シン世紀エヴァンゲリオン アイ   作:ケプラー星人

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第六話 お父さん

 

 

「はあ? 十万年前にエヴァンゲリオンが存在した? うひひ、ふはははははは! 馬鹿も休み休み言え! 」

 

 今にも崩れそうな程高く積み上げられた書類の束は隣にいる人間を隠す位の壁となっていた。何十台もあるPCの液晶から放たれる光は眩しすぎる程にこの薄暗い部屋を照らし出す。

 おおよそ社会性という概念からは遠く離れているこの部屋には、天使対策部隊アマノンの裏の要と言っていい重要人物、アルテミス・平谷博士とその弟子、眼鏡がトレンドマークのライアン・ブリンクスが居た。二人はブラックコーヒーを嗜みながら議論を交わしている。

 

 

 「馬鹿にしてないで、このリシーア共和国の遺跡で発掘されたものを見てください! この紫色の装甲のようなものを! これは胸部の装甲に見えます! サイズが今のエヴァンゲリオンと大体一致するんですよ!? 」

 

 大きな溜息をつき、コーヒーカップを強く置いたアルテミス博士は反論する。

 

 「そんなもん、ただの偶然じゃ。人間の脳は都合のいいバイアスを拾うように出来ているんじゃ。お前の説じゃ10万年前に文明があったってことじゃろ? 馬鹿らしい。馬鹿馬鹿しい超古代文明説なんかにうつつを抜かしている暇があったら遺伝子学とAIの連結技術でも学べ! 」

 

 

 「しかし他にも赤い頭部の装甲らしきものや青色の足の装甲みたいなもの、他にもエヴァンゲリオンに酷似した...... 」

 

 「え〜い! ウザったいのう! お前の御託は聞きあきた! 早く二号機、三号機の修復にでも行け、しっしっ!」

 

 

 アルテミス博士は饒舌な弟子を邪険にして追っ払うとコーヒーを飲み干し、コーヒーカップを机に叩きつけた。

 

 「ったく阿保らしい、そんなエヴァンゲリオンを作るような古代文明が在るわけないじゃろが。あの阿保」

 

 

 アルテミス博士が一人で弟子の論説にダメ出ししていると、博士を呼び出す専用の通信音が博士のPCから鳴る。アマノン司令部からである。

 

 「平谷博士、真理谷ルイ戦術指揮官です。三号機パイロット、苟アリスが気になる情報を伝えに来たので、博士にも是非聞いて頂きたいのですが、よろしいでしょうか? 」

 

 

 「気になる情報? まあ、いい、行ってやる」

 

 

 

 「ありがとうございます。ではお待ちしております。」

 

 

 

 アルテミス博士は溜息をつくと、白衣を着て嫌な表情を浮かべ、ざっくばらんとした部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 「アルテミス博士、お待ちしておりました」

 

 アマノン司令部の中部に真理谷ルイ戦術指揮官と今回の情報提供者であるエヴァンゲリオン三号機パイロット、苟アリスの姿があった。アルテミス博士は欠伸をしながら二人に近寄る。

 その様子を林原結希アマノン統括司令官と宮本理沙アマノン副司令官は司令部最上段から監視するように眺めていた。

 

 

 「で? 何事じゃ? 小娘早く説明せい」

 

 アリスは少しムっとした顔つきしてアルテミス博士に情報を提供する。

 

 

 「今さっき友人とグルー川の土手にいたら『セフィラム』と名乗る存在が突然やって来て......宙に浮いていたので明らかに人間ではないと思います」

 

 アルテミス博士は目を細め、口を閉めた。少し間をおき、アリスに返答する。

 

 「其奴はどんなやつだった? サイズは? どんな形だ? 何か言っていたか? 」

 

 自分を質問責めにするアルテミス博士に反抗して、アリスはまた表情をムっとさせる。

 

 「紫色の翼が生えている以外は私達人間と然程変わったところはありませんでした。大体成人女性と同じサイズです。ただ変なこと言ってました。私は永遠の語り部とか、私の児はどこ? とか。攻撃はされなかったので『天使』とは違うのかな? と思います」

