戦姫絶唱シンフォギア ~Gungnir Girl's Origin~   作:Myurefial0913

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EPISODE2 未知の事態

 

 

 

 

 

 陽だまりを失った立花響は、その後暴走し、破壊、破戒、ハカイ、と熾烈を極めた。

 眼に映るモノすべてを壊し、壊し、壊しつくした。

  

 従来における暴走や、イグナイトモジュールによる暴走制御で得られる力の比ではないパワーを持っていた。

 

 

 

 

 誰も、彼女を止めることはできなかった。唯一無二の抑止力がそこにはないのだから。

 

 

 

 

 一般兵はもちろんのこと、戦闘機、戦艦、空母、弾道ミサイル、果ては戦後初めて用いられた核兵器でさえも、彼女は凌いだ。

 このことで、全世界は戦争を仕掛けたのを構わずS.O.N.G.へと要請。

 あいつを何とかしろ、と。

 だがしかし、同じ仲間たるシンフォギア装者たちでさえ単体では瞬殺される勢いで無力化され、装者とともに人類最強のOTONA、風鳴弦十郎が参戦してさえも手こずるものであった。

 

 何度も何度も撃退や撤退があった。戦場は世界を駆け巡った。

 時折遺跡が戦場になることがあったが、その中でも一度だけ立花響が戦わず、遺跡の中を壊しながら歩き回っていたことがあった。

 暴走体であったのに、それを律するほどの何かを本能で感じ取ったのだろうか。

 詳しくは分からなかったが、ドゴォォォン!、と遺跡を壊し再び暴走体の立花響が地上に出てきた時には、その手に何かの棒切れのようなものを握っていた。

 

 そして、大きく咆哮。

 

 

 「ヴァ■ア■■■■■アアア■■■■■■!!!!」

 

 

 すると、何故だろうか、世界の色が反転。立花響の辺り一帯に猛烈な濃度のフォニックゲインが集積し出し、その棒切れが極光を突如放って、その形を、色を変え、とある特徴的な波形を生み出した。そしてまた世界の色はもとに戻り、再び咆哮する。

 

 

 「グア■■■ァァァ■■■■■■!!!」

 

 

  

 立花響の右手にあるそれは、かつて穂先のみしか発見できなかった、第三号聖遺物『ガングニール』。その完全聖遺物たらしめるものだ。

 その今まで未発見であった穂先以外の本体を先ほどの咆哮によって励起し、完全聖遺物へと無理矢理昇華させたのだ。

 

  

 「が、ガングニール、だとッ……!!!」

 

 

 本部のアウフヴァッヘン波形解析結果を聞き、驚愕と共に冷や汗をかく弦十郎。

 こちらの全戦力をもってしても倒せるか分からない今の響に、さらに追加された圧倒的戦力。  

 さらに不利になったことを悟ったものの、打開できる策があるわけではない。

 

 

 万事休すか……。

 

 目を瞑り破壊の権化が迫りくるの待っていると―――

 ――――その耳に、うたが聞こえてきた。

 

 

 『Gatrandis babel ziggurat edenal―――』

 

  

 そう、そのうたは――絶唱――。

 

 シンフォギア装者にとって最強最大の攻撃。

 その威力はシンフォギアの歴史を語る上で見ても、絶大なもの。かつてのルナ・アタックでは落下してくる巨大な月の破片をも破壊して見せたほどだ。

  

 しかし、それは装者にとって諸刃の剣に等しい。絶唱使用による装者へのバックファイアは凄まじいものとなって帰ってくる。

 バックファイアは装者の適合係数やアームドギアの仲介の有無によってその大小は変わってくる。がしかし、立花響を含めた6人が絶唱を使ってきた場面と言うのは、フォニックゲインが高まり、立花響によって束ねられたことにより限定解除されたエクスドライブモード下において、立花響がバックファイアを抑制し、絶唱エネルギーを収束・調律・開放するなど、S2CAをもとにした絶唱がほとんどであった。  

