シン世紀エヴァンゲリオン アイ   作:ケプラー星人

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第一話 天使、襲来

 放課後の学校の教室で独り横たわる少女がいた。服は汚れ、髪は乱れ、自分の机は「死ね」「消えろ」等の罵詈雑言。少女の頭にいつも過るのは『死のう』の三文字だけ。

  自分を庇ってくれる人間は何人かいる、少女の一線を踏み越えない理由はその一点だけだった。

 

 

 

 少女は帰宅しようと立ち上がり鞄を持つ、鞄はいつも軽い。教科書は何回買ってきても捨てられるからだ。

 

 

 空が赤い――――――少女は空に吸い込まれそうな感覚がした、精神が限界なのか、屈辱の毎日で異常をきたしたか......

 

 何れにせよ心というありきたりな普通の人間が持ち合わせている「もの」はとっくに壊れてしまった。少女はそう自らを認識していた。

 

 

 眼球という高性能な液晶カメラが、錆まみれの線路、今にも崩れそうな廃屋、夕陽という黄金に包まれている猫等の風景を無作為に運んでくるが、少女の今にも張り裂けそうな精神はノスタルジックな感傷に耽る余裕はなかった。

 

 それでも一年、いや一年半前までは友人と笑ったり、神が与えてくれたありきたりな風景に感動したりしていた。

 誰もがする10年後位には良い思い出になる淡い恋愛も、記録も出せないが仲間と切磋琢磨する部活動も積極的に行っていた。

 

 

 あの日......そう、あの悪魔が少女の日常を蝕む始まりとなったあの日から少女は「ありきたりな、それでも素敵な毎日」を心の奥底にある箱に入れ、心なき人形として生きることになってしまったのだ。

 

 

 電車の路線に差し掛かり、警報が鳴り響く。少女は何度この踏切で、高速で駆け抜ける鉄の猛獣に身を任せ、苦しみに満ちたこの人生を解放したいと思ったか分からなかった。

 

 しかし毎回、警報が鳴りやんで存在するのはこれからも人間扱いされない毎日を決定付けられている自分だけだった。

 

 

 

********

 

 

 

 

 少女が日が落ちるか落ちないかという時間に毎日通うのは少しだけ洒落た街中の小さい公園、大方役所の予算が余って来年度に持ち越すことを恐れ「住民の要望」なる不思議なる声の力で作られたのだろう。

 

 少女はここで出来る限り聖典を読む。家には限界まで帰らない、少女にとっては家も、あの教室に勝るとも劣らない地獄なのだから。

 

 鞄に入っている唯一の書物を取りだし、虚ろな瞳で蛍光灯に近い丸太型の椅子の腰を掛けながら、世界最大、いや、今となっては絶対(政治的マクロ経済的意味合いでの)の宗教の聖典を最初から読み始める。

 

 捨てる神あれば拾う神あり――――少女の崩壊寸前の精神は神という人類が生み出した最大の建前を欲していた。

 黙読で聖典の世界に浸っていた少女は公園に人がいないこともあってかその神話を音読し始める。

 

 

 「神アスカは天と地と海を創造した。神は天から舞い降り、生きとし生けるもの全てを創造した。約束の時を迎えた始まりのヒト、アダムとその伴侶リリスは神の世界から落ち、自らの領地を得た。神アスカは優しく微笑み、始まりのヒト、アダムとリリスを祝福した。アダムとリリスは我々の始祖となり、我々はその数を増やした。そして最初の―――」

 

 

 少女は聖典を音を立てて勢い良く閉じた。歴史にifはない、それにこれはあくまで神話だ。しかし、もしもこのアダムとリリスが存在しなければ――――そのまま神の世界に居てくれれば――――この惨めで地べたを這う人生はこの世に存在することはなかった......

 自分の人生を自分で閉じられない、踏み込めないという想いが心を喪ったはずの少女を感情的にさせた。

 

 

 

 

 何も考えず虚ろに佇んでいると、ズン、ズン!と地響きが鳴り響き、地面が揺れた。

 これなら震度1か2位だろうと気にも留めない少女だったが、黒と青が混じり、数多の煌めく星々が顔を除かせるだけはずの空の中に高く聳える巨大な影を目に入れた時、手離したはずの生存本能の所為で身体は後ろに大きく飛び跳ねた。

 

 少女はまともに作用してない記憶機能を全力で使い、明後日、この街全体で緊急事態避難をすることになっていたことを思い出す。普通ならまず忘れない事柄であるがこの悲しき少女は普通の脳内動作すら行う余裕などなかった。

