一話目でも少しだけ出た『ペルナ』ですが、1ペルナ ≒ 1円であると考えて下さい。貨幣もほぼ円のソレと同等で、
硬貨で1ペルナ、5ペルナ、10ペルナ、50ペルナ、100ペルナ、500ペルナ。
紙幣で1000ペルナ、5000ペルナ、10000ペルナ、100000ペルナ……となっています。
このあたりの描写が、本話から徐々に出てきますので参考までにお知らせしておきます。
※ 三話目のあらすじ ※
何も告げられず、いつの間にか始まっていたサリアへの最終試験。
ラウルから
……でもレイラさん、もう少し上手く演技して下さい。サリアは気付いてなかったみたいだからいいけど……。
……そしてラウルさん、実はあなたが一番浮かれていたんじゃないですか……?
※ あらすじ終わり ※
それでは、どうぞ。
『彼を知り己を知れば百戦
これは、かつて知将としてその名を馳せた『ソンシ』の言葉である。
……さて、前節では数多くの怪物《レムレース》が
ならば、その次に大切となるのは自身の力量を正確に把握し、身の程を
そしてパトリシアには、己を知るのに最適な『
その結晶の大きさによって、極大、大、中、小……の四段階に分けられており、結晶が大きくなればなるほど提示される項目数が増え、その詳細度も上がる。また、大結晶や極大結晶のものを使用すれば新たな
……ただしその強力さゆえの代償か、
第一に、耐久性の低さ。もともとの脆さもさる事ながら、一番の問題は『何かあると
また、使用回数制限が存在するのもかなり痛い。一部例外はあるものの、中結晶以下で三回、大結晶以上は一回でも使用すると水晶にヒビが入り、やはり即座に砂塵へと帰してしまうのである。
第二に、希少性。中結晶以下は容易に入手可能だが、大結晶・極大結晶は遺構の下層階ですらほとんどお目に掛かれない、超がいくつも付くほどの
……さらに
そして第三に、
しかも、ギルドが用意してくれる
……これらの理由から、
――― セトラ暦1993年、ヨシュア・カーディ著『深淵なる魔法世界・パトリシア ~ 世界遺構探索記 ~』第一章 第二節より ―――
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……今でこそ、王都ナトラはエルフの姿で溢れている。
エルフの里から観光目的で来る者もいるし、研究所や軍隊といった国直属の機関で働く者もいる。中にはレイラのように
魔法にかけては
技術と魔術の融合……今やロワリアス聖王国とエルフの里は蜜月、互いに切っても切れない大切な関係を築き上げているのだ。
しかし、聖王国と里の関係は最初から順風満帆だったわけではない……いや、始めはむしろ互いに憎み合い、相争う関係であった。
理由は全くもって分からない。それがいつから始まったのか、何がきっかけで始まったのか、どうして続いてしまったのか……もはや誰にも分からない。長命種のエルフ、その最長老でさえ知らないのだから、短命種たる人間に知れる道理があるはずもない。
……それでも、まるで生まれた時から戦う事を宿命付けられていたかのように、発端も分からぬ争いは留まるところを知らなかった。
幸いと言うべきか、大規模な衝突は歴史上一度も無かった。小競り合いと呼べる程度の小さな戦いは頻発しており、そのせいで何度も総決戦一歩手前の危機的状態に陥った事はあったが……なんとも不思議な事に、毎回奇跡的な理由で全面衝突は回避されてきた。
……しかし、戦争の火種が常に燻った状態であることに変わりはなかった。両者の間に埋めようのない、深い深い溝があった事は確かだったのだ。
しかし、そんな暗黒の時代も遂に終わりを迎える事となる。
きっかけは、今から約100年前のことだ。
当時のロワリアス聖王国、聖王トールス二世は数々の障害を乗り越え、永年の
詳細はここでは述べないが、当時は修羅場の連続であったと聞く。トールス二世は王族でありながら一流の
