牙狼バニ〈GAROBANI〉   作:亜希羅

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 閲覧、ありがとうございます。
 嘘ついてごめんなさい。今回魔導馬轟天が登場すると書きましたが、書きたいことを詰め込んだら、そこまで行けませんでした。
 しかも思いっきり長くなって、前後篇に分けました。にもかかわらず、ジェイク戦が次回にもつれ込みました。
 ごめんなさいごめんなさい。轟天の登場は第十話になります。
 バトルは前半のみで、後半は鬱展開へのフラグ立てです。
 そして、隠しごとの多いおじさんに、兎がブチキレて、アニメ同様どころかそれ以上にこじれちゃいました。
 君はもう少し周りを見回しなさい。おじさんの異常を察して言い訳くらい聞きなさい。まあ、彼も余裕がないんでしょうけどね。後、隠しごとをするおじさんもどうかと。
 鬱展開を書いてると気が滅入るんですよね・・・。早くジェイクをぶっ飛ばそう。
 さてさて、謎の人物が暗躍、登場する中、おじさんとイワン君に、バニーちゃん、そしてシュテルンビルトの人々の運命やいかに?!
 
 ちなみに、今回の予告でセブンマッチをシックスマッチと記してますが、ヒーローの数が足りないので、それに合わせて名称変更しました。ご理解のもと閲覧をお願いします。


#9 饗宴

 いざ杯を掲げん。

 喰らうは血肉、飲み干すは美酒。

 阿鼻叫喚、死屍累々。

 宴の終わりは、いまだ見えず。

 

 

 

 

 ――魔戒詩編第一十五節より

 

 

 

 

  #9. 饗宴~虎の最悪な一日と兎の敵~

 

 

 

 

 そこは、四方を白い壁に囲まれた、特殊な独房だった。

 左足のない、髭と髪がぼうぼうの男が一人、一糸まとわぬ姿で、そこにいた。

 白塗りの壁以外何もないその空間に、普通なら気が狂いそうなものだが、男は平然としていた。

 指先から赤い光を放ち、壁を焦げ付かせて、白い壁をカンバス代わりに、一つの絵画を描いている。

 それは髑髏のように見える、不気味な森のだまし絵だった。

 最後のひと筆を描き終えた男が、満足そうに息をついた時だった。

 「ほう・・・見事なものだ。」

 「ああん?」

 一糸まとわぬ男はガラの悪い声とともに、けだるそうに振り返った。

 いつ独房に入り込んできたのか、もう一人、男がそこにいた。

 白一色のその空間に、この男は異質としか言いようがなかった。ぞろりとした闇色のローブを纏い、深々とフードをかぶっている。

 身長は180センチほどだろうか?コツコツという足音から、ブーツなどの頑丈な履物を履いてるのは確かだろう。

 コツ。

 黒ずくめの男が、一糸まとわぬ男の前に立った。

 「てめえ、どっから入り込みやがった?」

 「お前が、ジェイク=マルチネスか?」

 一糸まとわぬ男――ジェイクの問いに、黒ずくめは答えずに逆に問いかけた。

 「聞けよ、人の話!」

 「ふん・・・確かに“使える”ようではあるな・・・。」

 怒鳴ったジェイクを無視して、黒ずくめはジェイクを検分するようにフードの下をこちらに向けてきた。

 「聞けっつってんだろうがぁぁ!」

 ビャッ!

 勝手に己のテリトリーに入り込まれた不快感からだろうか、ジェイクは赤い光を男めがけて飛ばしてきた。

 だが。

 バシュッ。

 ローブの下から突き出した、男の手――黒皮の手袋に覆われたそれに、赤い光がふれた途端、光は最初からなかったように掻き消えてしまった。

 「んなっ?!」

 ぎょっとするジェイクは、急いで彼のもう一つの力を発動させる。

 爛々と光る臙脂の双眸が、黒ずくめに向けられるが、ジェイクは大きく目を見開き、信じられないものを見るような目をしながら、後ずさった。

 「何だ・・・何なんだ?!てめえ!!」

 自分の力に絶対的自信を持っていたジェイクは喚いた。

 読めない。目の前の黒ずくめのことが、何一つ、わからない。

 「ふっ・・・。」

 黒ずくめが小ばかにするように鼻先で笑った。

 「お前は自分が人間以上の支配階級にあると思い込んでいるようだが。」

 ここで黒ずくめはジェイクに素早く詰め寄り、フードの下の異様な双眸――漆黒に染まった白目に浮かび上がる、オレンジ色の瞳を、彼に向けて、憐れむようにつづけた。

 「少しばかり強いと思いこんでいようと、所詮は人間だろう?

  人間が神を理解しようなど、思い上がりも甚だしい。」

 「な・・・?!」

 まるで自分こそ神だと言わんばかりの尊大な黒ずくめの言いように、ジェイクは怒鳴ろうとした。

 俺はその辺の人間とは違う!進化した人類――NEXTだ!能力だって二つもある!雑魚扱いしてんじゃねえ!

 ザビュッ。

 しかし、それらの文句を口にするより早く、ジェイクの額に、一振りの短剣が刺さった。

 鈍色に輝き、緩いカーブを描いた刀身のそれが。

 「ご・・・ガ・・・・ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 のけぞったジェイクの絶叫とともに短剣から黒い帯状の闇がいくつも噴出し、まるで繭のようにジェイクを包み込んでいく。

「マーベリック。“これ”を使って、ご自慢の坊やを売り出したいようだが、こちらにも予定というものがある。」

 シャランと音を立てながら、黒ずくめはローブの下につけている、ヒスイのペンダントにそっと触れながらつぶやいた。

 「なぁに、ヒーローどもは殺さないよう、言い聞かせるさ。

  私の目的は、ただ一人。」

 今や完全にジェイクを包み込んだ漆黒の繭から、もう用は済んだというかのように踵を返して離れながら、彼はフードの下で微笑んだ。

 「愛しの我が従弟、黄金騎士“牙狼”。

 ヒーロー気取りの、あの目障りな魔戒騎士に、そろそろ三途の川を渡ってもらおうじゃないか。」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「最っ悪だ・・・。」

 魔戒騎士、鏑木・T・虎徹は、薄曇りの天を仰いで、この世のどこかにいるかもしれない(しかし彼は存在は信じても、それを信仰しようという気にはなれない)神に、とても口にはできない罵倒文句を、内心でこれでもかとぶつけていた。

 通話の切れたスマホをいまだ右手に持って、背後にヴィンテージもの(と虎徹は言い張っている)愛車を残し、虎徹はいやいや視線を前に向けた。

 もうもうと煙を上げるのは、ブロックスブリッジ――シュテルンメダイユとブロックス工業区をつなげる堅牢なはずの・・・しかし今は真っ二つに折れた橋である。

 

 

 

 

 後輩騎士のイワン=カレリンがしっかりしてきたので、虎徹は故郷であるオリエンタルタウンに残している愛娘・楓のご機嫌伺いのために少し帰郷することにしたのだ。

 もちろん、オリエンタルタウンにホラーが出現したからその討伐指令ついで、という理由もある。

 こういう時は魔戒道という魔戒騎士専用の近道を使えばいいのだが、移動時間につじつまが合わなくなるし、お土産を持って行けないということで今回は自家用車を使って帰郷することにしたのだ。

 長く帰郷していなかったので、すねているだろう楓のために、お店の店員がイチオシ!と勧めてくれたぬいぐるみを買って、いざ帰郷!と、スマホで娘とおしゃべりしながら車を運転し、橋に差し掛かったら、突然前方が爆発し、このありさまである。

 「悪い、やっぱり無理そうだわ・・・。」

 今度こそ本当に帰ってこれるのかと詰問調子に尋ねてきた娘に、虎徹が目の前の光景に車を降りながら半ば呆然とそう返すと、

 『やっぱりね!』

 それ見たことか!

 そう言わんばかりに鼻息荒く言うと、楓はそのまま電話を切ってしまった。

 かくして話は現在に至る。

 

 

 

 

 ともあれ、いつまでも落ち込んでいても仕方がない。

 既に道路は封鎖され、無事だった車両は駆けつけた警察によって避難指示通りに橋から退去し始めている。

 「いったん帰って、魔戒道から出直すか・・・。」

 悄然と肩を落とし、すごすごと虎徹は車に引き返した。

 こんなことになったうえ、魔戒道を使うとなれば、当然実家には寄れない。

 なぜなら。

 『虎徹、まぁだ楓嬢ちゃんに魔戒騎士のこと、隠しとくつもりか?

  いっそ白状しちまえばどうだ?

  その方が家に帰りやすいぜ?』

 「だから、それは危険だっつってんだろ?

  何度言われても現状維持だ。」

 『お前、そういうとこ、正宗そっくりだぜ?

  自覚してんのか?』

 「だっ!」

 ザルバの耳に痛い言葉に、虎徹は呻いた。

 亡き父、正宗も幼い虎徹と兄の村正に魔戒騎士のことを隠していたので、あまり人のことは言えない。

 しかし、虎徹にも譲れないものはあるのだ。

 「親父は関係ねえよ!

