あれっ、と思った方はそちらをお読みになってからこちらへどうぞ。
「あっ!申し訳ございません!【凶狼】様でしたね!」
「あぁ?なんだテメェは?」
「ケイト…」
「…お久しぶりです、ヴァレンシュタインさん」
「アイズたん、知り合いなん?なんや可愛い娘っこやなあ!」
「なんか、どっかで見たことあるような…」
「ティオナもこの子知ってるの?」
「ん~、いや!多分気のせい!」
一瞬静まったが、すぐに【ロキ・ファミリア】の面々がわたしに注目して談笑する。
ヴァレンシュタインさんがわたしの名前を呼んだので、一応挨拶しておく。
再会がこんな場所になってしまって残念だが、互いに冒険者なのだから、仕方ないと言えば仕方ない。
そういえば、冒険者になってから分かったことだが、最初に『豊饒の女主人』の前にいた時、武器を投げてきたのは、【
【
しかし、今用があるのは隣の
「まあ気にせず、こちらの果樹水をどうぞ!」
「見ねぇ顔だが…新入りかぁ?」
「いえ」
そんなわけないだろう。
ヘッドドレスを外してシルさんに投げ返す。少し慌ててキャッチしていた。
「先ほどあなたが言っていた、トマト野郎の近くにいた、壁に埋まっちまってたメスのガキです」
わたしがそれを言った途端に、ローガさんとヴァレンシュタインさん以外の団員の多くが、息を飲んだ。
「すまなかったね。気を悪くさせたかい?」
「うちの者が無礼を働いたな。私からも、詫びを」
流石は天下の【ロキ・ファミリア】の団長と副団長だ。
動揺することもなく、【
「いえ、無礼なのはこちらの方です。宴の席に水を差してしまい申し訳ございません」
「いや、それはいいんだ。寧ろ好都合だったかな?ベート、彼女に何か言うことはないか?」
「はぁ?俺がこの雑魚に?俺は事実を述べたまでだろ?」
「ベート…君は…」
「いえ、いいのです、ディムナさん」
ローガさんに何か言おうとしていた彼を制止する。
「ローガさんの言う通り、あのときウチのは血を浴びて真っ赤になってましたし、わたしも壁に嵌っていました」
「ふむ…」
「ですが、わたしが来た用はここからです。ローガさん、あなたの目には、彼がただの弱者であるように見えましたか?」
「当り前だろうが!アイツもテメェもどう見たって雑魚だろうが!」
「ベート、よせ」
ローガさんが激昂するのを抑えようとする【
「うるせえババァッ!俺は今コイツと話してんだ!…で、なんだ?テメェは雑魚じゃねぇって言いてぇのか?」
「そうではありません。わたしはあなたからすれば雑魚かもしれませんが、彼は違います。わたしはそれを言いたかったんです」
「ハッ!面白れぇ冗談だ!じゃあ、なにか?俺がアイツに劣るって言うのか?」
「今はまだ、あの子にはあなたに勝る力はありません。しかし、いつかあの子は神々も認めるような男になります。だから、あなたには、先程の言葉を訂正してもらいます」
「あぁ?テメェ生意気言ってんじゃねぇぞ?ぶっ飛ばされてぇのか?」
ローガさんは脅すように低い声で威嚇してくる。この辺りか。
「どうしても訂正しない、と言うのですね…分かりました…では、ゲームをしましょう!」
「あぁ、ゲームだぁ?」
「はい。わたしがあなたの一撃を盾で受けて、倒れたり気絶もしくは死亡したらわたしの負け。そうならなかったらわたしの勝ち。もしわたしが勝ったら、そのときは先程の言葉を訂正してもらいます」
わたしの言葉に【ロキ・ファミリア】の人たちは瞠目する。
ティオナさんが勢いよく立ち上がって言う。
「な、何言ってんの君!?そんなのできるわけない!ベートはLv.5だよ!盾があっても平気で済むわけが―――」
「面白そうやないか…よし、受けてたつで!」
「ちょっ!?ロキッ!?」
「なんでロキが言うんだよ…まあいいぜ、格の違いってのを痛い目見させて分からせてやんねぇとなぁっ!」
「ありがとうございます」
「…で、なんや。自分はこのゲーム、何を賭けるんや?」
ティオナさんが驚嘆して捲し立てていたのを、神ロキが遮る。
本当に、これから起こることが面白そうだというように目を細めてにやけていたが、わたしへの質問のときに薄らと目を開く。まるで、こちらを見定めているようだ。
正直これほどうまく事が進むと思っていなかったので、内心で驚いていた。
それをおくびにも出さないように、心の内で一息吐き、わたしは言った。
「わたしの全てを賭けます」
もう驚きの声も上げられないようで、彼女たちは唖然としていた。
