果てがある道の途中   作:猫毛布

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至極遅くなりました。

今回は一万字超えてませんが、私は風邪です。


かなり急ぎ足で詰めました。
でも圏内事件なんてぶっちゃけどうでもいいから大丈夫だな(白状


第7話

 茶褐色の外套を纏った子供は空を見上げる。流れる雲、僅かに陰りを帯びた太陽、夕焼けに染まる世界。暫くすれば夜の帳が下りるであろう時間だが子供は――ナッツは主街区の外に居た。所謂、圏外と呼べる場所であり、死ぬ可能性が高いと言える場所でもある。

 夜になれば敵Mobの出現率も上がり、同時に犯罪者(オレンジ)プレイヤーも夜の影に隠れる事も出来る。

 そんな中、ナッツは呑気に空を見上げていた。常に被っていたフードを外し、樹の根元へと座っている。瞼を下ろして、深呼吸を繰り返して、膝を抱いている腕に顔を下ろす。

 決して眠る訳ではない。元々、()()()()()ナッツはそこまで睡眠を必要と感じていない。

 ゆっくりと呼吸を続ける。

 

 吸う、吐く――吸う、吐く――

 

 吸う――吐く――――吸う――――

 

 

 呼吸だけをしていた()()がピクリと瞼を動かし、瞼を上げる。

 ソコには女が居た。編み込まれた金髪を後ろに流し、透き通るような肌と青の瞳。まるで騎士のような甲冑に抜き身の片刃の両手剣を持った美女。その美女の頭上にはココが現実世界ではない証の様にカーソルが存在し、そして()()()()()()()()()の様にソレはオレンジ色に染まっていた。

 

「いけませんよ。こんな時間にこんな場所に居ては。悪い(わるーい)プレイヤーも居るんですから」

 

 まるで忠告のように美女はそう言った。そんな言葉を呆れるように溜め息を吐き出して聞き流したナッツは立ち上がり付いてもいない埃を払った。

 美女はニンマリと笑みを浮かべて剣を握り直す。剣先をナッツに向けながら腕を引き、一足で距離を詰めて踏み込む。まるでバネでも仕込だかの如く剣を突き出しした。

 

「――隠蔽スキル、弱いんちゃう?」

「そもそも発動してませんから」

「さいで」

 

 突き出された剣が自身の顔の横を素通りしても眉一つ動かさずにナッツは目の前の美女に対して呆れながら一言。その一言も美女はニッコリと笑んだまま応えてナッツは更に呆れたように溜め息を吐き出してから腰から《フォレスト・キール》を取り出して後ろをチラリと見やる。

 剣に突き刺され既にポリゴン片へと変換されていく狼型の敵Mobを見送りながら、同種のMob達を視界へと入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、報告を聞こか」

「はい、我が君」

 

 格好に倣うように、片膝を着き礼をした女――ウィード(weed)は自身の主君たる存在に得た情報を提示していく。

 ギルド・黄金林檎。そこで起きた事の顛末。そして事件を起こした殺人ギルド・ラフィン・コフィン(笑う棺桶)

 ――事の始まりは《黄金林檎》でドロップした敏捷力を上昇させる指輪が原因であった。換金か、ギルドで使用か。どちらともがギルドを考えた答えであった。そのどちらも望みは叶える事は出来なかったが。

 黄金林檎のリーダー、グリセルダの死亡。同時に指輪の紛失。偶然にしては出来すぎた死亡。暗殺、共謀、疑心暗鬼。お互いに信じられない状態でギルドという群れは存続する訳もない。

 

「それで、我が君は誰が犯人と思いますか?」

「シュミット……とは言いたいけど、ちゃうやろなぁ」

「あら、そうでしょうか。人は追い詰められれば人なんて容易く殺してしまうモノでしょう?」

「逆に言えば追い詰められなシュミットは人を殺せん人間や」

「あら、知り合いでしたか」

壁役(タンク)として何回か喋っただけやけどな」

 

 それでも為人(ひととなり)はある程度把握している様にナッツは言い放つ。少なくとも、ナッツの知るシュミットなる人物は人を殺して素知らぬ顔を出来るような人間ではない。だから疑いを外す。

 

