家族を護る盾になるのは間違っているだろうか   作:ティエン

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もっとはっちゃけた感じのやつも書きたいなあ


盾の懊悩と竈の願い

わたしは一人、ダンジョンに来ていた。今いるのは12階層。中層の一歩手前だ。ベルはおそらく4階層辺りにいるのだろう。

 

一昨日の朝、ベルを連れて帰ってきた後、ベルはまるで死んだように丸一日眠っていた。ヘスティア様と二人で心配していたが、無理して到達階層を更新し、一晩中戦闘していたのだから仕方ないことだろうと、見守っていた。

 

それからベルは昨日の朝目を覚ました。ヘスティア様はそれを見届けて、ベルの【ステイタス】を更新し二、三日空けると言って出かけてしまった。まだ帰ってきてはいない。

それから続けて探索に来ていた。

 

「今日はもう帰ろうか…」

 

あの日から、胸の中に靄がかかっている感じがして、どうも調子が良くない。原因は分かっている。それはベルだ。

ヘスティア様はベルの力になりたいと言っていた。それはわたしも一緒だ。でも、自分はベルの力になれるのだろうか。盾を持つことしかできなくて、守ることしかできない自分が。

 

「はぁ…」

 

思わず溜め息が出た。一丁前にベルに説教を垂れたりしているのに、こんなことでは情けない。

わたしは重い足を引き摺って地上へ向かった。

 

バベルの地下1階まで上がってきたわたしは、シャワールームに行って汗を流した。その後バベルを出て、ギルドに向かい今日手に入れた魔石を換金した。換金額はいつもと比べて少しだけ少なかった。

 

また溜め息を吐きそうになった。気分転換に『豊饒の女主人』にでも行ってみようかと考えて既にそちらの方に歩いていると、ふいに象の顔を模した仮面をつけた男たちの姿が目に入った。

それを見て、わたしはあるイベントのことを思い出した。

 

怪物祭(モンスターフィリア)、だったっけ」

 

怪物祭(モンスターフィリア)。一年に一度【ガネーシャ・ファミリア】が行っている、ダンジョンのモンスターの調教を見世物にするお祭りだと聞いている。

 

おそらくオラリオに住む無所属(フリー)の人々向けの催しなのだろうが、調教という一風変わったモンスターとの戦闘の物珍しさに、多くの冒険者も観覧するという。

 

その日の探索は休んで、怪物祭(モンスターフィリア)を見に行くことにしよう、と思いながら『豊饒の女主人』へ向かった。

 

 

 

わたしが『豊饒の女主人』に着くと、そこはいつも通り賑わっていた。中に入ると、美人なエルフの女性が声をかけてきた。

 

「いらっしゃいませ。一名様ですか?」

「はい」

「どうぞ、こちらへ」

 

カウンター席に案内される。

 

「ご注文は?」

「パスタと果樹水、それと、今日のおすすめを」

「畏まりました。少々お待ちください」

 

案内されてすぐに注文をする。先日のベルと同じものだ。あのときは代金を払わなかったので、そのお詫びも兼ねてちょっと奮発することにした。

 

待っている間、周りの様子を窺う。わたしを気にしている気配は一昨日いた店員以外になかったので安心した。どうやら【ロキ・ファミリア】の人達がうまくやってくれたようだ。

 

しばらく待つと、先程のエルフの女性が料理を運んできた。本日のおすすめはステーキのようだ。

 

「お待たせしました」

「ありがとうございます」

 

料理の良い香りを嗅いで食欲が湧く。フォークを手に取って食べようとすると、エルフの女性が話しかけてきた。

 

「失礼ですが、無事だったのですか?」

「何のことでしょうか?わたしはお腹が減ってもう限界なんです」

「恍けないでください。あの【凶狼(ヴァナルガンド)】と相対して無傷でいられる者など、このオラリオには数えるほどしかいない。あなたは何者だ?」

 

急にエルフが殺気を放つ。このエルフ、この店でもかなりの実力者だ。なにより、どことなく()()()()を感じる。わたしは少しだけ目の前のエルフが気に入らなかった。

 

「…聞いてどうするんですか?噂をばら撒こうとでも?」

「そんなことをするつもりはありません。…ただ、気になっただけです」

「そうですか。それなら答える義理はありませんね」

「黙秘する、と?」

「はい」

 

そうして睨み合っていると、店主のミアさんが怒鳴り声をあげた。

 

「リュー!何やってんだい!早く料理を運びな!」

「す、すみません、ミア母さん」

 

エルフの名前はリューというらしい。リューはミアさんの方を見て応えた後、こちらを一瞥して言う。

 

