私は魔法の森に足を踏み入れた。
「どこにいるんだろ……」
とりあえず、昼前に会ったところまで行ってみる。
「いない……」
さすがにずっとここにいるというのはあり得ない話である。私はきょろきょろとあたりを見渡したが、周りには誰もいないし、何もない。
そんなとき、後方の草村からガサガサと何かが動く音がした。
「お姉さん? ――っ!?」
それは、あの人とは違うものだった。暗くてよく分からなかったが、それが人間でないことだけはわかった。それは、人の形をしていなかった。ドロドロしていて、私の身長の二倍くらいの高さがあった。
私は後ずさりをしたが、石につまずいて転んでしまった。
「逃げないと……」
頭では分かっていた。だけど、体がいうことを聞かなかった。恐怖が私を支配した。
その物体は私に向かってゆっくり近づいてくる。それはだんだんと広がっていき、私を包み込もうとした。
「来るな……来るなぁああああっ!!」
私は真っ暗な闇に包まれた。
「うぅん……ここは……」
気が付くと私はベッドの上に寝かされていた。見知らない天井。ここはどこだろう……
「目が覚めたみたいね。ここは私の家よ。ほら、これでも飲みなさい」
そいつは部屋に入ってきた。右手にはホットミルクが入ったマグカップ。
「ありがと……」
私はそれを受け取って口に含む。
「お姉さんが助けてくれたの?」
「んー……まぁ、そうなるのかしら」
そいつの答えは曖昧だった。何か隠しているのだろうか?
「それより無事でよかったわ。こんな時間にこんなところで何してたのよ?」
「お姉さんに会いに来たの……でも、あれはなんだったの……?」
私はあのドロドロとした何かわからないものを思い出す。
「まずは落ち着きなさい。もう大丈夫だから」
そいつは震える私の手を握ってくれた。
「……あれは、いわば闇ね」
「闇……?」
闇とは教えてもらうが全く想像もつかない。
「ええ。あいつらは人間が作った闇。あいつらは基本的に人は襲わないんだけどね」
「私は人間だよ?」
「わかってるわよ。たぶんあなたの何かに魅かれたんでしょうね」
「何か?」
「そう。まったく見当はつかないけどね」
そいつは笑ってごまかした。
「そういえば私に用があって来たって言ってたわね。どうしたの?」
「あ、そうだった。私に魔法教えてよ!」
「やっぱりか……」
そいつは大きくため息をついた。
「嫌よ。といいたいところなんだけど、今日みたいなことになってもしょうがないし……」
そいつは腕を組んで悩み始めた。
「そもそも、あなたがこんなところに来なかったらこんなことにはならなかったんだけど……まぁ、仕方ないか」
「ホントに!?」
「嘘は言わないわ。今日はもう遅いから帰りなさい。出口まで送っていくわ」
「その必要はないよ」
ドアが開いた。
「ん? 香霖じゃない。どうしたのよ、こんなところに」
どこには霖之助が立っていた。
「魔理沙は博麗神社に泊まってることになってるから帰る必要はない。と言いに来たんだよ。むしろ帰られたら僕が怒られるハメになる……」
香霖の声が少しだけ震えたのがわかった。
「へぇ、じゃあ神社に行かないとね」
「そういうわけにもいかないんだよ。向うさんには何も言ってないし、都合もあるだろうからね」
「まさか、ここに泊めろってわけじゃないわよね?」
「そのまさかだよ」
霖之助はふふふ、と笑う。
「貴方って相当適当よね……私の都合なんか気にしないんだから。見返りはあるのかしら?」
「これでどうかな?」
霖之助は懐から八角形の何かを取り出し、そいつに渡した。
「これって八卦炉じゃない。どうしたのよ、これ」
「魔理沙の親父さんから貰ったんだよ。もう研究は終わったからね」
「研究ねぇ。複製でもしようとしてるの?」
そいつは霖之助をジト目で見る。
「そういうこと。それで引き受けてくれるかい?」
「しょうがないわね。今日だけよ」
そいつはため息交じりに首を縦に振った。
私はこの日、その人のうちに泊まることになった。