 学校、そしてニュース番組で流れる報道という「御題目」からは今回の緊急事態避難は政府の一存で半ば強行的に行うという官民の対話どころかドッチボールにもならない一方的な通達だった。

 

 

 

 しかし、この街の住人はご覧の通り、巨大な影を度々目撃し、巨大な存在が移動する度に生ずる衝撃も感じている訳で、上が用意する装飾にもならない装飾をした「御題目」はこの国の国民を支配するための代物ですらなく、ただ文字通りの「御題目」なのだと良く理解出来る。

 

 

 

 しかもあの巨大な存在の正体や行動目的、コードネームまで知っている人間は知っているのだ、この高度情報化社会にミスマッチの情報統制にもなっていない情報統制など行って今の政府は一体何がしたいのだろうか?

 尤も一番の恐怖は政府の目的ではなく、この情報統制が許されている現状なのだが。

 

 少女は燐然と映る巨大な影を頭の中を駆け巡る様々な思考を野放しにしながら、下唇を噛み締めながら長々睨み付けていた。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 この街、カリス共和国内国家特別区ジャベリン区内ヘリオン市の郊外に広がる400メートル〜700メートルの小さな山脈の全ての山の山頂に以前はなかった施設が布設されていた。

 ただの施設とは到底言い難く、何処でもネット上でも見たことのないような素材で外壁が作られ、山頂及びそこへ行くルートには登山には絶対に無縁と断言していい黒スーツを着た人間が何十人と配置されていた。

 察して下さいと言わんばかりの体制に登山客は登山を規制するまでもなく次第に少なくなり、今週はゼロになった。

 空に青色がなくなり月明かりが山々を照らす頃になっても巨大な存在が動きを止めることはない。寧ろ巨大な存在も周りを飛ぶヘリも各山頂に設置された施設内の動きも夜が深まるにつれて動きを活発化させる。

 

 

 「ダメ!ダメ!各種エギュレーター本体接続率平均86%!HH耐久度数90以下!SAGIシミュレーション進行率89!おまけに通常兵器の配置がお間抜け政府のせいで計画の半分しかされてない!」

 

 バンバン、机を叩きながら黒髪の女性がいきり立って計画の不調の不満を露にしている。

 

 「ルイ、机に当たってもしょうがないわ」

 

 隣の金髪の女性が興奮した責任者を冷静に戒める。

 

 

 「そんな事言ったってねぇ!?目標が来るまであと一日しかないのよ?こんな進捗率じゃ到底間に合わないわ!」

 

 ルイというこの計画の現場責任者らしき人物が尋常ではない焦りを見せている。そのルイに金髪の女性は冷蔵庫で冷やした水の入ったペットボトルをオデコに優しく当てた。

 

 「まず落ち着かないと何も始まらないわよ。怒りは周りを見えなくするわ。短気は損気、外出てこれ飲んで落ち着いて来なさい、わかった?」

 

 

 「......そうよね。悪かった、ミサ」

 

 「短気な所がルイのダメな所だし、悪い行いをすぐに謝れる素直さがルイのいい所よ」

 

 

 ミサと呼ばれた金髪の女性は微笑みながら水の入ったペットボトルをルイに手渡す。

 

 「あなたは今作戦の戦術指揮官で、私は副指揮官。まさか幼馴染みの貴女と此処まで運命を共にするとはね......フフフフ、腐れ縁もここまでくると勲章ものだわ」

 

 「ハハハ、本当よ!最初あった時は殴りあいのケンカで始まったってのに......今じゃ文字通り命を預け会う仲だもの。人生どうなるか分かったもんじゃないわね」

 

 

 ミサは昔を懐かしみにやけながら答える。

 

 「本当にそう。人生何があるかまるで分からない、だから面白くもあるのよ。

 大丈夫よルイ、彼女は、彼女達はやってくれるわよ、信じましょう。自分を含めて」

 

 

 ルイは笑顔を見せながら片手を挙げつつ部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 漆黒に染まった山々に包まれた巨大な存在を目を細く尖らせながらルイは凝視する。その身体は微かに震えていた。失敗したら命を失いかねない恐怖からなのか、違った心情からなのかは解らない。

 強く吹く生暖かい山風がルイの美しく長き髪を吹きあげ、乱していた。

 

 

 

 

 「いよいよね......これがゴールじゃない、これは始まり。あなた達に再び会うための......ね......待っててね、父さん、母さん」

 

 

 ルイは固い想いを胸に、手を重ね合わせ星で埋もれた天を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 今日も心を喪った少女はいつもと同じ時刻に登校していた。不登校で家にいてもまた地獄。消去法でまだ庇ってくれる人がいる学校を選んでいるに過ぎない。

 教室に向けて足を進める度に胸が爆発するような高鳴りがする。今日は何をされるのだろうか?どんな痛みを味わうのだろうか?そのことだけが頭を過る。

 

 地獄への扉、この私の教室の扉を開けるたび、後悔する......するがそれしか道はない。

 

 

 開けた瞬間、少女の心に安堵感が広がった。悪魔が席に居ないからだ。この時間に居ないということは今日は学校に居ないということ。屈辱を受ける日々の中で悪魔の行動パターンは熟知していた。

 尤も今日は......

