レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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話し合い4

未だかつてないほどの張り詰めた空気が部屋を満たしていた。

 

「・・・・」

 

魅音の横に座りながら辺りを見回す。

今回集まった村の重鎮達のほとんどが険しい表情を浮かべている。

隣に座っている魅音もいつも会議の時は無表情を保っているが今回ばかりは若干崩れて眉間に皺を寄せている。

唯一の例外は梨花ちゃんのお父さんと公由さんくらいだろう。

彼だけは困ったような表情だが、隣に座る梨花ちゃんのお母さんに睨まれて表情を固くさせている。

そのさらに横では梨花ちゃんが今回来ている2人の姿を値踏みするかのように眺めていた。

そして公由さんは何も言わずに2人を見つめている。

自分は一切手助けをしないと姿勢で示しているように思えた。

 

「「「「・・・・」」」」

 

部屋の中の全ての視線がここにやってきた4人へと向かう。

明らかに敵意が含まれている視線を受け、今回親族会議にやってきていた悟史と沙都子、そしてその両親である2人は何も言えずに冷や汗を流している。

 

 

あの日、俺達はすぐに悟史達の両親の元へ行き、悟史が2人へ本当の気持ちを伝えた。

悟史の話を聞いて悩まし気な表情を浮かべていた母親だったが、意外なことに父親のほうは悟史の願いであるこの村に残って家族で一緒に暮らすことにすぐに賛同してくれた。

その夫によって説得される形で母親も折れ、雛見沢で一緒に暮らす道を選んでくれた。

 

だが、その道を選んだということは雛見沢の全ての住民と仲直りしていかなければならないということで、それを考えて絶望的な表情を浮かべる両親だったが、2人を救ったのはなんと公由さんだった。

 

自分が園崎家や他の者に連絡して話の場を用意すると言ってたのだ。

あくまで悟史達のためだと釘を刺しながら告げる公由さんに、悟史が必死にお礼を言っていたのが印象に残っている。

 

 

こうして公由さんの呼びかけのもと、すぐに親族会議が行わることになり今に至るのだが。

 

これはさすがに空気重すぎだろ。

 

全員が今にも殺しを行いかねないほど悟史達の両親を睨んでるし、園崎家に至ってはお魎さんの周りだけプレッシャーで空間が歪んでいるのでは錯覚してしまうほどだ。

これらすべてを受けている彼らはたまったものではないだろう。

さすがに今回謝りに来たこということもあって公由さんと激しく口論していた時のようにはいかず、悟史の両親は緊張した表情で固まってしまっている。

 

「・・・・用件は村長から聞いてるよ。だが、あえてあんた達の口から聞こうじゃないか。今日は私達のところへ何をしにきたんだい?」

 

張り詰めた空気の中、茜さんが静かに問いかける。

茜さんの言葉を聞いて悟史達の父が汗を流しながらも茜さんから目を逸らすことなく見つめて口を開く。

 

「今までのことを、私達がダム建設時に皆さんに行った数々の無礼を謝罪しに参りました」

 

そう言って両親が頭を下げようとした時、今まで我慢していた村の重鎮たちが一斉に口を開いた。

 

「どの口が言うか!!」

「今まで散々わしらの邪魔をしてきたのに虫が良いにも程があるわい!」

「さっさとこの村から出ていけ!」

「二度とこの村に来るな!」

「この裏切り者どもが!」

 

示し合わせたかのように次々と暴言を口にし続ける。

悟史達の両親は数々の暴言を頭を下げたまま無言で受け止め続ける。

悟史は村からの言葉を受けて辛そうに目を伏せ、沙都子は目に涙を溜めて悟史の服を掴みながら震えていた。

 

それを見て、いつまでも言い続ける暴言をいい加減黙らせようと口を開きかけた時。

 

「静粛に」

 

冷たい声が多くの暴言が飛び交う中で響く。

決して大きな声ではないというのにその声が全員の耳に届いた。

魅音たちの母である茜さんの言葉によって全員が一斉に口を閉ざす。

 