 XDモードでなくてもS2CAは可能ではあるが、立花響が受ける負荷が強いため、好まれて使用されてはいない。

 単体での絶唱はほとんどがもはや自爆同然であるが故に、危険性が高いはずだった。弦十郎も簡単に使えないことは重々承知であった。

 

 が、しかし、彼女らは何の躊躇もなくそのうたを口にした。

 

 驚愕を胸に弦十郎は目線を上げると、更なる驚愕に見舞われた。

 

 

 「ったく、おっさんらしくねぇぜッ!こんなところで諦めちまうなんてなぁ!!」

 

 

 「その通りです、()()()。それでは防人の存在意義を疑われてしまいます!!」

 

 

 雪音クリス、姪の風鳴翼に叱責されたOTONA。だが驚いたのは叱られたことではない。

  

 ―――彼女らの姿が空中に在り、纏うシンフォギアが限定解除された、エクスドライブモードに相違なかったからだ。

 

 

 「お、お前ら、その姿は一体……?」

 

 

 「立花響がガングニールを完全聖遺物として励起した時に集まった膨大な量のフォニックゲイン、その器に収まり切れず溢れ出たおこぼれを利用したんですよ、風鳴司令」

 

  

 マリア・カデンツヴァナ・イヴが事の真相を告げた。

 

 確かにガングニールが励起した時、大量のフォニックゲインが集積した。

 フォニックゲインの塊を逆に再利用することは、かの魔法少女事変の対キャロル戦において使われた方法だ。だが、立花響不在のチームの今、そんなことが果たして可能なのであろうか?現実問題として既にXDモードになっていることは明らかなのだが……。

 

 

 「確かに偶然XDモードになれたのかもしれないデス」

 

 

 「だけど、それはきっと偶然じゃない」

 

 

 暁切歌がマリアに続いて発言した。そして、月読調は補足をしたのちに、まっすぐ指を伸ばしてそちらに視線を促した。

 

 その指の先には、今なお暴走している立花響だった。

 

 

 「……ッ!!」

 

 

 ハッと息を飲んだ弦十郎。

 

 立花響のその双眸には大粒の涙を流していた。何が彼女をそこまで苦しませて、悲しませているのか。

 暴走しているときは破壊衝動に苛まれているはずであるが、涙を流しているその理由はきっと何度も心を通わせたシンフォギア装者達にしか分からないのだろう。

   

 「お前は、ずっと苦しかったんだな……」

 

 「今すぐ私たちがその苦しみから解放してあげるッ……!」

 

 「私たちは何回もあなたに助けられた」

 

 「だから、後は私たちにお任せするデス!」

 

 それぞれ強化されたアームドギアを手にした装者たち。その手の先に、純粋なエネルギーの塊を生み出す。

 それが5人分集まればそれは密度を、強度を、大きさを増していく。

 手をつなぎ合わせて力を合わせれば、きっとできない事なんてないというとあるバカの教えが功を奏したのだろう。

 70億もの強大な絶唱とまで匹敵するかもしくはそれ以上か、とてつもなく凄まじいパワーをもつエネルギーが出来上がった。

 

 

 「ヴァァァアア■■■■アア■■■■■■■!!!!!」

 

 

 それが完成したのを見て、完全聖遺物たるガングニールを手に、トップスピードで突進してきた立花響。

 装者たちは一斉に大きく振りかぶった。立花響もまた振りかぶる。

 その瞳には、皆等しく輝くものがあった。

 

 

 

 「楽になれ、立花ッッッ!!!!!」

 

 

  

 きらりと雫が、地面へと落ちる。

 ―――瞬間、極光を放ち、世界に色と音が無くなった。

 

 

 

  

 

 それから音が鳴ったのは、パキリッと何かがひび割れる音だった。

 次の瞬間には、轟ッ!!とハリケーンのように吹き荒れる強い風の音が聞こえてきた。

 

