家族を護る盾になるのは間違っているだろうか   作:ティエン

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9月病です。最近『絶対零度θノヴァティック』にハマってます。


盾が立つ場所

「ガネーシャのところは何処からこんなの捕まえてきたのよ…」

「新種、だよね…?」

 

蛇のようなモンスターを見ると、全身に怖気が走る。おそらくわたしの腹を貫いたのもあいつの仕業だろう。

黄緑色の細長い胴は気味が悪いほど滑らかで、生理的に嫌悪感を覚える。植物の種子に形状が似た頭部には、感覚器官と見られるものは無い。

 

「ティオナと私であいつを攻撃。レフィーヤはすぐに詠唱を始めて。あいつ、ヤバいわ」

「わかった」

「はいっ」

「あなたはここで大人しくしててね」

 

ティオネさんが二人に指示すると、ティオナさんはわたしを家屋の壁に寄り掛かるように座らせ、蛇もどきに目を向ける。

アマゾネス姉妹が蛇もどきに対峙すると、地面から突き出ているそいつの体が蠢く。すると、蛇もどきは自分の体を鞭のようにしならせ、体当たりをしてきた。

強引に振るわれたそれを二人が回避する。石畳は削れ、崩壊の音が大きく鳴る。周りの建物は無残にも体当たりの影響で飛び散る石塊によりボロボロになる。

ズズズッ、と寒気のする音を立てながら細長の胴体を動かす蛇もどきにティオネさんとティオナさんは挟撃を仕掛ける。しかし、

 

『――――!!』

「っ!?なにこれっ」

「かったぁー!?」

 

二人はそれぞれ蹴りと拳で蛇もどきに打撃を繰り出すが、皮膚組織はかなりの硬度があるらしい。彼女たちの攻撃に苦しむ様子の蛇もどきだが、あまり効いたように見えない。

第一級冒険者で、しかも素の戦闘能力が高い彼女たちの一撃でも、蛇もどきの体を少しへこませる程度だった。逆に、それ程硬い皮膚を殴り蹴った彼女たちにダメージが入っている。どうやら打撃では太刀打ちできないようだ。

 

彼女たちは、押し潰そうと体をくねらせたり蹴散らそうと蛇行する蛇もどきの攻撃を難なく躱しているが、決定打を与えることもできていない。

お互いにこれといってダメージを負わせることもなく、時間だけが過ぎる。

しかし、彼女たちにはもう一人、その時間を使って必殺の攻撃を練っている仲間がいる。

 

「【解き放つ一条の光、聖木(せいぼく)弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり】」

 

ウィリディスさんは片手を突出し、詠唱を進める。

流石【ロキ・ファミリア】の眷属というべきか。エルフである彼女は山吹色の魔法円(マジックサークル)を展開させて、魔法を紡ぐ。確か、それは発展アビリティの《魔導》を発現している証だ。

 

蛇もどきはティオナさんたちに首ったけなようで、ウィリディスさんには見向きもしていない。

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

最後の詠唱文を唱え終えたのか、彼女の魔力が収斂(しゅうれん)されたその時、突如として蛇もどきが彼女に振り向く。

 

「え?」

 

攻撃しているティオナさんたちに構わず、異常なまでの速度で反応した。おそらく、あの蛇もどきは、()()()()()()()、と私は直感した。思えば、先程あの場所で魔法を使ったのはわたしだけだった。

不気味な頭部がウィリディスさんの方に向けられている。嫌な予感がして、わたしは腹部の痛みも気にせずに彼女の元へ行こうとしたが、それより早く、腕の太さほどもある黄緑色の触手が彼女の腹を貫いた。

 

「…ぁ」

「ウィリディスさん!」

「「レフィーヤ!?」」

 

ウィリディスさんの唇から血が吐き出される。彼女はそのまま後方に倒れ込んだ。

わたしと魔法の発動を予見して退避していたティオナさんたちは叫ぶが、彼女が立ち上がる様子はない。見たところ、防具も着けていなかったので、直接致命傷に近い傷を受けただろう。

 