 

 

 アルテミス博士は顎に手を当てながら回りを歩きだした。青の混じった銀色の長髪と豊満な胸が揺れる。

 

 「ふむ...... 敵意はなかったと...... 確かに『天使』とは違った存在なのかもしれんのう...... よし、わしなりに調べてみよう」

 

 「お願いします、博士」

 

 真理谷戦術指揮官が頭を下げるとアルテミス博士は最上段に向かう。その様子を林原司令官はにやけながら眺めている。

 

 

 

 「そう言えばアリス、貴女怪我は大丈夫なの?」

 

 「さっきは信じて貰えないだろうと思って言わなかったけど、『セフィラム』が私に手をかざした時から、どこも痛くなくなったのよ。一体何者なのかしら?」

 

 「わからないわ、私達に出来ることは情報を得て追うだけよ。でも良かったわ、アリスが無事で。無茶してはダメよ、アリスは私にとっても妹同然なんだから。」

 

 

 「ルイ......」

 

 

 

 

 「! SSレーダーがAパターンを捕捉! 『天使』です! 今からオペレーションチームは戦闘警戒体制に入ります! 」

 

 

 アマノン司令部のオペレーター、緑が天使襲来の報を伝えると、アマノン司令部に警戒警報が鳴り響き、アマノン隊員達は慌ただしく動き始める。真理谷戦術指揮官もアマノン司令部中段の自分の定位置に着く。

 

 「緑! 『天使』の映像出して! あと戦術チームは通常兵器の準備を! あとは...... 」

 

 「エヴァンゲリオンの出動準備...... ね。ルイちゃん♥ 」

 

 

 ルイの言葉を遮るように林原司令官が話す、不敵な笑みを見せて。

 

 「ええ、お願いします。といっても初号機しか可動は出来ませんが。」

 

 「あなたの娘さんのせいでね。」

 

 ルイの言葉に続き、アリスが皮肉を司令官にぶつける。しかし、アマノンの女王、林原結希はこんなことでは動じない、寧ろ口元をにやけさせ嬉しいと言わんばかりだ。

 

 「そうね、馬鹿娘が迷惑かけたわね。ただ貴女がヘマして三号機潰しちゃったのも紛れもない事実よん、ア・リ・ス・ち・ゃ・ん♥」

 

 アリスは口を限界まで膨れさせると地団駄を踏んだ。

 

 

 

 「まあ、いいわ。エヴァンゲリオン初号機出動準備開始! 」

 

 

 

 

 ―――初号機出動準備開始―――

 

 ―――初号機出動準備開始―――

 

 ―――初号機出動準備開始―――

 

 

 

 アマノン司令部に汎用人型兵器エヴァンゲリオンの出動命令が下る。常に隊員の誰かが走り回っている、怒号も飛び交う。その真剣さは半端なものではない、負けたら文字通り『終わり』なのだから。

 

 「愛...... エヴァンゲリオン初号機パイロットの召集は出来てるの? 緑」

 

 

 「はい、もう連絡済です。あと20分程度で到着すると思われます」

 

 

 

 「結構かかるわね ...... 緊急発進シフトに切り替えて! 愛が来たら直ぐに出動出来るようにするわよ! 」

 

 

 

 「わかりました、初号機、パイロット非接続状態でSSゲートを通過させます」

 

 

 「緑ちゃん、『第四天使』の映像、頂戴」

 

 

 林原司令官がアマノン司令部最上段から淡々と命令を下す。その目は笑っていない、見るものを全て黙らせる獣の目だ。

 

 「は、はい、解りました」

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 

 林原愛はアマノン司令部に到着し、特別更衣室で白色と青色でカラーリングされているプラグスーツに着替えている。頭は自分の血で染まっている、治療はしない、敗北を認めたことになるからだ。しかし、心の奥底では恐怖感で包み込まれていた。自分の言動があそこまで他人を動かすことはなかった、行動する迄に大概自分に屈服していた。