 

 

 少女は罵詈雑言で埋め尽くされている自分の席につき、朝礼が始まるまで机に顔を埋めることにした。

 

 が、何も少女を凌辱するのは悪魔だけではない、悪魔の取り巻きも少女を十分に貶める。

 

 「ねえ!須成屋!聞いてる?須成屋真里!コラ!シカトしてんじゃねーぞ」

 

 フルネームを呼ばれた少女は恐怖心を抱きながら振り向く。

 

 「何?どうしたの?」

 

 「どうしたの?じゃねーよ!シカトしてんじゃねーよ!」

 

 3人の悪魔の取り巻きが真里を取り囲み、胸ぐらを掴む。

 

 「シカトなんてしてないわ」

 

 「私達がしてると判断したらしてるんだよ!」

 

 3人の取り巻きが真里を力強く揺らす。

 

 「シカトしてない!」

 

 

 「まだ言うかあ!お前!」

 

 取り巻きの一人が真里に手を上げようとしたその時!

 

 「やめないか!」

 

 

 クラスの人間が見て見ぬふりをしていた中、教室の奥にいた少年が声を上げ、クラスの人間の視線が彼に集まる。

 

 

 「黒空!お前なんでここにいるんだよ!今日、お前は」

 

 

 

 黒空と呼ばれた少年は口だけの笑みを浮かべながら返答する。黒髪の細身で一見大人しそうなだが、心の芯は強い少年だ。

 

 

 「だって、ほら、僕はサブだから」

 

 間髪入れず担任が教室に入ってきて、今回は事なきを得た。

 

 ちっ!と舌打ちしながら取り巻き達は席につく。

 

 真里は今日二回目の安堵を経験した。一番自分を庇ってくれる人間が今日来ていたからだ。

 

 

 

 

 朝礼が終わり、黒空と真里は廊下で会話する。

 

 「黒空くん......いつも本当にありがとう......黒空くんが声を上げてくれなかったら私は今頃........」

 

 「人間として当然のことをしたまでさ。クラスメイトの大半がその当然のことを出来ないのは悲しいけど」

 

 「私、毎回、毎回、黒空くんに助けられてばかりで......私は黒空くんに何もしてあげられなくて.....わ、わ...ぐすっ」

 

 黒空が突然の真里の号泣に対して慌てふためく。

 

 「あわわ!須成屋さん、泣かないでよ。まるで僕が泣かしたみたいじゃないか。これ、ハンカチ!使って!」

 

 真里は泣きながらハンカチを受け取ると涙ながら精一杯微笑んだ。

 

 「あ、ありがとうぅ、ぅぅぐすっく、黒空くん、ぐすっ、ぅぅハンカチ洗って返すね」

 

 「ありがとう、でも、もしよ――――――」

 

 黒空が返答しようとしたその時!

 

 

 ドォォォォォォォォォォォォォォン!

 

 凄まじい爆音が鳴り響き、 街全体が揺れる。衝撃波で学校の窓ガラスが全て割れ、木に佇んでいた鳥達は瞬く間に空に逃げていく。少し時が立つと人々の悲鳴で周りは阿鼻叫喚となった。真里と黒空は衝撃で倒れこんでいた、逃げ惑う生徒に何回も踏みつけられ、二人は立ち上がる。

 

 真里が窓の外を見ると、町外れの山々辺りから巨大な十字の形をした爆発曇が天をも貫く勢いで立ち上がっていた。人体の中で最も精密な器官である脳は瞬時に今現在の極限の――――――――と修飾語を付け加えるべきの―――危機にあると状況判断していた。

 

 「須成屋さん!大丈夫かい!怪我はないかい!?」

 

 「須成屋さん!」

 

 真里は余りにも想像の埓外の出来事に遭遇したショックと人々の悲鳴のせいで反応が遅れた。

 

 

 「く、黒空くん!黒空くんは大丈夫!?」

 

 

 「僕は大丈夫さ!しかし予定通りなら襲撃は明日のはずだったのに......」

 

 

 「天使、天使達め...... 」

 

 

 天使達!?それが今回の混乱、緊急事態避難などの原因の名前なのか?聖典に書かれている天使達とは別物なのか?もしそうなら人類を守るはずの天使達が何故このような災厄をもたらすのか?いや、やはり名前が同じなだけの別物か?

