バルバリア王国――――――旧北アメリカ大陸に存在するこの地域の盟主的国家である。政治体制は立憲君主制、Eオーシャン(旧太平洋)に接し、海運及び貿易が主産業である。人口は約1億1089万人、経済規模は世界第4位、当然軍事力も軍事大国と呼ぶに相応しいものである。
しかし周辺国がバルバリア王国に過度とも言える「忠誠」を誓う要因は、外交手腕でも経済支配でも軍事的圧力でもなかった。
バルバリア王国グミヤン州はEオーシャンに接し、バルバリア王国有数の経済都市であると同時に王国最大の「拠点」でもある。しかしそれは他国からの侵略に対しての軍事的拠点でない。軍隊の脅威が霞むほどの強大な脅威に対しての拠点なのだ。
青く染まり、太陽がそれを照らすことで、海上に無数のダイヤモンドが作られていく。そんな本来は観光地にピッタリの景色を持つグミヤン州の港に黒スーツの男達が警備を行っている。虫すら通さない!と言わんばかりの強固な警備である。
その港の砂浜で二人の男女が双眼鏡を持ちながらEオーシャンを眺めていた。
女はスタイルが良く、ツインテール。サングラスを着け、片手には酒を持ちながら、双眼鏡で海を観察していた。
男は高身長でガタイもいい、スポーツマンの様な体格でアゴヒゲを揃えていた。
足元にはクーラーボックスと酒の空き缶が置かれていた。
そして二人の肩のワッペンには『アマノン』の文字が記されていた。
「さあ、そろそろどんな映画も敵わない大スペクタクルアクション巨編が始まるにゃん♪」
「遊びじゃないぞ、ジャリコ。我々の任務は偵察及び記録の確保、そして」
「見極めることだにゃ?『近姦の子』の力を」
「その通りだ、『観測者達』に正確に伝えないと我々の首が飛ぶだけでは済まんからな」
「カリスにいるアマノンの『女王様』に伝えるのはそのあとかにゃん?ジョージ」
「ああ、所詮奴の情報獲得プライオリティは46以下だ。『観測者達』の血族とは言え、あそこまで特別扱いする必要は......ない!」
「ジョージ......残念だがにゃ、女王様の『観測者達』入りが正式に決まったみたいなのにゃ」
「なんだとぉぉ!それはいつ入った情報だ!?ジャリコ!」
興奮したジョージは片手でジャリコの肩を掴む。
「お、落ち着くにゃ!ジョージ。つい2時間前、ジョージが支度している時にゃ」
「ば、馬鹿......な!あんな奴が『観測者達』加入だと!?しかも世襲!有り得ぬ!くそ、俺も飲むぞ!」
落胆の様子のジョージは、クーラーボックスから酒を取り出し、一缶あっという間に飲み干すと、二缶目に手を伸ばした。
「おいおい〜ジョージ。あまり飲み過ぎるにゃよ。ったくジョージの世襲嫌いは度を過ぎてるにゃ」
ジャリコの制止も聞かず、ジョージは突然の「悲報」による心の傷を癒すため、バキュームの様に酒を飲みまくる。
「ジョージ。冷静に先を読むにゃ。アマノンの女王様、林原結希の置かれた状況はそんな出世の一言で済むような楽観的な状況ではないのにゃ」
「ど、どういうことりゃ?」
酔ったジョージが訪ねる。
「よく考えるにゃ。『観測者達』の一員――――――尤も情報では末席ということらしいがにゃ。それでも一員になるということは『観測者達』いや、『カレルレン達』のメイン計画にも責任を負うということにゃ、あの『K計画』にもにゃ。ついでに『観測者達』の一員ともなれば、世界連盟理事会より立場は上になる、世界連盟、全世界の国家の運用管理もしなければならないにゃ」
ジョージは飲むのを止め、眼光を鋭くさせる。
「当然、この先多忙を極めることはあっても暇になることはないアマノン司令官の職務もあるにゃ。対天使の対策、『アブラハムの子供達』『禁姦の子』『近姦の子』『EC計画、MC計画の結晶』等の各機体の管理、そしてその先にある『U計画』の実行及び成功。果たして全て上手く捌けるかにゃ?」
ジョージは不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ、そんなブラック企業も裸足で逃げ出すような過密スケジュールを捌けるようなら、地球どころか銀河系を支配できちまうな!ハハハ」
「その通りにゃ。こんな殺人スケジュールどころか虐殺スケジュールを捌ける人間なんか存在しないにゃ。多少の失敗は『観測者達』が目をつむるとしても、『カレルレン達』が計画の大幅な遅れを許すはずがないにゃ。つまり......」
「何かデカい「やらかし」でも一つありゃあの大胆不敵な女王様も地に堕ちると言うわけか!こりゃいい!お手並み拝見といきますか!」
「ふふふ、元気になったにゃ。お!来たにゃ!『近姦の子』にゃ!」
浜辺の端から、黄色の巨人が姿を現した。水中用の装備をしているからなのか横幅があるように見える。エヴァンゲリオン初号機と同じく頭部の装甲の隙間から青い髪が伸びている。周辺国がバルバリア王国に誓う「忠誠」の原因でもあった。
「どうせならここでやらかしてくれれば楽しめるんだがな」
「それは無理かにゃ。『近姦の子』はあの初号機と同じ位特別な機体にゃ。心配しなくても転ぶ時は必ずくるにゃ、今はこの『娯楽』を楽しむにゃ」
海深くを進む黄色い巨人を眺めながら、謀略家達は妖しげな微笑みを浮かべていた......
