始まりのリンドヴルム   作:SUN_RISE

5 / 10
前書き内となりますが、少しだけ補足を。

遺構の説明でよく『上層(階)』『中層(階)』『下層(階)』『深層(階)』などと書いていますが、設定上

上層階:第1~14階層
中層階:第15~29階層
下層階:第30~44階層
深層階:第45~?階層

と明確に定めていますので、可能ならば頭の片隅にでもこの事を置いて、本小説を読んで頂けるとありがたいです。

……そうすれば、小説内のキャラがとる様々な行動がどれぐらい危険な事か、ある程度分かるようになりますよ?
ま、例外もちょくちょくありますが。

あと、今回は会話がメインになるのですが……実は私、こういう文章を少々苦手としていまして……。
……不自然な所がありましたら、遠慮なくご指摘下さいね?



※ 四話目のあらすじ ※

探索者組合(シーカーズ・ギルド)、ロワリアス聖王国支部までやってきた三人。
本部よりも大きいと噂の建物の中は、休日の昼下がりであるためかほとんど人はおらず……。

ラウルやレイラからも『優秀』と評される、敏腕(?)アドバイザーだけがそこに居た。
そんな彼女の導きで、探索者登録へと臨む事になったサリア。待ちに待った瞬間まで、後少しである。





……背、頑張って伸ばそうなサリア。多分5年もすればそこそこ大きくなるとは思うけど……。
居るのに気付いてもらえない、というのは確かに悲しいよね……。

※ あらすじ終わり ※



それでは、どうぞ。



五ノ譚:独自技能(アルス・オリジン)

『芸は身を助ける』

 

これは、文字通り『秀でた一芸を身につけておけば、いつか困難に陥った時に我が身を助けてくれる』という意味合いを持つ言葉である。探索者(シーカー)という命がけの職業に身を置く中で、この言葉に実感を覚えた者も多いのではないだろうか。

間違いなく、私もその一人である。長い探索者(シーカー)人生の中、命の危機に陥った経験は数知れず……その度に自らの全てをフル稼働させ、仲間と協力しながら窮地を切り抜けてきたのだ。

 

……そんな中で私が最後まで生き残れたのは、ひとえに『アルス(技能)』のお陰であろうと私は思う。

 

アルスという言葉自体は広く知られているが、その実体となると詳しく知っている者は少ない。初級探索者はおろか、上級探索者でさえも『あれば便利』程度にしか考えておらず、ぞんざいに扱っている者が非常に多いのである。

そして、私も途中まではそう考えていた。私が持っていたランク1(基礎アルス)の『剣術の心得』と『地属性魔法の心得』は、確かに『剣技』と『地属性魔法』という強みを私に与えてくれたが……それしかできない探索者にはなりたくないと、あの時の私は考えていた。ゆえに当時は、様々に得物を持ち代えながら探索を行っていたものである。

 

……その考えが大きく変わったのは、偶然『剣術の心得』アルスがランク2(発展アルス)の『剣豪』アルスへとランクアップを果たし……その後、最初に剣を振るった時だった。

当時、私はラクスタ皇国にある霧深き遺構『白霧のネイベル』を中心に探索を行っていたのだが……そこの中層階に出てくる『ヘイズナー』という怪物(レムレース)に苦戦を強いられていた。霧にまぎれる保護色のような体に、同色の盾・剣を装備するヘイズナーは守りが堅く……アルスがランクアップする前は盾の防御に阻まれ、どの得物を使っても一撃で仕留める事ができなかった。

だが、アルスが『剣豪』へとランクアップを果たした途端に状況は一変した。全く同じ剣、全く同じレベルだったにも関わらず、構えた盾ごとヘイズナーを一刀両断できるようになったのだ。それからは剣を主として使い、結果としてネイベルの探索は大幅に楽になったものだ。

 

 

 