 

 

 

 ――――――お前なんか皆、要らないと思っている――――――

 

 

 

 この言葉が愛の頭の中にリピートされ続けていた、当然暴虐の少女は其を糧に苟アリス、いや全ての他者に対しての怒りを燃やす。

 

 愛はプラグスーツに着替え終えて、エヴァンゲリオン初号機へと向かう。

 怒りが止まらないのか、他人が恐いのか、阿修羅の如き表情だ。

 

 

 『私のこと、皆、要らない? 』

 

 

 『上等だよ』

 

 

 愛はエヴァンゲリオンの発射口に繋がるエレベーターに乗る、降りたらエヴァンゲリオンのコックピットに直接乗れる緊急用の近道だ、エレベーターは一般用のものとは比べられない位の速度で下っていく。

 

 

 

 『私は誓ったんだ、父さんがいなくなった居なくなった...... あの日から...... 』

 

 

 エレベーターが目的地に着く。目の前には初号機のパイロット席への臨時階段が掛けられていた、愛は素早く初号機に乗り込む、パイロット席の全てのモニターが明かりを灯し、パイロット席の扉が自動的に閉まった。

 

 

 『私はひとり、ひとりで生きていくと! 』

 

 

 「エヴァンゲリオン初号機、発進! 」

 

 アマノン司令部全体に真理谷ルイ戦術指揮官の号令が響き渡る! それと同時に初号機はカタパルトに乗って高速度で地上へと登っていく!

 

 

 『そのためには...... 』

 

 へリオン市郊外にあるエヴァンゲリオン専用の扉が開き、初号機が地上に姿を表す。

 

 愛の眼前に見えたのは――――――『第四天使』――――――

その姿は初号機の1.5倍はあろうかという全高、隆々とした体格、二号機よりも黒に染まりきった漆黒、目は満月のように黄色く輝き、丸みを帯びていた。

 『第四天使』は初号機を視覚に入れると、初号機に向かって一直線に向かって行く。歩みは遅いが、重量級の体格のせいで一歩進むたびに周りの地形が変形する。

 しかし暴虐の少女は一切臆しない、敵を滅ぼす―――そのことは常に念頭に入れている。

 

 『そのためには、私の邪魔をする奴は! ――――――殺してやる! 』

 

 

 「モード反転! ザ・ビースト―――獣化第六形態に移行する! 」

 

 

 愛が叫ぶと初号機の中のGCLが紅く染まりだすと同時に愛の両眼が緑色の光を帯びる。普段から他者を威圧する表情がさらに凶悪さを増す!

 

 

 

 

 「あれは獣化形態! 愛、あれまで使いこなすとは... ... 」

 

 アマノン司令部最上段で宮本副司令官が驚嘆するが、母親である林原司令官はただ目を細めるだけだ。

 最上段に移動したアルテミス博士は愛に注意を促す。

 

 

 「じゃじゃ馬娘、聞こえてないかもしれんがザ・ビーストは長く使うと精神汚染度がはね上がる。精神を破綻させたくなければ、早めに切り上げろ。」

 

 

 「きききぎきぎきぎ、ヴるざい!わだしはぁ、ががが、最強、ざいぎょぁぁうだだ! 」

 

 

 「もう精神汚染が進んだか... なまじシンクロ率が高いと厄介じゃのう。あれでは自ら戻るのは無理か...... 結希」

 

 林原結希は博士の言葉にも動じない。娘が危機に陥っても意に介すことはない、司令官の役割、そして林原親子の関係をよく表す態度だ。

 

 

 

 初号機は次々とその姿を変える。

 

 まずは腕、人間と大体同じ構造をしていた両腕は新たに間接を幾つも増やし、倍以上の長さに伸びた。初号機の手に爪が生えてくる、黒々とした悪魔のような爪だ。

 次に脊髄が極限まで伸びきり、腹部と背中の装甲の一部が弾け飛ぶ!