「まあグリムロックが有力やな」

「そうでしょうか? 死んだグリセルダの夫だったみたいですが」

「夫婦だろうと、人は追い詰められれば人を殺すモンやろ?」

「……そうですね。アナタに嫌味を言われる程に当然の事でした」

「君は僕が常に嫌味を言うような存在やと思っとるん?」

「そんな、我が君に嘘を言うわけがありません」

「思っとるんやな」

 

 大きく溜め息を吐き出したナッツに満足したようでウィードは立ち上がり、甲冑に付いてしまった草を払う。

 

「それで、ヒースクリフはどうでしたか?」

「アレは灰色のまんまやな」

「そうですか。白ではなくて安心しました」

「今からヒースクリフが白くなるんやったら……せやな。血盟騎士団がSAO最強じゃなくなるぐらいやな」

 

 無理でしょうね、と断じたウィードを見つめながらナッツは小さく息を吐き出した。

 数時間前にナッツとヒースクリフが喋っていた内容は実に普通の事だった。あのモンスターは経験値が美味しい、狩場の優先順位、戦力の底上げなど。実にギルド長として――トップギルドと名高い血盟騎士団と底辺ギルドである《クラウン・ブラウニー》との差はあったが――有益な情報交換は出来た。

 茅場晶彦――この世界で神様と言ってもいい人物については多く語る事はなかった。お互いに表向きの感情を言い、客観的に茅場晶彦に関しての意見を交換した。

 

 ヒースクリフは茅場晶彦を知っている、或いは親しい人物。というのがナッツの見解であった。同時にヒースクリフへの疑念は少しばかり晴れた。

 ナッツを含めた情報を取り扱うメンバー達による実験。そしてナッツが個人としてした実験。試さなければわからないであろう情報達。ソレをヒースクリフは容易く口に出来ていた。

 

「なんや、同じ研究してて、SAOに関しても携わってたらしいで」

「なるほど」

「まあ茅場晶彦やったら、アレほど自分を羨むような発言はしとらんやろ。詳しく聞かれへんかったけど、夢を叶えた茅場の事が羨ましいらしいで」

「茅場晶彦だったなら?」

「こうやって話を広められてる会話ログを見て身悶えしとるんちゃう? あのヒースクリフのそんな様子見たくないから、アレは黒やなくて灰色のまま」

「なるほど、了解しました」

 

 あっさりと引き下がったウィードの隣を通り抜け、ナッツは歩く。ウィードも格好に倣うようにナッツの二歩後ろに従う。

 

「それで、グリムロックはシュミットを殺す気なんやろ?」

「はて、犯人がグリムロックと決まった訳ではない筈ですが」

「アンタが答えも知らずに来るわけないやろ。大方、グリムロックと《笑う棺桶》を繋いどったギルドから証言とっとるやろ」

「ええ。苦手な方法で、拙いですが、しっかりと、情報をいただきました」

「あっそ。ごくろーさん」

 

 悦を含んだ笑みを浮かべるウィードを振り返る事もなく、あっさりとナッツは事実を受け入れた。ナッツの知らない所で知らぬギルドが一つ殺し尽くされた所で何の感情も湧いてこない。ウィードが殺した、という事は攻略に力になっている、とも思えない。

 ナッツは空を見上げて、瞼を落として深く息を吸い込む。

 

「ウィードはカルマ回復させてグリムロックの方へ」

「こういうモノは探偵役の我が君が行くべきでは?」

「どうせウィードが行くつもりなんやから、僕は笑う棺桶の妨害や」

「いっそ壊してしまってもいいのでは?」

「アレはアレで必要悪として、集合体として有用やからなぁ……壊すにしても一回で壊すんは手間や」

「そうですね。それにPoH(プー)は危機察知も高いみたいですし」

「そういう事。まあPoHさんもゲームを楽しんどるだけやけどなぁ」

 

 殺人(レッド)プレイヤーに対して、楽しんでいるだけ、とナッツは判断していた。殺人に対しても忌避感を抱かないナッツを見ながらウィードは身震いする。

 初めてナッツと出会ったあの時の様に。絶望していた自分を拾った少女。きっと自分の事なんて使える駒程度にしか認識していないだろうご主人様。だから自身は見逃されている。必要だから、というちっぽけな理由で。必要が無くなればどうなるかなど考えなくてもいい。その時は()()()()()()()だけなのだから。

 