……確かに、アルスに頼らずとも遺構探索は十分にできる。あえて様々な得物を操り臨機応変に怪物(レムレース)と戦うのも、選択肢としては十分にアリだと私は思う。

だが遺構とは、常識が通用しない一種の異空間のようなものだ。下層に潜るほど危険な怪物(レムレース)と戦う機会は増え、緊急事態(イレギュラー)に遭遇する可能性も確実に高まっていく。そんな時、己が持つ最優の技能……すなわち『アルス』の効果が、閉塞した状況を打開する突破口となる事もあるのだ。

それを体感として知っているからこそ、私からこの言葉を重ねて進言しておこう。

 

 

……『(アルス)()を助ける』と。

 

 

――― セトラ暦1993年、ヨシュア・カーディ著『深淵なる魔法世界・パトリシア ~ 世界遺構探索記 ~』第一章 第三節より ―――

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……すみません、お待たせしました!」

 

あれだけウンウン唸り、手に取ったカードや水晶を心底気に入らなさそうな目で眺めていたホリィが、ようやくカウンターへと戻ってきた。10分以上は探っていただろう、そのぶん右手に持ったハガキ半分サイズぐらいの白紙のカードも、左手に持った拳大の査水晶(インスペクト・クリスタル)も、無造作に箱へと詰められていたにしては汚れの少ない綺麗な物であった。

 

「随分と時間がかかってたな?」

「いえ、うちの部署は整理整頓の下手な人が多くて……まあ、私もなんですけど。そのせいで、綺麗なカードを探すのにだいぶ時間を取られてしまいました。本当にすみません」

「いや、気にしなくても良い」

 

深く頭を下げるホリィだが、別にラウルはそこまで怒ってはいなかった。むしろ『せっかくの新規登録だから、サリアちゃんを綺麗なカードできっちり迎えてあげたい』というホリィの細やかな心遣いが見てとれ、ありがたい気持ちになっていたぐらいである。

 

……まあ、同時に『整理整頓ぐらいはちゃんとしてくれ』とも思っていたようだが。しかしそれは、『整理整頓』などと称して自室の家具一切を木っ端微塵に消滅させたラウルが言えた事ではないような気が……。

 

「そうですか……ではお時間も取らせてしまいましたし、早速始めましょうか」

 

……この話は置いておこう。

とにかく、頭を上げたホリィはカウンターの前へ行き、サリアと向かい合って座る。そのままサリアの前にカードを置き……更にその上へ、査水晶(インスペクト・クリスタル)を重ねて置く。水晶を置く時にカードがグニャリと折れ曲がってしまったのだが、特殊な材質で出来ているのか異様なほど弾力性があり、ペシンという音を立てていつの間にか元の形に戻っていた。

 

「ふう……さて、それではサリア()()、この水晶に手を置いて下さい」

 

……ここで、ホリィの纏う雰囲気が明らかに変わる。屈託のない笑顔は柔らかなものへと変わり……その口調も、明らかな仕事用のそれへと切り替えていた。

彼女は『アドバイザー』として業務する時、いつもこのような調子である。本人は特に意識しているわけではないそうだが……おそらく責任感が自然とそうさせるのだろうとは、その本人(ホリィ)の談である。

 

「………」

 

とりあえずサリアは、言われた通りに水晶へ手を置いた。

……しかし、特に何かが起きるような気配はない。まだ他にやる事があるのだろうか。

 

「そのまま、魔力を水晶に込めて下さい。急ぎ過ぎると査水晶(インスペクト・クリスタル)が割れてしまうので、ゆっくりでお願いしますね?」

「……こう、かな?」

 

言われた通りに、サリアは魔力を水晶に込めていく。空気中の魔素を取り込み、自分に適()した形態()へと変換し……それを水晶にゆっくりと流し込んでいく。

言葉にすると何とも難しい事をしているように感じるが、ある程度練習すれば魔法が不得手な者でもできる事らしい……というより、これができないと魔具(アーティファクト)が起動できないので、できるように練習するのだとか。

もっとも、日々の訓練でこれより更に難しい魔力操作……すなわち魔法を発動していたサリアにとって、この程度は造作もない事であったのだが。

 

