2016/9/11 誤字修正
2016/11/26 誤字など修正
【『たからもの』と神託】
「ねえ~何を見せてくれるの?」
ある日の昼下がり、どこかの家の蔵らしき倉庫の一室にて2人の女の子がいた。銀髪の女の子が興味津々な様子で黒髪の女の子の様子を見ている。
「『たからもの』だよ~ええと、たしかここに~」
そう言うと『たからもの』を探すために荷物をどけ、日の光しか刺さないため少し薄暗い蔵の中を一生懸命に探す黒髪の女の子。
「あった~」
どうやら目的の物を見つけたらしい。少し埃が被っているが漆塗りのいかにもな箱を持ってきた。
「それが『たからもの』?」
銀髪の女の子の問いに頷く黒髪の女の子。床に箱を置くと蓋を開け、その中の物を大事そうに抱え見せた。
「それってうちわ~?」
「似ているけど違うよ~。これはねえ『軍配団扇』っていうの」
「よくおじいちゃんが見てるお相撲のひとが持ってるやつ?」
「大体はあってるけどこれはね~私の家のすっごい昔のご先祖様が大事にしているものなの。様々な時代の多くの武将さんや軍師さんの手に渡ったいわくつきのものっておじいちゃんが言ってたんだ~」
銀髪の女の子が首を傾げ、黒髪の女の子が自信高々に自慢をする。
「やっぱり■■ちゃん詳しいね~。さっすが歴史を語らせたら私たちのクラスじゃあ右に出る者はいないとも言われるね~」
side:銀髪の女の子
――― 今思えば、この時から私たちの運命が定められていたかもしれない。
西暦2015年7月末、各地で頻発した自然災害により日本が混乱に陥っている中、追い打ちをかけるようにして現れた人類の敵『バーテックス』。かの生命体により人類は絶望の淵へと落とされた。
人類は襲撃直後に形成された結界により難を逃れた。バーテックス襲来と同時に『四国』に現れた樹木『神樹』によるものだ。その樹木は土地神様そのものであり人々はそれを神として崇めた。
2018年9月。その残された安寧の地『四国』にてバーテックスの大規模な進軍が始まった。だがそれはバーテックス襲来直後に覚醒した少女…神々に選ばれた『勇者』たちにより多くの犠牲を払ったもののその進軍は阻止された。
防衛組織が『大赦』という名称に変わり、時は神世紀に変わってからも四国の結界は維持され人々はある意味安息の日々を約束された……その陰には新たに選ばれ続ける『勇者』や神樹の声を聴ける『巫女』の存在も大きいが……ね。
それから幾多の時が経ち神世紀96年。私たちがこうして親友と共に過ごす中、四国の守護を司る神様である『神樹』様によりある神託が彼神を奉る組織『大赦』にもたされたのはこの3年後災厄であるバーテックスが四国に襲来する事。そして、この時私の親友に手に握られたこの『軍配』がある種の未来を切り開く希望であることを。
神世紀99年、ようやく1世紀を迎えるまであと1年と迫ったころ…親友である勇者とそれを支える
side out
――――――――――
【神樹館と転入生】
『神樹館』…旧香川県の小中高の一貫性の学校で世界のすべてである『神樹』の名前がついているためか大赦との関わりが深く格式も高い。
『神樹』とは世界が危機に陥ったころに現れた土着神が集まってできた特殊な樹木でこの四国の世界を支え恵みをもたらす神のような存在である。
この学校には『神樹』を祀る組織『大赦』に深く関わりのある家の物たちで占められていた。
「みなさん、おはようございます」
『おはようございますー!』
4月のある日、始業のベルが鳴り響くと同時に中等部の3年1組に担任の先生が入ってきた。先生の挨拶を生徒たちが返しホームルームが始まる。
「……今日は突然ですが、転入生を紹介したいと思います」
所定の連絡を終えた担任からの一言で教室内がにわかにどよめく。新たな年度が始まって数日しか経っておらず季節外れともいえる転入に生徒たちは明らかに気になっている様子だ。その気持ちを汲んだ担任はさっそく呼ぶことにした。