「そういう事やから、君はグリムロック側や」

「承りました。全ては王冠(crown)を頂くアナタの為に」

「……こんな世界の王様なんて確かに道化(clown)やな」

「いい名前でしょう?」

「セヤナー」

 

 

 

 

 

 

 

 好き勝手殺すのも、好き勝手殺されるのも、所詮は他人であるからナッツからしてみればどうでもいい。

 ()()()()()を噛み締めたナッツにとって死ぬことは恐ろしい事ではない。物言わぬ肉塊、思考も出来なくなった人形。加藤夏樹であった時に幾度も生まれ、そして死んだ自分達。

 この地獄でしか生きる事を()()()()()()()ナッツ。けれどナッツとして、彼は役を熟さなくてはいけない。それがナッツの役目である。

 だからこそ、ナッツは死を恐れない。ただ受け入れるだけ。

 だからこそ、ナッツは戸惑わない。ただソレを届けるだけ。

 

「はぁあ。やっぱ気に食わんな」

 

 故にナッツは手前勝手に、自身の快楽の為に、自身は躊躇しているのに、ソレを与えている存在達を許すことなど出来なかった。

 

 茶褐色の外套を揺らしナッツは腰に差している曲剣を鞘から抜いた。

 目の前には顔も知らぬ濃紺色の髪の女性が怯えて、男性へと擦り寄っている。そして視線を下げれば顔を知るシュミットが倒れている。ソレらを一瞥して、ナッツは前を向く。

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇか。ナッツ」

「やぁ、PoHさん。残りは――まあエエやろ」

 

 頭陀袋のような黒いマスクを被ったナイフ使いと髑髏を模したマスクを被った細剣使いへと視線を流したナッツは真っ直ぐに膝丈の黒いポンチョにフードを目深に被った男へと視線を向ける。

 

「それで、こんな所に散歩って訳じゃねぇんだろ?」

「さあ、どないやろな」

「余裕ブッてんじゃねぇぞ! アレか? 正義の味方ぶりたい年頃ってヤツか!」

 

 ナイフ使いの甲高い声が響いてもナッツはただ真っ直ぐにPoHを睨み、溜め息を吐き出した。

 殺人ギルドを倒すから、正義の味方。その役回りは自分ではない。あれこれと理由を考えてみたが、ナッツはその思考を打ち切った。

 

「別に――ただ()()()()()()や」

「おいおい、攻略組の希望の星である『落下星』様の言葉とは思えねぇな」

「アンタは理解しとるやろ。同類(PoH)

「……やっぱりお前の目は気に食わねぇな」

「奇遇やな。やから答えも決まっとるやろ」

「Wow……俺たち三人を一人で相手に出来ると思ってるのか?」

 

 シュミットが震える手をどうにか握る。力一杯に叫んでやりたい。変則的ではあるが壁役(タンク)として横に並んだことのある少女に「逃げろ」と叫んでやりたい。

 剣を突きつけられ続けているヨルコとカインズも似た気持ちであった。それこそ、自身よりも年下であろう存在が自分達の所為で死ぬなど考えたくもなかった。

 

「せやな……

 

 

 綺麗に殺せんかもしれんけど、痛くても叫ぶんやないで?」

 

 その一言を皮切りにナッツは地面を蹴り飛ばした。

 それとほぼ同時に細剣使いとナイフ使いが剣を構え、PoHは愉快そうに声を漏らした。

 ある程度の位置で足を止めたナッツは迎撃態勢へと移行する。そもそもナッツの本分は攻撃ではなく防御に傾いている。

 端的に言えば、相手の攻撃を見切った上でのカウンター。極論で言えば相手の攻撃を見切らなければ攻撃は出来ない。だからこそナッツは足を止めて、少しだけ腰を落とす。

 エストックの刺突を避けて、待っていたかの様に振り下ろされたナイフを曲剣で受ける。ナイフ使い(ジョニー・ブラック)の攻撃だけには注意しなければならない。倒れているシュミットがいい証拠である。