 真里の胸中に様々な思案が駆け巡る。

 

 

 

 黒空が真里の肩に両手を置く。

 

 「いいかい!?須成屋さん!須成屋さんは先生や指導員の指示を受けて一刻も早く避難するんだ!いいね!?」

 

 「く、黒空くんはど、どうするの?」

 

 「僕はいかなきゃならない、サブだからね。」

 

 「さあ、早くここから離れるんだ!」

 

 「で、でも黒空くんを置いては.....」

 

 「早く!」

 

 黒空の強く焦る声に真里は後ろに黒空を見つつ、部活動をやっていた時以来の全力疾走をした。人間の渦の中を掻き分けていった。

 

 

 「さて、僕も行きますか」

 

 小さな溜め息を一回ついて、黒空は災厄の方へ駆けていく。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 「目標、SSレーダーで確認!視認でも確認!」

 

 「ヘリオン市建物被害15%、人的被害4%、避難指示伝達率おおよそ87%!」

 

 「カリス共和国内閣官房室緊急事態対策第一課第二国家情報対策係から避難勧告マニュアル通りの対応を求むとの通達!」

 

 「こちらはカリス共和国国防省統括司令部未知有事対策部から各種通常兵器運用及び使用許可判断指揮権の譲渡を確認」

 

 「目標!時速2ベルツの早さでA作戦内及びこの本部に向かっています」

 

 「世界連盟戦争有事対策理事会特別災害有事対策会議室対天使チームの伝達網から各種起動パスワードを量子型暗号として入手、起動手続きに入ります。」

 

 「避難指示伝達率95%!ヘリオン市民避難完了率86%の予測!」

 

 「真理谷ルイ戦術指揮官と我蛭ミサ副戦術指揮官は予定指揮前線基地に到着!戦術全チーム、作戦実行体制に移りました!」

 

 

 

 

 

 

 カリス共和国特別区ジャベリン区ヘリオン市中央から3㎞離れた、深い森林に囲まれた所に世界連盟直属対天使対策部隊『アマノン』の本部がある。複数の高層ビルと丸形のビルディングである。尤もそれは文字通り「表層」でしかないのだが。

 

 洒落た表層から地下3000メートルに『アマノン』司令部が存在する。

 目標――――「天使」と呼ばれる災厄の早すぎる登場に「天使」を倒すための組織は混乱を極める。

 混乱を納めるためか、司令部の最上段にいる女性が命令を発する。

 

 

 「各種案件冷静に対処して。速やかに『メイン機体』を起動、戦闘体制にさせる措置を!結果さえ良ければ後は事後対応でなんとかなるわ」

 

 その言葉に各アマノン司令部部員は落ち着きを取り戻す。最上段の女性はひとつ軽く溜め息をついて腕を組む。

 

 

 

 林原結希対天使対策部隊『アマノン』司令官―――――アマノンの統括司令官である。事、対天使有事に関しては本国であるカリス共和国政府の権限をも上回る、泣く子も黙る敏腕司令官である。

 直属の上部組織、世界連盟との強力なパイプ、いや噂では世界連盟すら操るある組織出身との話がある位、人脈、金脈が太い人物で、冷酷な判断もこなす正に理想的な中間管理職だ、上にとっては。

 

 林原結希司令官の横に立つ女性が巨大なモニターを見つめながら司令官に話しかける。

 

 「とうとう来たわね、私達は上手くやれるかしら?いやそんなことはどうでもいいわね。『観測者達』と『カレルレン達』が満足すればそれで万々歳だもの」

 

 この女性は宮本理彩対天使対策部隊アマノン副司令官。常に林原司令官の傍らにいる林原司令官の懐刀だ。

 

 

 「理彩、私達はただ『従う』だけよ。これも運命......進みましょう」

 

 

 林原司令官が立ち上がる。

 

 

 「対第一天使有事を開始する!オペレーターチームはこのまま各機関との調整、住民の避難指示を続けよ!戦術チームは通常兵器からの戦闘を開始せよ!設備チームは『メイン機体』の出動の最終準備をせよ!」

 

 アマノン本部全体に対天使戦闘用の警報が鳴り響き、司令部全体が慌ただしく動く中、林原司令官はただ目を細めるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリオン市郊外の山々に設置された対天使戦術チームは各種通常兵器の使用準備を完了していた。勿論攻撃する時は遠隔操作である。

