シン世紀エヴァンゲリオン アイ   作:ケプラー星人

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第十一話 偽善の守護者 善の語り人

 「いてて、やったな! この!」

 

 

 「アリス姉ちゃんこそ! とりゃぁあ! 」

 

 「隙あり! 」

 

 

 「ぐえぇぇ! や・ら・れ・た...... 」

 

 エヴァンゲリオン三号機パイロット、苟アリスはそう捨てセリフを吐いて倒れ込んだ。アリスは目を半開きにしながら『敵』の攻撃が来るかどうか確認する。

 

 「あ、アリス姉ちゃん、目開いた! 死んでない! とりゃあ! 」

 

 

 「本当だ、死んでない! ほりゃあ!」

 

 

 「ち、ちょっと待ったあ! 二対一とは卑怯なりぃぃ! 」

 

 

 

 

 

 「ふふ、お姉ちゃんが帰って来てよかったねぇ」 

 

 

 苟アリスの母親、苟フーシェはテーブルの椅子に座りながら、三兄弟の遊ぶ姿を微笑ましく眺める。テーブルを挟んで反対側にいる苟アリスの父親、苟タジアンは三兄弟の暴れっぷりに甚だ呆れている。

 

 「おい、おい、ブリジアとダル! お姉ちゃんは疲れているんだぞ? 其ぐらいにしとけ」

 

 

 「いいのよ、お父ちゃん。久しぶりに帰って来たんだから、あたしもこの子達と触れ合いたいの」

 

 「アリス...... ありがとうな」

 

 

 アリスは妹であるブリジアを捕まえ、膝の上に乗せながら語り出す。

 

 

 「お父ちゃん、お母ちゃん ...... 今はこうして郊外に暮らして、あたしは寮で暮らしているけど、パイロットの給料を貯めていてそれがもう少しで纏まった額になりそうなの。だから一緒に住める一軒家でも買いたいと思うの」

 

 

 「む、娘に其処までし、してもらう訳には、い、いかねえ! 」

 

 ダジアンは目頭を押さえながら、声を殺すように呟いた。

 

 「アリス、そのお金は貴女自身の為に取っておきなさい。私達はこうやって難民生活から抜け出しただけでもアリスに感謝してもしきれないんだから」

 

 

 母親の言葉に頭を横に振りながら、アリスは冷静に、そして優しく返答する。

 

 

 「確かに家族、そして自分をあの生活から抜け出せたくて私はエヴァンゲリオンパイロットになった。正直ね...... 凄く怖い時もある。だってあんな訳の分からない怪物達と命懸けで戦っているんだもん......

 

 でも、だからこそ、家族の生活を守れる... いい生活が出来る。あたしはなるべく家族と一緒にいたい。だから一軒家買いたいの...... お父ちゃん、お母ちゃんが負い目感じること無いんだよ」

 

 

 「ア、アリス。家まで買わせて...... す、すまない...... 」 

 

 

 ダジアンはアリスに背を向け、項垂れると、嗚咽しながら涙を流した。愛する娘に家族の生活の全てを背負わせている罪悪感を流すように......

 

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

 エヴァンゲリオン二号機パイロット、黒空詩丹は夕焼けが街の全てを紅に染め上げる黄昏時に道路に立ち止まり、立ち尽くす。

 

 理由は行列を見るため――――――詩丹がエヴァンゲリオンパイロットになる前には閑古鳥が鳴いていた、父親のパン屋に並ぶ人々の行列を見るため......

 

 詩丹は誇らしかった。父親の作るものがここまで人々を惹き付ける。今までの不遇は、父の実力不足ではないと知らしめた、詩丹はそう胸の中で勝ち誇る。

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 夜、漸く街を賑わせたパン屋の営業が終わる。店の奥にある自宅は、扉一枚を挟んでパン屋と繋がっている。その扉を開けて父が入ってくる。母と共に詩丹は父を労う。

 

 

 「あなた、お疲れ様です。お風呂沸いていますよ」

 

 

 「父さん、お疲れ様です」

 

 

 「おお。 そうだ、詩丹。お前、何で道路に突っ立っていたんだ? 帰ってきてるなら早く家に入りゃいいのによ。」

 

 

 

 「なんか嬉しくなっちゃてさ...... うちのパン屋にあんなに人が並んでいるのを見るのが...... 嬉しくなっちゃたんだよ」

 

 

 「詩丹...... 」

 

 

 母が呟くと、父はそれに続く。

 

 

 「詩丹...... お前から借りた金は必ず返すからな」

 

 

 「父さん、 いいよ、そんなつもりでお金を渡したんじゃないからさ。皆の、家族のためさ...... 」

 

 「いいや、必ず返す。あの金はお前の金だ。詩丹、お前の将来のための......な。だから必ず返す」

 

 

 

 「父さん...... 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 

 

 「ほら、あんた達の出番じゃない? 」

 

 

 