その間に、蛇もどきに変化が見えた。くねらせていた体を空に向かって立てると、趣旨のような頭部に、縦に亀裂のような線が走る。次の瞬間、蛇もどきの頭部が、花が咲くように割れた。

 

『オオオオオオオオオッ!!』

 

蛇もどき、いや、花のようなモンスターの咆哮が辺りに響く。頭部の花弁は極彩色に染まっていて、悍ましい雰囲気を放っている。花弁の中央の口には牙が生えており、気色悪く粘液が滑りついている。薄い紅色の口内からは魔石のような光が漏れている。

 

醜悪な人喰い花の周りからは触手が何本も地面から突き出た。それらはティオナさんたちに襲いかかり、彼女たちがウィリディスさんに近づくのを阻んでいる。

なんとかわたしはウィリディスさんに近づいて、彼女に呼びかける。

 

「ウィリディスさん!起きてください!」

 

しかし、彼女は倒れたまま動かない。死んではいないが、意識がはっきりしていないようだ。

ウィリディスさんと花もどきの距離を取らなければ危ないと判断し、ティオナさんたちの方に向かって走り出す。わたしが花もどきと触手に近づくと、それらはこちらに襲いかかってきた。

 

「っ…【アイギス】ッ」

 

触手と本体を盾で弾くが、衝撃で傷口から血が噴き出した。そんなことはお構いなしに次々と襲ってくる触手を盾で防ぎ続ける。

 

「くぅっ…」

 

流石に量が多くて厳しい。あらゆる方向からわたしを貫こうとする触手をシールドバッシュの要領でいなす。盾だけでは対処しきれず、ガントレットで受け流す。一瞬体が開く。そこを、隙を突くように、花もどき本体が突っ込んできた。盾で防御しようと構える。すると、新たに触手が地面から生えてきた。

 

「えっ!?」

 

腕に巻き付かれ、磔にされたように拘束されてしまう。

力を込めるが振りほどけない。手首を締め付けられ、盾を手放してしまう。

 

このままでは―――死ぬ。

 

食人花は眼前。わたしの耐久と《守護》ならギリギリいけるか、などと場違いにも淡い期待を浮かべた。

 

 

瞬間、風を纏う剣の姫が金光と銀閃と共に現れた。

 

「アイズ!」

 

ティオナさんが彼女の名を叫んだ。

食人花はわたしを食い破る直前で切断され、折れ曲がるように崩れ落ちた。

周囲の触手も萎れたように地面に落ち、わたしは解放された。

 

「ありがとうございます、アイズさん」

「うん…」

 

言いながら彼女はウィリディスさんの方を向いて、彼女に駆け寄ろうとする。

が、先程と同じ揺れが発生した。アイズさんが足を止める。

既にボロボロの石畳が膨らみ、破裂するように飛び散った。すると、アイズさんを囲むように三体の花もどきが付き出した。

 

頭部の蕾はすぐに花開き、彼女に向く。アイズさんが風を纏った剣を構えて一体に斬りかかろうとするとすると、突然に剣に亀裂が入り、破砕した。

 

「―――っ」

「え―――」

「なっ―――」

「ちょっ!?」

 

アイズさんだけでなくわたしもティオナさんたちも唖然としてしまった。砕け散った剣の破片は銀の光を放ちながら地面に散っていく。

 

『――――!!』

 

それを見たのか、食人花が三体一斉にアイズさんに襲いかかる。彼女は跳躍して回避した。刃を失った剣の柄頭で食人花を殴るも、やはりへこむだけでダメージはほぼない。

 

風は彼女の魔法なのだろう。アイズさんは攻撃を諦めたのか全身に風を纏い回避に徹している。

 

「こっち見向きもしないんだけど!」

「気を付けてください!そいつは魔力に反応するようです!」

「魔力に!?」

 

食人花がアイズさんしか狙っていないことで、アイツが魔力に敏感なのは確定だろう。アイズさんはウィリディスさんから食人花を遠ざけるように立ち回っている。無数の触手が彼女を襲うが、ティオナさんたちの連続攻撃もあり、(すんで)のところで躱す。

 

