった、後で魅音でお礼を言っておこないと。

 

「そうそう、おねぇの言う通りよ」

 

お、魅音だけでなく詩音もフォローしてくれるようだ。

これで覗きの件はなんとかなりそうだ。

やはり持つべきは一般的な常識を持った妹である。

 

「梨花ちゃんと沙都子の裸なんかお兄ちゃんが興味あるわけがないのに」

 

あははっと笑いながらそう言う詩音の言葉で沙都子と梨花ちゃんが固まる。

いやまぁ、間違ってはいないけどさ、そういうのは言ってはいけないと思う。

さすがは詩音だ、俺の言えないことを平然と言いやがる。

詩音は固まっている2人を気にすることなく言葉を続ける。

 

「もう!お兄ちゃんもどうせ覗くなら私のほうを覗いたらよかったのに!お兄ちゃんは梨花ちゃんや沙都子より私の裸のほうに興味あるもんね!」

 

「よーし詩音!それまでだ!それ以上は誰も幸せにならないぞ!」

 

床に顔をこすりつけているから見えないが、梨花ちゃんと沙都子のプレッシャーがどんどん強くなっていくのを感じる。

沙都子が足をどけているから今なら顔を上げられるが、怖くて床から顔が上がらない。

 

くそう!お前ら全員まだ小学生だろうが!色気づくには早すぎるぞ!

だいたい鷹野さんのような大人な女性ならともかく、梨花ちゃんや沙都子はもちろん、詩音にだって興味があってたまるか!

せめて中学生になって出直してこい!

貴様らの貧相な身体に興味はないわ!

 

 

っと心の中でツッコミを入れる。

もちろん思うだけで口には出さない。

言葉にしたら最後、俺は生きてここから帰ることは出来ないだろうからな。

 

「・・・・なぜか急に灯火さんを殴らなけれないけないような気がしてきましたわ」

 

「奇遇なのです。僕もなぜか灯火を殴らないと気がすまないのですよ」

 

「・・・・お兄ちゃん、今失礼なこと考えたでしょ」

 

俺は何も言ってはいないはずなのに、なぜか急に殺意を宿らせ始める三人。

その熱量は覗きの時の比じゃないほどだ。

 

「・・・・女の勘ってズルいよな」

 

どうやら声にしてもしなくても結果は変わらなかったようだ。

俺はそれだけを口にし、自分に訪れる運命を静かに受け入れた。

 

ちなみに悟史は長時間の長風呂で若干のぼせて帰ってきた。

こいつ、ギリギリまで風呂に居やがったな。

 

「・・・・眠れねぇ」

 

 

3人に容赦なく殴られた身体をさすりながら冷え切った夜道を当てもなく歩く。

口に出したのならともかく、なんか殴らないといけない気がしたってだけで殴られるのは理不尽だと思う。

まぁ、失礼なことを考えていたのは事実なので甘んじて彼女たちの拳を受け入れたが。

だがそのせいでなかなか寝付くことが出来なくなったのは予想外だ。

目が覚めてしまった以上、布団の中でじっとしている気にもなれず、こうして人気のない夜道を寂しく歩くことになった。

 

 

「・・・・」

 

無言で歩きながら今日のことを改めて振り返る。

礼奈たちの乱入がありはしたが、目的である悟史と沙都子の意見を聞くことにはできた。

その結果、2人、いや正確には沙都子は家族と一緒にいることを拒絶した。

前回の梨花ちゃん達との話し合いの時に2人の意見を聞いてから俺たちがどうするかを決めるという結論に落ち着いた。

梨花ちゃん達とはこのお泊り会の後に改めて話し合うつもりだが、羽入はわからないが、梨花ちゃんは2人の意見に従って両親と離れて暮らすように動くべきだと言うだろう。

俺もそれが一番確実だと思う。

でも、それが2人にとって一番良い結末なのかと言われれば、俺にはわからない。

俺はどうしても2人には家族と笑って暮らしてほしいと思ってしまう。

それが2人にとって余計なお世話なのだとしても。

 

「・・・・まぁ、俺がそんなことを言う権利なんてないんだけどな」

 

2人には家族と一緒に暮らしてほしい。

そう思いながらも沙都子の家族と一緒に暮らしたくないという気持ちも痛い程理解出来てしまう。

 