 シュミットに効いた麻痺毒が自分に通るか、という疑念が湧いたが後々試そうと決着してアッサリと思考は戦闘方面へと向く。

 そこそこにしか攻撃しないナッツに対して攻撃の手を緩めない二人。PoHが動かない事を疑問に思いながらもナッツは常にPoHを視界に入れ続ける。

 現状、ナッツの中で一番注意しなくてはいけないのはPoHの動き。そしてナイフ。残りは濃紺髪(ヨルコ)達が不必要極まりない動きをするかどうか。

 先程から迫っては外套を掠るだけの細剣など注意する意味もない。

 このまま行けば、PoHは動かない。殺せない。それはそれでいいけれど。気に障るモノを置いておく意味もない。

 ナッツは迫っていたナイフを打ち払い、細剣使いを押しのけて飛び退く。ある程度距離が開いているのを確認し、息を細く吐き出す。

 失敗すれば死ぬだろう。ダメージの計算的に、死ぬ。

 

「死ぬだけか」

 

 ならば恐怖する意味はない。幾度も体験した消失をまた味わうだけ。その役回りが自分だっただけ。

 あっさりとソレを決定したナッツは曲剣を構えて踏み込んだ。最初に踏み込んだ時よりも幾分か遅く、捉えられやすいように。

 当然、そんな意図など知らず細剣使いは腕を伸ばし、切っ先はナッツを狙う。僅かな手応えを感じた。ソレは確かに手に伝わった。

 ナッツの左瞼からは血液の代わりにポリゴン片が散っているが、細剣はナッツの顔の横を通り抜けている。

 

「残念」

 

 ナッツのその呟きに細剣使いはゾクリと背筋に悪寒が走る。細剣の一撃によりフードが捲れて露わになる顔。その顔は歪んで嗤っている。

 細剣を握る右手が掴まれる。咄嗟の出来事で細剣使い(ザザ)は驚き、一歩後ずさってしまう。同時に掴まれていた右腕が押し出され体勢があっさりと崩れてしまった。

 

「ほな、さいなら」

 

 曲剣を逆手に握り直した萌黄色の髪をした少女。瞬間に察したのは自分が死ぬという事実。けれど、剣は降ろされる事はなかった。

 高い金属音を鳴らし、ナイフと曲剣がぶつかる。

 ナッツは舌打ちをする訳でもなく、予想していたように攻撃を受け流した。自身の横を通すように勢いを流し、刃でナイフ使いの腹を撫でる。たったそれだけで十分だった。

 見えにくい左の視界に影が動いた。ナッツが辛うじて把握出来たのはそこまで。残りは顔を動かして右の視界で把握した。

 黒いポンチョが大型ナイフを振り上げている。

 

「じゃあな、同類(ナッツ)

 

 振り下ろされる《友切包丁(メイトチョッパー)》。曲剣はナイフ使いの腹を撫でて動かしにくい。少なくとも、防ぐ事は不可能。避ける事は不可能ではないが――――それでは釣った意味が無くなってしまう。

 握った剣を手放し、盾のように大型ナイフを受けた右手が縦に裂けていく。裂けていく手を自身の外へと動かし、無理やり大型ナイフの軌道がズレる。それだけで十分だった。

 

 構えた左手が発光する。黄色く光る左手を見て、PoHは舌打ちをして足を後ろに動かすが既に遅い。

 

「つれん事言うなや、同類(PoH)

 

 体術スキル・エンブレイザー。零距離で放たれる貫手は文字通り必殺と成り得る攻撃である。正しく放たれればの話であるが。

 貫手の手応えと違和感を同時に理解したナッツは眉間を顰めて大きく後ろへと跳んだ。瞬間に自身がいた場所に大型ナイフが横切る。

 

「ああ、惜しかったな」

「せやな、惜しかった」

 

 もう少しで殺すことが出来たのに。

 言葉に出さずとも相手の気持ちは理解出来る。

 お互いに嗤いを浮かべた所で足音に気付く。闇に溶けるような黒い騎馬。蹄が地面を揺らし、甲高いいななきが辺りに響いた。

 ナッツとPoHの間に巨躯な馬体をねじ込み、後ろ足だけで立った黒馬は鼻面から白い噴気を吐き出した。

 

「いって!」

 

 どすんと馬体から落ちた黒い塊にナッツとPoHは視線を向ける。呆れ、無粋を混ぜた視線を浴びた黒い剣士は立ち上がり、ナッツに向けて誤魔化すように笑ってみせた。

 

「大丈夫か、ナッツ」

「それはコッチのセリフやと思うけど……まあええわ」

 

 諦めたように溜め息を吐き出したナッツ。文字通りボロボロになっている右腕と先程から視界不良を訴える左目。尻餅をついた剣士。果たしてどちらが重症かは比べるまでもない。

