この小説と言うには烏滸がましい文章群は未成年の飲酒を奨励致しません。
日が落ちかける黄昏時。
廃墟と成り果てた高層建築群の市街地で静寂とは程遠い銃声の楽曲が響き渡る。
長細い身体にボロボロの外套を羽織った男は底の厚いゴム靴で土埃を乱舞させながら疾走し、瓦礫の一部に手を付いて乗り越えて、瓦礫に背中を付けて身を隠した。
途端に響く銃声と着弾音。鼓膜でその発砲音を数えながら男は息を吐き出した。
「もう逃げ場はねぇぞ!」
銃撃が止めば怒りを露わにした男の声が聞こえる。罠を張り、看破されて尚追いかけ続けた獲物がようやく追い詰められて瓦礫の向こう側に居るのだ。
追いかけられていた方の男は小さく息を吐き出して瓦礫の向こうに居るであろう存在へと声を掛ける。
「ええ加減追いかけるん止めたら? アイドルの追っかけもここまで
「うるせぇ! テメェが今まで俺たちから奪った分しっかりと返して貰うからな!!」
それは君らが攻めてきたからやろ。と小さく溢した男は自身の装備を確かめる。
武器――弾が残っているのは《トカレフ TT-33》だけ。残弾数も心許ない。
今回の襲撃も罠も分かっていた事だけれど、よもや集団で襲ってくるとは思わなかった。男は『まだまだ人間観察が足りない』と的はずれな事を考えて頭を振る。
大凡の人数と武装を頭の中で思い浮かべてから、細く息を吐き出す。
男はニヤリと口を歪めて手に円管を出現させて、安全ピンを引き抜いて瓦礫の向こうへと放る。
突如投げられたソレに反応し、幾人かがソレを撃ち抜いた。開いた穴から煙が吹き出す。
「スモークか! 逃がすかよ!」
纏わり付くような白い煙が地面に落ちてなお吐き出され続け、追手達は獲物を逃がさない様に銃を乱射する。
相変わらず瓦礫の向こうに居た男は瞼を閉じて銃声を聞き漏らさないようにする。
一秒、二秒――口には出さず数字を数えて、四秒目で瞼を上げて勢いを付けて瓦礫を飛び越え、銃声が止んだ煙の中へと身を投じる。
一番近くに居た男へと接近。
「どーも」
「ッ」
視認性の悪い煙の中でお互いが視認出来る程の距離。突然現れた深い緑色の髪に驚きながらも《
発砲音が二つ。足に走る衝撃と自身のパラメーターに異変。膝に力が入らず折れてしまう。
「おっと、危ない危ない」
男に背後から抱えられれば唖然としてしまう。形の良い顔が耳元に寄り、息が耳を擽る。
伸びた手がUZIを持った腕を這い、狙いをしっかりと定められる。
「や、やめ――」
「ドロップ運が悪くてなぁ。スマンな」
横薙ぎに9ミリパラベラム弾が乱射される。聞こえる仲間たちの声と怒号。煙の中では何が起こっているかなど分からない。
裏切り。
独り占め。
様々な憶測と怒号と銃声を鳴り響かせながら反撃が飛んでくる。
それもそうだ。この集まりはこの男を倒す為だけに――利益を求める為だけに結成された烏合の衆だ。チームワークなどない。
「もうエエかな。ほな、またね」
煙の中で起こる内輪もめに満足したように、そして必要無い物を捨てる様に躊躇せず、男の眉間を撃ち抜いた。
ポリゴン片へと変化する男を見送りながらドロップしたアイテムを確認する。弾は落ちていたが、生憎自身が使える物は無い。
ドロップ運の悪さは慣れていた彼であるが、やはり何処か納得もいかずに小さく息を吐き出して内輪もめに巻き込まれない様に、そしてソレがいち早く終わるように他の獲物へと向かった。
数十秒程して煙は晴れた。
そこに立っていたのは一人の男である。筋骨隆々の男で、その手には《PKM》が握られ銃口からは今も熱々しい煙が吐き出されている。
肩で息をしながら辺りを見渡す男は地面に散らばるドロップアイテムの数々を見て、思わず口を歪める。
アイツと仲間のアイテムが独り占め。そう考えれば悪い仕事ではなかった。恨み辛みの集団であったが、死ぬ奴が悪いのだ。
男は更に口を愉悦へと染め上げていく。
銃声が一つ。
急激に減っていくHPゲージに驚く間もなく男は倒れてポリゴン片へと散っていく。
「また死なれへんかったなぁ」
嫌味にも取れる言葉を吐き出した深緑色の髪を揺らした長身の男は手に持ったトカレフをホルスターの中へと入れる。既に残弾は無い。
ドロップアイテムを一頻り見渡してから、砂利を踏みしめる音が鼓膜を揺らす。
咄嗟に脇下のホルスターに向きそうだった手を制止させて、ゆっくりと両手を上げて長身の男は諦めたように大きな溜め息を吐き出した。
「なんや、一発も撃ってないとは思わんかったわ」
「ふん、言ってろ」
両手を上げて振り返れば、そこには最初に怒声を放っていた男が居た。こちらに銃口を突きつけ、命を狙っている。
「それで、こうやって後ろから撃たれてないって事は交渉でもするん?」
