見切り発車なのであまり考えずに書いています。
第1話以前のお話です。
これは、5階層でわたしとベルがミノタウロスに襲われる1ヶ月前の話だ。
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夢を見る。
周囲の景色は、よく解らない。
自分の姿を、認識できない。
暗いのか明るいのか、それさえも判別できない。
温かい何かの存在が何処かから感じられる。そちらの方を見ると、強く輝く光の塊があった。眩しくはなく、美しく思えるその光が心地よかった。
暫く光を見つめていると、急に発光体の様子がおかしくなる。振動し始め、罅が入る。
どうにかしようと思って、そちらの方に向かうと、発光体が赤い光を放つ。
その光を浴びて竦んでいると、発光体の振動が激しくなり、罅も深くなっていく。
不意に呟く。
――――― ■ ■ ■ ■
それが何なのか、分からない。ついに発光体は壊れ、光は消えた。
喪失感。虚無感。寂寥。負の感情が渦を巻く。
暗く昏く、何も無い底に自分が墜ちていく感覚。堪らずに抗うも、手が僅かに動くだけだった。
手を、伸ばす。上か下か、前か後かも、わからずに。
そこで、夢は途切れた。
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「…っ……ここ、は…?」
気が付いたら、全く見覚えの無い場所に、わたしは居た。薄暗い場所だ。
よく見ると、狭い道の一角のようだ。路地裏だろう。
何故こんな場所にいるのか分からず、記憶を遡ろうとする。
しかし、おかしい。
何も思い出せない。どうして此処に居るのか。何処から来たのか。
自分は、
何も―――
「何、コレ…?」
一つ、ただ一つだけ、随分欠けているようだが思い出せることがあった。
――――大切な何かを、守れなかった。
ただ、それだけ。
それだけで、言いようの無い喪失感がわたしを襲ってきた。
「怖いよ…」
不安だった。何処かも知らない場所にいる、何もかも知らない自分。
わたしは蹲り、自分の手や体を確認した。
怪我をしている様子は無い。最低限に露出を免れる程度の襤褸を身に纏っていた。
「どうして、こんな…こんなこと…」
ふと、上を見る。周りの建物の所為で、空が狭い。見上げた空は、わたしの心を映したかのように曇っていた。
「どうしよう……っ、冷たっ…」
ポツッと、頬に一滴の雫。雨が降ってきた。
身を隠せる場所を探していると、壊れた木箱を見つけた。それなりの大きさで、人一人は入れそうだった。
他に何も無いので、壊れた部分を入り口にして小屋のように立て、そこに入った。饐えたような臭いに、思わず顔を顰める。
雨は降り続いた。
「寒い…もう、やだぁ…!」
心も身体も冷えきっていた。どうすればいいか分からない。わたしは、我儘を言う幼子のように泣いた。
自分に向けて伸ばされる温かい手。その手を取ろうとした。
「…んぅ……あ…夢、か…」
どうやら、気付かぬうちに寝てしまっていたらしい。泣き疲れて眠るなど、本当に幼い子どものようだ。自嘲気味に薄く笑う。
外を見ると、雨は止んでいたが暗かった。時間としては、わたしが最初に気が付いた時は昼で、今は夜なのだろう。
空には月が昇り、星が瞬いていた。
不意に、下を見た。そこには、水溜まりがあった。月光が当たり、キラキラと輝いている。木箱から出て水溜まりを覗き込んだ。
そうして水面に映っていたのは、亜麻色の長い髪にワインレッドの瞳をした少女。泣き続けていた所為で、目が赤く腫れている。
「これが、わたし…」
そこには、確かにわたしがいた。
記憶がほぼ無い。理由なんて分からない。あるのは、喪失感を覚える記憶の欠片と身に纏う襤褸切れのみ。
自分が何者かなんて、大切だったものなんて分からないが、それがなんだ。
わたしはこうして此処にいる。生きている。生きたいと、思っている。
「ずっとここにいても仕方ない、か」
そう思って、わたしはしっかりと立った。心が決まった。わたしは意外と図太いのかもしれない。
「まずは、ここかどこなのか調べる。そして、次に住む場所と食べ物の確保。お金が必要なら仕事とか探さなきゃだし、それから…」
昼間にはあまり聞こえなかった、人間の楽しそうな騒ぎ声。人に尋ねれば、色々と分かるだろう。
そちらの方に向かって、路地裏から出る。
「家族とか、欲しいかな?」
クスッ、と小さく笑う。
夢に見たあの手。確かな温もりを感じた。その温もりは、恐らくは家族から向けられたもの。
記憶がないわたしの家族は顔も名前も分からないが、記憶を取り戻すまでは、今のわたしは此処にいるわたしだ。
一人では、寂しいから、不安だから。
大切だと思えるから、今度こそ守ってみせるから。
――――家族が欲しい。
