『拳聖』の家系【更新停止】   作:飯テロ

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先人

 

 

 

静寂が支配する盗品蔵。エルザの姿は見えなくなり、倒壊した盗品蔵が争いの激しさを物語る。

 

俺——レオナルトは、静かに夜空を見上げ、悦に入る。

 

——ああ、今日も星が綺麗だなぁ。

 

「ちょっと待てえええええ!!」

 

雄叫び共に、倒壊した盗品蔵の残骸を押し退け現れたスバル。とてもさっきまで死にそうだった男のテンションではない。

 

「ん?あ、さては命を助けてもらったから、俺にお礼を言いたいんだな?そのテンションから察するに、勢いにのって綺麗なスライディング土下座をすると見たよ!」

 

ふっふ、俺とて元日本人。同じ国の出身者として、それくらいの行動は予知できるんだぜ?

 

「ええ、そうなんです。命を助けて頂いたレオさんに、是非ともスライディング土下座を——ってなるかァァァァアア!!」

 

なにぃ(ダニィ)!?なんだとコイツ!命を助けて貰ったクセに、なんて口の利き方だ!

 

「何が命を助けて頂いた、だ!お前のデコピンの衝撃波で、こっちまで死ぬとこだったわ!」

 

「やだなー、ちゃんと加減したよ。俺が本気でデコピンしたら、白鯨だって木っ端微塵だよ?」

 

これは比喩にあらず。

 

「まあ、少し落ち着いたらどうだい、スバル。事実、僕たちは彼に助けられた。君はそれに感謝しなくてはいけないよ」

 

「ナイスアシスト、ラインハルト!流石は俺の幼馴染!」

 

やっぱ、持つべきものは友なんだよ。

 

「……そうだな。俺は助けられたんだ。礼を言わなきゃな」

 

「うんうん。ようやく分かってきた——」

 

「ありがとう、ラインハルト。お前が俺とサテ……じゃなくて、この子を庇っていなかったら、俺たちは死んでいたと思う」

 

キレていい?コレは俺キレてもいいよね?ちゃんと加減したし?スバルとエミリアの事もちゃんと頭に入れてたし?二人が、物理的防御力に乏しいのも知ってるし?だからね、ちゃんとね、加減したし?

 

「いや、礼には及ばないよ、スバル。僕はただ、騎士として自分のすべき事をしたまでだからね」

 

と、ここでまさかのラインハルトの裏切り。

 

前言を撤回しようと思う。やはり、頼れるのは己の力のみ。他力本願など、言語道断である。

 

「そういや、ラインハルトはあの衝撃波をまともに食らったんだよな。ケガとかないのか?」

 

「僕はアレくらいじゃあ、ケガはしないよ。ありがとう、スバル」

 

「おう、わかった。お前もバケモノって事がよーくわかった」

 

一人で勝手に答えを得たスバル。これが、日本人特有の、電波というヤツだ。テストに出るから、覚えておくように。

 

「で、エルサは死んだ……よな?」

 

スバルはエルザが飛ばされた、遥か彼方を見ながら、誰に問うわけでも無く呟く。エルザは余程スバルから恨みを買ったようだ。遠くに飛ばされ過ぎて、見えもしないエルザを醜悪に顔を染めながら睨みつけるスバル。だが——

 

「死んでないと思うよ?だって死なないように加減したもん」

 

「ラインハルト、どう思う?」

 

無視しやがった。コイツ、俺の話なんか、はなっから聞いちゃいねえ!おのれスバル!日本ではボッチだったクセに、なんと図々しいヤツだ。

 

「死んでないわ。レオがそう言ったんだもの。私はレオを信じるわ」

 

それは、凛とした美しい声。長い銀髪、白い肌。何もかもが美しいその人は、この場においての唯一の女性にして、唯一の味方。

 

「え、エミリアさまぁ……」

 

泣きたい。もう泣きたい。いや、泣いてる。だって俺の味方、もうこの人だけだもん。

 

「大丈夫よ、レオ。私は貴方を見捨てたりしないから」

 

「お、おお!」

 

流石は我が主君。貴女のその慈悲に、俺は全霊でお答えしましょう!ハイル、エミリアァァァ!ジークハイル!ジークハイル!

