シン世紀エヴァンゲリオン アイ   作:ケプラー星人

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第五話 いじめる側の幸福感と苛めの幸福

「審判の書 創造譚

 

 第一章

 

 神アスカは天と地と海を創造した。神は天から舞い降り、生きとし生けるもの全てを創造した。約束の時を迎えた始まりのヒト、アダムとその伴侶リリスは神の世界から落ち、自らの領地を得た。神アスカは優しく微笑み、始まりのヒト、アダムとリリスを祝福した。アダムとリリスは我々の始祖となり、我々はその数を増やした。そして最初の文明、イシス文明を築き上げた。その後、横暴な行いをする人間に神アスカは罰を与えた」

 

 この世界の絶対的宗教である『パルス教』の聖典を読み上げている少女、須成屋真里は夜深くなった小洒落た公園で一人佇む。なるべく家に居る時間を減らすために、学校で受けている屈辱感を拭う為に少女は毎日この公園で『パルス教』の聖典『審判の書』を読み上げる。表立っては言えないが聖典に書いてあることは余りにも滑稽無糖だ。だが少女にはその滑稽無糖さが惨めな現実を忘れさせるには丁度良い塩梅だった。

 

 

 「第十二章 神の世界

 

 神アスカは遥か彼方から種を持ちこの星に訪れた。神アスカはこの世界を愛していたが、神の世界も恋しくなっていた。神アスカはありとあらゆる生物を作り、悪魔の王と対峙した。神アスカと悪魔の王は激しく混じりあった。その...... 」

 

 プルプル

 

 須成屋真里の携帯型端末機が通信の着信音を鳴らす。真里は決して出ない、怒鳴られるのが関の山だからだ。

 真里はズタズタになっている鞄からコンビニで買ったライスボールを取り出す。家では極力食事を取らないことにしているのだ。

 真里は口にライスボールをほうばりながら思い出す。あの時、あの『悪魔』に始めて出会ったあの時を。あの時の会話は至って普通のものだった、あの時はただ友人が一人増える予感しかしなかった。その予感は大外れだったのだが、始めて出会って何週間は友人、いや親友にも成れそうな感触だった。

 

 一緒に放課後スイーツを食べ歩きしたり、普通の女の子の会話である恋愛話したり、『悪魔』の家にも遊びに行ったりした。

 

 何故こんな自分が傷つけられなければならないのか...... 真里は目を閉じながら微かに残る良き思い出に浸りながら自問自答していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え? 愛ちゃん、古谷君と付き合っているの?」

 

 「まあ、遊びみたいなもんだけどね。飽きたら捨てるわ。」

 

 銀髪の学生服を着た少女が取り巻きを十数人連れて第二ヘリオン学校の校門を歩いて通過する。銀髪の少女を中心にして他の生徒を押し退けながら進んでいく第二ヘリオン学校の朝のいつもの光景である。

 

 

 「愛ちゃん...... 古谷君、私と付き合っていたと思うん......だけど 」

 

 

 獣のような瞳を持つ銀髪の少女の取り巻きの一人が恐る恐るこの集団の中心人物に話しかける。銀髪の少女は済ました顔で返答する。

 

 「それで? 」

 

 「あ、愛ちゃん、古谷...... 君はわ、私の」

 

 「で? 」

 

 銀髪の少女は鋭く瞳を尖らせた。この鋭い獣のような目を目にした者はまず息を飲み黙ってしまう。

 

 

 「ご、ごめん、何でもない」

 

 取り巻きの謝る姿を見た銀髪の少女、エヴァンゲリオン初号機パイロット、林原愛は満足そうな笑みを浮かべて長い髪を左手でかき揚げる。愛に媚びを売る生徒が集まり、暴虐の少女が中心となる集団は更に大きくなっていく。

 学校の玄関、階段、廊下―――林原愛が通る所に学校の生徒が集まり皆、林原愛の機嫌を取る。この学校で彼女、彼女の取り巻きに目を付けられたら、平穏な生活は遅れない...その恐怖心から傍観者達は強き者に付き、外れた者は排除する―――傍観者達の自分達は傷付かないシステムが構築されていく。勿論それは林原愛に都合のいい規範となっていた。誰の尊厳を踏みにじってもいい、誰に暴行してもいい、誰にでも暴言を吐いてもいい。そんな規範がいつの間にか出来ていた。

 

 愛が自分の教室に着いてもまだ数人の取り巻きが付いている。愛は勢い良く教室の扉を開ける。

 