 足も間接を増やし、倍の長さになり、肉食獣のような禍々しい爪を生やす。

 

 

 

 そして初号機の顔面は口元が開き、獣のような雄叫びを上げる! へリオン市内の全ての生物はこの獣の威圧で身をすくむ思いをする、市内にいた鳥類は全て飛び逃げた。獣化形態の初号機は餓えた獣のように息遣いを荒くする。獣の瞳は最早人間には表現し難い狂気と狂喜に満ち溢れている。

 

 初号機は極端に猫背になると、四足歩行に近い形で走り出す! 残像すら作り出す猛スピードで『第四天使』に近づいた! 『第四天使』は攻撃範囲に入った初号機に固めた拳を振りかぶる!

 

 しかし獣のような俊敏さを備え付けた今の初号機には風しか当たらなかった。EATFを中和し、『第四天使』の懐に入り込んだ初号機は前蹴りを放つ!

 『第四天使』はまるで重量がないかの如く、へリオン市郊外どころか、ジャベリン区の外れまで吹き飛んでいく! 初号機は息遣いを更に荒くさせ、吹き飛んだ『第四天使』を追いかける。獣化形態の初号機が通った地は次々と抉れて崩壊していく。

 

 

 

 

 

 「凄い...... これがザ・ビースト獣化第六形態...... 『天使』がまるで子供扱い。このまま行けば簡単に倒せる...... 」

 

 変形した初号機の強さに真理谷ルイ戦術指揮官は驚きを隠せない、隣にいる苟アリスも目を丸くしている。

 

 

 「指揮官よ、あれは生易しい代物ではないぞ。パイロットの怒りや憎しみを引き金に、エヴァンゲリオンを完全な戦闘兵器にするモード。そしてパイロットはその戦闘兵器と擬似的に同一化する、当然精神汚染率も限界近くまで跳ね上がる。下手したら、じゃじゃ馬娘は廃人になる。」

 

 アマノン最上段からアルテミス博士がルイに忠告する。

 

 「そ、そんな...... 」

 

 「真理谷指揮官、初号機のHHが追撃により外れたので、手筈通り『子供達』を初号機に先回りさせて吸収させました。」

 

 緑がいち早く状況を指揮官に伝える。

 

 「よし、これで1500秒は活動出来るわね! 」

 

 「ザ・ビーストは凄まじいエネルギーを喰う。活動時間は実質500秒と言ったところか...... 」

 

 アルテミス博士が苦言を呈するとルイは手に汗を滲ませ、焦りの表情を見せる。

 

 「愛...... 」

 

 

 

 

 猛禽類のように激しい動きで、吹き飛ばした『第四天使』に追い付いた初号機は体制の整ってない『第四天使』の巨大な頭を雄叫びを上げながらただぶん殴る!

 黒き巨人は地面に激しく叩きつけられ、まるでソフトボールのように宙に浮いた。初号機は舌を舐めずりながら、通常より長さが増した獣脚で、標的を目掛けて空高く翔んだ!

 獣は宙返りしながら、『第四天使』に蹴りを入れる!黒き巨人は無残に地上に落下し、動きを一旦止めた。ダメージが残っているのだろう。

 

 初号機は宙で何回も回転して、軌道を修正し、獲物の近くに着地した。着地地点の小さな丘、道路、建物は一瞬で瓦礫の山と化す。

 

 ビーストはパイロットの愛と同時に狂喜に満ち溢れた笑顔を浮かべると黒き巨人を一方的に殴打する! 一発―――一発! 殴るたびにへリオン市内、いやジャベリン区全体を揺れさせた。

 

 初号機は大きく獣の腕を振りかぶると『第四天使』の目に爪を突き刺した!『第四天使』は悲鳴にも似た雄叫びを上げるが、獣化形態の初号機は意に介ず黒き巨人の目を抉り続ける!

