家族を護る盾になるのは間違っているだろうか   作:ティエン

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先週UAが先々週UAの2倍くらいになってて驚きました。


護るための盾

どこかの草原だろうか。一面の緑草に吹き抜ける風。目の前には一人の男がいた。ただ、影のように黒くなっていて、その姿はよく分からない。

 

『剣の扱いはお前には敵わねぇなあ』

『当たり前でしょ。実力差どんだけあると思ってるの?』

『はははっ、そりゃそうだ。まあ俺はそっち専門じゃねぇからな』

『またそんなことを…まあ、いいわ。早く戻りましょう』

『そうだな、爺さんも心配するだろうし帰ろうぜ』

 

そこで、男の姿が掻き消えた。

 

 

 

========

 

 

 

「んぅ…」

 

目を開ける。わたしはどうやらベッドで寝ていたようだ。見知らぬ天井を不思議に思って周りを見れば、いかにも客室といった感じの部屋だが、シックな調度品はなかなか良いものと思われる。陽光が差し込む窓の白いカーテンの隙間から外を覗くと、オラリオの街並みの一角が少し下に見える。ここが高めに建てられた建物の上層階であることが分かった。

 

「そうだ…わたし、あのとき…」

 

食人花に酷い傷を負わされて、ウィリディスさんが魔法を唱えようとしたから盾になって、盾の力が増して、と覚醒しきっていない頭で時系列順に整理しようとする。だが、知らない場所にいることも相まって、頭が混乱する。

 

怪我をしたならば、バベルか何処かの治療院にいるのだろうが、そのような雰囲気はこの部屋にない。としたら、もしかしたら、この場所は。

 

上体を起こしてベッドから降りる。わたしは裸だった。身長に見合った房とも呼べないそれを始めに自分の身体を確認したところ、傷らしいものは見当たらない。体も問題なく動かせる。かなり効能の良い回復薬(ポーション)か治癒魔法のおかげだろう。

 

というか、こんなことを考えている暇ではないと気付いた。

 

「ベルとヘスティア様の無事を確認しなきゃ…」

 

わたしは自分の服と装備を探すが、この部屋には無いようだ。だからと言って誰かが来るのを待っている余裕もない。どうしたものかと暫く考えていると、急に部屋の扉が開く。

 

「ったく、なんで俺が盾女の様子見なんか…」

 

見覚えのある狼人(ウェアウルフ)の男が入ってきた。ベート・ローガさんだ。それを見て私は確信した。ここは【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、『黄昏の館』だ。

 

「ローガさん、おはようございます」

「…すまねえ、邪魔したな」

 

ローガさんは部屋を出て行ってしまった。どうしたというのだろうか。わたしは扉の方に行って開けるが、人は見当たらない。仕方ないので、シーツを服代わりに身に纏って部屋を出る。

 

「誰かいないのかな?」

 

部屋を出て辺りを見回しても、誰もいない。下に降りたら誰かいるだろうか、と思って階段を探し歩こうとすると、背後からドタドタと走る音が聞こえてきた。

 

「ケイトー!起きたんだね!良かったぁー!」

「うわぁっ」

 

振り返ると、ティオナさんが飛び込んできた。その勢いに負けて押し倒される。

 

「お、おはようございます、ティオナさん。重いです」

「あっ、ごめんねー」

 

ティオナさんが先に立ち上がり、手を引いて起こしてもらう。

 

「えっと、今回は助けてもらってありがとうございます」

「いいよ、気にしなくて。かなり重傷だったし、ロキがここに連れて行くって言ったんだし」

「はぁ…」

 

やはり、神ロキの仕業だったか。溜め息が出る。

 

「ん?どうかした?」

「いえ…それでなんですが、わたしの服はどこに?」

「あー…ケイトの服はボロボロになっちゃってたからね。こっちで用意することにしたんだけど、まだ起きないかなーって思って準備してなかったんだよねー」

「そうだったんですか」

 

傷の治療をしてもらって、その上服まで貰うなんて申し訳ないが、この状況では形振(なりふ)り構っていられない。素直に厚意に感謝するとしよう。

 

