戦姫絶唱シンフォギア ~Gungnir Girl's Origin~   作:Myurefial0913

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EPISODE5 撃槍、始動

  

 

 

 私はいつも通り聖詠を歌い、シンフォギアを纏った。シンフォギアを纏う瞬間っていうのは文字通り一瞬なもので、その時に身体が強く発光し、光を放っている時に今着ている私服とギアのアンダースーツやアームパーツが入れ替わるように切り替わる。私服はちゃんと保存されるよ?

 

 幾度かのXDモードを経た私のシンフォギアのパーツは装者に対してかかるエネルギー負荷を軽減する役目でつけられた確か3億?だかそれ以上のロックがどんどんと開放されていく仕組みによって、外見も若干変わっていって、所々白色が増えていった気がしていた。

  

 けれど、違和感を感じる。いつもと違う、そう、何かが違う。

 

 自分の姿を見てみると――『黒い』。黒……?なんで?

 これじゃあイグナイトモジュールを使った時みた……い……?

 

 

 

 ……イグナイトモジュールッ!?

 

 

 

 ドヴェルグ=ダインの遺産――聖遺物ダインスレイフの欠片を使った、暴走状態を無理矢理引き出すシンフォギアの決戦機能の一つ、イグナイトモジュール。

 私が度々起こした暴走状態を、破壊衝動を抑えることで制御して力を増幅出来るけど、確か使用制限時間があったり、安全制御用のセーフティが何個かあったはず。

 

 絶唱と同じで多用は出来ない。

 

 けれど、私は抜剣した覚えがないし抜剣したときの苦しみも一切感じていないけど、胸のペンダントは剣状に既に変形している。

 全く持って違和感だらけだ。

 

 

 

 

 「……すぅー……はぁ~……、ふふっ」

 

 

 

 

 なのに、酷く心地がいい。

 

 何でかこの状態が安心する。

  

 どうしてだろうか……?

 

 まあ、いいや。

 

 

 そうして口角の上がった私は一気に飛び出してノイズが居るであろう場所へと着く為に走り出した。

 

 さっきも歩いている時に思ったけどここは狭い。率直な感想を言うとこうなる。これでは戦闘なんて行った場合ノイズを集中的に狙っても遺跡ごと壊しちゃいそだ。

 

 

 洞窟内での崩落は非常に危険、例え不可抗力だったとしても壊しちゃわないように気をつけないと。

 

 だけど、ノイズが何故また現れたかはこの際おいておくとして、どうしてこんなところにノイズが現れるのかな?いくら場所を選ばず出現することが出来るノイズであっても、極論を悪く言えば対人間用殺戮兵器なんだから、こんな辺鄙で無人な所に現れるとはあまり思えない。

 そもそもノイズが自然に現れること自体凄い稀なことではあるんだけどね、あの頃が異常だっただけであって。

 

 

 考えられることの一つは、この遺跡の何処かに人がいて、ノイズはその人達を狙っているということ。

 

 だったらこんなところにノイズがいることの説明ができる。

 

 

 シンフォギアを身に纏ったおかげで生身の頃よりも断然早く移動が出来るため、勢いを殺さないように曲がり角なんかの壁を蹴って勢いをつけてダッシュしたりしている。

  ……ついさっき遺跡を壊さないように誓った気もするけど、背中のバーニアや脚のパイルバンカーを使う訳にも行かないから、壊さない程度に、って気持ちをもって蹴っているからきっと大丈夫……なはず。普通に走ればいいんだけど、急いでいきたいし。

    

 

 ノイズの気配を追い続けて長かった道のりを行くと、次第に床や横壁に寄りかかったように炭化した人型が見えてくる、それも結構複数。

 

 ……やっぱりここに人が来ていたんだ。

  

 遠くに日の光が見えるこの辺は私が入った遺跡の入口とは違うところみたいだった。さっきの古びた祭壇のあった部屋のようなところから割と近かったようにも思えたから、こっちが正規のルートなのかもしれない。私は時間を忘れて長い道を歩いてきたのに……。

 

 もうここにはノイズがいないみたい。

 でも、気配自体はまだあって、ノイズの自壊の時間もまだ訪れてはいないみたいで、出現も止まった気配がしない。

  

 

 ―――うああぁぁ!!!いやだぁ!!

 

 

 「ん!?」

 

 

 

 誰かの絶叫が聞こえてきた、日の光が見える先、あそこにまだ誰かがいる!?