「あまりクラネルさんに悪影響を与えないように。彼は、私の大切な同僚の伴侶となる人だ」

 

では、と一礼してリューは仕事に戻っていった。

やはり、気に入らない。わたしは少し冷めてしまった料理を数分で食べ、果樹水を一気に飲み干した。

立ち上がり、カウンターに代金を置いた。

 

「ごちそうさまでした」

「あいよ!毎度あり!()()()待ってるからね!」

「ああ、そうでしたね。では、いづれ」

 

そういえばミアさんにあの日の夜の礼としてここで働かなくてはいけないのだった。とは言ってもバイト程度だろう。ミアさんに返事をして店を出た。

 

「気分転換、とはいかなかったかな」

 

嫌な気分だ。空を見上げると、日が沈もうとしている。

今日は早く帰ってベルが戻る前に寝てしまおう。わたしはそう考えて、早足でホームに向かった。

 

 

 

========

 

 

 

ヘスティアは、【ヘファイストス・ファミリア】のホームの執務室で土下座をしている。

その相手は、やはりと言うか、ヘファイストスだった。彼女は怒り気味の表情を隻眼の顔に浮かべていた。ヘスティアがわけのわからない体勢をし続けて、執務に集中できないでいるからだ。

 

ヘスティアは彼女に武器と防具の製作を頼み込んでいた。それも一昨日【ガネーシャ・ファミリア】のホームで開かれた『神の宴』の席から今日までずっと、だ。

 

「あんた、何時までそうやってるつもりなの?私、これでも忙しいんだけど」

 

ヘファイストスがそう言っても、ヘスティアは動かず、何も言わない。ヘファイストスは何度目かわからない溜め息を吐き、困惑したような、呆れたような顔をした。

 

「そもそも何なの、それ?あんた何やってるの?」

 

彼女が質問すると、ヘスティアは漸く口を開いた。

 

「土下座、タケミカヅチから聞いた、頼みごとと謝罪をするときの最終奥義」

 

それを聞いて、より一層呆れるヘファイストス。埒が明かない、と彼女は立ち上がり、再び問うた。

 

「ヘスティア、聞かせて頂戴。どうしてそうまでするのか」

 

その問いに、そのままにヘスティアは答えた。

 

「ベル君とケイト君の力になりたいんだ!ベル君は変わろうとしている、高く険しい道を目指して!そしてケイト君と誓ったんだ、どんなことをしてでもあの子達の力になるって!だから欲しい、あの子達の為にボクが与えてやれる力が、武器が、防具が!」

 

ヘスティアは拳を握り締め、頭を強く床に押し付ける。

 

「ボクはあの子達に、養われて、助けられて、守られてばっかりだ…神らしいことは何一つしてあげられていない…何もしてやれないのは、嫌なんだよ…!」

 

彼女はそう、()くように言った。

 

「変わろうとしている、か…」

 

彼女の言葉を聞いて、ヘファイストスは、ふっ、と微笑んだ。まるで成長する我が子を見る母のように。

 

(あなたもそうじゃない、ヘスティア)

 

そして彼女は決めた。以前の自堕落でどうしようもない頃とは違う、神友の力になろう、と。

 

「わかったわ。武器と防具、作ってあげる。あんたの子達にね」

 

それを聞いて、ヘスティアは顔を上げた。とても嬉しそうな顔だ。

 

「ありがとう!ヘファイストス!」

 

彼女は立ち上がろうとするが、長い時間同じ体勢をしていたためか、フラッ、と前に倒れこむ。それをヘファイストスが抱き止めた。

 

「言っとくけど、代価は払ってもらうわよ。何十年、何百年かけてでもね」

「わかってるさ!」

 

彼女はヘスティアを立ち上がらせる。それから、壁に掛けてある鍛冶専用の槌を取りながら、ヘスティアに尋ねる。

 

「ベルって子、得物は?それとケイトには防具でいいのよね?」

「ベル君はナイフで、ケイト君はそうだけど…もしかして、君が打ってくれるのかい、ヘファイストス!」

「当たり前!私とあんたのプライベートにうちの眷属(ファミリア)を巻き込むわけにはいかないでしょ?」

 

ヘファイストスの言葉を聞くと、ヘスティアは今にも踊り出しそうな程喜んだ。

 

彼女がケイトのことを知っているのは、ケイトが初めてヘファイストスのところに来た時に彼女が貸した金を返しに来たからだ。ヘスティアに返済させようと思っていた彼女だったが、もうケイトはその神友の眷属なのだから、同じことかと思って受け取ったのだった。

