牙狼バニ〈GAROBANI〉   作:亜希羅

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 とうとうナンバリングが二桁に突入しちゃいました。というわけで、第十話を投下します。
 書きたいことをぎっちり詰め込んだら、久々に盛大に字数オーバーしたので、前後篇に分けます。
 おじさんは救助済みで、ジェイクは怪しい影と個人懇談。何だこれ?
 ウジウジでスネまくってる兎を書いてたら、青薔薇さんがキレました。いい子だなぁ。それとも私が彼女に夢を見すぎてるのでしょうか?
 ヒーローたちのバトルはさらっと流します。書きたいのは兎とおじさんなんだから!
 中盤は病院でごそごそ謎解き&情報収集。。おじさんがジェイクと最後までガチンコしてなかったら、牛さんが根性を見せてくれました。いい男だなぁ。それとも以下略。
 そして、舞台がスタジアムにとんだところで兎とおじさんがやっと和解。そうして始まる共同ホラー退治です。ついでにやっと登場する魔導馬・轟天。
 バニーをカオルと同じ境遇にしようと決めた時、絶対やらせようと思ってた展開なんですよ、これ。代わりにイワン君の影が薄くなってしまいました。



 【注意】オリジナルキャラクター、セシリーが出張ってます。苦手な人はご注意を。



 それから、前篇でも注意したとおり、ジェイクがホラーになってますので、それらをご了承のうえ、閲覧してください。


#10 協諧

 愚者の魂、俗世を脱し、

 千尋の谷を越えんと欲す。

 越境の果てに業火に焼かれ、

 儚き灰燼となり果てん。

 

 

 

 

 ――魔戒詩編第九十三節より

 

 

 

 

  #10. 協諧~虎と兎とヒーローたちと~

 

 

 

 

 「しかし、わざわざあんなことしなくたってよかったんじゃないか?

  “牙狼”だろうが、所詮は人間だ。

  俺たちにはかなわねえよ。」

 ヒーローたちの襲撃を受け、引き払ったものとは別の薄暗い廃工場の片隅で、ジェイクは男と向き合っていた。

 自分を生まれ変わらせ、新たな力をくれた男と。

 この男が何者かはわからないが、少なくとも敵ではない。なら、言うことを聞いておいた方がいいだろう。少なくとも、今のうちは。

 ちなみに、クリームがいないが、あの女にはうまいこと言い聞かせ、用済みの臨時ヒーローを送らせているところだ。あいつにはまだ利用価値がある、うまそうではあるが、食ってしまってはもったいない。

 「驕るな。人間だろうと、“牙狼”の実力は貴様の想像以上だ。」

 黒いフードを深々とかぶった男が言った。

 「ふん・・・そんなもんかね?

 “返り血付き”を放置するような、あんな大甘ちゃんが最強の魔戒騎士?何かの間違いだろう?」

 「慈悲の心は“牙狼”の系譜の者にとって、最大の弱点だ。

  今も、昔も、そしてこれからもな。」

「“これからも”って・・・おいおい、あの魔戒騎士なら、あんたの邪剣を食らって死んだんだぜ?」

 「“牙狼”を甘く見るな!」

 黒フードの男が怒声をとどろかせた。

 「“冴島”の血を甘く見るな!

  ホラーの始祖たるメシアすら屠った最強の魔戒騎士の系譜、そして奴はその現当主だ。

  天命が奴を生かしても不思議ではない。」

 「はいはい・・・。」

 臆病者が。

 ジェイクは肩をすくめながら内心吐き捨てた。

 今の自分に怖いものなど何一つない。隙さえ見せたら、この男だって食ってやるのに。実に惜しいことだ。

 「あとは俺の好きにしていいんだよな?」

 「そうだ。わかっているとは思うが」

 「“ヒーローは殺すな”“バーナビー=ブルックスJrは殺すな”だろ?」

 男の言葉をさえぎってジェイクは続けた。

 それさえ守れば、自由にしていいのだ。

 「万一あの男が生きてお前の前に現れれば」

 「その時は、俺が全力で殺してやるよ。

  この、力でな。」

 両の目を臙脂に輝かせ、ジェイクは自信たっぷりに笑った。

 ジェイクにはすぐに分かった。

 警察の特殊部隊だろうか?足音も気配も殺して、自分たちを観察している存在がいる。

 「ところで、腹が減ったから、そろそろ“食事”にしていいか?」

 「好きにするがいい。」

 毛皮のコートの裾を翻し、監視者たちに向き直ったジェイクに、黒ずくめの男は吐き捨てるように言った。

 「んじゃ!」

 ビャビャビャビャッ!

 「ぐああああ?!」

 「うぎゃああああ?!」

 「ひいいいいっ?!」

 気合一つ。ジェイクが放った赤い光弾が次々とコンテナや鉄骨を薙ぎ払い、その陰に隠れていた制服姿の男たち――警察の特殊部隊の隊員たちの姿を引きずり出した。

 「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・たった六人ぽっきりかよ。」

 「く、クソッ!」

 やれやれと大仰な仕草で天を仰ぐジェイクに舐められたとでも思ったのか、黒いヘルメット姿の隊員の一人がマシンガンを構えた。

 バタタタタタッ!

 カキキキキキンッ!

 「は、弾かれた?!」

 「バリアだと!NEXT能力」

 ジェイクのすぐ前に出現した赤く光る壁に、マシンガンの弾丸はことごとく弾かれる。

 驚愕する暇もなく、次の瞬間、彼らは何も言えなくなった。

 ギュワッ。ギヂンッ!

 「「「「「「ぐああああああ?!」」」」」

 赤い球状の光の壁が六人の隊員たちを包み込み、身動きができない大きさに一瞬で縮まった。

 「ちょっとでかいな・・・ん!」

 ギヂギヂギヂギヂ・・・ブヂンッ。

 ジェイクが右手を握る仕草をした。途端に赤い球状の壁も縮んでいき、とうとう中の人間たちごと一口ほどの大きさに圧縮されてしまった。

 べろりっと舌を出して大きく口を開けたジェイクの口腔に、圧縮されたバリア球は吸い込まれるように消えてしまった。

 「足りねえな・・・。」

 舌をなめてから、ジェイクは物足りなさげにつぶやいた。

 「しゃあねえ。あのチャックマンとかいうやつをデザートにするか。」

 と言ったところで、ジェイクはいつの間にか黒ずくめの姿が煙のように消失していることに気が付いた。

 「どこ行きやがった?あの野郎・・・。」

 まあいいか。すぐにジェイクは毛皮のコートの裾を翻して歩き出した。

 夜明けまではまだまだ時間はあるが、楽しい一日になりそうだ。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ガタリッ。ガチャカタ。

 彼女は廃屋の中で動き回っていた。

 壁や戸口にはありったけの界符――魔戒法師の使う呪符を張り付け、結界を施し、邪気やホラーの侵入を防いでいるから、この場所は安全と言っていい。

 今のところはと付くが。

 シャラン。

 柄の先につけた守りの鈴を鳴らして書道に使うような和風の筆――魔戒筆を持ち上げた。

 魔戒筆は、魔戒法師の一番の武器だ。本来は魔導力を込めることで空中に魔導文字を描いて法術を発動させる媒体にするが、今回は少々使い方が異なる。

 筆先に濃い緑色の液体“リヴァートラの刻”をつけてから、特殊なランプに灯していた金緑色の炎――魔導火をそこに、重ねてつける。

 ジィワァ・・・。

 金緑色に燃え上がる筆先を、そのまま毛布の上で死んだように横たわる男の左肩に押し付けた。

 すうっと音もなく、黒い腐食したような傷口を見せていたそこから、あっという間に傷が消えうせ、ピンク色の新しい肉が盛り上がる。しかし、すぐに盛り上がったばかりの肉はジュゥッと音を立てて黒く腐食されてしまう。

 ちっと彼女は舌打ちしながらも、同じ手順を繰り返し、何度も炎を灯した筆先を傷口に押し付けた。

 「う・・・。」

 瀕死の男が額に油汗を浮かべ、うなされるように呻いた。

 「しっかりしナ。トモエからも頼まれてんダ。

  あんたはこんなところで死ぬようなタマじゃないだロ?」

 聞こえてないとはわかっていたが、彼女は口にしながら何度も筆を走らせる。

 「トモエ、あんただって、こいつにまだ来てほしくないだロ?」

 すがるように、彼女はちらりと男の左薬指にはめた指輪を見た。

 かすかに差し込む朝日に、指輪は隣の指に並ぶ魔導輪ともどもくすんだように鈍く光った。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「どうして黙ってたの?」

 涙でぬれた目が虎徹を見据える。

 そんな顔だけはさせたくなかった。虎徹は黙り込むしかなかった。

 「何とか言ってよ、虎徹君!」

 言えるわけがない。ホラーの返り血を浴びた人間は、ホラーを引き寄せるようになり、挙句の果てには百日後に地獄のような苦しみとともに死に至ると、どうして言えよう。

 虎徹は黙って目の前の最愛の女性――友恵を見つめるしかできない。

 友恵は泣き出しそうな顔で言い放った。

 「守ってくれるって言ったじゃない!

  嘘つき!」

 

 

 

 

 「っ。」

 虎徹は目を開けた。

 古びた知らない天井から、どこかの廃屋だろうか?

 窓から差し込む光が、既に夜が明けて朝が着ていることを示している。

 肌の感触から、上半身の服は脱がされ、適当な毛布に包まれているらしい。

 ――生きてる・・・。

 安心と同時に、ひどい倦怠感に襲われた。

 目眩と吐き気がするし、破邪の剣で刺された左肩は焼け付くように痛む。

 正直、動きたくない。

 夢見も悪かったせいで気分も最悪だった。

 あれは魔戒騎士になってしばらく経った後・・・初恋の女性、友恵と再会したはいいが、“返り血付き”になってしまった彼女を陰からこっそり守っていたころの夢だ。

 彼女に“返り血付き”がどうなるかということがばれて、派手な喧嘩別れをした時のことだった。

 『餌にしてたんですね、僕のこと・・・。』

 『どう違うっていうんですか!

