牙狼バニ〈GAROBANI〉   作:亜希羅

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 いまさらながら、あけましておめでとうございます。それでは、第21話を投下します。
 冒頭はロリコン疑惑が持ち上がりそうなマーベリック。アニメでは光源氏疑惑でしたけど。
 一方、スタジアムではおじさんと兎がヒーローズとドタバタ中。
 おや?青薔薇さんの様子が・・・?
 このシリーズのヒロインって誰でしたっけ?
 ヒーローズが正気に戻って、楓ちゃんがどうしてここにいるのかという事情説明をしたところで、今度は牙狼VS絶狼。
 なかなか元に戻してあげられなくてごめんよ、イワン君。
 一件落着、めでたしめでたしとはいきません。隠し事はいつかバレるから隠し事というのです。一難去ってまた一難という所で次話に続きます。
 執事ェ・・・。


#21 転変

 叫断する魂、失われた絆を求めん。

 忘我の輩こそ、

 吼怒し、蹴散らすべし。

 参集せよ。参画せよ。

 

 

 

 

 ――魔戒詩編第二一九節より

 

 

 

 

  #21. 転変~いざ、決戦へ~

 

 

 

 

 マーベリックは気分転換に社内のリフレッシュエリアに出ていた。

 あの陰気な連中のいる社長室なんかにいたら、気が滅入るだけだ。

 缶コーヒーでも買って一息つこう。一昔前のコーヒーは泥水のようにまずかったが、最近のものはなかなか味も香りもいい。給湯室のコーヒーメーカーを使うのもいいが、たまにはいいだろう。

 缶コーヒーを飲み干して、社長室へ戻るべく廊下を歩いていると、見慣れぬ子どもがうろうろしていることに気が付いた。

 子ども?

 「あ・・・。」

 子どもと目があった。

 マーベリックはハッと息をのんだ。

 十歳くらいだろうか?くるくるの金髪のボブをセンターアップにした、エメラルド色の双眸の少女。白皙の美貌の、その顔は。

 「エミリー・・・。」

 思わずマーベリックは、今なお忘れられない愛する女性の名をつぶやいていた。

 そのくらい、彼女に似ていたのだ。

 「え?」

 「あ、ああ。すまない。」

 戸惑った様子の少女に、マーベリックは謝った。

 どうかしている。いくら似ているからって、赤の他人の名前で呼ぶなんて失礼だ。

 「お嬢さん、どうしたんだい?こんなところで一人で歩いて。」

「えっと・・・お父さんを探してるんです。忘れ物を届けてほしいって連絡があったから、届けに来たんです。」

 尋ねたマーベリックに、少女は答えた。

 人見知りするのだろうか、少し警戒している様子だ。

 マーベリックは安心させようと笑みを浮かべ、腰を折って少女の目線に合わせて言った。

 「それは偉いね。お父さんの部署はどこだい?おじさんでよかったら案内しよう。」

 「い、いえ、大丈夫です!ここで待ち合わせしてるから、いいんです!」

 大仰に首を振る少女に、マーベリックは待てよと考える。

 そういえば、最近は見知らぬ人について行ってはいけないという。少女の警戒も当然だろう。彼女にとって、自分は通りすがりなのだから。

 「そうか。すまなかったね。」

 微笑んで、マーベリックは手を伸ばし、身をすくませる少女の頭をできるだけ優しくなでた。

 「お父さんが早く来てくれるといいね。

  それじゃあね。」

 立ち上がり、マーベリックは再び歩き出した。

 彼は気が付かなかった。

 その背を先ほどの少女が鋭く睨みつけ、撫でられた頭をさもけがらわしいと言わんばかりに払うと、アカンベエしてすぐさま踵を返して駆け出したことに。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 シュテルンビルト某所にあるスタジアム。