 

 「グぐグぐあぐああァァァァァハハハ、いひ、イヒヒヒひひ。

 じねぇぇぇぇぇぇ、じねがァァァハハハ」

 

 愛が人間ではない言葉を発すると同時に初号機が黒き巨人の眼球を取り出した! 流石の天使も取られた目の部分を手で押さえる、しかし初号機の猛撃は止まらない! 最早初号機の殴打は人型の域を超えて、猫型の肉食獣のような引っ掻きとなっていた。

 『第四天使』の決して脆くは無いであろう重厚な皮膚が切り裂かれていく! 決して弱くは無いであろう筋肉質が抉られていく! 黒き巨人は抵抗を止めたが如く無抵抗である。

 

 「愛、行ける... 行けるわ! 行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 」

 

 「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 真理谷ルイと愛が同時に叫ぶと初号機の悪魔の爪が黒き巨人の頭を大きく切り裂いた! 黒き巨人はふらふらと身体を揺らしながら、目茶苦茶となった地面に倒れ込んだ。

 初号機は『第四天使』に背を向けて勝利の雄叫びを上げる!

 

 

 「やったわ! 『第四天使』撃破! 」

 

 

 

 

 真理谷ルイ戦術指揮官とオペレーター達は歓喜する。林原司令官も軽く溜息をつき、宮本副司令官に笑みを見せた。

 

 

 

 

 「指揮官よ、倒せたのはいいが、自力では初号機は元に戻らんぞ? 」

 

 

 

 「大丈夫です、活動時間はあと60秒です。戦闘も終わりましたし、このまま待てば...... ん?」

 

 

 

 

 

 「あれは!」

 

 

 

 

 

 宮本副司令官が何かに気付くと歓喜に満ちているアマノン司令部全員がモニターに釘付けとなった、絶望をもって。

 

 

 「愛! 後ろ! 」

 

 

 

 「グぎグ、ん?」

 

 愛と初号機が辛うじて真理谷戦術指揮官の声を聞き、後ろを振り向く。

 

 

 

 

 

 そこには倒したはずの『第四天使』が立ち上がっていた、しかしその姿は以前とは違う。引き締まった肉体、延びきった手足、開ききった口―――獣となった黒き巨人がそこにはいた。

 

 

 あの何時如何なる時も冷静沈着の佇まいでいるアルテミス博士が思わず身を乗り出す!

 

 

 「あれは... そんな馬鹿な! あれは獣化形態!? 馬鹿な! 『天使』にそんなことが出来るはずが...... 」

 

 

 「愛、来るわよ! 」

 

 

 

 ―――ザ・ビースト―――獣化形態の『第四天使』は獣脚で強烈な脚蹴りを初号機に食らわす!

 

 初号機は何とかガードするが、ふらついた瞬間に黒き獣は白き獣に裏拳をぶつける!

 

 それをもガードした初号機は『第四天使』の懐に入り、しゃがんだ状態から中段への蹴りを放つ!

  が俊敏なる獣の化した黒き巨人は軽々とこれを回避し、初号機の顔面を踏みつけ、同時期に初号機の放った引っ掻きを避ける!

 

 その刹那、カウンターで繰り出した『第四天使』の引っ掻きが白き獣の腹を深く切り裂いた! 初号機から血のような赤き液体が大量に噴き出して止まらない。

 

  「ぐぎゃあアアァァァァ! 」

 

 愛は悲鳴を上げなからも反撃体制を取る。初号機は後ろ回し蹴りを放つ!

 

 が『第四天使』は蹴りを避け、身体を縦回転させ、初号機に回転回し蹴りを喰らわす! 横に対しての縦のカウンターアタックである。

 

 しかし獣化初号機は怯まない。黒き獣の脚を掴み、自分の方向に引き寄せ

膝蹴りを黒き獣の腹部にクリーンヒットさせた!

