家族を護る盾になるのは間違っているだろうか   作:ティエン

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お久しぶりです。


見ぬが盾

アクセントに赤いラインで装飾してある軽鎧(ライトアーマー)にエメラルドのプロテクター。それが今のベルの装備だ。

今日の仕事は夜からでいいとミアさんに言われたので、わたしはそれまでダンジョンで一稼ぎすることにした。勿論のこと、ベルもダンジョンに行くため一緒に向かうことにしたのだが、ベルの新しい装備に身を包んだその姿に頭を悩ませていた。左腕のプロテクターがえも言われぬ違和感を放っている。

本人に聞いたところ、昨日エイナさんと一緒に装備を買いに行ったらしい。プロテクターはエイナさんからの贈り物で、ライトアーマーは一目見て気に入ったのだそうだ。自分の瞳と同色の装備をプレゼントするとは、案外エイナさんも隅には置けない。

値段はあえて聞かなかったが、それ相応の働きをするように厳しく言いつけておく。ベルも【ステイタス】があがって7階層にいける程度らしいから、稼ぎは増えていくだろう。ベルのすさまじい成長速度がわたしに期待させる。

 

「一人じゃ限度があるし、サポーターを雇うといいかもね」

「サポーターかぁ…」

 

サポーターは簡潔に言えば、冒険者の荷物持ちまたは雑用係だ。彼らは当然【神の恩恵(ファルナ)】を授かってはいるが、その多くが何らかの理由で冒険者稼業をできない、あるいは続けられない者だ。そのせいで、フリーのサポーターは気性が荒く性格の悪い冒険者から酷い扱いを受けることもある。しかし、戦闘をするために多くの荷物を持てない冒険者からすれば、彼らの存在が有るとなしでは大きく異なる。サポーターは重要な役割なのだ。

 

「お兄さんとお姉さん!そこの白い髪のお兄さんとお隣のお姉さん!」

 

バベルは目前というところで、歩いていたわたしたちに少女の声がした。わたしたちを呼んでいるらしい。振り返ると大きくて中身がパンパンに詰まっているバックパックを背負った、100C(セルチ)程の小さな女の子がそこにいた。いや、胸の発達具合からして、おそらくベルよりは年上の小人族(パルゥム)だろうか。

 

「何でしょうか?」

「初めまして!突然ですが、サポーターをお探しではありませんか?」

「あ、あれ?君は、確か…?」

「ベル?」

 

どうやらベルはこの小人族(パルゥム)に見覚えがあるらしい。彼女の纏うフード付きの白いローブからは栗色のくせ毛がはみ出している。髪と同じく栗色の瞳をベルに向けて、彼女は話を続ける。

 

「混乱しているんですか、お兄さん?でも今の状況は簡単ですよ?冒険者様のおこぼれに(あずか)りたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです!」

「あ、えっと、そうじゃなくて…。君、昨日の小人族(パルゥム)の女の子だよね?」

小人族(パルゥム)?」

 

ベルは彼女と昨日出会ったようだ。つくづく女に縁がある子だな、なんて思ってしまう。しかし、サポーターの話をしていたところに丁度現れるとは、都合が良い。

サポーターの彼女に質問をするベルだが、当の少女はキョトンと呆けている。

 

「リリは獣人、犬人(シアンスロープ)なんですが?」

「あ、あれ?」

 

彼女は答えながら、被っているフードを取る。すると出てきたのは、可愛らしい獣耳だった。しかし、その耳を見ると何となく不可思議な感じがする。

ベルが少女の獣耳に手を伸ばし確認するように触った。

 

「ホントだ…。小人族(パルゥム)じゃない…」

「ふわぁぁ…、お兄さぁん…」

「あぁ、ご、ごめん!人違いだったみたい」

 

少女が恥ずかしそうな声を上げると、ベルは咄嗟に手を引いた。そのとき、わたしには少女がほくそ笑んだように見えた。

 

 

 

わたしたち三人は、バベルの正面から少し離れた噴水のところで簡単に自己紹介してから話し合うことにした。

彼女の名はリリルカ・アーデさん。小柄な彼女は冒険者からあまり雇ってもらうことができず、貧乏であるらしい。そこで、自らバックパックを背負い、駆け出しだと思われるわたしたちにならば、と思い声をかけたのだそうだ。