 以前、ヒーローたちがジェイクとシックスマッチを行った、あの場所だ。

 中央のマウンドに、虎徹とバーナビーはいた。

 強い風が、虎徹の白いコートの裾をはためかせ、フェイスガードを上げたバーナビー(赤と白のヒーロースーツ姿だ)の前髪を揺らした。

 空はシュテルンビルトではなじみの薄曇りだった。

 「バニー、先に言っておく。」

 「何ですか。」

 背中合わせに立っている二人は、振り向きもせずに会話する。

 どこからヒーローたちがやってきても対応できるようにするためだった。

 「実は俺、能力が減退してる。

  詳しく計ったわけじゃないが、たぶん今、残り時間が四分切ってる。」

 「はあっ?!」

 ぎょっとしたバーナビーは虎徹に勢い良く振り向いた。

 「ちょっと!聞いてませんよ!」

 「いやぁ、正直それどころじゃなかったっつーか。」

 「何がそれどころじゃなかったんですか!」

 苦笑いして振り向いてきた虎徹に呆れ、すぐにバーナビーは前を向いた。

 そういえば、先ほどの戦いの最中、自分より後に能力を発動したはずの虎徹の方が、先に能力が切れてた。あれはそれが原因か。

 「・・・それが管轄付きを辞める理由ですか?」

 「・・・いや。」

 虎徹は首を振った。

「昔の魔戒騎士たちってスゲーよな。みんなNEXT能力なしでホラー退治してたんだぜ。いくら魔導力で補助してたって、限度があると思うのにな。」

 「・・・後でちゃんと話してくださいね。」

 おどける虎徹に、バーナビーはため息交じりに言った。

 「・・・ああ。」

 頷いて、虎徹は胸元を押さえる。

 空気の流れが変わった。

 否、二人を殺気が取り囲む。

 「よう、みんな。待ちくたびれたぜ。」

 顔をあげて、虎徹は不敵な笑みを浮かべて見せた。

 ホバリングするスカイハイ(虎徹は知る由もないが、マクシミリアンに刻まれたヒーロースーツは何とか修復できたらしく、いつもの姿だった。)。

 身構えるロックバイソン。

 炎を手に灯し、マントをなびかせるファイアーエンブレム。

 棍棒に電撃を纏わせ睨みつけてくるドラゴンキッド。

 ブルーローズだけが戸惑ったように、少し離れたところに立っている。一応フリージングリキッドガンは手にしているが、その狙いをこちらにつけることなく、ただこちらを見ているだけだ。

 「アニエスは挑発に乗ってくれたようだな。」

「いきなり公衆電話からあの人のケータイに、ここで待ってるなんて連絡入れたら当然です。あの人でなくとも乗りますよ、きっと。」

笑って言った虎徹に肩をすくめて、バーナビーはヒーローたちに向き直る。

「つーか、何にも言わねえのな。」

少しさみしげな顔をする虎徹だが、ヒーローたちは一言も何も言わない。

「多分、僕があなた側についたことで、あなたが精神系のNEXTだと思ってるんじゃないですか?

 下手に口きいたら、能力の影響に置かれると思ってるんでしょうね。」

「・・・俺、あいつらの前で思いっきり能力使ったから、パワー系だってバレバレだと思ったんだけど。」

「僕に言われても困ります。」

軽口をたたきあうが、二人とも内心は気が気ではない。

 斉藤とベンはバックアップに回っているため、実質的な戦力は虎徹とバーナビーの二人のみだ。

 しかも今回は純粋な戦闘ではなく、説得。本気で殺して来ようとする人間相手に、だ。

 「手筈通りいくぞ。」

 「はい。その後は、あなたと。」

 首を傾げた虎徹に、バーナビーは頷いて答えると、カシャンとフェイスガードを下した。

「イワンが来たら俺が相手をする。あいつは多分、俺を優先して攻撃してくるはずだ。その時は悪いが、俺はあいつの相手に徹する。」

 「はい。もし、暗黒騎士が来たら・・・。」

 「逃げろよ。お前が捕まって魔剣に殺されたら終わりだ。

  お前が助かることが、他のみんなの安全につながるんだから。」

 「・・・はい。」

 虎徹とバーナビーが最終的な確認をし終えた直後、ヒーローたちが動いた。

 「スカーイハーイ!」

 ゴッゴオウウウウゥッ!

 先手を打ってきたのはスカイハイ。

 風を巻き上げ、竜巻を二人めがけて放つ。

 キィンッ。

 ダダンッ!

 能力を発動した虎徹は、マウンドの土をえぐって左へ、未発動のバーナビーは右に跳ぶ。

 「やめてください、スカイハイ先輩!」

 「おいおい、スカイハイ!

  変わんねえな!」

 声を張り上げるバーナビーと、不敵な笑みを崩さない虎徹。

 「初めて会った時もそうだったな!

  俺が女を襲ってると勘違いして、いきなり攻撃だったな!」

 しゃべりながらスタジアムを駆け抜ける虎徹に、スカイハイは無言のまま風を撃つ。

 ビュゴッゴゴオウワッ!

 直撃すれば体を引き裂きかねない、真空の刃の連続攻撃だ。

 虎徹は白いコートをなびかせながら次々攻撃をよける。

 「情熱的だな!

  おまけに」

 ヒュガッ!

 背後から放たれた拳の一撃を、虎徹はかがみこむようによけ、そのままサイドロールで距離をとる。

 スカイハイが気を引いているうちに、ロックバイソンが押さえにかかってきた。

 「ナイス連携!」

 となれば当然。

 「ファイヤァァァァ!」

 「サアアアアッ!」

 移動してきたファイヤーエンブレムとドラゴンキッドの攻撃が挟み撃ちで虎徹を襲う。

 ヒュンパッ!