 

 戦術チームの指揮本部は戦闘予定地域の山々を跨いだ反対側の麓に置かれた。指揮本部内は緊張と未知の存在と戦うという一種の恐怖に包まれていた。

 

 

 「真理谷指揮官!司令部及び林原司令官から戦闘開始を命令が下りました。通常兵器攻撃から開始せよとのこと。『メイン機体』は最終準備段階です!」

 

 ルイは黒い髪をかき揚げて、命令を発する。

 

 

 「了解したわ!各種通常兵器、目標第一天使に照準を合わせよ!」

 

 

 

 

 第一天使――――――――と呼ばれた目標は異形だった。

 

 周りの山々の半分はあろうかという巨体、両肩から伸びる燃え尽きたような翼、灰色の身体全体にある触手、ミイラのような顔。

 まるでホラー映画から飛び出てきたような異形だ。

 

 第一天使が一歩ずつ進む度にヘリオン市全体、郊外まで激しい揺れが起こる。

 第一天使が山々が半楕円形に並ぶ小さな山脈まで来た時、山々に隠れた現代兵器が第一天使を照準に合わせる。

 

 

 「第一次通常兵器攻撃、開始!」

 

 

 戦術指揮本部でルイ指揮官が号令すると小さな山脈に設置された千はくだらないであろう大量の兵器が一斉に異形の怪物に対して火を吹く。

 最新型どころか各国軍隊にも配備されていない未来型の兵器が第一天使だけを集中砲火する。ミサイル、マシンガン、レーザー砲、どんな軍隊もこの未来型兵器の集中砲火の前には姿を消すはずであろう。兵器の出す硝煙が第一天使どころか山脈まで包み始める。

 

 

 

 「どう?もしかしてやった?」

 我蛭ミサ副指揮官が楽観的観測をした瞬間!

 

 

 第一天使の身体から伸びた触手が全ての兵器と山々に突き刺さり、吸収し始めた。有機質、無機質、関係無く周りにあるものを自分の栄養分とした。

 

 

 

 「んな訳あるわけないでしょ?」

 

 ルイが呆れながらぼやく。 

 

 「言ってみたかっただけよ」

 

 バツの悪い顔をしながらミサが続けて話す

 

 「しかし想定以上の防御力ね、あの中にはアンチATF弾も入っていたのよ!?それが全く効かないなんて......流石EATFと言ったところね。通常攻撃、第一次で終わりね」

 

 「想定内よ、緑!『メイン機体』の出動は出来そう!?サブの準備状態も聞いて!」

 

 緑と呼ばれたオペレーターが司令部に問い合わせる。

 

 .....

 

 

 「大丈夫です!最終準備完了!出動命令を経て出動準備するだけです!サブ機体も最低限ランクレベルになりますがいざとなれば出動出来ます!」

 

 

「...わかったわ。司令部、林原司令官に繋いで」

 

 耳に着けた小型通信機でルイは林原司令官に念を押す。

 

 

 「林原司令官、真理谷ルイ戦術指揮官です。第一次通常兵器攻撃は効果なし、通常兵器は全て殲滅されました。......出動します、よろしいですね?」

 

 「当然よ、天使達をどうにかしないと私達に未来はないわ。やって頂戴」

 

 

 「分かりました。それでは出動命令を下して下さい。あれの出動命令は私の権限クリアランスでは出来ませんので」

 

 

 「わかったわ。司令部全体に出動命令を出して!」

 

 

 アマノン司令部全体が更に慌ただしくなり部員が更に活発に動き出す。

 

 「出動命令発動!出動命令発動!各員出動体制に速やかに移行せよ!繰り返す_________」

 

 

 「緑...『彼女』に連絡取って......」

 

 「あ、は、はい......」

 

 

 ルイはもう一人のキーマンに連絡をとる。

 

 「つ、繋がりました......」

 

 

 

 「予定通り、出動することになったわ。心の準備はいい!?愛!」

 

 

 

 

 

 「クスクス」

 

 

 

 

 ルイに愛と呼ばれた少女は質問に対してただ嗤うだけだった。

 

 「愛!聞いてるの?初めての実戦よ!油断は禁物!」

 

 

 「フフフフフフッ」

 

 

 

 

 「愛、ちゃんと聞きなさ――――――」

 「うるせえよ、ババア」

 

 

 「愛ぃぃ!あなたその口の聞き方を

 どうにか、って通信切れているし。」

 

 「あの子はどうしようもないわね」

 

 「それでもあの子しかアレには乗れないわ、色々な意味でね。今はあの子に頼るしかないわ」

 

