学生運動のシヴィルウォー ーハイスクールD×D外典 作:グレン×グレン
「・・・そういえば知らないのも無理はない。俺たち堕天使でもこの事実を知っているのは一部の上層部のみだからな。跡取りとはいえまだ小娘のグレモリーや、それこそ使いっ走りでしかない聖剣使いが知れるようなものではなかったか」
聖書にしるされし神の死。三大勢力最大の機密事項をもののついでとばかりに知らない者たちにばらしたコカビエルは、愉快なものを見たかのように嗤う。
自体はあまりにも混乱の場と化していた。
地獄の番犬ケルベロスに統合されたエクスカリバー使いフリード。この強敵を前にグレモリー眷属とエクスカリバー使いの共闘という普通では考えられない戦闘。
そこで目覚める聖魔剣と、突然姿を現したゼノヴィアの切り札デュランダル。
そしてその活躍によってフリードを切り伏せたかと思えば、何かに気づいたバルパーはコカビエルに殺された。
そして、圧倒的な敵を前に戦意を絶やさないイッセーたちをあざ笑うかのように伝えられる驚愕の事態。
この事態にあまり驚いていないのは、聖書の神の教えに対してなじみのないイッセーのみだった。
「え、え? いや、確かに神様死んでるのはびっくりだけど、魔王様だって先代は死んでるんだしあり得る話じゃないの?」
「八百万の神々だとかいう汎神論に染まっている貴様ではわからんだろう。この事実が公表されれば間違いなく世界は混乱に包まれるんだよ、小僧」
困惑するイッセーに対し、自らばらしたがゆえに平然としているコカビエルは丁寧にも説明する。
「宗教とはある意味で人生の根幹であり正義の根幹であり、人間どもがすがらずにはいられない中枢だ。そして聖書の神の死とはキリスト教だけではなく、イスラム教やユダヤ教にとっても信じるべき存在の死ということでもある」
古来より、宗教が原因で戦争が起きることなどいくつもあるし、現在でもイスラム過激派などでなじみはあるだろう。
それほどまでに世界にとって宗教とは大きな意味を持っている者なのだ。
「その三つの宗教の人数は世界人口の約半分。しかも先進国や原油産出国、金融機関の中枢であるユダヤ人の根幹だ。その大前提を覆されたらどうなると思う? 想像してみろ、お前の親が実はお前を心の底から憎悪していて、絶望させるための仕込みとして見せかけの愛情を注いでいたなどといわれたらどう思う?」
言われてイッセーは一瞬想像しかけたが、寒気しかしてこなかったので頭を振るって追い払う。
想像しかけただけでこれなのだ。実際にされたら正気を保てる自身が全くなかった。
「そういうことだ。まあ最近は日本の影響や科学の発展でかつてほど信仰心の強いものは多くないが、それでもどう少なく見積もっても億を超える人間が正気を失うだろう。その年の自殺者数は桁が二つは違うだろうな」
見れば、すでにイリナは顔を真っ青にして気絶している。
ゼノヴィアとアーシアも立っているのが不思議なぐらい動揺しており、敵対しているはずのリアスたちですら焦点が微妙にあっていなかった。
「やけを起こして犯罪に走るものも二桁は増えるだろうし、そうなれば政治中枢はマヒするだろう。そんなことが先進国と原油産出国の大半で起こってみろ、多くの資源を輸出に頼っている日本はもちろん、その影響を受けざるを得ない他宗教が中心の国家も大打撃を受けるだろうな」
その光景を想像して、イッセーは全身から嫌な汗が噴き出るのを自覚した。
石油がなくなれば今の人間社会は立ち行かない。日本にとってアメリカがとても影響するのもさすがにわかる。
その二つがなくなるだけで、自分たちの生活がどうなるかなんてもはや考えたくもなかった。
「加えて俺たち神々の世界でも、その機に乗じて信仰を広めて信仰を奪った三大勢力に報復をたくらむ連中は出てくるだろう。ああ、どんな形であれ世界は原形をとどめなくなるだろうし、死者の数が億を超えても何ら不思議ではない」
そこまで言われてイッセーはようやく事態が理解できた。
「マジかよ・・・っ。宗教ってそんなのに重いのか」
「そういうことだよ赤龍帝。だから、三大勢力の上層部はどいつもこいつも戦争に二の足を踏んでいる。アザゼルに至っては『二度目の戦争はない』などという始末だ」
そして、今まで愉快気だったコカビエルの表情は一気にいらだちに彩られる。
「ふざけるなよ! 振り上げたこぶしを下すことなく、示し合わせてなあなあの緊張状態などと!! 俺たち堕天使の最強を証明せずにそんな弱った状態で何をするというのだ!!」
心からの怒りを示しながら、コカビエルはその場にいない三大勢力の重鎮に届けといわんばかりに声をあげる。
「だったら俺一人でも戦争を、あの戦いの続きを起こしてやる!! いや、同じことを願っている者たちはいくらでもいるだろう。そいつらに代わって俺が口火を切ってやるのさ!!」
その顔は狂喜に彩られ、心からの歓喜を浮かべている。
彼にとってみれば彼らすべてを殺しつくして火ぶたを切るのは確実とみなしているのだろう。そしてそれをするだけの実力が確かにあった。
「・・・なるほど。確かにそれは非常事態だ」
そこに、静かな声が響く。
やけに通ったその声に振り返れば、そこには色黒の男が剣を片手にたたずんでいた。
「じょ、ジョージ・・・」
今にも倒れんとしていたゼノヴィアが弱弱しくその名を呼ぶ。
信仰のよりどころを失ったことで、彼女は達樹力すら失おうとしていた。
そして、そのショックはジョージも同じだろうと、そう思っていた。
「・・・それがどうした?」
平然と、至極当然とばかりに平然と言い切った。
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「なんだと?」
ゼノヴィアとコカビエルが、驚愕を通り越して疑念に染まりまくった声を出す。
ゼノヴィアは短い付き合いながらも彼の信仰心をよく知っているがゆえに。コカビエルも自殺行為といってもいい今回の戦闘に送り込まれて反旗を翻さないと判断されたことから相応の信仰心を持っていると判断していたがゆえに。間違いなく死んでもおかしくないほどのショックを受けていると踏んでいた。
だが、確かに動揺しているのかいくらか汗が流れていたものの、しかし彼はすでに冷静さを取り戻していた。
「主は確かになくなられたのだろう。だが主の教えは残っている。そして我々人間とは、主の教えを守って生きるべき存在。そこには何の問題もなければ間違いもない」
なくなった神を悼むかのように目を閉じながら、しかし確固たる決意と信念をにじませる声で、ジョージは告げる。
「むしろ主がいなくなったからこそ、その遺された奇跡を保護し奉るためにも教えを広めて邪教を抹消せねばならぬ。もちろん悪徳たる貴様たちを滅ぼすことも急務だろう」
炎を思わせる剣を突きつけ、鋭い視線がコカビエルを貫く。
「主の教えを忘れ欲望にまみれ、ましてやそれを悔やむことすらせん愚か者め。人間の力を教えてやる」
「言ってくれるな人間風情が。なら俺にその力とやらを見せてみろ!」
挑発に応えたコカビエルが、迎え撃つかのように翼を広げた瞬間。
「いやマジでやめて面倒だから」
腹からまがまがしい剣が突き出、鮮血がほとばしった。