翼竜との邂逅を語る回は、本話にて終了です。
※ 九話目のあらすじ ※
激しさを増す嵐の中、サリアにもたらされた新たな出会い。
海辺で出会い、生死の境を彷徨うほどの大ケガを負っていた翼竜が遂にその目を覚ました。
その翼竜は、おとなしく人懐っこくて……。
……そして、食いしん坊だった。
え、聞こえなかったって?
ならばもう一度言おう。
その翼竜は、食いしん坊だった。
……うん、凶暴じゃなくて良かったかも。
※ あらすじ終わり ※
それでは、どうぞ。
『異形闊歩せし遺構奥深く、壁中に金銀の径存在す。銀径に財貨在り、探求者へ富を与えん。金径に叡智在り、探求者へ大いなる力を与えん』
……これは
しかし、この金銀の道には一体何があるのであろうか?
銀径……『径』という呼び名はやや特殊なので、ここでは『シルバーパス』とでも呼ぶが……まあ、それは分かる。文面から推察するにおそらくは財宝、売るしか道は無いが貴重なモノを拾う事ができるのであろう。それとて
されども、
もっともそれ以前に、肝心要の遺構の壁を掘る方法こそが最大の難関であるのだが。
上級探索者の剣撃でさえ傷一つ付けられず、上級魔法を用いてさえ表面を僅かに削り取るのみ。上級魔法は魔法力消費も大きく、そうそう連発できるものでもないというのに遺構の壁には自己修復能力があり、地道に削ろうとも終わりなど永遠にやっては来ない。しかし、これを穿たねば伝承の道へは辿り着く事ができないのである。
これから魔科学研究が進み、超硬度の物体さえも掘り進める
せめて壁に自己修復能力が無かったなら、剣なり魔法なりでやすりを掛けるように掘り進む事も出来たのだが。遺構とは、なんともままならないものである。
……しかしもしも、もしもこの謎が解けたのならば、人類は遺構の秘密にまた一歩近づく事だろう。
なぜ、
なぜ、『魔の秘跡』には遺構に関連する記述がこうも多く存在するのか。
そもそも、遺構はどうしてこの世界に存在するのか。
私は期待してやまない。
この碑文に刻まれた『大いなる叡智』、金の道に眠るという力が、遺構の秘密へ大きく近づくキーとなるのではないか、と……。
――― セトラ暦1993年、ヨシュア・カーディ著『深淵なる魔法世界・パトリシア ~ 世界遺構探索記 ~』第八章 第七節 金の道・銀の道 伝承の壁は
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……風が奏でる笛の音、雨が響かす岩の鼓動。嵐の歌い上げる狂騒曲はとどまる所を知らず、広い空を怒涛の三連符の如き分厚い雲で覆い尽くしては、大地へ降り下ろす電撃の旋律を伴って付近一帯を荒らし回っていた。
その魔手は、二人が滞在する浜辺の洞窟にも押し寄せ……、
「キュイ、キュイ」
「……あ、君ってオスだったの?」
「キュイ!」
「へぇ……」
……る事は、幸いにして無かった。
外の騒がしさなどどこ吹く風、二人は至ってのんびりと話し込んでいる。多少風は入り込むものの
万が一に家へ帰れなくなったとして、短期間ならここに住むのもアリと言えばアリかな……と思うぐらいには、洞窟に対するサリアの評価は高まっている。
「……そういえば、どうしてあんな酷い怪我を?」
「キュイ~……」
「……覚えてないの?」
「キュイ……」
「……じゃあ、君の名前なんていうの?」
「キュイ~……」
「……それも、覚えてないんだ」
……それにしても、不思議な事もあったものである。
確かに翼竜は知能が高く理知的で、一般的な
しかし逆に、翼竜は『キュイ』や『キュウ』などの鳴き声しか発する事ができない。こればかりは訓練ではどうにもならないため、翼竜の鳴き声を
……しかし、当然だがサリアは
不思議な事も、あったものである。