それでも彼は、己が信念を貫いた。『同じパトリシアに住む者同士、そして自然を愛する者同士……言葉が通じるのだから、分かり合えないはずがない』との考えのもと、どれほど命を狙われようとも暴力に訴える事は決してせず、ただひたすらにエルフと対話し続けた。
一年が経ち、五年が経ち、十年が経ち……幾度となく死に瀕しても折れない彼に、とうとうエルフの長老の方が折れた。
有り体に言えば、
……だから、やめた。
しかし言葉にすればたったそれだけの事に、十年という人間にとっては決して短くない時と……なにより、トールス二世自身の寿命を失ってしまった。
エルフとの交流が始まり、それが軌道に乗り始めた頃になって……見届けたかのように、トールス二世は静かに息を引き取った。
もはや限界だったのだ。度重なる暗殺未遂で負った傷は相当深く、むしろ
……そう、
……決して、忘れてはいけない。
ロワリアス聖王国とエルフの里、光り輝く共存の未来を切り開いた偉大な王がかつて居た、という事を……。
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雲一つ無い快晴、その昼下がりの歩道。青々と茂る街路樹と街灯(光属性魔素を蓄える『蛍光石』を用いた、
……さて、そんな王都ナトラの歩道だが、アルフォード家がある辺りの区画はどこか見覚えのある柳色のなにかにその大半を覆われている。
そう、先ほどアルフォード家の練兵場で見た
なにせこの柳色、実は
……それでも、この一帯は聖王の住む『ロワリアス王城』の正門にほど近い場所にあり、王都でも特に重要な区画となっているためかそんな非常識がまかり通っているようだ。
「……というわけよ。当然知ってるわよね、サリア?」
「トールス二世……『英雄聖王』って呼ばれてる人の事でしょ? 王族なのに槍術と風属性魔法に優れた上級探索者で、『風傑』って通り名が付いてたって本で読んだ事があるけど……」
「……驚いた、よく知ってるな?」
「
その柳色の上を、アルフォード家の親子三人が水入らずで歩いていく。割と本気で驚いたような様子のラウルの横に、後ろで手を組みニコニコと笑うサリアが並んで歩き、その更に横を上面が白色で下面が黒色の日傘を差したレイラが歩いていた。ちょうど
そして、周囲に人影は無い。強い日差しを嫌ってか、あるいは休日の昼は既にどこかへ出払っているからなのかは分からないが、道を歩く者の姿は三人以外に見当たらなかった。
「……さて、見えたぞサリア。あの大きな建物がそうだ」
「……あれが
家を
……サリアの心がザワザワとざわめく。
単純な土地面積で言えばアルフォード家の約三倍、およそ1200平方メートルはあるだろうか。二階建て以下の建物が大半を占めるロワリアス聖王国にあって、珍しい三階建ての建物は遠目からでも非常によく目立つ。そんな建物を四角く囲うように30本ほどの木が整然と植えられており、その全てが建物の二階まで届こうかというぐらいに大きく、真っ直ぐ立っていた。
そんな建物の正面に、親子三人が立つ。入り口と思しき重厚感溢れる木扉の横には『探索者組合 ロワリアス聖王国支部 本舎屋』と書かれた木札が掲げられており、ここが
「ほんと、いつ見ても立派な建物ね。これで『支部』だなんて言われても、ちょっと信じられないわね」
「冗談抜きで『本部』よりも建物大きいからな、ここの支部は」
「本部よりも大きな支部……」
―――だったら、もうここが本部でいいじゃん
……ふとそう考えてしまったサリアだが、その本部も本部でまた違った風格……というか歴史の重みがある建物なので、一概に比べられるものではないという事を付け加えておこう。
「よし、中に入るぞ」
「……(ゴクリ)」
人間、待ち望んだその瞬間が訪れるとなれば途端に緊張するものである。
それはサリアも例外ではないようで、無意識のうちに生唾を飲み込む。建物が見えた時からザワザワと心がざわめいていたが、そのざわめきが今はより一層強くなっていた。
……先頭のラウルが、扉の取っ手に手をかける。
―――ギイィィィ……