「当然だ。テメェの持ってる物全部置いていけ」
「なんや、普通に死んだ方がお得そうやなぁ」
「ハッ。
「嫌やわぁ。僕も普通に死ぬねんで? ただ一回も死んでないだけや」
「十分バケモノだぜ。その名誉に傷をつけたくなきゃぁ、ストレージを全部吐き出せ」
不死者と呼ばれた長身の男は何かを考えるように視線を上へと逸して、溜め息を吐き出してからコンソールを弄る。
地面にばら撒かれていくアイテムに思わず舌舐めずりをしてしまう。ようやく追い詰めた獲物を狩れる。それも報酬は独り占めだ。
興奮と歓喜を浮かべながらも頭を冷やし、最後であろう武器へと手を伸ばした長身の男を止める。
「おっと、脇のヤツは俺が引き抜いてやるよ」
「それはドーモ」
両手を上げたまま男の親切心に溜め息が溢れた。どうせ弾も無かったのだから反撃の手段など無いのだけれど。
歩み寄ってきた男が腰へと手を伸ばし、ガラスの割れる音と共に停止した。
力無く膝が折れ、頭の一部からポリゴン片が覗いている。
意地でも倒れない様に失っていく力を振り絞り長身の男の外套を握りしめ、憎々しい顔を睨みつける。
「仲間が居たのかよ」
「
「くそ……」
ずり落ちる様に倒れた男はポリゴン片へと変化する。消えたポリゴン片を見送り、ようやく両手を下げた男は溜め息を吐き出した。
恐らくである狙撃地点を見ながら耳に付けたインカムで通信をする。僅かなノイズが切れて通信が繋がる。
「ちょい遅かったんちゃう?」
『アナタが死んでから撃ってもよかったけれど?』
嫌味を言えば嫌味で返ってきた。と、言っても否はコチラにあるので言い返す事も出来ない。
「そりゃぁどーも。お騒がせしました」
『スグに合流するわ』
「エエんやで、先帰ってても」
『追加報酬を全部取られるのは嫌よ』
「そーでっ……って切りおった。はぁ、がめついこって」
そんなケチな事はしない。と言っても彼女が聞かない事は知っているのでブツリと切れた通信に嫌味を吐き出しておく。
当然、吐き出した所でこの世界での相棒は耳にしないので意味が無いことである。今しがた自身の右足近くに鉛玉がツッコミとしてやってきたが溜め息を吐き出して無視を決め込む。
数分程で姿を現した
「それで? その無駄に長い図体に怪我は無いようだけれど?」
「当然やろ。これでも不死者とか噂されてるんやで?」
「本当残念。どうせ回復キットを持ち合わせていない馬鹿に借りを作れるチャンスだったのに……」
「なんやその馬鹿は。シノン、どこの馬鹿や?」
「鏡を見ればすぐに分かるわよ、ナッツ」
長い腕を首の後ろの持ってきた長身の男――ナッツはケラケラと笑って見せて狙撃手――シノンは疲れたように溜め息を吐き出した。
◆◆
そんな殺伐とした世界に
身体を無理やり上下に伸ばしたように横幅の無い細身長身をボロボロの外套で包み込み、深い緑色の髪が低い位置で纏められ定位置である肩に乗っている。
何処か女性を感じる様な中性的な顔つきは今は強い酒精が原因か僅かに赤らんでいる。
「? 僕の顔になんかついとる?」
「……目と鼻と口がしっかりと」
「なんやて……眉毛が無いやん」
「マジックで描いてあげましょうか?」
「種も仕掛けもない方で頼むで」
ケラケラと笑うナッツに溜め息で応じたシノン。こうしたツマラナイギャグを放つ男の年齢層を頭の中で考察。
細々とした言動と明らかに飲酒に慣れている……それこそバーボンに氷を溶かしながら飲んでいる姿から自身よりも年上である事は明らかだ。
成人にも満たない自分がアレを飲めば確実に
そんなバーボンなどの度数の高い酒を好んで飲んでいるナッツが同い年、或いは年下だとは思えない。
加えて彼の言動が何処か古めかしい……と言うべきか年上の様、いやオッサン臭いのも原因なのだろう。
当然、ナッツの現在の姿が――シノン自身の姿もであるが――
と、そこまで考えてシノンは思考を打ち切る。
目の前で酒場らしく店員NPCに追加のアルコールを注文した男の詳細など気にしても意味はない。気にはなる、が聞く程でもない。
「ん、どないかした?」
「別に……というか飲み過ぎじゃない?」
「一応バフ付くからなぁ」
「短時間のバフの後に長時間のデバフが掛かるでしょうが……」
「むしろそっちが狙いってかも知らんで?」
ニヤリと口を歪めたナッツはジト目で睨んでくるシノンから逃げるようにケラケラと笑ってみせる。
カラリとボールアイスがグラスに当たり音を鳴らす。透明な茶色の液体がナッツの口に一口入り、少ししてから喉が鳴る。
「或いは現実で忘れたい事があるから、とか」
「え?」
「……冗談や。儚げな男ってモテるぅ思ってな」
「それ言ってりゃ世話ないわよ」