 空いていた左手に絡めていた飾り布を引っ張り、愛剣を手元へと戻す。

 

「それで、コッチは二人になったけど?」

「瀕死のお前を数に数えればな」

「お互い様やろ」

 

 息を吐き出したナッツは曲剣を地面へと突き刺して外套の後ろに備えていた貫通型のピックを握りしめる。コレで戦う、という事ではない。そもそも《友切包丁》はコレで受ける事は出来ない。

 明滅する左の視界。不安定なら安定させればいい。無いものには頼る事もしない。だから、()()()()()()()

 

「ちょ、おい、ナッツ!」

「Oh……」

 

 左目を自ら貫いたナッツに狼狽するキリトと感嘆したように声を漏らしたPoH。ナッツはソレに反応するでもなく、ピックを戻し、左手で剣を握りしめる。()()()()()()()()()も必要は無いだろう。

 肘辺りから刃を滑らせて、いとも容易くナッツは()()を切り離した。地面に転がるソレを足で転がし、ナッツは右目だけでPoHを見つめる。

 

「ほな、始めよか」

 

 少女のように愛らしい顔は狂気に塗りつぶされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果だけを言えば、戦闘は続かずにPoHを含む笑う棺桶三人は退いた。

 緊張した面持ちで索敵スキルを使用し続けていたキリトは無言で3つのオレンジ色のカーソルを見つめていた。

 

「はぁ、なるほど。ヨルコさんにカインズさんな。いやぁ、よーあんな殺人紛い思い付いたなぁ」

 

 そんなキリトとは真反対のように陽気で納得するような声で今回の事件を起こした重要人達を話すナッツ。当然、右腕は無く、左目もポリゴン片自体は散っていないが開く事もない。

 幾つかの引っ掛かりを覚えながらキリトはようやく消えたカーソルから目を切って、ナッツへと向く。

 

()()()()って事はナッツは知ってたのかよ」

「カインズさんが死んだって所で気付いたかなぁ。正確にはキリトがカインズさんの綴りを言うた所やけど」

「なんで言わなかったんだよ……」

「その時点では中堅プレイヤーが攻略嫌がって隠居しようとしてた、なんて思っとったからなぁ……。裏取りはしとったけど、確証を得たのはその後やし」

 

 けろりと答えたナッツにキリトは溜め息を吐き出し、ナッツはソレを見て笑っている。エストックによって貫かれたフードは被って居らず、少女らしい顔は露わになっている。

 シュミットに解毒POTを渡したキリトは眉を顰めて、驚きを混ぜながら口を動かす。

 

「裏取りって事は――」

「今回の事件は既に解決に向けて動いているのだよ、ホームズ君」

 

 愛らしい顔で左手の人差し指を口元に添えたナッツに思わず見とれるヨルコとカインズ。シュミットはそれどころではなく、キリトはナッツが男である事を理解している。それでも「様になってる」という感想が出そうになったが。

 

「ま、動機はわからんから本人に聞こうや」

 

 とナッツが視線を動かした事に吊られて四人の視線も動く。三つの足音が聞こえ、次第にその姿が露わになっていく。同時にナッツの呆れたような、疲れたような溜め息が響いた。

 正面にいるのは今回の事件で重要な人物であるグリムロック。ツバの広い帽子に眼鏡を掛けた柔和そうな男である。

 ソレに両手剣を軽々と片手で突き付けながら、ニッコリと笑顔を浮かべている美女。編み込まれた金髪を後ろに流し、騎士のような甲冑を纏う女、ウィード。

 更にその後ろに非常に胡散臭そうなモノを見るようにウィードに細剣を突き付けているアスナ。以上の三人である。前からも、後ろからもカーソルの色が緑、オレンジ、緑である事も忘れてはいけない。

 

「あー……アスナさん。えっと、こ、この人はどなた?」

「初めまして、《黒の剣士》さん。私はウィードという者です。《クラウン・ブラウニー》でサブリーダーを務めさせていただいてます」

「こ、これはご丁寧にどうも……」

「キリト君、何デレデレしてるのよ」

「デレデレなんてしてないから。コレは、ほら、えっとコミュ障特有のだな」

「自分からコミュ障言うんか……」

 