そのまま軽く引くと、年季が入った木の扉から軋んだような音が漏れ出てくる。それでも不思議と手応えは軽い(あくまでラウルの主観だが)ようで、途中で引っかかる事もなくすんなりと扉は開いていった。
……開いた隙間から、サリアがチラッと中を覗き見る。どうやら中はかなり大きな部屋になっているらしく、少しだけ見えた長いカウンターの前には、四本足の椅子が5脚ほど並んでいた。
「ようこそ! シーカーズギル…ド……へ………?」
歓迎の声を聞きながら、ラウル達は扉を開き切って中へと入る。しかし、最初元気だったその声は尻すぼみに小さくなり……後半には、なぜか困惑と驚きとが入り混じったものへと変わっていた。
改めて、サリアは周囲を見渡す。長いカウンターは部屋の
……しかし、それも休日の昼下がりともなれば人影が疎らなせいで、どうにも薄ら寂しい印象が拭えない。ギルドに用のある者がいないだけならまだしも、カウンターを挟んで待機している受付でさえ今は一人しかいないのだから、余計にそう感じてしまう。
「……む、久しぶりだなホリィ。元気だったか?」
ただ一人、カウンターの向こうで書類の束を整理していた女性にラウルが声を掛ける。『ホリィ』と呼ばれたその女性は、どうやら先ほどの声の主らしい。
茶髪茶眼にショートヘアと典型的なロワリアス国民の特徴を体現しており、不思議と見ていて元気になるような可愛い系の顔をしている。微笑みよりも、快活な笑顔の方がはるかに似合いそうな印象だ。年の頃は、見た目の印象だと20代前半といった所であろうか。
また彼女は、多少のファッション性追求や着崩しが許容されているロワリアス支部では珍しく女性職員の制服を素直に着こなしており、黒に近い灰色のロングスカートとカッターシャツ、その上に黄緑色のノースリーブベストを羽織っていた。
「……ラウルさん……いや、ラウル様!? お元気でしたでしょうか!?」
しばらくの間、ラウルの方を向いて唖然としていたホリィ。だが少ししてフリーズ状態から解放されると、若干慌てた様子で立ち上がりラウルへ敬礼を返してきた。
……正直に言おう。敬礼はギリギリ形になっているが、取って付けたような険しい表情の違和感が凄まじく全くもって彼女には似合っていないし、敬語もなんだかおかしい。それ以前に、いくら右手が書類の束で塞がっていると言えども敬礼を左手でやってはいけないと思うのだが……。
……なんというか、無理している感が半端なかった。これにはさすがのラウルも苦笑いを隠せない。
「……前と同じようにしてくれればいいぞ?」
「そう……ですか? では、お言葉に甘えさせてもらいますね!」
奇妙な敬礼状態のまま固まっていたホリィだが、ラウルの一言であっと言う間に氷解する。やはり性に合っていなかったみたいで、すぐに笑顔を取り戻していたが……それを見たラウルの苦笑いがさらに深くなったのは、言うまでもないだろう。
そして、敬語がどことなくおかしいのは元からだという事もこれで判明した。無意識の内に崩れているのか、分かった上でわざと崩しているのか判断に迷うところではあるが……彼女の様子を見る限り、おそらくは前者なのであろう。
「ふふふ、お邪魔しますねホリィさん?」
「あ、レイラさんも、よくぞいらっしゃいました!」
「あら、変わりないようで安心したわ♪」
続いてホリィが、レイラとも挨拶を交わす。どうやらレイラもホリィと旧知の仲であるようで、互いに笑顔を向け合って一言、二言と言葉を交わしていた。
「………」
そんなレイラの後ろに、まるで借りてきた猫のようにおとなしくなったサリアが続く。興味深げに視線を辺りに彷徨わせつつ、レイラのワンピースをキュッと掴んで真横にくっついてきていたのだが……傍から見るとサリアの背が低いせいで、母親へ必死にしがみつく人見知りの子供にしか見えないのは何とも悲しいところである。
……そして、その背の低さがもう一つ、小さな悲劇を生んでいた
「あ、いつまでも話し込んでいてはいけませんね。お仕事お仕事っと……コホン、ラウルさん、レイラさん、本日のご用件は?」