「「……
……さて、それからどのぐらい経った頃だろうか。
洞窟内に、激しく響く嵐のオーケストラ。決して広くない洞窟を覆いつくしていた重音が、唐突に小さくなり……一人と一頭を静寂が包み込んだのだ。
「「………」」
疑問に思い、二人が入り口の方を見やる。
……なんと、光が射しているようだ。地面を覆う砂に光が反射し、洞窟内を白く淡く浮かびあがらせている。
「……晴れ間? もしかして……」
「……キュイ?」
「出てみる?」
「キュイ」
嵐はもう過ぎ去ったのであろうか、それにしては早すぎる気もするが……。
そんな希望的観測をしながらも、サリアは外の様子を確認するため洞窟の入り口から少しだけ顔を出す。
「……うわぁ……」
真っ先に目へと飛び込んできたのは、光差し込む青い空。しかしわずかに目をそらすと、そこには真っ黒雲のミルフィーユ……。
疑うべくも無く、そこは嵐の目であった。周囲に稲光さえ迸る中、虹の砂浜一帯だけがまるでスポットライトのように照らし出されていたのである。
「キュイ?」
「うん、今なら大丈夫みたい」
遅れて顔を覗かせた翼竜へ頷き返し、サリアは一歩外へと踏み出る。
……嵐中の凪は、ごくごく短い。今の状況は帰途へと就くのにうってつけであるが、それが長く続かない事もサリアは十分に承知していた。災禍をもたらす大気の大渦は、上陸すると急加速して通り過ぎてしまうものなのだから。
ゆえに、その歩調は自然と早くなる。砂浜から崖上へ上がる坂道を目指して、サリアは大きく一歩踏み出し……、
「……あ」
「キュイ?」
「ねえ、あそこ……」
そこで何かに気付いたのか、足を止め……海の向こうの一点を指差してみせる。
翼竜も向けた目線の先……黒雲に染まる水平線の最果てにあったのは、『虹の砂浜』が
……半弧を描くその虹は、空へと鳴らす
「「………」」
セトラ光黒雲の中心、ちょうど光が強く漏れ出る場所と虹の頂点とがぴったりと重なり……どこまでも幻想的で奇跡的な、大自然の一枚絵をその場に作り出していた。
「あっ……」
……しかし、奇跡の光景は長くは続かない。
嵐の空に走る、稲妻が一つ。
更に二つ、三つ……
そして生き物のように、まるでそれに切り裂かれ弱っていくかのように……虹は徐々に薄く、衰えていく。
……四つ目の雷で、虹は虚空へとその姿を消したのであった。
「……まあ、見れただけでも儲けもの、かな?」
「キュイ、キュイ」
ナトラで現在絶賛人気爆発中売切御免状態の『
……家族全員でこの感動を共有できない事に、サリアは少しだけ惜しい気持ちになった。
しかし、いつまでもボケっと立ち止まってはいられない。嵐の目に入り、風雨が大きく弱まっている今こそ家路に就くチャンスなのだから。
「……今のうちに、私の家に行こ?」
「キュイ? キュイ、キュイ!」
「うん、もちろん」
……当然、翼竜も一緒に。
身勝手だという事は百も承知。嵐の中いきなり飛び出し、散々心配させた挙げ句に翼竜を連れ帰ったとなれば、家族には強く反対されることだろう。特にラウルなどは、日頃からワイバーンを乗りこなす立場の人間……彼らの育成や体調管理の大変さなどが身に染みて分かっているだけに、簡単には首を縦に振ってくれないだろう。
それでもサリアは土下座でも何でも、何なら認めてもらえるまで野宿も辞さない覚悟を既に固めていた。幸いにして
……ただしその前に一つ、途轍もなく恐ろしく巨大で強大な関門が待ち構えている訳だが。
―――ブルッ……
「……キュイ?」
「う、ううん、何でもないよ。さ、雨が降らないうちに行こ?」
砂浜から上がっていく岩の坂道を、サリアが指差し歩き始める。
「キュイ!」
―――バサッ
その後ろでバサリと、翼竜の羽ばたく音が聞こえて……!?