 魔戒騎士のこと言ったら、楓も魔戒法師の修行とか受けさせなきゃいけなくなるかもしれねえだろ?そういうわけにはいかねえよ・・・。」

 ハンドルに突っ伏してぶつぶつという虎徹。

 ――だから、その辺が正宗にそっくりだって言ってるんだよ。

 とザルバが思ったかは定かではない。

 「とにかく帰るか。」

 何とか身を起こすと、虎徹はシートベルトを締め直し、クラッチを入れながらギアを入れ直そうとした時だった。

 バックミラーに、黒いパワードスーツ――軍で正規採用されてそうなサイズのものが何機も映り込んできたのだ。

 「なっ?!」

 ジャキン。

 パワードスーツのガトリング砲がミラー越しにこちらに向けられた。

 後は考えるまでもなかった。

 キィン。バツブツッバグワァァンッ!

 ガルルルルルルッ!

 とっさに能力を発動させ、退魔の剣を片手にシートベルトを引きちぎり、天井をぶち破って、虎徹が車を脱出した直後、放たれたガトリング砲によって、車はあっという間にスクラップと化してしまった。

 「俺の愛車!」

 離れた場所に着地しながら悲鳴を上げる虎徹。

 妻である友恵が亡くなってから乗り回していた、それなりに思い入れのある車だったのに。

 ガション。ガション。

 次々とパワードスーツが橋に降り立ち、一斉退去のため列を作っていた他の車両を、とっとと出て行けとばかりに襲い始めたのだ。

 「やめろぉぉぉ!」

 ヒュパッ!バギャァァァンッ!

 虎徹はいまだ発動中のハンドレッドパワー任せにパワードスーツの群れに突っ込むと、次の攻撃を行おうとしていたパワードスーツのガトリング砲を引きちぎった。

 『おい虎徹!』

 「放っておけるか!」

 人間同士の争いなんぞ放っておけと言いたいのだろう、不満そうなザルバの声を無視して、虎徹は続いて操縦者がいるだろうハッチに手をかけた。

 少し卑怯だが、中の人間を人質にとれば、攻撃を止めるかもしれない。そうでなくても、中の人間を警察に引き渡せば、そこから犯罪組織が割り出せるかもしれない。

 メリメリメリィッ!

 安物の紙を破るように、セーフティーシャッターを兼ねているハッチが引きちぎられた。

 「んなっ?!」

 『おいおい・・・。』

 虎徹とザルバが絶句しても無理はなかった。

 パワードスーツの内部の、安いビニール張りのシートに、ベルトを締めて鎮座していたのは、人間ではなかった。

 死んだ魚のような目玉と丸い耳に通された二つのリングピアス、そしてそれらに反した、ファンシーでカラフルな見た目。鋭い爪を生やした手と後頭部には、血糊をイメージした別の色が付着され、茶目っ気を演出するためか、少し舌を出した口元。

 キモかわいいその見た目を、虎徹は知っていた。

 「マッドベア?!」

 『ぬいぐるみが集団でテロ攻撃か?世も末だな。』

 ついさっき店で店員に進められるがままに、愛娘の土産として買ったそれが、なぜパワードスーツの中にいるのか。

 目を点にする虎徹と、人間だったら肩をすくめているだろう、ザルバ。

 それでも虎徹は身を乗り出して、シートベルトからぬいぐるみを引っ張り出した。

 途端にパワードスーツは、操り人形の糸が切れたように停止してしまった。

 「?」

 ふと虎徹はマッドベアの金具の一つに引っ掛かっているものに気が付いた。

 「髪の毛?」

 絹糸のような滑らかで細い、黒い髪の毛が、ぬいぐるみの頭部に布に通された糸のように刺さっていたのだ。

 ぬいぐるみをパワードスーツに乗せた者のものだろうか?

 しかし、考える暇はなかった。

 中身を見たからには生かしておかないと言わんばかりに、他のパワードスーツたちが虎徹めがけて一斉攻撃してきたのだ。

 「うだああああぁぁぁぁ!!」

 悲鳴を上げながらも、虎徹は白いコートをなびかせて橋の上を駆け抜け、攻撃をよける。

 片手にキモかわいいぬいぐるみを抱えてなければ、もう少しサマになったかもしれない。

 走りながらあちこちに視線を巡らせていた虎徹が、突然足を止めて叫んだ。

 「だ!」

 パワードスーツのアームに吹っ飛ばされたらしい車が、橋のふちのガードレールに車体の中央で引っかかって、シーソーのようにふらふらと傾きを繰り返している。

 しかも、中ではパニックに陥っているドライバーが助手席の女性と一緒に半狂乱になって喚いているようだった。

 「くそっ!」

 ワイヤーはダメだ。ワイヤーそのものは重量は支えることができる耐久性を持っているが、車の方の耐久性の関係で、下手にワイヤーをひっかけたら、その部分――バンパーやサイドミラーなどの部分が壊れて橋下に転落ということも十分考えられる。

 間にあえと言わんばかりに虎徹は弾幕の合間を縫うように駆け抜け、車を引きずりあげた。

 ズドォンッ!

 「早く逃げろぉぉ!」

 少々乱暴だったが、放り出すように橋の上に引き上げた車を置くと、ドライバーと助手席の女性は礼を言うことも忘れて、パニックのまま車を捨て、我先に逃げ出した。

 虎徹のハンドレッドパワーが時間切れしたのは、ちょうどこの時だった。

 同時に、パワードスーツが橋の上にも、上空にも、虎徹を包囲するように展開していく。

 『おい虎徹!こりゃちょっとやばいんじゃないか?!』

 「誰か早く助けに来てくれないかな~・・・。」

 ザルバの言葉に、虎徹は冷や汗を垂らしながらうめいた。

 人外の化物との戦闘経験は豊富でも、大量のパワードスーツとガチンコなんて、さすがにキャリア二十年の魔戒騎士でも皆無だというのに。

 視線を走らせると、警官たちが懸命に銃で応戦しているようだが、警察に支給される小口径の銃では、パワードスーツに傷を与えることもできない。徐々に後退していっているようだ。

 「ヒーローはいったい何してるんだよぉぉぉ?!」

 完全に橋の上に取り残された虎徹が悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「一体どうなってるの・・・?!」

 特ダネが入った!と、アニエス=ジュベールが喜べたのは最初だけだった。

 街のあちこち――埠頭や橋やら、ブロンズステージの柱の近くで、大量に出現したパワードスーツが、近くの人間を排除しようというかのように暴れ出したため、ヒーローの出動がかかった。

 ここまではよかった。

 パワードスーツは全く消耗した様子を見せず、倒しても倒しても次から次へと湧いて出てくる。

 分散して対処に当たらせたヒーローたちがスタミナ切れを起こすのも時間の問題だろう。

 おまけに、私用で休暇を取ってシュテルンビルトを離れていたバーナビーは合流にもう少し時間がかかる。

 完全にこちらの旗色が悪い。

 『アニエスさん、大変です!』

 「何よ?!こんな時に!」

 『ブロックスブリッジに、民間人が一名、取り残されてます!』

 「ええ?!」

 懸命に放送とヒーローたちへの指揮を両立させていたアニエスは、突如入ったその連絡に目を剥いた。

 急いでスタッフに行って、ブロックスブリッジの映像を映させる。

 橋に取り付けられた街頭カメラからの映像だろうか?かなり荒い画像だが、独特の白いコートを纏い、ひきつった顔ながらもパワードスーツを睨みつける、映像に映ったその男に、アニエスは目眩を覚えた。

 ――タイガー!あんた何でそんなところにいるの?!

 あの化け物がらみだろうか?

 いや、石像事件の例がある。ひょっとしたら、トラブルに巻き込まれやすい体質なのかもしれない。

 アニエスは画面内の虎徹をすばやく観察し、あの物騒な長剣が見当たらないことから、後者だろうと当たりをつけた。

 「アニエスさん!」

 「今度は何よ?!」

 気のせいか、少しほっとした様子のスタッフに、アニエスは叫んだが、すぐのそのスタッフと同じ気持ちになった。

 「バーナビーが間に合いそうです!

 今、アポロンのトランスポーターと一緒にブロックスブリッジに向かってると連絡が入りました!」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「こんのぉぉぉ!」

 ガルルルルルルッ!

 最初に引きちぎったパワードスーツのガトリング砲を構え、銃弾を浴びせながら虎徹は吠えた。

 残っている人がいない以上、虎徹も速やかに退散するべきだ。しかし、パワードスーツはそうはいかないとばかりに包囲網を縮めてくる。

 魔戒騎士をやるようになって対人戦闘の一環として身につけた銃器の扱いがこんなところで役に立とうとは。

 バシュバシュッ!

 ズドゴワァァァンッ!

 「どわぁ!」

 パワードスーツの肩のポッドから放たれたミサイルを何とかよけることには成功したが、爆風で虎徹の体は橋から飛び出した。

 「くっ!」

 パシュッ!カキィンッ!

 すぐに空中で姿勢を立て直しながら、虎徹は橋を支える柱のボルトにアンカーを放ち、ワイヤーをひっかける。

 そのまま振り子運動を描きながら、再び橋に降り立とうとした。

 バルルルルルッ!

 メギャッパギャァァァァンッ!