 ハンドレッドパワーと鍛え上げた反射神経は伊達ではない。一瞬のすきで攻撃から逃れ、スタジアムの客席に着地する。

「バイソンよぉ!パンチのキレが悪いぜ!高校のときは番長だったろうが!いかがわしい店で女どもをまとめてノしたのはまぐれか?あと、貸した21シュテルンビルトドル、いい加減返せ!2ヵ月だぞ2ヵ月!」

 怒鳴りながら虎徹はなおもスカイハイの真空刃攻撃を躱し、再びグラウンドに降り立ち、今度は掴み掛るバイソンの攻撃をよける。

 「てめえ!なんでそれを知ってやがる?!」

 「相手にしちゃだめよ、バイソンちゃん!」

 ギクッと身を震わせ、ようやっと答えたバイソンに、ファイヤーエンブレムの注意が飛ぶ。

 しかし、虎徹は不敵な笑みを崩さず、

「ファイヤーエンブレム!ゲイバーでホラーに頭からかじられそうになって、直火焼きにしてたろうが!そん時の炎はこんなにどす黒くなかったぜ!朝昼晩やってる脇と髭の手入れ、調子がよくねえんじゃねえか?!」

「な、なんでそれを?!」

ぎょっとしたファイアーエンブレムは攻撃の手を緩める。

「サアアアアッ!」

「ドラゴンキッド!あの髪飾りは両親から送られたものなんだろ?!大事にしてるんだろ?!一緒にベビーシッターやった夜に、ホラーに襲われて、俺と折紙に話してくれたじゃねえか!」

「ど、どうして?!」

電撃攻撃の手を止め、動揺するドラゴンキッド。

「スカーイ」

「サニーアップの目玉焼きの黄身をすするのが大好きなスカイハイ!俺んちに泊まりに来て、マックスに怒られてたろうが!」

 「な?!」

 風を巻き上げたスカイハイも、虎徹に怒鳴られ(ちなみに虎徹は省いたが、その泊りのときは愛犬のジョンも一緒だった。)、攻撃の手を止める。

 なぜ、この凶悪犯が、プライベートや大切な思い出を知っているのか。

 ヒーローたちの中にうすうすあった違和感が、徐々に大きくなっていく。

 

 

 

 

 「ブルーローズ先輩。」

 「っ・・・。

  な、何よ。」

 虎徹が四人のヒーローをひきつけている間に、バーナビーはブルーローズと対峙していた。

 「あ、あいつに何吹きこまれたか知らないけど、目を覚ましなさいよ!

  あいつは」

 「黄金騎士“牙狼”。誇り高き魔戒騎士の末裔。

 ばれたら自分の命が危ういのに、僕たちのような魔戒騎士のことを知る人間を放置する、お人よし。そんな人間が他人をホラーの餌に使うはずがない。

 ・・・僕にそう怒ったのは、先輩、あなたですよ。」

「あ、あれは・・・。」

バーナビーの言葉に、ブルーローズは言いよどむ。

 「そういえば、あれ、まだ持ってるんですか?」

 「え?」

 「虎徹さんがあげてたじゃないですか、悪趣味な柄のタオル。」

 「!」

 「あれに何て書いてあるか、知ってますか?

  “鏑木酒店〈カブラギシュテン〉”だそうですよ。」

 ここでバーナビーは言葉を切ると、自信たっぷりに笑う。

「おかしいじゃないですか。どうしてあのタオルに虎徹さんのファミリーネームが書いてあるんですか?友切とかいう男が、何で暗黒騎士の名前の入った粗品をあなたにあげるんですか?」

 「そ、れは・・・。」

 「まあ、忘れたままでいいというなら、いいですよ。」

 バーナビーはこれ見よがしに首を振って見せた。

「ライバルが減るのはありがたいですから。これで心置きなくあの人を口説き落とすことができます。」

 バーナビーの言った“あの人”は虎徹のことだ。

 ブルーローズはすぐさまわかった。そうして思った。

 そんなの――!

 「ダメよ!あんたばっかりずるいわ!私だってタイガーのことが」

 怒鳴りかけてハッと彼女は口をつぐんだ。

 タイガー。そうだ。

 「わ、たし・・・。」

 「どうやら思い出したみたいですね。」

 みるみる青ざめていくブルーローズに、バーナビーは息をついた。

 

 

 

 

 虎徹から逃亡中の様子などを聞いて、自分がブルーローズの説得をすると言い出したのはバーナビーの方だ。挑発するような言いぐさをすれば乗ってくるかもしれないと思ったが、まさしくその通りだったらしい。

 

 

 

 

 ――やれやれ、敵に塩を送るなんて。

 ライバル復活ということになるので、同じ人間を想いあっている人間としては、バーナビーは少々複雑だった。

 「嘘・・・何これ?

  なんで私、タイガーのことを忘れてたの?!」

 ショックを受けてる様子で頭を抱えるブルーローズに、バーナビーはどう声をかけたものかと迷う。

 改竄された記憶が戻るショックは、彼には痛いほどわかる。

 しかし、バーナビーが声をかけるタイミングは失われることになった。

 

 

 

 

 ヒュンガッ!