なぜなら・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

俺は母親のことがどうしても好きになれない。

浮気をして父さんを裏切り、礼奈を()()にする原因になった母のことをどうしても好きにはなれない。

頭では理解している、母は浮気なんてしていない、それはあくまで原作の知識であり、目の前にいる母とは関係ないということを。

 

頭では理解しているんだ、それでもいつか俺たちを裏切るんじゃないかという思いが離れてくれない。

 

「はぁ・・・・俺が親と離れたいのに2人には一緒に暮らしてほしいって都合が良すぎるにもほどがあるよな」

 

どうして2人には両親と暮らしてほしいと思うのか。

それはきっと、俺の元の世界の時の記憶のせいだろう。

元の世界で両親と仲良く暮らしていたからこそ、2人もそうなってほしいと思った。

 

 

 

 

 

「・・・・ほんと世の中上手くいかないな」

 

そもそも小学生が考える問題じゃねぇよこんなもの。

憂鬱とした気持ちをため息と共に吐き出していく。

 

「お兄ちゃん?」

 

暗い夜道に聞き慣れた少女の声が俺の耳に届いた。

 

「礼奈?」

 

暗闇の中で聞こえた妹の名前を口にする。

声をしたほうへ目を凝らすと徐々に礼奈がこちらへと向かってくるのが見えた。

 

「お兄ちゃん!部屋にいないと思ったらこんなところにいた!」

 

俺の目の前までやってきた礼奈は少し息を乱しながら不満そうに頬を膨らませる。

 

「ああ、もしかして部屋を出ていく時に起こしちゃったか?」

 

礼奈がここにやってきた理由を察した俺は礼奈に申し訳ない気持ちを抱く。

こんな遅い時間に俺が1人で出ていったら気にもなるだろう。

 

「ううん。さっきたまたま起きたから、お兄ちゃんと一緒に寝ようとお兄ちゃんの布団の中に潜り込んだの。そしたらお兄ちゃんがいないからびっくりしちゃった!こんな時間に何をやってるのかな?かな?」

 

「うん、俺も同じ質問をお前にしたい。何をやっているのかな?」

 

なに当たり前のように俺の布団に潜り込もうとしているんだこいつは。

家ならともかく、みんながいる時にそういうことするんじゃねぇよ!

 

「えへへ!」

 

「こいつ、笑って誤魔化しやがった。まぁいいや、それで俺がここにいる理由だが、単純に眠れないから散歩してたんだよ。その原因は沙都子たちによる制裁だが」

 

「あはは!それはお兄ちゃんの自業自得かな、かな!」

 

「俺は何も言ってなかったんだけどなー」

 

俺の言葉を聞いて笑う礼奈の頭を撫でる。

うん、やっぱり礼奈は変態だが俺の可愛い妹だ。

詩音たちから制裁を受けた後だと余計そう思うわ。

 

「さてと、じゃあ礼奈に見つかったことだし帰るか」

 

良いタイミングなので家に帰るように提案する。

もう時間も遅いし、そろそろ寝ないと朝起きれなくなる。

 

「あ・・・・お兄ちゃん」

 

俺が来た道を引き返そうとすると、礼奈に手を掴まれて歩みを止められる。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

夜道が怖いのかと礼奈の表情を伺うが、その顔は恐怖や不安でなく、何か思い詰めたような複雑な表情をしていた。

 

「ごめんなさい・・・・実は今日の夜にお兄ちゃんと梨花ちゃんが悟史君達にお話してた時、礼奈たちも聞いちゃってたんだ」

 

「っ!?」

 

礼奈の話を聞いて顔を歪めてしまう。

礼奈たちってことは魅音も詩音も聞いてたのか。

魅音はともかく礼奈と詩音には聞かせたくはなかった。

これは悟史達のプライベートの話になる、友達に家族の暗い部分なんて知られたくないだろう。

事情を知っている俺や魅音はともかく、礼奈たちには悟史たちの事情を知らずに変わらず2人に接してほしかった。

 

「・・・・ごめんなさい」

 

目元に涙を溜めながら頭を下げる礼奈に何も言えなくなる。

はぁっとため息をついて再び礼奈の頭を撫でる。

 

「俺はよく礼奈に内緒話を聞かれるなぁ。礼奈は俺の話を聞いてどう思った?」

 

苦笑いと共に礼奈に質問をする。

この際だ、礼奈の意見も聞いてしまおう。

 