 

 私は出入口へ向かう。道中、6人ほどの炭化した死体があった。

  

 そしてついに私はまだ生き残っている人たちを見つけた。さらに遠い所のその先、遺跡を抜けた森林には大人2人と子供が2人が走ってノイズから逃げている。多分家族連れの親子……いや、小さい子の方1人が転んだ拍子にノイズに飲み込まれてしまった!

 

 

 「急がないと!」

 

 

 事態はさらに悪化の一途を辿っていく。    

  

 ッ!! ああっ!子供をかばった両親がノイズにッ!

 

 歯噛みする気持ちを抑えて残る子供のところへ急ぐ。

 

  

    

 ――ノイズを倒すのが私の役目ッ!

 

    

 

 「ハアッッ!!!」

 

 

 私も遺跡を抜けてある程度の広い所に出たため、パイルバンカーで撃鉄を起こし、バーニアを使って猛スピードで一直線に突進して近づく。

 

 目の前の子供―少女は尻もちをついて、すくんでしまっていた。恐怖のあまり、声も出せなくなっているみたい。

 そこへ、もう数えきれないくらいのノイズが迫る。

 

 飛行型ノイズ3体がクルクルと高速回転をはじめ、自身をドリル状にして少女へと攻撃を仕掛けた。

 

  間に合えッ!!!

 

 バーニアの出力を上げ、勢いをつけて少女に向かい、その華奢な身体を抱き上げてノイズたち3体を回避する。

 地面へと突き刺さった飛行型ノイズは断末魔(?)を上げる暇もなく炭へと還った。

  

 

 少女をその場から救出すべく、そのままの勢いでその場を離れ、少し遠くの木の下に少女を下ろす。

  

 

 「……大丈夫……?」  

    

 「あっ、あ、ああ……」

 

     

      

 そのまま私は無言になり、少女の顔もろくに見ないでノイズたちへと振り返った私は歌を歌った。  

  

 あれだけ絶望した人助けをまたやって自分でも自分のことがわからないままなのに。

 

 

 

 『私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ』

 

 

 

 私は歌う。

 たとえこの歌が自分自身に深く突き刺さって来ようとも、私は歌う。

  

 人類の天敵、ノイズを倒すために。

 

 シンフォギアを纏った装者の歌によって、ノイズは物理的にずらしている位相を『調律』されて、こちらの次元へと姿をあらわす。

 そしてノイズの侵蝕から身を守るバリアコーティング機能で守られているシンフォギアによる攻撃でノイズは炭素と化す。位相差障壁が無い状態のノイズならばこちらの世界の法則がまかり通る。これがノイズに対抗しうる唯一の手段と言っても過言ではない。

 

 もう、ノイズと戦うのも何度目かな……。

 

 私の目の前に迫る人型ノイズとおたまじゃくし型っぽいノイズが身体を細長い棒に縮めて攻撃してくる。

  

 すぐさま回避してダッシュ、ノイズの集団たちに向かって走る。

 

 鉤爪のついた人型ノイズが横切りで先制してくるが、上体を屈んで避けパンチで一突き、真ん中を抉られたノイズはすぐに消え去った。

 その後も次々とやってきては、撃退してくるの繰り返し。

 

 全く持って切りがない。久しぶりのノイズ戦、勘が鈍っているのかもしれない。    

 

 なにか突破力が欲しい!アームドギア生成に使われるパワーを溜めて一気に解き放つ、パイルバンカーを使ったパンチやキックを使っても一向に減りやしない!

 

 ノイズを一掃できるほどの火力のある一撃を!それを可能とする”武器”を!

 

  

 

 ……酷い皮肉だ。誰かと手と手を繋ぐために武器を持たず、手を繋ぐ為の歌を歌ってきた私が、これから私はその繋ぐための手に武器を持とうとするのだから……。

 だからこれは、願望。この歌は私の理想の在り方を歌った決して叶うことのない酷い願いだ。

 

 

 私はたとえ皮肉だとしても、願いを歌い続ける。

 

  

 

 ノイズから一旦離れた私は目を閉じて、気持ちを静める。今まで手に入れることが出来なかったアームドギアが、今なら手に入るかもしれないため。

 ……私の中に何かがある。きっとこれがそうなんだろう。

 

 私は視えた。『槍』の存在が。それを今ここに!

 

  

 

 ――来いッッッ!!! ガングニールッッッ!!!