 

「で、お父さんとお母さんには会ったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予兆はあった」

 

俺は独り言を呟き、夜の王都を歩く。

 

「貧民街に入った時から、何か忘れてるような気がしてんだよなぁ」

 

独り言は実にいいな。どこまでも自分のみで構成された世界で、どこまでも一人で居られる。そんな気がする。

 

「両親に会うまで、帰ってくるな!なぁんて、どんだけ優しい命令だよ」

 

一人はいいぞ。他人という存在に縛られず、俺がなにをしようと、許される。だって、俺しかいないのだから。

 

「今思えば、スバルと会った瞬間に詰んでたんだなぁ」

 

ボッチって、いいね。

 

「とかとか考えてるうちに、もう屋敷の前だよ。早いなぁ。もっと一人でいたいなぁ」

 

どーせ、ドア開けた瞬間に母さんがすてみタックルの如く、抱きついてくるんだよ。過保護だし。

 

「でも、避けるわけにもいかないしなぁ。憂鬱だなぁ。あ、ハルヒ思い出した」

 

さて、我が家に入りますかな。俺はドアを開けて、母さんのすてみタックルを受け止める準備をする。

 

「ただいまー」

 

さあ来い!いつでも来い!今の俺は、超弩級戦艦アイオワを受け止められるぞ!

 

「……アレ?」

 

来るはずの衝撃が、いつまでたっても来ない。それどころか、玄関に誰一人としていないのだ。

 

「変だな」

 

いつもなら、間違いなく母さんがいるのに、今日はいない。

 

「誰かが屋敷に進入……は、あり得ないか」

 

拳聖の屋敷に忍び込むなど、どんな命知らずでもしないだろう。それに、家には父さんがいる。絶対最速の能力持ちの父さんに勝てるのは、この世で片手の指でも多過ぎるくらいだろう。多くても四人くらいだろう。

 

「とりあえず、奥に進むしかないな」

 

俺が今日帰ることは伝えてあるし、忘れてるというのも考え辛い。

 

「なら何故?」

 

その答えは応接間にあった。広い屋敷の中で、唯一そこから声が聞こえる。俺はゆっくりとドアを開け、部屋に入る。そしてそこに、誰も俺の出迎えに来なかった原因がいた。

 

「よお」

 

「——爺ちゃん」

 

隠居中の俺の祖父、ヴィルフリート・フォン・ベルリヒンゲンである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、応接間には俺と爺ちゃんの二人だけで、父さんと母さんは出て行った。

 

理由は二つ。爺ちゃんが二人に出て行くように言った事。もう一つは、父さんと母さんが、爺ちゃんと話を終えたという事だ。

 

向かい合ったソファーにそれぞれ座り、ソファーの間にあるテーブルにはティーカップが二つ。

 

「爺ちゃんが屋敷に帰ってくるなんて珍しいね。俺の『拳聖』就任のお祝い以来じゃない?」

 

「当たり前じゃろ、わしは隠居しとるんじゃ。ちょくちょく屋敷に出向いとったら隠居にならんじゃろうて」

 

落ち着いた雰囲気で、テーブルの上にある紅茶を飲む爺ちゃん。

 

いや、屋敷に一度でも帰ってきてる時点で、隠居と言うにはどうかと思うけど。

 

「んで、何しに来たの?爺ちゃんが住んでるところ、水門都市プリステラだっけ?地竜でも十日以上掛かるのに、わざわざ王都まで来るほどの理由。聞きたいんだけど」

 

「アホか。わしが本気出せば三日で余裕じゃ」

 

マジか。地竜で十日以上の距離を三日ですか。そうですか。さいですか。

 

「まぁ、実際には五日掛けて来たがの」

 

変わってねえよ。どっちにしろバケモノじゃねえか。

 

「さて、本題じゃが……ポーカー(・・・・)、やらぬか?」

 

「……は?」

 

「いや、だからポーカー。だって、この世界でポーカー出来るの、わしとお前だけじゃろ?」

 

この発言から分かる通り、俺の爺ちゃんは転生者である。

 

「ぽーかー?いや、だって、え?ポーカー?本当にそれだけの為に此処まで来たの?プリステラから?王都まで?」

 

「それだけとは何事か!わしのギャンブル好きは、貴様も知っておるじゃろ!」

 

爺ちゃんは大のギャンブル好きだ。前世からそうだったらしい。若い頃は毎日のようにギャンブルをしていて、出禁になったカジノもあると言っていた。ちなみに、爺ちゃんが前世で死んだ年齢は、五十九だったそう。

 

「周りの連中にやり方教えて、それでやればいいだろ!」

 