  ずっと黙ってたじゃないですか!!』

 『信じてみようと思ったのに・・・!』

 『僕は餌じゃない!あんたの道具じゃない!』

 バーナビーの悲痛な叫びがいまだに耳から離れない。

 「やっと気が付いタ。」

 「?」

 コツコツとブーツのかかとを踏み鳴らして、彼女は虎徹に歩み寄ってきた。

 首だけ動かして、虎徹は廃屋の奥にいた人物に向き直った。

 「ハァイ。虎〈ティーゲル〉、今回も死神に嫌われて、何よりネ。」

 「セス・・・。」

 「あたしはセシリーだヨ。セスは男名だからネ。」

 何度言っても直そうとしない虎徹からの呼び名を不満そうに訂正しながら、彼女――セシリーは言った。

 セシリアル=クルシェフスキー。愛称セシリーは、長い銀髪を背中で一つまとめの三つ編みにした、三十代前半ほどの女性だった。

 右目の下に泣きぼくろがあるが、白いかんばせは整っており、冬の湖を思わせる青い瞳を知性にキラキラ輝かせている。

 170センチほどの長身で、身なりを整えて街中を歩かせれば、モデルと見まごうほど美しい肢体の持ち主だが、今の彼女は魔戒騎士スタイルの虎徹に負けず劣らず奇妙な格好をしていた。

 黒い袖の大きな服は狩衣――神社の神主が着ている服によく似ており、足元はすらっとした皮のズボンに膝丈程のブーツを履いていた。それだけでも奇妙なのに、彼女は狩衣のような上着に何重ものベルトをつけ、そこからジャラジャラと奇妙な筆――魔戒筆や大小さまざまなポーチ、ビーズ状のアクセサリをいくつも提げていた。

 特筆すべきは腰の後ろに提げられた、小ぶりなアタッシュケースだろう。表面に鋼で奇妙な文様が刻まれている。

 「なんでここに・・・?」

「あら、ごあいさつネ。あんた、あのままだったら今頃、あの世でトモエに引っ叩かれてたわヨ?」

 『セシリーが助けてくれたんだぜ?虎徹。』

 『ついでに私もね。』

 口をはさんだのは、左中指のザルバと、傍の作業机の上に置かれたシルヴァである。

 シルヴァは鎖を直されたらしく、元通りのペンダント状になっていた。そのそばに、イワンの持ち物らしい、退魔の双剣とソウルメタル製の手裏剣がまとめられていた。

 ソウルメタル製の武器は、魔戒騎士にしか扱うことができないが、持ち運ぶ程度なら、少し細工は必要ながらも魔戒法師にも十分可能だ。

 「そうか・・・サンキューな。」

 「魔戒騎士の支援は、魔戒法師の義務だヨ。

  礼を言われるほどのことじゃないネ。」

 弱りきった様子のまま、それでもヘラリと笑った虎徹に、セシリーは肩をすくめた。

 セシリアル=クルシェフスキーは、虎徹同様、闇に蠢く魔物ホラーを打倒すべく日々戦っている、シュテルンビルト在住の魔戒法師の一人である。

 「それにしても、破邪の剣ネ。

  どこのだれが持ってきたんだカ。」

 ちらりとセシリーはシルヴァが置かれているのとは別の作業机の上に放置されている破邪の剣を見た。

 ちなみに、破邪の剣を扱うことができるのも魔戒騎士のみであるが、素手で触らずに、持ち運ぶ程度なら魔戒法師にも可能である。ゆえに放置は危険と判断して、虎徹を運ぶついでに持ってきたのだ。

 「魔戒騎士にしか扱えないはずの剣を、あんたに刺すなんて、よほどの使い手ネ。」

 『隙があったとはいえ、な。』

 ザルバの言葉に、虎徹は首を天井に向けて黙り込んだ。

 剣の飛んできた方向などから考えても、あの時、おそらく物陰に他に誰かいたに違いない。バーナビーとジェイク〈ホラー〉に気を取られ、周辺の気配の察知を怠った虎徹のミスだ。

 そういえば。

 「バニー・・・うぐっ。」

 「まだ起きるんじゃないヨ!

  全身に回った呪いは解呪はできても、まだ弱り切ってるんだかラ!」

 起き上がろうとして呻いた虎徹を、あわててセシリーは毛布の中に寝かしつけた。

 「セス・・・ヒーローたちは・・・どうなったんだ?

  それに・・・イワンは・・・?」

 「・・・。」

 顔を向けて問いかけてきた虎徹に、セシリーは黙っていたが、ややあって、深く息をつくと、近くに置いていた大きなスーツケースから一台のノートパソコンを引っ張り出してきた。

 カチャカチャといじってスリープ状態を解除すると、虎徹に見えるように、画面を向けた。

 そこには、どこかのスタジアムからのライブ映像が流れていた。

 『ああっとぉぉ!ジェイク様の攻撃ぃぃぃ!

  クリーンヒットぉぉぉぉ!空の王者、地に沈んだぁぁぁぁ!』

 甲高い女の実況と共に映し出された光景は、スタジアムの泥に、キングオブヒーロー、スカイハイが倒れこんだ姿だった。

 その背後に、勝ち誇ったように高笑いを上げるジェイクの姿が見える。

 「なっ・・・うぐっ!」

 絶句して身を起こした虎徹は、苦痛に呻いた。

 「落ち着きナ。

  最初っから説明するヨ。」

 これは寝かしつけても、また起きると判断したセシリーは、少しでも苦痛を和らげるために薬湯を煎じながら自身がネットで調べ上げ、そして同じ魔戒法師の斉藤からも仕入れたシュテルンビルトの現状を語り始めた。

 

 

 

 

 結局、ヒーローたちは瀕死のイワンの救助にも失敗し、ジェイクたちにも逃げられてしまった。

 ジェイクたちがシュテルンビルト議会に次に要求したのは、ハンス=チャックマンの解放だった。虎徹をおびき寄せるための餌だったらしいイワンはもう用済みらしく、彼と交換という形になり、瀕死の彼はぬいぐるみの運転する車からジャスティスタワーの前に叩き落され、代わりにチャックマンを乗せて車は去った。

 しかし、ジェイクの傍若無人ぶりはこれにとどまらなかった。

 役立たずのチャックマンは殺したと公共の電波で宣言した挙句、言い放ったのだ。

 『お前らが信じるヒーローがいかに弱っちいか、この俺が証明してやる。』

 そうして持ちかけられたのが、題してシックスマッチ。

 シュテルンビルトを守護する六人のヒーローたちと、ジェイクが順に一騎打ちを行い、一人でもジェイクに勝つことができれば、ウロボロスはシュテルンビルトから手を引く。挑戦を断れば、街を支える柱を壊すという、なんとも一方的な要求だった。

 それでも、一縷の希望をかけて、ヒーローたちはシックスマッチに臨むことにした。

 最初の挑戦者、スカイハイはジェイクの能力を攻防一体型のバリア能力だと見破ることには成功したが、やられてしまったのだ。

 

 

 

 

 「イワンはゴールドステージのセントラル病院のICUに入院中だそうヨ。

  いまだに意識が戻らないんですっテ。」

 「・・・。」

 コポコポとお湯を注いでから、マグカップに入れた薬湯を虎徹に差し出しながらセシリーは言った。

 「飲みナ。今のあんたに必要なのは、薬と休養だヨ。少しは体力が回復するヨ。」

 虎徹は嫌そうにしながらも、湯気を立てるマグカップを受け取って口をつけるが、すぐに「ヴ」と口を離す。

 「苦マズっ。」

 マグカップの中になみなみと注がれたヒスイ色の薬湯は、青汁みたいな突き抜けたまずさはないが、その中途半端さが逆によりまずく感じられた。

 「“良薬口に苦し”だヨ。」

 顔をそむけて嫌そうにする、子供のような虎徹に、セシリーは意地悪そうににやっと笑う。

 それでも、身体に必要なことはわかるのだろう、虎徹は嫌そうに眉をしかめながらもちびりちびりと薬湯を飲んでいく。

 「それよリ。」

 ここで彼女は冬の湖のような双眸を冷たく凍てつかせ、虎徹を見据えた。

 「あんた、“返り血付き”を放置してたって本当なノ?」

 「だっ!」

 パシャン。

 「あぢ!あぢぢ!」

 「バカ!何やってるのヨ!」

 毛布に薬湯をこぼしてしまった虎徹に、セシリーはあわてて毛布を引っぺがしてどけた。

 そうして何とか血糊を取り去り修復した白いコートを新しく掛布団代わりによこした。

 「その反応、図星ネ。」

 ジト目で見られ、虎徹は黙り込むしかできない。

「まさかまたトモエの時みたいに、“返り血付き”のこと本人に隠してたなんてことないでしょうネ?」

ギクギクッ!

顔をひきつらせた虎徹に、セシリーは深々とため息をついた。

「あんた・・・バカ?それとも、学習能力ないノ?

 トモエの時それで失敗したのに、懲りずにまた隠してたノ?

 バカでショ?いいえ、バカに違いないワ!」

「バカバカ連呼すんなよ・・・。」

悄然と言った虎徹に、ザルバが口をはさんだ。

 『そう追い打ち掛けてやんなよ、セシリー。

  ついさっきそれがばれて大目玉食らったばかりなんだよ、虎徹は。』

 「ああ、それで隙ができたわけネ。」

 やれやれと肩をすくめて、空になったマグカップを片づけるセシリーをよそに、薬湯のおかげで少し回復した虎徹は立ち上がると、傍に丁寧に畳まれていたレザー服を手に取った。

 どうやら彼女はこちらも修復してくれたらしい。

 「ちょっト!まだ動いていいとは」

 「いろいろありがとうな、セス。

  助かったぜ。」

 文句を言いかける女魔戒法師をさえぎり、虎徹は服を着込んでコートを纏ってハンチング帽をかぶると、傍に立てかけられていた退魔の剣を持つ。

 「セスじゃなくてセシリー!」

 「イワンの装備も持ってくぜ。“リヴァートラの刻”を届けに行くついでだ。」

 「ああ、もう!無茶苦茶するんじゃないヨ!」

 文句を続けようとするセシリーをよそに、虎徹はシルヴァをはじめとした“絶狼”の装備一式をコートにしまい、その白い裾を翻して廃屋を出て行ってしまった。

 「・・・ばか。」

 取り残されたセシリーはぽつりとつぶやいた。

 青い目には、心配の色がありありと浮かべられていた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 体中を包帯に覆われ、ベッドに横たわったまま、ピクリとも動かないイワンを、シックスマッチでスタジアムにいるスカイハイ以外のヒーローたちは沈痛な面持ちで見ていた。

 この件をイワンに依頼したヘリペリデスファイナンスのCEOとヒーローアカデミーの校長は、イワンの重傷を聞くなり、一気に青ざめた。

 二人とも、イワンならきっと無事に戻ってくると信じていたのだ。

 「そんな・・・何で折紙さんが・・・。」

 おろおろとドラゴンキッドが言った。

 自分ではどうしようもなかった、あの夜闇を蠢く怪物たちを軽々と蹴散らした少年が、今度は病院のベッドに横たわっているなんて、とても信じられない。

 「まさか・・・ジェイクの奴は、ホラーじゃないのか?」

 硬い表情でぽつりとつぶやいたのは、ロックバイソンだった。

 「うそでしょ?!」

 「いいえ、そうみたいですよ。」

 金切声をあげたブルーローズに、バーナビーが答えた。

 気のせいだろうか、声音にやけっぱちな響きが混じっている。

 眼鏡を抑えるふりで表情をごまかしながら、バーナビーは続けた。

 「あの人にアジトで会いました。

  ついでに」

 ここでバーナビーは苦々しげに続けた。

 「僕を騙してくれていたことも、はっきりとわかりましたが。」

 「騙す・・・?」

 問い返したブルーローズと、不思議そうなドラゴンキッドをよそに、言葉の意味に思い当たったらしいロックバイソンとファイアーエンブレムが顔をこわばらせた。

 「僕はホラーの返り血を浴びたんですよ。だからあの怪物を引き寄せてる。

  守るだなんてとんでもない。餌にしてたんですよ、僕のことを。」

 苛立たしげにバーナビーが吐き出した。

 しばし、沈黙が病室内を支配する。ややあって。

 「・・・あんた、バカじゃないの?」

 ブルブルと拳を震わせて、静かにブルーローズが言った。

 「は?」

 「あんた、バカじゃないのって言ってるのよ!」

 怪訝そうに訊き返したバーナビーに、ブルーローズは怒りにまなじりを吊り上げて叫んだ。

 いっそそのお綺麗な横っ面をひっぱたいてやろうかと思ったが、必死に我慢した。そんなことしたって何にもならない・・・いや、バーナビーにそんな価値さえないと彼女は思ったからだ。

「私たちはねえ!あいつに信頼されているのよ!秘密を守ってくれるって信じてもらってるの!ばれたら自分の命が危ないかもしれないのに!

 そんなやつが、化物退治に他人を餌にするわけないじゃない!

 あんた、あいつに何度助けられたのよ?!あいつの何を見てきたのよ?!