 「だああああああ?!」

 パワードスーツのうち一基が放ったガトリング砲が、橋げたを直撃、虎徹のワイヤーを支えるボルトを砕いてしまった。

 支えを失った憐れな魔戒騎士は、そのまま白いコートをなびかせながら、川面に落下するしかない。

 この高さだ。多分気絶して、パワードスーツの餌食になる。

 ホラーに殺されるのは覚悟していたが、こんな最期は予期してなかった。

 だが。

 ボズグイッ。

 「世話の焼けるおじさんですね。」

 「バニー!」

 飛び込んできた赤と白のヒーロースーツが、華麗に虎徹を抱きとめる。

 「遅えぞ、ヒーロー!」

 「すいません。あの刺青の男を思い出したから、面会に行こうとしてたんです。」

 「!」

 それでもほっとしたから笑いながら言った虎徹に、バーナビーが答えた。その表情はフェイスガードに隠されて虎徹からは見えない。

 「それは・・・」

 「いいんです。あなたに死なれるのは、困りますから。」

 バーニアを使って地面に降り立ちながら言ったバーナビーを、その腕から降りた虎徹は見た。

 「あの男・・・ジェイクには、またあとで会いに行きます。」

 「そうか・・・。」

 「それより、さがっててください。

  あなたの力は化物退治のためのものでしょう?」

 言いながら、バーナビーがファイティングポーズをとった時だった。

 唐突にパワードスーツが動きを止めた。

 ハラリ。ハラハラバラバラバラ・・・。

 「?

  何だこれ?」

 同時に曇り空から大量に降ってきた赤い紙を拾い上げ、虎徹は瞠目した。

 円を描いて己の尾を食む蛇と、それを刺し貫く一本の剣の意匠。ウロボロスの紋章〈エンブレム〉。

 「ウロボロス?!」

 一緒に紙を覗き込んだバーナビーが声を上げた時だった。

 『我らは犯罪組織、ウロボロス。』

 突如としてその声が流れ出した。

 女の声だった。街中のテレビというテレビに、眼鏡をかけた、黒髪の女が映り込んでいる。

 

 

 

 

 「電波ジャック?!」

 アニエスがギョッとした声を上げるのをよそに、画面の中の女は平然と続けた。

 

 

 

 

 『この街、シュテルンビルトは我々が占拠しました。

 我々が要求はただ一つ。我らが同胞、アッバス刑務所に囚われているジェイク=マルチネスを速やかに釈放すること。

 拒否する場合は、このパワードスーツに、ブロンズステージにあるアップタウンを支える柱を破壊させます。』

 「ジェイクだと・・・?!」

 バーナビーの声に、殺気が混じる。

 「おい・・・ジェイクってまさか・・・?」

 「ボクの・・・両親を殺した、仇です。」

 強張った顔で見た虎徹に、バーナビーはカシャンとフェイスガードを上げて、怒りに燃える目で、ウロボロスの紋章入りのビラが落ちてくる空を見上げた。

 空は、相変わらずの曇り空だった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「助けてくれてありがとうな、バニー。

  これで貸し四つだな。」

 ヘラリと笑って言った虎徹に、バーナビーは難しい表情のまま頷いた。

 ヒーローたちには一度撤収命令が出されたらしく、このままジャスティスタワーに向かうそうだ。

 パワードスーツから引っ張り出したぬいぐるみを何かの役に立つかもしれないと念のため、アポロンのメカニックに引き渡し、虎徹とバーナビーは、橋のたもとで向かい合っていた。

 「・・・あんまり思いつめるなよ。」

 ここで虎徹は一言声をかけた。

「お前は一人じゃない。他のヒーローたちだっているし・・・その、俺はヒーローじゃないけど、力になりたいんだ。

  いつでも頼っていいんだからな。」

 そういえばそうだった。

 バーナビーはふと思いながら、改めて虎徹を見た。

 いつも事件に首を突っ込んでくるし、現場に居合わせることが多いから、ついヒーローのように思っていた。

 この細い体で、あの化け物たちとたった一人で戦い抜いているのに。

 「・・・あなただって一人じゃないですか。」

 「そんなことはねえよ!」

 ぼそっと言ったバーナビーに虎徹は大仰に首を振った。

 「俺は魔戒騎士だ。“守りし者”だからな。

 イワンのような他の魔戒騎士や魔戒法師と力を合わせることだってある。それに、家族や友達みたいな大切な人のことを考えれば、そのためならいくらでも頑張れる。」

ここで、虎徹は優しげに微笑みながら、自分の胸を親指で指しながら続けた。

 「俺は一人じゃない。いつだって、ここでみんなとつながってる。

  ・・・今、俺いいこと言った?」

 『虎徹、最後ので台無しだぜ。』

 呆れた調子で茶々を入れるザルバに、虎徹は「いいじゃねえか」とおどけて見せた。

 「・・・自分でいいことって言ってたら、世話ないですよ。」

 呆れたため息をつきながら、バーナビーは言った。

 「でもな、バニー。

  これは魔戒騎士に限った話じゃない。」

 ここで虎徹は真剣な目でバーナビーを見つめた。

 「お前にだってなくしたくないもの、守りたいものがあるはずだろ?」

 バーナビーは踵を返して、表情を虎徹に見られないようにした。

 脳裏によぎるのは、家政婦であったサマンサ、養父のマーベリック、そして・・・なぜかヒーローになって知り合った人々と、

 ――なんでこのおじさんの顔が出てくるんだ・・・?

 バーナビーは自問した。少し前なら、頭を抱えてたかもしれない。

 でも。

 ――なんで、いやじゃないんだ。

「お前にそういう気持ちがあるように、他のみんなにだって、守りたいっていう気持ちがある。もっとみんなを信じて、頼っていいんだからな。」

 「・・・あなたを」

 少しバーナビーは振り返って、虎徹を見た。

 風に、虎徹の白いコートがはためいた。

 「信じても、いいんですよね?」

 揺れるエメラルド色の瞳に、虎徹はすぐに返事しようとした。もちろんだ、と。

 しかし、虎徹はそこで思い出す。自分は彼に隠し事をしている。

 

 

 

 

 ホラーの返り血を浴びた者は、ホラーを引き寄せるようになり、百日の後、地獄のような苦しみとともに、死に至る。

 それを虎徹はまだ張本人には話してなかった。

 バーナビーは両親のことを話してくれたのに、いくらなんでもこれは対等〈フェア〉とは言えないのではないか?

 

 

 

 

 「・・・おう。」

 ややあって、虎徹はうなずいた。

 すぐに返事しなかったことをバーナビーは少し怪訝に思ったが、ここでPDAから連絡が入った。

 アニエスから、さっさと撤収しろという催促だった。

 「・・・それでは、僕はこれで。」

 「おう。気ぃ付けてな。」

 改めてトランスポーターに向かうバーナビーに、虎徹はひらりと手を振った。

 そうして彼は今度は赤い雪のようにビラが舞うシュテルンビルトを振り返った。

 「・・・大丈夫かぁ?」

 『そりゃこっちのセリフだ、虎徹。』

 ヒーローたちとこの街の行く末を案じてつぶやいた虎徹に、ザルバが口をはさんだ。

 『お前、あんだけ軽々しく安請け合いしてどうするんだ?

  ようやくヴァランカスの実が見つかったばかりで、手元にはまだないんだろ?』

 「ま、まあ何とかなるって。」

 『虎徹、お前本当に学習能力のない奴だな。

 友恵の時だって、呪いのこと隠しててギリギリのところをばれて大喧嘩になって、あわや喧嘩別れしそうになったってのに。』

 再び耳に痛いことを言う魔導輪に、魔戒騎士はぐうの音も出ない。

 『兎坊やの時間は、もうあまりないんだろ?』

 「・・・ああ。」

 虎徹はうなずいた。

 バーナビーがホラーの返り血を浴びて、すでに三カ月経とうか経たないかという所まで来ている。

 残された時間は、あまりない。

 いずれにせよ、この場でぐずぐずしていても仕方ない。

 白いコートを翻し、虎徹も橋から歩み去った。

 

 

 

 

 スーツの装甲を外し、トランスポーターに揺られながら、バーナビーはふと思った。

 そういえば、あのおじさんの迷いのある表情を見るのはこれが初めてではない。

 初対面の時――自分がキャサリンを化物とは知らなくて、守ろうとあの男に蹴りかかった後、彼は自分を守って代わりに化物を倒した。

 しかし、その直後、険しい表情で、でも迷っているかのように目を揺らしながら、一度だけ剣を向けてきたのだ。

 ――なんで剣を向けてきたんだ?

 そのあと聞かされたいろいろな――魔戒騎士とかホラーとかのことで、いろいろ容量オーバーしてたから、すっかり忘れていた。

 ――そういえば・・・。

 他でも剣を向けられたことはあった。

 同じ魔戒騎士であるイワンが、初対面の時に同じように剣を向けてこようとしたのだ。

 その一度きりだったから、これもすっかり忘れていた。

 この事件が落ち着いてから、一度聞いてみよう。あのお人よしのおじさんなら、教えてくれるだろう。

 バーナビーはそう思いながらも、拾ったウロボロスの赤いビラに視線を落とし、再び思索の迷宮に意識を沈めた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 虎徹は橋を離れたその足で、一度人目につかない高架下に向かった。

 街はウロボロスという連中のせいで、パニックに陥っている。

 街頭テレビの速報では、ブロックスブリッジのほか、シュテルンブリッジも落とされ、港も占拠され、シュテルンメダイユは完全に封鎖されてしまった。

 いずれにせよ、人の世界の出来事だ。魔戒騎士〈虎徹〉にできることはなく、ヒーローたちを信じるしかない。

 ――頼むぜ、みんな・・・。

 今頃対策に走っているだろうヒーローたちを思い浮かべながら、虎徹は高架下の硬いレンガ壁の前に立つ。

 すっと左手の魔導輪を翳した。

 ゴンッ・・・。

 重々しい音を立てて、ブロックが滑るように展開していき、大の大人が一人通れそうな黒い入口が開かれる。

 これが魔戒道の入り口である。

 ここから異空間を通って、魔戒騎士は他の遠隔地に移動時間を短縮して向かうことができる。

 だが。

 「?」

 少し虎徹は眉をひそめ、黒い入口に向かって手を伸ばした。

 バシィンッ!