 

 愛と呼ばれたパイロットは、銀髪で水色の鋭く獣のような瞳の14歳の少女だった。

 

 

 

 「オペレーター共、設備共、ルイババア早く出せ」

 

 愛の辛辣な言葉に司令部全体が凍りつく。しかし毎度のことと言えば毎度のことだ。

 

 林原司令官は瞳を尖らせながら、命令する。

 

 「......出動準備開始」

 

 

 

 「第一次固定具、第二次固定具解除!」

 

 「機体、発射口に移動開始!SSゲート13段階までを通過予定!」

 

 巨大な存在がレールに運ばれる様を巨大モニターで司令部にいる全員が固唾に見つめる。

 

 愛が乗っている機体は人間型で全体的に青と白でカラーリングしており、女性の身体付きをしていた。

 頭部からは装具の隙間から青い髪が出ていた。身長は第一天使より少し低い位だろうか。

 見たものを感傷的させる機体だ。

 

 

 

 

 「SSゲート第3段階まで通過、E2神経回路接続完了、シンクロ率96%、精神汚染率0.00008%の高水準!」

 

 

 「96%とは随分......凄いわね......」

 

 ミサが愛の叩き出した数字に驚嘆する。

 

 「天才だもの......あの子は......」

 

 ルイが冷や汗をかきながら答える。

 

 

 「SSゲート第8段階まで通過、各サブ接続異常なし、認識コード全てクリア、コミュニケーション言語は第10ウル語、GCL注入完了、本体各末端回路全て開通」

 

 「SSゲート第11段階まで通過、各関節拘束具解除、サブウェポン使用許可、各エミュレーター可動開始!」

 

 

 結希、後悔しないの?娘でしょ?止めるなら今よ。」

 

 「しないわ、だって仲悪いもの」

 

 宮本副司令官はその余りにも冷たい対応に大きく肩を落とす。

 

 

「SSゲート第13段階まで通過、全ゲート通過!HH接続、最終操作権限をパイロットに委譲!発射口に到着!いつでも出動出来ます!」

 

 

 ルイは深呼吸して自分を落ち着かせる。

 

 

 「よし!全ての準備完了したわ!行くわよ!」

 

 「愛、通信切れているから全体通信でいうわ」

 

 「泣くなよ、小娘!」

 

 パイロット席で聞いていた愛はフン!と不機嫌を露にする。

 

 

 

 

 「――――――――エヴァンゲリオン初号機!発進!――――――」

 

 

 エヴァンゲリオン初号機と呼ばれた巨人はカタパルトに乗せられ、地下の設備施設から長い出動ルートを勢い良く駆け上げていく。

 

 

 

 「愛、頼んだわよ」

 

 

 

 第一天使は山々の森林をほぼ吸収して、最初の確認時より身体が一回り巨大化していた。

 

 アマノン本部をその滲んだ瞳で視認した第一天使は瞳にエネルギーを凝縮させる。

 

 「やばい!さっきの光線を打つ気だ!」

 ミサが珍しく慌てる!

 

 

 「本部は地下にあるとはいえ、良くないわ、愛、早く!」

 

 

  第一天使に膨大なエネルギーが集まり、周りの空気を歪ませ、電撃を走らせる。

 

 

 「愛、早く!はや......く」

 

 

 第一天使の瞳からエネルギーが溢れ出る!今正にあの絶望的な威力の光線が放たれようとしていた!

 

 「早くしろおおォォォォクソガキィィィィィィィィ!」

 

 

 

 「もう居るよん♪バーカ♪」

 

 光線を放った第一天使の前に突然居なかったはずのエヴァンゲリオン初号機が現れ、強力な――――ATFともEATFとも違う精神結界を張り、第一天使の放った光線を跳ね返した。

 

 第一天使は自分の放った光線をマトモに喰らうことになった。自分のEATFもエヴァンゲリオン初号機に中和されていたのだ。

 第一天使は吹き飛ばされ、巨大な十字の爆発曇に包まれた。

 

 「ステルス機能?しかも天使に気づかれないレベルの!実用的に使ったのは全世界であの子だけよ!信じられない......全ての精神システムランクが最高クラスでないと使えないはず」

 

 ミサは驚きを隠せない。それはルイも同じだった。

 

 「認めたくないけど、やはりあの子は天才よ......」

 

 

 エヴァンゲリオン初号機は天使を追撃するため、吹き飛ばされた天使を追走する。そのため、活動エネルギーを供給するHHが初号機から外れた。

 

 「HH、初号機から離れました!活動限界時間残り396秒!予備エネルギーも含め498秒! 」

 