「……って、飛べるじゃん!?」
「キュウ~、キュイ!」
「飛べない、なんて一言も言ってないって、確かにそうだけど……!」
「キュイ、キュイ~!」
「あ、こら待て~!」
詰め寄ってきたサリアを一瞬で追い抜き、風を切ってグングン飛んでいく。すぐさまそれを追うサリアだったが……さすがはワイバーン、幼体であっても飛行速度はかなりのものでどんどん距離が離されていく。
『一歩も動けない』というのが嘘なのはサリアも分かっていたが、さすがにここまで快速で飛べるとまでは思っていなかったようだ。
「キュイ~♪」
「……くぅ、風の加護を我が身に与えよ! 『ラピッドブリーズ』!」
このままでは追い付けない、そう判断したのだろう。サリアが自身に敏捷力を強化する風属性下級魔法を使い、文字通り全力で翼竜を追いかけ始める。
……それでやっと互角、いや翼竜が僅かに速いというのだから、翼竜の飛ぶ速度がどれほどのものかが分かるだろう。
「キュイィ~♪」
緑の光をたなびかせながら一頭が楽しそうに逃げ、
「待ちなさ~い!」
その後を、風を纏った一人が必死に追う。その様子はとても微笑ましく、楽しげで……まるでながい時をずっと共に過ごしてきたかのような、そんな気安さがあった……。
------------------------------------------------------------------------------------------
王城区画を中心に、放射状にナトラを貫く八つの主要街道。そのうち真南へ一直線に伸びる街道、通称『メリディス通り』は今、微妙に焦げた臭いと不気味なまでの静寂に包まれていた。
……通りを歩く人の姿が見当たらないのは、まあ理解できる。これほど激しい嵐の中を好き好んでほっつき歩く殊勝な者など、ナトラには誰一人として存在しないからだ。
しかし沿道に建ち並ぶ家々、その閉じ切られた窓々の向こうにさえ人の気配を感じないのはどういう事だろうか。もしや住民は、不測の事態に備えて避難していったのだろうか。
そんな疑問を、
―――バサッ、バサッ……
「キュイッ!」
「……はぁ、はぁ……」
「キュイッ!」
「……ゲホッ、ゲホッ!……はぁ……」
……しかし今の彼女は、とてもそれどころではなかった。
両手はダラリと垂れ下がり、前傾姿勢で息は荒く……今は息を整えるようにゆっくり、ゆっくりと歩いている。どうやら翼竜との追いかけっこで、全ての体力を使い果たしてしまったらしい。
その近くを、今は速度を合わせるように翼竜がゆっくりと飛んでいるのだが……こちらは元気を持て余しているのか、グルグルと宙で旋回を決めてはドヤ顔(?)掛け声付き(?)で翼を広げる、という謎の行動をとり続けていた。
「……キュイ?」
「……ちょっと、はぁ、タンマ、息整え、させて……はぁ……」
「キュウ~、キュイキュイ」
「遊び、足りない、はぁ、って……無茶、言わないで……よ、はぁ……」
涼しげな顔をちょこんと傾げ、翼竜は若干勝ち誇ったように鳴き声をあげる……が、ツッコむ気力ももはやサリアには残っていない。
……
「……はぁ~、やっと落ち着いてきた……」
「キュイ!」
……サリアが本調子を取り戻し、同時に玄関先へと到着したのはそれからおよそ10分後のこと。予想よりも早く家に着いたためか嵐は未だ微風を伴い、小さな水滴を地面へと降り注がせるに留まっていた。
「もう、
しっとり湿った金髪を鬱陶しそうにかき上げ、サリアは小さく溜め息をつく。払われた水滴は小雨と混じり合い、僅少な風ゆえ流される事なく真っ直ぐ地面へと降り立っていく。
「キュウゥ~」
……そして、ちょっぴり残念そうに翼竜が鳴き返す。この強まりゆく雨風の中、しかも病み上がりでまだ
まあ、サリアも『今日は』と言うあたり満更でもなさそうで、追いかけっこ自体はまたやりたいのであろう。純粋に楽しかったのか、負けたのが悔しかったのか……。