「ガキの喧嘩じゃないんだ、いちいち騒ぐんじゃないよ」

 

茜さんの冷たい視線が先ほどまで騒いでいた人達へと向けられる。

その視線を浴びた人たちは怯えるように顔を俯かせる。

 

「北条家のお二人さん」

 

周囲が静まったのを確認した茜さんが2人へとゆっくりと視線を向けて問いかける。

 

「・・・・はい」

 

「私らが一番問題視してるのはなんだと思う?」

 

「・・・・私達が園崎家に暴言を口にしたこと」

 

茜さんの問いかけに悟史の父が重たくなった口を開けて答える。

それを聞いた茜さんはゆっくり頷く。

 

「そう、いわゆる面子ってやつさ。うちらの世界じゃあそれが何よりも大切だ、相手になめられたらそこでしまいさね」

 

茜さんは答え合わせをするように両親に向かって口を開く。

 

「そしてあんたらはあの日、ダム反対運動をする私達へ罵詈雑言を吐き捨てた。わかるかい?あんたらはあの日、私らの面子に泥を塗ったのさ」

 

そして解を言い終えると、一気に目が細めて相手を刺し殺すかのような鋭い口調を両親へとぶつける。

 

「・・・・」

 

さらに冷たくなった茜さんの雰囲気に悟史達の両親だけでなく他の村の大人達まで震え上がる。

大人たちまで震え上がらせる茜さんの雰囲気に悟史達は大人達よりもさらに顔を青くさせている。

 

「さっきも言ったけどガキの喧嘩じゃないんだ。悪いことをしたから謝って、はい仲直りなんて出来るとは思ってないだろうね」

 

言葉に冷たさをのせたまま茜さんが再び問いかける。

 

「・・・・はい、私達は村を売り、そして園崎家に罵詈雑言を口にしました。簡単に許されないことをしたと理解しています」

 

周りが震える中、悟史達の父が茜さんの言葉に対して返答する。

恐怖を押さえつけ、真っすぐ茜さんを見つめながら。

 

「言うじゃないか。だったら一番手っ取り早い仲直りの仕方を教えてやるよ」

 

そう言って茜さんは懐から何かを取り出して悟史達の両親の前へと放り投げる。

茜さんの投げた物は畳の上を転がっていき、悟史達の父の前で綺麗に静止した。

 

「・・・・っ!!?」

 

床に転がった物に視線を向けた全員が息を飲む。

 

床には()()()()()が転がっていた。

 

「今ここで()()()()()()()()()()()。2人とも指一本ずつだ。それで今までのことへのケジメにしてやるよ」

 

床に転がった短刀を見つめながら茜さんが冷たくそう口にする。

それを聞いた2人はびくりと身体を大きく震わせる。

大粒のような汗を顔に浮かべながら短刀を見つめ続ける2人。

その短刀は丁寧に研磨されているのか、部屋の明かりが反射して刀身から光沢が放たれている。

それを見て、触って確かめなくても指なんて簡単に切り落としてしまう切れ味があるだろうということが容易に想像できた。

 

「なっ!?」

 

ケジメをつけると言ってもいくらなんでもやりすぎだろ!

やめさせるために茜さんに向かって口を開こうとした時

 

()()()()()()

 

身体に伝わった命令に発しようとした言葉が止まる。

耳にそう届いたわけでないはずなのに身体がそう言われたと理解した。

 

強烈な悪寒を感じた箇所で視線を向ければ園崎家当主であるお魎さんがこちらを無言で見ていた。

語らずとも伝えられたお魎さんからの言葉に何も言えなくなる。

 

周りを見てみれば村の住民たちが自分が受けるわけではないのに顔を青くさせて身体を震わせてるのが見える。

そして茜さんから指を切り落とせと言われた2人は短刀を見つめながら身体を震わせて動けずにいた。

 