 一回しか助けられたことのない私にだってわかるのに、どうしてあんたにはわからないのよ!!」

 ブルーローズは病室中に響き渡るように叫んだ。

 興奮のあまり、メイクが落ちるというのに、ぼろぼろと青いカラーコンタクトの入った瞳から、涙をこぼしながら、彼女は叫んだ。

 「勝手に悲劇ぶってりゃいいわよ!敵討ちでも何でも好きにしたら?!

  もう知らない!!」

 叫んで彼女は病室から飛び出した。

 カッカッカッというヒールによる駆け足が遠ざかっていく中、イワンにつけられたバイタルサインの音以外、誰もが沈黙していた。

 「ハンサム。」

 ロックバイソンが口を開いた。

 「俺はお前と同じ境遇にあったやつを知っている。

  虎徹は、そいつを見捨てなかった。

  お前も・・・見捨てるつもりはない、絶対助けると言ってたぞ。」

 ここで彼の手首につけられているPDAが鳴った。

 ジェイクに破れたスカイハイがポセイドンラインのビルに、正義の殉教者のごとく磔にされてしまい、続いて回された挑戦者ルーレットがロックバイソンを指名したからだ。

 「うっし!次は俺か・・・スカイハイの仇討だ!

  ホラーだろうと、昼間なら何とかなるかもしれないし、な。」

 気合を入れて(最後の言葉は半ば自分に言い聞かせるように)、ロックバイソンは病室から出ていく。

 「・・・ハンサム。」

 次に口を開いたのはファイアーエンブレムだった。

 「そのことをだれから聞いたの?」

 「・・・。」

 バーナビーは黙って答えなかった。

 「ジェイクに憑依したホラーから聞いたの?

  ・・・だとしたら、これだけは言っておくわ。」

 ここで彼女は言葉を切り、バーナビーの顔を覗き込むようにしながら続けた。

「あんたは、自分の命を何度も助けてくれた人間より、両親の敵の言うことを信用するの?

  まずは自分の目で見たことだけで考えなさい。」

 そうして彼女はドラゴンキッドの肩を抱いて病室を去ろうとした。

 「バーナビーさん!」

 病室の扉の前で、ドラゴンキッドが振り向いて声をかけてきた。

 「ボクは、その、あの人のことはそんなに詳しく知らないけど、タイガーは優しい人だよ。

  バーナビーさんだって、知ってるでしょ?

  そんな悲しいこと、言わないでよ・・・。」

 しょんぼりしながら言うと、今度こそドラゴンキッドとファイアーエンブレムは病室を出ていき、うつむいたバーナビーだけが取り残された。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「っ・・・!」

 『おい虎徹、まだ休んでた方がいいんじゃないか?』

 『そうよ、タイガー。無理しないで。』

 ブロンズステージの片隅の路地裏で、虎徹は壁に背をもたせ掛け、息を切らしていた。

 中指のザルバと、コートのベルトに引っ掛けたシルヴァが心配そうに言うが、虎徹は首を振った。

 動いている方が考え事をしなくて済む。

 何よりじっとしているということ自体、性に合わない。

 「大丈夫。ちょっと息切れしただけだ。

  もうちょい待ってろよ、シルヴァ。すぐに折紙んとこ連れてってやるから。

  ああ、でも、その前に屋敷に“リヴァートラの刻”を取りに行かねえとな。」

 ヘラリと笑って魔導具たちに言うと、虎徹はすっと背筋を伸ばして、路地裏から出ると歩き出した。

 いつもは人ごみでにぎわう街並みも、今日は閑散としていた。

 誰もが、いつウロボロスの手によって柱が壊され、家ごとアップタウンの下敷きになって叩き潰されるか、戦々恐々としているのだろう。

 あるいは、今一縷の希望にかけて必死に戦っているヒーローたちをテレビの前で懸命に応援しているのだろうか?

 後者であってほしいと虎徹は思う。

 重い体を引きずるように、虎徹は歩みを進めた。

 パッパー。

 「虎徹!」

 「ベンさん・・・!」

 クラクションを鳴らしながら、虎徹の隣を一台のタクシーが並んだ。

 窓から顔をのぞかせた運転手に、虎徹はほっとした表情をした。

 「さっさと乗れ。

  行先は屋敷でいいか?」

 「助かります。」

 ドアを開けて言ったベンに、虎徹は礼を言ってタクシーに乗り込んだ。

 「さっきセシリーから連絡を受けてな。

  お前ひどい顔だぞ。」

 「ドジっちまいまして。」

 バックミラー越しに言ったベンに、虎徹はごまかすかのようにヘラリと笑うが、その顔色は真っ青である。

 「家につくまででいい。

  寝とけ。目を閉じるだけでも違うはずだ。」

 「大丈夫ですって。」

 環状線に車を走らせたベン(車道の方も、ゴーストタウンであるかのように車どおりが少なく、ガラガラだった。)に、虎徹は笑いながら首を振った。

 今寝たらまた、あの記憶――友恵に嘘つき呼ばわりされる苦い記憶がリピート再生される可能性がある。正直、それは耐えられそうになかった。

 「ねえ、ベンさん。

  俺たち以外に、シュテルンビルトに魔戒騎士っているんすか?」

 「例の破邪の剣を投げてきた奴だな?」

 問い返したベンに、虎徹はうなずいた。

 またおかしな乱入をされてはたまったものではない。

 少しでも情報を集めておくに越したことはない。そのためには、虎徹の先輩である、ベンのコネクションは頼りになる。

 「・・・残念ながら思い当たらんな。」

 しばし考えてからベンは答えた。

「そもそもこのシュテルンビルトは、移民が集って街を築き上げた際、日本から入ってきた“牙狼”と“絶狼”が、代々その守護を担うようになっている。

 この土地は、風水と人口密集の関係、そして昨今では出現し始めたNEXTの影響で、たぐいまれなまでにホラーが頻繁に出没するからだ。」

 一般には知られてない、シュテルンビルトにおける歴史の裏を語りながら、ベンはハンドルを切った。

「したがって、この街にその二つの称号を持つ者、またはその流れを汲む者以外の魔戒騎士がいることはありえない。

  いるとしたら、はぐれ者の無銘の魔戒騎士くらいだろうな。

  しかし、ただの無銘者が破邪の剣を扱えるわけがないな・・・。」

 ぶつぶつというベンに、虎徹は黙したまま考えた。

 あの時。あの剣を投げられた時、ジェイク〈ホラー〉とバーナビーに気を取られていたし、ザルバも鼻をつぶされていたとはいえ、直前まで何の気配も感じなかった。

 思い返しても、よく心臓に直撃しなかったものだ。運がよかったと言っていいのか。はたまた。

 ――助けてくれたのか?

 魔導輪の隣の指を彩る銀色のリングを、虎徹は黙って見つめた。

 「しかし、このままあのホラーを放置するわけにもいかん。

  かといって、街の外に応援を呼ぶこともできない。八方ふさがりだな。」

 唸るように言ったベンに、虎徹は苦笑した。

「大丈夫っすよ。打たれ強さとあきらめの悪さには定評があるんで、そんなに心配しなくても、すぐ片付けますよ。」

 「しかしなぁ・・・。

  まあ、とにかく無理だけはするな。危ないと思ったらすぐ撤退しろ。」

 腕さえよかったら、すぐに退魔の剣を持って加勢するところなのだが。

 いや、それも無理か。鍛錬を怠って、もうかなり経つし、自分が魔戒騎士だったころに使っていた道具一式は契約していた魔導具ともども別の若手に譲ってしまった。

 ベンは今一つ本調子ではない後輩に頼るしかない、自分を不甲斐なく思った。

 車は間もなく、ハイウェイを抜け、ゴールドステージに差し掛かろうとしていた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「ほらほら、あんまり泣くと化粧崩れするわ。

  そろそろ落ち着いて。」

 「ブルーローズ、大丈夫?」

 「ネイサン・・・パオリン・・・。」

 ヒーローズ女子組は重要人物保護フロア内にある、自販機のコーナーの前にいた。

 グズグズと泣き止まないブルーローズを、ファイアーエンブレムは穏やかになだめた。

 「何よ、あいつ・・・!

 いつもいつもトレーニングルームで“おじさんがどうした”とか、“おじさんがああした”とか言ってまんざらでもなさそうだったのに、急にあんなこと言って、なんなのよ・・・!」

 アントニオやキース相手にバーナビーが時折愚痴っている姿を、カリーナは見ていた。

 自分は滅多に会えないのに。あんなにしょっちゅう構ってもらいながら、あんなこと言って。

 「メイク直してくる。」

 「ダメよ、その前に冷やさないと。」

 立ち上がろうとしたブルーローズを引き留めて、ファイアーエンブレムは言った。

 そうして彼女はあらかじめ用意しておいた濡れタオルを渡して続けた。

 「そんな泣き顔見たら、きっとタイガーもびっくりするわよ?

  誰がブルーローズみたいないい子を泣かしやがったんだぁぁって。」

 「ええ?!あ、あいつは関係ないわよ!」

 目に当てようとした濡れタオルを膝の上に落として、ブルーローズはぎくしゃくと叫んだ。

 「わ、私ちょっとお手洗いに行ってくる!」

 「? どうしたのかな?」

 立ち上がってワタワタとお手洗いに向かうブルーローズの背を眺めながらドラゴンキッドが不思議そうに首をかしげた。

 「・・・面倒臭くなってきたわね、あの子。」

 ぽつりとファイアーエンブレムはつぶやいたが、その眼差しは温かだった。

 「?」

 やはりドラゴンキッドは不思議そうにするしかない。

 「それより、何か飲みましょうか?休憩するのも必要よ。」

 「うん。そうだね。」

 ファイアーエンブレムの提案に、ドラゴンキッドはうなずいた。

 自販機のラインナップを眺めながら、ファイアーエンブレムはひそかな懸念事項を思い返す。

 ジェイクがホラーで、虎徹があの廃工場に現れたとバーナビーは言っていた。

 しかし、ジェイクは健在で、ヒーローたちには虎徹から警戒を促す連絡一つ入らないのはおかしい。あの魔戒騎士なら、己の失態が明らかになるとしても、ヒーローたちの身を案じて、絶対にメールの一つ、電話の一本でもよこすはずなのだ。

 それがないということは・・・。

 ――まさか・・・!

 最悪の可能性を想定し、ファイアーエンブレムはドラゴンキッドを不安がらせないために、それを表情に出さないように懸命にポーカーフェイスに徹した。

 頼りの虎徹は音信不通、もう一人の魔戒騎士は重傷でICU入り。

 このまま日が沈んでもシックスマッチを続けるような事態になれば、間違いなく自分たちはジェイクに化けているホラーの餌食になる。

 「アニエスに言った方がよさそうね・・・。」

 ペットボトルの炭酸飲料を飲むドラゴンキッドは、深刻そうにそうつぶやいたファイアーエンブレムを見上げた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 トイレを出たブルーローズは身だしなみをチェックする。

 目元も氷で冷やし、メイクも直した。まだ少し目が赤いが、このくらいなら許容範囲だろう。

 大丈夫。自分はヒーローだ。みんなに希望を与える、氷の女王だ。

 一つうなずいて言い聞かせると、ブルーローズは颯爽とトイレを後にし。

 「タイガー!」

 「よう。カ・・・じゃなくって、今はブルーローズだな。

  元気そうでよかったぜ。」

 トイレから出た廊下で、気にかけていた魔戒騎士に鉢合わせした。

 気のせいだろうか?

 「あんた、ちょっと顔色悪くない?」

 「気のせいだろ?

  それより、お前こそ大丈夫か?」

 「え?」

 「目ぇ赤いぞ?ひょっとして泣いてたのか?」

 「きききき気のせいよ!