 アスナにジト目で睨まれたキリトの言い訳に思わず反応してしまったナッツ。そのナッツを見つけて、ウィードは目を見開いた。

 

「わ、我が君! お怪我を!?」

「大した事ないよ。腕一本と目一個や」

「そんな大した事がないだなんて! 今スグ私と一緒に治療しましょう! もう余す所なく!」

「イタイのイタイの飛んでいけ」

「ゴハッ」

 

 ツッコミとも言える体術スキル・閃打がウィードの右頬を捉えた。恍惚とした表情で地面に倒れたウィードに対してナッツを除く全員が思ったことは「残念美人」という四文字である。

 

「わがきみ?」

「僕がコレが言うてた《クラウン・ブラウニー》のリーダーって事」

「………………

 

 

 はぁ!?」

 

 しっかりと溜めを作って驚いたキリトに「ふふん」ドヤ顔をしているナッツ。キリトは裏切り者を見るようにナッツを恨めしく睨みつける。

 

「お前は俺と一緒で絶対ギルドに入らないと思ったのに……!」

「知らんがな。まあ詳しい説明とかは今度でエエやろ」

 

 アッサリと話を打ち切ったナッツはグリムロックへと身体を向ける。数秒程瞳を見つめ、ふむ、と一言唸った。

 

「『まるで現実世界とは違う彼女を見て、怖くなったから』」

「――――ッ」

「なんや、一発目から当たりか。面白くない(おもんな)

 

 息を吐き出したナッツは既に興味を失ったようにグリムロックから視線を外した。

 息を飲み込んだグリムロックはあり得ないモノを見るようにナッツを見て、膝を折った。

 

「ナッツ?」

「あとは勝手にして。もっと違う理由やったらよかったのに」

 

 あぁ、つまらない。と一言零したナッツはヒラヒラと左手を振ってその場を離れていく。その様子を呆然と眺めていたキリト達はようやく恍惚とした表情から帰ってきたウィードに視線を向ける。

 

「えっと」

「主からしてみれば、私の事があったので、二度目という事です」

「どういう事だ?」

「私も夫に裏切られて殺されそうになっていましたので。理由はソコにいるのと一緒ですよ」

 

 笑顔を浮かべながら自身の事を話したウィードに全員は何も言えない。ウィードは「お気になさらずに」と言いナッツの後を追うために足を進める。

 

「本当は私が殺してあげたいですが……とても残念です」

 

 そう言い残した彼女の言葉はグリムロックには余りにも重かった。




>>ウィードさん
 両手片刃の剣を持つ女騎士。残念美人さん。雑草。
 姿形が想像出来ないんですが……、という人はどこぞのオルレアンの乙女でいいんじゃないですかね?(暴挙
 基本的に丁寧語。ナッツ主義。加虐者。

>>クラウン
 道化と王冠。
 感想でアンジャッシュ的な何かを指摘されてたような気がするけれど、両方とも知った上だから大丈夫だな(白目

>>これは……オリ主特有のアレソレだな!
 そ、ソウダヨ(白目
 話を迅速に進めたいから仕方ないね。

>>ヒースクリフ
 そんなまさか、血盟騎士団のトップであるヒースクリフさんが茅場晶彦な訳がないだろ!

>>PoHさん
 『何もしない』をしている、哲学的な黄色熊。はちみつ下さい。

>>セヤナー
 調べてはいけない(戒め

>>左目、右腕
一般読者諸君「うわぁ……えぇ……」
猫毛読者諸君「なんだ、いつものか」
 なぜなのか。因みに、不必要と断じてアッサリと斬ったり穿ったりしていますが、回復POTを飲んでゆっくりしてれば復活するんじゃないですかね? 所詮は仮想空間ですし。

>>同類二人
 PoHさんとナッツ。殺したいから殺す、というアレソレじゃなくて……。

>>ナッツの生死に関して
 感想欄でも色々言われているので、コチラで明確に書いておきます。
 『加藤夏樹は死んでいません』『加藤夏樹は重病を患っていません』『加藤夏樹は脳死状態ではありません』『加藤夏希は転生者ではありません』『加藤夏樹は人として生きていません』『加藤夏希は人間です』。
 たぶんこんなモノですかね。予測するのは全くもって構いませんが、答えを言われても私はたぶん「せやろか駆動」という新しい動きを見せるだけに違いありません。

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