シン世紀エヴァンゲリオン アイ   作:ケプラー星人

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第十七話 自分の終わり あの人にさよなら

 

 「うっそ、それまじで? 」

 

 「ほんとらしいよ、愛ちゃん、母親殺そうとしてたって......」

 

 「いくらなんでもやり過ぎでしょ? 引くわー」

 

 

 「しっ! 来たよ! 」

 

 廊下内で噂話をしていた生徒達は一斉に四散する。学年の支配者、いや学校の支配者が姿を表したからだ。

 

 獣の瞳を持つ銀髪の少女、エヴァンゲリオン初号機パイロット、林原愛の表情は暗い、目の下には隈ができていて、瞳は虚ろだ。その弱った状態でも愛は他者を威圧する。

 

 

 「何、話してんのよ、あ? 」

 

 

 「な、なんでもないっすよ、愛さん......」

 

 

 「なんだって言ってるのよ! 」

 

 愛は自分の取り巻きの胸ぐらを掴むと激動する。取り巻きはただたじろぐ。

 

 「い、いや、ほんと、な、なんでもないっすって...... 」

 

 

 「ちぃ! 」

 

 愛が手を離すと、取り巻きは地面に叩き付けられる。

 

 「あんたら、私の事話してたら許さないからね! したら死ぬまで追い詰めてやる! 」

 

 

 愛の激昂は廊下や周りの教室の生徒にも聞こえ、生徒達は一斉に黙り混む。ここまで愛が怒りを示すことはなかったからだ。

 

 「須成屋! 何見てんのよ! 」

 

 須成屋真里は下を向くと非常に小さな声で返答する。

 

 「み、見てないよ、な、何も見てないよ......」

 

 愛は目の前にある机を蹴飛ばす。飛ばされた机はドミノ倒しのように次々と他の机を倒していく。

 

 学校の支配者は餓えた獣ような狂気に満ちた目で教室中の生徒全員を睨んでいく。生徒達は蛇に睨まれた蛙状態だ。愛は息荒く、教室を一通り見回すと地団駄を踏むような足取りで教室を出ていった。

 

 

 「うわ、何コレ。何があったの? 」

 

 少し時が経って苟アリスが教室に入ってきた。その有り様にただ驚くばかりだ。

 

 「は、林原さんが...... 」

 

 「なんか、すっごいキレてたよ...... あの噂、本当なのかな? 」

 

 「......」

 

 アリスは沈黙する。自分も事の顛末は触りしか聞かされてなかった。

 母親であるアマノン統括司令官を殺害しようとした―――――― 愛ならやりそうだ。と胸の中で思いつつも、アリスは口にすることはない。

 

 

 

 *************

 

 

 

 白と灰色の雲が青々とした天高い空を彩どっている。太陽の光は広大な雲の隙間から地上に降り注ぐ。

 

 アマノン本部の敷地に巨大な穴が開けられている。『第九天使』という災厄が開けた深き穴だ。多数のアマノン隊員が見守る中、『カイン』のいる部屋に続く破壊され尽くしたリフトの復旧作業が行われていた。数多の重機や復旧用ロボットがリフトの中に入っていく。 その様子を宮本理沙副司令官と真理谷ルイ戦術指揮官が高台から見つめている。二人の表情には一筋の笑みもない。

 

 「副司令官、林原司令官の容体は..... 」

 

 「順調に回復してるわ、心以外はね。」

 

 ルイは肩を落とすと同時に溜息を吐く。

 

 「あの林原司令官がグロッキー状態...... どうなってしまうのでしょうか、アマノンは...... 」

 

 「どうにもこうにも、なるようにしかならないわ。愛は大丈夫? 」

 

 「解りません、連絡取ろうにも電源も入れていない様で...... 」

 

 宮本副司令官はただ目を細める。その行く末を見据えるかの様に......

 

 

 

 

 

 *********

 

 愛は自宅のベットに踞りながら、口を震わせながら懺悔、いや言い訳の呟きをする。その瞳は恐怖と狂気が入り交じっている。

 

 

 

 「わたしは悪くない、わたしは悪くない。悪いのはあの女、あの女よ。あいつが父さんを」

 

 (あなたがやったのよ。あなたがわるいのよ。あなたが仕掛けたのよ。あなたが殺そうとしたのよ。あなたがやったのよ。)

 

 「違う! 私じゃない! やったのはお前だ! 私じゃ...... 」

 

 (あなた、いつも誰に対しても攻撃的な態度をしていたじゃない。何を今更怯えてるの? 今更後悔してるの? もう遅いわよ。)

 

 「私は......」

 

 (そうやって自分のやったことから逃げるのね。)

 

 「逃げて...... なんか」

 

 (散々他人の生まれや容姿や収入、個性をネタにして傷付けてきたじゃない。散々自分とは違う思想だからって蔑ろにして虫の様に扱ってきたじゃない)

 

 「そ、それはあ、あいつらが...... わたしを...... 」

 

 

 (後戻りできないわよ。とことん傷付けましょ? )

 

 

 「いや......」

 

 

 (気に入らないやつは全員)

 

 

 「......」

 

 

 (追い込みましょう。死んじゃったっていいじゃない。自分を守るためだもの)

 

 

 (わたしは)

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 黄昏がヘリオン市、第二ヘリオン学校を包む。白く塗装された壁はオレンジのかかった黄金に染まっていく。

 須成屋真里がいる教室にも窓から沈み行く日の光が射し込んでいく。

 

 定期的に行う放課後清掃のため、須成屋真里は一人で教室に残り、箒を片手に清掃していた。本来は二人一組で行うものだが、クラスメイトはいつも真里に押し付けて帰ってしまうのだ。真里はそれでも腐らず隅から隅まで動き回る。

 

 

 ガシャ!