 澄んだ音を立てて、その手がはじかれた。

 「なっ・・・?!」

 黒い入口のすぐ前で、まるで透明なガラスが張られたように、ユラリっと光が揺れた。

 ひりひりする手を抑える虎徹に、ザルバがギョッとしたように叫んだ。

 『結界か?!』

 「魔戒道が・・・!」

 ここで虎徹は何かに気が付いたのか、急いで再度魔導輪を翳して魔戒道の入り口を閉めると、高架下から飛び出し、急いで周囲に気を巡らせる。

 

 

 

 

 『イワン・・・これは・・・?!』

 「なんてことだ・・・シルヴァ・・・。」

 ゴールドステージの日本邸。定位置の縁側で袴姿で座禅を組んでいたイワンは、すぐに立ち上がり、信じられないものを見るような目で空を見上げた。

 おそらく、常人には見えないし感じないだろうが、桁違いの邪気による薄紫の結界が、シュテルンビルトの空を覆い尽くしている。

 まだはっきりと確認したわけじゃないが、おそらくシュテルンメダイユ全域を覆い尽くしているに違いない。

 『かなり強力な邪気ね。

  この規模の結界を操るなんて、今までの雑魚とは比べ物にならないはずよ。』

 唸るように言ったシルヴァに、イワンはすぐに思った。

 “番犬所”に指示を仰ぎにいかないと。

 「静流さん、出かけます!服の用意をお願いします!」

 家族のような家政婦を呼びながら、イワンはふすまを開いて家の中へ引っ込んだ。

 

 

 

 

 「こいつは一体・・・?」

 タクシー磨きをしていたベンは、苦虫をかみつぶしたような顔で空を見上げた。

 引退したとはいえ、魔戒騎士としての訓練と経験を積んだ彼も、こういった感覚自体は錆びついていない。

 シュテルンビルトで長く過ごしているが、ここまでの規模の邪気を感じたのは初めてだ。

 この街〈シュテルンビルト〉は風水や、そこに住まう人々の人口密度の関係上、他に類を見ないくらいホラーが出没しやすい土地である。

 ゆえにこそ、最強の異名をとる“牙狼”の系譜と、次点に連なる“絶狼”の騎士が守護に配置されるようになったのだ。

 そのシュテルンビルトに、最大の危機が訪れたのかもしれない。

 「・・・っ・・・!」

 疼き出した右腕を抑え、ベンは小さく唸った。

 完治してこそいるが、この右腕はホラーの発する邪気を感じると、痺れたように疼く。彼が現役の騎士として使い物にならなくなった、最大の理由がこれだ。

 疼きは精神統一を阻み、魔戒騎士に必要な魔導力のコントロールに支障をきたしやすくなる。

 いずれにせよ、魔戒騎士を引退し、ただのタクシー運転手に成り下がった今のベンにできることは現役を応援することのみだ。

 「気をつけろ、虎徹・・・。

  今度の奴は手ごわそうだぞ・・・!」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 『緊急事態です。』

 駆け付けた二名の魔戒騎士を前に、三神官の一人、緑の目の少女ケイルが重々しく口を開いた。

 “番犬所”の中は薄暗く、固い面持ちのイワンと真剣な表情の虎徹の前に、ブランコに座った三神官と、わきに控えた世話役のコダマだけが、いつものようにいる。

 『シュテルンビルト――シュテルンメダイユ地区全域が、結界に覆い尽くされました。』

 『魔戒道も封鎖されています。

  つまり、我々はこの街に閉じ込められました。』

 『このままでは応援を呼ぶこともままなりません。』

 「ホラーの仕業っすか?

  つーか、それならオリエンタルタウン行きの俺の指令はどうなるんすか?」

 交互に言った三神官に、虎徹が口をはさんだ。

 『キャンセル・・・いえ、延期します。

  この結界をどうにかしない限り、街を出ることもままなりません。』

 淡々と答えた青い目の少女、ベルに、虎徹はまあそうなるだろうなと思いながらうなずいた。

 『シュテルンビルト守護に当たる魔戒騎士、“牙狼”“絶狼”両名に命じます。』

 『結界を発生させているホラーを速やかに発見し、討伐しなさい。』

 『場合によっては結界の破壊を優先しても構いません。』

 交互に言った三神官の言葉に続くように、コダマが歩み出ると、二人にそっと漆黒の封筒をそれぞれ差し出した。

 “黒の指令書”。通常の“赤の指令書”とは異なり、命令の拒否権がない、絶対優先指令である。

 封筒を受け取り、専用ライターで魔導火をつけ、メッセージを開く二人の魔戒騎士に、三神官の厳かな声が降り注ぐ。

 『『『必ずや、成し遂げるのです。』』』

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 一方そのころ、ジャスティスタワーの会議室に集まっていた七大企業の代表と、司法局代表のヒーロー管理官であるユーリ=ペトロフ、そして、シュテルンビルトの市長は、顔を突き合わせてああでもないこうでもないと話し合っていた。

 テロに屈するわけにはいかない。しかし、このままでは民間人に犠牲が出るどころか、街そのものの存続すら危うい。

 どうしたものか。

 ウロボロスの使者を名乗るハンス=チャックマンがビルに乗り込んできて、メッセージを伝えてきた。

 あと三時間以内に結論を出さない場合、見せしめに柱を一本破壊する。

 要するに、催促である。

 市民に無用な犠牲を出さないためにも、要求を呑むしかない。

 しかし、この期に及んで最終的な決定権を持つ市長はなかなか首を縦に振ろうとしない。自分の首がかかっていることになると、とたんに及び腰になるのだ、この男は。

 ああ、いっそタナトスの声を聞かせてやろうか?

 表情には出さずに、ユーリがそう考えた時だった。

 「いつまでグズグズやってるんですか?!」

 ばたんっと扉を開いて、アンダースーツ姿のバーナビーが会議室に押し入ってきた。

 「バーナビー。」

 「いいえ、マーベリックさん。

  はっきり言わせてください。」

 やんわりと咎めるような声を出すアポロンメディアCEOに首を振ると、バーナビーは眼鏡を押し上げてつづけた。

 「もう時間がありません!保身に走るのがあなた方のやることなんですか?!

  それでこの街がなくなることになっても、責任がないというんですか?!」

 ここでバーナビーは右手に引きずっていた男を無造作に放り出した。

 ヒッと誰かが息をのんだ。

 それは、鼻血を出して殴られまくって顔を赤く腫らしたチャックマンだった。気絶している様子だった。

 「ジェイクのことならご心配なく。

  ぼ・・・いえ、私に考えがあります。」

 「越権行為だぞ!」

 ある程度は自信があるのだろう、平然と言い放ったバーナビーに、会議室に列席していた誰かが立ち上がって叫んだが、それを身振りでマーベリックが制した。

 「市長。」

 「な、なんだろうか?!」

 おろおろしているしかなかった市長は、恐る恐ると言った様子でマーベリックを見やった。

 「ヒーローたちはこの街のシンボルです。この街の平和は彼らあってのもの。

  その彼らに考えがあるというなら、彼らに託してみませんか?」

 やんわりといったが、その言葉には不思議な強制力が働いているようで、会議室は水を打ったように静まり返った。

 「バーナビー。やってみたまえ。

 それから、ジェイクを開放するなら、市民たちに動揺が広がる。それを抑えるには君の力が必要だ。協力してくれないか?」

「はい。」

 向き直って言ったアポロンメディアCEOに、バーナビーは力強い瞳で大きくうなずいた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 それは、ふと意識を持ち上げた。

 白い独房は静まり返り、自分以外誰もいない。

 ああ、腹が減った。まるで何日も食物を口にしてないような激しい渇きと飢えを感じた。

 ふと彼はそう思った。

 何をしなければならないんだったか?

 “ヒーローを殺すな”“バーナビー=ブルックスJrを殺すな”“魔戒騎士を殺せ”“牙狼を殺せ”“絶対に目の前から生かして帰すな”

 「“牙狼”を殺せ・・・。」

 ぼつりっと彼は最優先命令を復唱してから、視線を巡らせた。

 ああ。

 「内臓喰いてぇ・・・。」

 不気味な独り言を聞く者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ゾクッ。

 討伐ホラーに関する事前情報が何もないので、結界の展開に優れたホラーについて、冴島邸の書斎で調べ物をしていた虎徹は、背筋を震わせた。

 今、なんだかとてつもない殺気を感じたような気がした。

 『どうした?虎徹。』

 「いや、今、何だか寒気を感じたような気がして・・・。」

 ザルバに答えて、虎徹は分厚い本をめくることを再開した。

 正直言うと、虎徹はこういう細かな事務作業は不得意である。

 しかし、見習いの時期に一度、討伐ホラーの事前情報の検索を怠ってイタイ目を見たことがあったので、それ以降はどんなに面倒でも事務作業はこなすようにしている。

 「ええと・・・結界使いのホラー・・・・ホラー“パズズ”とか?」

 『確かにあのホラーは結界使いだが、ここまで大規模な結界は張れねえぞ?