  あんたの見間違いでしょ!」

 どもりながらブルーローズは叫んだ。

 「病院だぞ。もう少し静かにしろよ。」

 「わ、わかってるわよ。」

 自分の口の前で人差し指を立てて見せた虎徹に、ブルーローズは叫びそうになった声のトーンを下げた。

 心配してくれてうれしいのに、どうして素直に慣れないんだろう?

 少しブルーローズは肩を落としたが、すぐに気を取り直して尋ねた。

 「ねえ。ハンサムのこと・・・本当なの?」

 ああ、彼女も聞いたのか。

 虎徹はそう思いながらも答える。

 「・・・ああ。ホラーの返り血を浴びたことは本当だ。

 あいつが・・・バニーが何て言ったかは知らねえけど、俺はあいつを餌扱いしたことは一度もねえよ。

 絶対助ける。」

 力強く言った虎徹の言葉は、ブルーローズの胸の内にすとんと納まった。

 ほら見なさい。やっぱりタイガーはタイガーじゃない。

 「それより、折紙――イワンがどこにいるか知らねえか?」

 尋ねた虎徹に、ブルーローズはふと思い出す。。

 ここは病院の中でも警戒が厳重な重要人物保護フロアだ。どうやって入ってきたのだろう?

 「あんたどうやってここに入ってきたわけ?」

 「内緒♪業務上の機密ってやつだよ。」

 にっといたずらっ子のように笑う虎徹に、ブルーローズは毒気が抜かれたような顔をした。

 「まあいいけど。

  あの子・・・イワンって子ならこの先の廊下を右に曲がったところにいるわ。

  ついてきて。」

 ともあれ、ブルーローズは気を取り直すと、先導すべく歩き出した。

 病院の廊下も、出入り制限が設けられているせいか、人通りがほとんどない。

 「言っとくけど、まだ」

 「意識不明なんだろ?

  大丈夫。薬を届けに来たんだ。

  魔戒騎士ならあっという間に完治させる優れものさ。」

 「へえ・・・。」

 便利だな、とブルーローズはこっそり思った。

 「その、あんまり無理しないでよ?」

 うすうす虎徹の調子がよくないことに気が付いてるのか、いないのか、ブルーローズは気が付けばそんなことを口にしていた。

 「大丈夫だって。心配してくれてありがとな。」

 「べ、別に!あんたのためじゃないし!」

 笑いかける虎徹に、ブルーローズは頬を赤くしてツンとそっぽを向いた。

 ――へえ、いい子じゃない。

 ――いい子なのにな・・・虎徹の鈍チンは気が付いてないんだよな・・・。

 と、魔戒騎士にくっつく魔導具たちが思っていたのを追記しておく。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ピ・・・ピ・・・ピ・・・。

 バイタルサインの奏でる音を聞きながら、目を開けたイワンはまぶしいと思い、とっさに目を閉じた。

 しかし、すぐにゆっくりと瞬きしながら目を開ける。

 自分はどうしていたか。そうだ。

 ――ジェイクに負けて捕まったんだ。

 すぐに現在の状況を確認しようと首を回して周囲を確認する。

 どうやら病院らしく、包帯まみれの自分はベッドに横たわり、物々しい機械と点滴につながれているようだ。

 ――なんでここに?

 ガラリ。

 「よう。気が付いたか?」

 入ってきたのは、虎徹のようだ。

 となると、自分は彼に助けられたのだろうか?

 「た、タイガーさん・・・。」

 「無理するな。まだつらいだろ?」

 起き上がろうとしたイワンをベッドに戻して、虎徹が答えた。

 気のせいだろうか?

 「タイガーさん、顔色悪くありませんか?」

 「お前まで。そんなことねえって。」

 ヘラリと笑う虎徹だが、イワンは目ざとく、彼が左肩をかばうような動きをしていることに気が付いた。

 しかし、指摘してもごまかされるに違いない。

 仕方なく流すことにしたイワンは、苦痛に呻きながら身を起こすと、虎徹の後ろにいたブルーローズに向き直った。

 「すぐにほかのヒーローの皆さんを呼んでください。

  パワードスーツを止められるかもしれません。」

 「ええ?!」

 ぎょっとしたブルーローズだが、すぐに気を取り直したようにうなずいた。

「わ、わかったわ!連れてくる!」

 身をひるがえして病室を出ていくブルーローズを見送ってから、虎徹はコートの懐からごそごそとイワンの装備をサイドテーブルに置いていく。

 退魔の双剣に、ソウルメタル製の手裏剣、魔導具シルヴァ、そしてこれは病院の方に保管されていた魔導火のライターと、日本邸で心配そうにしていたお手伝いの女性から受け取った予備の黒服。

 コトリ。

 最後に濃緑色の液体“リヴァートラの刻”が入ったガラスの小瓶を置いた。

 「“リヴァートラの刻”・・・。

  わざわざ持ってきてくれたんですね。すみません。」

 「気にすんな。ついでだ。」

 にっと笑った虎徹に、イワンは申し訳なさそうに笑い返すと、病人着を脱いで、点滴の管を抜いて機械の接続端子を外すと、包帯を外した。ロシア系特有の白い肌は、痛々しい瘡蓋やいまだに内出血で赤紫の痣を至る所に作っている。

 そうして彼は小瓶の栓を抜いて中身を一気に呷ると、今度は魔導火のライターを手に取り、その青白い炎で体をあぶりだした。

 「何してるの?!」

 素っ頓狂な声に虎徹が振り向くと、絶句しているヒーロー女子組が扉の前で立ちすくんでいた。

 「ふう・・・。」

 カチンッとライターのふたを閉めて一度火を止めると、彼は今度はベッドの上で胡坐を組んだ足を持ち上げ、再びその傷を火であぶり出した。

 不思議なことに、火であぶられたその細いながらも鍛え上げられた肌には、うっすらした傷痕だけで、完治しているようだ。

 「これでよし。お待たせ、シルヴァ。」

 『イワン!無事でよかったわ!』

 ライターを置いてベッドから立ち上がり、完全回復したイワンは魔戒騎士の黒服を着込み始めながら、テーブルの上のパートナーに声をかけた。

 「ごめんね、危険な目に合わせちゃって。」

 『あなたが無事ならそれでいいのよ。私は大丈夫。鎖だって直してもらったわ。』

 嬉しそうに言うシルヴァに頷いて、イワンは彼女を首にかけると、コートの下に装備一式をしまいこんだ。

 「な、何なの・・・?」

 「魔戒騎士限定の裏技、回復手段だよ。

  それより。」

 呆然とつぶやいたブルーローズにしれっと言って、虎徹はイワンに目を向けた。

 「パワードスーツを止める方法に心当たりがあるのか?」

 「はい。」

 イワンは頷くが、接続端子を外された機械がピーピーと高い音を耐え始めたので、一度病室を出て、自販機のある休憩コーナーに場所を移すと、改めて説明し始めた。

 アジトでしばらくジェイクたちの行動を観察していたが、その時、パワードスーツをコントロールしているのはクリームらしいことに気が付いた。

 彼女は、自分の髪の毛を針のようにしてぬいぐるみに突き刺すことで、ぬいぐるみを自分のコントロール下に置き、そのぬいぐるみをパワードスーツに乗せていること。

 だから、彼女の気を引けば、パワードスーツが動く前に無力化させることも十分可能だと推測したのだ。

『それならいけるわ!今ジェイクはロックバイソンにかかりきりで、クリームもそれを中継するのに夢中!十分勝機があるわ!』

 ファイアーエンブレムが気を利かせて起動したPDAの通信画面越しに、アニエスは瞳を輝かせると、女子組ヒーローを見回した。

 『みんなにシュテルンビルトの未来がかかってるの!やってくれるわね?』

 肩をすくめて答えたのはファイアーエンブレムだ。

 「ここまでヒーローコケにされて黙ってるほど、お人よしじゃないわ。」

 「がっちりホールドしてやるわよ!」

 「反撃開始だね!」

 女というのは逆境に強いものだ。

 ふと虎徹は思い出した。

 『女の子をなめないでよ、虎徹君。

  女の子は逆境に強いんだから。』

 ――ああ、そうだな、友恵。

 いつだったか、亡き妻が言った言葉を思い出しながら、虎徹は張りきる彼女たちを温かな瞳で眺めた。

 その時だった。わっとPDAから聞こえる音が急に騒々しくなった。

 どうやらシックスマッチの試合の方で何か動きがあったらしく、アニエスが引きつった表情で周囲を見回してから、再び画面に視線を戻した。

 「どうしたんだ?」

 『・・・悪いニュースよ。ロックバイソンが敗退したわ。

  クロノスの本社ビルに磔にされて、今救助班が向かってるところよ。』

 「「「「「!」」」」」

 息をのんだのは誰なのか。

 「アントン・・・!」

 ギュッと手を握って虎徹は親友の名を呻いた。

 『次の対戦相手は・・・バーナビーよ。』

 「!」

 アニエスの言葉に、虎徹は動揺を隠しきれずに息をのんだ。

 『タイガー・・・ジェイクがホラーというのは本当なの?』

 「ハンサムから聞いたの。アタシが話した。」

 ファイアーエンブレムの補足に、虎徹はうなずいた。

 「昨日は少し油断しちまってな・・・。

  悪い、取り逃がしちまった。」

 一瞬、破邪の剣を投げてきた正体不明の魔戒騎士らしき人物についても話しておこうかと思ったが、いらぬ心配をかけるだけかと判断し、虎徹はその話を伏せることにした。

『どうするのよ!バーナビーはあの化け物の返り血を浴びてるから、格好の餌なんでしょう?!

  戦いが長引けば』

 「そのことなんだが。」

 虎徹はアニエスの言葉をさえぎるように口をはさんだ。

 「普通に戦ったんじゃ、俺もイワンもジェイクに憑依したホラーには勝てない。」

 「ええ?!」

 素っ頓狂な声を上げたのはドラゴンキッドだった。

 「どうしてよ?!あの鎧を使えば、勝てるじゃない!」

 「その鎧を召喚できないんだ。

  俺は昨日、そのせいで取り逃がした。」

 「僕もです。」

 ブルーローズの問いに虎徹は淡々と、イワンは悄然と答えた。

 『奴はホラーの中でも随一の結界使い、ホラー“ルテフォシモ”。

  魔戒騎士の力を封じる結界を張る程度、奴にとっては朝飯前だろうさ。』

 口をはさんだのはザルバだ。

 「八方ふさがりじゃない・・・。」

 呆然とつぶやいたブルーローズに、虎徹は押し黙ったままだ。

 ややあって。

 「それともう一つ。あいつの動きはおかしい。」

 「それは僕も思いました。」

 話題を変えた虎徹に、イワンもうなずいた。

 「おかしい?」

 「こっちの動きがまるっきり見透かされてるんだ。

 前に戦ったホラー“ギマ”も、臭いで攻撃のタイミングを掴んでいたが、ジェイクはタイミングどころか攻撃の来る方向、種類までわかりきってるようだった。

 あれは絶対に何かある。」

不思議そうなドラゴンキッドに、虎徹は考え込みながら答えた。

「スカイハイに話を聞きたい。

 あいつなら何か掴んでるかもしれない。」

「・・・わかったわ。」

ここで話を打ち切るようにファイアーエンブレムが口をはさんだ。

「ホラーのことはあんたたちに任せるわ。アタシたちは、それよりもパワードスーツを止めることにする。

 ほら、二人とも、そろそろ行くわよ。」

「ええ?でも・・・。」

「・・・わかった。」

 ドラゴンキッドは不安そうにしたが、ブルーローズはしっかりした表情でうなずいた。

 「タイガー・・・その、油断しないでよ?」

 「おう。ありがとな。ブルーローズたちも気を付けてな。」

 「当然よ。誰に向かって言ってるの?」

 ツンと言って、ブルーローズはそっぽを向く。

 「折紙さん、本当に大丈夫?」

 「大丈夫だよ。今夜中に決着をつけて見せるから。」

 不安そうに折紙を見上げたドラゴンキッドに、折紙は笑いかけた。

 「・・・わかった。それじゃあ、ボクも行ってくるね。」

 頷いて、ドラゴンキッドもパタパタと病室を後にする。

 「さて、俺たちはスカイハイのところに行くか。」

 「はい。」

 頷きあって、魔戒騎士二人も白と黒のコートを翻し、無人となった病室を後にした。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 負傷したスカイハイが入院しているのは、同じ病院の同じフロア――重要人物保護フロアの一室だった。

 ヒーローである彼のプライバシーを完全に保証する、安全地帯の一つと言っていいだろう。

 黒白の魔戒騎士は、扉を開いて設置された画面を、身を乗り出さんばかりに凝視する包帯まみれの青年――スカイハイの正体、キース=グッドマンを見やった。

 「!

