家族を護る盾になるのは間違っているだろうか   作:ティエン

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盾と怪物祭

とある喫茶店のテラス。そこには、神ロキとローブを纏った女性が丸テーブルで対面して座っていた。ロキの後ろで立っているのは、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

ローブの女性はフードを目深にかぶっており、その表情はよく見えない。銀の髪と紫の瞳が蠱惑的な煌めきを覗かせている。

ロキはグラスの中の液体を一口飲んでから、女性に話しかける。

 

「今度は何企んどるんや?また何処ぞの【ファミリア】の子どもを気に入って、ちょっかい出そうとしとんのか?ったく、諍いの種ばっか撒きよって…この色ボケ女神が」

 

ロキがそう言うと、ローブの女性、女神フレイヤは口元を歪めて微笑んだ。反応はただそれだけだったので、ロキは痺れを切らしたように、再び彼女に問う。

 

「で?どんな奴なんや?その子どもっちゅうのは」

「…とても頼りなくて、少しのことで泣いてしまう。そんな子。でも、綺麗だった、透き通っていた。私が今まで見たことのない色をしていた。見つけたのは本当に偶然、たまたま視界に入っただけ」

「へぇ…」

 

ロキの問いに艶めかしく唇を動かし答えるフレイヤ。ロキには、彼女のローブから覗く何もかもが艶めかしく、また忌々しく思えた。

 

「あなたも同じじゃないの?他の子を狙っているのは」

「さぁて、何の事だか分からへんなぁ」

「あの子といつも一緒の子でしょう?その子、やめといた方がいいと思うわ」

「…」

 

フレイヤの問いに、ロキは黙るしかなかった。

 

「あの子はね、見えないのよ。何色なのか分からない、まるで何かに阻まれているよう」

「…で?」

「あら、欲張りなのね。ふふっ、でも私が知っているのはこのぐらいよ。後は自分でなんとかして」

 

フレイヤはそう言うと、不意に外を見た。怪物祭(モンスター・フィリア)当日なので、道は人で埋まっている。その人混みの中に、白髪に深紅(ルベライト)の瞳の少年がいた。

また歪んでしまいそうになる口を押えて立ち上がる。

 

「どうしたんや?」

「ごめんなさい。急用ができたわ」

「はぁ?お前いきなり…」

「また会いましょう」

 

急に別れを告げて出ていく彼女に、ロキは呆れるしかなかった。

 

「なんやアイツ…って勘定もこっちかいな!?」

「…」

「ん?どうしたん、アイズ?」

「…いえ」

 

アイズの目は、フレイヤより先に兎のような少年を見つけていた。それからずっとその少年を目で追っていたのだ。いつか助けた、名も知らぬ少年を。

外を見ているアイズに、ロキが何かあったのかと疑問を投げかけるが、彼女は変化の乏しい表情で応答するだけだった。

 

 

 

=======

 

 

 

朝の陽ざしが狭い部屋に入り込む。一晩鳴っていた鉄の音はもう止んでいる。

一振りの黒いナイフが、陽光で鋭く輝いている。その刃に人差し指が滑る。その指の後を追うように神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれて青白く光る。

神聖文字(ヒエログリフ)を刻んでいるのは、鍛冶の神ヘファイストス。彼女の作業を、ヘスティアは手袋の先を咥えながら見ていた。

光が収まると、ヘファイストスは一息吐いた。友神の為ではあったが、鍛冶師としては二度とは御免の作品だった。

 

「できたわよ」

 

彼女がヘスティアに言うと、ヘスティアは一瞬呆けてから満面の笑みを浮かべた。ヘファイストスは完成したナイフとガントレットを包み、ヘスティアに持たせてやった。

 

「早速あの子達に持って行っていいかい?」

「いいわよ。でも、ローンがあること忘れないこと。それに、もうこんな邪道な武器作らせないでよね。ガントレットはアダマンタイトの普通のだけど」

「わかった!」

 

それだけ言うと、ヘスティアはすぐに飛び出していった。

 

(ホントに、あの子には弱いわね…)

 

ツインテールを元気に揺らす後姿を見ながら、ヘファイストスは思ったのだった。

 

 

 

========

 

 

 

怪物祭(モンスター・フィリア)当日、わたしとベルは一緒に調教ショーが行われる『円形闘技場(アンフィテアトルム)』へ歩いていた。

 

「二人で出かけるなんて、初めてかな?」

「そうね」

「屋台とかも回ってみようよ!」

「そうね」

 

正直に言う。面倒くさい。

大体、ベルも行くとは思ってなかったのだ。どうせそんなこと気にせずにダンジョンに行くと思っていたのに、わたしが怪物祭(モンスター・フィリア)を見に行くと言ったら、ついていくと言われてしまった。