 まず愛の目についたのはクラスの最後尾の席に座っている右腕と左足に包帯を巻いたエヴァンゲリオン三号機パイロット――― 苟アリスの姿だった。

 林原愛と苟アリスは互いに相手を睨んでいる。先に目を逸らしたのは愛だった。

 

 「あら〜苟。貴女まだ生きてたの? あの時死んだかと思ったわぁ」

 

 愛の発言にクラス全体が凍りつく。苟アリスはただ左右色の違う瞳を細めるだけだ。

 

 「そんな怪我で済んだんだから感謝してよね? 私があの『第三天使』を倒したお陰で貴女、今ここに居られるんだから」

 

 苟アリスは辛辣な言葉にも動じない。その立ち振舞いに苛立ったのか、愛はアリスに近寄ろうとするがこのクラスの担任教師が教室に入ってきた。

 

 「着席! 」

 

 学級委員の言葉と同時にクラスの生徒が次々と自分の席に着く。愛はアリスを獣のような瞳で睨み続けながら渋々自分の席に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあ、はあ、はあ」

 

 須成屋真里はあのまま小洒落た公園で眠りに落ちていた。家にも帰らず、公園から学校へと来た。部活の時に鍛えた脚力で学校の階段を上がり抜く。

 教室の扉まで来ると真里の心臓は動きを早くする。走ってきたからではない、これから受けるであろう暴力が恐ろしいのだ。

 

 真里は静かに教室の扉を開ける。

 

 「須成屋、貴女、遅刻ね♥」

 

 林原愛が悪意が滲み出た笑顔を浮かべながら真里に話しかける。

 真里は下を向きながら席に着く。

 

 

 「お... おはよう... 林原さん。」

 

 

 愛は煙草を怖れることなく取り出し、火をつけ、吸い始める。

 

 

 

 「駄目よ〜遅刻しちゃ 」

 

 

 

 愛は真里の横に立つ、真里は頑なに下を向いたままだ。

 

 「悪い子にはお仕置き... しなきゃね!」

 

 

 「や、やめ」

 

 「うぐぅぅぅぇぇぅぅ」

 

 愛は真里の手の甲に煙草を押し付けた!真里は苦悶の表情でこれを耐える。しかし愛は更に力を入れ、煙草を押し付け続ける。

 

 「やめてぇぇぇぇ」

 

 愛は煙草を真里の手の甲から離し、後ろへ投げ捨てると、真里の制服を破ろうとする。

 

 「反省しない奴はこうよ! ネットに貴女の裸、流してあげる! 」

 

 愛の暴虐ぶりを見てもクラスメイトの全員は見て見ぬふりだ。止めようとするとどうなるかは火を見るより明らかだからだ。

 

 「お願い! それだけはやめて! 」

 

 「やなこった! あなた達何見てるの? 早く手伝いなさい! 」

 

 愛の取り巻きが渋々ながら真里に近寄ろうとしたその時!

 

 

 

 「いい加減にしな! 愛! これ以上やるとアマノン上層部に訴えるよ! あんたのお母さんが何もしないとも思えないよ! 」

 

 教室から離れていた苟アリスが暴虐の少女に啖呵を切る。愛は頭に血管を浮かべ、アリスに近づく。

 

 

 

 「人の母親頼みでごちゃごちゃうるさいわね」

 

 机を挟み、両者は対峙する。二人とも目を逸らそうとせず、睨み付けている。真里は取り敢えず難を逃れたものの心の中は未だに恐怖心で満たされていた。

 

 

 

 

 「苟、そもそも貴女デカい顔し過ぎなのよ。

 

 寄生虫の癖に! 」

 

 愛がクラス全体に聞こえるように演説をし始める。

 

 

 「だってそうでしょ? 皆! コイツらシュウナン難民は我が物顔でこのカリス共和国に入り込んで好き勝手してる! 私達の税金で生活して、犯罪しても逃げ回って、自分達は被害者だから〜被害者だから〜と難民特権を得ている。これが寄生虫と言わず何て言うの? 」

 

 

 「難民特権なんかねえよ、私達は差別や偏見と戦いながら慎ましく生きているんだよ! 私はエヴァンゲリオンパイロットだから生活は良くなったけど、大半のシュウナン難民は一日パン一枚で生きているんだよ! 同じ服を何週間も着ているんだよ! ネットで見聞きした適当な知識で語ってんじゃねーよ!