  やあ、ワイルド君にイワン君!

  こんなところに来てどうしたんだい?」

 「スカイハイさん、大丈夫ですか?」

 おろおろとベッドサイドに歩み寄ってイワンは声をかけた。

 ちなみに、イワンはヒーローの中で一番スカイハイを応援しているらしい。アカデミー時代はひそかにファンクラブに入っていたというくらいだ。

 「大丈夫だ。そして平気だ。この病院のスタッフは優秀だからね。」

 にっこり笑って、イワンを見ながら不思議そうに首をかしげた。

 「イワン君、もう体の調子はいいのかい?」

 「あ、はい。おかげさまで。」

 「それはよかった。そしてうらやましい。」

 イワンの言葉に安心したように返したが、すぐに彼は悄然とうつむいた。

 「私はジェイクにはかなわなかった。

  情けない。そしてふがいない。」

 「気にすんなよ。俺たちもあいつにはかなわなかった。」

 虎徹が慰める。

 虎徹は最後までジェイクと戦ったわけではないが、あのまま持久戦に持ち込まれた場合、イワンと同じ目にあわされた可能性が高い。

 ぼこぼこに痛めつけられるのと、破邪の剣の致死性にさらされるのと、どちらがいいのかは虎徹の胸中に置いておくとして。

 「ワイルド君たちが戦った・・・?

  ! ジェイクもホラーなのかい?!」

 すぐに思い至ったキースに、虎徹とイワンはコクリと同時にうなずいた。

 「そんな・・・なんてことだ・・・。」

 うなだれてうめいたキースに、虎徹は質問を投げる。

 「あいつの動き、どう思った?」

 「妙だ。そして不思議だった。」

 虎徹の問いに、キースは答えた。

 「私は彼の能力が攻防一体型のバリアだと見抜いた。

  だがそれだけではないようだ。」

 「それだけじゃない?」

 「わからない。そしてわからないんだ!」

 聞き返した虎徹に、悔しそうに首を振るキース。

 これ以上のことはキースにはわからないか。

 二人の魔戒騎士が顔を見合せた時だった。

 パンと病室の扉が開かれ、ストレッチャーに乗せられたガタイのいい男が、数人がかりで病室に運び込まれると、そのままベッドに移された。

 「ありがとうございます・・・。」

 「くれぐれも安静にしてくださいね。無理はダメですよ。」

 ベッドの上で呻くように礼を言った男に、点滴をつるしながら看護師の女性は答え、そのまま他のスタッフと一緒にいそいそと病室を去った。

 「無事か?アントン・・・。」

 「お前、虎徹か!ウグ・・・!」

 カーテンの影に隠れていた虎徹が、新たなベッドの住人のもとに歩み寄ると、彼――アントニオは驚いた顔をして、すぐに苦痛に呻いた。

 重度の鞭打ちになってしまったらしい彼は、体中のガーゼや包帯に加え、首周りをサポーターで固定されている。

 「だっ!無理すんなって。」

 「ジェイクのことだな?」

 「ああ。休養中のところ悪いが、何かわかったことはないか?」

 あわてる虎徹に、それでもアントニオはしっかりした表情で尋ねた。

 頷いた親友に、アントニオはしばし視線を空にさまよわせる。

 「圧倒的、というほかない。

  虎徹、昼間は、ホラーはホラーとしての能力を使えないんだよな?」

 「ああ。せいぜい夜に備えて、餌にしたい人間を自分のテリトリーに誘導するくらいさ。」

 尋ねたアントニオに、虎徹は答えた。

 「なら、奴は人間としての状態で、能力を二つ持っていることになるな。」

 「能力を二つ?!」

 ぎょっとしたのはイワンである。

 「そう言っていた。」

 アントニオは、自分との試合中にジェイクが言ったことを思い出した。

 『“西海岸の猛牛戦車”だったか?なぁんか弱そうだな。

  そんな弱そうな奴には、出血大サービスでヒントをくれてやるよ。

 聞いて驚け!俺様には能力が二つある!そのうち一つはバリアだな。もう一つは何だと思う?フヒヒ。そう簡単には教えねえよ。』

 むかっ腹こそ立ったが、このヒントは大きな収穫だと思いたい。

 「第二の能力・・・そんなことが・・・。」

『俺もシュテルンビルトにいるのは長いが、能力を二つ持ってるNEXTがいるって知ったのは初めてだぜ。ふつう一人に一つの能力だろ?

 よく研究所〈ラボ〉送りにされなかったもんだな、あいつ。』

 口をはさんだザルバに、虎徹はうなずいた。

 犯罪者ならこれ幸いと人権など無視して、NEXTの生態を調べるための研究所〈ラボ〉送りにされてもおかしくなかったろうに。

 「あとは・・・何か引っかかるんだ・・・。」

 「引っかかる?」

 「すまん・・・ここまで出かかっているんだが・・・。」

 両手が無事なら、茶髪をかきむしっているだろうむずがゆそうな顔をするアントニオに、虎徹は首を振った。

 「無理すんな。能力が二つあるってだけでも大きな収穫だ。」

 そうして一同は病室に設置されたモニターを再び覗き込んだ。

 ヒーロースーツに身を包んだバーナビーは、スタジアムの天蓋から飛び降りてきたジェイクの奇襲を許してしまい、ほとんど一方的に攻撃を受けている状態だった。

 まだ能力は使わずに、様子見にとどめているようだ。

 「バニー・・・。」

 ギュッと虎徹は手を握りしめた。

 「虎徹、お前、ハンサムに何も言ってなかったんだな。」

 ここで咎めるような調子でアントニオが口を開いた。

 険しい表情で魔戒騎士を見上げ、傷ついたヒーローは続けた。

 「ハンサムは傷ついてたぞ。」

 「そうだな・・・。」

 虎徹は肩を落とした。

 「ヴァランカスの実が手に入れば、言う必要ないと思っちまったんだ。

  馬鹿だよな、俺。友恵の時もそれで失敗したのにな。」

 「ああ。馬鹿だよ、お前。」

 自嘲するような虎徹の言葉に容赦なく言い返して、アントニオは続けた。

 「俺の知る鏑木・T・虎徹なら、こんな病室でぐずぐずしてるような馬鹿野郎じゃない。

 どんなにみっともなかろうが、何か伝えようとすぐにハンサムのところへ駆けつけるはずだ。

  違うか?」

 「アントン・・・。」

 顔をあげた虎徹に、アントニオは照れ隠しだろうか、そっぽを向いた。

 「その呼び名はやめろと」

 言いかけて彼はハッとした様子で考え込んだ。

 「アントニオさん?」

 「バイソン君?」

 「アントン?」

 三者三様に呼びかける魔戒騎士二名とキースに、ややあって、アントニオは顔をあげてつぶやいた。

 「やっぱおかしいぞ・・・。」

 「何が?」

 「ジェイクが、俺の名前を知ってた。」

 「「「?!」」」

 驚く三人に、アントニオは続けた。

 「止めを刺してくる瞬間に言ったんだ。

  “じゃあな、クソアントニオ”ってな。」

『そりゃ妙な話だな。ヒーロースーツで顔隠して、ヒーロー名しかわかってないはずの奴の本名を、どうしてジェイクは呼ぶことができたんだ?』

 『気持ちが悪いわね。まるで頭の中をのぞき見したみたいだわ。』

 魔導具二人が口をはさんだところで、四人の頭の中でかちりとパズルのピースがきれいに当てはまった。

 「・・・折紙。」

 「何ですか?」

 「悪いが、ちょっと俺に時間をくれ。」

 真剣な目で虎徹に見詰められたイワンは、やむなくコクリと頷いた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 夕日に包まれ始めたスタジアムで、死闘はいまだに続いていた。

 「ぐああ!」

 ドシャアアッ!

 何度目になるかわからないが、とにかくバーナビーはバリアに殴打され、砂の中に倒れこんだ。

 どんなに早く、フェイントを駆使して蹴りかかっても、軽々とよけられるかバリアで防がれてしまう。

 「どうしたよヒーロー。能力は使わねえのか?」

 「っ・・・!」

 キィン。

 挑発に乗るのは癪だったが、このままではジリ貧であることに変わらず、バーナビーは能力を発動させる。

 百倍に引き上げられたスピードでジェイクに飛びかかるが、その攻撃は軽々とバリアに受け止められ、あまつさえ。

 「そらそら!踊れ踊れ!」

 ビャビャビャビャビャッ!

 ガガツッ!

 「うああああああ!」

 連続で放たれた光弾状のバリアを最初の四~五発はよけることに成功するが、よけた方向にまでバリアの光弾が向けられ、バーナビーのヒーロースーツの装甲をえぐった。

 スーツはすでに幾度もの攻撃によって、凹みと傷が目立ち始めていた。もしもこの装甲服を着ていなければ、とっくの昔にバーナビーは死んでいただろう。

 「安心してくたばれよ!天国の両親が、お前に会わせてくださいって泣いてるぞ!」

 嘲笑うかのように言い放ったジェイクに、バーナビーは再び怒りを燃やし、闘志を滾らせる。

 自分が殺したくせに!こいつにだけは、両親のことを口にする資格はないのに!

 「ウアアアアアアッ!」

 渾身の蹴りをお見舞いするが、ジェイクは一歩さがってその攻撃を軽々とよけ。

 ビャッ!ギドンッ!

 「くああっ?!」

 カウンターで放たれた赤い光弾が、バーナビーの右のショルダーガードを削るように吹っ飛ばした。

 そのままよろけてバーナビーはあおむけに砂の中に倒れこみそうになり。

 トン。

 誰かに背中を支えられ、踏みとどまった。

 「ちょぉっとタイムな。」

 『だ、誰だ?!貴様!』

 マイクで拡張されたクリームの怒声がスピーカーからわんわんと響き中、バーナビーは背後から聞こえたその飄々とした声に、凍りついた。

 「あ、あんたは・・・!」

 「無事か?バニー。」

 にっと笑う、白いコートにハンチング帽を深々とかぶったその姿は、バーナビーをひどく傷つけ、裏切ったあの男だった。

 「何の用ですか!化物退治ならよそでやってください!