 ヒーローたちが精神的動揺で動けなくなっているところに、目にもとまらぬ速度で、黒い影が飛び込んできた。

 「っ!」

 見逃す虎徹ではない。

 素早くコートから取り出した丹塗りの鞘の退魔の剣を抜刀ざまに、振り下ろされた銀色の閃き――退魔の双剣を受け止める。

 ギィンッ!

 「殺す!」

 「折紙!」

 血走った眼のイワンに、虎徹は怒鳴った。

 「目を覚ませ!折紙!」

 「殺す殺す殺す!黄金騎士!殺す!」

 イワンはがなり立てながら、次々退魔の双剣を繰り出す。

 フヒュッ。

 虎徹のNEXT能力が時間切れを迎えたのは、この時だった。

 「うぐっ・・・!」

 苦痛をこらえながらも、虎徹はそれらを退魔の剣でさばきながら、呼びかける。

 「魔戒騎士は“守りし者”だ!

  たがいに剣を向けあう必要はねえ!」

 「うあああああ!」

 ガギャッ!ギンギンギィンッ!

 スタジアムを駆け抜けながら剣撃を繰り出しあう二人に、先に我に返ったのはロックバイソンだった。

 「今のうちだ!ハンサムを元に戻すぞ!」

 「そうだったわね。」

 「折紙さん、大丈夫かな?」

 「バーナビー君!今助ける!」

 それを皮切りに、ヒーローたちは座り込んだブルーローズとバーナビーのもとへ向き直った。

 

 

 

 

 「っ!

  虎徹さん!」

 「え?嘘?!

  なんでタイガーが折紙と戦ってんのよ?!」

 イワンの乱入に、ぎょっとするバーナビーと、顔をあげて息をのむブルーローズ。

 すっかりそれに気を取られた二人は、四人のヒーローたちが向かっていることに気が付くのに遅れた。

 「ハンサム!」

 「しまっ」

 ボウンッ!

 ファイヤーエンブレムが投げつけた火球がとっさにガードしたバーナビーのアームガードに当たり、霧散する。(さすがは斉藤謹製の優秀なスーツだ。装備者のバーナビーはノーダメージで済んでいる。)

 身動きを止めたバーナビーにすかさずバイソンが掴み掛った。

 「やめてください!バイソン先輩!

  虎徹さんのことを思い出してください!」

 「バーナビー君は操られているんだ!」

 何とか攻撃を躱し、逃げ回りながらのバーナビーの説得に、スカイハイが叫ぶ。

 「違うわ!」

 負けじと立ち上がったブルーローズが叫ぶ。

 「思い出しなさいよ!ホラーに襲われた私たちを助けてくれたのは?!

 時々事件に首を突っ込んできたのは?!あんな黒ずくめの怪しい奴じゃなかったはずよ!」

 「ブルーローズまで・・・!」

 信じられない、とドラゴンキッドは痛ましげに顔をゆがめる。

 「仕方ないわね。」

 グリュッ!

 「きゃあッ!」

 痛ましげな声とともに、ファイヤーエンブレムがブルーローズに駆け寄り、その腕をひねり上げた。

 これではフリージングリキッドガンを扱うことはおろか、ファイヤーエンブレムの火炎の前に彼女の氷の能力は封じられたも同然だ。

 「仕方ない!そして仕方ない!」

 バウッ!

 スカイハイが風を操り、バーナビーを捕えようとする。

 「くっ!」

 キィン。

 バーナビーは能力を発動させ、スカイハイの連続攻撃をよける。

 「バーナビーさん!目を覚まして!」

 バヂバヂバヂッ!

 「ドラゴンキッド先輩!」

 百倍の身体能力で雷撃をよけ、バーナビーは呼び掛ける。

 諦めない。あの人が負けずに戦っている。絶対に自分もあきらめない。

「ベビーシッターの時!誰があなたにミルクの作り方とおむつの替え方を教えたんですか?!」

 「トモキリだよ!思い出してよ、バーナビー!」

 麻痺する程度に加減した電撃を放つドラゴンキッドに、バーナビーは怒鳴る。

 「あいにく僕は正気です!それより考えるんです!

  なんであの人がそんなことを知ってるんですか?!」

 「え?」

 何のことかわからず、ドラゴンキッドは攻撃を止める。

 「あの人は独身のはずでしょう!」

 「え・・・あ・・・あれ?」

 急に頭の中の記憶の歯車がかみ合わなくなり、ドラゴンキッドは構えを解く。

 もう一押しだ。

 バーナビーが次の言葉を言おうと口を開くより早く。

 バウッ!

 ドッザザァァァァンッ!