「それでは2人とも入ってきてください」
教室のドアが開かれる。入って来たのは2人の女の子のようだ。
1人はすらりと長く伸ばした黒髪が特徴的で見た目は一言でいえば大和撫子ともいえる容姿。
もう1人は、長く伸ばした銀髪をポニーテールで黒髪の転入生よりも一回り身長が大きい。見た目は一言でいえば凛とした大人な感じの容姿である。
2人は黒板に自分の名前を書くとクラスの子たちの方へと振り向いた。
「それでは、2人とも簡単に自己紹介を」
「『
「『
「はい。みなさんこの2人と仲良くしてくださいね。2人の席は…後ろに空いている席で隣同士ね」
転入生の2人が席につく、すると担任と生徒たちはいつも通りに神樹様に祈りをささげ感謝を示し1日が始まる。
そして、1限目を終え休み時間。
「ふぅ。授業内容はあんまり変わりはないのですね」
「そうだな。まあ、普通の授業内容だったからな…ん?」
教室中の生徒が信乃と信羽の元へと集まって来た。
「あ、あのう…」
「? どうなされましたか?」
1人の女子生徒が緊張でおどおどとしている中、信乃は安心させるように微笑み優しく聞いた。信羽が集まってきた生徒を一瞥すると何か物珍しそうな様子で見ている事に気づく。それは信乃も同様に思っていた。
「よければ色々とお話ししませんか?」
一団の代表と思われる女生徒が信乃と信羽にその旨を伝える。2人は頷くとその誘いにのった。
「ええ、いいですわよ」
「私もいいぞ」
「それでは。各自が質問して答える形にしましょう。最初は…言い出しっぺのあなたからね」
「は、はい! ええと、お二人はどこから?」
「私と信羽は高知出身ですわ」
「そんなところから」
「では、どうして今の時期に?」
「詳しくは言えない。……だけど、家の都合といったところかな」
「その言い方だとあなた達も大赦関連の?」
「「え?」」
信乃と信羽は互いに顔を合わせると話していいものかと悩む。一団の代表がそれに対して答えた。
「2人とも安心して、誤解のないように言っておくけどあなた達の事はみんな既に先生から聞いているの。だからそう謙遜しなくていいのよ」
それを聞いた信乃と信羽は腹を割ってすべて話すことにした。
「わかりましたわ。……私と信羽は元々は高知の大赦一族の出で」
「こちらに来たのは御役目を賜ったからだ」
クラス中から感慨の声が漏れる。大赦に関わる子が集まっているためか2人はその後、転入生が珍しいこともあってか質問責めにあった。淡々と答えていく2人であったが、
「次はわたし~お二人はお知合いですか? なんかとても仲がよさそうなんですが」
「信羽は私の幼馴染ですわ。物心ついた時から一緒にいますわ」
「ちょ、しののん! ……あっ!」
信乃の答えに信羽は思わず声をあげてしまう。そして、信乃をいつも呼ぶ愛称で呼んでしまいクラス中の女子からキャーと高い歓声があがった。
質問タイムが終わり午前の授業は滞りなく進んだ。授業中でも信乃と信羽の一面が垣間見えた。
「――― であるわけでして」
信乃は数学の授業中、先生が作った小難しい証明課題をあっさりと解いてしまう。さらに、完璧に近い形で且つほかの生徒にも分かり易いよう独自に作成したものを授業中に完成させ提示した。それはその授業担当の先生の舌を巻いた。
(まあ、しののんなら当然だな)
次の体育の授業では、信乃の幼馴染である信羽が魅せた。
「はぁっ!」
「凄い! 信羽さん、地区記録だよ!」
学期が始まったこともありスポーツテストが行われたが、走り高跳びにて完璧なフォームで易々と地区記録を塗り替えた。
「大したことじゃない。実家が武術道場だから人並には鍛えてあるんだ」
という感じで午前の授業は過ぎ去っていき、現在は昼休み、信乃と信羽の2人は仲良くなったクラスの人たちと中庭にて持参した弁当を広げ昼食をとっていた。
「信羽、今日も見事な弁当ですわね」
