「こうして、わたしとヘスティア様は出会ったのだった…」
「ケイト?一人で何言ってるの?」
「あ、ベル?終わった?」
「うんっ!」
ヴァレンシュタインさんに助けられた後、わたしはベルを全力で追いかけたが、間に合わなかった。
ギルドに向かうと、ベルの担当アドバイザー、エイナ・チュールさんの叫び声が聞こえてきたときに、もう遅い、と悟ったわたしは見て見ぬフリをした。
魔石を換金した後、ギルド近くの広場で待つことにした。
そして、ベルを待ちながら考え事をしていたら、かなり夢中になっていたらしい。
気が付いたらベルが近くに来ていた。血はもう洗い流したようだ。
なんだか嬉しそうだけど、何かあったのだろうか。
しかし、そんなことはどうでもいい。ベルにはちょっと
「今日はなんで勝手にいなくなったりしたのかな、クラネル君?」
「ケ、ケイト…さん…?」
「ねぇ、どうして?」
「ひっ!?すいませんすいません!もう一人でも大丈夫かなって思って独断で5階層に降りました!」
なんとなく予想はしていたが、呆れる。
「ベル、いつも言ってるよね?ダンジョンでは何があるか分からない。だから、調子に乗っちゃいけない、って」
「う、うん」
「今回は偶然ヴァレンシュタインさんに助けてもらったから無事だったけど、死んでたかもしれないんだよ?わかってる?」
「…うん」
本当に死ぬところだった。
それをベルも分かっているようなので、お小言はこれくらいにしておく。
「でも、なんでわたしをおいて走っていったの?壁に嵌ったわたしの救助とか、ヴァレンシュタインさんへのお礼とかもせずに」
「うぇっ?…そ、それは…」
わたしの問いかけに、ベルは変な声を上げて顔を赤らめる。
ああ、なるほど、そういうことか。合点がいった。
「ヴァレンシュタインさんに一目惚れってわけね」
「なっ!?なんでそれを!?」
「見れば分かるよ」
「そ、そうなの…?」
わたしは頷いて肯定する。ベルはとても分かりやすい。
「ケ、ケイトはヴァレンシュタインさんについて何か知ってる?」
「ふ~む…いや、一般に公開されてる情報ぐらいしか知らないなぁ」
「そっか…」
そう答えると、ベルは落ち込む。
「どうせエイナさんにも何か言われただろうから、わたしは特に言わないけど、夢は見すぎないようにね」
「で、でも…」
「はいはい。いいから帰りますよー」
「あっ、待ってよケイト!」
立ち止まりそうになったベルに構わず、わたしはヘスティア様の待つホームへ歩を進めた。
========
「ただいま戻りました、ヘスティア様」
「神様!今帰りました!」
「あっ!お帰りケイト君、ベル君!今日は早かったんだね!」
「はい、ちょっとベルがダンジョンで死にかけたので」
「なにぃっ!?ベル君、大丈夫なのかい?痛くはないかい?もし君に死なれたらボクはショックだよ!」
ホームに帰って部屋に入ると、ヘスティア様が駆けつけて来た。
今、彼女はベルの体に張り付いて怪我の確認をしている。
ベルは体に引っ付いていたヘスティア様を降ろした。
「大丈夫ですって、神様。僕は勝手に死んだりなんかしません」
「どの口が言うんだか…」
「何があったか知らないが…まあ、いいじゃないか!無事だったんだし…っと、そうだ!」
「「?」」
急にヘスティア様が声を上げた。
どうやらバイト先で、潰したジャガイモを油で揚げた、今流行り?の食べ物、『じゃが丸くん』を貰ってきたらしい。
わたしとベルがいるのに、ヘスティア様が未だにバイトをしているのは心苦しい。
お金を稼ぐために冒険者になってからは、手に入れたお金を6割ほど神ヘファイストスへの返済金に充てていた為、十分な貯金がまだ無い。
わたしは申し訳なく思いつつ、ありがたく『じゃが丸くん』を頂いた。
ヘスティア様が、自分はヘッポコだとか言ったので、わたしは頭を撫でて慰めた。
次の探索からは到達階層を更新しつつお金を稼いでいこう、と切実に思った。
まずベルの【ステイタス】を更新するヘスティア様。その最中、わたしは部屋の掃除などをする。
ベルはヘスティア様に跨られながら、今日の出来事を話している。
それほど汚れていなかったので、掃除はすぐに終わった。ソファに座って更新の様子を窺うことにする。
