戦姫絶唱シンフォギア ~Gungnir Girl's Origin~   作:Myurefial0913

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物語開始のための前段階です。
  


それではどうぞ。


EPISODE1 失われた陽だまり

 

 立花響は絶望した。

 

  

 困っている人を助けたのに、その人が困っていたから助けたのに、何の感謝の言葉もなく大勢の人に裏切られた。

 それも自分を助けた人物が争いの火種だと分かった瞬間、たとえ窮地を救われたとしても即座に睨みつけて罵詈雑言を吐き出す。

  

 

 お前さえいなければッ……!

 

 お前が全ての元凶だッ!

  

 お前のせいで関係ない私たちが傷ついたッ!

 

 さっさと死ねよッ!クズがッ!

 

 人殺しッ! 人殺しッ!

 

  

 

 彼らに罪は無い。確かに今回の争いには何の関係もない人たちだ。彼らが発した言葉に嘘はない。

 特異災害たるノイズの襲撃でないのに、たくさんの人が亡くなった。純粋に人と人の争いによるものだ。

 何にも関係が無いのに戦いに巻き込まれてしまった事の原因は、響たち聖遺物を身に纏う装者たちにある。

 心を痛めて人を殺したことも、そんな彼らを守る戦いのため。不可抗力によるものだった。

  

 そうせざるを得なかった。シンフォギアを纏う彼女たちもまた、被害者なのだ。

 

  

 

 事の発端は、世界中が日本に対して宣戦布告と同時に戦争を仕掛けてきたことだ。

 

 

 魔法少女事変から2年後、かつて信用を失墜させたアメリカや色々と憶測がやまなかった欧州連合が手を組み、国連に組織があるとしても、実質的に聖遺物技術を独占している日本に戦争を仕掛けてきたのだ。日本の秘密主義に痺れを切らした連合軍は、聖遺物技術情報及びシンフォギアを求めたが、日本はこれを拒否。強硬策に打って出た。

 S.O.N.G.メンバーのほとんどが日本人であることに付け込まれたのであった。

 

 聖遺物による優位はあるものの、表向きは平和主義憲法を採用し、専守防衛を任務とする自衛隊しか戦力がない日本。

 日本に当然勝ち目は無く、戦争が始まってから日本が負けるのは速かった。いや、始まる前から負ける戦いであった。

  

 

 日本各地は同時多発的に戦場になり、響たち装者はすぐさま救援活動を開始。

 しかし、救出しても彼らからは非難され、戦地にはどんどん敵が攻めてくる。

 

 いくら自分たちが悪者扱いされても、だからといって罪もない一般人を見殺しにするわけにはいかない。

 だが、本来ノイズに向けるべき矛を、銃を、剣を生身の人間に向けたらどうなるか。

  

 結果は明白。

  

 一般人を助け、攻めてきた敵兵を殺した。かつて70億もの心を合わせた同士たちを、戦場に歌を響き鳴り渡らせながら、

 

 

 ――蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、なんでなの……?どうしてなの……?」

  

 

 

 

  

 戦争が始まってすぐに防衛省とは関係ない日本政府の国会議員・役人・官僚たちは聖遺物隠蔽の責任のすべて旧特異災害対策機動部二課、S.O.N.G.に押しつけた。自棄になった無能な権力者たちから無理矢理に、私たちは関係ない、とかつての隠れ蓑であった日本に見放されS.O.N.G.は孤立。

  

 

 それでも、そんな中でも、立花響は人と人が分かりあえると信じて、話し合えると信じて、戦場に向かい、一般人の救援活動という名の戦闘行為に明け暮れた。

 

 だけど、それも限界だった。体力的にも、精神的にも限界だった。

  

 一般人を助けても助けても、感謝されないばかりか、敵兵に対して目的はあそこにいるぞ!と進言していく。

 

 かつてのトラウマをも思い出させていくような言葉を発しながら。

 

 

 

 

 そして、彼女は自分にとって一番大事なものを失くしてしまいそうな場面にあった。

 

 「ねぇ、お願いだよ……、目を開けて!未来……!」

 

 「……ん、ひ……ひび……き……」

 

 立花響は一番の親友で一番の理解者である、自分にとっての居場所そのもの、小日向未来をその腕の中に抱いていた。

 未来はお腹から血を流し、息も絶え絶えで今にも消えそうな灯火のようだ。

 それでも未来は、うっすらと目を開けて一番の親友を心配させないように、言葉を発する。

 

 「……だ、大丈夫……、私は、大丈夫だから……」

 

 「そんなわけないッ!大丈夫なわけないよ!未来……!」

 

 立花響が救援活動に勤しんでいたのと同じように、小日向未来も何か役に立てないかなと、人々を避難誘導させるために表に出ていた。

 同時多発的に始まった戦争は展開が早く、日本は避難させることが間に合わなかったため、敵がやって来てもまだ多くの住民が表にいた。

 そこを敵に狙われた。未来が赴いた場所は比較的最初に被害が少なかったがために、避難できていない人を探して町中を走り回っているところだった。

 

 一発。それだけで、か弱い少女を傷つけるのに十分だった。

 響が未来の危機を耳からの無線で知り、駆けつけたのはそれから少しのこと。未来を情報からS.O.N.G.関係者と知って、脅しの為に捕まえようと囲んでいた敵を刹那の時間に無力化し、その身を抱きしめたのだ。

  

 「今すぐにでも師匠のところに戻ろう?本部はまだ安全だから……」

 

 未来の手を強く握りしめて響が言う。

 