「初日だからあまり凝ってないぞ」
信羽が作ったお手製の弁当に感慨の声をあげる信乃。手を合わせると昼食に手を付け始める。
「……これ、本当に信羽さんが」
信羽の作った弁当はどれも明らかに手の込んだものであった。
「今日は私が作ったけど信乃もできるぞ」
「信乃さんも……興味あるかも」
「ふふ、それでは今度は私が披露しましょうか」
2人は会話が弾む中、これからお世話になるクラスの印象を呟いた。
(みんないい人そうでよかったね。しののん)
(あぁ、どうなるかと思ったが…これならやっていけそうだ)
――――――――――
【御役目】
昼休みも過ぎ午後の授業も終えた。部活へ向かう者や帰宅する者とで生徒は教室を後にする。そんな中、信乃と信羽は転入直後ということである空き教室にいた。
大赦から御役目を担い神樹館へと転入してきた彼女たちには他の生徒とは違い専門のカリキュラムを受けることになっている。ほどなくして1人の女性教師…所属する3年1組の担任である。
「……揃ってるわね。今日は初日という事で諸説明が主ととなります」
教師が簡単に概要を話すと2人は真剣な表情となる。この神樹館には大赦により御役目を賜っている。信乃と信羽は高知出身の有力な大赦の人間であるためその役目の重さは神樹館の一般的な生徒の比ではない。
それは最も過酷で厳しく、残酷なものである。
「宜しくお願いしますわね。『勇者』一条信乃、『巫女』本山信羽」
彼女たちの特別な授業が始まる。今日は初日という事で特別授業の概要が主である概要が終わった後、授業を1時間分だけ行われた。
「……」
信羽は真剣に授業へ打ち込む信乃の姿を不安げに見つめていた。
特別授業が終わり信乃と信羽は2人は帰路へとついていた。
「……しののん、少しいいか?」
「ん? どうしたのそんな顔をして」
不安げな表情の信羽が信乃へと尋ねる。
「……つらくないのか?」
「急にどうしたのよ?」
神樹に選ばれ敵と戦い四国を守る『勇者』、神樹の声を聞きそれを人々に伝える『巫女』。信乃と信羽は幼い頃、神樹からのご神託でそれに選ばれた。
大赦でもその防衛体制を維持するために一族の少女たちの中から幾多の候補生を既に選び訓練を施していた。
しかし、今回のバーテックス襲来に対して選ばれたのは……、
「だって、私が『勇者』に選ばれていれば…しののんの負担を減らせるのに! どうして、神樹様はしののんだけを」
信乃だけであった。これまで勇者は複数の少女…歴史的に見ても少なくとも3人は選ばれていた。信乃1人だけというのは異例中の異例である。
「神樹様も何かあって私を選んだのでしょう。現に私は歴代最高の適正者って話が」
適性的には信乃は神世紀が始まって以来の最高の勇者適正を持っている。
「だからこそよ! 大赦はしののん1人で戦わせようとしている。四国を守るために仕方がないとはいえ、私は神樹様の声しか聞けない」
信羽も勇者としての適正は高く大赦では勇者の候補者であった。神樹の声を聞ける巫女でもあったが、勇者に選ばれなかったことにある種の後ろめたさをもっていた。
「しののん1人が選ばれるくらいなら…私は「信羽!」…っ!」
声を荒げる信羽を信乃は恫喝する。親友である信羽の事は幼い頃から一緒であるため彼女の心情が手に取るかのように理解していた。
本来信羽はこういうネガティブな事になることは少ない。ようは信乃の身が心配なのだ。現在、選ばれた勇者は信乃1人だ。親友である信乃を1人で戦わたくない事で彼女がため込んだ感情が出てしまったのであろう。
信乃に身に纏う雰囲気が変わる。日常でいつも見せるものではなく、信羽だけが知っている信乃の本質ともいえる部分を。
「信羽は…我を信じれないのか?」
信羽ははっとした表情となる。信乃は決して自分にできない事は言わない。聡明な正確な彼女は非常に頭がまわり自分の事を最も理解している。そして、彼女は冷静にあらゆる事象から自分に出来る事は確固たる自信をもっている事も。