 「わあああ?!」

 「捕まえたぞ!」

 スカイハイの起こした風に乗り、弾丸のように飛んできたロックバイソンが、バーナビーを地面に押し倒したのだ。

 「許せよ、ハンサム。」

 バーナビーが能力任せにバイソンを振りほどこうとするより早く。

 カチャンと軽い音を立ててバーナビーの左手首に手錠の輪がかけられる。

 フヒュッ。

 スーツに内蔵されたカウンターはまだ余裕を残しているにもかかわらず、バーナビーの能力は唐突に終了してしまった。

 「なっ?!」

 「能力制御錠だ。あのゲス野郎用だったが、仕方ない。」

 驚いたバーナビーを押さえつけたままロックバイソンは苦り切った調子で言った。

 「すぐに友切のところへ連れて行ってやる。あいつならお前を元に戻せるはずだ。」

 何でもない調子でそう続けたバイソンだが、バーナビーはフェイスガードの下で目を剥いて暴れようとした。

 冗談じゃない。あの暗黒騎士のところへ連れて行かれようものなら、今度こそ記憶を完全に書き換えられる。いや、そればかりか、生贄として殺されるかもしれない。

 何としても脱出しなければ!

 「無駄だ、ハンサム。ハンドレッドパワーのないお前に、俺の拘束は解けねえぞ。」

 「暗黒騎士は友切の方なんです!目を覚ましてください!

  あいつのところに連れて行かれたら僕は殺される!」

 「そんなわけないだろう!」

 必死に説得しながらも暴れようとするバーナビーだが、ロックバイソンは頑として耳を貸さない。

 

 

 

 

 バーナビーは知らない。

 アントニオと虎徹の関係を知る友切が、ロックバイソンに関しては特に念入りに改竄するよう、マーベリックに要求し、彼がそれを聞き入れたことを。

 

 

 

 

 「ファイヤーエンブレム!お願い!

  タイガーのことを思いだして!タイガーは無実よ!

  この事件を調べ直して!」

 ブルーローズは叫ぶが、ファイヤーエンブレムは黙したままだ。

 聞き入れようとしてないのは、拘束している手を緩めないことからも明らかだろう。

 「バニー!ブルーローズ!」

 二人の危機に、イワンと切り結んでいた虎徹も気が付くが、イワンにすかさず切り込まれ、剣筋を防御するので精いっぱいだ。

 「クソッ!イワン!聞け!

  バニーの身が危ないんだ!」

 「殺す!」

 虎徹はイワンに叫ぶが、イワンが攻撃の手を緩めることはない。

 進退窮まるとはこの状態をいうのだろう。

 どうする?!

 虎徹がイワンの攻撃をはじきながら考えようとした時だった。

 パタパタ・・・!

 軽い足音とともに、誰かがスタジアムに駆け込んできた。

 「やめてぇぇぇ!」

 駆け込んでくるなり彼女は叫ぶ。

 頬を紅潮させ、肩を上下させる、日系らしい十歳ほどの少女。

 「か、楓?!ウワッ!」

 その姿を見るなりぎょっとする虎徹だが、目の前に迫るソウルメタルの刃をのけぞるようによけきった。少しでもタイミングが遅れたら、彼の脳髄は頭蓋骨とおさらばする羽目になっていただろう。

 イワンによそ見させる気はさらさらないらしい。

 スタジアムに駆け込んできた楓が見たのは。

 父の無実を叫ぶバーナビーとブルーローズが捕らわれ、当の父は黒コートの少年と切り結ぶありさまだった。

 「お父さんを」

 ヒュウッと楓の喉が鳴る。

 「捕まえないでぇぇぇ!」

 キィン。

 キュパパパパァァァンッ!

 楓の絶叫とともに、その体がシアンの光を帯び、そこから飛び出したいくつもの光球が、次々とヒーローたちに吸い込まれていく。

 「あ・・・?」

 つぶやいたのは誰か。

 呆然とした四人のヒーロー。

 ファイヤーエンブレムの力の抜けた手から離れ、ブルーローズは一息ついた。

 「嘘・・・。」

 「そんな・・・。」

 「これは・・・。」

 「マジかよ・・・。」

 呆然とつぶやいたドラゴンキッドは棍を取り落し、座り込む。

 スカイハイはホバリングからへなへなと地面に降り立った。

 ファイヤーエンブレムは唇をわななかせ、ロックバイソンはバーナビーを抑え込んだまま愕然とした。

 本来の記憶を取り戻し、自分たちの行いにショックを受けているらしい。

 「・・・とりあえず僕の上からどいて、この手錠を外してください。」

 憮然とバーナビーが言った。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 さて、ここで少し時を戻そう。