 人の彼氏を寝とることが趣味の性悪女が! 」

 

 

 教室全体が静まりかえって皆、下を向いていた。

 

 

 

 「ヒトモドキ。

  シュウナンヒトモドキ」

 

 「皆も言いなさいよ、いい子ぶったって皆シュウナン難民のことヒトモドキだって、皆の親だってシュウナンヒトモドキのせいで失業した人も多いんじゃない?言ってやりなさい!

 

 シュウナンヒトモドキ、シュウナンヒトモドキ、ヒトモドキ! ヒトモドキ! 」

 

 

 愛が侮辱を連呼し始めるとクラスメイト達も侮辱を始めた。ここでは傍観者でいることは許されない、林原愛の味方か、否か、それだけだ。

 

 

 

 「ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ!ヒトモドキ! ヒトモドキ! 」

 

 須成屋真里は顔を机に埋め、震えていた。自分には何も出来ない、心にあるのはその想いだけ。

 

 

 「ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ! ヒトモドキ!」

 

 愛が満面の笑みを浮かべる、クラスメイトの殆どがアリスを罵倒する状況を作り出したことに対する余裕、勝利宣言であろう。

 

 

 

 ガシャン!

 

 

 

 「アアアアァァァァァァァァ!」

 

 

 アリスは叫ぶと同時に椅子を左手に持ち、愛に襲い掛かる!

 椅子は愛の肩に当たり、愛は蹌踉ける。アリスはその隙に間合いを詰め、椅子を愛の頭に直撃させた!

 

 「アアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! 何がヒトモドキだぁ? ウアアアアァァァァ! 」

 

 アリスは我を忘れて、倒れた愛を椅子で殴打し続ける。愛の取り巻きも余りのアリスの狂気に近づくことすら出来ない、クラスの女子の大半は泣き崩れている。

 

 「ウアアアアァァァァァァァァ! 愛! 殺す! 殺してやるよ! 皆、ほ、本当はなぁ! お前のこと要らないと思ってるんだよォ! 殺す! その方が皆の... 皆の... 」

 

 アリスは愛にトドメを刺そうと椅子を高く振り上げる!

 

 

 「皆のためだァァァァァァァァァァァァァァァァ! 」

 

 

 アリスが椅子を振り下ろす前に愛は中腰になり、アリスの腹を思いっきり蹴り飛ばす!アリスは教室の最奥にあるロッカーに叩きつけられた!

 愛はアリスが使用していた椅子を持ち、一歩、一歩、『敵』と認識した者に対して近づく。しかしその足取りは重い。頭から血が流れ、身体は打撲傷、いや骨折も多数しているだろう。

 しかし最早人とは思えぬ、魔神のような表情が示しているように自分が負傷しているだけなら、この暴虐の少女は止まらない。

 

 

 「し、死ぬのは、あんたよ!ア、アリス! 」

 

 愛が椅子を水平に持ち上げた瞬間、教師3人が扉を凄い勢いで開け、教室に入ってきた。

 

 

 「何やっているんですか! やめて下さい! は、林原さんも椅子をお、置いて! ね? 」

 

 愛は舌打ちして抵抗を示したものの、体力の限界なのか、膝元から崩れ落ちた。

 

 

 「今日は二人とも帰りなさい。は、林原さんもいいわね? ランクの高い車用意するから...... 病院行きましょう」

 

 女教師は明らかに愛に気を遣っていた。愛自身が恐ろしいのか、母親の権力に脅えているのか。どちらにしろ教師すら愛には特別待遇を行う。

 

 

 苟アリスはふらつきながらも立ち上がり、教室を去ろうする。

 

 「苟さん、病院に行きま―――」「行かないわ、帰る」

 

 愛は去る苟アリスに啖呵を切ろうとしたが何も言えなかった。膝元が震えている、心は否定しても身体は知っていた。愛の人生で初めて反撃されたこと、初めて反撃されたことによる死の恐怖心が生まれたことを... ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「苟さん! 」

 

 

 身体を引き摺るように歩いて、ヘリオン市街地を歩く苟アリスに声を掛ける少女がいた、息が上がって顔が赤く染まっていた、全力疾走で追い付いたのだろう。

 

 「須成屋! あんたどうしたの? 」

 

 「か、か、苟さんが、はあ、はあ、心配で、はあ、はあ、先生にお腹痛いから早退しますって、はあ、はあ、言って来たの 」

 