折角一人で楽しもうとしていたのに、でもまあ、ベル一人で行かせるのはなんか心配だし、と心の内でブツクサ言っていると、ベルにかかる声があった。

 

「そこの白髪頭!ちょっと待つニャ!」

「え?ぼ、僕ですか?」

 

その茶髪の猫人(キャットピープル)の女の格好には見覚えがあった。『豊饒の女主人』の店員だ。猫人(キャットピープル)に呼ばれたベルは自分を指差してから、そちらに近づいて行った。

 

「これをおっちょこちょいのシルに届けるのニャ!」

「え、ええと…」

「アーニャ、その説明ではクラネルさんには伝わりません」

 

ベルが急によく分からない頼みをされて混乱していると、店の裏からリューが出てきた。彼女はベルしかいないと思っていたのか、わたしの姿を見ると、顔には出さなかったが動揺していたようだった。しかしその後、睨みつけてきたのでわたしも睨み返す。

 

「なぜあなたが?」

「見て分かりませんか?デートですよ」

「ケ、ケイト!?デ、デデートって!?」

「落ち着きなさい。冗談よ」

 

リューが呆れたようにこちらを見たが、無視する。それから彼女はベルに説明を始めた。なんでも、シルさんが休暇を取って怪物祭(モンスター・フィリア)を見物しに行ったが、財布を忘れてしまったらしい。困っているだろうから、彼女に財布を届けてほしい、ということだった。

 

「分かりました」

「では、よろしくお願いします」

「しますニャ!」

 

ベルはお人よしだからどうせ受けるだろう、と思っていたので文句は言わない。ただ、さらに面倒くさくなった、と溜め息を吐いた。

わたしたちはリューたちと別れて再び歩き出した。

 

 

 

闘技場に近づくと一層人が多くなった。これではシルさんの探しようがない。

 

「ど、どうしようか?」

「適当に歩き回るしかないかな。これじゃあ探そうとしても無理だろうし」

 

それから、二人で屋台を見て回ることにした。串焼き肉などを適当に買って暫く食べ歩きしていると、『ジャガ丸くん』が食べたいとベルが言ったので『ジャガ丸くん』の屋台を探す。

もう調教のショーが始まっているのではないかと思ったが、この人混みでは流されるように歩くしかないので、仕方なく人混みに流された。

 

「あっ!やっと見つけた!ベル君にケイト君!ひっさしぶりだねぇ!」

「か、神様!?」

「ヘスティア様!今まで何処に?」

「まあちょっと野暮用でね」

 

暫く歩いて『ジャガ丸くん』の屋台を見つけたら、屋台と屋台の間からヘスティア様が出てきた。何やら背中に包みを背負っている。

 

「それより君たち…二人で歩いてるなんて、デート、かい?」

「いえ、わたしはベルのお守りです」

「ちょっ!?ケイト!?」

「そうかそうかそれは良かった!」

 

一瞬ヘスティア様のツインテールが不自然に揺れて浮いたので、即座にこれがデートであるのを否定する。

 

「そうだ!重いからケイト君には先に渡しておこう。はい、これ」

「ガントレット?これを、わたしに?」

「そうさ!ボクからの贈り物だよ!」

 

ヘスティア様は背中に背負っている包みから銀のガントレットを取り出した。かなり上質な硬い金属で作られているようだ。

 

「神様?それどうしたんですか?」

「ボクのちょっとしたコネさ!」

 

どこかに銘がないか探すとガントレットの金具に【Hφαιστοs】と刻まれている。

 

「へ、ヘスティア様…?これ…」

「ふふん!すごいだろう!」

「うっ…ありがとう、ございます…」

 

ヘスティア様の眩しすぎる笑顔を見たら、何も言えなかった。かなりお金を貯めなければならないことだけは分かった。持ちようがなかったのでとりあえず装備することにした。

 

「うわぁ…カッコいい…」

「じ・つ・は…ベル君にもあるんだぜっ!帰ったらのお楽しみだ!」

「ホントですか!?やったぁっ!!ありがとうございます、神様!」

「ふふふっ、はしゃぐベル君も可愛いなぁ!」

 

わたしは絶句した。駄目だ。これからの食事は安売りの乾パンだけだ。ホロリ、と涙が零れそうになった。

 

「それでこれからどうするんだい?」

「わたしとベルは頼まれて人を探しているんです。でもまだ見つからなくて」

「そうなのか。じゃあ歩いて回りながら探すことにしようじゃないか!行こうぜ、ベル君!」

「あっ、ちょっと待ってください神様ぁ!」

 