 アポロンメディアのビルから脱出した楓は、秘薬の効能が失われ、再び彼女本来のものとなった顔を隠すべく、フードをかぶり直した。

 ガルンッドッドッドッ・・・。

 「うまくいったわネ?」

 楓の隣に並ぶバイクと、そこにまたがったライダースーツ姿に、青い猫耳ヘルメットをかぶった女性――声からしてセシリーとわかった――の問いに、楓はコクリと頷いた。

 「乗っテ!虎〈ティーゲル〉たちのところへ行くわヨ!」

 「うん!」

 投げ渡されたヘルメットをかぶり直し、楓はバイクにまたがり、セシリーの背につかまる。

 ちなみに、セシリーは非NEXTなので、接触することで書き換えられる楓の能力が別の能力に書き換えられることはない。

 二人の乗るバイクはすぐさま道路を走り出した。

 「お父さんたち、どこにいるのかわかるの?!」

「さっきHERO TVの中継が始まったノ。スタジアムでバーナビーと一緒に待ってるっテ!」

「バーナビー様が?!」

「様・・・。」

 思わずセシリーは鼻白んだ。

 虎徹のレジェンドに対するリスペクトにしてもそうだが、あこがれの人をそこまで崇拝する気持ちを、彼女には理解できない。

 何とか気を取り直して彼女は続ける。

「それから、斉藤から連絡があったワ。あいつ、無茶やってバーナビーの記憶を元に戻したそうヨ。」

 後で一発殴ってやる。

 声には出さずにセシリーは内心で拳を握りしめた。

 「ヒーローたちも説得する気なんでしょうけど・・・二対五ヨ?むちゃくちゃだワ。」

 「早く元に戻さないと・・・。」

 セシリーにつかまる手にギュッと力を込めて、楓はつぶやいた。

 「みんな揃ってハッピーエンドが一番、カ。」

 「え?」

 ぽつりとセシリーが言った言葉に、楓はミラーに映る女魔戒法師の顔を見た。

 「昔ね、あいつがそう言ってたノ。

  あの時はきれいごとだって思ったけど・・・確かにその通りよネ。」

 ハンドルを握り直し、彼女は笑った。

 

 

 

 

 スタジアムの近くは、警官たちに包囲され、マスコミの報道も詰めかけている。二人の乗ったバイクは、人目を避けて、マクシミリアンと待ち合わせている路地裏に向かった。

 路地裏にある寂れたバーの前では、フライトジャケットにジーンズをはいて、キャップを深々とかぶった背の高い日系の青年が人目を避けて佇んでいた。

 「お待たセ。」

 バイクから降り、楓を連れたライダースーツ姿のセシリー(猫耳ヘルメットはつけたままだ。)が駆け寄ってきたところで、彼はキャップを脱いだ。

 「マクシミリアンさん!」

 「御無事で何よりです。お嬢様。」

 懐から取り出した眼鏡(ダテ眼鏡らしい。)をかけ直し、マクシミリアンはにっこりほほ笑んだ。

 「こっちは完了。そっちはどウ?」

「うまくいきました。効力が現れるのには、少々時間がかかるでしょうが、まず問題ございません。」

 ヘルメットを脱いで銀髪を下しながら尋ねたセシリーに、マクシミリアンは微笑みながら答える。

 ふと、楓にはマクシミリアンのその笑みがいつも彼が浮かべている柔和な物とは異なり、人が悪そうに見えたが、まあいいかと流すことにした。

 「静流様は合流に時間がかかるので、先に行ってほしいとのことでした。」

 「そうネ。行きましょウ。」

 ババサァッ!

 頷きあって、二人は自分の服に手をかけると一気に脱ぎ払う。

 現れたのは、いつもの黒い狩衣と燕尾服。

 ――マンガみたいだなぁ。

 半ば呆然としている楓がこっそりそう思ったとか。

 

 

 

 

 どうにか人目を避けて、三人はスタジアムの前に駆けつけることに成功した。

 しかし。

 ジャギギンッ。

 「止まれ!その娘をこちらに引き渡してもらおうか!」

 怪しげな黒服の集団が機関銃を手に、三人を待ち構えていた。

 「セシリー様。申し訳ございませんが、お嬢様を連れて先に行ってください。」

 ギッと手袋を黒い革製のものにはめ直し、一歩踏み出しながらマクシミリアンが言った。

 「今、旦那様を助けられるのはお嬢様だけです。

  そして、お嬢様を守るのは執事の務め。御心配なさらずとも、後で必ず追いつきます。」

 不安そうに見上げてくる楓を安心させようとほほ笑み、マクシミリアンは言った。

 「絶対だよ!」

 楓は叫んだ。

 「はい。後で一緒に旦那様を叱りましょう。あんまり心配させないでください、とね。」

 振り返ってにっこりほほ笑む執事にうなずいて、楓は身構える。

 「じゃあ、後は任せるわ、執事〈バトラー〉。」

 セシリーが腰のポーチに手を突っ込んだところで、引き渡す様子の見えない三人に焦れたのか、機関銃の銃口が向けられる。

 「う」

 ヒュパッ!ガカァッ!

 黒服集団の指揮官らしい男が撃てと叫ぶより早く、ポーチから引き抜かれたセシリーの手が何かを男たちめがけて投げつけた。

 閃光手榴弾だったらしく、両集団の狭間で炸裂したそれはまばゆいばかりの光をまき散らし、視界をつぶす。

 「クソッ!撃て撃て!」

 ガガガガガンッ!

 銃声がこだまするが、その時には目をこする楓を担ぐセシリーが、黒服集団に背を向けて、スタジアムに駆け込んでいた。

 キュパルッ・・・!