  せいぜい大きな建物とその敷地を囲むまでだ。』

 「そりゃそうか。」

 ザルバに頷くと、虎徹はさらにページをめくる。

 

 

 

 

 余談になるが、ホラー“パズズ”は、虎徹の祖先になる冴島鋼牙が討伐したホラーの一体である。凄腕の外科医に憑依したそのホラーは、患者の病気を治してから喰らうという悪辣な“食事”方法で、さらに結界で魔戒騎士の力を封じてきたのだ。

 鋼牙がどうやってそのホラーを倒したかはさておき、今回出現した結界使いのホラーはこのホラー以上の力を持っていることは確かだろう。

 

 

 

 

 「ええと・・・ホラー“ルテフォシモ”・・・こいつか!」

 パンッと開かれたページには、そのホラーについての記述が載っていた。

 デスクに戻り、椅子に座りながら、虎徹はその記述を目で追った。

 「結界で街を囲みこんで逃げ場をなくしてから、獲物を狩っていく・・・。

  何だ、このえげつないやり口・・・。」

 『ああ、思い出したぞ。

  この結界は奴が獲物の逃走封じに使うものだ。』

 読み上げて顔をしかめた虎徹に、ザルバが口をはさんだ。

 『街を覆っている結界自体に魔戒騎士の力を封じる効果はない。

  逃走防止に獲物を内部に閉じ込めるためのものだからな。

  実際、俺の鼻も無事だ。』

 言外にホラーの位置はわかるというザルバに、虎徹はしばし考え込んだ後、さらにページを読み進める。

 一か月で街一つを廃墟にしたという記述に、今度こそ虎徹は絶句した。

 一日で街一つダメにした、ホラー“モラックス”やホラー“ルイーホ”も大概だが、このホラーもかなりの大食いらしい。

 外部から魔戒騎士を派遣しようにも、結界に邪魔されて内部に侵入するのに時間がかかり、さらにやっと内部に侵入しても、今度はその魔戒騎士を結界に封じて身動きをとれなくして捕食したという記述まである。

 『当然魔戒騎士の力封じも行ってくる。

  厄介なやつさ。』

 「結界札を破壊すれば、その手の力封じは無効化できるはずだ。」

 『わかってるとは思うが、それは魔戒騎士には無理だぜ?

  仕掛けたホラー以外でそれができるのは、“返り血付き”の人間くらいだ。』

 「バニーの力を借りるしかないのか・・・。」

 虎徹が本を膝に乗せて考え込んだ時だった。

 ピピピピピ。ピピピピピ。

 「?

  電話?」

 この非常時(街はいまだにウロボロス騒動の渦中にあるし、虎徹たち魔戒騎士は結界による封鎖でてんやわんや状態である。)に、一体誰だろうか?

 「どおも。仕事の下準備で書斎に缶詰めな方、虎徹です。」

 デスクの上に置いといたスマホを手に取り、通話に出る。

 『タイガーさん・・・どうしましょう・・・?』

 「折紙?」

 途方に暮れた様子の、もう一人の魔戒騎士に、虎徹は眉を寄せた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ここで少し時を戻す。

 イワンもまた、日本邸に戻って書庫でホラーに関する情報をあさり、対策を万全にする予定であった。

 夕刻に虎徹と合流し、目当てのホラーを討伐する。

 最近は、単独で仕事をこなせるし、エドワードの一件からだいぶ自信がついてきた。

 まだベテランのタイガーには及ばなくても、自分にだってできることはあるはずだ。

 「イワンさん。」

 トントンというノックの音に、イワンは書物から顔をあげ、書庫の入り口を振り返った。

 そこには、少し困った様子の家政婦――静流が佇んでいた。

 「その、お客様がいらしたようですよ。」

 「お客さん・・・?」

 こんな時に、一体誰だろう?

 首をかしげながら、読みかけの書物にしおりを挟んで、書き物机の上に置くと、イワンは書庫を後にし、応接間を兼ねた洋間へ向かった。

 

 

 

 

 シュテルンビルトは人種の坩堝とはいえ、日本文化になじみのない人々は多い。そういった人たちのために、イワンの住む日本邸の応接間は、洋間――テーブルとソファを備えた、絨毯敷きの内装になっている。

 ちなみに、これらはイワンの配慮ではなく、この屋敷のもともとの持ち主である先代“絶狼”によるものである。彼も相当な日本オタクで、イワンの日本オタクは彼に影響を受けた結果といっても過言ではない。

 

 

 

 

 閑話休題。

 洋間のソファにいたのは、二人の人物だった。

 「ティモ校長に、ヘリペリデスファイナンスのCEOさん?!」

 ぎょっとしたイワンに、二人は真剣な顔で立ち上がった。

 「イワン君。頼みたいことがある。」

 口を開いたのは、ティモ校長である。

「今回限りでいいんだ。臨時ヒーロー、折紙サイクロンとして、この街を守るために手を貸してくれないだろうか?」

 続けて言ったヘリペリデスのCEOに、イワンは目を白黒させるしかなかった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 現在。

「つまり、まとめると、捕まえたジェイクの手下に、お前のNEXT能力で擬態して、アジトに潜入してパワードスーツの止め方などを偵察して来いと。」

 『はい・・・。』

 電話で一通りの事情を聴いた虎徹に、通話先のイワンはどこか途方に暮れたように答えた。

 確かに、イワンはアカデミーでヒーローとしての訓練を受けてたし、現在も魔戒騎士として鍛錬を怠ってないが、それは世間一般には秘している、裏事情だ。表向きの彼は、元ヒーロー候補の、ただの一般人でしかない。

 一体、誰がこんなはたから見ると無謀なことを言い出したのか?

 沈黙した虎徹に、その間の意味を察したのか、イワンは恐る恐ると言った様子で口をはさんだ。

 『バーナビーさんが立案したらしいんです・・・。

  その、僕なら大丈夫だろうって・・・。』

 「バニー・・・。」

 虎徹は呆れてため息をついた。

 魔戒騎士のことは世間には隠しとおさねばならないし、人間同士の争いには基本的に不干渉でなければならない。

 つまり、魔戒騎士のことがばれるような行動も可能な限り避けねばならない。

 虎徹がバーナビーなどの一部の人間に魔戒騎士のことを話しているのは、秘密を守ってくれると信じているからだ。

 しかし、自分の目的のために、その秘密がばれかねないような真似をしてどうする。

 それが虎徹一人ならばまだしも、イワンまで巻き込むとはどういう了見だ。

 『自分の目的のためなら手段を選んでねえぞ、あの兎坊や。

  完全に視野狭窄に陥ってるじゃねえか。』

 しっかり聞こえていたザルバが呆れて口をはさんだ。

 「・・・ここで断ったら、アニエスが出てくるな。」

 瞬時に虎徹は、断った場合のシミュレートを脳内で行った。

 ここでイワンが断れば、おそらくバーナビーは何が何でもイワンを引きずり出すために、同じ魔戒騎士のことを知るあの女プロデューサーにイワンのこと〈魔戒騎士であること〉を教え、説得を頼むに違いない。

 魔戒騎士のことをテレビで放送すると脅されてしまえば、イワンになすすべはない。

 この手の情報漏えいは、重度の掟破りになり、下手をすれば寿命を軽く十年単位で削られかねない。

 つまり、おとなしく要請を受けるしかないのだ。

 「俺は頼れとは言ったが、利用しろとは一言も言ってねえぜ、バニー・・・。」

 呆れた虎徹に、イワンは申し訳なさそうに言った。

 『やっぱり、協力するしか、ないですね・・・。』

 「ホラーのことは気にするな。」

 虎徹は努めて明るい調子で言った。

 「今はまだ昼間だ。じゅうぶん時間はある。それに」

 ここで虎徹は言葉を切ると、優しい口調で続けた。

 「いいじゃねえか、あこがれのヒーローに、臨時でもなれるんだぜ?」

 スマホを耳に当てる虎徹の琥珀の目が、憧憬に揺れた。

 「俺はなりたかったよ、みんなに希望を与える、ヒーローってやつに。」

 『タイガーさん・・・。』

 しばし、イワンは沈黙した。ややあって。

 『・・・エドワードも、ヒーローにあこがれてました。

  僕も、彼に勇気をもらって、彼みたいに誰かに勇気をあげたいって思ってました。』

 虎徹は黙ってイワンの独白に耳を傾ける。

 『今、僕の行動で、シュテルンビルトの人たちに、勇気と希望をあげられるんですよね?』

 「ああ。きっとそうさ。」

 『・・・わかりました。遅くなるかもしれませんが、必ずホラー退治には駆けつけます。

  行ってきます、タイガーさん。』

 「行ってこい、折紙サイクロン。」

 凛としたイワンの言葉にエールを送ってから、虎徹は通話を切った。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 さて、ここで物語の視点は銀牙騎士“絶狼”こと、イワン=カレリンに移る。

 虎徹に連絡を入れた彼は、そのまま応接間に戻り、少し考えさせてほしいと言って待たせていたヘリペリデスファイナンスのCEOと、ヒーローアカデミーの校長に向き直った。

 「わかりました。僕でよければ、協力させてください。」

 「おお!引き受けてくれるか!」

 うれしそうな顔をしたのは、CEOである。

 「しかし、大丈夫かね?