「では、装備の方は?」

「胸当ては(ひしゃ)げてて駄目かな。ガントレットは多分アイズが持ってると思うよ」

「分かりました」

 

ギルド支給品のものだったが壊してしまった。でもエイナさんもあの場を見ていただろうし、今回の騒動のこともある。おそらくなんとかなるだろう。

 

「神ロキ、もしくは団長のディムナさんはいらっしゃいますか?」

「ロキもフィンもいるよ。ベートが来てケイトが起きたって言ってたから、私は連れてくるように言われたんだ」

「そこに行く前に服が欲しいんですけど…」

「あっ、じゃあちょっと待ってて!私のおさがり持ってくるから!」

 

そう言うとティオナさんは走って行ってしまった。アマゾネスの衣装は露出度が相当高いが、貰い物だから文句は言えない。暫く立って待っていることにした。

 

数分もしない内にティオナさんが戻ってきた。その手の中には、やはりアマゾネスの衣装で、ティオナさんが着ているのをそのままサイズを小さくしたようだった。

部屋に入って着替えて、その後ティオナさんに連れられて下に降りた。

 

「これは何処に向かってるんです?」

「食堂だよー。ケイトがお腹空いてるだろうからお昼ごはんでも食べながら話そうってフィンが言ってた」

 

本当に何から何までしてもらうみたいだ。貸しを作るつもりなのだろうか。

言っては悪いが、【ヘスティア・ファミリア】のような零細ファミリアに【ロキ・ファミリア】が見返りを求めるわけがない。わたし個人が目当てなのだろう。

 

ティオナさんに連れられて歩いていき、大きな食堂に入った。数十人は一斉に食事をとれそうだ。見ると中央の方に神ロキ、ディムナさん、ティオネさん、ウィリディスさん、それにアイズさんがいた。

 

「おおおおおっ!露出度高めのアマゾネスの服から惜しげもなく晒された真っ白柔肌!ツルペタなお胸!キュッとしたお尻!ケイトたん凄すぎるでぇ!」

「ロキ、落ち着いて。ティオナ、他の服なかったのかい?」

「えー、似合ってるしいいじゃん?」

「まあ、本人は気にしてないみたいだしね」

「そ、それでも流石にこれは…」

「…うん」

 

正に賛否両論。いや、そんな場合ではない。さっさと事を済ませよう。

 

「【ロキ・ファミリア】の皆様、この度は助けていただいてありがとうございます」

「ええって、そんな堅苦しいんは。ウチはケイトたんお持ち帰りしとうてやっただけやし」

「ああ、それに君はうちの団員を守ってくれたしね。仲間(ファミリア)の命の恩人を助けるためなら、万能薬(エリクサー)の一つくらいどうってことないさ」

「は、はい。あ、あの、ケイトさん。昨日は私を守ってくれて、その…ありがとうございました!」

「いえいえ、そんな」

 

万能薬(エリクサー)。最高品質のもので50万ヴァリスはくだらない高級品。内心、冷や汗が流れる。そんなわたしの心を読んだのか、フィンさんが、ふっ、と小さく笑う。

 

「別に金を返せなんて言わないさ。せめてものお礼だと思ってくれ」

「これは団長のお気持ちよ。無碍にすることは許さないわ」

「…分かりました。改めて、感謝を」

 

そうして一件落着。アイズさんがわたしにガントレットを渡してきた。

 

「汚れてたから、磨いておいたよ」

「ありがとうございます、アイズさん」

「ううん、こっちこそ。レフィーヤを助けてくれて、ありがとう」

 

ガントレットは昨日ヘスティア様に貰ったときのように銀の光沢を放っている。アイズさんに手入れしてもらえるなんて思ってもなかった。

 

「ホントホント!あの盾すごかったねー!なんか自由に浮いてたし」

「あはは…わたしもウィリディスさんに助けてもらったし、お互い様ですよ」

 