 

 

 私の手元に現れたソレは、とても猛々しく、神々しいオーラを放っている。

 これこそ無双の一振り!これならば何にも負けはしないッ!

 

 

 目元を隠すように半透明なバイザーが形成される。

 標的はノイズ、数は測定不可、出力はまあこのくらいで……。

 

 

 ――貫けッッッ!!!

 

 

 私は地を蹴って思いっきり跳躍し、右手に携えた槍を一気に投げつける。槍はまっすぐに飛んでいきノイズのいる地帯に空中のノイズを巻き込みながら衝突した。

 

 

 爆発と共に一帯に轟音が響く。

  

 

 私は解き放った槍が戻ってきたのを手に取り着地、周囲にまだノイズが残っていないか確認する。

 

 ……確定じゃないけれど、きっと大丈夫だと思う。発生から結構時間も経っているし、炭化して自壊してるはず。  

    

 ふう、と一息。右手に持っていたとても凄い槍を仕舞う。無くならないのかな、と念じたら消えてしまった。

 そろそろ空腹も限界だよ……、何か食べるものを……。

 

 私は後ろの少女のことをすっかり忘れて振り返りもせず歩き出した。

 

  

 このとき気づいていなかったけれど少女は呆然と私とその後ろの爆発の様子を見ていた。

 

      

  

 

 

 ……でも、あんな槍、私の何処に仕舞ってあったんだろう……?

 

 

 

  

 

 

 

 

         〇

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し先、長野県皆神山のノイズ発生が収まってから数時間後。

 

 

 

 

 ノイズを別次元から呼び出したフィーネ――ー桜井了子は、驚きをあらわにしていた。

 

 

 「神獣鏡が、無くなっているッ!?」

 

 ノイズを呼び出してまで横取りしようとした神獣鏡が前回確認したところから忽然と姿を消していた。

 ノイズが自壊されてから桜井了子はその事後処理として入って監督者権限を使い一人単独行動で神獣鏡のある部屋と向かったのだが、

  

 

 「何故だッ!調査隊の奴らはノイズで足止めさせておいたからこんなところに来られるはずなどないのに……!」  

  

 

 思わず素であるフィーネの口調が出てしまった。  

  

  

 「ノイズが、倒された?」

  

 

 通常兵器にてノイズは倒せたものではない、厳密にいえば倒せない訳ではないがその方法は非常に危険すぎて成功例はほとんどと言っていいほど無い。今現在確実にノイズを倒せるようなものは桜井理論にて開発されたFG式回天特機装束――「シンフォギア」のみ。

 それを扱える装者は圧倒的に数が少ないうえ、その装者はここへは連れてきてはいないし、出動しているという情報もない。

 

 他に何か方法があったのだろうか?

 ……いや、ノイズに関してはこれ以外あるまい。だとするとだ……。

 

 だが、神獣鏡を確保したという報告も入ってはいない、そもそも神獣鏡発見については二課には伝えていなくて、皆神山の調査だけと伝えている。

 逆に発見されたことがばれる方が面倒だ。

 

 

 神獣鏡は桜井了子――フィーネが目的とすることにとって非常に大事な聖遺物である。

 持ち去られた神獣鏡は何処に行ったのか、代替は効くのか、など、秘密裏に考察するためにも時間が必要となる。

    

 そう考え、踵を返し遺跡を足早に出て行った桜井了子はノイズの被害処理をしている人たちが集まるキャンプ地へと足を運び、急用ができたとだけ伝えてその場を任せ、特異災害対策機動部二課へ向かうため車に乗った。

 

 

 

  

 

 

         〇

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、少女と共に移動をしている。

 

 

 すぐ帰ろうとしたのに、どうしてこうなったんだろう?

 

 

 「ま、待ってくれ!」

 

 

 そうあの少女が言ってきたからだっけ。

 

  

 私はあの後もシンフォギアを解除せずにいた。

 その理由は、イグナイトモジュールによる時間制限が気がかりであったから。

 本来の抜剣してイグナイトモジュールへと至った今回、時間制限がある場合なら、感覚的に徐々にこの状態は苦しくなってくるからだ。

 むしろシンフォギアの強制解除が起こってもおかしくない。   

 

 

 しかし、一向に苦しみなんて訪れない。

 さっきもそうだったけれど、むしろいつもと変わらないかそれ以上に気持ちがいいくらいだ。

  

 やっぱり何か変だけど今は分からないからそのままにしておこう。

 

 

 