「アイズ、魔法解きなさい!追い掛け回される!」

「でも…」

「一人一体くらいだいじょーぶだって!」

 

集団戦闘の中、幾度となく彼女たちはすれ違い、その間にティオナさんたちはアイズさんに魔法を解除するように呼びかける。その末、彼女は魔法を解除した。

 

蛇のような胴体が立ち並ぶ屋台を破壊していく。

その時、わたしの目に、その反対側の屋台の影に座り込んでいる獣人の子どもが映った。小さな体は恐怖に震えている。

 

ボタボタと血を滴り落とす腹を押えて、わたしは走り出した。ズキズキと体が悲鳴を上げる。

獣人の子どもに、食人花の細長い胴が鞭のように迫る。

 

「届いてっ…【アイギス】ッ!」

 

あと数M(メドル)のところで魔力を全開にし、盾を出す。それはいつもとは違い、とても戦闘では使えないような長大な黒銀の盾だった。中央にロザリオを少し大きくしたような十字架がついていた。

 

しかし、それが功を奏した。走って前に倒れ込みながら、子どもと食人花の間にその歪な形の盾を剣のように振り下ろす。そうして、なんとか食人花を弾くことができた。

しかし、無理な角度で衝撃を受けた所為だろう。私の右腕はあらぬ方向に折れ曲がっていた。

 

「ううあっ…」

 

痛みを耐える。耐えなければ。

盾が消える。

 

「早く、逃げて…ね?」

 

子どもに震える声で伝える。私の言葉を聞いてくれたのか、はたまた恐怖で逃げ出したのかは分からないが、獣人の子どもは屋台の奥の小路に走って行った。

 

 

 

次の瞬間、食人花の大口がわたしに激突した。直前で体を転がしていたので、食われるのは避けたが、巨大な頭部に体を押し潰された。

 

「ああああああっ!?」

 

体から砕ける音が聞こえる。先程折れた腕はもう骨など通っていないかのように歪んでいる。肋骨が折れ、肺が圧迫されて口から血を吹き出す。

 

花弁に()ねられ、もう何度目か、地面を転がった。他の食人花とウィリディスさんの間の丁度半ば程で止まり、うつ伏せになった。

ティオナさんたちの叫び声が聞こえるような気がするが、音が遠くよく聞こえない。なんとか動く顔をウィリディスさんの方に向ければ、いつの間にかエイナさんが彼女の救護をしようとしていた。

ウィリディスさんは大丈夫そうだ。あとは武装した【ガネーシャ・ファミリア】の団員や高レベル冒険者の増援が来てくれれば。

 

 

 

そう思っていると、ウィリディスさんが揺らめくように立ち上がり、一歩、また一歩と踏み出して、ついには駆け出しこちらに近づいて来る。その顔は、決意に満ちていて、厳然とした面持ちだった。

 

彼女はわたしの元に辿り着き、盾になるようにわたしの前に立って詠唱を始めた。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う】!」

 

 

―――ふざけるな。

目尻に涙が溜まり、一筋流れる。

 

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来たれ】」

 

 

わたしはどうなっても構わない。いくら傷を背負おうが、何度も砕かれようが。

わたしは、わたしの在り方を決めたのだ。

 

 

「【繋ぐ絆、楽宴(らくえん)の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

 

 

立ち上がるために力を入れる。千切れるような音がする。気にしない。

 

 

「【至れ、妖精の輪】」

 

 

ウィリディスさんは歌い続ける。

 

―――早く、早く立ち上がれ。

 

幾度無様に倒れようが。

 

 

「【どうか――力を貸し与えてほしい】」

 

 

―――()()は、自分の立つ場所だろう?