正直、わたしは彼女のことが信用できない。怪しい部分が所々にある。駆け出しなのはわたしたちだけではないし、そもそもわたしたちの装備は駆け出しには到底手にすることができない一級品だと見た目で分かる。それなのに、彼女は()()()()のわたしたちに近づいてきた。

何か裏があるのかもしれない。しかし、サポーターの手が欲しいのも事実だ。悩んだ結果、今日はベルと一緒に探索し、アーデさんを監視することにした。

 

 

 

ダンジョンの7階層。わたしとベルは赤黒い甲殻をもつ蟻のモンスター、キラーアントと闘っていた。ベルは危なげなく首を切り落としたり頭を一突きしたり、と次々にキラーアントを屠っていた。まだまだ技術や駆け引きが拙いようだが、ナイフの性能のおかげで問題なく戦闘を続けている。

わたしは力を抑えて盾を一枚だけ召喚し、ガントレットの拳と合わせてキラーアントを駆除していった。【ステイタス】はLv.1程度に抑え、稼ぎを目的にしつつ、主にベルが取りこぼした奴だけを目標(ターゲット)にした。

キラーアントは厄介なモンスターで、瀕死になると仲間を呼び寄せるフェロモンを発散する。囲まれないように、なるべく早く倒すのが一番だ。

 

「ベル様もケイト様もすごーい!」

 

アーデさん下がってわたしたちの応援をしている。そんなに暢気で大丈夫か、と言いたくなるが、新たに壁から複数のキラーアントが出てきたので、そちらに集中する。

 

「ベル様っ!」

 

アーデさんが叫ぶ。横目で見ると、ベルの後方の壁からキラーアントが彼女を狙いつつ生れ落ちようとしていた。しかし、ベルが即座に動いていた。わたしは目の前のキラーアントたちをシールドバッシュで薙いで消滅させた。

それから二人の方を見ると、ベルはキラーアントが壁から抜け出る前に首を切っていた。ベルは敏捷が高いから問題ないと思ったのは正しかったようだ。

ひとまずキラーアントも他のモンスターも出てこなくなった。

 

「ベル様もケイト様もお強いですね!ケイト様の盾を出す魔法なんてびっくりですし!」

「ふぅ…。いや、リリがいてくれるから戦闘に専念できて助かるよ!」

「いえいえ、これだけのモンスターをお二人だけで倒されるなんて、とても凄いです!」

 

通路にはそこら中に魔石が散らばっている。正確な数は数えていない十数匹といったところだ。

 

「まあ、ベル様もケイト様も装備に依るところもあるのでしょうが」

「う、うん。やっぱり僕もこのナイフに頼り過ぎかなって」

 

そう言うと、アーデさんの《神のナイフ(ヘスティア・ナイフ)》に向ける目が光る。やはり、装備が目当てなのだろうか。

 

「それよりベル様、ケイト様。こいつの魔石も回収しちゃいましょう。リリは背が小さくて届きませんが、ベル様なら届くと思います。リリは落ちてる魔石を回収しますから。ただ、数が多いのでケイト様にあちらの方の魔石の回収をお願いできますか?」

「分かったよ、リリ」

「…分かった。手伝うよ、アーデさん」

「ありがとうございます!それと、ケイト様?リリはサポーターですから、どうぞリリと呼んでください」

 

そう言うと、アーデさんは解体用のナイフを懐から取り出し、ベルに手渡す。わたしはアーデさんとは反対側の方の魔石を拾いに行く。

率直に言えば、何処ぞの馬の骨とも知らぬ輩にヘスティア様からの贈り物を(つか)ませるのは嫌だ。たとえそれがベルに贈られたものだとしてもだ。

しかし、ベルはその純粋さゆえに悪意というものに疎い。上層で危険なのは何もモンスターだけではない。冒険者による武具の窃盗などもあると聞く。わたしは、ベルにはこの街の、この世界の理不尽さをもっと知ってもらわなければならないと思っている。

ならば、これは仕方ない事なのだろう。返ってくるだろうとは分かっていても、あまりの畏れ多さに喀血してしまいそうだ。

 

(ヘスティア様、申し訳ございません…)

 

魔石を回収し終わった後わたしが先頭に立ち地上へと向かう。そういえば、これだけは聞いておこう。後で伺うことになるかもしれない。

 

「アーデさん、いや、リリルカさんはどこのファミリアに所属しているの?」

「はい。リリは【ソーマ・ファミリア】に所属しています」

「へぇ、そうなんだ」

 