「・・・・私は悟史君達には家族と一緒に暮らしてほしいと思った。私が同じ立場だったらきっと寂しくて耐えられないだろうから」

 

でもっと礼奈は一旦言葉を切った後に再び口を開く。

 

「同じように話を聞いてたみぃちゃんはこのまま公由さんのところにいるべきだって言ってたの。それが一番2人にとって幸せだからって」

 

「・・・・そうか、魅音はそう言ってたか」

 

魅音らしい冷静な考えだと思う。

いつもは頼りになるその考えも、今は憂鬱とした気持ちにしかならない。

 

「・・・・お兄ちゃんはどう思ってるのかな?かな?」

 

不安そうな表情で問いかけてくる礼奈に俺も自分の考えてを口にする。

 

「俺は礼奈と同じ考えだ。悟史たちには家族と仲良く暮らしてほしい」

 

「ほんと!?「でも」」

 

自分と同じ考えだと答えた俺に嬉しそうな表情をする礼奈。

しかしその喜びの声に被せるように言葉を続ける。

 

「正直それは難しい。それにこの考えも俺の身勝手な願いで2人には余計なお世話でしかないのかもしれない」

 

「あ・・・・」

 

目を伏せながら答える俺を見て表情を曇らせる礼奈。

 

「少なくとも沙都子にとっては間違いなく余計なお世話だろうな。あいつは母親はともかく父親のことは本気で嫌っていると思う」

 

再婚で現れた見知らぬ男がいきなり父と名乗りだすのだ。

沙都子くらいの年の子が簡単に受け入れられるわけがない。

子供で人見知りする子は心が開くまでどうしても時間がかかる。

沙都子はそれが特に顕著だ。

 

「悟史はどう思っているのか俺にはまだ判断が出来ない。ただ、沙都子がいる以上、あいつが本音を言ってくれるのは難しいかもな」

 

今日の会話で悟史は沙都子の意見に従うと言った。

自分の意見を言わず、沙都子の意見を尊重したのだ。

兄として妹の気持ちを何より優先する、それが悟史という人間だ。

 

「・・・・本当に妹思いなやつだよ」

 

尊敬と憂鬱な気持ちが混じってため息として漏れる。

 

「・・・・悟史君が沙都子ちゃんのお兄ちゃんをしてる内は悟史君は本当の気持ちを教えてくれないってことなのかな?かな?」

 

「まぁ、そうだな。可愛い妹の願いは叶えてやりたいもんだよ、兄としてはな」

 

毎回沙都子のわがままを聞いている悟史を俺は尊敬している。

俺なら途中でめんどくさくなって反抗してる。

でも今回はそれのせいで難航している。

悟史の本音を聞き出さないことには俺が2人のために本当にするべきことを決まられないのだから。

 

「・・・・わかったよ!悟史君には私から聞いてみる!」

 

「え?礼奈が悟史にか?」

 

思ってもみない提案を礼奈からされて間抜けな声が口から洩れる。

俺としては礼奈と詩音にはこのことを知らなかったことにしてほしいと考えていたのだが。

悟史達も事情を知らないと思っている礼奈たちの存在は気を遣わずに済む貴重な存在なはずだ。

 

「お願いお兄ちゃん!私も2人の助けになりたいの!!」

 

「・・・・」

 

必死に頭を下げる礼奈を見て考える。

礼奈は勘が鋭くて、よく核心をつく言葉を言う。

俺が話しても悟史が本音を話してくれるのかわからないし、礼奈ならもしかしたら悟史が本音を出すキッカケの言葉を見つけられるかもしれない。

 

「わかった!じゃあ悟史の本音を聞き出すのは礼奈に任せる。あいつが何を思っているのか。わかったら教えてくれ」

 

「うん任せて!それでね、お兄ちゃんには沙都子ちゃんのことをお願いしたいかな!かな!」

 

「は?沙都子をか?」

 

悟史の件を笑顔で引き受けた礼奈は続いて沙都子のことを俺に任せると口にする。

沙都子のことってあいつはあいつで悟史と同じくらい厄介だぞ。

 

「沙都子ちゃんが家族のことをあまり好きじゃないのはわかってるよ。でも、それは両親のことをよく知らないからなんじゃないのかな」

 