……そう、カウンターの影にサリアの姿がすっぽりと収まってしまったせいで、ホリィはサリアの存在に全く気付かなかったのだ。
「……ホリィ、今日は俺達以外にももう一人いるが……気付いているか?」
「……へ?」
「ほら、私の足元に」
カウンターから、少しだけホリィが身を乗り出す。その目とサリアの視線が重なり、ここにきてようやくホリィがサリアの存在に気付いた。
「……こんにちは」
……軽く会釈をしながらも、憮然とした表情をサリアが浮かべる。頬を膨らませてちょっと不機嫌になっているようだが、ちゃんと挨拶をするあたり流石だとも言える。
「あ、こんにちは……ってレイラさん、その子はもしかして……」
「ええ、サリアよ。最後に会ったのは5歳くらいの時だったから……4年振りくらいかしらね、大きくなったでしょう?」
「はい……」
……どうしたと言うのであろうか。
サリアを見た瞬間、ホリィは笑顔から一転してきょとんとした表情になり……そして何やら思案顔となる。しかも、首を傾げながら舐める……とまではいかないものの、穴が空くほどサリアの全身をじっと見つめていた。しかも色々な角度、様々な方向からである。
この異様な光景にはサリアだけでなく、レイラとラウルさえも困惑する。
「……どうした、ホリィ?」
「あ、いえ。確かに背も大きくなって、本当にご立派になりましたけど……なんというかこう、存在感? というか風格? も凄く大きくなったような……?」
「あら、そんな事まで分かるのかしら?」
「私の『観察眼アルス』も、前よりだいぶ成長しましたからね……
「ほう……」
「……なるほど、これで合点が行きました。今日の用件はズバリ、サリアちゃんの
「……!!」
9歳の子供が
しかしホリィは、サリアの現状をおぼろげながらも見抜き……
「うむ、よく分かったな」
「……ふふ、これでもアドバイザーの端くれですから! では早速準備しますので、こちらに座ってお待ち下さいね、サリアちゃん!」
右手で椅子を差し示し、サリアに向けて軽くウインクを飛ばすと……小走りでホリィは奥へ行ってしまう。
そしてある一点で立ち止まると、
「~~♪~♪~~♪~~」
一応、ラウル達の居る場所からホリィが何をしているのかは見えるのだが……どうやらカードのような物が大量に入っている箱を、鼻歌を歌いながらゴソゴソと漁っているようだ。ついでに前の棚からも、何やらキラキラした無色透明な水晶らしきものを手にとってはむぅ~と唸り、それを棚の同じ場所に戻している。おそらくあれが
「~♪♪♪~♪~~♪~♪~」
「……ねえお父さん、ホリィさんっていつもあんな感じなの?」
「ああ、普段はあんな感じだが……彼女は優秀だぞ? 本人は『端くれ』だなどと謙遜しているがな」
「適当なように見えて、締める時はきっちり締めてくれるのよね。知識も豊富で人を見抜く目も確か、アドバイザーとしてこの上なく有能よ」
アドバイザーとは、文字通り
……ただの助言と、侮るなかれ。命がけの冒険をする
だからこそアドバイザーは、自身が担当する
そしてラウルとレイラ曰く、ホリィは『普段の口調や言動は軽いが豊富な知識を持っており、本当に危ないと思った時はきっちり止めてくれる優秀なアドバイザー』。
……しかし、三人がそうやって会話を交わしている間。
ホリィは
手持ちぶさたな三人だったが、しばらくその後ろ姿を眺めながらのんびりする事にしたようだ……。
はい、お疲れ様です。
予定では、ホリィさんとのやり取りを一話で終わらせるつもりだったんですがね……。
書いていて、15000文字を超えた辺りからちょっとマズイんじゃないかと思いまして……仕方がないので二話に分けようと思った次第です、はい。
妙な所で本話が切れているのは、主にそれが原因です。字数的にもココがちょうど良かったのと、ココしか切るタイミングが無かったもので……。
……そういう訳で、とりあえず次回もまだ遺構には潜れません(最初書いた時の後書きには、『ようやく次回で潜れます( `д´)キリッ』なんて書いてましたけど無理でした)。ああ、早くサリアを
……それでは、次回をお楽しみに。