それもそうだろう。Lv.1だと思われる少女が、Lv.5の冒険者に勝負を挑んでいるのだから。
わたしが質問に答えると、神ロキは先程よりも大きく、狡猾そうに、目を細め口角を上げ声も出さずに、にやりと、嗤った。
「よしっ!ルールも決まった!んなら外行こか、ここでやったらミア母ちゃんに怒られてまうからなー。立会人はウチがやったるわ」
「感謝します、神ロキ」
「ええってええって。ウチらは娯楽に飢えとるから、こういう面白そうなんは近くで見たいんや!」
「おい!やるならさっさと始めんぞ!」
「はい。今行きます」
そうしてわたし達三人が外に出ると、その後に続いて団員の人たちが慌てて出てくる。ただ、団長のディムナさんはあまり慌てていないようだった。
途中で彼らの声が聞こえてくる。
「ねぇ、団長?あの子大丈夫なの?」
「そうだよ、フィン!早く止めなきゃ!あの子死んじゃうかもしれないよ?」
「それは無いと思うな」
「どこからそんな根拠が!?」
「落ち着きなよティオナ。そもそも勝ち目の無い勝負を挑むのがおかしい。それに、あの目は弱者のものじゃない。おそらく、何かあるんだよ、彼女には。あとは…勘かな?」
「勘って…」
「ロキがやると言っているのだ。今更止めることなど無理だな」
「そんな…」
外に出て、わたしとローガさんは5
「ルールはさっき言った通りです。準備は大丈夫ですか?」
「テメェの方こそ盾なんて持ってねぇじゃねぇか」
「わたしですか?ふふっ、ご心配なく」
盾なら、いつも、私の中にある。
「あぁ?何笑って―――」
「【アイギス】」
「何っ!?」
いつものように、
それを見て、【ロキ・ファミリア】のメンバーは皆驚きの様相を示し、神ロキはより一層笑みを浮かべた。
「そりゃなんだ?魔法か?」
「何でしょうね。魔法かもしれませんし、スキルかもしれません。いや、もっと別のものという可能性もありますね」
「ケッ!雑魚が調子に乗りやがって…テメェをぶっ倒した後吐かせてやる。そんときは冒険者続けられるかわかんねぇけどな!」
「用意はええか?」
「はい」
「とっとと合図出しやがれ」
ローガさんは我慢の限界のようだ。酔っているとはいえ、いざ前に立つと中々に迫力を感じる。腐っても一級冒険者というわけか。
「せっかちやなぁ…んじゃ、いくでー!」
ローガさんが構える。
助走して距離を詰め、渾身の一撃を放つつもりなのだろう。
わたしも盾を構えた。
そして、神ロキが開始を―――
「始めっ!」
―――告げた。
「オラァッ!」
ローガさんが一瞬で間合いに入って蹴りを放ってきた。
盾を握る力を強める。
「ぐぅっ!」
ガンッ、と蹴りが盾に当たった瞬間、今までに受けたことの無い衝撃と、感じたことの無い背中の熱がわたしを襲った。ただ、その背中の熱は暴力的なものではなく、優しさを感じる温もりだった。
「「「「「「は?」」」」」」
やけに間の抜けた声が重なって聞こえた気がした。
威力をすべて反射できなかったようで、ズザザッ、と3
なんとか後方に倒れそうになる体を抑えることができた。
おそらく背中の熱はスキルか《守護》によるものだろう。
わたしは蹴りを受けた瞬間から衝撃に押されている間、予想以上の衝撃で思わず目を瞑ってしまっていた。
盾を手放して消し、前方を確認する。
ローガさんはわたしから15
周りに誰もいなくて良かった。巻き込んでいたら大変だった。
というか、気絶させてしまったからベルへの言葉を訂正させることができない。
一泡吹かせることはできただろうから、今日は代金を払って帰ろう。
そう考えて、私は溜め息を吐いて、【ロキ・ファミリア】のメンバーがその前に集まっている店の入口へ向かった。
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フィン・ディムナは愕然としていた。普段は冷静沈着な彼だが、目の前の事態だけには思考を停止させてしまった。はっきり言って、予想以上だったのだ。
フィンが団長を務める【ロキ・ファミリア】。そこに所属する一級冒険者であるベート・ローガが、Lv.1だと思われる亜麻色の髪の少女に攻撃をして吹っ飛ばされて気絶している。
(あ、ありえない!ベートは敏捷特化型だが、Lv.5だぞ!?少なくともあの子の体は無事じゃすまないし、下手をすれば死んでいる!…ということは、あるとすれば、あの盾、か…?)