礼奈はお母さんとお父さんのことをよく知ってるよっと笑顔で答える。

お母さんは朝が弱くて早朝は元気がないってこと。

お父さんは可愛い服が好きで礼奈たちの服をいっぱい作ってくれること。

お母さんもお父さんも甘いものが好き。逆に2人とも辛いのは苦手。

母は犬が好きで父は幽霊が怖い。

 

そして

 

「お母さんもお父さんも、礼奈たちのことが大好きだってことを礼奈は知ってるんだよ!だから礼奈も2人のことが大好きなの!!」

 

本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべる礼奈。

その顔を見れば、きっと誰もが礼奈が両親のことを大好きだと伝わるだろう。

 

「なんていうか、さすがだな。俺なんかより礼奈が沙都子に言ったほうが伝わるんじゃないか?」

 

先ほどの話を聞けば、沙都子も家族に対しての考えが変わるのでは思った。

沙都子と同じように母に思うところがある俺でさえ感じるものがあったのだから。

 

「ううん、礼奈だと沙都子ちゃんの心に響かない思う。きっとこれはお兄ちゃんしか出来ないと思う」

 

礼奈は俺の言葉に首を振って応える。

 

「・・・・なんで俺なんだ?言っちゃなんだが俺は沙都子にあまり好かれていないと思うんだが」

 

我ながら沙都子に対する扱いは適当である。

そのせいで毎回沙都子に噛みつかれてるし。

なんなら今日頭を思いっきり踏まれたし。

嫌われているとは思っていないが、友好度で言えば礼奈たちのほうがずっと上だろう。

 

「あはは!そんなことないよ、むしろ沙都子ちゃんが一番心を許してるのはお兄ちゃんだよ!」

 

「はぁ?俺?いやいや梨花ちゃんの間違いだろう」

 

確かに沙都子の交友関係で一番付き合いが長いのは俺だろう。

しかし、一番沙都子と仲の良いと言ったら梨花ちゃんだと俺は思う。

 

「もちろん梨花ちゃんと沙都子ちゃんはとっても仲良しだよ。でも見てて思うの、沙都子ちゃんが一番気を許してるのはお兄ちゃんだって。だってお兄ちゃんとおしゃべりする時の沙都子ちゃんは、とっても楽しそうに笑ってるんだから」

 

笑顔で確信するかのようにそう告げる礼奈。

人一倍観察眼が優れている礼奈が俺が適任だと言っている。

 

「・・・・わかった!沙都子のことは俺に任せろ!」

 

礼奈からの言葉を聞いた俺は、沙都子のことを引き受けることを決める。

俺なら沙都子の気持ちを変えられるなんてことは自信はない。

でも、礼奈が俺ならできると信じてくれたんだ。だったら俺がそれを信じないでどうする!

 

「大丈夫!お兄ちゃんならきっと出来るよ!」

 

「ああ!竜宮家の兄妹の力をあの引っ込み思案な兄とわがままな妹に見せつけてやろう!!」

 

「うん!!」

 

礼奈と手を重ねるように空中でハイタッチをしながら声を張り上げる。

静かな夜道に俺と礼奈の手が重なる音が響く。

 

「じゃあそろそろ家に戻って寝よう。いい加減寝ないと明日に響く」

 

「そうだね!あ、一緒に寝てもいいよねお兄ちゃん!」

 

「ダメだ。朝起きたらみんなにからかわれるだろう」

 

「礼奈は気にしないよ?」

 

「俺が気にするんだよ!」

 

礼奈と会話を続けながら公由さんの家へと戻る。

不思議とこの先のことへの不安を今は感じることはなく、なんとかなるという気持ちが湧いてきていた。

礼奈たちと力を合わせれば悟史達をこの重すぎる家族の問題から助けることが出来るように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、苦しいですわぁ・・・・」

 

「うぅ、苦しい・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

 

寝室に戻ると、そこには魅音に強引に抱き着かれて寝苦しそうにしている沙都子と同じく魅音の足に顔を蹴られて苦しんでいる悟史の姿があった。

 

「・・・・まずは魅音から2人を助けないとな」

 

「そうだね・・・・」

 

先ほど必ず助けると決意した2人を、俺たちはなんとも言えない表情で助けることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足として本編とIFでは主人公の家族構成や過去がまったく違っているのでご了承ください。
本編では主人公の過去や家族等には触れていかないつもりです。


本編とIFは、似ているけど別の世界の話と思ってくれたらと思います。

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