 

 

「【エルフ・リング】」

「――――」

 

声もなく、立ち上がる。守る為に。

 

 

 

========

 

 

 

山吹色の魔法円(マジックサークル)が翡翠に変わる。レフィーヤは詠唱しながらも驚いていた。

彼女は、もう憧憬(アイズ)に守られるだけでは嫌なのだと、追い付き隣に立ちたいのだと、諦め悪く立ち上がった。自分を守ってくれた彼女たちを、脅威から守るのだと決めた。

その目の前に、自分と同じ傷を負いながら尚自分を守り、それ以上にボロボロになっても自分を守らんと立ち、鈍く輝く黒銀の盾を翳している亜麻色の髪の少女。

 

「レフィーヤ!?」

「あの子っ!?」

 

攻撃し続けていたティオナたちと風を纏い食人花の猛攻を躱し受けていたアイズは収束された二つの魔力に気が付く。その後、食人花のモンスターがより濃く魔力の気配がするレフィーヤとケイトに向く。

 

「【―――終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

レフィーヤは詠唱を紡ぐ。彼女が三つの魔法のスロットの中で最後に得た魔法、同胞(エルフ)の魔法に限り完璧に理解したものを、二つ分の詠唱と精神力(マインド)を消費して行使する反則技(レアマジック)――召喚魔法(サモン・バースト)

その魔法を会得した彼女の二つ名は、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

翡翠色の魔法円(マジックサークル)が光を放つ。

触手が襲ってくるが、レフィーヤは問題ないと感じていた。

 

「【アイギス】…」

 

なぜなら、目の前に(レフィーヤ)を守る(ケイト)がいるから。

 

「――――」

 

声も上げず、彼女は二人を貫かんとする触手を盾で防ぐ。その間隙に地面から突き出てきた触手は、()()()()()()()()()()()()()に阻まれる。

 

三体の食人花のモンスター本体が二人に迫ろうと体をくねらせ突出する。壊れた鐘を打ち鳴らすような()き声をあげ、高まり続ける魔力源を潰しにかかる。

 

「待てってのー!!」

「大人しく、してろっ!!」

「っ!」

『―――!?』

 

しかし、一瞬にしてティオナたちが食人花の前に立ち塞がり、その突撃を殴り蹴り弾く。

 

夥しい数の触手の連撃を一身で防ぐケイトの体から鮮血が噴出する。

そのワインレッドの眼は、不屈。

 

レフィーヤは紺碧の瞳を力強く見開き、一気に詠唱する。

 

「【吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!」

 

魔法円(マジックサークル)が拡がる。

そして、魔法が―――

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

―――紡がれた。

 

それは、時さえも凍てつかせるような極寒の三条の吹雪。処女雪のように純白の氷柱が食人花に直撃し、モンスターの何もかもが凍結する。三体の食人花は氷に覆われて、完全に停止した。

 

「レフィーヤッ、ナイス!」

「散々手を焼かせてくれたわね、この糞花っ!」

 

ティオナはレフィーヤを褒め称え、ティオネは凍りついた食人花に憤怒をぶつける。

彼女たちが三つの氷塊の内の二つの近くに着地する。

 

「死ねっっ!!」

「いっっくよおおおおぉーっ!!」

 

そして、その褐色の肢体から渾身の回し蹴りを炸裂させる。次の瞬間には食人花の氷のオブジェは、あっけなく氷片となった。

 

「アイズー」

「…ロキ?」

 

ティオナたちが食人花を粉砕した脇で、アイズは頭上から自分を呼ぶ主神の声を聞く。見上げると、壊れかけの屋台の上に先程ケイトが救った獣人の少女と、泣いている彼女を自分に抱き着かせているロキが立っていた。

彼女はアイズに一振りの剣を投げ渡す。

 

「これ…」

「そっからちょちょっと、な」

 

ロキは潰れた出店の一つを指差し言った。

 

「じゃ、任せたでー」

 

優しく笑いかけてくる主神に、アイズもまた小さく笑った。

 

「…」

 

彼女はゆっくり、粉々の石畳の上を歩む。氷像に近づき、抜剣。

瞬間、無数に銀閃が刻まれ、最後の一閃でそれは崩壊した。

 

細氷が輝いて舞う中、金色の瞳は、仲間(レフィーヤ)を守ってくれた傷だらけの少女を見ていた。

 




お目汚し失礼いたしました。

鳥肌が立つみたいなもんを書いてみたいですね。

ご自由にご感想またはご指摘をお寄せください。お待ちしております。
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