彼は、暫くしてやや正常に戻ってきた頭で、少女が無事でベートが気絶している訳を考えた。彼の考えるように、下級冒険者といわれるLv.1と一級冒険者にカテゴライズされるLv.5では天と地ほどの差がある。
レベルとは、その個人の器といっていいだろう。神々でさえ認める偉業を成し遂げて初めて、ランクアップ―レベルの上昇―を果たせる。つまり、器の昇華だ。
今目にしている状況は、少女については定かではないが、単純に言うと、神々が認めるほどの行為を4回している
純粋な【ステイタス】でも技術でも勝っているはずの相手に、どうやって格下の相手が勝利するのか。
フィンは、少女の持っている盾に仕掛けがあると推測した。
(そうでなければ、こんなこと…ありえない、ありえちゃいけない)
偶然、事態を目撃している人物も店の中からの野次馬もいなくて助かった。こんなところを見られていたら、【ファミリア】の名折れでもあるし、常識が覆ったと収拾がつかない騒ぎになる。
「ティオネ、ティオナ、ベートをすぐにホームに連れて行ってくれ。なるべく見られないように頼む」
「わ、分かりました…行くわよ、ティオナ」
「う、うん」
「わ、私もついていきます」
「…一応、私も同行しよう」
「分かったよ。くれぐれも、気を付けてくれ。他のみんなは店の中に戻って何事もなかったように振る舞っていてくれ」
いつもなら、フィンの頼みとあらば黄色い声を上げて従うティオネ・ヒリュテだが、動揺している所為で、戸惑いながら彼の頼みに返事をするだけだった。
彼女は、妹のティオナと一緒に倒れているベートの方に向かう。ティオナも彼女同様に、この状況に頭がついていっていない。
Lv.3、二級冒険者のエルフ、【
フィンが、皆が店の中へ入り、リヴェリアたちが【ロキ・ファミリア】のホーム、『黄昏の館』に向かうのを見送ると、ベートを吹っ飛ばした少女が彼の方に近づいてきていた。
「果樹水が三杯で300ヴァリス、パスタ二皿で600ヴァリス、本日のおすすめメニューが800ヴァリスで合計1,700ヴァリス…今日の稼ぎの一割かぁ…」
少女はそんなことを呟きながら、彼の横を通って、店の中に入ろうとしていた。
「ちょっと待って―――」
「ちょい待ちや、お嬢ちゃん」
「…わたしですか?」
彼は少女に声をかけようとしたが、彼の呼びかけに赤髪の少年のような女性、彼ら【ロキ・ファミリア】の主神、神ロキが割って入った。
少女は立ち止まって振り向き、とぼけたように自分を指差して言う。
ロキは探るような眼差しで少女を見て、問う。
「お嬢ちゃん、一体何モンや?」
「何者と言われましても…っと、自己紹介がまだでしたね。わたしは【ヘスティア・ファミリア】所属のケイトです。ファミリーネームはありませんので、呼び捨てで構いません」
「ドチビのとこの
「あ、あはははは…」
ロキは先程していた目つきをすぐに普段のものに戻した。何故かそこで談笑し始めるロキとケイト。
それを見ていたフィンは、そんな場合じゃないだろう、と二人の会話に割り込もうとしたが、彼の目の前を金色の髪が塞いだ。
アイズ・ヴァレンシュタイン、Lv.5の一級冒険者だ。
「ケイト、すごかったね…」
「あっ、ヴァレンシュタインさん!改めて、お久しぶりです!」
「久しぶり、だね。それと、私のことは、アイズ、でいいよ」
「分かりました、アイズさん」
「ロリと戯れるアイズたんもええな~」
今度はアイズも入れて三人で話し始めてしまった。キリがない、と思ってフィンは大袈裟な咳払いをし、会話を中断させる。
「なんや、フィン?風邪か?」
「違うよ、ロキ。僕は彼女に用があるんだ」
「ウチもあるんやけどな~?」
「僕から先に言わせてくれ。…ケイト、だったね。君、本当にLv.1なのかい?」
「…フィン、それは…」
アイズがフィンの質問に異議を唱える。