「心配はいらん。神世紀になってから100年近く経ってるし大赦の対バーテックスの技術も進歩している。それもあるし、我は決して
「……そうだね。しののんは決してできない事は言わないから…っ!」
「信乃! どうしたのだ!」
ここで信羽に何かが流れ込む。その流れ込んできた情報を受け止めたためか頭を抱え蹲る。
「……来る」
信羽の先天ともいえる発言と共に信乃の持っているスマホから耳障りな警告音が鳴り響く。その警告音が意味することを知っている。そのため、信羽のとった行動は早かった。懐に御守としてさげている巾着袋からあるものを取り出すと、
「信じてるからな!」
巾着袋に入っていた燧石と硬石…火打石を信乃に向かって打ち付ける。古来火が清浄なものとする考え方から、火打石で火花を起こすことを
その儀式を行った信羽は凍り付いたように動きを止めた。
「来おったか、バーテックス!!」
『樹海化現象』 ――― それは四国に人類の敵『バーテックス』が襲来した際に神樹が四国を守るために樹木のような結界で覆う現象である。今はその第1段階である時間停止である。その中で動けるのは神樹に選ばれた勇者だけである。信羽が動けなくなったのはそれである。
信乃は自らのスマホを取り出し一瞥すると学生鞄からさらしに包まれ厳重に保管されたあるものを取り出す。
それはその昔、信羽に見せた『たからもの』である。信乃はさらしに包まれたそれを解くと漆黒色の軍配が露となる。信乃は天を仰ぎ自らを奮い立たせるように叫んだ。
「信羽…お前の『信』、たしかに受け取ったぞ! 勇者一条信乃、これより四国の防衛に出陣する!!!」
―――――――――――
【災厄の降臨。信乃の初陣】
樹海化現象の第2段階、それは光と共に七色の樹木により四国中が覆われバーテックスの戦場が構成される現象。信乃は今1人樹海に立っていた。
「いざとなると1人不安にはなる…が」
信乃は大赦から教わった通りにスマホの勇者専用アプリを起動させる。光に包まれた信乃の纏う衣装が変化していく。
勇者の戦装束 ――― 神樹の恵みと人類の英知の結晶ともいえるそれは宿した神樹の力により身体能力を格段に向上させ、神の力により専用武器以外でのバーテックスの攻撃が有効となる。これは選ばれた勇者にのみ配信されたアプリに格納されており、有事の際に勇者が戦う意志を神樹に示すことで起動できる。
戦装束は勇者各人で纏うものが異なる。信乃の場合は蝦夷菊を思わせる白を基調としさし色に赤が加わえられており、その背中には蝦夷菊が家紋のように刻まれ、どこかの戦国武将を思わせるような衣装である。その手には大体家に伝わる軍配が握られていた。
「さて…向かうとするか。我の戦場へ」
信乃は数十メートルを一騎に跳躍する。身体能力を強化した勇者なら造作でもない事だ。跳躍し目的地である瀬戸大橋へとたどり着いた信乃は瀬戸大橋と壁の間の揺らぎが見える事に気が付いた。
「律儀に待っていたのか。それとも……」
揺らぎからその正体が姿を現す。不気味な液体を貯蔵する丸い球体上の腹部、蠍と思わせる器官と巨大な針を持つ白き巨体。言うなれば化け物が潜入していた。
「『バーテックス』。よりにもよって、カテゴリー『蠍座』か」
『蠍座』のバーテックス ――― 神世紀になる前の勇者との戦いにて現れたバーテックスでその圧倒的な力は凄まじい。12星座の名を関するこのバーテックスはその昔勇者を倒したほどである。
バーテックスは人を容赦なく襲う特性がある。勇者姿の信乃を見つけるやいなやその尾を振りかざした。
「その尾で何人の勇者を刺し殺したのだ」
信乃は蠍座の形状から敵のパターンを推測する。それと同時に彼女は思った。その特徴的な針でどれほどの勇者を傷つけ、中にはそれで死んでしまった勇者がいるかもしれないと思い浮かんだ。同時に怒りがこみ上げるもうねうねと自在に操る蠍座の猛攻を冷静に観察しながら尾を捌くようにして避ける。