……魔力が注がれていくと共に、水晶の輝きが心なしか増してきているように感じる。しかし、まだ何も起きない。

 

「……あ」

 

そう思っていた矢先、水晶に大きな変化が訪れる。唐突に強く、白く光り始めたかと思うと……そのまま音も無く、下に敷いたカードへ溶けるように吸い込まれていったのだ。

それと同時に、カードの表面には黒色のシミのようなものがポツポツと現れ始める。まるで適当にインクを垂らしたかのように雑多なそれは、やがてカード上を流れるようにモゾモゾと移動し始め……意味ある記号(文字)へと、徐々にその形を変化させていく。

 

 

 

……しばらくすると、カウンターの上には綺麗な文字が並んだ一枚のカードが残った。結晶は完全にカードへと溶け込み、既に影も形もない。なんとも不思議な現象である。

 

「……はい、これで探索者(シーカー)登録は完了です。こちらがサリアさんのギルドカードになりますので、無くさないように気をつけて下さいね?」

「えっ、もう? 紙にひたすら名前と住所を書くとか、すごく面倒くさい事を想像してたんですけど……」

「少し前までは、そうだったんですけどね……今はカウンターの下に、自動読取機というのがあるんですよ」

 

ちょうど自身の足元、カウンターの下あたりをホリィが指差す。おそらくは、そこにホリィの言う文明の利器(自動読取機)という物があるのだろう。

……しかし、当然ながらその場所は、ラウル達の位置からは一切見えない。

 

「……そんな所に置いてあるものが、見えるわけがなかろう」

「……コホン、とにかく、今のでサリアちゃんの探索者(シーカー)登録は済みました。続けて、初期登録者への説明に入りますね」

「……は、はい」

 

一瞬微妙な空気が流れたが、ホリィはそれをやんわりと、しかし強引に断ち切る。話が(こじ)れるのも面倒だったので、サリアは今のを無かった事に(スルー)してカードへと手を伸ばした。

 

……カードの表面(おもてめん)を覗き込む。そこ(表面)には……

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

◇氏名◇

サリア・アルフォード

 

◇性別◇

 

◇種族◇

ハーフエルフ

 

◇IDナンバー◇

683113K

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

……との文字が。

 

「……あれ、思ったよりもあっさりしてる? もっとこう、文字がビッシリなのかなって思ってました」

「ああ、そこ(表面)には基本情報だけが書かれてますよ? 探索者(シーカー)として大事な情報は、全て裏面記載になってますから」

 

そう言われ、サリアはカードをひっくり返して裏面を見る。

……しかしどこからどう見ても白紙、何も書かれていない真っ白である。

 

「あの、真っ白なんですけど……」

「カードに魔力を込めてみて下さい。セキュリティ面も考慮して、所持者本人の魔力にのみ反応して文字が浮かび上がる仕組みになってます」

 

どうやら、査水晶(インスペクト・クリスタル)に込めた魔力パターンとでも言うべきものを、カードに記憶させて利用しているらしい。生体認証機能とでも呼ぶべきであろうか、なんとも便利な機能である。

それならばと、サリアはカードにも先ほどと同じように魔力を込めていく。

 

……変化はすぐに起きた。真っ白だった裏面に、徐々に文字が浮かび上がっていき……

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

◇レベル◇

Lv.18

 

◇クラス◇

魔法戦士

・魔法を使いこなす戦士

・前衛よりも後衛が得意

 

◇所持アルス◇

①武術一般(ランク1):Pt.0

・あらゆる武器の取扱に対し巧化補正

・手に持った武器自体の強化補正

 

②魔匠の娘(ランク2):Pt.0

・あらゆる魔法の使用時に強化補正

・魔法早期修得

・Pt上昇に伴う詠唱並行行動の解禁

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

……表記を覗き見たホリィの、その笑顔が一瞬引きつる。

 

「……えっと。ではサリアさん、いくつか質問しても?」

「なんですか?」

「念のため確認ですが、サリアさんは一度も遺構に潜った事が無いんですよね?」

「はい、ありません」

「では、9歳の子の平均レベルが大体6ぐらいだという事は知ってますか?」

「えっと、確かそれぐらいだったような覚えはあります」

「……一体、何をどうしたらこんなレベルに?」

「多分ですけど、お父さんとお母さんと訓練したからだと思います」

「………」

―――どれだけ厳しい訓練積んだらこうなるの……?