冒険者の間では、冒険者が他人の【ステイタス】を詮索してはいけない、という暗黙の了解がある。ギルドは個人に【ステイタス】の公開を求めることはないし、仮に知っていたとしても他の冒険者に伝えることもない。
しかし、その中でもレベルだけは別で、ギルドへの申告と公開が義務となっている。
「分かっているさ。でも、ケイト、これは君が思っているより重要なことだ。君の条件は聞くし、無暗に情報を公開することはないと約束しよう。実際こちらも今夜のことはあまり知られたくないしね。どうだろう、話してくれるかな?」
彼がケイトに尋ねると、彼女はしばらく悩んだ後、答えた。
「う~ん…条件は特にないので、曖昧な感じでいいですか?」
「…まあ、いいだろう。じゃあ、君は…」
「はい、お察しの通り、Lv.1ではありません」
「そうか…ギルドには虚偽の申告をしているかい?」
「していません。…ギルドの方に確認を取るつもりですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
フィンは彼女の問いかけに、手振りをしながら否定する。
ケイトが嘘をついているかどうか見極めようとしていると、ロキが口を出す。
「フィン、ケイトは嘘ついとらんで」
「そうかい?…分かった。君を信じよう、ケイト」
「なら次はウチの番やな!」
フィンが了承すると、続いてすぐにロキが言う。
「ケイト、うちの【ファミリア】に入らんか?」
ロキの言葉に、フィンとアイズは驚いた。
ロキが他の神の
「どや?優遇するで。みんな大歓迎や!」
「申し訳ありません、神ロキ。たとえあなたからのお誘いであっても、わたしはヘスティア様を裏切ることはできません」
しかし、ケイトはロキの誘いを即座に断った。
「そうか、残念やなぁ…分かった。ほなまた今度誘うわ~。お代はウチラが出すさかい、今日ははよ帰り~」
「は、はぁ…ありがとうございます…」
「…ロキ…怒りますよ」
「あ~ん、アイズたん、そんな怖い顔せんといて?」
それでも諦めていないロキに呆れるアイズ。
「今日はうちのベートがすまんかったな。また今度会おうな?」
「はい。そのときをお待ちしています」
「じゃあね、ケイト」
「はい、アイズさんもお元気で」
そう言ってアイズとロキは『豊饒の女主人』の中へと戻った。
残ったフィンは、ケイトに声をかける。
「ロキも言った通り、代金は僕らが払うよ。安くてすまないが、慰謝料とでも思っておいてくれ。店にいる冒険者たちにも、君が何事も無い様子で入っていくと、変な噂が立つかもしれないからね」
「お気遣いありがとうございます。では、わたしはこれで」
「ああ」
そして、彼女はバベルの反対側の方へ歩いて行った。見送ってからフィンも中へと戻る。
戻ると、団員達は、外に出る前によりは騒いでいなかったが、楽しそうな雰囲気を作り出している。
この感じなら、周りの冒険者は、少女の安否は分からないがベートが酔っぱらって連れ帰られたとでも思っているだろう。
フィンも仲間たちがいるテーブルへ向かい、椅子に座って酒を飲んだ。
そこへ、ロキが彼に周囲に聞こえない程度の大きさの声で話しかけてくる。その顔に浮かべる笑みはいつにも増して狡猾に見える。悪巧みする子どものようだ。
「フィン、ケイトは絶対ウチが手に入れるで」
「やはりまだ諦めてないんだね」
「阿呆。自分も気付いとるんやろ?あの子は放っとくと危険や。ウチの手元に置いときたいんや。それにな、アレはまだ
「…分かったよ、まあ僕が積極的に動くことは無いと思うけどね」
「おー。また何かあったら言うわ」
「はいはい」
そう言って二人は乾杯する。周りは面白そうにそれを見て、一層騒がしくなった。
『豊饒の女主人』はいつも通り、冒険者たちの騒ぎ声で賑わう。そうして夜が更けていった。
お目汚し失礼いたしました。
なるべく自然に、辻褄が合うようにと思い書いていますが結構難しいです。
ロキの口調も難しいです。
ご感想・ご指摘気軽にどうぞ。お待ちしています。