「それがの、昔はそれで良かったんじゃが、最近は誰も相手をしてくれなくての。皆、わしの顔を見た瞬間に逃げて行くんじゃよ。解せぬ」

 

何故だろう。爺ちゃんに金を巻き上げられていく住人達の顔が目に浮かぶ。

 

「って事で、やるぞポーカー。いいな?」

 

「はあ、わかったわかった。けど、賭るモノがない」

 

「ッチ、使えんのお。それだとギャンブルにならんじゃろうが。……まあいい。今日はポーカーが出来るだけで良しとするか」

 

てことで、ポーカーやります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの手札が配り終わり、それぞれカードを確認する。俺手持ちはクイーンのワンペアと、ハートのエース、ダイヤの四、ダイヤの八だ。

 

「じゃあ、カード交換は俺からな」

 

「ま、いいじゃろ」

 

とりあえず、ダイヤの四とダイヤの八を捨てて、二枚引く。それにより、ハートのジャックと、スペードのエースが俺の手札に加わった。つまり、クイーンとスペードのツーペア。十分に勝てる手札だ。

 

「なあ、爺ちゃん。聞きたい事があるんだけど」

 

「なんじゃ、なんでも聞いてみ」

 

険しい顔つきで手札を交換しつつ、頷く爺ちゃん。

 

「戦争って、どんな感じだった?」

 

「ん?亜人戦争か?」

 

亜人戦争。それは、この世界で人間と亜人の間で起こった戦争。亜人の差別を無くそうと起こった戦争であり、その根源は嫉妬の魔女にまで遡る。

 

「正直に言おう。拍子抜けじゃった。アレで戦争とは片腹痛いわ。全線にわしかテレシアのどちらかが出向いただけで敵は逃げおる。実にくだらん」

 

「そりぁ、爺ちゃんが全線に出れば、誰だって逃げるだろ」

 

爺ちゃんの能力。それは、前世の世界の兵器を、この世界に召喚する事。その気になれば戦車や戦艦だって出せる。つまり、この世界の科学を超越した火力。それは、確実に目に見える恐怖となり易く、父さんの絶対最速よりも強力だ。

 

一騎打ちなら、確実に父さんが勝つだろう。だが、敵に恐怖を与えるという点では、絶対最速という理屈臭い父さんの能力よりも、相手に直接見せつけられる爺ちゃんの能力の方が、よっぽど恐ろしい。

 

まあ、海の無いこの世界だと、戦艦なんてとても出せないけどね。見たかったなぁ、大和型、金剛型、長門型。

 

「まあ、わしが出れば逃げる。それもわかるがの。許せんのじゃよ。あの程度の覚悟も無い連中が、多くの命を奪った事がな。だから戦争は嫌いなんじゃ。何処の世界も変わらん」

 

「爺ちゃんが言うと説得力半端ないな」

 

爺ちゃんの能力、変だと俺は思う。前世の記憶がある事が前提の能力なんて、どう考えてもおかしい。それこそ、本当に神様が特典でも与えているかのような感じだ。俺には何も無かったのに。

 

「七十年後の日本か。日本は連合軍に無条件降伏。こうなる事は分かっていた。だが、大本営は止められんかった」

 

俺と爺ちゃんは、同じ世界から来た存在でも、時代が違う。爺ちゃんは、俺の時代の七十年前に生きていた。それも軍人。つまり——

 

「大東亜戦争。この世界に来て、六十四年経った今でも忘れんよ」

 

所属は海軍。つまりは大日本帝国、最強の軍隊に所属していたのだ。大日本帝国海軍は、日本が列強国として名を馳せた理由である。

 

余談だが、爺ちゃんは長門に乗った事があるらしい。

 

返す言葉が無い。大戦を生きていたこの人に、平和を謳歌していた俺が、何かを言う権利は無いのだから。

 

「喋り過ぎてしまったの。ほれ、キングのスリーカード」

 

「……クイーンとエースのツーペア」

 

結果を見て満足そうに笑う爺ちゃん。さっきまでの暗い表情——軍人の顔から、一人の祖父としての顔に変わっていた。

 

「わしの、勝ちじゃな」

 

 




レオのお爺ちゃん、後々重要になってきます。なので無駄に設定詰め込んでます。まあ、プリステラに住んでるって時点で……ね。

一応確認はしているのですが、誤字ありましたら報告お願いします。
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