  かなりブランクがあるし、何より危険であることにかわりはないが・・・。」

 ティモ校長は不安そうに言ってきたが、イワンは首を振った。

「大丈夫です。それに、アカデミーを離れてからも、自主トレはしてました。いくつか条件は付けさせていただきますし、無理はしません。

  何より、僕もこの町に住む人間です。

  現役のヒーローの力になれるなら、これ以上嬉しいことはありません。」

 イワンのしっかりした表情を見て、ティモはこれなら大丈夫かもしれないと思った。

 以前、アカデミーで見かけたときは、卒業前同様に背を丸め自信なさげにしていたが、エドワードとのもめごとの後、なにがしか心境の変化が生じたのかもしれない。

 あの時のことは、ティモには途中から記憶がないが、おそらく、自分の見ていないところでエドワードと彼は和解したのだろう。

 惜しいと思った。今の彼なら、きっとヒーローとしても輝くに違いないのに。

 「やっぱり彼は惜しいですね。」

 少し準備するからと再び応接間を離れたイワンを見送ってから、ヘリペリデスのCEOは口を開いた。

「この事件が終わってから、もう一度、わが社のヒーローになってみないか、聞いてみましょう。

 以前、スカウトした時よりもいい顔をしています。実に、惜しい。」

どうやら、このCEOもティモと同じことを考えていたらしい。

「お待たせしました。」

ここでイワンが戻ってきた。

「み、Mr.カレリン?

 その恰好は?」

「え?何か変でしたか?」

 と自分の姿を見下ろすイワンの姿は、黒ずくめに黒コート、加えて胸元に銀のペンダントをさげた、一見すると怪しいと言っても過言ではない格好だった。

 イワンからしてみれば、今の状況では何があるかわかったものではないので、魔戒騎士の正装に、退魔の双剣とソウルメタル製の手裏剣を手放せないと隠し持っているだけなのだが。

 初見のCEOには、おとなしげなイワンがするにはいささかハードルの高い服装に、あっけにとられた表情をしたが、すぐに気を取り直したように眼鏡を押し上げた。

 「それでは、時間がありません。すぐに行きましょう。」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「大丈夫なの?そのイワンって子。」

 アニエスは、ヒーローたちの待機ルームでバーナビーを除いた五人のヒーローたちと顔を合わせていた。

 ちなみに、そのバーナビーはマーベリックが行う記者会見に同席するということでこの場にはいない。

 パワードスーツタイプのヒーロー――スカイハイとロックバイソンの二人はアーマーを取り去り、アンダースーツ姿、ファイアーエンブレムはマスクを外した姿である。

 「大丈夫だよ。だって折紙さんも魔戒騎士っていうヒーローだもん。」

 元気よく口をはさんだのはドラゴンキッドである。

 「え?」

 「そうなのかい?」

 不思議そうな顔をしたのは、ブルーローズとスカイハイである。

 アニエスも驚いた顔をする中、以前虎徹から聞いてイワンのことを知っていたロックバイソンとファイアーエンブレムは顔をしかめた。

 「ドラゴンキッド、その話、虎徹から聞いたのか?」

 「うん。怖い怪物から助けてくれて、みんなも知ってるって教えてくれたよ?」

 尋ねたロックバイソンに、ドラゴンキッドは不思議そうにしながら答えた。

 「パオリン。その話は秘密にするよう、言われたでしょう?」

 「う、うん。」

 「頼むから軽々しく言わないでくれ。

  虎徹の・・・いや、あいつらの命にもかかわるかもしれないんだ。」

 怖い顔をしたファイアーエンブレムに、ドラゴンキッドが戸惑いながらもうなずくと、ロックバイソンが大きく首を振って真剣な顔で言った。

 「い、命?!」

 「そんな大げさな・・・。」

 「どうかしら?」

 息をのむスカイハイに、ブルーローズが言うが、ファイアーエンブレムは深刻そうな顔で首を振った。

「以前、タイガーが言ってたんだけど、魔戒騎士のことを知る人間は、本来はその記憶を消さないといけないんですって。

  つまり、私たちのような人間を放置しておくのは、本当はいけないことなのよ。

  それを、タイガーの上司たちに知られたら、タイガーがどんな目に合わされるかしら?」

 「友恵さん・・・あいつの女房から聞いた話だが、下手をすれば寿命を縮められるそうだ。」

 ロックバイソンの言葉に、息をのんだのは誰なのか。

 「アタシたちは信頼されてるのよ、あのお人よしの魔戒騎士に。

  秘密を守ってくれるって、信じてくれているの。」

 一同を見回して言ったファイアーエンブレムに、一同は沈黙した。

 「ごめんなさい、ボク・・・。」

 「次から気をつければいいわよ。きっとタイガーも許してくれるわ。」

 悄然と言ったドラゴンキッドの頭を撫でて、ファイアーエンブレムは微笑んだ。

 「・・・気を付けるわ。」

 アニエスは硬い表情でうなずいた。

 秘密を守らなければ、記憶を消される。誰しも頭の中を勝手にいじられることほど不快なことはないだろう。

 ――あの時、放映しないと宣言しててよかった・・・。

 とアニエスが思っていたかは定かではない。

 「それより、あの化物退治屋がもう一人いたなんてね・・・。

  でも、それなら多少は大丈夫そうね。」

 「この前、だいぶしっかりしてきたと虎徹〈あいつ〉、嬉しそうにしていたな・・・。」

 気を取り直して言ったアニエスに、ロックバイソンが思い出しながら言った。

 「それはいいけど、ハンサムはどうするのよ?」

 硬い表情で口をはさんだのはブルーローズだった。

 「そのイワンって子を引っ張り込むように案を出したのは、あいつでしょう?

  ってことは、あいつも・・・。」

 「・・・一度注意が必要だな、あのルーキー。」

 こめかみを抑えて、ロックバイソンは呻いた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 司法局が手配してくれたヘリに、ジャスティスタワーから戻ってきたチャックマンと一緒に乗り込んだ女――クリームは、舞い上がらんばかりに胸を高鳴らせていた。

 ついに・・・ついにだ。やっとこの時が来た。

 二十年前、自分を救ってくれた、あの人を、今度は自分がこの手で救いだすのだ。この時をずっと、夢見てきた。

 ウロボロスの力があれば、助け出したあの人共に安寧の地に行くこともけして不可能ではない。

 いや、どこだっていいのだ。あの人がそばにいてくれるなら。

 何故なら自分は、あの人の一部だ。

 親に見捨てられ、あの人が救いの手を差し伸べてくれた時から、ずっとそうだったのだから。

 刑務所の前にヘリが降り立つと、すでに準備万端であったらしく、少々汚い服を着た、痩せ気味の男が、義足の左足を引きずるように歩み寄ってきた。

 髭と髪はぼうぼうに伸び、垢で汚らしかったが、クリームにはすぐに分かった。

 ああ!あの人だ!

 「ジェイク様!」

 「やっぱりお前か、クリーム。」

 ヘリを駆け下り、見上げたその顔は皮肉げな、それでも自信に満ちた笑みを浮かべ、何一つ変わってない。

 「さあ!こんな胸糞悪いところはさっさと出ましょう!アジトにご案内しますわ!」

 

 

 

 

 (シルヴァ・・・あれ・・・。)

 {なんてこと・・・!}

 ヘリにすでに乗り込んでいたチャックマン――否、彼に擬態したイワンは、擬態術で見えなくなっている胸元の魔導具に念話で語りかけた。

 {気を付けて、イワン!

  今は昼間だから何もしてこないでしょうけど、油断は禁物よ!}

 (大丈夫。無理はしないよ。)

 ハラハラしているらしいシルヴァになだめるようにイワンが言った直後、ジェイクとクリームがヘリに乗り込んできた。

 ジェイクの腕を抱えるクリームが、ヘリの操縦席の方に視線を送る。

 途端に操縦席に座っていたマッドベアのぬいぐるみが手足を伸ばしてスロットルを倒し、ペダルを踏み、操縦かんを持ち上げてヘリを離陸させた。

 「・・・こいつは誰だ?クリーム。」

 「はい。ハンス=チャックマンと言って、我々ウロボロスの思想に賛同する協力者です。

  NEXTではありませんが、それなりに使える男です。」

 シートに座ったジェイクの言葉に、クリームはつらつらと答えた。

 すっとジェイクの視線が“チャックマン”を射抜く。

 それだけで“チャックマン”は自分のことを何もかも見透かされているような不安な気分になったが、ライフルを抱え込んだまま、外を睨むように見つめるにとどめた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 一通り調べ物を済ませた虎徹は、鍛練のために剣をふるっていた。