 第二ヘリオン学校の一教室で、クラスいや、学校全体の支配者 林原愛が二人のエヴァンゲリオンパイロットに言葉を投げ掛ける。

 教室にいる黒空詩丹と苟アリスは教室の窓を開けて、青々とした空を見上げた。すると二人の目に映ったのは青き空とほぼ同化しているように見える巨大な球体だった。重々と蒼き光を発光させながら、アマノン本部へと宙に浮かびながら向かっていく。

 

 

 

 「間違いない! 『第七天使』だ! 」

 

 

 「ルイからもメール来たよ! 出動だって!」 

 

 

 「どうせ、今回私はお留守番でしょ? 初号機があの様じゃね...... 」

 

 

 「そう、あんたは今回パス...... そこで指加えて見てな! 」

 

 

 愛は机を強く叩き、アリスを獣の目で睨みつける。その様子を横目で見ていた須成屋真里の身体は恐怖で震える。

 

 

 「いいじゃない、行ってきなさいよ。小汚ない『貧乏人コンビ』で! 」

 

 

 「なんだと、この...... 」

 

 

 愛に食って掛かろうとするアリスの手を黒空は握り、止めに入る。

 

 

 「苟さん、話しても無駄だ。早く行こう。 林原愛...... 僕達がいない間に須成屋さんを暴行したら許さないからな...... 絶対に...... 」

 

 

 普段温和な詩丹が、目に血管を浮かべてクラスの支配者を睨みつける。その覇気に愛は背筋が凍る思いをした。

 

 

 「あんた達、デキていたんだっけ? 何もしないから早く行きなさいよ。目障りよ」

 

 詩丹とアリスは須成屋真里を心配そうに後ろを振り返りつつ、教室を後にした。

 

 

 「ふう、小汚ない蠅共が消えたわね」

 

 

 その言葉と同時に愛の鞄が真里の頭を直撃する!

 

 真里はただ救済者のいないこの地獄を心を殺してやり過ごすことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『第七天使』、現在2.4ベルツでこの司令部に近づいています! 『EATF』を全力展開し、通常兵器第一次攻撃、第二次攻撃を無効化、最終防衛ライン手前まで接近! 」

 

 

 「ヘリオン市住民の避難率69%! 市内の防衛壁展開率89%です! 」

 

 

 「世界連盟から戦闘データコピーの譲渡要求、事前の段取り通りに進めます」

 

 

 

 

 アマノン司令部最上段には、林原結希統括司令官、宮本理彩副司令官、アルテミス・平谷博士の姿がある。

 

 

 「世界連盟も随分しおらしくなったのう。前はあれもこれも偉そうに要求してきたが...... これも我らが『女王様』のお陰かの」

 

 

 「ふふふ、自分の利益を最大限に確保する、そのためには下からは出来るだけ毟り取り、上にはひたすらへり下る...... 奴等はそんなもんよ」

 

 

 「結希の『観測者達』参加は効力あるわ。最早このアマノンは『観測者達』直属も同然だしね」

 

 宮本理彩副司令官が腕を組みながら語る。

 

 

 「でも、幾ら出世しても『カレルレン達』... 『第一始祖民族』達がいる限り、私達は只の駒よ。もう、一人『神の舟マハノン』から出て来てバルバルア支部にいるみたい」

 

 

 「もう動きおったか...... もう偵察の時期という訳か...... 」

 

 

 

 「林原司令官、エヴァンゲリオン二号機、エヴァンゲリオン三号機、発射ピットに着きました! 出動させます! 」

 

 我蛭ミサ戦術指揮官が林原司令官に状況を伝える。林原結希は坦々と返す。

 

 

 「いいわ」

 

 

 

 「エヴァンゲリオン二号機、三号機―――――― 発進 ―――――― ! 」

 

 真理谷ルイ戦術指揮官が号令をかける!

 

 

 

 

 

 

 

 

 『第七天使』はアマノン本部の森林上空まで進行していた。青き球体の巨大さは太陽の光を完全に遮るほどだ。

 青光を不定期に放ちながら、ヘリオン市にいる全ての生物を威圧する。

 

 

 バァン!

 

 

 重々とした銃声がヘリオン市に響き渡る。銃弾は標的である『第七天使』に直撃すると思われたが標的が張り巡らしている『EATF』で空中の塵となった。

 

 その後も銃声がヘリオン市に響き渡り続ける。『第七天使』は銃弾を退けるたびに妖しい青き発光を放ち続ける。

 

 

 「よし、間に合った! 」

 

 ヘリオン市郊外から射撃を続けていた苟アリスが叫ぶと同時に、浮いている『第七天使』の下から突然、エヴァンゲリオン二号機が表れる!

 

 

 「ふう、何とかなったよ。林原愛のように永続的なステルスは出来ないけど、20秒位なら...... 」

 

 

 「詩丹、よくやったわ! そのまま強化ATFを展開、『EATF』を中和して!」

 

 ルイの命令通り、二号機は強化型ATFを展開し、『第七天使』から『EATF』を引き剥がす!