 光がやんだ直後、何かが鋭く空気をこすり上げる音がした。

 瞬間。

 ギギギンッ!

 黒服集団のうち数名の抱える機関銃が真っ二つに切断された。

 「確かこういう場合、ふさわしいセリフがありましたね。」

 右手から伸びる単分子ワイヤーを手繰り、執事は不敵に笑った。

 「小便は済ませたか?神様にお祈りは?

  がたがた震えて命乞いする心の準備はOK?」

 逆光でメガネのレンズだけを白く光らせる執事のシルエットに、黒服集団が震えあがったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 「楓〈アホルン〉。先行ってくれル?」

 担いでいた楓(何とか視力は回復した)を下し、セシリーは魔戒旗を取り出しながら言った。

 「セシリーさん?」

 「ちょっとお客さんを歓迎しなくちゃいけなくなったノ。」

 セシリーの言葉に応えるように、柱の影や通路のわきから、黒いローブにつるりとした仮面を纏ったような人影がずるずると出てきた。

 楓は知る由もないが、これらは魔戒の人型の起動兵器――号竜人だ。

 どうやら敵も、虎徹を排除するためなら、手段を選ぶ気はないようだ。しかし、セシリーとて譲る気はない。

 亡き戦友との約束のためにも、自身のエゴのためにも。

 「さあテ!願いましてハ!」

 駆け出す楓を背に、セシリーは魔戒旗を振りかざし、槍を振り回して突進してきた号竜人たちを蹴散らし始めた。

 

 

 

 

 楓がスタジアムの入り口を見つけ、駆け込んだのはこの約数分後だった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 現在。

 ガギャッ!ギィン!ギンギンギィン!

 「な、なんで?!」

 楓が驚いた声を上げた。

 鋭い剣撃の音は、虎徹とイワンの武器が打ち合う音だ。

 ハッとヒーローたちが一斉にそちらに視線を向けると、虎徹と悪鬼のような形相のイワンが互いの武器を打ち合い、縦横無尽にスタジアムを駆け回っていた。

 「どうして?!マーベリックとかいうやつの能力は解除したはずなのに!」

 「呪いです!」

 叫んだ楓に、手錠を外してもらったバーナビーが叫ぶように説明した。

 「イワン先輩は強力な、精神に作用する呪いをかけられているらしいんです!

  正気じゃないんです!」

 「何だって?!」

 スカイハイをはじめとしたヒーローたちは驚く。

 「やめてよ!折紙さん!タイガーと戦わないで!」

 ドラゴンキッドが叫ぶが、イワンは聞こえているのかいないのか、虎徹から距離を取り、両手の剣の切っ先を頭上に向けた。

 ヒョウッバァンッガシャン!

 「チっ!」

 ヒョウッバァンッガシャンッ!

 銀色の鎧を召喚して身に纏うイワンに、虎徹も舌打ちして、自身の鎧を召喚して身に纏う。

 ガギィンッ!

 牙狼剣と銀狼剣が火花を散らしてかみ合う。

 ――金色・・・!

 楓は鎧を目にして大きく息をのみ、それを見つめた。

 こんなときじゃなければ見惚れていただろう。それぐらい、美しい造形だった。

 ガギャンッ!ギンギギギィンッ!

 再び剣がうなりを上げ、先ほどなど比べ物にならない勢いで斬り合いが始まる。

 「折紙!しっかりしろ!」

 「うあああああっ!」

 虎徹の呼びかけにも、イワンは咆哮しか上げない。

 ガギンッ!ギャオルッ!

 距離をとって柄を合わせ、ブーメラン状となった銀狼剣をイワンはそのまま投げつけた。

 虎徹は回転しながら飛んできたそれを牙狼剣を投げつけ叩き落とし、剣の後から迫ってきたイワンの拳をガードする。

 ズガァンッ!

 びりびりと空気が震える中、今度は拳や蹴りをぶつけ合い、両者は戦い始めた。

 ガギャンッギンギィンッギャギャンッ!

 頭上から響く鋭い音は、空中で回転しながらぶつかり合う銀狼剣と牙狼剣だ。

 持ち主の気迫に負けない勢いで、互いをへし折らんばかりにぶつかりあっている。

 ヒュバシッ!

 イワンの拳を包み込むように受け止め、虎徹は何度目かの呼びかけをしようとした時だった。

 ビギンッ。

 「うぐ・・・!」

 突如、虎徹が動きを止めてうめいた。

 刻印の侵食で激痛が走ったのだ。

 見逃すイワンではない。

 ズダァンッ!

 「がああああっ?!」

 強烈なアッパーが入り、虎徹の体は宙に浮いた。

 ガシャンッ。ドザァ!

 「ぐう・・・!」

 衝撃で鎧は外れ、砂の中にあおむけに倒れこんだ虎徹は苦痛に呻く。

 ガギンッ!