 

 「須成屋、どうでもいいけどあんた追い付くの早いわね。」

 

 

 「前、陸上競技部だったから。か、苟さん、私のせいで大事になってしまって...... どうやって償えばいいか...... 」

 

 

 「須成屋のせいじゃないよ、あの馬鹿、あのレイシストのせいよ! あの馬鹿のせいで皆、皆不幸になっていく! いつか...... いつか...... 」

 

 「苟さん...... 」

 

 

 

 「まあ、いいわ。じゃあ須成屋、あそこにあるジャベリンミントアイスクリーム奢ってよ、それであんたが感じる責任はチャラ、いいわね? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリオン市街地、ジャベリン区に跨がるグルー川にある土手にアリスと真里が座りながらアイスクリームを舐めている。

 ジョギングしている人間、釣りをしている人間、学校をサボっているであろう学生服を着た人間、様々な人間が土手で自分の時間を過ごしている。照らし出す太陽の光がアイスクリームを溶かししている。

 

 

 「落ちた! ちくしょう! 」

 

 アリスが残ったアイスクリームが地面に落ちたことを残念がっている。真里はその光景を見て微かに笑っている。

 

 「苟さん、本当にありがとう、今回だけじゃなく、いつも助けてくれて。私、苟さんと黒空君が居なかったら、私...... 」

 

 

 「だからぁ、責任はチャラと言ったでしょう、そういうのナシ」

 

 

 

 「いつも私、人頼みで......でも自分では立ち向かう勇気、無くて」

 

 

 

 風が吹くと同時にアリスは軽い溜息をつく。

 

 

 「三人」

 

 

 「えっ? 」

 

 

 

 「私七人兄弟の次女なんだけど、私の兄弟、3人死んだの。一番下の妹はシュウナン国の内戦で、一番上の姉貴と長男の弟はここ、カリス共和国の難民キャンプでね」

 

 

 

 強い風が吹き、真里のアイスが草むらに落ち、蟻が一斉に群がった。真里はアリスに掛ける言葉が見つからず、ただアリスを見つめる。

 

 

 「しかも、姉貴は数人に犯されて、最後は身体にナイフで刻まれていたわ。

 『ヒトモドキ』って」

 

 

 真里はただアリスの凄惨な過去を聞き、茫然としていた。シュウナン難民の生活が厳しいものというのはニュース番組等で得た情報で知っていた。しかし知人から直接難民の「現実」を知ると胸が締め付けられる思いだ。

 

 

 

 「姉貴は来年、結婚するはずだった。盛大な式なんて出来ないけど、慎ましながらいい式にしたいなって私、準備していた...... だけど...... 」

 

 

 「苟さん...... 」

 

 

 「私、もう大切な人を失いたくないの... 理不尽な理由で死んでほしくない、屈辱を受けてほしくないの。だから須成屋は気にすることないよ。自分が勇気ないとか思わないでいいよ。私が、私が助けたくてやってるだけだから」

 

 

 真里は涙が止まらず、制服で涙を拭い続ける。

 

 「あ、ありがとう、苟さん」

 

 

 「いいってことよ! あ、そうだ! 黒空の見舞いに行ってやれば? ヘリオン大学病院に入院しているからさ! 本当は一般人は会えないんだけど、手続きは私がしてあげるよ」

 

 

 「え? いいの? 私なんかじゃお見舞いも出来ないと思っていたから 」

 

 

 「行ってきなよ、好きなんでしょ?黒空のこと」

 

 

 

 「い、いや、そ、そ、そんなんじゃ、な、な、ないよ!」

 

 

 「もろ動揺してんじゃん。バレてるから、クス。まあ、黒空はそこそこかっこいいからな〜 惚れるのもアリか。

 行ってきな、告白してきなよ〜」

 

 

 「そ、そ、そんな、こ、こと、出来ないよー」

 

 

 少女達が会話していると激しい風が突然吹く。真里が違和感を感じ、空を見上げる。空の色が緑に見える、空間が歪んで見える。川が荒ぶっている。

 そして一番この場に相応しくない、異形の存在がいつの間にか真里とアリスの前に宙に浮いていた。

 

 「何だ! こいつは! 」

 

 アリスが叫ぶと同時に立ち上がり、真里の前に身を出す。

 

 その異形の存在は紫色の光を放つ翼を持ち、青き長い髪、黒色の服のような身体と一体化しているようにも見える装飾を着け、サイズは普通の人間と同じ位、女性の身体つきをしていた。