若干だが、リリルカさんの口調が速まっている。これは()()だろう。

どんな事情があるのかは知らないが、わたしはほとんど見知らぬ他人に優しくはできない。ベルはお人好しだから、きっとリリルカさんのことを疑ってもいないだろう。それでわたしは監視をしようと思っていたのだが、少し気が変わったのだ。ベルにはもっと成長してほしい。

楽しそうに談笑するベルとリリルカさんを背に、わたしは願った。

 

 

 

========

 

 

 

冒険者が探索を終えて地上に出て来始める夕時、小人族(パルゥム)()、リリルカ・アーデは肩を落としながら路地を歩いていた。その左手には神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれたナイフが握られている。

彼、いや、()()はミスをしてしまった。昨日路地裏で助けられ、彼女が目を付けた冒険者のナイフをいつものような手口で盗んだ。しかし、いざ知り合いのノームの老人に鑑定をしてもらったところ、押しても引いても何も切れない、(なまくら)を超えてガラクタとまで言われてしまった。

それでも、彼女はナイフの価値が如何に高いかを知っている。そのナイフの鞘には、【ヘファイストス・ファミリア】の中でも、《鍛冶》の発展アビリティを持つ者が自分の製作した武具に刻むことを許される【Hφαιστοs】のロゴがあった。それならば、おそらくは何らかの効果を持つ特殊武装(スペリオルズ)なのだろう、と彼女は推測していた。

 

(どうすれば怪しまれずにナイフを返せるでしょうか…)

 

彼女はある魔法を発現している。それは自身の姿を変える変身の魔法、【シンダー・エラ】。模倣をした方がいいのだが、彼女の想像のままに自由に変身ができる。その魔法を使い、本来小人族(パルゥム)()()であるリリルカは、今は小人族(パルゥム)の男へと姿を変えていた。

 

彼女は次こそは成功させるために、ナイフを一旦持ち主に返すことに決めたのだが、如何に怪しまれないようにするか悩んでいた。持ち主の少年だけならば、彼は駆け出しにしては強いもののどこか抜けている節があってやりやすかった。しかし、少年に付き添っていた少女は終始こちらを警戒していた。魔石の回収を断られていたら、リリルカはナイフを盗むことができなかっただろう。

今リリルカが変身しようがしまいが、少女がリリルカ自身に疑いをかけることは避けられないだろう。

どうしたものかと悩んで歩いていると、前からウエイトレスの恰好をした二人組の女性が歩いてきた。鈍色の髪のヒューマンと薄緑の髪のエルフだ。買い出しにでも行っていたのか、彼女らは食材の詰まった紙袋を抱えている。

リリルカは彼女たちとすれ違う前に俯き、無意識にも袖口にナイフを隠した。そして、何事もなくすれ違ったかと思った次の瞬間、エルフが厳然とした声を発した。

 

「待ちなさい、そこの小人族(パルゥム)

「っ!」

 

リリルカはビクッと肩を震わせて息を飲む。エルフは振り向かずに言葉を続けた。

 

「袖に仕舞ったナイフ、それを見せてほしい」

「リュー?」

「知人の持ち物に似ていたので確認したい」

 

リリルカは動揺を隠せなかった。まさかこんなところで少年と少女の知り合いに出会うなど思いもしなかった。

 

「あ、生憎ですがこれは私の物です。あなたの、勘違い、でしょう」

 

リリルカは上ずった声で言った。これでは明らかに怪しい人物だ。彼女は、すぐに逃げなければと思ったが、リューという名のエルフはそれを許さなかった。

 

「抜かせ。神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれた武器の持ち主など、わたしは一人しか知らない!」

 

リリルカはハッとして、逃げようと踵を返す。

 

「ぐっ!?」

 

しかし、リューが指で弾いた金貨が左手に当たり、彼女はナイフを取り落した。その所為か、リリルカは躓いて転んでしまう。痛む左手を押えて蹲る彼女に、再び背筋が冷たくなるようなリューの声。

 

「腹に力を込めた方がいい」

「ふぎゃあっ!?」

 

聞こえた時にはもう遅い。腹部を襲う蹴りの衝撃と痛みを感じながら、リリルカは路地の曲がり角まで吹き飛ばされた。

 




お目汚し失礼いたしました。

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