 

 

 突然、教室の扉が開くと真里の背筋が凍り付く。自分にとっての「悪魔」学校の支配者、林原愛がそこに居たからだ。

 

 

 「心配しなくても今日は手荒な真似はしないわよ。教師もその辺にいるしね。」

 

 

 「ど、どうしたの? 林原さん...... 」

 

 真里は身を竦めながら、愛の行動の真意を探ろうとする。愛はただ薄暗い笑みを浮かべるだけだ。

 

 「須成屋、あなたに知って貰いたくて」

 

 「な、何を? 」

 

 

 「私達の関係」

 

 

 「わ、私達って、一体...... 」

 

 

 林原愛が真里に端末機を見せ付けると、真里は驚愕する! 目の前の『事実』に脳がついて行けなかった。

 

 端末機の液晶には裸の林原愛と黒空詩丹が写っていた。二人とも目をつむり、愛が詩丹に抱きついている。

 真里は頭の中が真っ白になり、意識も遠退く。一体何が起こっているのか、まるで理解出来なかった。

 

 

 「こ、これは一体...... 」

 

 

 「まだあるわよ」

 

 愛が端末機の液晶をスライドさせると真里の身は更に固まる。愛と詩丹が目を瞑りながらキスをしている画像が写し出されたからだ。愛がスライドする度に真里の心は壊れていく。自分が好きだった人があろうことか、自分を一番苦しめている人間と寝ている事実に真里は到底耐えられなかった。

 

 

 

 「まだまだあるわよ。私達のセックス画像は......」

 

 「嘘よ、こんなの......嘘よ! 」

 

 

 「嘘じゃないわ。何度も何度も混じりあったのよ、黒空ととね。気持ちよかった、今までした中で最高のセックスだったわ」

 

 「だって黒空君とあんなに仲悪かったじゃない! な、なんで! 」

 

 

 「男と女なんて何時どうなるかなんて分からないでしょう? よく喧嘩してたけど、今思えばお互い想い合っていたのね。喧嘩する程仲が良いってね」

 

 「そ、そんな...... 」

 

 真里が項垂れると愛は狂気に満ちた笑みを浮かべ、目の前にいる少女に言葉を投げ掛ける、トドメを刺すために。

 

 

 「そうそう、須成屋、私と黒空、付き合うことにしたから」

 

 

 「え? 」

 

 

 「だって『中』にも出しちゃったし、責任取って貰わないとね。それにお互い本気で好きになっちゃったから」

 

 

 「う、嘘よ...... 」

 

 

 「本当よ」

 

 

 「嘘だぁぁ! 」

 

 

 「須成屋、貴女の気持ちは良く分かるわ。でもしょうがないの。もう黒空は貴女のものじゃないの。その証拠に貴女が黒空に電話掛けても繋がらないでしょう? 」

 

 真里ははっとする。確かに昨日から電話、メールなどしても黒空には繋がることはなかった。

 

 「その顔、図星のようね。黒空、いや詩丹はもう貴女に会いたくないのよ。残念だけど詩丹はもう私の彼氏なの、もう彼のことは諦めて。じゃあね」

 

 

 唖然とする真里を教室に残し、愛は去っていった。

 

 暫くすると真里は足を動かす、その姿は生きた屍のようだ。学校を後にすると、眼球という高性能な液晶カメラが、錆まみれの線路、今にも崩れそうな廃屋、夕陽という黄金に包まれている猫等の風景を無作為に運んでくるが、少女の今にも張り裂けそうな精神はノスタルジックな感傷に耽る余裕はなかった。

 

 空が赤い。黄昏のせいか、真里の心が壊れたせいのかは分からない。ただの夕焼けとは思えない位大空は赤かった。真里は吸い込まれそうな感覚に陥る。

 

 最早真里は何も考えられなかった。唯一考えたことは自分に出来ることは「自分」に終末を与えることだけだった。

 

  足を進めた真里は電車の路線に差し掛かり、警報が鳴り響く。少女は何度この踏切で、高速で駆け抜ける鉄の猛獣に身を任せ、苦しみに満ちたこの人生を解放したいと思ったか分からなかった。

 

 しかし毎回、警報が鳴りやんで存在するのはこれからも人間扱いされない毎日を決定付けられている自分だけだった。

 

 

 

 

 

 今までは......

 

 

 

 電車の到来を報せる警報が鳴る中、真里は路線に向かう。この心を破壊された哀しき少女が出来ることは鉄の猛獣に自らの終わりを委ねることだけだった。

 

 

 

 シン世紀エヴァンゲリオン アイ

 

 第十七話 完

 

 

 

 

 

 

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