果てがある道の途中   作:猫毛布

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遅くなりました。

2017/6/21
コンペンセイター

マズルブレーキ
に訂正。詳しくは活動報告へ


第24話

 GGO最強者決定バトルロイヤル戦。大会名称、バレット・オブ・バレッツ(Bullet・of・Bullets)。略称、BoB。

 果たして最強は誰なのか。そういった論争に終止符を打つが如く開催された今大会はGGOを熱狂させた。

 カジノなどの娯楽施設が設立されているGGO内において、今大会は賭けの対象にもされていた。参加者には最強の称号とレアアイテムを。勝負師達には狂乱と富を。

 誰が強い、誰が弱い。誰は誰よりも強い。そんな現実世界も含んだ情報のやり取りも盛んになった。

 

 名だたる強者達の中にナッツの名前もあった。不死者であるナッツの名前が無い訳がない。

 ナッツが大会に出れば――。そんな論争もあった。

 まとめサイトに上がったナッツの情報が幾つも精査され、結果として意味の分からないプレイヤーが出来上がった訳である。

 

 死なない。武器は毎回違う。近接戦強い。長距離狙撃に撃たれる前に気付く。撃とうと思っていたら撃たれていた。ボロ外套の裏にはデリンジャーが沢山仕込まれている。全身から武器が飛び出る。放たれた銃弾は必ず敵に当たる。銃弾が曲がる。壁に隠れてるのに居場所がバレる。壁を透過出来る。チャック・ノリス。

 

 果たして空想に出来上がったのは完全チーターであったが、ナッツは一切のチート行為を行ってはいない訳である。

 完全に存在で遊ばれているナッツであるが、一部情報が本当なだけに否定も出来ない。する気も無いのだが。

 

 さて、ここで問題が発生した。

 大会が始まる直前に並べられたプレイヤー名。ズラリと並んだ名前の中に『ナッツ(nuts)』の名前が無い。それこそ参加はプレイヤー各員の自由なのだから、ナッツの不参加も認められる。

 認められるのだが、ソレはソレ。コレはコレ。

 期待していた分、失望も大きい。ナッツはソレに対して何かをした訳でもないし、何かをする訳でもないけれど。

 『【悲報】不死者に賭けた結果wwww』などとスレ立てして大いに盛り上がっているのが現状である。

 

「で?」

「で? って何が?」

「なんで参加しなかったの?」

「参加しても意味ないからやけど」

 

 そんな期待していたプレイヤー達の一人でもあるシノンは酒場の隅に座り、酒を飲んでいた当事者に答えを求めた。バッサリと言葉を放ったナッツは眉を顰めてシノンに視線を向けている。

 確かに現状で炎上している彼であるが、彼自身には全くの否はない。否はないのだが……納得は出来ない。

 

「そもそもBoBへの参加は強制や無いし」

「そうだけど……」

「それに、BoB当日は仕事で家居らんかったし」

「……そういえば社会人だったわね」

「あんなぁ。見てくれはアバターやけど、これでも確り自立してんねんで?」

「見た目じゃなくて、普段の行動を見て言ってるんだけど?」

「……別に変な事しとらんやろ」

「それもそうね。肝臓には気をつけるのよ」

「お酒は止められてるから問題ないな」

「手遅れだったのね……」

 

 ケラケラと笑いながら現実では飲めないアルコールを喉に通していくナッツが何処か憐れな物に見えてくる。

 リアルで禁止された物をバーチャルで飲む。果たして彼にとってアルコールはそれ程重要な物なのだろうか。

 そんな憐憫の視線を感じたのか、ナッツは不満を表情に出しながら口を曲げる。

 

「いや、医者やなくて、法律がボクを止めるんやって」

「……ああ、そう。それは残念ね」

「うわぁ、余計に可哀想な物を見る目になっとる」

「キメ顔で言われたらそうなるでしょ?」

 

 本当(ホンマ)の事やねんけどなぁ。と眉尻を下げて呟いたナッツであるが、その言葉はシノンに届かない。届いた所で「はいはい」と言われて流されてしまうのだが。

 

「それで、本当の理由は?」

「……なんで嘘みたいに扱われてるんや」

「アナタ普段仕事終わった、とか言いながら夕方ぐらいからログインしてるじゃない。BoBの開始時間でログインの確認もしたし」

「わぉ……ボク、シノンさんに狙われてる?」

「命の事かしら?」

「今度から確定で狙撃手居るんかぁ……」

 