**********
「私が良いって言うまで動いちゃダメよ?」
カリス共和国、特別区ジャベリン区内ヘリオン市にある第2ヘリオン学校の一廊下からエヴァンゲリオン初号機パイロット、林原愛の冷酷な命令が聞こえる。
林原愛の暴行対象者、須成屋真里は水の入ったバケツを頭に乗っけられ、動くなと言われたのだ。そのバケツには黒色のマジックで『バカ』と書かれていた。
「一滴も落としちゃダメよ?勿体無いから、水」
この状況を見ても助けるものは誰もいない。皆、傍観者でいたいのか、エヴァンゲリオンパイロットである愛が恐いのか、声を上げる人間はいなかった。
須成屋真里は顔を真っ赤にする、強い尿意が込み上げてきたのだ。
「あら、あら、顔真っ赤かでどうしたの?トイレ、行きたいの?」
「お願い......行かせて......」
「おしっこしたいならそこですれば?私が端末機で写真撮って上げるわよ。放尿シーンなんか変態に売れば良い金になるわ、いやどうせならネットに流しましょうか?その方が面白いわ!」
「お願い......行かせて!」
「愛さん、一旦トイレに行かせてまたやらせましょうよ。今回はそれで......」
愛の取り巻きの一人が妥協案を提示する。
「何?あなたの放尿シーンを撮ってもいいのよ?」
愛は取り巻きをもの凄く鋭い獣のような目で睨む。
「あ、いや、別に何でもないです。すいません......」
「お......ね......が......い......」
「キャハハハハハ。さあ、漏らすわよ!恥を晒しなさい、全世界に!」
周りがいたたまれず、下を向き、愛が端末機を掲げた。
すると側面から手が延び、真里の持っていたバケツを廊下にぶちまけた。
黒髪の少年が真里に声をかける。
「さあ、須成屋さん、早くトイレに行ってきな。ここは僕に任せて。」
「黒空くん!うっ、あ、ありがとう」
真里はトイレへ一直線に走っていった。
彼は黒空詩丹、真里と愛のクラスメイトであり、第一天使襲来の時は「サブ」であった。
「黒空ぁ、テメエ、なにしてんだよ!」
愛が詩丹に対して凄む。
「何って、廊下が汚れていたんでね。水でも流そうと思っただけさ」
「汚れなんかねえよ!」
「いや、でっかい、でっかい汚れがあるじゃないか?銀髪で青く獣みたいな瞳をしたでっかい汚れがね......」
「黒空、決めた。お前、殺す!」
愛が構える、遥か古代に栄えた「ケンポウ」という構えだ。
詩丹も同じく「ケンポウ」という構えを取る。
「戦績は5戦3分け......フィールドは濡れている、面白いじゃないか」
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真里はトイレの洗面所で手を洗っていた。なんとか間に合い、ホッとして廊下に出たら、詩丹が走ってきた。
「黒空くん!さっきは本当にありが―――――――」
「話は後、後!今日は二人で学校サボろう!」
「え、どうして?」
「『汚れ』がどうしても落ちなくてね。しつこくて、しつこくて。今日は逃げるが勝ちさ」
真里の手を握り、詩丹は校門に走る。真里の心臓は学校をサボる罪悪感と見るだけで「想い」が込み上げてくる存在と触れているという事実で激しく動いていた。
「ちっ!黒空の奴......」
愛は濡れた廊下の上で立ち尽くしていた。黒空の掴み所のない振る舞いが虫酸が走るほど嫌いなのだ。
愛の苛立ち具合に周りは声を掛けられずにいる。
「あいつ!いつか......してやる!」
プルプルプル。
愛の端末機がバイブレーション状態になっている。誰からかの着信である。
「誰だ」
「私よ、真理谷ルイ。愛、今大丈夫?」
「何の用よ?」
電話の相手は対天使対策部隊アマノン戦術指揮官、真理谷ルイだった。
本来なら緊急時以外は修学時間帯は連絡はないはずである。急いでいる様子もない。
「今日、アマノン本部に来てもらいたいのよ。『見せたいもの』があるの」
「見せたいもの?何なのよ、それ」
「来れば......解るわ......」
「......」
「じゃ、今日6時に集合ね。バックレるなよ!」
通信は切れた。愛は解せなかった。今までエヴァンゲリオン、対天使に関するスケジュール全てが緻密に隙間なく作られ、実行されていた。それが突然前触れもなく『見せたいもの』などと。
何かがおかしいと思いながらも、愛は隠された秘密を知る決意をした......
