牙狼バニ〈GAROBANI〉   作:亜希羅

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 というわけでまずはプロローグです。
 とある都市伝説について、とある裁判官のお話です。
 ぶっちゃけこのお話を読まなくても本編は十分お楽しみいただける仕様となっております。
 それでは、どうぞ。


#0 口伝

 光あるところに、漆黒の闇ありき。

 古の時代より、人類は闇を恐れた。

 しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得た。

 

 

 ――魔戒詩編序文より

 

 

 #0、口伝~とある街の都市伝説の話~

 

 

 この町、シュテルンビルトには、おかしな噂がある。

 都市伝説の類、と言っていい。

 

 

 こういう噂がある。

 人間を食らう化け物がいる。

 その化け物は人間になり済まし、人間の暗い欲望に引き寄せられて現れる。

 もし、周囲の人間が次々と失踪するようになったら、その人間は失踪したのではなく、人間になり済ましている化け物に食われたのだと。

 

 

 また、こんな噂もある。

 シュテルンビルトには、隠されたヒーローがいる。

 HERO TVに出演するような表だった職業ヒーローではなく、HERO TVが始まるよりもはるか昔から、シュテルンビルトの平和を守り続けている。

 彼は――正確には男か女かもわからないのだが、便宜上“彼”と記す――虎を模した金色の鎧に身を包み、一振りの長剣を携えているという。

 緑色の炎を自在に操り、一蹴りで高層ビルの屋上まで飛び上がり、その長剣は鋼をも斬り裂くという。

 

 

 * * *

 

 

 「本当だ!

 見たんだよ!金色の虎みたいな鎧を着た奴が、手にした長剣で見たこともない化け物をぶった切ってたんだって!」

 「・・・。」

 「・・・。」

 『・・・。』

 シュテルンビルト司法局の法廷。

 静まり返った傍聴の観衆も、被告を追い詰める検察も、申し開きして助ける弁護士も、判決を下すための裁判官も――早い話発言者以外の全員がしらけた様子で、その言葉を聞いていた。

 証言台に立ち、必死に喚いているのは、四十そこそこを過ぎているらしい中年の男で、この男が今回の裁判の被告である。

 

 

 この男は、とある小会社で会社の運営資金に手をつけ、横領の罪で逮捕・起訴されたのだ。

 ただ、その運営資金の横領が発覚してから、男の様子がおかしくなったのだ。

 顔色を真っ青にして、「あれは夢だ、幻だ・・・。」とつぶやくこと数回。

 そもそも、その横領が発覚したきっかけというのが、彼の同僚が残業で会社のデスクに残っているはずの男が、早朝に会社のエントランスで放心状態のところを見つかったうえ、デスクのパソコンに横領用の裏帳簿が開かれっぱなしになっていたという、何とも間抜けというか奇妙な状態だった。

 

 

 そして、逮捕起訴され、裁判になったと思ったら、突然こんなことを喚きだしたのだ。

 正直、やってられない。

 検察は明らかにイライラした状態だったが、弁護士も明らかにバカバカしいと言わんばかりに冷たい視線を被告の男に飛ばしている。

 裁判官は終始一貫した無表情であった。

 この裁判官、名前をユーリ=ペトロフと言い、シュテルンビルトでも随一の敏腕の裁判官である。

 ウェーブのかかった灰色の髪を右目の上に垂らした男は、痩せ気味の体躯に灰色のスーツを纏い、静かな様子である。

 神経質そうながらも整っているその白い面は、よくよく見ればドーランを塗っているとわかるだろう。たんに隈をごまかすだけなのか、それとも・・・。

 ともあれ、ユーリもまた、しらけているようだった。

 表面上は。

 その冬の月を思わせる青い双眸は、なぜか懐かしむような色合いを乗せていた。もっとも、そのことを知る者は、裁判には誰ひとりいなかったが。

 「・・・御覧の通り、被告は錯乱しており、まともに会話できる状態ではありません。

  どうか、このことを念頭に置いたうえで、寛大な処分を検討していただきたい。」

 一通り喚いて息を整えているらしい被告に、これ以上しゃべらせまいとでもいうかのように、白けきった口調ながらも弁護士はすかさず口を挟んだ。

 「お・・・私は見たんだ!」

 喚く被告は必死に訴えるが、誰も取り合わなかった。

 ユーリもすぐに眼差しを真剣なものに切り替えると、カンッと木槌を打ちならした。

 「静粛に!

  錯乱していると言っても、関係ないことを審議中にはしゃべらないように!」

 

 

 * * *

 

 

 「やれやれ・・・。

  またですか・・・。」

 審議を終え、ユーリは資料を持って補佐の青年とともに司法局の廊下を歩いていた。

 呆れた様子で呟いたのは、補佐の青年である。

 「最近多いですよね。ああいうの・・・。」

 「“虎のような鎧を着た金色の騎士”の話かな?」

「ええ。・・・昔からよく聞いてましたけど、本気で信じてる人がいたなんて、驚きでしたよ、あの怪談。都市伝説って言った方がいいんでしょうけど。」

 「・・・君は信じてないようだね?」

 ユーリが視線を向けると、青年は当たり前だと言わんばかりに力強く頷いた。

 「当然ですよ。そういう管理官はどうなんです?

  まるで、信じてるようですけど。」

 話を振られたユーリはかすかにほほ笑むような表情を青年に向けた。

「・・・噂や都市伝説というものは、元となった事実や、類似事項が存在するものだよ、レオン君。

  信じ切るには値しなくても、完全に否定する要素もまた存在しないさ。」

 「そんなもんですかね。」

 ユーリの言葉に、レオンという青年は肩をすくめた。

 実のところ、ユーリの言葉は“信じる、信じない”という問いかけの回答にはなっていないのだが、青年は気がつかなかったようだ。

 「“虎のような鎧を着た金色の騎士”ね・・・。

  ヒーローじゃあるまいし・・・。」

 一人ごちた青年にユーリは答えなかった。

 ただ、不意に足を止めると、廊下の窓から見える青いシュテルンビルトの青空を見上げた。

 その資料を持っていない方の、ほっそりした手が、ドーラン越しに白い面をそっと撫でる。思いふけるかのように、冬の月のような青い双眸がかすかに曇った。

 「ペトロフ管理官?」

 呼びかけられて、ユーリははっと我に返った。

 「ああ、すまない。今行く。」

 そうして、ユーリは歩き出した。

 幼少の日、己を救ったヒーロー〈虎のような鎧を着た金色の騎士〉の姿を心のうちに思い描きながら。

 

 

 

 

 #0END

 GO TO NEXT!

 




 よお!魔導輪の方、ザルバだ。
 さて、そろそろ本題に入らせてもらうぜ。
 お前達、ヒーローは好きか?
 俺は興味はないが・・・この町の連中は大好きみたいだぜ?
 おっと。俺のパートナーの方も、まるで無関心ってわけじゃないみたいだな?
 次回、“剣虎”。
 ワイルドに吠えてやれ・・・って、おイタはよくねえな?兎ちゃん?
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