 

 が... 次の瞬間、獣化『第四天使』の掴まれていない方の脚が動き、膝蹴りを初号機の背中に当てた! 初号機はうつ向けに倒れ込んだ。

 

 すさかず、黒き獣は何回も初号機の背を踏みつける! 一回踏みつける事に周辺の地形が変形する。

 

 

 「初号機の活動時間残り30秒です! 」

 

 「不味いわ、このままでは...... 二号機も三号機も修復中...... このままじゃ愛は...... 」

 

 「自業自得ね。二号機も三号機もあの子が壊したようなもんだしね。」

 

 

 緑の報告を聞いた真理谷ルイの嘆きに合わせるように林原結希が呟く。あまりの発言に真理谷ルイは怒りを顕にする。

 

 「司令官! 何故そんな冷たい言葉が吐けるんですか? それでもあなた...... 」

 

 「勿論違うわ、私はアマノン司令部、林原結希よ。」

 

 「し、司令官...... 」

 

 ルイは言葉を失いかけると、椅子に倒れるように座り込む。顔はもうモニターの方向を向いていない、打つ手を無くした指揮官は絶望感に包まれ、職務を全う出来ない。

 

 

 

 初号機は『第四天使』が宙を飛んでいるうちに横回転し、苦境をなんとか抜け出す。

 

 「チッ! 」

 

 愛は舌打ちして、モニターを見た瞬間に黒き獣を視界に入れていた。目にも止まらぬ早さで初号機の前に立った黒き獣は、舌を舐めずりながら強烈な前蹴りを初号機に直撃させる! 白き獣は後方の山の斜面に叩きつけられた!

 

 四足歩行で初号機に凄まじい勢いで追い付いた『第四天使』は禍々しい黒き爪で初号機を切り裂いていく! 白き獣も腕をぶん回して応戦するものの、黒き獣は敵の爪が当たっても臆することなく、目の前の獲物を物言わぬ存在にするための連撃を止めようとはしない。その中でも愛は連撃の間に無理矢理、テレフォンパンチを喰らわす。

 白き獣の爪が黒き獣の腹に突き刺さる! 初号機はもう一回の必殺の一撃を繰り出そうとした!

 

 

 「ぐ、ぐ、ぐらぇぇぇぇぇぇぇァァ」

 

 

 

 

 ガクン!

 

 

 「!? 」

 

 

 

 「初号機、活動時間、残り―――ゼロ――― 」

 

 

 

 「愛! そんな...... 」

 

 

 

 真理谷戦術指揮官は涙を浮かべながら、この状況を嘆く。

 

 アマノン司令部最上部にいる三人はただモニターを何も言葉を発することなく眺めていた。

 

 

 動きを止めた初号機に対して、獣化形態『第四天使』は更に狂った獣の如く攻撃を加える! 蹴り、殴打、爪での切り裂き、激烈な一撃を喰らう度に愛の意識は遠退く。エヴァンゲリオンはシンクロ率が高い程、ダメージがダイレクトにパイロットに伝わる。暴虐の少女は遂に意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 私は傷つけなければいけない。

 

 

 『何故? 』

 

 

 だって、だって、皆、私を狙っている! いつだって私を蹴落とそうとしている! だから......

 

 『他者に害を与えないと救われないと思っているのね』

 

 

 違う!私は正しい! 奴等が...... アイツラが...... 林原結希が...... 黒空が...... 苟が...... 須成屋が...... ルイが...... 寄生虫共が...... ヒトモドキ共が...... アイツラが間違っている、間違っているんだ!

 

 

 『そうやって自分の中で自分だけの他者を作り上げて攻撃するのね』

 

 

 違う! 私は......

 

 

 『傷つけないと自分が否定されたように感じるから―――攻撃しないと自分と他者の関係の構築が出来ないと考えるほど自分が追い詰められていると感じているから...... 』

 

 

 違う! 違う! 違う! 違う! 違う!

 

 私は 私は 私は 私は 私は 私は 私は

 

 

 『あなたは何でそんなに悲しんでいるの? そこまで他者を傷つけないと癒されない、救われないと感じる理由は? 』

 

 

 私は...... 私は...... ただ父さん、お父さんが好きだった...... 構ってくれない母さんより、お父さんが私の支えだったのに...... なのに、何処へ行ってしまったの? 何があったの? 私、お父さんに会いたいのに...... お父さん、お父さん......