「せやな。ま、
一瞬だけ虚しさを感じさせる表情をしたナッツは取り繕うようにケラケラといつもの様に笑ってみせて謝罪を述べる。
「マナー違反だけれど、別に謝る事はないわよ」
「さよか。てっきりアッチが嫌いな人かと思ったわ。何かしらの悩みがある、とか」
「幸せの壺でも売ってくれるのかしら?」
図星を付かれた。即座に切り返せたのは普段から冗談を言うナッツと付き合って居たからだろう。
冗談を言うくせに彼は目敏い。その証拠に踏み入った事を察知しただろう彼はアッサリと興味が失せたように「さよか」と溢してグラスを傾けた。
話を続けた所で恐らくナッツはシノンに踏み入る事はないだろうが、話を切り替えた方が無難だろう。
ふと、彼の脇下にあるホルスターの中に今日使っていた筈のトカレフが存在しない事に気付いた。
「そういえば、今日使ってたトカレフはどうしたの?」
「売った」
アッサリとした回答であった。頭の中で数える限り、彼がトカレフを用いたのは今日の狩り一部と先程の襲撃だけである。
ナッツがよく銃を取り替えているのを知っているシノンですら眉間に皺を寄せてしまう。
「……アナタのその悪癖はもう何も言わないけど、いつもならもっと使っていたでしょ?」
「せやな」
これまたアッサリとした回答である。
トカレフの何が彼の琴線に触れてしまったのか実に気になる。どれだけ性能が悪くとも、もう暫くは使っていただろう。事実、《デリンジャー》も一週間程は使っていた。
少し考えに浸っていたシノンはナッツが向いている事に気付く。その顔は実に呆れ顔であった。
「何?」
「別に。ま、単なる気紛れや」
「あらそう」
随分と自分に
注がれた液体を見ながらグラスを軽く持ち上げる事で礼を示したナッツは一息にソレを飲み干した。
「ふぅ……」
「いい飲みっぷりね」
「おっと、惚れてもぅた?」
「その馬鹿っぽい所が無ければね」
「それは残念やなぁ」
それほど残念そうでもない様子でナッツは笑い、グラスを置いた。
「ほな、僕はそろそろ落ちるわ」
「今日は早いわね」
「オッサンオッサン言うわりには無理させようとするなぁ、シノンは」
「そこまで年齢高くないでしょ」
「せやな。ま、明日の仕事が早いから今日はココまで」
シノンにナッツを束縛する理由は無い。それこそコンビを組んでいる時もあるが、スコードロンという訳でもない。
挨拶を交わし、Mob狩り或いはナッツを狙ってきたプレイヤーを狩り、報酬を分割する。そういった利害一致の延長でしかない。
「私はもう少し残るわ」
「さいで。インした時にはまた誘うわ」
「気が向いたらね」
「ツレへんなぁ」
口をへの字に曲げてみせたナッツはそのままコンソールを弄ってログアウトをした。
消えていく男の姿を見ながらシノンは溜め息を吐き出し、机の上に残ったグラスを指で弾いた。
>>トカレフをこれ以上使わない理由
気紛れ(震え声)。
GGOが開始して数ヶ月程度……と言っても本編でも八ヶ月しか経っていませんが……時系列で言うならヘカート入手前なので、シノンがGGOを開始した6月~ヘカートを入手した9月前後です。
『3Dオブジェクト』と認識していても"トカレフ"なので視線が集中したんでしょ(丸投げ
>>ナッツ
GGO世界ではノッポのお兄さんです。アバターだからね、仕方ないね。
元々SAOの世界での外見設定はコッチ。
ナッツの設定にクライン(若武者バンダナ)要素を盛り込んだお兄さん(オッサン風味)。
>>不死者
死なない立ち回りと回避技術、PK狙いを返り討ちにし続けた結果の渾名。
>>ナッツの悪癖
とりあえず店売りを買って使い潰す。性能評価などはSAOから続けてた事だから仕方ないね。
>>おねショタがないやん!
せ、精神的には……ショタおねになるな。メタ的な話をするとシノンさんの信用を勝ち取らないといけないので(白目)
>>ショタがないやん!
せ、精神的には……元々ショタっぽくなかったな……。
銃器簡易解説
>>UZI:ウージー
短機関銃(SMG、サブマシンガンとも)。結構アニメとか邦画、洋画関わらず出ている。
>>トカレフ TT-33
自動式拳銃。ソ連陸軍が採用していた軍用自動拳銃。よく日本の任侠映画や刑事モノなどで見れる。
>>PKM
軽機関銃(LMG、ライトマシンガンとも)。みんなでランボー、見よう(ダイマ
>>デリンジャー
ポケットに入る程度の小型拳銃。ルパン三世の峰不二子氏が口紅を弾丸にしてる銃。
簡易解説終了
>>なんで"簡易"なの?
詳しい事を書く意味もなく、画像なんて転がっているので。紹介するのは出てくる映画とか、そういうのにします(白目)
いらなかったら言って下さい。次からやめます(震え声