 口元を隠してまばたきを連続でしたナッツをシノンは言葉の弾丸で撃ち抜いた。撃ち抜かれたナッツは口元に置いていた手を顎に置いて真面目な表情で攻略法に思考を巡らせる。

 次回、何処かで戦う事になれば狙撃手前提での立ち回りが要求される。掩蔽物、予定される射撃ポイント、射線が通らない位置取り、覚えているマップを脳裏で広げながら戦術をある程度決める。

 

「なに真面目に考えてるのよ」

「いやいや、シノンさん相手は凡百の狙撃手相手にするんとは違うやろ」

「……ふーん」

「ボクの手札知っとるし」

「はぁ……」

 

 褒められたと思い内心で少しだけ照れたシノンは一気に冷めた。浮かれた自分も悪いけれど、結局の所ナッツは自分の力量しか信じていない訳である。

 コンビとしてそこそこ戦闘をしているけれど、未だにナッツが何を考えているかがよく分からない。普段の立ち振舞は完全にダメなオッサンなのだが、戦闘になれば指示が的確すぎるのも問題なのだ。

 狙撃ポイントに到着した瞬間に『あと五メートル東』と細かい通信が届くのだ。当初、意味も分からずに聞き返せば『敵Mobの索敵範囲内と射線の都合』と随分と当然の事が返ってくる。実際、彼の位置だと狙いやすいしMobがコチラに気付くこともなかった。ナッツのヘイト管理もあるのだろう。

 果たして彼は何を思って戦っているのか。何も考えていないかも知れないけれど、変に戦闘に傾倒しているから何かしらの理由はあるのかも知れない。或いは単なる戦闘狂か。

 単なる戦闘狂ならばBoBに出て然るべきである。それこそ人狩りに定評のある不死者様なのだから。

 

「ま、出ェへんかったんは、マップ把握出来んからなぁ」

「……それだけ?」

「それだけって……。地形把握は大切やねんで? 視界で把握出来る分はエエけど、狙撃ポイントは実際に立たなわからんし」

「ああ、だから毎回口出ししてるのね」

 

 ああ、なるほど。とやや思考を停止させたシノンの頭に一つだけ引っかかりが出来る。

 そんなシノンの頭の中の事情などはさっぱり分からないナッツはジト目でシノンを睨めつけた。

 

「別にそっちにヘイト向いてボクが受けてる攻撃が向かってエエならドーゾ」

「……狙撃位置でのヘイト管理も実証済みなの?」

「そうやなかったら細々指示出さんやろ……」

「どうやって?」

「どうやってって……こう」

 

 と銃を構えるように両手を出し、ありもしないスコープを覗き見るナッツ。シノンは頭が痛くなってきた。

 つまり、つまりである。この男はスナイパーライフルを自前で持って、大凡の立ち位置を予定した場所で構え、狙撃した訳だ。ヘイト管理に関して言いたい事は沢山ある。お前はデバッカーか何かか? と問いただしたい気持ちもある。がその前に。

 

「ステータスどうなってんのよ……」

「……マナー違反ですよ。シノンさん」

「その格好で可愛く言われても気持ち悪いだけだからやめて。本当にやめろ」

「お、おぅ……すんません」

「ピストルで近接戦闘も出来て、アサルトライフルで中距離射撃も可能。挙句にスナイパーライフル? どういう振り方してるのよ……ホント」

「秘密。まあ、前やってたゲームの都合でレベル高いし、いろんな武器触れる程度には筋力もあると思ってくれたらエエよ」

 

 果たしてどんなゲームをすればそんな上げ方になるのだろうか。そのゲームでも様々な武器を握っていたのだろうか……ナッツならありえる、と思えるあたりシノンもナッツに毒されている。

 自分を落ち着ける為に深く息を吐き出す。今に始まったことではない、とかなり酷い結論をはじき出したシノンはナッツに視線を向けた。

 

「それで、何を使ってるの? VSS? VKS? それともリボルバーライフル?」

「シノンさんがボクの事をどう思っとるかよくわかったわ。もっと普通なんは無いん?」

「…………マスケット?」

「狙撃銃ですらないんやけど……あと、普通でも無いから」

「でもナッツだし」

「普通に店でドラグノフ売っとるやん……」

「……ああ、そういえば」

 

 店売りのソレを思い出したようにシノンは手を打った。実際の所、店売りのスナイパーライフルでナッツが満足する訳がないと思っていたのだが。

 店売りを順繰りしているとは言え、変な所でドロップ武器を背負っていたりするのがナッツである。彼の戦闘頻度を考えればレア武器の一つや二つ持っていても可笑しくはない。

 

「それで、シノンさんは新しい銃でも見っけたん?」

「……やっぱりエスパーか何か?」

「失礼な。人の表情である程度はわかるよ。喜んでるとか、何か言いたそうとか、VRやと特にわかりやすいな」

「何その特殊能力……人?」

「レイドボス……いや、最近はチート疑われてるんやったっけな?」

 