「………」
「……キュイ?」
……彼女のジト目を見る限り、どうやら
「……サリア様!?」
次いで聞き覚えのある声が、家の方から上がる。驚きの声色が強く混ざってなお、耳にスッと馴染む柔らかい声質。
そんな特徴的な声の持ち主を、少なくともサリアは一人しか知らない。
……やはり、そこにいたのはレジーナであった。サリアを見てびっくり、さらにその横を飛ぶ鈍色のワイバーンを見て二度びっくりした様子ながら、雨も厭わずこちらに向かって駆けてくる。
「どこへ行かれていたのですか!? お怪我はありませんか!? というよりそのワイバーンは!?」
そして二人のもとに着くなり、心配度が臨界点を振り切っていたのかひたすらに捲し立ててきた。
「ちょ、ちょっとレジーナ落ち着いて……私は大丈b」
「これで落ち着いてなどいられますか!? 崖崩れ、火災、落雷と聞くたびに、私がどれほど心配したか……!!」
「だから、私は平気だってば。ほら、怪我とかもしてないし……」
「……あらあら、どこに行ったのかと思えば……まあ」
サリアの背筋に悪寒が走る。一聴すると優しげなのに、よくよく聞くと柔らかさや穏やかさなどという、明るい感情を相手に感じさせるような要素が一切含まれていない。
……サリアの耳に届いたのは、そんな恐ろしい声だった。エルフ特有の優れた聴覚ゆえ、聞き逃す事さえできはしない。
「これはまた、大きな拾いものをしたものねぇ……」
おそらくは、レジーナの声を聞きつけて来たのであろう。
その恐ろしい声の主……レイラが、コツ、コツと靴の音を立てながら近付いてくる。
なんとも素敵な、満面の笑顔で。
まあ、その瞳は今にもこちらを視線で撃ち抜いてきそうなほどに、憤怒の念で満ち満ちていたのだが。
……というより、渦巻く風属性の魔素がレイラの周りにはっきりと見えている時点で、相当ヤバい事は確定的に明らかだった。
「……見た事の無い色だけどその子、ワイバーンの子供よね? どこで拾ってきたのかしら?」
内心焦るサリアだが、それを決しておくびには出さない。もし万が一にも出してしまえば……。
「……す……に………」
自分の身に降りかかるであろう、避け得ぬ恐ろしい未来への慄然とした思いでサリアは頭が一杯だった。サリアの経験上、こういう表情をレイラが浮かべた時は決まって雷を落とされていた(レイラの場合、比喩でなく本当に雷が飛んでくる。傷が付かないよう加減はしてくれるが、メチャクチャ痛いらしい)ので、少しでもそのダメージが少なくなるよう思考力をフル稼働させていた。
……だからだろう。うつ向くサリアは、無意識の内に何事かを口走る。
「!!!」
思考の海に沈んだ意識は、己の変化に対してさえ驚くほど鈍感になるもの。サリア本人は何と返したのか、そもそも口を動かし言葉を発した事にすら気付いてはいない。
ゆえに、レイラから立て続けに飛んでくるであろう怒りの言葉に身を構え……、
「………………」
……それが一向にやって来ない事に、しばらく経ってから気付く。
「……お母さん?」
おそるおそると、サリアは顔を上げる。その眼に一瞬だけ、レイラに浮かんだ驚愕の色を映す。
「! ……なんでもないわ、早く入りなさい」
「……へっ?」
しかしそれはすぐに消え失せ、後に残ったのはいつもの優しげな瞳の色だけ。怒りに染まり、強いプレッシャーを振り撒いた彼女はどこへやら……今の彼女からは、そんな雰囲気など一切感じ取れなくなっていた。
「まったく、外套の中までずぶ濡れ砂まみれじゃないの……早くしなさい、風邪引いても知らないわよ?」
「う、うん……?」
強い緊張から解き放たれ、半ば放心状態となっていたサリアをレイラの言葉が現実に引き戻す。
……じっと母親の顔を見つめるが、やはりその目は凪いだまま。最初から怒りなど無かったかのように、至って平穏そのものだ。