 「ううん……、大丈夫だから……、ひと、り、でも、行けるよ。だから響は……」

 

 「へっちゃらじゃないッ!お願いだよ!未来!」

 

 息継ぎが速くなってもなお言葉を紡ごうとする未来に、響は瞳に涙を溜めて、泣き叫びながら説得を続けた。

  

 ここで手を離してはいけない。何が何でも強くきつく握りしめておかなければならない、と響は思った。

 もし、ここで手を離してしまえば、二度目は無い。陽だまりを失う、そう警鐘を鳴らしていたから。

 絶対に譲らない。この瞬間だけは何があろうと関係ない。そう思った。

   

 かつて一度手を離し、結果的に再会できたとしても、そのまま離れ離れになってしまったことは、彼女にとって相当に耐えがたかった苦痛であったのだから。

 もう、あんな思いはしたくない。

  

 「未来、私は未来を師匠のところへ連れていく。だから動かないで掴まってて」

 

 「ひび、き……!…………あッ!」

 

 「くッ……!」

 

 未来を抱きしめて移動しようと立ったそのとき、爆発が起きてその衝撃に身を揺らされた。

 向こうを見ると敵兵がたくさんやって来ていて、戦闘機の音も聞こえてきた。

 

 この状況では移動できない。この戦場の中でも比較的安全なところに未来を連れて行き、敵を殲滅後、即座に移動開始するしかない。

 瞬間的に状況判断を下し、響は動く。

  

 崩落の危険が少なそうな建物の中に素早く移動し、未来を平らなところに寝せる。

 そして、すぐさま敵へと立ち向かい、戦闘開始。

 

 「……くッ!このッ!ふッ!はッ!ていやッ!」

                             

 身に纏うガングニールのシンフォギア、銃撃をもろともせず、機械仕掛けのその拳から繰り広げられる一撃に、あっという間に気を失い無力化される兵士たち。

 多々殺してしまうことはあっても、あくまで殺しはせず、なるべく戦闘できないように響はしていた。戦闘機の爆発によって死んだ操縦士は不可抗力ではあったが。

  

 こんな戦闘のなかでも、歌を歌ってフォニックゲインを高める。そうして高まったエネルギーを収束、放出し敵にぶつける。

 この歌は、人と戦うためのものではないのに……。

 そんなことを心中考えつつ、戦闘を繰り返し続け迎撃した響。突如、後方から大型ミサイルが轟音を立てて飛んできた。

 

 「それなら……」

  

 対して響は地面がクレーター状に陥没するほどに踏みしめて大きく跳躍。

 

 「うおぉぉぉおおおおッ!!!貫けぇぇええッ!!!!」

 

 超スピードで突撃した大型ミサイルに向けて拳の一突き。大きな爆発が起こる。

 しかし、シンフォギアを纏った装者の一撃が現代兵器をも凌駕したのか、響は一度着地し、まるで何でもないかのようにまた超スピードで飛び出し、戦闘機へと突っ込んでいく。

 再び大爆発。爆炎や煙が風で流れて辺りがはれると、響の視線の向こうにはもう一機の戦闘機の姿を認めた。

  

  「えっ、うそ!」

 

 現在空中にある響の身体は、格好のいい的となっていた。そこを狙わないほど敵も馬鹿ではない。

 第二波は複数のミサイルが飛んできた。先ほどよりも小さいものであったため、迎撃や回避が難しい。

 空中での体勢では不利と悟り、手をクロスする。

 直撃はしたものの大したダメージではなくすぐに受け身の体勢をとれた。

 

 「……っと、危なかった……」

 

 爆炎の中で顔に着いた煤を拭い、きたる戦闘機へと目線を動かす。

 戦闘機は響の上空を音速で通過し、迂回、再びこちらに向かってきた。

 

 「……くッ!」

 

 次ミサイルを撃たれる前に勝負を決める。響は歯を食いしばってそう決意し体勢を低く構えを取る。

  

 両者の中間に存在する建物が崩壊し、地面へと落下した瞬間、響は加速を瞬間最速で、まっすぐに跳んだ。

 対する敵も迎撃すべく多数ミサイルを発射。

 響は迫りくるミサイルを破壊していたが、響から逸れたミサイルは蛇行しつつ進行し、近くの建物へと着弾、爆発した。

 

  

 「はッ!!!!未来ッ!!!!!!!」

 

 

 その建物とは、さっき未来を横に寝せたところの建物であった。

 響は大きく目を開き、急いで方向転換して飛び出した。

 目の前には、力なくうなだれて倒れている未来が中にいる建物。あと少しで手が届く。

 しかし、その距離は遠く及ばず。爆破された二階部分が崩壊し地面へと轟音と共になだれ込む。

 

 「未来ぅぅぅううう!!!!!!!!!」

 

 響は絶叫した。

 

 刹那、走馬灯のように考えが浮かび上がる。  

  

 

 

 何故、あの時手を離した?

  

 何故、あの時誓ったことを守らなかった?

 

 何故、未来を抱えながらも戦って逃げようとしなかった?

 

 

 

 言い訳はもう意味がない。

 

 

 

 「…………あっ、………あ………ああ……あああ……あああアアア■■アアア■■■■■アア■■■■!!!!」

 

 

 

 陽だまりは突然降り注いだ瓦礫で埋められ、なくなってしまったのだから。

 

 

 

 「ヴァァアアアア■■■■■■■■■■ア■■■■!!!!!」

 

 

 

 

 

  

 

 立花響は、絶望した。

 

 

 

 

 


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