「どうしたんだい、私らに許してもらいたいんだろう?だったら指の一本や二本黙って差し出しな」

 

短刀を見つめたまま動かない2人を冷めた目で見ながら茜さんが口を開く。

茜さんの冷めた目を見ればこれが冗談ではなく本気で言っていることを理解させられる。

この場にいる園崎家以外のものが場の雰囲気に呑まれて身体を震わせている。

悟史達の父は震える手を短刀へと伸ばし、ゆっくりと掴む。

 

「・・・・わかりました。それで今までのことを許してもらえるなら、しかし、やるのは俺だけでお願いします。俺が彼女の分の指も切り落とします」

 

「っ!!あなた・・・・」

 

自分の分まですると言ったのを聞いて顔を歪ませる悟史達の母。

彼女の口は何かを言おうと形を変えるが、声になることはなかった。

涙を流しながら短刀を掴む夫を見て涙を流す。

その様子から自分もと言おうとしたが恐怖で言えなかったのだと察した。

 

「・・・・いいだろう、女にやらせるのはさすがに酷だからね。あんたから代わりに指を二本もらうことでケジメにしてやるよ」

 

その様子を見た茜さんが父からの提案を認める。

茜さんから認められた悟史達の父は短く礼を言いながら刀身を自身の指へとゆっくりと向けていく。

 

「・・・・っ!」

 

悟史達の父は自身の恐怖を押し殺すかのように息を止めながら指へと短刀を導いていく。

 

「・・・・はぁっ!はぁっ!はぁっ!!」

 

刀身が指に近づくにつれ、荒い息を吐き、大量の汗を流れ始めるのが見えた。

それでもゆっくりと止めることなく刀身を進めていく。

 

「・・・・くっ」

 

悟史達の父は刀身が指に触れる寸前まで来たところで小さく声を漏らして動きが止め、そのまま頭を俯かせる。

 

「・・・・どうしたんだい?」

 

動きを止めた悟史達の父を見つめながら冷静に問いかける茜さん。

その目は出来ないことを確信していたかのように冷たい色が宿っている。

 

「・・・・っ」

 

茜さんの言葉に顔を歪めながら腕を動かそうしているが、自身の意志に反して身体が動かないようだった。

当然だ、一般人が自らの意志で自分の指を切り落とすなんて狂ったことを出来るわけない。

 

「・・・・所詮裏切り者のあんたの覚悟なんてそんなもんさね」

 

「っ!!!う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

冷静に、そして冷たく吐き捨てられたその言葉を聞いて悟史達の父が叫びながら刀身を高く振り上げる。

 

「っ!?ま、待ってください!!」

 

顔を歪ませ恐怖を誤魔化しながら刀身を指へ振り下ろそうとする父を見て、悟史が我慢の限界を超えてたのか慌てて口を開く。

 

「罰が必要だと言うのなら僕も一緒に受けます!なのでどうか、どうか指を切り落とすのはやめてください!お願いします!お願いします!!」

 

悟史は両親よりも前に出て茜さんに土下座しながら頼み込む。

 

「悟史君!?」

「悟史!!」

 

自分達のために土下座して頼み込む悟史を見て、やめさせようと両親が慌てて駆け寄る。

しかし悟史は両親が身体を掴んで必死に土下座をやめさせようとするが、それでも土下座の姿勢を保ったま再度口を開いた。

 

「今回両親が謝ることになった理由は全て僕のわがままなんです!僕がここで、雛見沢でもう一度家族で暮らしたいと願ったから、父と母は僕の願いを叶えるために、みなさんに許してもらおうとここにやってきたんです!!だから、罰を受けるなら僕も一緒にお願いします!そしてどうか、僕達をもう一度村の一員として認めてください!!」

 

悟史が涙を流しながら発した言葉が部屋に響く。

悟史の言葉を聞いた村の人達が気まずそうに、そして同情したような表情で悟史を見つめる。

悟史の様子を見た公由さんは辛そうに表情を歪めていた。

 

「・・・・悟史君」

 