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バルバリア王国グミヤン州の浜辺、いや浜辺を飛び出して市道にまで、山のような巨体が横たわっていた。
魚――――それも肉食系の狂暴な魚のような頭部が10個(尤も現在は4個しかないが)があり、身体は人型で、手足の指の間には水掻きがついていた。
損傷が激しく、その身体は血により赤で染まっている。
その損傷した異形の存在の上に座って海を眺めているような様子で停止している黄色の巨人がエヴァンゲリオン4号機――――――通称『近姦の子』である。
その中のパイロット席に少女がいた。金髪碧眼で鼻が高く、堀が深い。肌は透き通るような白色だ。
「皆様、お疲れ様です。初めての実戦だったのですが上手く行きました。皆様のお蔭ですわ」
「ん〜い〜〜〜〜や!今回の第二天使撃破はシェリア!君が居なければ到底為し遂げることなど不可能だったよ。うん不可能、不可能」
「そんなクリス支部司令官......このシェリア、そんなに褒められると照れてしまいますわぁ♥」
「照れることはない、このアマノンバルバリア支部全員がシェリアの活躍を認めているのだ。うん、認めてる、認めてる」
エヴァンゲリオン四号機パイロット、シェリア・シャルウェルツェンとアマノン・バルバリア支部司令官クリス・ゲルバルの掛け合いが続く。
「さっき、アマノン司令官林原結希殿からお褒めの御言葉を頂いたぞ。今回の第二天使撃破の成功見事だった。アマノン本部に次ぐ働き、必ずや形に結び付くだろうと。つまり私は近々出世するということだ!うん、出世、出世」
「まあ、凄いですわ!流石支部司令官んんん!」
「アハハハ、これも君のお蔭だ!さあシェリア。そろそろ四号機と共に帰還するのだ、打ち上げパーティを行うぞ。うん、行う、行う」
「......すいません、支部司令官。今回のご褒美として、もう少しだけここに居させて頂けないでしょうか?HHは繋げてありますので」
「何故だ、シェリア。そんなところには何もないだろう、つまらんだけだぞ」
「いえ、どうしても、どうしても観たいものがありますの!肉眼や双眼鏡では見えませんし、資料も何もない。独自取材した記者達は軒並み『失踪』。私的公的問わず、海上ルートもそこには絶対通らない、通させない。ネットにも一つも画像がない。でもこの4号機に付いている高度視覚システムなら......それが見える!」
「シェリア!まさかあれを見ようと!?そいつはマズイぞ!うん、マズイ、マズイ」
「どうせそのうち、事がこのまま進めば嫌でも拝むことになりますわ。その前に遠くからでもご挨拶したいのですよ」
「ねえ、第3の生命の種、『イヴ』!」
エヴァンゲリオン4号機のパイロット席の正面にあるモニターには、Eオーシャン海上に浮かぶ小さな惑星のような塊が映し出されていた。ズームアップすると小さな惑星の表面上に女性型の巨人がへばりついていた。惑星と同化しているようである。女性型の巨人の色は黒く、白目で鋭い牙を剥き出しにしながら口を開けていた。
イヴと呼ばれた巨人から延びる触手が小さな惑星からEオーシャンに延び、さながら土台のようになっていた。
一番目立つのは、イヴの胸に突き刺さる巨大というにも適切か解らないほどの『巨大な槍』であった。
イヴの怒り、苦しみの表情にも似た表情はこの『巨大な槍』が突き刺さっていることによるものかもしれない。
「これが......生命の種『イヴ』......私も今まで話だけで知っていて、観たのは初めてだ。うん、初めて、初めて」
クリス・ゲルバルは驚嘆する、その手には汗が握られていた。知ってはならないことを知ってしまったとの後悔からなのか。
