広大という言葉も適切ではない程の広大な部屋に第四の生命の種『カイン』は存在する。エヴァンゲリオン数十体分にもなる超巨体の『種』は鼓動だけでも特殊性鉄鋼で出来ている強固な部屋を揺らす。以前は液体のような状態になっていた頭部は爬虫類に近い型になり、完全体になりつつある。
『カイン』を広大な部屋の反対から凝視するのはアマノン統括司令官、林原結希と副司令官、宮本理彩の二人である。
「随分、出来上がって来たわね」
「『K』計画、完了間近ね。あとは『天使達』の殲滅.、『U』計画の実行。 そして...... 」
「『福音の刻』 全てが煉獄を通り、神々が溶け合う領域に帰る刻...... その始まり...... 」
全ての出入口への扉が閉ざされているにも関わらず、黒髪の少女は突然姿を表した。黒ずくめの派手な衣装を纏い、結希と理彩の前に一瞬で移動する。
「これは...... 『グルオン』様...... わざわざこんな所に...... どうされたのですか? 」
(何故第一始祖民族がここに...... まさか『カイン』を... )
「『グラビュラ』には何もせん。『レイダ』よ」
「!」
宮本理彩は自分の心を読まれたことに驚愕した。理彩は震えが止まらず、その場に倒れ込む。
「理彩...... 『グルオン』様、気になりますか? 『器』の完成度が」
結希が黒髪の少女に問いを投げ掛けても、少女のような存在はその冷徹な表情を変えない。
「どうでもよい。ただ見たかっただけだ」
「何をです?」
「『ウィクラ』が産み出した『レイダ』達、そしてその領域をな...... いや、『ストリンラ』と『ウィクラ』そして『リパテイ』のユニオンの故の世界か...... 」
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「黒空くん、こっちだよ」
「あ、須成屋さん! ごめん、ちょっと遅れてしまったかな? 」
「だ、大丈夫だよ、私も来たばかりだから」
エヴァンゲリオン二号機パイロット、黒空詩丹とそのクラスメイト、須成屋真里はヘリオン市の隣の都市ズリガリアに来ていた。ベットタウンであるヘリオン市と対称的な娯楽施設、商業ビルなどが揃うカリス共和国の中でも指折りの経済都市である。
詩丹と真里はズリガリア市にあるカップルに大人気の遊園地に来ていた。
祝日効果もあり、遊園地は家族連れやカップルで溢れている。遊園地内に入るまで1時間超を費やした二人は、ふらつきながら漸く開いているベンチを見つけ、飛び込むように座る。
「ふうぇ、 疲れたねぇ」
「祝日とは言え、こんなに混むとはね。なんか喉渇いたね。僕、飲み物買ってくるよ、須成屋さんは何飲む?」
「あ、ありがとう。私はソーダで」
「わかった、ちょっと行ってくる」
須成屋真里は幸福感に包まれていた。学校で屈辱を受けても、家にも居場所がなくても、好きな人と一緒にいれるだけで幸せな気持ちになれる。人生が辛くとも、幸福という居場所があるだけで前に進める。そんな前向きな気持ちになれた。
「おまたせ、はい、どうぞ」
「ありがとう、黒空くん」
「僕、須成屋さんとこうして一緒に出掛けられて嬉しいよ」
「わ、私こそ、黒空くんと一緒に居れて嬉しい 」
二人はもう言葉は要らないと言わんばかりに静かに手を繋いだ。最初は恥があるのか、指先だけ触れ合っていた... そこから二人は顔を赤めながらも、互いの指と指を絡め合う。
二人の想いを確かめ合う会話は要らない。二人は自然と頭を相手の方に傾ける。
「おかあさん、あのひとたち、らぶらぶだね」
「けんちゃん、みちゃいけないよ! 」
道行く子供に自分達の状況を指摘され、我に返った二人は勢い良く立ち上がる。
「す、須成屋さん、向こうのジェットコースター乗ろうか!」
「う、うん、行こう! 」
詩丹も真里同様、幸福感を感じていた。『第七天使』との戦闘以来、詩丹には変な疲労感があった。それがただの戦闘の疲れなのか、あの時、あの暗闇の中で抉り出された心の『闇』なのかは分からない。その闇を取り払ってくれる笑顔と触れ合いたい、ずっと見ていたい―――――― 詩丹はそう思っていた。
「イエェェェェイ! 黒空くん、たのしぃー 」
「ひぃぃ! 」
ジェットコースターから降りた詩丹は項垂れている、まるでゾンビのようだ。
「く、黒空くん、大丈夫? 」
「だ、大丈夫だよ。エヴァンゲリオンとか自分で操縦する分には酔わないんだけど、こ、こういうコンピュータが操縦するのはよ、酔うね。
しかし、意外と須成屋さんはこういうの強いんだね」
「うん、なんか、普段辛いからこういうかっ飛ばすの、嫌いじゃないんだ」
「そうか... 林原愛も何時まであんなことをするつもりなんだ? 全く」
「で、でも黒空くんのお陰で、前より学校来るのが辛くない。前は学校行こうとする度に恐怖で足が動かなかった。でも今は前に進める、進めるの。黒空くん、苟さんには感謝してもしきれないよ」
「僕こそ須成屋さんには感謝してる。前の戦いもかなり危険な戦いだったんだ。エヴァンゲリオンでの戦闘なんか危険しかない、結構しんどい時もあるよ。でもこうやって須成屋さんと一緒に居れるだけで救われる。また前に進めるんだ」