「たぁっ!?」
軍配でカウンター気味に叩き付ける。
【!?・・・?】
蠍座は反撃に怯むが、予想以上に効き目が薄いことに怒ったのか思いっきり叩き付けてきた。それを信乃は後ろに大きく跳んで躱す。
「うむ、やはり無理か」
これは信乃も承知していたようだ。信乃は勇者適正は歴代最高とも言われるほど高いが、反面そのほかの能力は歴代の勇者たちに比べ低い方である。
バーテックスは勇者が1人しかいなくてもその手を緩めることはしない。そしてかの存在は明らかに実力が低い信乃を格下に見ていた。
「やはり我を見下すか。まあ、
信乃が意味深な事を言うと蠍座は尾の針を信乃にめがけ突き刺そうと尾をまた振り上げる。
「よほど我にその針を当てたいと見える」
尾の針を差し込む。音速の超えた刺突は信乃に目掛けて突きこまれる。
【!?】
だが蠍座の刺突は信乃の元へは達しなかった。突如、彼女の目の前に人間大の鎧武者のような存在が大盾を持って出現し、蠍座の刺突は大盾によって防がれた。
「たしかに
さらに蠍座の頭上から幾多の光の矢が降り注ぎ爆発を起こす。いつの間に大橋の上には弓を携えた鎧武者(以下、弓兵)が何人もいた。
「だが我にはな」
信乃の手には小さな人形の物が握られていた。彼女はそれを投げつけるとほのかに光る軍配を振る。人形が光り輝くと先ほど現れた鎧武者へと変わる。その存在の手には刀や槍などの得物が握られていた(以下、足軽)。
「こうして一緒に戦ってくれる者たちがいる。我の後ろには信じて待つ人たちがいる。決して
鎧武者が戦闘態勢をとり信乃を守るかのように陣形を整える。
「各員、戦闘開始! バーテックスを四国から追い出せ!」
信乃の指示と共に弓兵の援護を受け蠍座に接近した鎧武者が各自持った得物でバーテックスの外殻にダメージを与えていく。
この鎧武者たちは信乃がもつ軍配の力により具象化された存在である。信乃の家にあった軍配はその昔戦国時代と呼ばれる日本の戦乱の時代、幾多の戦場・数々の武将に用いられた曰くつきの品で大赦で調べた結果、かつて西暦時代の初代勇者たちが用いていた神の武器に非常に近いものであることが判明した。
その軍配に宿る力は『軍勢を率い、導く』ものである。信乃の凄まじく高い適正により神樹の力を滞りなく使える。その力を有効に使うために大赦の開発した『依代』と呼ばれる人形に軍配の力を込めることで勇者と変わりとなる戦力として行使ができる。
戦闘能力が低い信乃はこの兵隊まるで手足のように操り蠍座のバーテックスを圧倒し始める。だが、バーテックスには再生能力があり外殻を破壊するたびにそのダメージは再生されようとする。
「……射撃班。撃て!」
信乃は再生するのをあらかじめ予測。弓兵に命じ再生個所に集中砲火。バーテックスに再生する間も与えない。
【!!!】
ここでバーテックスは破れかぶれに尾を振りまわし、纏わりつく足軽の1体を貫いた。無情にも貫かれた1体はもがく。貫かれた箇所が腐食しておりしばらくすると元の人形へと戻ってしまった。
「毒…か。どんなものかわからないが喰らいたくはないな」
なおさら、アレを受けたら確実に自らの身はもたないであろう。信乃は戦装束に装備されたポーチのようなものから色のついた『依代』を取り出すと自分の意識を内側に集中させる。
勇者はその神の力を使うために神樹と霊的器官と呼ばれる特殊な器官で繋がっている。信乃は神樹に記録された地上のあらゆる概念的な記憶にアクセスし抽出した。
「『精霊召依』……来い!」
抽出した概念的なある存在と軍配に宿る力を『精霊召依』と呼ぶ切り札を行使するための専用の依代へと込める。すると、信乃の目の前に一回り大きい大男のような武将が具象化された。その手には身の丈もある豪槍が握られていた。
「『本田忠勝』、バーテックスを穿て!」