「これで支部司令官も同罪ですわね。うふふ」
「ぐわぁ!嵌められたぁ。うん、嵌められた、嵌められた」
「『観測者達』そして『カレルレン達』に超厳重に管理されし『母』の姿......とくと堪能しましたわ。
さて、直接お会い出来るのはいつになりますかね、うふふ、フフフフフフ。」
シェリアは天使の笑み、悪魔の笑みどちらとも笑みを浮かべ、両手で慶びを隠すように身体を包んでいた。
********
「凄い綺麗!海が一面に見える」
その公園は最上部から海が見渡せる。最下層は崖になっていて、高所恐怖症の人間は近寄ることは出来ないが。
「学校サボった甲斐があるだろ?須成屋さん」
黒空詩丹は得意気に両手を腰に当てる。
「私、ヘリオン市にこんなところがあるなんて知らなかったわ。なんて綺麗なところ......」
「ふふ、僕のとっておきの憩いの場所さ、誰にも言ってはダメだよ、ふふ」
「須成屋さん、あそこに座ろう。半ば逃げながら来たから疲れてしまったよ」
真里と詩丹は公園の芝生に腰をかけた。潮風が青々茂った芝生と周りの緑樹の葉を強く揺らす。犬と散歩している老人、ランニングに汗をかく女性、互いの手を握りしめて歩くカップル。公園にいる全ての人がこの強くしかし心地好い潮風に身を委ねていた。
「黒空くん、いつもありがとう。毎日毎日、林原さんに暴行されて、でも恐くて抵抗出来なくて......黒空くんが居てくれなかったら私......」
「前にも言ったけど人間として当然のことをしているまでさ。林原愛に物を言えるのは僕と苟さん位なのが情けないないね。そんなエヴァンゲリオンパイロットが恐いのかね?そりゃ第二学生区分にしては強大な権限だとは思うけどさ」
「エヴァンゲリオンパイロットということだけではないの。林原さんには何か権限とか特権とかから来る優越感とは違う恐怖を感じるの。皆も......そうだと......思う」
「違った恐怖か......彼女が何故周りに攻撃的なのか、僕にも解らないよ。過去のトラウマか、何か秘密があるのか。いや、特別な理由はないのかもしれない。ただ周りが敵に見えてしまうだけかもしれないね」
「敵に見えてしまう......」
「人間誰しも敵愾心という自己防衛本能を備えている。彼女、林原愛はその防衛本能が人一倍強いだけかも。周りはたまったものじゃないけどね」
潮風がより強く吹いた時、黒空の端末機が鳴り響く。
「おっと、電話だ。
黒空です。......真理谷さん!?どうしたんですか?急に...... え?見せたいもの?......分かりました、時刻通りに行きます。では失礼します」
黒空が下を向きながら、軽いため息をついた。
「ごめん、須成屋さん。僕、『上』に呼ばれてしまって......連れ出した分際で悪いけどそろそろ帰るよ」
「わ、わかった。黒空くん、気を付けてね!今日はありがとう」
「悪いね、また明日」
黒空がこの心地好い公園を去ろうとする。真里はその姿を見て、今まで秘めていた想いを口に出そうとしていた。何故かもう会えない気がしたからだ。
「待って、黒空くん!」
黒空がその足を止める。
「どうしたの?須成屋さん」
「わ、私、く、く、く、黒空、く、くんの、の、こ、」
「......ごめん、何でもない。黒空くん気を付けて行ってきてね。」
「?じゃあね。須成屋さん」
黒空ははや歩きで公園を後にした。
真里は庇われる内に自分の中に創られた黒空への想いを言い出せない後悔する自分と、否定された時耐えられないので言わなくて正解とする自分、二人の自分を同居させながら、去っていく黒空を、黒空が居なくなっても塩の匂いがする潮風に吹かれながら見つめていた......