 

何度見返しても、そこにあるのは平均の3倍(レベル18)という規格外にもほどがある値。心の中で素の口調に戻り、ホリィが声を上げるのも無理はない。むしろ、それが表に出なかっただけでも大したものである。

 

……その一方で、ラウル達との付き合いが長い彼女には納得できる部分もあった。

 

ラウル達は、昔から色々と……実力も考え方も何もかもが、並の探索者(シーカー)達とは一線を画していた。そのせいで仲間に求める実力も相当に高く……結局はそれに誰も応えられず、遺構探索にいつも二人で行くほどであった。

そんな二人がサリアに求めたレベルも、当然のように高かっただろう。ホリィには想像する事しかできなかったが、サリアが相当厳しい基準を二人から突きつけられたであろう事は容易に想像できた。

そして、その厳しい基準を満たすため努力した結果がこれであり……だからこそ二人は、娘に探索者(シーカー)となる事を許したのであろうから。

だから、このレベル(レベル18)にも納得できる部分はあった。

 

 

……もっとも、それが一年足らずで成された事だと知ったら、ホリィは一体どのような顔をするだろうか……。

 

 

……とりあえずホリィは、これ以上の詮索はしない事に決めたようだ。子供とは言えそれなりの実力、それこそ上層階の怪物(レムレース)なら余裕をもって倒せる程度の、最低限の実力を備えているのは確かなのだから。

 

「……そうですか、分かりました。次に『クラス』ですが、これがどのようなものか分かりますか?」

「えっと、その人の得意分野を表す称号……というか肩書のようなものですか?」

「うーん、半分くらい正解ですね。確かに、クラスを『肩書き』や『称号』と考える方は多いですが……これ、実は非常に重要な情報源なんですよ?」

「む、それは初耳だな。そんなに重要なものなのか?」

「はい。その人の得手不得手はもちろんのこと、性格や人となり、果ては将来性といった事も、クラスを見ればある程度は判断できますよ? それで、サリアさんのクラス『魔法戦士』についてですが……」

 

一旦言葉を切り、ホリィは何かを考えるような仕草を見せながら、カードの文面に目を走らせる。それは悩んでいるというより、何かしらの結論を頭の中で組み立てているかのような……そんな様子であった。

 

……数秒ほど、そうしていたホリィ。

その口がようやく開いた時には、なぜか少しだけ驚きが混じったような表情になっていた。

 

「……魔法戦士とは、文字通り『魔法が使える戦士』を表すクラスです。メインはあくまでも戦士(前衛)の方で、そこに多少なりとも魔法(後衛)の素養があれば『魔法戦士』になる……というのが、本来の形です」

 

……サリアのギルドカードをもう一度見て、ホリィは小さく溜め息を吐く。

 

「しかし、サリアさんは魔法戦士の中でも『魔法(後衛)の方が得意な戦士(前衛)』であると書いてあります。つまり、本来のメインである『戦士』としてはそれなり(一人前)以上、サブであるはずの『魔術士』としてはそれ以上(一流)の素質がある……という事になりますね」

「前中後衛どこでもできる、後衛寄りの万能型といったところか。俺としては、魔法の方が得意というのは複雑な気分だが……」

「ふふふ、さすがは私達の娘ってところかしらね」

「ただ、素質があるとは言えサリアさんは9歳。レベルも()()18ですから、無理は禁物ですよ?」

 

 

 

「はい、気を付けます」

 