呼び出したのは生涯において参加した合戦は大小合わせて57回に及んだが、いずれの戦いにおいてもかすり傷一つ負わなかったという武勇を持つ武将『本田忠勝』。
目も止まらなぬ速さで忠勝は接近するとその豪槍を叩き付ける。豪槍は蠍座の巨体の一部をえぐり弾き飛ばした。
【!?】
弾き飛ばされた蠍座に足軽が肉薄し武器を突き立てその巨体の動きを封じる。
「悪いが手加減は出来ん……徹底的にやれ!」
忠勝は蠍座の巨体に馬乗りになると容赦なく蠍座の巨体を豪槍で突き立てえぐる。その外殻が徐々にえぐり取られ、その度に蠍座からうめき声のような断末魔をあげる。
【!?】
蠍座はもがきなんとか振り払った。
「まだ、抵抗するか。…っ!」
信乃が次の指示を出そうとしたとき異変が起こる。巨大な敵はくるりと進行ルートを変え来た道を戻っていく。引き返していった蠍座は結界の境目を超えていった。
信乃は結界の揺らぎが消えるまで待った。そして、それがおさまったのを見るとようやく警戒を解いた。
「……これで仕舞いか。我らの勝利だ」
軍配を振り上げ下ろすと依代は元の人形へ戻る。信乃はそれを一つ一つ回収していく。そして、最後に回収した人形に、
「よく頑張ってくれた…痛かったろう…」
人形に労いの言葉をかける。それは今回の戦いにて唯一犠牲になった人形で損傷しているようだった。
―――――――――――
【帰還…そして安息】
信羽がふと我に返ると信乃の姿が消えていた。おそらく勇者として四国の災厄と戦いに行ったのであろう。
信羽は御守の火打石を巾着へしまうと辺りを見渡す。
(バーテックスが現実世界に具象化していない。神樹様は無事ね……教えの通りなら信乃は帰ってきてるはず)
信羽はすぐに近くの社を探す。神樹の防御結界である樹海に飛ばされた勇者はバーテックスを倒せば近くの神樹のお社へと戻される。すると、近くの公園にあるお社へ寄りかかる少女の姿を見つけた。
「しののん!」
信羽は信乃の元へ駆け寄る。その声に信乃は気づき目を開けると信羽へと微笑みかけながら
「ふふ、無事に戻って来たぞ信羽。……バーテックスに負けていればこうして話すことはできないぞ。…な、私を信じて良かったろう」
「……えぇ」
疲労が顔にあらわれているのを見た信羽は信乃を横に寝転ばせ頭を自らの太ももにのせた。俗にいう膝枕というものである。
「ちょ、信羽」
「…せめて気が済むまでこうさせて」
信乃は反論するも疲れで言い返せないのでお言葉に甘えることにした。
「あぁ…少し疲れた……。お言葉に甘えて…今は…こうして…休……」
信乃は信羽に一言述べると目を閉じる。すると穏やかにすやすやと眠りに落ちた。
「お休み…しののん」
side:一条信乃
――― こうして我の初陣は終えた。この閉じた楽園には多くの人々と我の大切な人…信羽がいる。我を信じてくれる人等がいる…だから負ける訳にはいかないのだ。
side out
こうして始まったただ1人の選ばれた勇者とそれを支える巫女の物語。後にこの御役目を乗り越えた勇者一条信乃はこう呼ばれることとなる。
――― 『軍神』と。
これはあり得たかもしれない神世紀のある物語である。
以下、簡単な設定
●一条 信乃【いちじょう しの】(主人公その1 勇者)
身長:153㎝ / 年齢:14 / 誕生日:9月10日 / 血液型:AB / 趣味:歴史(特に戦国史) / 好きな食べ物:うどん、カツオのたたき / 大切なもの:信羽・歴史・信 /
出身校:神樹館中等部3年 / イメージ花:エゾキク(白) / イメージカラー:白 /
使用武器:軍配(かつてどこかの戦国軍師が使用していた軍配)
・勇者適正(Twitterサクリア氏考案・準拠)
勇者適正値:マジ勇者(歴代最強ではない)、攻撃力:人並、耐久力:人並、素早さ:人並、攻撃レンジ:人並(このステータスは本人のもの、特殊能力時:ほぼ無限)、
備考[神の武器・独自能力持ち]