「黒空くん...... 」
「ごめん、重い話題を切り出してしまったね。今は辛いことは忘れよう。
次はあれに乗ろう! 」
「うん! 」
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アマノン・バルバルア支部にあるパイロット専用のロッカールームで、エヴァンゲリオン四号機パイロット、シェリア・シャルウェルツェンとエヴァンゲリオン七号機パイロット、セトナ・ブライトがプラグスーツから私服に着替えていた。
「ふう、今回の予行演習も疲れたねぇ。おっさん、最近、ちょっと気合い入り過ぎだよー」
「まあ、仕方ありませんわ。支部司令官も色々『上』に言われているみたいですし。私が『サードインパクト』を引き起こしそうになった責任も支部司令官に背負わせてしまった様ですから...... 」
「そんな! シェリ姉の責任じゃないよ! 悪いのは油断したあたしだよ。シェリ姉は全く、まぁぁたっく悪くないよ! 」
「ありがとう、セトナ」
「それにしても、あのミリヤちゃん、いやなんとか民族とか言っていたっけ? あの話し、本当なのかなぁ? というよりバカなあたしには難しくて良く分からなかった」
シェリアは目を鋭利な刃物のように鋭く瞳を尖らせると、あの時の事を思い出す。
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「第一始祖民族? 」
シェリアが初めて聞いた言葉で、困惑していると、ミリヤが笑いだした。
「そっか! 君達『レイダ』は何も聞かされてないんだ?
あはははははははははははは!
こいつは笑えるねぇ」
「で? 何なんですの? その『第一始祖民族』というのは? 」
「だから、さっきも言ったろ? 全ての生命の種を作ったって。『観測者達』の言う通り、君達『レイダ』にとっては『神』みたいな存在だ。あと文字通り『一番目の民』だ。君達は三番目だろう? 」
「さ、三番目? 今、世界にいる人類が三番目だとしたら、二番目はどこに? 」
「ふう...... やれやれだな。 そんなことすら知らないのか? 『神の児』が三回目の約束の後――――――『レイダ』の言葉でなんていったかな? ああ、そうそう『人類補完計画』だったっけ?」
「『人類補完計画』? 」
「『レイダ』風に言えば、神へと到る儀式みたいなもんさ... もっともボクらにとって、あれは下準備みたいなもんだったけどね 」
「...... 」
「おっと! 口を滑らせ過ぎたようだね。このへんでお開きにしよう。じゃあ、またね」
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シェリアは考えが纏まったのか、静かに口を開く。
「あの言葉に偽りがなければ、私達の文明の遥か前にも文明があったことになりますわね。そして更に邪推するならば 」
「するならば? 」
「その文明は恐らく、エヴァンゲリオン若しくはそれに近い物を所持していた」
「確か、あたし達のご先祖様は10万年前から初めて文明を作って、ここまで成長したんだよね? その文明を作る前にも文明があって、その文明はエヴァンゲリオンを持っていたってこと? 」
「恐らく...... 私達が教えられた歴史も捏造されているのでしょうね。
セトナ、思い出して。ミリヤは『三回目の約束』と言いました。私の推察が正しければこれは『インパクト』のことだと思いますの。『インパクト』には大体、エヴァンゲリオンが絡む。古代文明はエヴァンゲリオンを所持していたと見るのが最早自然でしょう。
ミリヤの言っていた『人類補完計画』...... これもエヴァンゲリオンが絡んでいると思いますわ」
「じゃあ、シェリ姉! 33年前のセカンドインパクト、あたし達が止めようとするサードインパクトも... ...」
「ええ... 捏造でしょう。実際にはインパクトは四回以上あった。ミリヤの言ったことが正しければこれが妥当な見解ですわ」
「なんだか難しくてよく分からないや...... 」
「ミリヤがどう動くにしろ、世界がどういった経緯を辿ったにしろ、私がやるべきは世界を守る、そして何よりセトナを守る! それだけですわ」
「シェリ姉...... 」
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「須成屋さん、もうすぐ始まるよ!」
「間に合ってよかったね」
「ここに来たら、これを見ないとね。」
詩丹と真里の周りには大勢の人々がいた。集まった人々は今から起こるイベントを今か、いまかと待ち構えていた。辺りの電灯の灯りが消えると、人々がざわめく。と同時に詩丹と真里は肩を寄せ合う。
数多の星と三日月が漆黒の夜空を照らす中、人々を、夜空を、より明るく照らす光の花が宙に舞う。
一発、一発。花火が打ち上がるたびに大きな歓声が上がる。この光の花束を人々は自らの闇を、苦しみを覆い隠す一途の希望と見るのかもしれない。
詩丹と真里は、『闇』を一旦心の片隅に置き、手を握り合う。
いずれ『闇』に自分達の全てが吸い込まれるとしても... ...
シン世紀 エヴァンゲリオン アイ
第十二話 完