 黒髪を揺らして力強くステップを踏み、見えない敵と打ち合うその姿は、剣舞を舞っているようにも見えた。

 『踏み込みが甘い。』

 「だっ!」

 茶々を入れたザルバに、虎徹は構えを崩して中指の指輪を見た。

 カシャンッ。

 余計な口を挟まないでくれという代わりに、虎徹は魔導輪を引き抜いてストックホルダーにはめ込むと、再び剣を構える。

 右手に水平に剣を構え、左手の甲に刃の平を滑らせる。“牙狼”の系譜の流れを汲む剣士なら、誰もが使う独特の構えである。

 「旦那様!」

 再び集中が途切れた虎徹はこけそうになった。

 「何だよ、マックス・・・。」

 「バーナビー殿がテレビに・・・!」

 途端に虎徹は剣を鞘にしまい、ザルバを引っ掴むとリビングめがけて弾丸のように突っ走っていった。

 何のかんの言いながら、彼もまた、あのルーキーヒーローを心配しているのだ。

 

 

 

 

 画面の中では、記者会見用に真っ赤なスーツに身を包んだバーナビーが自らの身の上話をして、こんな非道を働くジェイクと、彼を擁する犯罪組織ウロボロスと戦うと、強く宣言していた。

 「無理しやがって・・・。」

 虎徹は苦虫をかみつぶしたような顔でテレビの中のルーキーヒーローを見つめた。

 自分の傷口を大衆の前にさらしているも同然なのだ。

 確かに、ダークヒーロー・ルナティックの出現に加え、テロリストに屈してしまった今のシュテルンビルトの人々を一つにまとめるには、情に訴えかけるのが一番だろうが、これではまるで見世物ではないか。

 「どうして誰も何も言ってやらねえんだよ・・・。

  こんな・・・これじゃあ・・・。」

 自分のことのように痛々しげな顔でつぶやく虎徹に、ザルバはひそかに息をついた。

 これだ。他人の痛みを、我がことのように痛ましげにする、虎徹のこういう部分を、いまだにザルバは理解しきれない。

 ピロリロリン♪

 メールの着信音がしたのは、記者会見が終了して間もなくだった。

 虎徹は沈んだ顔ながらも、メールを開いてメッセージに目を通し。

 「折紙・・・!」

 息をのんでメールを凝視した。

 

 

 

 

 件名:発見

 内容:結界ホラーを発見。ジェイク=マルチネスに憑依している模様。

    場所は

 

 

 

 

 ここでメールは途切れていた。

 一体何が起きたというのか?

 虎徹はスマホを握りしめ、イワンの状態を把握しているだろう、ヒーローたちのもとへ向かうべく、身支度を始めた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 時刻は、すっかり日が沈んだ、それでも夕刻と呼べる時間。

 「まさかチャックマンに化けていたとは・・・!」

 鎖で後ろ手に拘束されたイワンが、ぼろぼろの様相で気絶しているのを見下ろし、クリームは苦々しげに顔をゆがめた。

 少し離れたところに退魔の双剣とソウルメタル製の手裏剣がいくつか転がっていることから、彼の抵抗模様がうかがえる。

 その少し離れたところに、鎖の引きちぎれた魔導具シルヴァが転がっていた。

 「でも・・・さすがジェイク様ですわ・・・!

  あっという間に偽物と見破るなんて・・・!」

 うるんだ瞳をジェイクに向けるクリームに、彼は自信たっぷりに笑った。

 ジェイクはもはや、あの髭と垢で汚らしい見た目ではなかった。

 髭はきれいに剃られ、髪も短く整えられ、赤と金で染め上げられている。安っぽい服は脱ぎ捨てられ、毛皮のコートを素肌に直接羽織ったその姿は、どこかのマフィアの頭目を思わせる。

 むき出しになったやせ気味の体躯に、あちこちに刻み込まれた刺青が、ことさらその印象を強調しているようだ。

 「それで、この愚か者はどうします?

  ここはジェイク様に逆らったものがどうなるかという見せしめを兼ねて」

 「いや、放っておこうぜ。」

 ここでジェイクが口をはさんだ。

 「こいつを送り込んだのはヒーローたちだ。

  あいつらに見せつけてやるんだよ。俺たちに逆らったら、どうなるか。」

 ああ、やっぱりこの人はすごい!

 クリームはうっとりとジェイクを見上げた。

 最初自分はあの人さえ開放してくれたら、こんな街、さっさと後にするつもりだったのに、この人は解放宣言を取り消して、この街で好き勝手したいと言ったのだ。

 柱を抑えていれば、この街の連中はホイホイいうことを聞くのだからと。

 ああ、まったくその通り!クリームは有頂天だった。

 だから、小さく低い声でジェイクがつぶやいた言葉に気が付かなかった。

 「来るなら来いよ、“牙狼”。

  叩き潰してやるよ。」

 

 

 

 

 ――まずいわ・・・イワン・・・!

 契約相手と引き離されたシルヴァは、ぬいぐるみの群れに引きずられるように連れ去られる魔戒騎士と、悠々と立ち去っていくジェイクとクリームを見送るしかできない。

 どうしてばれたのか。いくら考えてもシルヴァにはわからない。

 ヒーローたちに連絡を入れた後、虎徹に連絡を入れようとメールを打っていたら、突然ジェイクがやってきて、イワンの正体――ヒーローたちに派遣された、臨時ヒーローと見抜かれてしまったのだ。

 正体が見破られた以上、退却の一手しかない。

 必死に逃げるが、奇妙な光弾らしき攻撃手段を使うジェイクに、まるで逃走経路が読まれているかのように、追い詰められ、やむなく剣を抜いて戦うことになった。

 それにしても、おかしかった。

 こちらの攻撃も一手一手が丸わかりであるかのように次々防がれ、自分は引きちぎられ、イワンは捕まってしまった。

 すでに日も沈んでいたから、鎧だって召喚しようとしたのに、なぜか召喚陣が発動せず、そこにできた大きな隙を突かれてしまったのだ。

 ――どうしてイワンを捕まえるの・・・?

 シルヴァとイワンには、はっきりわかったのだ。

 まだはっきり確認したわけではないが、ジェイクが例の結界を発生させているホラーに違いないのだ。

 イワンがスパイだと見抜かれたのは、まだわかるかもしれないが、でも退魔の双剣〈ソウルメタル製の武器〉を操り、鎧の召喚陣を使った時点で魔戒騎士であることもばれたはず。

 ジェイクなら、盲目的に言うことを聞いているクリームに何とでも言って、イワンを殺すことができたはず。

 なぜそうしないのか?

 まさか。

 最悪の可能性に、シルヴァは思い当たった。

 ――来ちゃだめよ!タイガー!ザルバ!これは罠よ!

 しかし、魔導具に封印された彼女は、パートナーである魔戒騎士がいなければ、死体並みに何もできないのだ。

 彼女にできたのは、信じてもいない神に祈ることしかなかった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「ここか。」

 『ああ。すげえ邪気だぜ、虎徹。』

 路地裏から停められているトランスポーターと中継車を見てから、改めてアジト――ブロンズステージの一角にある寂れた廃工場を見上げて虎徹が小さくつぶやいた。

 既に街は漆黒の暗がりに包まれ、ホラーの活動時間帯となっていた。

 ちなみに、居場所はバーナビーの指にあるザルバの分身をたどってきた。

 ・・・ォォォォ・・・ォォォンン・・・。

 魔戒騎士である虎徹には、まるで亡者の慟哭のような禍々しい邪気が廃工場を取り囲んでいるのがありありとわかった。

 しかし、一応悪の秘密結社が、寂れた廃工場をアジトにするとは・・・。

 「あれだな。ありがちっつーか・・・。」

 『古典的、か?』

 「そう、それ!」

 幼少時に、故郷で放送されていた仮面の等身大ヒーローを思い出す。あれはバイクスタントもかっこよかった。

「これで幼稚園〈キンダーガーデン〉のバスジャックをやってたら完璧なんだけどなぁ・・・。」

 ちなみに、今のご時世でそんな内容のドラマを放送しようものなら、抗議が殺到するだろう。実際に発生してHERO TV沙汰になったら、どこかのプロデューサーは視聴率への期待から高笑いするかもしれないが。

 「さっさとイワンに合流しねえとな。

  ザルバ、シルヴァの位置はわかるか?」

 『・・・ダメだ。

  さっぱりわからねえ。』

 人間だったら苦々しげに首を振ってるだろう魔導輪に、虎徹は眉間にしわを寄せると、魔導火入りの特製ライターを取り出した。

 シュボヒュッ。

 いつもならてらてらした金緑色の炎が灯されるはずだが、それは空中で掻き消えてしまった。

 「・・・魔戒封じの結界か!」

 既にこのあたりは敵のテリトリーということだ。

 舌打ちとともにカチンとライターのふたを閉めて、虎徹は作戦を変更する。

 ――まずはバニーに合流して、あいつに結界札を破壊するように言ってこねえと・・・。

 虎徹はワイヤーを飛ばして、工場の屋根に上ると、先行しているだろうヒーローたちのうち一人を求めて駆け出した。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 バーナビーは一人、工場の奥に向かっていた。

 チャックマンに擬態してアジトに潜入したイワンのPDAからのGPSからの発信が突然途切れてしまったのだ。

 直前までは無事潜入できたという連絡も入れてくれたのに。

 考えたくない事態ではあるが、ばれてしまったに違いない。

 一応彼もヒーローとしての訓練は受けていたし、現役の魔戒騎士であるから、最悪の事態にはなってないとは思うが・・・。

 ――ジェイク=マルチネス・・・!