 

 激しい白い光が周囲を包む!

 

 その間にも二号機による射撃は止まることを知らない。銃声が市内を駆け巡る度に『第七天使』の青き身体は青き血で染め上げられた。

 

 「よし! いける! 」

 

 

 詩丹が勝ち誇った瞬間――――――

 

 突然、青き球体からエヴァンゲリオンに似た青き巨人が姿を表し、あっという間に二号機の手を掴んだ!

 

 「ぐっ! 」

 

 二号機は青き巨人の手を振りほどこうとするがまるで動かない。

 

 「詩丹! 」

 

 

 「黒空! 」

  

 

 二号機は為す術もなく、青き球体に入り込んだ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒空詩丹は辺り一帯、漆黒の闇に包まれた空間にいた。一筋の光すら、一つの埃もない無限の闇の中で詩丹はただ漂う。

 

 

 

 

 「あんた、哀れね。他人のため...... 家族のため... ...ただ自分から逃げてるだけじゃない...... 」

 

 

 林原愛に似たような声が詩丹の耳、いや、心に直接響く。

 

 「自己犠牲して、周りと自分にいい顔して、満足してる。他人を傷付けて周囲を支配するのと何ら変わらない...... 」

 

 

 「ち、違う! ぼ、僕は...... 僕は! 」

 

 

 

 「違わないわ、一緒よ。あなたも他人が恐くて、理解出来なくて、自分を切り売りして間接的に支配しているだけよ。」

 

 

 

 「違う! その側面があっても、僕は、 僕は...... 」

 

 

 

 

 「自分の『世界』を守りたいだけだ! 」

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 三号機は遠距離射撃を繰り返すが、青き球体は青き血を吹き出すだけで、まるで手応えがない。辛うじて足留めしている状態だ。

 

 

 

 「ちっ! ルイ! もうすぐ遠距離ライフルの弾がきれる! あたしも接近戦に切り替えて黒空を取り返す! 」

 

 

 「だめよ! アリス! 二号機の二の舞になるわ! 」

 

 

 

 「黒空を見捨てるって言うの? 」

 

 

 

 「貴女まで失うわけにはいかないわ...... 解って頂戴...... 」

 

 

 「ルイ! 」

 

 「私も辛いの、分かって...... 」

 

 

 ルイの震えるような声での懇願に、アリスと三号機の動きは止まる。

 認めたくはない、ないが打つ手はない。その現実にアリスは手が止まり、項垂れる。

 

 

 

 「結希、初号機を可動させましょう」

 

 

 

 宮本副司令官の要望に林原司令官はゆっくりと首を縦に振る。

 

 

 「リスクは高いけどしょうがないわね。緑ちゃん、初号機パイロットを今すぐ招集して」

 

 

 「り、了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 グシャ!

 

 

 

 

 「ん?」

 

 

 

 

 ズシャ!

 

 

 

 宙に浮く青き球体から大量に次々と吹き出す青い血が地上に鮮やかな蒼き川を造り上げていた。

 

 『第七天使』の身体は瞬く間に穴だらけになっていく! 青き球体は為す術もなく、唯、宙に漂うしかなかった。

 

 

 「く、黒空? 」

 

 

 

 アリスが呟いた瞬間――――――

 

 

 『第七天使』は弾け飛ぶ! 粉々になった天使の肉片がヘリオン市内に降り注ぐ!

 

 『第七天使』が爆散したあとに宙に残っているのは白き翼が生えたエヴァンゲリオン二号機――――――

 

 

 二号機は手を掲げると、『第七天使』の肉片を引き寄せる! 二号機は敵の肉片を次々と吸収する!

 

 

 

 

 

 「ついに『仮実験』か、いや、最初の」

 

 

 

 「まあ、いいわ。『サブ』が在って越したことはないしね」

 

 

 

 アマノン司令部最上段にいる三人は冷静に事態を見守るが、戦術指揮官達は混乱していた。

 

 

 「あれは一体...... 詩丹! 詩丹!? 応答して! 」

 

 

 

 

 「だけだ」

 

 

 「詩丹! 」

 

 

 

 「僕は自分の居場所を守りたいだけだ 」

 

 

 

 詩丹が心中を独白すると、二号機は白き翼を失い、静かに地面に落ちた。

 三号機は素早く二号機に駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 その様子を天使の攻撃からヘリオン市を守る防衛壁の頂上から見つめる黒髪の少女がいた。人間が登れる場所ではないことは梯子も何もないことから容易に理解出来る。

 

 

 

 「『福音の刻』...... 」

 

 

 「あれが『レプートン』が言っていた『実験』か。我々が『奥』に帰るための...... いや、『奥』を支配するための... 」

 

 

 「まあ、いい。全ては我々『第一の民』のためにある。『奥』以外はな...... 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シン世紀 エヴァンゲリオン アイ

 

 

 第十一話 完

 

 

 

  

 

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