 アマノン司令部のオペレーターが危機的状況を司令部全体に伝える。 

 

 「自律型エネルギー供給部隊、『子供達』出動させて! 」

 

 ルイが戦術チームに命令させる。

 

 「ルイ!そんなガラクタいらないわ!すぐけりをつける! 」

 

 「ダメよ!『子供達』出動! 」

 

 

 吹き飛ばされた第一天使は立ち上がれずダウンしていた。追いついた初号機は第一天使に馬乗りになり、マウント状態で第一天使の顔面を殴り続ける。殴るたびにヘリオン市全体が揺れた。

 

 

 「ククククククッオラ!どうだぁ!オラァァァァァ! 」

 

 愛は狂った表情になり、動作は激しくなる一方である。

 それを見たアマノン司令部全員は凍りついた。

 

 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ私を邪魔するやつは全員死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 第一天使の顔面は最早顔面崩壊と表現すら追い付かないほど崩壊していた。

 その様子をモニターごしで見た緑はその場で嘔吐物を吐き出した。

 本部のオペレーターも数名同じ現象にあった。

 

 

 「次はどこを壊してやろうかぁぁ? ああ!? 」

 

 第一天使の微かに残った頭部を持ち上げながら愛が勢いづく。

 

 

 ルイがここぞと適格な指示を出す。

 

 「愛!『子供達』が到着するわ!エネルギーを補給して、すぐに天使から離れて装備しているEEライフルで遠距離攻撃するのよ!天使の今の状態なら攻撃は通るわ! 」

 

 「えへ、えへへ、アヘアヘへへ。

 ハハハハハハァァハハハハハハハハハ! そんなんじゃツマラナイじゃん?ねえ?」

 

 

 「何言ってるの! 遊びじゃないのよ?早く遠距離攻撃に切り換えなさい! 早く! 」

 

 

 「クククククク、やなこった! 」

 

 ルイの命令を無下にした愛は初号機の片手を上げ最後の一撃を加えようとした、その時!

 

 「愛! 」

 

 

 天使の身体から触手が延び初号機の全体に突き刺さる。『子供達』にも触手は伸び、『子供達』はあっという間に吸収された。

 

 「ぐうあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 愛は尋常ではない叫びを出した。

 

 

 「大変です!初号機のエネルギー残りゼロ、各エギュレーターエネルギーもゼロ、シンクロ率12%に低下! 精神汚染率68%に急上昇 !初号機、完全に活動を停止! 」

 

 「結希!早くサブの二号機、三号機を出動させましょう!愛が危ない! 」

 

 

 宮本副司令官が林原司令官に詰め寄る。

 

 「いえ、このまま様子を見るわ、『アレ』は特別だもの♥」

 

 宮本副司令官が林原司令官の肩を掴む。

 

 「貴女!それでも母親なの?早く命令を出しなさい! あなたが出さなきゃ私が出すわ! 」

 

 「落ち着きなさい、理彩。私は母親の前にアマノン司令官。それに言ったでしょう?『アレ』は特別だって。」

 

 

 「司令官! 司令官! 早く二号機、三号機の出動命令を出して下さい!司令官! 」

 

 ルイが必死の懇願をするも聞きいれてもらえなかった。

 

 「何考えてるの?林原司令官は!あんなんでも自分の娘でしょう?見殺しにするつもり?」

 

 あの冷静なミサが取り乱す。

 

 「愛!どうすれば......」

 

 天使は初号機に触手を突き刺して持ち上げていた。初号機のエネルギーを吸収したためか、顔面は直っていた。

 

 愛は初号機のコックピット内で項垂れていた。これ以上ない痛みが全身を走る。頭の中も割れそうに痛い。

 しかし愛はそんな中でも他者への怒りを爆発させる。

 

 「許さない!私を傷つける奴、攻撃する奴、見下す奴全員!特にあの女、林原結希!許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!私を侵害する全員!」

 

 

 

 「殺してやる! 」

 

 

 その瞬間!紫色の強烈な光がヘリオン市いや、ジャベリン区全体を包み込む。初号機のカラーリングは青と白から代わり白と赤色となり、今まで閉じていた口を開き始める、まるで獣のような口だった。

 何よりも違うのは初号機の頭の上に二重のエンジェルハイロウ、天使の輪が浮かび上がったことだ。

 

 

 

 

 司令部が驚きに包まれるなか、宮本副司令官は叫ぶ。

 

 

 「まさか!あれは!擬似神化形態! そんなバカな! 人間に出来るはずがない!結希、まさか貴女あれを狙って? 」

 