すると、ヘスティア様がなにやら驚いたような声を発した。
わたしはベッドの方に行き、ヘスティア様に尋ねる。
「どうかしましたか?」
「ああ、いやっ、なんでも!」
「…?」
ヘスティア様は焦ったように、ベルの【ステイタス】の更新を終えて紙に写し取る。
ベルに渡す際にチラッ、と見てみたら、スキル欄に文字を消したような跡があった。
「神様?このスキルの欄は?」
「ん?ちょっと手元が狂ったんだ。いつも通り、空欄だよ」
「ですよね…」
ヘスティア様は落ち込むベルを余所に、わたしの【ステイタス】更新に移った。
わたしの【ステイタス】更新中、ベルは上に上がって待っていることになっている。というのも、ヘスティア様がそうする様に言ったからだ。
わたしは、見られることは特に気にしないと言ったが、ヘスティア様は「ボクの方が大きいけど万が一の為だ」と考えを変えなかったし、ベルも慌ててそれに賛成していた。
なんとなく察したし、どうでもよかったので、わたしも従ったのだった。
ベルが上に上がったのを確認して、ヘスティア様は【ステイタス】の更新を始ようとする。
その前に、二人きりになったので、先程のことを聞いてみる。
「ヘスティア様?ベルに、スキルが発現したんですよね?」
「…うん。君には伝えておいた方がいいかな」
それから、わたしはベルのスキルについて教えてもらった。
スキル名は【
人のことは言えないが、かなりレアスキルだ。世間に知られれば、ベルに降りかかるトラブルは計り知れない。
「ベル君には伝えないようにしてくれないか?」
「はい。分かっています」
そうして、わたしたちは更新を再開する。
ベルのときと同じように、ヘスティア様はわたしの背に跨る。
「スキルが発現したのはめでたいけど…でも悔しいよ!他人の手でベル君が変わってしまったことが!」
「あはは…」
想いというのは、どう考えてもアイズ・ヴァレンシュタインさんへのものだろう。
確かに、ヴァレンシュタインさんは容姿も佇まいも全てが綺麗だった。ベルが憧れるのも無理はない。
また会いたいと思いながら、更新が終わるのを待っていた。
暫くすると、一通り終わったようで、ヘスティア様は紙を取り出す。
「耐久がすごく伸びてるんだけど、何かあったのかい?」
「ミノタウロスの一撃を防いで、その後一発貰ったせいでしょうね」
「君は怪我しなかったのかい?」
「はい。いつも通り、無傷です」
ヘスティア様には心配をかけないように心掛けているわたしだが、今回はちょっと心配されてしまった。
転写が終わり、わたしはヘスティア様から紙を受け取る。
渡された紙を見る。
……………………
ケイト
Lv.2
力:E480→E484
耐久:S937→S980
器用:F345→F348
敏捷:D526→D534
魔力:C632→C641
守護:I→
《魔法》
【アイギス】
《スキル》
【
……………………
今回は【
耐久の熟練度以外はそれ程伸びはない。
とは言っても、わたしの【ステイタス】で、上層の浅い場所で探索しているにも関わらず、この上昇値だ。
偏にスキルのおかげなのだろう。
しかし、このスキルの所為で、わたしは武器を使うことができない。
武器を持つと、体感で【ステイタス】が駆け出し冒険者程度になり、
だから、浅い階層で、盾による攻撃だけで倒せるモンスターを倒している。
わたしの魔法で出現する盾は、攻撃の威力を反射するものだ。これを使ってミノタウロスの一撃を防ぎ、ふっ飛ばした。
ミノタウロスに殴られても無傷だったのは、高い耐久と、おそらく、発展アビリティである《守護》によるものだと推測する。《守護》の効果は未だに判明していない。
わたしが紙をじっくり見ているところに、ヘスティア様から声をかけられる。
「よしっ、今日はもう寝ようか。ベル君を呼んできてくれるかい?」
「あれ?ヘスティア様は行かないんですか?」
「ふふーん…ボクはベル君と一緒に寝るためにベッドメイキングさ!」
「あはは…分かりました」
いつもならヘスティア様がベルを呼びに行くけれど、今日は趣向が違うようだ。