  もう僕に」

 「第二の能力だ、バニー。」

 「?!」

 すぐに身を離して、ふらつきながらも立って怒鳴ろうとしたバーナビーをさえぎり、彼は言った。

 「ロックバイソンが突き止めた。ジェイクは第二の能力を持っている。」

 『ジェイク様の試合中よ!出ていきなさい!』

 クリームがマイク越しにキンキン響く声で叫んだ。

 「かまうな、クリーム。」

 『しかし!・・・わかりました。ジェイク様が言うなら・・・。』

 余裕綽々に腕組みして様子を見やるジェイクになだめられ、クリームは口を閉ざした。

 きっとあの人なら、何があっても勝つ。実況席である真紅のソファに座ったクリームはそう確信しながら、スタジアムの様子を見つめた。

 ジェイクを盲目的に信じている彼女は気が付かない。スタジアムに乱入した男の姿を見るなり、ジェイクが少し驚いたような顔をしたことに。

 「ジェイクの第二の能力は、超聴覚だ。」

 彼の言葉を、バーナビーは黙って聞いた。

 「相手の心音、呼吸、筋力の軋みとかを聞き取って、攻撃を読んでるんだ。」

 ここで彼は言葉を切ると、バーナビーの手を取り、そこにコートのポケットから取り出した手榴弾を握らせた。

 「アポロンメディアのメカニックに頼んで用意してもらった、特製の音響弾だ。

  こいつを使えば勝てる。」

 「・・・僕はあなたを信用できません。」

 バーナビーが口を開いた。フェイスガードで表情が見えないが、憮然とした響きの返事だ。

 そんなバーナビーを琥珀の双眸で力強く見据えると、彼は答えた。

 「バニー。黙っていたことは謝る。でも、絶対助ける。守り抜くつもりだ。

  何があったって。俺を、信じてくれ。」

『あんた、あいつに何度助けられたのよ?!あいつの何を見てきたのよ?!』

 『お前も・・・見捨てるつもりはない、絶対助けると言ってたぞ。』

 『まずは自分の目で見たことだけで考えなさい。』

 『タイガーは優しい人だよ。バーナビーさんだって、知ってるでしょ?』

 その言葉に反応するかのように、耳の中をヒーローたちの言葉がリフレインする。

 「・・・さがっててください。」

 「健闘を祈るぜ。」

 音響弾を手にしたままジェイクに向き直ったバーナビーに、彼は頷くと、そこから離れた場所に歩いて行った。

 「おっやぁ?まぁだ、その裏切り野郎を信じる気かぁ?」

 ジェイクが嘲るように口を開いた。

 「貴様の指図は受けない。誰を信じるかは僕が決める!」

 言い放ち、バーナビーは駆け出した。

 得意の蹴りを放ち、ジェイクはそれをよけるため、空中に跳び上がった。

――バァカ。能力の種類を思いっきり間違えてるんだよ。しかも音響弾なんて、見え見えなんだよ。

 空中でジェイクはあざけった。

 音響弾が来たって、耳元にバリアを張れば鼓膜への衝撃を減殺できる。後はそこにかかってきた馬鹿なヒーローを返り討ちにするだけだ。

 もうすぐ夜が来る。そうすれば、あの死にぞこないの魔戒騎士を、今度こそ頭の先から噛み砕いてやろう。

 舌なめずりしたジェイク(すでにこっそり両耳にバリアを張って対策済み)の目の前に、バーナビーが投げつけた音響弾が迫った。

 ガカッ!ギキィィィィィィ!

 「何だと?!」

 「これは?!」

 手榴弾はジェイクの目の前ではじけると、まばゆいばかりの閃光と耳障りな轟音をスタジアム一帯にまき散らしたのだ。

 ――ただの音響弾じゃない?!音響閃光弾だと?!

 ここにきてジェイクは、自分が罠にはめられたことに気が付いた。

 しかし、気が付いた時にはすでに遅かった。

 ズダァンッ!

 視界をつぶされたため、ジェイクは着地に失敗して地面に叩きつけらた。

 メギャガァンッ!ボギャッ!

 そして、立ち上がろうとしたところを、ヒーロースーツのフェイスガードのおかげで視力が無事だったバーナビーに、義足を蹴り砕かれ、続いてみぞおちにもう一発分の蹴りを食らい、スタジアムの天蓋まで吹っ飛ばされた。

 「ぐあああああ?!」

 ドザァッ!

 悲鳴を上げて、白い天蓋の上に叩き落され、そのままうずくまってもだえ苦しむジェイク。

 こんな展開は完全に計算外だ。

 「やった!」

 耳から手を外し、固く閉ざしていた眼を開けて、虎徹はガッツポーズをとった。

 ついでに帽子を跳ね飛ばしてから、能力を発動し、先行して天蓋に上ったバーナビーの後に続く。

 バーナビーはもだえ苦しむジェイクを冷然と見下ろしていた。

 フェイスガードは上げられ、能力の発動が終了してもとのエメラルド色の双眸をしている。

 「バニー!」

 呼びかけられ、バーナビーは虎徹に振りかえった。

 「・・・殺しませんよ。」

 ぽつりとバーナビーはつぶやいた。

 「僕は、こいつとは違う。

  こいつのような人殺しには絶対ならない。

  僕は」

 ここでバーナビーは再びジェイクに視線を戻してから、思い切ったようにつづけた。

 「僕は、ヒーローですから。」

 「・・・そうか。」

 ほっとしたようにうなずいた虎徹は、ややあって気まずそうに尋ねた。

 「その・・・ごめんな?」

 「・・・別にいいですよ。結果オーライですから。」

 結果的には騙す形になってしまったことを謝る虎徹に、バーナビーはスクンと肩をすくめた。

 「ちなみに本当は何なんです?」

 「多分、読心能力。

  知らないはずのアントンの本名を言い当てたらしいから。」

 虎徹の返答に、バーナビーはなるほどとうなずいた。

 「ぐぅぅぅ・・・クリーム!見せしめだ!

  柱を壊しちまえ!」

 叫んだジェイクに、バーナビーはハッと息をのむ。

 しまった。こんな奴、負けたら腹いせに町の一つや二つ壊すにきまっている。

 「無理無理。」

 自信たっぷりに虎徹が笑ったのを、バーナビーはいぶかしげに見た時だった。

 ピピピピ。

 『ボンジュール、ヒーロー。』

 唐突に鳴ったPDAのウィンドウを開くと、自信たっぷりのアニエスが映し出された。

 『パワードスーツは残りのヒーローたちが制圧したわ。

  ・・・よく頑張ったわね、ヒーロー。ありがとう。』

 最後の方に優しげな響きを乗せて言ったアニエスに、バーナビーはうなずいた。

 「・・・はい。」

 「さすがバニー!期待のスーパールーキーだな!」

 「ちょっと!子ども扱いしないでください!」

 ぐしゃぐしゃとメット越しに虎徹に頭を撫でられ、バーナビーは不満そうに文句を言ったが、決していやそうではなく、口元にかすかな笑みが浮かんでいる。

 信じられないと言いたげにジェイクはうずくまったまま口をパクパクさせる。

 そのジェイクを、虎徹は静かに見据えた。

 これがお前が侮ったヒーローの力だと、我がことのように誇らしげに。

 ババババババ・・・!

 「ジェイク様ぁぁぁぁ!」

 「く、クリーム!」

 いつの間に移動したのか、ヘリに乗ったクリームが扉を開け、うずくまりながらも何とか顔をあげたジェイクに手を差し伸べた。

 同時に日が沈みきった。

 「さあ!こちらに」

 「はは!いいタイミングだ!」

 懸命に手を伸ばすクリームに、ジェイクは表情を輝かせ、笑った。

 「最後の命令だ!“餌になれ”。」

 「え?」

 ビャッ!ギンッ!

 バッバッバッバ・・・ゴドガッゴォォォンッ!

 呆けた表情をするクリームをよそに、ジェイクは赤い光弾を放つと、ヘリのプロペラを吹っ飛ばした。。

 当然ヘリの機体はバランスを崩し、スタジアムの白い天蓋――ジェイクのすぐ目の前に叩き落された。

 しかし、クリームは無事だった。

 虎徹がとっさに飛ばしたワイヤーに引っ張られ、今はバーナビーの腕に気を失った状態で抱かれている。

 「返してもらおうか?そいつは俺の食事〈物〉だ。」

 ユラリと立ち上がったジェイク――砕けたはずの義足に替わって、鋼色の骨組みのような脚が左の太ももから生えていた――に、虎徹は退魔の剣を片手に、悪態をついた。

 「自分を慕う相手まで餌扱いかよ!」

 「その言葉、そっくりそのまま返すぜ、魔戒騎士。」

 「ふざ「ふざけるな!」

 虎徹の言葉をさえぎってバーナビーが叫んだ。

 「そのお人よしが、他人を餌扱い?

  するわけないでしょう!」

 「バニー・・・!」

 パッと表情を輝かせる虎徹に、バーナビーはクリームを担ぎ直しながら言った。

 「僕は避難します。後のことは」

 「待て、バニー!

  その前に、頼みがある。」

 「頼み?」

 「詳しいことは下にいる折紙に聞け。俺は」

 シャンッと退魔の剣を抜剣して、虎徹はジェイクの姿をしたものを睨みつけた。

 「魔戒騎士の責務を果たす。」

 「・・・はい。」

 頷いて、バーナビーはクリームを抱えたまま滑るように白い天蓋を後にする。

 “ジェイク”は激怒した。もうあの黒ずくめの男との約束など、知ったことか!

 『待て小僧ぉぉぉ!

  クリームともども喰ってやるぅぅ!』

 ビャッ!ガキィィンッ!

 “ジェイク”の怒声と共に赤い光弾がバーナビーを薙ぎ払おうとするが、その前に軌道に割り込んだ虎徹が退魔の剣でバリアを薙ぎ払った。

 『貴っ様ぁぁぁ。』

 「今度はおじさんの相手をしてくれよ、ジェイク。」

 にっとふてぶてしく笑いながら言う虎徹に、しかし“ジェイク”は余裕だった。

 『死にぞこないの魔戒騎士か。

  今度こそ殺して、まとめて餌にしてやるよ!』

 ビャッ!ギギィンッ!

 “ジェイク”の放った光弾を切り払い、そのまま虎徹は踏み込んだ。

 下段からの切りつけと見せかけ、素早く上段に組み直す、フェイント技で切り込まれ、“ジェイク”は舌打ちしながらも、なんとかその攻撃をよけた。

 しかしその動きに、今までの戦いで見せた余裕はなかった。

 『貴様ぁ、これが狙いか!』

『まだ未解明ではあるが、NEXTのホラーについては二つだけだが、わかっていることがある。

 一つ。能力者には、その保持する能力と似たような性質、能力を持つホラーが憑依する場合が多いこと。

 二つ。ホラーがその能力を全開にした時、NEXTが本来持つ能力の方は使えなくなること。

 足を失くして、ホラーとしての力を引きずり出された奴には、もう第二能力である読心が使えない。

 考えたな。』

 悪態をつく“ジェイク”に、ザルバが感心したように虎徹の狙いを解説した。

 ちなみに、虎徹としては、バーナビーが義足を破壊できなかった場合、負傷して隙ができたところにワイヤーを飛ばして、義足を絡め取って引きはがすつもりだった。

 『だからどうした!死にぞこない程度、心を読むまでもねえよ!』

 ビャッ!ドウッ!

 「ぐぅっ!」

 放たれた光弾をよけようとした虎徹だが、ふらりと足がふらつき、完全によけきれずに体をかすった。

 破邪の剣が貫いた、左肩を。

 『ひゃぁはははは!やっぱり痛むのか?!

  そうだよな、普通なら即死ものの邪剣だからな!』

 「・・・っ!」

 剣を左手に持たせ、虎徹は右手で肩を抑えた。

 いまだに焼け付くように痛むそこは、完全に魔戒騎士の弱点と成り果てていた。

 『安心しろよ、じきに痛くなくなる。』

 ヴォウン。

 いくつもの光弾を自分の周囲に浮かばせながら“ジェイク”は嘲笑した。

 『てめえが死ねば、傷だって痛まなくなるさ!』

 ビャビャビャビャッ!