神世紀99年に神樹に選ばれた唯1人の勇者。一人称は通常は「私」。黒髪のロングヘアの大和撫子のような容姿を持ち、おっとりとした性格である。しかし、趣味である『歴史』の話になると性格が豹変、好きである戦国史の人物になりきったかのようなキャラとなる。それは勇者時にも反映されその際の一人称は「我」となる。
勇者の責は大きすぎるが、それをもろともしない精神的な力強さを持っており、その大元は幼馴染である信羽であり、彼女はその絆を『信』という言葉で例えている。そして彼女自身が『信』という言葉にこだわりを持っており、人からの信頼を人一倍大事にする傾向のためそれを自らの行動で証明することが多い。
元々の出身地は高知だったが対バーテックスのために、神樹館(わしゆの舞台)の中等部へと転入。
祖先は元々山梨の出身だったがバーテックス襲来の当時は高知にいたという経歴があり。さらに日本各地を回る歴史学者であるため実家にはその歴史書がたくさん保管されている(しかも検閲なし…これにはある理由が)。
勇者としての基本能力は適性を除けば低い(『~勇者である』シリーズ歴代の勇者と比べると頭脳派である杏よりも低い)。反面、知識量や複数の事象を何重にも処理できる頭脳を持っている(戦略構成能力では園子と杏よりもさらに上)。そして、高い勇者適正と頭脳を最大限に活かせるある能力を保持し、それを用いてバーテックスとの戦いに挑むこととなる。
余談だが、彼女自身同じ苗字の戦国武将の一条に対してはかなりの辛口。
・戦闘スタイル
彼女自身、勇者の適正は大きいが戦闘能力はかなり低い(ただし、彼女自身の自衛力はある)。変わりに専用武器である軍配に秘められている『軍勢を率いるための力』を使うことで低い戦闘能力を補える。
1.召依
大赦開発の傀儡人形(キーホルダーラバストくらいのもの)に自らの神樹の力を憑依。自らの『手勢』として戦わせる。戦闘能力は通常の勇者よりも低めだが数多く出せ、種類も物語が進むたびに多くなる。なお、軍勢のコントロールにはかなり高い思考処理能力が必要だがこれは信乃自身クリアしている。
2.精霊召依
神樹の概念的記録にアクセスし、精霊を専用の傀儡人形(専用のホルダーにある3つのみ)へと憑依させる。憑依された精霊(日本偉人のみ)を再現した『手勢』は戦闘能力もそれに準じており、その能力は一騎当千の力を発揮する。
●本山 信羽【もとやま ときは】(主人公その2 巫女)
身長:162㎝ / 年齢:14 / 誕生日:9月16日 / 血液型:A / 趣味:武道・料理 /
好きな食べ物:うどん、カツオのたたき / 大切なもの:信乃 /
出身校:神樹館中等部3年 / イメージ花:リンドウ / イメージカラー:紺 /
・勇者適正(Twitterサクリア氏考案元・準拠)
勇者適正値:勇者、攻撃力:?、耐久力:?、素早さ:?、攻撃レンジ:?、
備考[勇者に関してはあくまで選ばれてないだけで適性は大きい]
神世紀99年当初の巫女であり信乃の幼馴染。一人称は「私」。銀髪の長い髪をポニーテールにした髪型で容姿端麗。生真面目で暴走しがちな信乃のストッパー役。実家が日本武道の道場を開いておりその武芸を学んでいるせいか運動能力はかなり高い。得意料理は海鮮系(魚の目利き・捌きはプロレベル。それ以外の料理スキルは東郷・風と同等クラス)。
また、大きめの巾着袋を御守として持ち歩いており中には火打石が入っている。これは信乃が出撃する際の厄除けの儀式のようなものに使われる。
元々の出身地は高知だったが対バーテックスのために、神樹館(わしゆの舞台)の中等部へと転入。
祖先は元々新潟の出身だったがバーテックス襲来の当時は高知にいたという経歴があり。
神樹の『声』を聞ける巫女でかつ勇者適正は高いが選ばれてはいない。そのため、最初は選ばれていないことと信乃にその責を背負わせていると思い込んでいたが、信乃との日常で変わっていく。