わたしはヘスティア様の嬉しそうな鼻歌を聞きながら、ベルを呼びに階段を上がっていった。
========
「月が綺麗だなあ…」
丸い月の光が、深紅の瞳を煌めかせる。
ベルは廃教会の外に出て、月を眺めていた。
彼は今日の出来事を思い出していた。
ダンジョンで初めて感じた、死の恐怖。
一度目に自分を救った、彼より少し先輩の亜麻色の髪の少女、ケイトの背中。
悲痛な面持ちで、彼の名前を叫ぶケイトの声。
そして、二度目に救ってくれた、金髪金眼の女剣士、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイの姿。
一目見て好きになった。憧れた。
追いつきたい。認められたい。
ベルは彼女に夢中だった。
しかし彼は、今の自分では駄目だと、気付いていた。
しかも、相手は天下の【ロキ・ファミリア】の眷属で、第一級冒険者だ。下級冒険者のベルとは格が違う。
今はまだ、憧れることしかできないと、ベルは溜息を吐いた。
その時、後ろから声をかけられる。同じ【ファミリア】の、家族の声だ。
「もう、こんなところにいたのね、ベル。探したんだから…」
「って言っても外に出ただけ、でしょ?」
「む、むぅ…わたしのセリフを…」
声をかけてきたのはケイトだった。いつも通りの軽口を交わす。
ベルにとって、彼女は掛け替えのない家族だ。
ケイト曰く、彼女には記憶が無いらしい。
育て親の祖父が亡くなり、もう家族がいないベルは、彼女に親しみを感じていた。
最初こそ疑うような目で見られていたものの、数日すればそれもなくなり、次第に仲良くなっていった。
見た目はケイトの方が年下だが、彼女はベルより大人びていて、姉のように接してくる。
ベルは、兄として振る舞いたいとも思っていたが、弟のように構ってもらえるのが嬉しかった。
「今日はどうしたの?いつもなら神様なのに」
「なに?わたしじゃ嫌だった?」
「そ、そんなこと言ってないよ!」
「ふふっ…お返しのジョーダン!」
ケイトの亜麻色の長い髪とワインレッドの円らな瞳が、月光を反射して輝く。
会話をしながら、二人は一緒に廃教会へ歩いて行く。
「それで、神様は?」
「今夜あなたと一緒に寝るためにベッドを整えているの」
「か、神様ぁ…」
「今日はあなたのこと心配してたし、お願いくらい聞いてあげたら?」
「か、考えておくよ…」
途中で、突然ベルが立ち止まった。
「ベル?急にどうしたの?」
「あ、いや…まだ言ってなかったって思ってさ」
「何を?」
「今日のお礼だよ」
「ああ、そのことね」
ベルは助けてもらったケイトに感謝の言葉をまだかけていないことに気付いた。
同時に、恥ずかしさのあまりに走って逃げてしまい、アイズ・ヴァレンシュタインに礼をしていないことも思い出す。
「ケイト、今日は助けてくれてありがとう」
しかし今は、隣にいる少女に、何よりも大切な家族に、伝えなければ。
そう思って、彼は言った。
「まあ、いいけど…わたしよりヴァレンシュタインさんに言ったら?」
「うぐっ、そ、それは言わないでよ…」
そう彼が言うと、悪戯がうまくいった子供のようにクスクスと笑うケイト。
仕方ないと思って、ベルは先に進む。
それを見た彼女は、彼を追いながら、彼に聞こえないように囁いた。
「どういたしまして。頑張りなさい、ベル」
月は、少女と少年を見守るように、見つめるように、二人を照らしていた。
========
二人が戻ると、ヘスティアは疲れたのか、ベッドで眠ってしまっていた。スヤスヤと寝息を立てている。
それを見て、二人は顔を見合わせてクスッ、と笑い合う。
ベルはヘスティアに掛布を掛け、ケイトはテーブルを隔ててソファの反対側に布団を敷く。
そして、ベルはソファに、ケイトは布団に横になる。
「おやすみ、ケイト」
「おやすみなさい、ベル」
二人は、互いに微笑んで言った。
そして、仲良く眠りに落ちていった。
それは、誰が見ても、兄妹、もしくは姉弟のように見える光景だった。
お目汚し失礼いたしました。
グダグダかもしれないけど書きたかったので書きました。
投稿した後に各話何回も読み直してるので、結構訂正とかしてます。
ご指摘・ご感想お待ちしております。