 

 宮本副司令官を見てにやけながら林原司令官が答える。

 

 「だから言ったじゃないよ〜『アレ』は特別だって♪」

 

 

 戦術チームは混乱の極みにあった。

 

 「あれはどういうこと?初号機の隠された機能?いいや、そんなものステルス機能以外ないわ。どうなってるの?ミサ!」

 

 「私に聞かれてもわからないわよ、強いて言えば覚醒、初号機は他のエヴァンゲリオンと比べても特別な機体、流石『禁姦の子』ね......」

 

 

 「禁姦の子......」

 

 

 

 

 

 

 「殺す、よし!殺す殺す殺す。絶対に殺す殺す殺す!」

 

 極限の興奮状態になった愛は初号機と完全に感情をリンクさせ、初号機の封印された力を解放させた!

 

 初号機を触手で突き刺している第一天使はその異変に気づたからなのか、触手を外そうとするが擬似神化形態の初号機に触手を捕まれ、触手を外せない。吸収しきれない超莫大なエネルギーを強制的に流される!

 

 

 

 「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァ」 

 

 愛の極限の感情の高ぶりに反応するように擬似神化形態の初号機は強烈な紫色の光を放ちながら、「神」の力を第一天使に送り込む。

 第一天使は一気に膨らみ、パン!と破裂した。

 

 その瞬間、極めて局地的ながら宇宙にも届く十字の爆発光が1日中、妖しげに煌めいていた......

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後後、アマノン司令室。

 

 「どうだった?コッテリ絞られた?この際だから空雑巾並に絞られてしまいなさい」

 

 結希は腕を組みながら答える。

 

 「寧ろ合格点貰ったわよ。第一天使の排除、アマノンのチームワークの良さ、愛除いてね。そして初号機の覚醒。まさか擬似神化形態まで行ってくれるなんてね。流石我が娘!嫌いだけど」

 

 宮本副司令官はまた肩を落とす。

 

 「でもそれは『観測者達』の評価でしょう?『カレルレン達』は黙っちゃいないんじゃない?」

 

 「『カレルレン達』の評価なんて気にしてもしょうがないわ。別次元......だしね、奴らは」

 

 「まあ、そうね。『禁姦の子』による第一天使の――――――それだけで十分ね」

 

 「そうよ、時間はあまりないわ。多少無茶はしないと。生命の種、―――と――が目覚める前に......ね」

 

 「真理谷指揮官、我蛭副指揮官以下戦術チームは死者ゼロ、真理谷指揮官は明後日には退院するそうよ」

 

 

 「あら、逞しい。あとでフルーツ詰め合わせでも送ってあげて。せめてもの餞別」

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 あの災害から二週間たった。緊急事態宣言が解かれたヘリオン市は曾ての活況を取り戻していた。

 須成屋真里はいつも通り決して居場所にならない学校に足を運んでいた。

 

 この災厄を境に屈辱はなくならないまでも少しでも少しでも好転してくれればいい。何の確信もない楽観的観測だったが、それでも足を進めた。

 

 教室の扉を開けるといつもの時間に悪魔がいない、黒空くんもたぶん来るだろう。今日はなんとか人間として生きられそうだ、この日から人生が好転してくれることを......

 

 

 「!」

 

 真里の頭に痛みが走る。混乱した真里は後ろを振り返る。

 

 

 「!」

 

 後ろにいたのは居るはずのない悪魔、真里を陥れる悪魔、エヴァンゲリオン初号機パイロット、林原愛だった。

 

 「何嬉しそうにしてんの?私が来てないと思った?」

 

 愛はそう言うと真里の腹を蹴り上げる

 

 「グェぇぇぇぇ」

 

 真里は悶絶する。

 

 「来い! 」

 

 愛が真里の髪を掴みトイレへ連れていった。

 

 『私は誰にも止められない! 私は最強よ、私を傷つける奴』

 

 

 愛は真里を大便所に連れていくと大便所に真里の頭を突っ込ませた!

 

 『私を貶す奴、私を妨害する奴』

 

 

 「飲め!オラァ! 」

 

 愛の所業を見た愛の取り巻きは愛を止めに入る。

 

 「愛さん、流石にまずいっすよ!まずいっす! 」

 

 

 「キャハハハハハハハハハハハ、キャハハハハハ!」

 

 

 「愛......さん......」

 

 

 真里に出来るのは早くこの地獄が終わってくれることを願うことだけだった。

 

 『私を侵害する奴は』

 

 

 

 

 

 

 

 

 『全て敵だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 シン世紀エヴァンゲリオン アイ

 

 第一話 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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