悟史が両親のために土下座をする姿を見て今まで黙っていた魅音から小さく声が漏れる。

梨花ちゃんも同じように辛そうに顔を歪めながら悟史の姿を見つめていた。

 

「悟史君、気持ちは嬉しいが危ない真似はしないでくれ」

 

「でもっ僕のわがままのせいで指を切り落とすなんて、そんなこと・・・・」

 

「わがままなもんか!ずっと悟史君達はもう俺達と暮らしたくないのかもしれないと思っていたんだ。なのにもう一度一緒になりたいと言ってくれた。君達からしたらよそ者でしかない俺と一緒に暮らしたいと言ってくれた。それで俺がどれだけ救われたことかっ!」

 

土下座して願い続ける悟史を起き上がらせながら父は自身の思いを語る。

 

「悟史君は何一つ悪くない。悪いのは愚かな選択をしてしまった俺達だ。ダム建設の話を聞いた時に俺達には一から家族としての関係を築いていくために新しい場所が必要だと思ったんだ。でも、その時点で俺達は考えを間違えてしまっていた」

 

悟史達の父は過去を悔やむように項垂れながら言葉を続ける。

悟史はそんな父の言葉を黙ったまま聞いていた。

 

「悟史君達が雛見沢のことを、そして友達のことをどれほど大切に思っていたかを考えもしなかった。なのに俺達が良かれと思ってした行動が2人からそれらを引き離そうとしてしまった。俺達は村のみんなと共に戦うべきだったんだ、自分達の村を、悟史達が大好きな雛見沢を守るために戦うべきだったんだ。それなのに逆に邪魔をして・・・・本当にすまない!!」

 

「・・・・お父さん」

 

父の後悔を聞いて何を言えばいいかわからないのか、悟史は言うべき言葉をさまよわせる。

 

「悟史君危ないから離れていてくれ」

 

何も言えずにいる悟史を母へと押し付けてから立ち上がり、再び短刀を握り締め始める。

その顔には今までとは明らかに違う覚悟が浮かんでいた。

 

「俺は!!家族の幸せのためならどんなことだってやる!村全員を敵に回すし園崎家にだって喧嘩を売る!!それは全部間違っていたが、これでまた一緒に暮らせるのなら!俺は!!!」

 

宣言するかのような力強い言葉が耳に届く。

そして短刀を掴んだ手がもう片方への指へ今度こそ振り下ろされそうになった時。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

今までずっと黙っていた沙都子が母と悟史を横切って短刀を振り下ろそうとする父へと飛び込んだ。

 

「っ!!?」

 

沙都子に気付いて慌てて振り下ろそうとした腕を止めていたが、その直後に体当たりするかのように飛び込んできた沙都子にぶつかって床へと倒れこむ2人。

 

「っ!?どうしていきなり飛び込んできたんだ!刀身が当たったら痛いではすまないんだぞ!!」

 

短刀を振り下ろそうとした時に飛び込んできたことを叱りつけられる沙都子。

それに沙都子は嗚咽を漏らすだけで返事はしない。

少しの間、嗚咽だけを発していた沙都子だったが、やがて途切れ途切れに言葉を言い始める。

 

「やめ、て、やめて、良い子になるからもうやめて。お父さんのこともう嫌いなんかじゃないから、もう私が2人に必要ないなんて思わないから、もうやめてよぉ・・・・」

 

嗚咽と共に涙声で言葉を口にする沙都子にこの場にいる全員が黙り込む。

静まり返った室内に沙都子の嗚咽だけが響く。

 

「・・・・」

 

それを見た村の人達は辛そうに顔を歪める。

魅音や梨花ちゃんも例外でなく倒れる2人の姿を辛そうに見つめていた。

 

もはや誰も2人を糾弾しようなんて考えてはしていないと思えた。

しかし、お魎と茜さんだけが未だ厳しい表情で倒れる2人を見つめていた。

 