探索者(シーカー)達の間には、『30で一端(いっぱし)、50で一流、70超えたら超一流』という言葉がある。意味はそのまま、レベル30で一人前の探索者(中級探索者)、レベル50で一流の探索者(上級探索者)、レベル70で超一流の探索者(最上級探索者)だと認めてもらえる……という事である。

そして、今のサリア(レベル18)は『9歳にしてはレベルが高い』というだけで、探索者(シーカー)として見れば一人前にも満たない初級探索者(半人前)。当然ながら、遺構に潜った経験も無い。

だからこそホリィは、念のために『無理はするな』と勧告した。年齢が低いという事は、それだけ『感情の制御が(つたな)い事』をも意味しているのだと……誰よりもホリィは良く知っていたから。

 

「まあ、一人で遺構に行かせるような事はしないから安心してくれ」

「しばらくは、私かラウルさんが必ず付いていくようにするから大丈夫よ」

「……お二人がそうおっしゃるのであれば、私から言う事は何もありませんね」

 

もちろん、ラウル達もその事は分かっていたらしい。

それならば言う事は無いと、ホリィはこちらの話も切り上げる事にした。残るは、最後の項目だけである。

 

「さて、最後にアルス(技能)ですが……説明は必要ですか?」

「せっかくだしお願いするわ、ホリィさん。サリアも査水晶(インスペクト・クリスタル)は初めてで、アルスはまだ知らない事が多いみたいだから」

「分かりました、少し長いですがよく聞いて下さいね、サリアさん。アルスとは特定の状況下において効果を発揮する、特殊能力のようなものです。誰もが生まれつき一つ、ないし二つ持っていて、査水晶(インスペクト・クリスタル)の大結晶以上を使う事で新たなアルスを取得する事もできます。またアルスには『ランク』というものがあり、その強さに応じて『ランク1(基礎アルス)』『ランク2(発展アルス)』『ランク3(熟練アルス)』の3段階に分けられています。アルスによっては『ランクアップ』といって、非常に厳しい条件を満たすと1ランク上の関連するアルスに変化する事もありますね……ここまでは大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「分かりました、では続けますね。アルスは、レベルに応じて得られる『アルスポイント』を割り振る事で強化できます。この割り振りは査水晶(インスペクト・クリスタル)を使う事で出来ますので、また後ほどしましょう。一応、アルス名の横の『Pt.0』と書かれた部分が、割り振ったポイントの数を表しています。アルスについては以上になりますね」

 

そこで、ホリィは改めてサリアのギルドカードを見る。最後となる『所持アルス』の欄に目を向けると、特に考える事もなくその文面を読み上げていく。

 

「それで、サリアさんのアルスですが……なるほど、『武術一般』と『魔匠の娘』ですか。最初からランク2のアルス持ちという方は珍しいですね……ん? あれ?」

 

そこまで言って、ホリィは自分の言葉になにか引っ掛かりを覚えたらしい。サリアのギルドカードを上から順番にもう一度眺め……再び所持アルスの欄に目が止まる。

 

―――武術一般って、どこか見覚えが……!?

「『武術一般』って、よく見たらラウルさんの『独自技能(アルス・オリジン)』じゃないの!?」

 

驚愕に顔を歪ませ、今度こそホリィは素の口調に戻って叫んでしまう。もはや、心の声で押し留める事はできなかったらしい。

……独自技能(アルス・オリジン)とは、言ってしまえば世界でただ一人しか持っていない(それ以外の所持者が確認されていない)超希少アルスの事。概して普通のアルスよりも強力だが、発現の報告数は両手の指で数えられるほどしかない。その少ない報告も、全てが『大結晶の査水晶(インスペクト・クリスタル)を使ったら偶然発現した』か『アルスがランクアップしたらなぜか独自技能(アルス・オリジン)になった』という内容ばかりであった。親子で独自技能(アルス・オリジン)が遺伝したというような報告も、今までは無かった。

それなのに遺構に潜った事がない……いや、それ以前に査水晶(インスペクト・クリスタル)を使った事もないような(サリア)独自技能(アルス・オリジン)を所持している。それは、まさしく前代未聞の出来事であった。