 真里は頭の中がパニックになり、アリスの後ろに隠れる以外の行動が取れない。

 

 「誰だ! お前は! もしかして...... 『天使』!? 」

 

 アリスが手を後ろにやり、真里を守ろうとする動作をすると、異形の存在は語りだした。

 

 「私はセフィラム、永遠の語り部。私はさまよう、語り部として。」

 

 

 「語り部? 何ワケわからないことほざいている! 」

 

 アリスが啖呵を切ると、セフィラムと自称する異形の―――聖典に出てくる天使にも似た存在は悲しげな表情を浮かべながら左手をアリスに向けながら話しかける。

 

 

 「私の、私の児はどこ? 私の大切な児は...... どこなの? 私の、私の、私の大切なう、つ、わ 」

 

 アリスは身体に違和感を感じる。痛みで動かしずらい負傷したはずの右腕と左足が自由に動かせる、いつの間にか完全に回復していた。

 

 「腕と足が直ってる? なんで...... まさかコイツが!? 」

 

 

 「どこなの? どこなの? 私の生きた証は...... 私の―――――― 」

 

 

 セフィラムはそう言うと、紫色の光を放つ翼を最大限に広げ、尋常ではない高スピードで遥か彼方に飛び立っていった。残された少女達は呆然とするしかなかった。

 

 

 少し時間が経ち、アリスが口を開く。

 

 「何だったんだ、あいつは...

 須成屋、私は今からアマノン司令部に行ってこの事を伝えに行く、大切な事だから直接伝えたほうがいいでしょ。病院に連絡しておくから須成屋は告りに行きな! 」

 

 

 「そ、そんな告白なんて...... 」

 

 

 

 「あのセフィラムだかなんだか、私達には敵意はなかったけど、もしかしたら『天使』の可能性があるからね、早く伝えないと。それじゃ須成屋、頑張りなよ〜」

 

 

  アリスは駆け足でアマノン司令部に向かう。見えなくなるまで真里ににやけた笑みを浮かべながら手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 白いカーテンが優しい風に吹かれながら波を立てている。太陽の光に照らされた白い壁は、巨匠の絵画のような世界観を作り上げていた。一戸建て住宅が入るような広い個室の病室のキングサイズベットにエヴァンゲリオン二号機パイロット、黒空詩丹は横たわっていた。

 『第三天使』との戦闘で折れた脚を完治させるにはまだ時間が掛かる。詩丹はその時間で病室に積み上げた本を読んでいた。

 

 

 コンコンと病室の扉からノックの音が鳴る。

 

 「黒空君、三号機パイロットの紹介で飛び込みの面会者が来ているんだけど、須成屋真里さんという方よ。お入れしていいかしら? 」

 

 看護婦が扉の向こうから黒空に声を掛ける。

 

 「須成屋さん!? 大丈夫です! 」

 

 扉が開くと須成屋真里が病室に入ってきた。フルーツ盛り合わせを持っている。看護婦はにやけながら気を遣うように病室から去っていった。

 

 「黒空君が心配で、苟さんに取り合って貰って来たの。迷惑だったかな? 」

 

 真里が訪ねると瞬時に黒空は首を横に振る。

 

 「迷惑なんかじゃないよ、寧ろ読書しかすることなくて退屈していたところなんだ。来てくれて嬉しいよ、須成屋さん。椅子に座って」

 

 

 真里は顔を赤らめながら、キングサイズベットの側面にある椅子に座る。

 

 

 

 「退院するまであと二週間掛かると言われてね、まいったよ。また林原愛が悪さしているだろうけど須成屋さんは大丈夫かい? 」

 

 「うん、私は... 大丈夫だよ。黒空君こそ大事にしてね、黒空君に何かあったら...... 私...... 私...... 」

 

 須成屋真里は心の底から溢れ出る想いとリンクさせるように涙を流し、ベットにいる黒空に軽く飛び付いた。

 

 

 「私...... 黒空君に何かあったらどうしたら...... いいか。 黒空君...... 」

 

 

 

 「須成屋さん、ありがとう。そこまで僕のことを思ってくれて...... 」

 

 

 

 悲しき少女の頭を撫でながら傷付いた少年は幸福感に包まれていた。

 たとえそれが一時のものだと分かっていても......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シン世紀エヴァンゲリオン アイ

 

 第五話 完

 

  

 

 

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