嘘だろ、この人達はこれを見てもまだ許すつもりがないのか。

2人の様子に気付いて内心で愕然とする。

 

もういいだろ、もう充分2人は誠意を見せただろ。

 

これ以上やるっていうのなら、俺は村中を敵に回してでも北条家の味方に回るぞ。

俺の視線に気づいた2人がこちらへと視線を向けてくる。

先ほどと同じように鋭い視線で無言のまま余計なことをするなと警告してくるが、今回は絶対に譲るつもりはない。

そのまま2人と視線を逸らすことなく睨み合いを続けていると

 

「・・・・提案があるんじゃが」

 

今までずっと沈黙を守っていた公由さんが口を開く。

今まで話していなかった公由さんが話し始めたことで一気に注目が集まる。

公由さんは全員の視線が集まったことを確認すると続きを話始める。

 

「半年間彼らに雛見沢のために無償で働かせるというのはどうだろうか。雛見沢の邪魔をしたのなら雛見沢のために働く、そして半年間彼らが雛見沢に尽くしているかを監視し、十分だと判断したのならそれをケジメとするっというのは」

 

「「「・・・・」」」

 

公由さんの言葉を聞いて村の住民が話し始める。

そして公由さんの話に最初に賛同したのは梨花ちゃんのお父さんだった。

 

「私は公由さんの意見に賛成です。彼らの誠意は先ほど充分見れましたし、半年間雛見沢のために働いてくださるのならそれで充分です」

 

ねぇっと同意を求めるかのように妻へと視線を送る梨花ちゃんのお父さん。

 

「・・・・まぁ神社の掃除も雛見沢のために働くに含まれるのなら、私としては文句ありません」

 

同意を求められた梨花ちゃんのお母さんも小言を言いながらも公由さんの意見に賛同する。

 

「・・・・僕も公由の意見に賛成なのですよ!!にぱーーー☆」

 

そして最後に梨花ちゃんが元気いっぱいに賛同を口にする。

梨花ちゃんは賛同を口にした後に沙都子とお父さんの姿を申し訳なそうな顔で見つめていた。

梨花ちゃんの言葉を皮切りにはっきりとは言わないが賛同寄りの声が次々を現れる。

 

「俺ももちろん公由さんの意見に賛成!!」

 

俺も便乗するようにお魎と茜さんを横目に発言する。

それを見た茜さんがため息を吐きながらお魎へ視線を送る。

茜さんからの視線を受けたお魎さんは何も言わずにゆっくりと目を閉じた。

それを見た茜さんは再び小さくため息を吐いて口を開く。

 

「・・・・一年だ」

 

茜さんが全員の言葉を聞き終えた後に静かに言葉を発する。

 

「半年ではなく一年、村のために働きな。一年働いて私らが満足できる結果を出したのなら、あんたらをもう一度村の一員として認めてやるよ」

 

「「っ!?」」

 

茜さんの言葉に驚いた表情を浮かべる悟史達の両親。

それは2人だけでなく、部屋にいる全員が驚いていた。

なぜならこれは、あの園崎家が北条家を許すと口にしたようなものなのだから。

 

「勘違いしないように言うが、この一年間は私達はあんたら仲間とは認めない。子供二人は変わらず公由家で預からせるし、私たちもあんたらの監視を続ける。ああ、もし嫌になったらいつでも出ていきな。ただしその時は子供達は絶対に渡さないし、この村にも二度と立ち寄らせない」

 

茜さんが脅すように口にした言葉に2人は黙って頷く。

 

「灯火、あんたもその間は余計なことをするんじゃないよ。黙って2人を見守りな。今回の件、あんたが裏でこそこそ動いてたことはわかってんだからね」

 

「・・・・わかりました」

 

2人が頷くのを確認した茜さんがついでとばかりに俺へと釘を刺してくる。

・・・・やっぱりバレてたのか。

 

「・・・・これで今回の話は終了だね。北条のお二人さん、これからのあんたらの働きをしっかり見とくからね」

 