 

「いや、俺が持っているのはランク3の『武術全般』だ。『武術一般』はランクアップ前のアルスだぞ?」

「ラウルさん、そういう問題じゃ……って、よく見たらこっち(『魔匠の娘』)も!? この歳で独自技能(アルス・オリジン)、しかも二つも持ってる人なんて、私聞いたことありませんよ!?」

「え、そうなのお父さん?」

「そうだったか? このアルス(武術○○アルス)とは付き合い長いからな、よく分からん」

「私達の娘ですもの、これくらいは当たり前でしょう?」

「え、ええ……?」

―――やっぱりこの人達、何かが違う……

 

喉まで出かかった『おかしい』の一言を、ホリィはどうにか飲み込む事ができた。ここまでのやり取りで若干嫌な予感はしていたようだが……サリアも少々、いやだいぶ二人に毒されてしまっているらしい。

ただし、何度も言うようだがラウルとレイラは並の探索者(シーカー)ではない。どちらも()()()()()()の|超一流探索者として名を馳せていたのだ。そんな二人を見て育ち、あまつさえ彼らが提示した基準(実力)を満たしてギルドへ来たサリアが、普通程度のレベルで収まるはずがないのはちょっと考えれば分かる事だったかもしれない。

 

「……はあ……」

―――これは、いよいよ本格的に責任重大ね……

 

高いレベル、優れたクラス、そして独自技能(アルス・オリジン)……もはや疑いようもなく、サリアの潜在能力は抜群に高い。それこそ、数百年に一人の逸材と言っても過言ではないだろう。このまま探索者(シーカー)として順当に成長し、そして良い仲間に恵まれたとなれば……史上初めての遺構最深部到達者となれるかもしれない、とまでホリィは考えていた。

……ただしそれは、裏を返せば『サリアを失う = 遺構踏破を目指すギルドにとっては、数百年に一度のチャンスを失う』事である、とも言える。言い方が物凄く悪い事を覚悟で言うが、有象無象の探索者(シーカー)が死ぬのとサリアが死ぬのとでは、ギルドから見れば重みが全く違うのだ。

ゆえに、サリアの担当アドバイザーとなる者には高い能力が求められる……と同時に、途轍もなく重い責任がのしかかるであろう事は想像に難くない。こう言ってはなんだが、よほどの理由がない限り誰もやりたがらないだろう。

そして今、この場にアドバイザーの資格を持ったギルド職員はホリィしかいない。そもそもロワリアス支部には、ホリィ以上に優秀なアドバイザーはおらず……しかもサリアの両親とホリィとは知り合い同士である。

 

―――ここまでくると、『運命』だって言われても信じちゃいそうよ……

 

袖振り合うも多生の縁とは言うが……彼ら親子(アルフォード家)とホリィとは、どうやら強い縁で結ばれているらしい。(ラウル・レイラ)の担当アドバイザーだけで終わるかと思えば、今こうして子供(サリア)探索者(シーカー)登録まで担当しているのだから、その縁糸(えにし)が相当に太いのは間違いない。

しかも、探索者として超一流だった(ラウル・レイラ)子供(サリア)もまた超一流……いやもしかすると親を超える逸材になるかもしれない、文字通りの規格外な存在だったのだ。

 

 

―――なら、そんなサリアを明るい未来をへと導く事は、もしかしたら私の役割なのかもしれない……

 

 

……そうホリィが考えたかどうかは、残念ながら本人にしか分からない。

分からないが……少なくとも彼女の目に、大海の奔流でも消せないであろう強き決意の炎が灯った事だけは分かった。

 

―――どうせなら、とことんまで付き合ってみますか! 覚悟しなさい遺構よ、私の矜持(きょうじ)にかけて絶対にこの子(サリア)は死なせないから!