 

「ケイトの防具は何にする?」

「そうだなぁ…ケイト君はいつも火力が足りないって言ってたっけ」

「それならガントレットが良さそうね」

 

話しながら、ヘファイストスは棚の仕掛けを操作した。すると、棚が動き、そこは鍛冶場になっていた。

 

「あんたにも手伝ってもらうからね。キリキリ働きなさい」

「もちろんさ!ボクにできることなら何でも言っておくれ!」

 

ヘファイストスは考える。

 

(駆け出しの冒険者に持たせる、一級品の武器と防具か…)

 

鍛冶の神の血が疼く。彼女が武具を打つのは久々のことだった。

 

(それにしても、防具しか持たないなんて変わってるわよね。ロキもケイトが欲しいなんて変なこと言ってたし)

 

彼女は、一昨日の『神の宴』での一件を思い出す。

紅髪の少年風の女神、ロキがケイトを寄越せとヘスティアに言っていたのだ。その一言のときだけは、天界にいた頃の悪神の姿を思わせた。その後、ヘスティアが断ると、それが嘘だったかのように、主にある格差的な話で取っ組み合いを始めた。勝者はヘスティアだった。

 

(やはりというか流石というか、道化師(トリックスター)よね…)

 

ヘファイストスは心のうちで呆れながら、燃え盛る炎が立つ炉の前に座った。

 

(さあ、始めますか!)

 

 

 

========

 

 

 

わたしが『豊饒の女主人』に行ったその翌日、今日も変わらずダンジョンに来ていた。機能と同じ12階層だ。10階層に比べると随分霧が深い。

 

「やっぱりオークとシルバーバックは面倒くさい…でかいのは嫌だな。あとバットパットも飛んでるから攻撃しづらいし…」

 

今日は昨日の憂さ晴らしのようにモンスターを狩っていた。上層のモンスターは大体全種類倒している。倒していないのは希少種(レアモンスター)のブルー・パピリオとインファント・ドラゴンだけだ。ブルー・パピリオはとても美しい翅をもつと聞いているから是非見てみたい。

 

「今日は昨日より稼げたかな。クエストの条件も達成したし、もう帰ろう」

 

そうして、何事もなくバベルの地下1階まで来た。何やら大きな木箱が吊り上げられているのに目がいく。おそらく怪物祭(モンスターフィリア)で調教されるモンスターが入っているのだろう。

 

「割と楽しみだなぁ」

 

横目でその作業風景を見ながら、いつもの如くシャワーで汗を流し、バベルを出てギルドへ向かう。

 

ギルドに着いて、まずは受付の方に向かう。わたしが声をかけたのは、わたしの担当アドバイザーであるミィシャ・フロットさんだ。彼女は明るい性格でとても好感が持てる。わたしの数少ないお気に入りの人物の一人だ。

 

「ミィシャさん。ただ今帰還しました。それとこれ、クエストの対象素材の《オークの皮》5枚です」

「おかえりケイちゃん!素材を確認するね。…はい、クエスト達成だよ!これ報酬ね」

「ありがとうございます」

 

ミィシャさんはアドバイザーとしては頼りない部分もあるけど、しっかりわたしの支えになってくれるし心配もしてくれる。彼女のことは姉のようだと感じている。

 

そういえば、先日の騒動の件について確認したいことがあったのだった。今日になって思い出す。

 

「ミィシャさん。一つ聞きたいことがあります」

「ん?何かな?」

「わたしの情報を聞きたい、という人は最近いましたか?」

「いや、そんな人はいなかったなぁ…なに?誰かに自分のこと話したの?」

「い、いえ。そうではないんですが…」

 

ミィシャさんには、わたしの事情はレベルを除く【ステイタス】のこと以外話してある。冒険者登録をしたときに既にLv.2だったことには大層驚かれた。その上でこうして優しく接してくれるので、彼女は信頼できる。

 

「まあ、神々があなたのことを知ったら追い掛け回されそうだけどね」

「あはははは…」

 

それは事実だし、もう神ロキには唾をつけられているので、笑うしかない。ディムナさんの言葉が真実だったことも確認できたので帰ることにする。

 

「それでは、わたしはこれで」

「うん、気をつけてお帰り」

 

そうしてわたしはホームへと向かった。今日は機嫌がいいから、夕食はベルに何か作ってあげよう。明日が楽しみなこともあり、足取りは軽かった。

 




お目汚し失礼いたしました。

展開に悩んだりサブタイトルに悩んだりと悩み事が沢山です。

気軽にご感想・ご指摘等お寄せください。お待ちしております。
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