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「―――ハァッ、ハァッ……!…あんなの、ないよぉ~!」
路地裏から出て暫くすると、わたしは高く聳える摩天楼に向かって走って、いや、逃げていた。
時間は少し前に遡る。
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路地裏を出て、声のする方へ向かうと、そこにあったのは酒場だった。
「豊饒の女主人…?」
どうやらわたしの頭はそんなに悪くないらしい。文字の読みはできるし、ふと思いついた言葉を文字にして思い浮かべることができたから、多分書きも問題ない。
それはさておき、今必要なのは情報だ。
第一に、此処は何処なのか。
第二に、住む場所や仕事を見繕ってくれる機関ないし施設はあるのか。
とりあえず、その二つを確認したい。酒場なら知っている人はいるだろう。
しかし、問題があった。
「お金、持ってない…」
そう、一文無しなのだ。
酒場に入ったからには、何か食べ物や酒を頼まなくてはいけないだろう。そうすれば、金が必要になる。
坂場で聞くのはやめにして、別の場所を探そうかと悩んでいると、
「おい、入り口の前で何してんだ、嬢ちゃん?邪魔だろうが」
「なんかボロボロだなあ?そのクチの奴にでも襲われたのかい?ヘヘッ!」
「こら可哀相だろうがよ。ふむ、でもまあ、数年もすれば…」
「お前も大概だよ…こんな可愛いロr、子どもに汚い目向けるんじゃねえ」
4人組の荒々しい男たちに声をかけられる。なんだか下衆っぽい。
「あ、いえいえ、酒場で情報を集めようとしてたんですけどね。その、お金…無くって」
「ああ、そういうことか」
一番初めに声をかけてきた男が納得した。
「ちなみに、どんな情報を集めてるんだ?特に機密とかじゃなけりゃあ、ギルドに行けば教えてもらえると思うんだが」
「ギルド?」
「ギルドも知らないのか?まあ見たところただの子どもだし、服は粗末だが、スラムのガキにしては肌に傷や汚れが無い。冒険者でもないだろうし、やはり…」
「冒険者?」
「…おいおい、嬢ちゃん?ホントに何も知らないのかい?いったい何処から来たのやら…」
「え、えへへ…」
「可愛い」
「おい」
知識まで失っていたわけではなかったが、ギルドや冒険者なんて初めて聞いた。
男たちの疑問には答えない。否、答えられない。
「あ、あはははは…」
「答えられねぇ、ってか?ま、いいか。聞いても得になるわけじゃねぇ」
「そ、その、ギルドっていうのはどこにあるんですかっ?」
「あっちにバカみたいにデケェ塔があるだろ?バベルっつうんだが、そこから北西のメインストリート沿い、この西のメインストリートの隣だ。そこにいる受付嬢にでも相談すりゃあいい」
「なんなら付いて行ってあげようかい?ヘヘッ」
「い、いえいえ!それだけ聞ければ大丈夫です!」
「そんなこと言わずにさあ!俺たちと行こうぜ!」
「なんで俺らまで含まれてんだよ…そんなに盛りたきゃ歓楽街にでも行ってこい」
これ以上この男たちに付き合っていては危険な気がする。
早々に立ち去って、ギルドという場所に向かおう。そう思ったときだった。
「じゃ、じゃあわたしは―――」
「そこの男ども!何してるかーっ!!」
「「「「ぎゃああぁあっ!?」」」」
「ぴっ!?」
不思議な形の武器が飛んできた。大剣を二つ組み合わせたような、柄の両端に刃のある武器だ。
もの凄い勢いで飛んできたそれは、男たちを派手にぶっ飛ばした。
男たちの胴体がすっぱりいってないことから、剣の腹に当たったのだろう。
いったいどうやって、誰が、なんて、考えてる暇は無い。
「そこの女の子!怪我とか――――」
「うわああああぁあんっ!」
「って、ちょっとぉ!?」
武器が飛んできた方から声がしたが、構わない。逃げなければ。
数
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そして、現在に至る。
「あの男の人たちも、武器を投げてきた人も冒険者なのかな…?」
落ち着いてきたためか、走りながらそんなことを考える。
かなりの速さ、というか全力疾走して逃げてきたため、すぐにバベルに着いた。
「わぁ~、これが、バベル…おっきいなぁ」
天を衝くほどの塔の大きさに驚く。思わずしばらく見上げていた。
「ギルドの前に少し見に行ってみよっと」
周囲には人はおらず、襲われる心配もない。安心してバベルに入る。
このとき、わたしは、まだ知らなかった。この街の、恐ろしさを。
お目汚し失礼いたしました。
書きたいことが結構あったから、ヘスティアとの出会いまで1話じゃいけなかったんです。
次回にはついにケイトのステイタスが明らかになるでしょう。乞うご期待。
感想・ご指摘お待ちしております。