茜さんは自身の言葉に2人が頷くのを見届けると、終了の合図の鐘を鳴らしてお魎と魅音と共に退出する。

2人が退席した後は他の住民達も悟史達を気まずそうに見た後に次々と退席していく。

公由さんも何も言わずに退席をしようとしたところ、悟史達の両親から必死に頭を下げながらお礼を口にされていた。

 

「・・・・あくまで悟史君と沙都子ちゃんのためじゃ。勘違いするなよ」

 

っと2人に言いながら退席をしていく。

そして去り際に悟史達に後からゆっくり家に帰ってきなさいっと言っていた。

 

これから一年間は両親は悟史達と一緒に過ごすことは出来ない。

だからきっと気を利かせて四人で話をさせてあげようと考えたのだろう。

それに気付いた両親は黙って公由さんに頭を下げていた。

 

俺も四人の邪魔をしないためにバレないようにこっそりと部屋を後にする。

 

退出する寸前に四人の姿を確認する。

 

涙で目を赤くしながらも嬉しそうに笑う悟史。

夫の心配して泣きながら怒鳴っている母。

それを受けて困ったように固まる父。

頬を染めながら照れ臭そうに両親に近寄る沙都子。

 

どこにでもありふれた仲の良い家族の光景が広がっていた。

 

その光景が自分には眩しく、すぐに目を逸らして部屋を退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日から随分と時が経った。

悟史達の両親はあの日に言われた通り村のために精一杯貢献している。

公共設備の掃除に修理、村の住民の手伝いなどを暇があれば行い続けていた。

彼らにも仕事があるというに村のために尽くしている。

 

前に梨花ちゃんのお母さんが神社の掃除を手伝ってくれる2人と楽しそうに話しているのを見かけた。

村の住民達も最初は邪険にしていたが、時が経つにつれ少しずつ態度が軟化していくのがわかった。

 

悟史達は両親を心配そうに見守り続けている。

 

俺も茜さんに忠告された通り、あれ以来2人には接触していない。

 

しかし、あることを懸念してこっそりと2人の監視は行っている。

 

俺の懸念、それはもちろん2人が雛見沢症候群を発症しているかもしれないということだ。

一年間という長期にわたる雛見沢への無償の奉仕。

そして軟化してきたとはいえ、村の住民の態度は未だ友好的とは言えない。

ストレスは必ず蓄積しているはずなんだ。

 

だから2人に雛見沢症候群の症状が出ていないかを注意深く観察を続けた。

事情を知っている入江さんにも2人のことを説明して気にかけてくれるようにお願いした。

 

そして今まで観察を続けているが、2人から雛見沢症候群らしき症状は確認出来ていない。

 

 

このまま、このまま何事もなく終わってくれ。

このまま一年を終えて悟史達と幸せに暮らしてくれ。

 

そう願いながら日々が過ぎ去っていく。

 

 

 

 

 

 

そして、今年の綿流しの日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回灯火、何もしてない!
さて描写はしてないのですが、補足でここに記載します。
園崎家ですが、本当は北条家にケジメとして指を切らせようとしてませんでした。
渡された短刀は刃引き?っていうのですかね、切れないように細工してましたし、本当にやりそうな時は止めるために葛西が背後でスタンバイしてました。

また実は事前に公由さんと今回の落としどころについて話し合っていました。
公由さんが提案して茜さんが承諾したのは打ち合わせ通りだったりします。

公由さんが会議の前に園崎家に説明して必死に許してもらえるように頼んでいました。そして彼らが自分達へ覚悟を見せるようなら許すことも考えるとなり、北条父は見事覚悟を見せたということになります。
村の人達を納得させるためにも過激なことは必要でしたし。

今回、公由さんが裏でめちゃくちゃ頑張っていた!というわけです。
ちなみに灯火がコソコソやっていたのがバレたのは会議前に公由さんが灯火のことを言ったからです。

そして次回は綿流し
あと二話くらいで北条家の話は終わるかなっと思います。

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