 その名をつぶやくたびに、臓腑の底から焼けつくような憎悪が噴き出してくる。

 絶対許さない。奴は自分から何もかも奪ったのだ。

 今度は自分が奴から命を奪う番だ。

 釈放請求を通すように会議室に殴り込みをかけた時、バーナビーにその誘惑がなかったとは言えなかった。むしろそのことしか考えてなかったと言っていいだろう。

 しかし、ヒーローの待機ルームに行くなり、他のヒーローたちからホラーがらみでもないことに魔戒騎士であるイワンを巻き込むのは感心できないと注意を食らってしまった。

 バーナビーの軽々しい行動が、魔戒騎士たちの寿命を縮めるかもしれないのだと。

 そこで物陰に隠れたまま移動していたバーナビーは動きを止めた。

 ――じゃあなんで。

 記憶を消して放り出せばいいのに、どうしてあのおじさんは自分を放置して、あまつさえ積極的にかかわってこようというのか。

 ――こんな指輪まで渡してきて。

 今はグローブの下に隠れている銀色の輪を見透かそうというかのように、バーナビーは自分の左手をぼんやりと見つめた。

 「い~い匂いがするな~。

  熟成したワインみたいな、甘くて芳醇な香りだ~。」

 突如聞こえてきた能天気な言葉に、バーナビーの思考は打ち切られた。

 「そこに隠れてるのは見え見えだぜぇ、ヒーロー。」

 いつ現れたのか、廃材らしきコンテナの上にジェイクがにやにやして脚を組んで座っていた。

 刑務所の監視映像から見た姿とはまるで違うが、左足の義足と、素肌に直接羽織った毛皮のコートの隙間から見える身体のあちこちに入ったウロボロスのエンブレムが、確かに彼がジェイクであることを示していた。

 「貴っ様ぁぁぁぁ!」

 キィン。ズダンッ!

 絶叫とともにバーナビーは能力を発動し、飛びかかった。

 「おっと。」

 バヂィンッ!

 しかし、バーナビー得意の蹴りは、余裕綽々のジェイクのすぐ前に出現した赤い壁によって防がれてしまった。

 「なっ?!」

 「とろいんだよ!」

 キュドッ!

 「うわあっ!」

 驚愕の暇こそあれば、次の瞬間ジェイクの目の前から放たれた赤い光弾に吹っ飛ばされたバーナビーは途端の壁を突き破って地面に転がった。

 「あーあ。こんなにうまそうなのに、なんで食ったらダメなんだぁ?」

 ダメージに呻きながら何とか立ち上がろうとするバーナビーをよそに、ジェイクはコキコキ肩を鳴らしながらつまらなそうにつぶやいた。

 「う、うまそう・・・?」

 「ああ。お前からは極上の獲物の匂いがするんだよ・・・。」

 ファイティングポーズをとるバーナビーに、ジェイクはわざとらしくひくひく鼻を動かしながら平然と言い放った。

 「そうか、お前、ホラーの返り血を浴びてるんだな?」

 「え?」

 思わずバーナビーは聞き返した。

 ホラーの返り血を浴びた?そういえば、最初にホラーに襲われた時、虎徹が斬ったホラーの返り血が頬と手についた。すぐに消えてしまったから、気にしてなかったのに。

 どうしてそのことを?

 「なんだなんだ?

  お前、魔戒騎士に助けてもらったのに、何も聞いてないのか?」

 「な、何のことだ?」

 耳を貸してはいけない。こいつは両親の敵だ。こいつは犯罪者だ。こいつの言うことなんて信用ならない。

 そう思うのに、バーナビーはジェイクの話の続きを促してしまった。

 「ホラーの返り血を浴びた者は、ホラーを引き寄せるようになるのさ。

 顔出しヒーローだから襲われるようになるんじゃない。“返り血付き”だから行く先々でホラーに襲われるのさ。」

 その言葉を聞いた途端、バーナビーの頭の中は真っ白になった。

 「騙されたんだよ、お前。

  魔戒騎士にとって、お前はホラーを狩るための格好の餌〈道具〉でしかなかったんだよ。」

 にやにやしながらジェイクがとどめの一言を言い放った時だった。

 「バニィィィィィ!」

 ズバガァァァァァンッ!

 天上のトタン屋根を突き破り、虎徹が降ってきた。

 その背にバーナビーをかばうように立つと、退魔の剣を抜き放ち、そのままジェイクめがけて切りかかる。

 「おっと!」

 バヂィン!

 「くっ!」

 虎徹の剣はやはりバリアに弾かれる。

 そのまま何度か切りかかるが、ことごとく攻撃はバリアに防がれてしまう。

 舌打ちして虎徹は手にした退魔の剣の剣先を頭上に向けてヒョウッと円を描く。しかし、いつもなら金色に輝くその軌跡は、ふっと掻き消えてしまった。

 「クソッ!」

 虎徹は悪態をついた。やはりこの工場とその敷地一帯に魔戒封じの結界が張られているらしい。鎧の召喚陣がかき消されてしまった。

 距離をとって剣を構えながら、虎徹は背後のバーナビーに向かって叫んだ。

 「こいつはホラーだ!悪いが今すぐ」

 「騙したんですか。」

 虎徹の言葉をさえぎって、バーナビーが呻くように言った。

 「へ?」

 何のことかわからず、虎徹は呆けた顔で振り向いた。

 ヒュバッ!ザシュッ!

 「くあっ?!」

 『虎徹?!』

 「ひゃはははは!引っかかりやがった!」

 魔戒騎士の苦悶の声と、魔導輪の悲鳴に、犯罪者の姿をしたホラーが甲高い哄笑を響かせる。

 虎徹の左肩には、一本の短剣が深々と突き刺さっていた。

 『破邪の剣・・・?!

  虎徹!』

 「これでてめえもしまいだよ、黄金騎士“牙狼”!

  ひゃぁっはっはっはっはっは!」

 ザルバの焦った声をよそに、ジェイクは踵を返して工場の奥へ去って行った。

 残されたのは、膝をついてうずくまった虎徹と、彼を見下ろすバーナビーだけだ。

 ザビュッ。ガンガラガランッ。

 「うぐ・・・!」

 「僕はホラーの返り血を浴びたから、ホラーを引き寄せてるんですね。」

 何とか短剣を引き抜き、投げ捨てた虎徹が、無事な右手で止血を試みる中、バーナビーは冷然と言い放った。

 「餌にしてたんですね、僕のこと・・・。」

 「ち、違う・・・!」

 「どう違うっていうんですか!

  ずっと黙ってたじゃないですか!!」

 苦痛に耐える表情で何とか言葉を紡ごうとする虎徹に、バーナビーは容赦なく叫んだ。

 「信じてみようと思ったのに・・・!」

 カシャンとフェイスガードを上げて叫んだバーナビーの表情は、もう信じられないと物語っていた。

 「これ!外してください!

  僕は餌じゃない!あんたの道具じゃない!」

 左手のグローブを投げ出すように外し、バーナビーはうずくまった虎徹に突き付けるように叫んだ。

 『おい、兎坊や!今それどころじゃ』

 「・・・わかった・・・。」

 『虎徹?!』

 ザルバは焦ったような声を出すが、契約相手の言葉には逆らえない。

 虎徹が何とか左手を持ち上げ、バーナビーの左手に魔導輪を翳した。

 キラリ。

 途端にバーナビーの左中指に吸い付くようにつけられていた指輪は銀色の雫になると、吸い込まれるようにザルバの口に消えた。

 「勝手に化物退治でもやっててください。もう、たくさんだ。」

 それを確認するや、バーナビーは苦々しげに言い放つとグローブを拾い上げ、工場の奥へ消えてしまった。

 「っ・・・。」

 大きく息をついてから、虎徹はその場に倒れ伏した。

 じわじわと血だまりだけが広がっていく。

 『虎徹!おい!目を覚ませ!ここで気絶しちまったら、本当に死んじまうぞ!』

 ザルバが焦った声を出すが、虎徹にはもう答える気力すらない。

 うっすらと開けているその目に飛び込んできたのは、先ほど引き抜き捨てた短剣――破邪の剣が飛び込んできた。

 

 

 

 

 破邪の剣。それは過去に何人もの魔戒騎士の命を奪ってきた伝説の邪剣だ。

 普通の人間なら傷を受けるだけで、ものの数分で死に至る。

 

 

 

 

 当たり所が悪かったとしか言いようがない。邪剣が貫いたのは、心臓に近い太い血管だったのだ。

 『あなたはヒーローでいて。

  誰も知らなくったって、あなたは確かにヒーローなのよ、私の魔戒騎士。』

 ――ごめん、友恵。

 約束、守れそうにない。

 亡き妻のいまわの言葉とともに、魔戒騎士は意識を閉ざした。

 ザリ。

 虎徹が意識を失った直後だった。

 誰かが砂を踏みしめる音とともに、瀕死の魔戒騎士の前に立った。

 

 

 

 

 

 #9END

 GO TO NEXT!




 よお!分身を返却された方、ザルバだ。
 やれやれ危機一髪だったな。
 しかし、命は助かっても、虎徹もイワン坊やも重傷だ。
 おまけに結界ホラーのジェイクは野放図状態だ。
 何?ヒーローたちによる一騎打ち戦、シックスマッチをやるって?
 普通の人間がホラーに勝てるわけないだろ?!
 兎坊やも意地張ってるんじゃねえよ!
 次回、“協諧”。
 お前、セシリーか?早く虎徹を助けてくれよ!
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