 チートや、チーターや! と一人でケラケラ笑いながら言うナッツ。ノリが完全に酔っ払いのソレである。

 そんな酔っ払いに果たして言ってイイものか迷ってしまう。二秒ほど迷った結果、この酔っ払いがレアアイテムに対して執着の欠片も無い事を思い出したシノンはナッツの隣に移動して耳元に口を寄せる。

 

「……ヘカートⅡをドロップしたの」

「…………」

「ナッツ?」

「……ん、ああ、いや」

 

 どこか気まずそうなナッツが酒を呷ってシノンが居る方とは逆の頬にグラスを張り付ける。

 首を傾げながら数秒程そのままだったナッツをシノンは訝しげに視線を向ける。ヘカートと聞いて彼のレアアイテム欲求が刺激されてしまったのだろうか? 狙われる可能性は? 勝てる可能性は?

 

「……ん、ていうか、ヘカートⅡって対ぶt(アンチ・マテ)――あー……いや、マジかぁ」

「マジよ」

 

 どうにかその名称を言わずに止まったナッツは彼女の持っている銃のレア度に舌を巻いた。その銃を保持しているシノンは珍しくドヤ顔で口元を緩めている。

 

「ちなみにドコでドロップしたん?」

「ココの真下。遺跡ダンジョンになってて、そこのボスドロップ」

「……因みにマッピングは?」

「出来てる訳ないじゃない。レベル的に無理だと思いながら攻略したし」

「よし、行こう。今すぐ行こう」

「ちょっと待ちなさい馬鹿」

「なんでや、もう自慢は終わったやろ。そこに未探索のダンジョンがあるんやで? 情報集めな……!」

「その探索は目に見えてるトラップ全部引くような探索でしょう? それよりもヘカートⅡ(この子)を上手く使えるように訓練したいの」

「そんなんソロでやれや」

「あ゛? アナタこそソロでマッピングすればいいじゃない!」

「シノンさんしか入り口知らんやろ! 連れてって、連れってって下さいお願いしますなんでもしますから!」

「なら先に使いこなせるようにしたいの。わかる?」

「ダンジョン潜りながら出来るな! よっしゃ!」

「流石にあのダンジョンを慣れない銃で行くのは無理だから――」

「ならいつもの銃を使えばエエやろ。よっしゃ、行くでー」

「ちょ、待ちなさい! もう! ナッツ! せめてアナタのデバフを解除してから――」

 

 ケラケラと笑いながらボロボロの外套を揺らす長身の男の後ろを喧しく小言を言いながら追従する人形めいた少女。

 小言を聞かない為か、片耳に指を押し当てて塞いだ男に対して少女は眼光を鋭くしてから溜め息を吐き出すのであった。




>>スレ立て
 嫌いな人も居るんやなって……ネット社会やし、多少はね?

>>ナッツのBoB不参加
 旨味が無いから。

>>耳元で囁かれる
 囁かれたい。囁かれたくない?

>>チートや、チーターや!
 いがぐり頭にしなきゃ(使命感

>>微妙な距離感
 二人はこんな感じで進めます。進んでるんですかね……(震え声


いつもの
>>VSS
 SR。正式にはVSSヴィントレス。減音器(サプレッサー)が元々付いており、低速の亜音速弾を撃つため銃声がさっぱりしない。是非、他の銃達と動画とかで銃声を聴き比べてほしい。エアガンかな? と思えるぐらいに静か。

>>VKS
 上記銃に似たコンセプト。消音と狙撃性能、貫通能力の高い銃。因みにVSSよりも口径が大きくて、対物ライフルよろしくの大口径だったりする。出展作品は……んにゃぴ。よくわかんないです。

>>リボルバーライフル
 コルトM1855。文字通りを想像していただくのが一番早いヨ! 銃身の長いリボルバー型のライフルです。尚、ライフル運用だと発射ガスで火傷するらしいっすよ。

>>マスケット
 火縄銃。黒色火薬詰めて、弾を押し込んで、詰めて、撃つ。骨董品かな?

>>ヘカートⅡ
 説明いる? 銃身の先に付いてるハンマーヘッドシャークみたいな物体の説明だけ。
>>マズルブレーキ
 反動軽減の為の物体。燃焼ガスを左右とか上とかに噴出させて跳ね上がりを抑える。


>>今更な諸注意
 一応、調べてから書いているけれど、ニワカ知識ですので間違いなどがあればご報告下さい。間違いが無いように不安な事は書いてないんですけどね(臆病

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