 「なあ、姉ちゃん、うんと、その、助けてもらって、ありがとな」

 

 

 ノイズに襲われたときの恐怖が抜けきらないのか、少々どもりながらも赤毛の少女はこちらに言葉を向けてきた。

 

  

 「ああ、うん、そりゃどうも」

  

 

 「……姉ちゃん一体何もんだ?変な格好だし、ノイズに触っても大丈夫だなんて……、それにあの武器も……」

 

 

 少女は健気にいかにも自分は平気だと言わんばかりに明るめに振る舞う。

 

 

 「……お姉ちゃんはちょっと特殊でね、あんまり人には言えた事ではないんだ」

 

 

 「ふぅーん、そっか」

 

 

 声音がガラリと形相を変えた。

 普通なら流してもおかしくないが、このときの私には何となくわかってしまった。いや、今だからこそ分かることが出来た。

  

 チラッと目線を少女へ向けると、その眼は怒りが、悔しさがにじんでいた。あれは復讐の眼だ。

 

 私は背中を見せたまま立ち止まって問う。

 

 

 「あなたは……、ノイズと戦える力が欲しい?」

 

 

 すると赤毛の少女はキッとこちらを睨み、鬼のような怒りに満ちた表情になった。

 

 

 「あっっったりめえだッッッ!!!私はノイズが憎い!私の目の前で父さんと母さんを、それに妹だって殺されたんだ!そんなの、ノイズをこの手でぶっ飛ばしてぇに決まってんだろッ!」

 

 

 少女は雄たけびのように叫んだ。

 

  

 「あんたは何でか知らねえがノイズに対抗できる力を持ってる。あたしはソイツが欲しい!この命に代えようとでもな!」

 

 

 「命に、代えようとでも……?」

 

 

 「ああ!そうさ!あんたには感謝してる。ノイズをこの手でやり返せるかもしれない機会を得ることが出来たんだ。あんたに助けられたけれど、あたしはもう天涯孤独の身。あたしの命はあたしが使い道を決める!あんたには悪いがあたしが生きようが死のうが関係な――」

 

 

 

 「生きるのを、生きるのを諦めないでッ!」

 

 

 

 思わず声を荒げてしまった。

 

 

 「……ッ」

 

  

 「死んだら、もうどうすることもできない……。どんな願いだって叶うことはない」

  

  

 そうでもしないと、償えないから。私は未来に会いに行かなきゃいけないのだから。私の願いや目的はそれからなのだから。

 悲しみは晴れず、絶望しているという点では変わらないけれど、私を止めてくれたみんなにも謝りにも行けない。

 

 少女はあれからずっと黙ってこちらの話を聞いていた。

 

  

 「ノイズとの戦いは簡単な覚悟じゃすぐに痛い目に遭う、常に危険と隣り合わせなもの。ノイズと戦えるようになる適合者になる前ですら地獄を見ることになるかもしれない。もしそれでもこの力が欲しいなら、その胸の内の覚悟が本気なら私の背中を追って来て――私の居場所は、地獄だから」

 

 

 今の少女の立場、もし私がシンフォギアを持っていなかったなら……。

 この力が無ければ未来を危険な事に巻き込むことがなく、平和に過ごせたかもしれない。

 ……いや、今こんな事考えても詮無いことだ、現実はもう持っているのだから。

 

 ……思えば我ながら随分と低く冷たい声だったな。

 私は誰かから借りた言葉を放ち、それっきりとして前へ歩き出す。無言で立ちすくむ赤毛の少女をその場に置いて。

  

  

  

 その覚悟が今の私にあるかもわからないのに。

 

 

 

 

 

 

 今回戦ったノイズは普通のノイズだった。アルカ・ノイズのような特徴は無かったため、ますます疑問が残る。

 

 普通のノイズは、フロンティア事変の時にソロモンの杖と一緒にバビロニアの宝物庫の向こうで壊滅状態になったはず。

 意図的に呼ぶなんてソロモンの杖無くしては不可能だろう。

 意図的でないとしたら、一生涯に通り魔事件に遭遇する確率よりも低いと確か聞いた。

  

 今回がその偶然にも等しい確率ならば、今回だけでもうノイズと遭遇することはないと思う。

 

 

 だけど、了子さんの時のことやソロモンの杖のことがあるから、また何かある可能性は捨てきれない。

 そうならないことを祈りたいけれど。

 

 

 

 それにしたってここは何処なんだろうか……?

 

 

 

 

 

  


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