 赤い光弾が雨のように、弱った魔戒騎士に降り注いだ。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 下に降りたバーナビーはスタジアムの無人の通路を、クリームを担いだまま走っていた。

 正直、ジェイクとの長時間の戦闘を終えたばかりの体には体力がほとんど残っておらず、かなりきつかった。

 しかし、足を止めるわけにはいかなかった。

 「シャアアアアアア。」

 「シャァアアア!」

 どこから湧いて出たのか、素体ホラーが何匹も通路をウロウロしているのだ。

 必死に走らなければ餌食にされる。

 「クソ!」

 ――先輩はどこに?!

 ヒュンパッ!ドガツ!

 角を曲がった瞬間目の前に現れた素体ホラーに、バーナビーが思わず足を止めた瞬間、ホラーのこめかみに十字手裏剣が深々と突き刺さり、そのまま異形は横倒しに倒れ、砂と化して消える。

 「バーナビー殿!」

 グイッと脇から手を引かれ、バーナビーはそちらを見た。

 長い漆黒のロングコートを身にまとったイワンが、必死の形相でこちらを見ている。

 そのまま彼は付近の異形を切り倒し、バーナビーを先導するように走り出した。

 「背中の女性はクリームでござるな?

  こちらに!」

 いってイワンは少し離れたところにあった用具室――扉とその周囲の壁にに赤い怪しげな札、界符を何枚か張り付けてある――の扉を開いた。

 「クリームはこの中へ!この中は結界が張ってあるでござる!」

 頷いて、バーナビーは彼女を乱暴に中に放り出した。

 こんな緊急事態だ。それに女性とはいえ、ジェイクを解放するように仕向けたこの女に優しくしてやる気など、バーナビーにはかけらもなかった。

 「バーナビー殿には頼みがござる!」

 「何ですか?僕に頼みって。」

 用具室の扉を閉めながら言ったイワンに、バーナビーは尋ねた。

『このスタジアムには、タイガーやイワンたち魔戒騎士の力を封じる結界が張られているの。その結界がある限り、二人とも思うように戦えないわ。

 でも、その結界を壊せるのは、仕掛けたホラーと、ホラーの返り血を浴びた人間――つまり、今この場ではあなただけなのよ。』

 「お頼み申す。力を貸してくだされ。」

 シルヴァの言葉にうなずいて頭を下げたイワンに、バーナビーはしばし押し黙った。

 「タイガー殿に不信を抱いてるのかもしれませぬ。

  しかし!」

 ここで、イワンは背筋を伸ばして声を張り上げた。

 「本来、拙者たち魔戒騎士の間で、“返り血付き”を放置することは御法度。」

 『禁じられてるのよ。万一、そういう人間が出たら、即刻抹殺しなければならないの。』

 「タイガー殿は、それでもバーナビー殿を助けようとしたでござる!

  一度は斬り捨てようとした拙者を押しとどめてまで!」

 『あとは坊やが決めなさい。』

 交互に言った黒い魔戒騎士と、その胸元のペンダントに、バーナビーはややあって口を開いた。

 「・・・どうすれば、その結界を破壊できるんですか?」

 「!

  ありがとうでござる!」

『このスタジアムのどこかに、界符によく似た――魔導文字が書かれた赤い札がいくつか張られているはずよ。

  一枚でいいから、それをはがせばいいわ。』

 パッと表情を明るくして礼を述べたイワンに、シルヴァが続けた。

 「どこかって・・・わからないんですか?!」

 「申し訳ない・・・。」

 『私たち魔導具の探知能力も封じられてて、どこにあるかさえ分からないの。

  きついでしょうけど、走って探すしかないわ。』

 ぎょっとしたバーナビーに、イワンとシルヴァが困り果てたように答えた。

 「くそっ!」

 「バーナビー殿?!」

 舌打ちして駆け出したバーナビーに、イワンはぎょっとしたが、振り返った後輩から言い放たれた言葉に、すぐにほっとした。

 「何ぐずぐずしてるんですか?!

  さっさとその札を探しますよ!先輩は僕をしっかり守ってください!

  僕はホラーを引き寄せてしまうんですから!」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 パワードスーツの残骸を足元に、市民たちからの歓声を一手に受ける女子組ヒーローたちは、日が沈みきったことに気が付いた。

 ぎりぎりで人間としてのジェイクを倒せたとはいえ、今頃ホラーとしての本性をあらわにしているに違いない。

 そしてそれは、スイッチングルームでスタッフたちの指揮を執っていた女プロデューサーもすぐに気が付いた。

 ファイアーエンブレムから事情を聞かされたアニエスは、クリームのヘリが来たところで突如切れてしまった映像を見ながら強張った顔で考えた。

 ジェイクを倒したとなると、バーナビーの勝利を祝おうとマスコミたちがスタジアムに殺到しかねない。

 そうなったら、あの化け物相手に奮闘する退治屋たちの足を引っ張り、無用な犠牲が出かねないのだ。

 どうすればいい?

 「アニエスさん!」

 「どうしたの?!」

 「それが・・・!」

 強張った顔でスタッフの一人が、街頭カメラから映し出されるスタジアムの映像を大きなモニターに出した。

 すでに何人もの記者やレポーター、カメラマンが機材を片手に決戦の地に踏み込もうとしているようだが、不思議なことに彼らはスタジアムの敷地のすぐ外で足踏みしているようだ。

 よく見ると、彼らのすぐ前にうっすらと光る壁があるようだ。

 「バリア?」

 「これ、まだジェイクが悪あがきしてるんじゃないですか・・・?」

 小さくつぶやいたアニエスに、強張った顔でスイッチャ―のメアリーがつぶやいた。

 それだ!

 アニエスはすぐに表情を引き締めると、きびきび指示を出し始めた。

 「この映像を流して!

  まだジェイクが生きてる可能性があるってテロップを入れて!」

 「え?で、でも」

 「早く!ぐずぐずして被害が出てからでは目も当てられないわ!」

 「は、はい!」

 跳び上がるようにスタッフたちは動きだした。

 これが今の自分にできる、精いっぱいの時間稼ぎだ。これで稼げるのはどんなに粘っても三十分程度が限度だろう。

 痺れを切らして誰かがヘリを上空に差し向けないよう、他のマスコミにくぎを刺すことも忘れず、アニエスはモニターの奥にあるスタジアム――その中で奮闘しているであろう魔戒騎士の勝利をひそかに祈った。

 せっかく勝利ムード満点なのだ。このまま済ませてほしい。

 

 

 

 

 「人払いの結界が効くのは、もってあと三十分だネ。

  それまでに何とかしないと、この中に余計なの〈マスコミ連中〉が殺到しかねないヨ。」

 スタジアム内部の薄暗い廊下で、一人、セシリーは自身が最後に施した界符を眺めながらぽつりとつぶやいた。

 「早く決着つけないと、やばいヨ。虎〈ティーゲル〉。」

 ギヂギヂと鉤爪を鳴らす音が、そんな彼女の背後に迫る。

 「あア!面倒くさいネ!

  あたしは裏方だってのニ!」

 勢い良く振り向いた彼女に、素体ホラーが数匹、鉤爪をすり合わせながら迫っていく。

 バサァッ!

 「魔戒法師セシリーを、舐めるんじゃないヨ!」

 どこからともなく取り出したのは、チアリーディングなどで使いそうな大きな青いフラッグだった。青い生地には、片方に『希』、もう片方には『望』と魔戒文字で黒く染め抜かれている。

 両の手に一つずつフラッグ――魔導旗を持って、セシリーは異形たちにその穂先を突き付ける。

 「行くよ!化け物ども!」

 バササアッ!ドギャッ!

 両手の旗を振り回し、素体ホラーから適度に距離をとりながら、彼女はブーツをはいた足に魔導力を込めて、ホラーを蹴りつける。

 「シャギャアッ!」

 桜の花びらをまき散らすような淡い光とともに蹴飛ばされたホラーに、セシリーは魔導旗を素早く魔戒筆に持ち替え、空中に円を描くように魔導文字を描いた。

 バウッ!

 キラキラした金色の文字から放たれた桜色の光弾が、あっさりと素体ホラーを貫いて砂と化させる。

 「雑魚すけガ。一昨日来ナ。」

 フンと鼻を鳴らし、彼女は空中に次の文字を描いた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「ハア、ハア、ハア。」

 肩で息をしながら虎徹は剣を構えた。

 既にその双眸からはシアンの光は消えうせ、能力が終了していることを物語っている。

 右手で水平に剣を持ち、左手の甲に沿わせる、“牙狼”の系譜の騎士特有のスタイル。

 完全に回復していない体は鉛のように重く、“ジェイク”の使う光弾を完全によけきれず、すでに体の何か所か撃たれて傷だらけだ。

 この一見してコートとレザー服のように見える、防具を兼ねた魔戒騎士の魔法衣を着てなければ、今頃体中穴だらけになって死んでいただろう。

 『そらそらそらそら!踊れ踊れ!』

 ビャビャビャビャビャビャビャッ!

 「くっ・・・!」

 次々と光弾状のバリアを放つ“ジェイク”に、虎徹は脚をもつれさせながらも必死で攻撃をよける。よけきれないと判断したものは、退魔の剣で切り払い、急所を外してかすらせる程度にとどめる。

 ギジンッ!

 「ぐあああっ!」

 ガランッ!

 『虎徹!』

 ザルバが悲鳴を上げた。

 よけることができているというのはフェイクだったらしく、まんまと誘導に引っ掛かり、“ジェイク”が出現させた等身大の結界に閉じ込められた虎徹は、身動きが取れなくなってしまったのだ。

 左肩に急激にかかった圧迫感にたまらず、虎徹は剣を取り落してしまった。

 『おおい!兎坊や!銀牙の坊主!早くしてくれぇ!』

 ザルバの懇願もむなしく、ジェイクはそのままぐっと右手を握る仕草をした。

 途端に虎徹を締め上げる結界は、一段とその力を増し、魔戒騎士を苦しめる。

 「うああ・・・!」

 『さあて、飯の時間だ。前菜はてめえだ、黄金騎士。』

 にやりとジェイクが笑った。

 

 

 

 

 「ここも違う!」

 そのころ、バーナビーはイワンを護衛にスタジアム内を走り回っていた。

 懲りずに沸いて出てくる素体ホラーは、イワンの投げる手裏剣と、振り回される退魔の双剣の前には、鍛練用の巻き藁のようなものだった。

 次々とホラーは砂に還るが、時間と体力だけが空しく削られていく。

 「何かヒントはないんですか?!

  その札を張り付けるのに有効な場所とか!」

 息を切らしながら尋ねたバーナビーに答えたのはシルヴァだった。

『そうね・・・高い場所か、結界の中心に相当する場所、あるいは結界内部を取り囲むように配置されてることが多いわ。』

 「高いところ・・・結界の中心・・・・内部を取り囲む・・・。」

 ぶつぶつつぶやいて考え込むと、ややあって、バーナビーは顔をあげて駆け出した。

 再び通路を抜け、今度は観客席に飛び出すと、そのまま一目散にベースボール用の電光掲示板に向かっていく。

 「『あそこだ!」よ!』

 バーナビーとシルヴァの声が重なる。

 電光掲示板の上、旗を掲げるポールの上、スタジアム内で最も高い場所に、赤い紙切れ――目当ての結界札がひらひらと風に揺れている。

 火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか、とにかくバーナビーは普段のクールっぷりをどこかに置き忘れたかのように、電光掲示板にかじりついてよじ登り、そのままポールを上って紙切れをちぎるように破り取った。

 バヂンッ!シャァァァンッ!