 激しいパワーのぶつかり合い。それは空間に亀裂を生み出し、次元の狭間へと続く壁に穴を開けた。

 途端、次元の狭間はブラックホールが如く勢いであらゆるものを吸い込んでいく。

  

 その中心地でぶつかり合ったエネルギーはもちろん、ガングニールの槍、それを持っていた立花響も空間にぽっかりと開いた穴へと吸い込まれていった。

  

 

 装者たちも引き込まれ、飲み込まれそうになったが、立花響が吸い込まれていったのを最後に、空間の穴は収束し完全に塞がった。  

   

 残された者たちは呆然と立ちすくんでいた。

 

  

 

  「なッ……!」

 

  「……!」

  

  「一体何が……!」

 

  「どうなっているんデスか!?」

 

  「響くんが消えた、だとッ!?」

 

 

   

 驚きをあらわにする一同。

 そこで、シンフォギアが解除され、装者たちは地面に降り立つ。

 

 

 「何で……!何であのバカはいなくなっちまったんだッ!」

 

 

 クリスは膝を地面につけ、「クソッ!」っと嘆きながら握り拳を地面へと殴りつける。

 その瞳からはなおも涙が溢れ続けている。

 

 ここにいる全員、立花響が絶唱の攻撃で消滅してはいないことは分かっていたし、突然、空中にひびが出来たことも認識していた。

 だが、頭では認識していても、理解する気持ちではそれを許さない。

 何故?何で?どうして?

 謎、疑問は深まるばかり。

 

 理解が出来ずショートしてしまったほか、壮絶な戦いの疲労もあって、各々動けずじまいであった。

 風鳴弦十郎もその例外ではなかった。

 

 S.O.N.G.本部クルーすらも膠着してしまった事態を動かしたのは、ここにいる全員を回収するためにやってきた緒川であった。

 さすがは司令の右腕(?)といったところだろうか。

 

 

 「みなさん、この事について考えるためにも、一度本部の方へ戻りましょう。それに疲れを取るためにも休息が必要ですし」

 

 「あぁ、すまんな緒川。あまりのことに我を失っていた」

 

 「緒川さん、その姿は一体どうしたんですか!?それに長い間姿を見せないでどこへ!?」

 

 

 付き合いの長い風鳴翼が問いただす。

 現れた緒川の姿は、スーツ姿であったが、頭に包帯を巻き、左手は捻挫でもしたのか首からの包帯で吊り下げられている。

 そして右手は少しの火傷痕が見られたがその手で杖を突いていた。世間一般では大ケガに分類されるケガを負っていたのだ。

 こんなことは普段からは考えられない、非常に稀な事態であったのだ。

 

 

 「ああ、これですか?いやちょっと任務が失敗とまでは行かないものの、しくじってしまいましてね……。ちょっとケガをしてしまったんですよ」

 

 

 緒川の中では『ちょっと』で済んでいるところが、NINJAの凄い所だろう。   

 

 

 「ふむ、だいぶ治って来たみたいだな。緒川、あれはあるか?」

 

 「はい、おかげさまで。それにしっかり持ってきましたよ。皆さんもどうぞ」

 

 

 そういって緒川は弦十郎とシンフォギア装者全員にあるものを手渡していった。

 

 

 「テレポートジェムです。転移座標は本部の司令部にしてあります」

 

 

 キャロルたちが使っていた錬金術師の技術。今はそれを解析・製作できる仲間がいるので、使用できるようになったのだ。

 

 

 「みなさんお疲れでしょう。それでは行きましょう」

 

 

 そして一斉にテレポートジェムを使った。

 

 ――誰も居なくなった荒れた遺跡跡地には、もの悲しくひゅうと風が吹き、土煙が舞い上がる。そして次元の狭間があった空間にバチバチッと紫雷が走った。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 


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