 

 

 

 

 気を失った愛は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 「助けて...... お父さん......」

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、初号機の目が輝き出す!

 動きを止めたはずの初号機は突然蹴りを繰り出し、『第四天使』を遥か後方に突き飛ばした!

 

 初号機は立ち上がると、全身の筋肉質を隆起させ、自らの装甲を弾け飛ばす! 女性のような体つきをしていた生身の初号機は一気に筋肉を増幅させ、屈強さを増していく。生えていた青い髪も抜け落ち、綺麗な顔立ちだった初号機の顔つきが鬼の形相へと変化した。

 

 「ウオォォォォォォォォォォォォ! 」

 

 初号機は獣化形態時よりも恐ろしい雄叫びを上げた!

 

 

 

 

 「初号機...... 活動再開! 信じられません! 以前活動エネルギーはゼロなのに...... 初号機暴走状態です! 」

 

 

 「なんですって? 暴走!? 有り得るの? そんなこと? 」

 

 真理谷戦術指揮官は慌てることしか出来ない。

 

 

 林原結希司令官は驚愕し、勢い良く立ち上がる!

 

 

 

 「光希! 」

 

 

 

 

 初号機は一歩ずつ、一歩ずつ、『第四天使』に近付く。黒き獣は体勢を整えると猛烈な勢いで初号機に接近し、殴打の一撃を一撃を加えた!

 

 

 しかし暴走した初号機は全く怯まない、獣化形態『第四天使』の連撃を喰らい続けても怯む様子はなく、ただ前進している。

 

 焦り始めたのか、『第四天使』は更に連撃のスピードを加速させる。

 初号機は連撃を受けながら右腕を振り上げる。

 

 刹那―――

 

 

 『第四天使』の顔面の半分が抉れて、吹き飛ぶ。暴走状態の初号機の一撃に全く反応出来なかった黒き獣は残った顔面から血のような赤い液体を撒き散らしながら倒れた。

 

 微動だにしない『第四天使』を馬乗りなりながら、初号機は殴り続ける! ジャベリン区、カリス共和国、いやまるで世界全体が揺れ動き、かち割れるようなマウントパンチだ。

 

 一撃ごとに街に停めてある車が宙を浮く、一発ごとに海の水が空を舞う。世界の終わりを告げるかのような怒りの殴打だ。

 

 初号機は突然、殴打を止めると『第四天使』の装甲、皮膚のようなものを剥ぎ取り始める! 狂喜の雄叫びを上げながら剥ぎ取って、剥ぎ取って、剥ぎ取る!

 

 すると人間と同じく『第四天使』の頭部に脳味噌の酷似した器官が見えた。初号機はその器官にシャブリつく!ジュルジュルと音を出しながら初号機は敵を旨そうに咀嚼する。

 

 

 「うぐっ...... 」

 

 

 壮絶な状況を見た緑を始めとしたアマノン隊員達は嘔吐を繰り返す。

 

 

 初号機は『第四天使』の脳味噌に似た器官を喰うと『第四天使』自体を貪る! アマノン司令部最上部の三人以外は誰もその光景を見ようとしなかった。

 

 

 「彼が目覚めたのね...... 」

 

 

 「光希...... 」

 

 

 

 「初号機の覚醒、また『観測者達』がうるさくなるのう」

 

 

 宮本副司令官、林原司令官、アルテミス博士は各々の心境を顕にする。

 

 

 

 『第四天使』は脊髄や骨のような器官を残して、全て初号機に捕食された。獣を喰い終えると初号機は仁王立ちして、ただ夕闇の中を佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛は虚ろな意識のなか、言葉を投げ掛ける。世界で一番愛する人間へ......

 

 

 

 

 「ありがとう、お父さん...... 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シン世紀エヴァンゲリオン アイ

 

 

 第六話 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

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