 スタジアムを覆う薄紫の結界に一瞬稲妻が走ったかと思うと、それは涼やかな音色と共に粉々に砕けた。

 

 

 

 

 『何だと?!』

 今まさに身動きの取れない虎徹を捕食しようと顔を近づけた“ジェイク”は、ぎょっとして結界札の仕掛けてあるところに顔を向けた。

 傷だらけの赤いヒーロースーツを纏ったヒーローが、まさしくそこにしがみつき、札を引きちぎったところだった。

 ――あの小僧!

 「ザルバ!」

 『よっしゃぁ!ガアアアッ!』

 ホラーの隙を見逃さず、声を張り上げた魔戒騎士に応え、その左中指の魔導輪は金緑色の炎――魔導火を吐き出した。

 『ぐおああ?!』

 万物を焼き尽くす魔界の炎にあぶられ、“ジェイク”はたまらず虎徹を戒める結界を解いて、跳びさがってしまった。

 シャン!

 「反撃開始だ!ワイルドに吠えるぜ!」

 退魔の剣を拾い上げた虎徹は、その切っ先を頭上に向け、ヒョウッと金色の光の円――鎧の召喚陣を描く。

 今度こそ、虎徹は虎を模した金色の鎧をまとった、魔戒騎士“牙狼”の姿となり、手にした退魔の剣も、刃が一回り大きくなって鍔飾りがついた牙狼剣となった。

 『クソ・・・クソッたれガァァァァァァ!!』

 メゴメゴメゴォッ!

 悪態をついた“ジェイク”は、咆哮とともにとうとうその本性をあらわにした。

 軽く見積もって五メートルはあろう巨体の異形に、その肉体を風船のようにふくらませて変貌したのだ。トゲトゲした鎧を纏ったような頑強そうな鋼色の皮膚に、笠をかぶったような奇妙な形の頭が目につく。

 ぎょろりとその頭の中央で、真っ赤な一つ目が見開かれた。

 ガギャアアアンッ!

 ズダンッ!ズドォォンッ!

 “ジェイク”の変貌に耐えきれなくなった天蓋が崩れ、金色の騎士とホラー“ルテフォシモ”をスタジアム内部に叩き落した。

 『ギヒャガアアアアアッ!』

 ゴゴゴゴォォンッ!

 着地したホラー“ルテフォシモ”は高々と咆哮すると、今まで虎徹に飛ばしていたものとはけた違いの大きさ――等身大のバリア光弾をいくつも出現させると、騎士めがけてそれを飛ばした。

 その大きさになると、さすがに斬り捨てるわけにもいかず、騎士は走り回ってその攻撃をよけると、ヒュピピッと空中に剣先で赤い印を切る。

 ガッガガシャァァァンッ!

 すると、その印を描かれた部分から、ガラスが砕けるように空間を粉砕して、何かが飛び出してきた。

 「魔導馬・・・!」

 「え?」

 何とか客席に降りてきたバーナビーは、大きく目を見開いたイワンに聞き返した。

 「魔導馬です。タイガーさんは“牙狼”の系譜だから魔導馬“轟天”。

  初めて見ました・・・!」

 『百体のホラーを討伐した魔戒騎士が試練を乗り越えて、乗ることを許される魔戒獣よ。』

 呆然といつもの口調でつぶやいたイワンと解説するシルヴァに、バーナビーはやむなく視線をスタジアム内部に戻す。

 飛び出してきたそれは、虎徹の纏う金色の鎧と同じ、金色の鎧を纏った馬のような生き物だった。赤い鬣をなびかせ、ガツガツと蹄で土をえぐる。

 騎士は戦いのさなかなのに、鎧を纏ったような馬――魔導馬“轟天”を慈しむように、その首筋を撫でてから勢いよく飛び乗ると、手綱を握った。

 バガツッ!

 『リィィリリリリィッ!』

 待ち焦がれたという代わりに、“轟天”は後足立ちをして、高くいなないた。

 同時に、騎士の背からタスキのような黒い帯が長く伸び、牙狼剣が一段と分厚く大きな刀身の大剣――牙狼斬馬剣に変貌する。

 ゴゴゴゴゥッ!

 ダカカッ!ダカカッ!ダカカッ!

 ザザゾンッ!ザザンッ!

 大きな光弾を一斉に降らせるホラー“ルテフォシモ”に、騎士は魔導馬を駆り、肉薄する。

 蹄が砂をえぐり、身の丈ほどの大きさになった牙狼斬馬剣が、光弾を紙細工のように切り裂いていく。

 文字通り人馬一体となり、“轟天”は華麗ながらも力強い足取りで、あるいは攻撃をよけ、背中の騎士が標的に攻撃しやすいようにスタジアムを駆け抜ける。

 騎士も長大な剣を平然と振るい、ホラーの光弾攻撃を次々叩き斬り、振り上げられた拳による大鎚のような一撃を剣の刀身を盾にするようにさばく。

 「すごい・・・!」

 呆然とバーナビーはつぶやいて。

 「あ・・・!」

 思い出した。

 バーナビーは、この光景を知っている。

 『黄金騎士のふるう剣が、怪物を引き裂きます。』

 『黄金騎士はもうボロボロです。光の扉を抜けた先にあったのは――。』

 懐かしい母の声を脳裏によみがえらせ、つうっとバーナビーの頬を涙が伝った時。

 「行くぞ!ザルバ!“轟天”!」

 『ガアアアアッ!』

 『リィィリリリリッ!』

 虎徹の力強い声がとどろき、その左の中指にいるザルバの口から金緑色の炎が吐き出され、騎士と魔導馬に装飾のようにまとわりつく。奥義“烈火炎装”だ。

 “轟天”のいななきが朗々とスタジアムに響き渡り、人馬は大きく跳躍した。

 『グガアアアアアッ!!』

 「うおおおおお!!」

 断ッ!

 ダカッ!ダカカッ!ダカカッ!

 裂ぱくの気合いと共に振り下ろされた長大な刀身は、ホラー“ルテフォシモ”を袈裟懸けに真っ二つにし、その隙間を縫うように、“轟天”にまたがった黄金騎士が、着地と同時に駆け抜けた。

 ボヒュッと空気の抜けるような音を立てて、ホラー“ルテフォシモ”はジェイクの姿に戻り、ドサドサッと土の中に倒れ伏した。

 「いやああああああ!!」

 甲高い絶叫がバーナビーとイワンの背後ではじける。

 いつ気が付いたのか、彼らのすぐ後ろで真っ青になったクリームが叫んでいた。

 「ジェイク様ぁぁぁぁぁ!!」

 「行ってはダメでござる!」

 半狂乱になったクリームが必死に“ジェイク”のもとに行こうとするのを、イワンは負けじと押しとどめた。

 フヒュッ。ガシャンッ。

 騎士が馬から降りた直後。煙が掻き消えるように魔導馬“轟天”はその姿を消し、同時に虎徹の体から“牙狼”の鎧が光となって剥がれ落ちる。

 「・・・っ・・・!」

 『虎徹!』

 やはり弱った体に鎧を身にまとうのはきつかったらしく、虎徹は崩れ落ちるように膝をついて、激しく息をついた。

 「あ・・・?」

 呆然と目を瞬かせ、ジェイクはようやく現状を認識した。

 「く・・・クリーム・・・?」

 自分は彼女を食らおうと。なんてことを。

 「悪い・・・愛してたのに・・・。」

 どうかしていたのだ。どうして自分の一部同然の、あのかわいい女を餌扱いしようと思ったのだろう?

 横倒しになった視界の中、必死に自分に手を伸ばしてくる彼女に、ジェイクは最後の力で手を伸ばし。

 ザザランッ。

 その姿は、白い砂と化して、スタジアムの地面に散らばった。

 

 

 

 

 パリン。

 シュテルンメダイユ地区全域を覆い尽くしていた薄紫の結界が消失したのは、まさにこの時だった。

 

 

 

 

 「いやぁぁぁぁぁぁ!!こんなの嘘よぉぉぉぉ!!」

 喉が張り裂けんばかりに絶叫してから、クリームはその細い体から意識を失わせ、クタリと倒れこんだ。

 「っ・・・やったか・・・。」

 「タイガーさん!」

 そのままうずくまった虎徹のところに、イワンはフェンスを飛び越えて駆け付けた。

 「・・・。」

 一応クリームを拘束し、バーナビーは惑いを乗せた視線を虎徹に向ける。どうしたらいいのかわからない。言いたいことがいっぱいあるはずなのに。

 フヒュッ。

 セシリーが張った人払いの結界が解けたのはまさにこの時だった。

 「! 人払いの結界が!」

 「ここは僕に任せて!二人は逃げてください!」

 とっさにバーナビーは叫んでいた。

 「かたじけない!バーナビー殿!感謝するでござる!」

 『ありがと!坊や!』

 『感謝するぜ!兎坊や!』

 急ぎ虎徹に肩を貸して担ぎ上げると、魔導具二つとともに礼を言いながら、イワンはスタジアムの通路に姿を消した。

 それを確認し、バーナビーはPDAを開く。

 逃亡しようとしたジェイクの判断ミスにより、ヘリが落とされた。

 逃亡経路が断たれたことによって、さらに錯乱状態に陥ったジェイクがバリア能力を暴走させた。しばらくスタジアムに立ち入れなかったのはそのためであること。

 第二能力の方は、錯乱状態にあったから使ってなかったが、落ちてきた天井とヘリの残骸に押しつぶされたジェイクは絶命。それを直視したクリームは意識を喪失。

 ざっとこんなところだろうか?

 頭の中でマスコミ向けのシナリオを考えながら、ハラハラしている様子の女プロデューサーに向かって彼は微笑んだ。

 「万事解決です。」と。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「ジェイク=マルチネス。所詮この程度か。」

 黒いソファにもたれてモニターを眺める、黒マントに黒フードを深々とかぶった男は、血のように赤いワインの入ったグラスを薄暗い明りにすかして楽しみながら、ぽつりと言った。

 「マーベリック。お前のプロデュース能力も低能の一言に尽きる。

  秘蔵っ子の正体見たり、ツギハギ兎。字余り。」

 “幽霊の正体見たり、枯れ尾花”というような調子で、男はワインに口づけた。

 「ああ、そのツギハギ兎を“製造”するように言ったのは私だったな。」

 コトリっと男はワインボトルの隣に、飲み干して空になったグラスを置いてから言った。

 「“牙狼”を仕留められなかったのは残念だが、今回はあきらめるとしよう。

  何、まだまだチャンスはある。」

 そのまま彼はリモコンを使って、いまだヒーローたちの勝利に沸くニュースを延々と流すモニターを消すと、ソファに横たわった。

 「ジェイク〈あれ〉に使った封魔剣は惜しいことをした。

  あの一本で“ホラー喰らい”への贄に、素体ホラー三匹分の価値はあったのだが。

  まあ、いい。」

 くくくっと肩を揺らして、彼は嗤う。

 「“女神”の降臨の時は近い。

  この、友切〈トモキリ〉と再び相見える時を楽しみにしているぞ、“牙狼”。

  そして。」

 くつっと彼は笑みを深めた。

 「その時が、貴様の最期だ。

  無様に殺してやろう。貴様の父にして、我が叔父であったあの男のようにな。」

 

 

 

 

 

 

 #10END

 GO TO NEXT! 




 よお!バーナビーを兎坊や呼びをしている方、ザルバだ。
 やれやれ。今回は強敵だったな。
 しかし、やっと親の敵を討つことはできても、
 兎坊やの残り時間はあとわずかだ。
 坊やの呪いを解くには紅蓮の森にある
 ヴァランカスの実が必要だが・・・。
 何?実を持ってるセシリーが渡そうとしないって?
 説得は無理そうだな。こりゃ力ずくしか・・・
 何?バルチャスで勝負して虎徹が勝ったら実をくれるって?
 次回、“生命”。
 生きる意志を見せろ。お前の人生はこれからなんだから。
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