そんな母親の反応は、サリアにとってはあまりにも予想外に過ぎた。過ぎたが、これならむしろ丁度いい……。
「……その子と一緒に、お風呂にでも入ってきなさい」
「「
口を開こうとしたサリアへ向けて、更なる想定外の出来事が追加されていく。
……家に翼竜を置いてもらうよう説得する前に、なんとレイラの方からあっさり許可が出てしまったのだ。サリアから思わず驚きの声が漏れてしまうのも、ある意味で当然であろう。
「い、いいの……?」
「あら、いいって言うまで意地でも粘るつもりだったんでしょう? 手間が省けて良かったじゃないの」
「うっ、た、確かにそうなんだけど……」
聞き間違いかと確認するも、笑みを浮かべたレイラから図星を突く言葉が返る。あまりにも自然に、当然のように言うものだからサリアも狼狽を隠し切れない。
思考が透けて見られているのではと勘繰るほどに、サリアの欲しかった言葉が次々出てくるこの状況。だがレイラの性格を鑑みるに、手放しで喜んでいいものかどうか悩ましい。
……そうしてウンウン唸るサリアの様子を、レイラは何とも楽しげに見つめていた。
「でも……そうね、本当にその子の事を想うなら親はちゃんと探してあげなさい。次の休みにでも、
「……うん、分かってる」
「了解、それが分かってるなら言う事は無いわね。……さてと、お風呂は沸いてるから温まってらっしゃい」
「「
レイラとレジーナの脇を通り過ぎ、その後ろを翼竜がピッタリ付いていく。
そして、玄関扉のノブにサリアが手をかけ……、
「……あ、そうそうサリア?」
「なあに?」
「玄関扉、サリアのせいで壊れたみたいだから直しておいてね。もちろん今日中に♪」
……振り向くサリアに向けられた、それはそれは素敵な笑顔。今の今まで気付かなかったが、玄関扉をよく見ると若干斜めに傾いている……ような気がした。
「……はい」
「……キュイ」
……まあ、リアル雷を落とされるよりはいいか。余計な事を言って、せっかく鎮火したのに怒りを煽る事もないし。
そう考えたかは見た目では分からないが、とりあえずサリアは言葉少なめにそそくさと扉を開け、ギィギィと蝶番あたりが鳴るのを無視して中へと入っていった。
「……そういえばずっと静かだったけど、どうしたの?」
「キュウゥ……キュイ、キュイ」
「……あ~、なるほどね……」
「………」
「……レイラ様?」
「………………」
「レイラ様!」
「!! ど、どうしたのかしらレジーナさん?」
「それは私の台詞です。どうなさったのですか、ぼうっとして……レイラ様らしくないですよ?」
「……何でもないわ。私は先に入るから、レジーナさんも早く入りましょう?」
……去り行く二人の背中を見つめ、呆けたようにレイラが佇む。雨に叩かれるのも厭わず、その長い金髪が湿気を含んで重くなるのにも気にせずに、ただただその場に立ち尽くす。あれだけころころと浮かべた笑顔も、その時は無表情に近かった。
さすがに変だと感じたのか、レジーナが問い掛けるも反応にキレは無く……張り付けた笑顔を誤魔化すように浮かべると、レイラは早足を玄関へと向けたのであった。
「サリアに『通訳者』のアルスはない……当然よね、あれは
……しかして大きくないレイラの呟きは、道中強まり激しくなりゆく雨音の中に紛れ込み。
「……
誰の耳にも留まる事なく、ゆっくりと消えていった……。
……ちなみに、その後。
レイラとレジーナは玄関から風呂場まで点々と波打つ、砂粒と泥の破線を目撃する事となる。
それは彼女達の怒りが爆発する、およそ40分前の出来事であった……。
はい、お疲れ様です。
本話にて10話投稿、そして先日UA300を達成しました。まずは第一歩という事で、まだまだ物語は続きますが今後とも『始まりのリントヴルム』をよろしくお願いします。
それでは、次回をお楽しみに。