 

「……えっと、ホリィさんどうしました?」

「あ、いえ、大丈夫ですよサリアちゃ……いや、サリアさん。サリアさんのアルスについては、多分ですけどラウルさん方のほうがよくご存知なのではありませんか?」

「ああ、もとはと言えば俺達のアルスだからな。それは俺達からしっかり教えておこう」

「では、私から言える事は特にありませんね。これで説明を終わりますが……その前に質問はありますか、サリアさん?」

「えっと……今は無いです」

「はい、了解です。……ではでは、今後は私がサリア()()()の担当アドバイザーを務めますから、どうかよろしくお願いしますね♪」

 

仕事用スマイル(アドバイザー)から、ホリィ本来の快活な笑顔(いちギルド職員)へと戻る。

 

「ああ。また世話になるな、ホリィ」

「ホリィさんなら、安心してサリアを任せられるわ。またよろしくね?」

「はい、確かに任されました……っと、忘れないうちに。ラウルさん、()()を下さい」

「……あ、ああ。登録料10000ペルナだろう? ()()()ちゃんと持ってきたから安心してくれ」

「了解です。あ、あとサリアちゃん、今のうちにアルス強化しておきましょうか」

「あ、はいお願いします、えーと……」

「あ、ギルドカードをここに置いてくれる?」

 

サリアがカウンターにカードを置く。対してホリィは引き出しから小さな査水晶(インスペクト・クリスタル)を取り出し、それをギルドカードの上に置く。カードを作る時は拳大の結晶(中結晶)を使っていたが、今度はビー玉を一回り大きくしたぐらいの結晶(小結晶)となっていた。

ギルドカード新規作成・情報更新には情報精度の高い中結晶を使い、アルス強化のみが目的の場合は小結晶を使う……300ペルナほどしか値段差はないが、チリも積もれば何とやらという事で一応のコスト削減策なのだそうだ。アルス強化とカード情報更新を無料サービスとしているがゆえの、苦肉の策とも言えるが……。

 

 

 

……それはさておき。

アルス強化と一口に言っても、まずは方向性を決めなければ何も始まらない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、ここは慎重に決める必要があるのだ。

 

「私としては、ランクの高い『魔匠の娘』をメインに据える事をお勧めします。サリアちゃんは魔法の方が得意みたいですし、そういう意味でもちょうどいいかと思いますよ?」

「うーん、でも全振りはしない方がいいですよね?」

「おっ、それが分かってるとはさすが! サリアちゃんは両刀使い(物理も魔法もOK)でもありますから、大体2:1の割合で『武術一般』にもポイントを振りましょう」

 

しかしそこは、誰もが認める優秀なアドバイザー(ホリィ)。普段の口調に戻っても、助言は全く淀みなく行われていく。

 

……どうやらこれで、おおよその方向性が決まったらしい。先ほどと同じ手順でサリアが査水晶(インスペクト・クリスタル)に魔力を込めていき……それが光り出すと、サリアが何やらブツブツと呟き始めた。ポイント割り振り量を指定する時は、誰もがこうなるらしい。

サリアのレベルは18なので、アルスポイントも同じ18Ptだけある。最終的に、どのような結論となったのであろうか……。

 

 

……さて、これでサリアは無事探索者(シーカー)となった。あとは近々ラウルかレイラを伴って、初めての遺構探索へと赴くのであろう。

しかしこれは、決して終着点などではない。これからサリアが歩むであろう探索者(シーカー)人生、そのスタートラインに立ったに過ぎないのだ。

ホリィから『数百年に一人の逸材』と、サリアの歩む探索者(シーカー)人生がどのようなものになるのか……。

 

今から、楽しみである。




はい、お疲れ様です。

せっかく伏線……とも呼べないようなお粗末なものですが幾つか仕込みましたし、いつかは過去編(ホリィとラウル・レイラの出会い編)とか書きたいですね。はいそこ、『ホリィって実は何歳?』とか言ってはいけない。


……そしてようやく、ようやく次回で遺構に潜れます。
タグに『残酷な描写』とか入れたのに、残酷という言葉をあさっての方向に投げ捨てたような日常回しか書いてない……という矛盾がこれでやっと解消できます。

それでは、次回をお楽しみに。
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