実際にウィリディスさんの魔法があったからあの食人花を倒せたようなものだった。もし戦闘が長続きしていたら、わたしは本当に死んでいたかもしれない。

そんな考えを巡らせていると、ウィリディスさんがもじもじしながら話しかけてきた。

 

「あ、あの…ファミリーネームはなんだかこそばゆいので、レフィーヤと呼んでもらえれば…」

「分かった、レフィーヤ。これでいい?わたしもケイトでいいよ」

「はい、ケイト!」

「ぐふふ…目眩(めくるめ)く百合の空気…ええなあ…」

「ロキが自分の世界に行っちゃってるわね」

 

それから、談笑しつつみんなで昼食を食べた。流石は【ロキ・ファミリア】といったところで、料理も美味しいし素材の一つひとつが一級品だと思われた。

 

昼食を食べ終えたわたしは、これ以上いると神ロキに襲われかねないと感じたので、この辺りでお暇することにした。

わたしが席を立ち帰ることを告げると、アイズさんたちが出口まで案内がてら見送りをしてくれた。その途中でローガさんがわたしに突っ掛ろうとしてきたが、ティオナさんとティオネさんによって連れて行かれた。

 

「またね、ケイト」

「はい、アイズさん。お世話になりました」

「いつでも遊びに来てなー」

「気が向いたらお邪魔します」

「また会いましょう、ケイト」

「うん。元気でね、レフィーヤ」

 

そうしてわたしは見送られて、『黄昏の館』を後にした。

 

 

 

========

 

 

 

「ただいま戻り―――」

「ケイト君どこいってたんだよぉおおーっ!!」

「うわぁっ」

「ケイト!?」

 

ホームに着いて部屋に入った瞬間、ヘスティア様が飛び込んできて押し倒された。本日二度目だ。視線を部屋の奥に向けると、ベルがこちらを見ているのが目に入った。

 

二人とも無事だったようで安心した。

 

「心配したんだぞ!あの騒動に巻き込まれて大きな怪我でもしたのかと思って…」

「ごめんなさい、ヘスティア様」

 

嘘は通用しないのでひたすら謝り続けたら、わたしが何をしていたのかは不問になった。それから昨日ベルとヘスティア様がどうなったのか聞かせてもらった。

 

「すみません、ヘスティア様を守れずに、わたしは…」

「そんなに気にしなくていいんだぜ?ボクの子ども(ファミリア)は君だけじゃなく、ベル君もなんだからさ」

 

やはり、ベルがシルバーバックを倒したらしい。ヘスティア様がベルに与えたのは《神のナイフ(ヘスティア・ナイフ)》というもので、ベル自身の成長と連動しそのナイフも強くなる、正に生きた武器。おそらく、現在ある中で、トップクラスの高額の武器。胃が痛かった。

 

それでも、ベルはヘスティア様を守ってくれた。本来ならわたしがやらなければならないことだったのに。

 

「ベル、よく頑張ったね、偉いわ」

「ケ、ケイト?」

 

思わずベルの頭を撫でた。ベルは気恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、特に文句を言わない。

ベルの身長が伸びているような気がした。口元が綻ぶ。

 

(もう守られるだけじゃないんだね…)

 

ベルは成長している。とても早く、とても速く。

今回のことでも感じたが、やはりわたしには守ることしかできない。ベルの()にはなれないのかもしれない。

 

でも、()になることはできないけれど、わたしはこの子の成長を助け、この子の道を阻む何かがあるならば、それを阻もう。

 

ベルが剣で、わたしは盾。

ヘスティア様を、ベルを、【ヘスティア・ファミリア】を護る、絶対の盾なのだから。

 

 

 

========

 

 

 

「言いたくないなら仕方ないけど、一つだけ聞かせておくれ。」

「何でしょうか?」

()()()()、何だい?」

 

「―――ファッションです」

 




お目汚し失礼いたしました。

これにて第1章完です。
書き進めるうちに、あの話はもっとこういう表現を使えばよかったなとか、色々思ってました。
自分自身納得のいくようにしたいと思うばかりです。

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