ヘスティア様はベルの手を引いて歩き出した。どうやらデートをするつもりらしい。冒険者も多いし、何か問題があると困るので、護衛としてついていく。

 

 

 

クレープを買った(わたしは買ってない)後、人混みを避けようとして広い場所に出た。草叢の上でクレープを食べながらイチャイチャしている二人を見守りつつ、屋台で買った謎の肉を食べていた。よく分からないが結構美味しかった。

 

クレープを堪能し終わったのか、二人がこちらに近づいてきた。わたしも肉を食べ終えたので、二人に近づこうとした。

その時だった。

 

闘技場の方から悲鳴が聞こえてくる。何事かと思って見ると、そこには壊れた拘束具を付けたシルバーバックがいた。どうしてかこちらを見ている。

 

「二人は逃げて!【アイギス】っ!」

 

魔法で盾を出す。わたしの声を聞いて二人はすぐに逃げてくれた。シルバーバックはその醜悪なまでに涎が滴る口を大きく開けて雄叫びをあげる。

 

『グオオォオオオッ!』

 

シルバーバックならわたしでも倒せる。今は二人を逃がすためにこちらに注意を向けさせよう、とわたしは盾を構えた。

一瞬、地面が揺れた。その微かにも嫌な感じのする揺れの方に気が向いてしまい、シルバーバックがわたしを飛び越えていくのに反応が遅れた。二人を追いかけて行ってしまう。

 

「待ちなさい!」

 

叫んだが、シルバーバックは止まらない。二人を追おうとしたそのとき、一本の触手がわたしの脇腹を貫いた。体から嫌な音がして、唇から血が零れた。

 

「ぐっ!?」

 

謎の触手はわたしを貫いたまま、胴体に巻きついた。それから、触手はわたしの体をボールのように投げた。為す術もなく、わたしはそのまま何処かへ弾丸のような速度で飛ばされた。

 

少し宙を舞って地面にぶつかった。どうやら大分離れてしまったらしい。ベルもヘスティア様も、シルバーバックも見当たらない。助けようにも何処に行ったのか分からない。立ち上がるが、腹から流れる血が止まらない。

 

「けほっ、かはっ、ぁ…ハァ、ハァ…二人とも、何処に…」

 

血交じりの咳が出るが、悩んでいる暇も、先程のものが何だったのかも考えている暇はない。とにかく二人を、家族を助けなければ。そう思って歩き出そうとすると、上から三人の女性が降ってきた。

 

「あれ?アイズの知り合いちゃん?」

「どうしてこんなところに…って、あなた、その傷は!?」

「ひ、酷い怪我…一体何が?」

 

それは知った顔だった。【ロキ・ファミリア】のティオネさんにティオナさん、それとレフィーヤ・ウィリディスさんだ。

 

「けほっ…この騒動の所為か、触手のようなモンスターにやられました」

「触手?」

「はい。では…わたしはこれで」

 

説明している暇もないのでベルとヘスティア様を探しに行こうとまた歩き出す。すると、ティオネさんがそれを止めようと道を塞ぐ。

 

「退いてください。家族を助けなければ…」

「今アイズがモンスターの討伐をしているわ。もの凄い速さでね。今のところ怪我人はおそらくあなただけよ」

「そうです!アイズさんは凄いんですから!あなたは早く治療を!」

「心配なのは分かるけど…無理しちゃダメだよ?」

 

手負いのわたしにこの3人を出し抜けるような力はない。どうしようもないので、大人しくすることに決めると、血が上った頭が冷静になる。

二人は心配だが、アイズさんがいるのだったら、すぐに事態は収まるだろう。それにヘスティア様はベルにあげるつもりの武器を持っていると言っていた。

包みの大きさからして、おそらくナイフ。どうにか逃げられもするし、今のベルならシルバーバックをどうにかできるだろう。

 

「分かりました。わたしはこのまま傷の治療をしに行きます」

「分かってくれたのね。なら私達もついていくわ」

 

ティオネさんたちに護衛してもらうことになりそうだ。ティオナさんに肩を貸してもらいながら歩いた。

 

「…?」

「ティオナ?」

「どうかしたんですか?」

 

歩いていると、急にティオナさんが怪訝そうな顔つきになり、周囲を見回す。

 

「地面、揺れてるよね?」

「…そうね」

「地震…じゃないですよね、コレ」

 

冷や汗が流れる。

 

「気を付けてください。触手にやられる前に同じような不穏な揺れを―――」

 

突如、爆発音が響く。遅れて市民の悲鳴が上がる。咄嗟に視線を向けると、高く昇る土煙。その煙から正体を露わにしたのは、蛇のようなモンスターだった。

 




お目汚し失礼いたしました。

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