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「今日の報告はこれで全てです。司令官」
天上や床、壁も含め全てモニターの異質の部屋に、対天使対策部隊アマノン司令官、林原結希の姿があった。
腕組みしながら、中央にある椅子に腰をかけている。
モニターには『近姦の子』を偵察していた一人、ジャリコの姿が映し出されている。
「御苦労様、ジャリコちゃん♥流石我がアマノンが誇る情報部特別室室員」
「いえ、仕事ですから。あと『観測者達』加入、おめでとうございます。凄い出世ですね」
「イヤだわ〜〜〜〜〜出世だなんてぇ。ただ面倒なだけよ〜〜〜」
「末席とはいえ、貴女の上にいるのは最早『カレルレン達』のみ。これを出世と言わず、何と呼べと言うのです」
「つまり、私はここまでと言うことよ。自分の限界が見えたわよん。
それより、ジャリコちゃん、あの『にゃ』って語尾付けないの?あれ、私好きなのよ、可愛いから」
「目上の方には絶対付けない自己ルールがありますので」
「あら、そう。残念だわ〜〜あとジャリコちゃん、カリスに戻ったら今度一緒に飲みましょうよ。隣にいるジョージ君も入れて、三人で。ね?」
「!」
ジャリコは心臓を捕まれた心地だ。ジョージは確かに隣にいる。しかしモニターにはジョージが映らないようにしてある。何故ジョージがいることが分かったのか。只の偶然か......
「親睦を深めたいのよ〜〜ほら、此れから私、アマノン司令官と『観測者達』の二足のわらじでしょ?このままじゃこの先の殺人的スケジュール、いや虐殺的スケジュールを捌けるとは思えないのよ〜〜高転びしないためにも優れた人材と公私共にお付き合いしなきゃね。
私が高転びするのを今か、今かと待ち構えている不届き者も大勢いることだし......ね。優秀な配下で身を固めとかないとね。ねえ、ジ・ャ・リ・コ・ちゃん♥」
ジャリコは汗が止まらなかった。何故自分の思惑がバレた......只の偶然か。いやこれは明らかに自分達を牽制、取り込みにかかった動き。
「そ、そんな。特別室と言っても私達は所詮一工作員。アマノン司令官、それも『観測者達』の一員と酒の席を共にするなど......身分不相応です」
「私が一緒に飲みたいと言ってるの。いいわね?」
暴虐の限りを尽くす娘と同じ―――――周り全てを威圧する獣のような鋭い瞳。ジャリコはこれを見た瞬間、抵抗を諦めた。
「......はい。......わかりました。3日あればカリスに戻れますので帰国したら連絡......致します......」
「あら〜〜嬉しいわ!楽しみにしてるわよ〜〜〜〜」
「失礼致します」
通信は切れた。
通信を切れたことを何回も確認して切れたことを確信したジョージはジャリコに怒りをぶちまける。
「馬鹿か!?何故俺があの女と飲まなきゃならんのだ!?」
「そんなこと言ったって、あの状況じゃ断ることなど不可能だったにゃ!それともジョージが断ってくるかにゃ?」
ジョージは全力の早さで首を横に振る。
「あれは最終通告にゃ......私の下につくか、それとも......という通告にゃ。
それにあの目......私達に選択権はないにゃ......」
ジャリコが恐怖で身体を細かく震えさせている。
「なら、どうするよ?」
「女王様の元で上手く立ち回るしかないにゃ。限界とか言っていたがあの女はこれからもまだまだ『昇る』にゃ。そのおこぼれを預りつつ、チャンスを伺うしかないにゃ」
浜辺の時とうって変わって、謀略家達は自分達が「駒」にされる運命を察し、下を向き、暗澹とする。
「ふん、お前らみたいな下衆の勘繰りなんかお見通なんだよ......」
モニターと椅子しかない部屋で林原結希は勝ち誇る。
「そう、私達はただ進むしかないのよ。ねえ、光希?」
後悔はない。何を捨てても。世の中いくら努力しても変わらないことはあるし、過去は変えられない。ただあるがままを受け入れて進むしかないのだ。これが何千回と頭の中で悩み、考え、導きだした自分の人生の道しるべなのだ。
端末機で映し出した男性を眺めながら結希は今にも泣き出しそうな悲しい、過去を懐かしむ顔をしていた。
シン世紀エヴァンゲリオン アイ
第二話 完