 銀狼剣に押し負けた退魔の剣が彼の顔のすぐ隣に突き刺さる。

 「ウアアアアアッ!」

 手元に戻ってきた銀狼剣を振りかざし、イワンは止めを刺そうと駆けだした。

 「やめるんだ!そして正気に戻りたまえ!折紙君!」

 ビュッゴオオウワッ!

 ついに見ていられなくなったスカイハイが動いた。

 風を巻き上げ、銀色の騎士を空中に浮かび上がらせる。

 「邪魔を、するなぁ!」

 ボウワッ!ゴッグウワゥッ!

 鬼気迫る声で叫ぶと、イワンは取り出した魔導火を銀狼剣に宿し、スカイハイめがけて蒼白の炎の衝撃波を放った。

 「うわあ!」

 悲鳴を上げながらもスカイハイは何とか衝撃波をよけた。

 ガッドゴォォォォンッ!

 客席に炸裂したそれは、席を吹き飛ばし、コンクリートや鉄骨を巨大な斬撃の形にえぐる。

 「迂闊に手を出さないデ!」

 いつやってきたのか、楓の隣に立ったセシリーが叫んだ。

 「今のイワンは邪魔する奴なら即行で斬り捨てるワ!

  鎧に触るのもダメ!そんなことしたら手が弾け飛ぶわヨ!」

 イワンを押さえつけようと機会をうかがっていたロックバイソンとバーナビーはぎくりと肩を震わせた。

 風の拘束から逃れたイワンは地面に降り立ち、何とか立ち上がり、剣を構え直す虎徹に斬りかかろうとして。

 『イワン。聞こえるか?』

 突如、スタジアムに設置されたスピーカーから聞こえてきた声に、虎徹の前で銀狼剣の刃を寸止めした。

 機械越しなので、多少音が変わっているが、その声にバーナビーは聞き覚えがあった。

 「エドワード=ケディ?」

 思わずその名をつぶやくバーナビーをよそに、スピーカー越しに声は続ける。

 『お前の状況は家政婦さんから聞いた。

  すまない。お前が大変な時に助けに行ってやれないなんて、親友失格だな。』

 悲しそうな様子で、声は続けた。

 『けど、俺は信じている。お前は、自分で思ってるよりも強い奴だ。

  魔戒騎士は“守りし者”なんだろ?お前なら、きっとどんな苦境も乗り越えられる。』

 ガチガチガチ・・・!

 エドワードの声に、銀色の騎士の構える銀狼剣の切っ先が細かく震え始めた。

 『イワン。今度は俺の方から言う番だ。

  ・・・待っているからな。お互いに胸を張って会える時を。』

 『虎徹!今だ!』

 ザルバが叫ぶまでもなかった。

 ギャオッギドンッ!

 「うわああああ?!」

 空気をこすり上げ、生身の虎徹が放った弾丸のような突きは、イワンの胸を直撃し、その体躯を吹っ飛ばした。

 ガシャンッズガシャアッ!

 「うあ・・・!」

 衝撃で鎧が外れ、砂の中に倒れこんだイワンは、両脇に落ちた退魔の双剣を手に取ることなく、胸元を押さえてうめいた。

 ピャッ!

 その頭に剣を突き付けながら、虎徹は肩で息をしていた。

 「いたたた・・・すみません、タイガーさん。」

 顔をあげたイワンは、申し訳なさそうに言った。

 その眼から先ほどの殺気も、鬼気迫る空気も消え失せ、ただ申し訳なさと戸惑いを乗せていた。

 「正気に戻ったか。」

 「はい。」

 頷いて立ち上がると、彼はコートのポケットからシルヴァを取り出した。

 「ごめんよ、シルヴァ。もう大丈夫。」

 『イワン!本当によかった!』

 心底ほっとした声を出して、シルヴァは続けて言った。

 『タイガー、イワンを助けてくれてありがとう!』

 「礼ならエドワードに言ってやれ。あいつのメッセージがなかったら、やばかった。」

 剣をどかして、丹塗りの鞘にしまいながら言った虎徹に、イワンはうなずいた。

 「タイガー!折紙!」

 「ワイルド君!折紙君!」

 「虎徹!イワン!」

 口ぐちに魔戒騎士たちの名を叫びながらヒーローたちが駆け寄ってきた。

 「みんな!」

 ほっとした顔をする虎徹に、ヒーローたちはいっせいに謝った。

 「すまない!ワイルド君!」

 「タイガー!ごめんなさい!」

 「悪かったわね、タイガー。」

 「虎徹!本当にすまん!」

 「ごめんなさい、タイガー。」

 「いいんだよ、思い出してくれたら。

  記憶を書き換えられてたんだから、お前らは悪くねえよ。」

 笑って許す虎徹に、ヒーローたちも肩の力を抜いた。

 「お父さん!」

 「楓!」

 ヒーローたちを押しのけ、飛び込んできた娘を、虎徹はとっさに抱き留めた。

 「お父さん無事?!怪我はない?!」

 「なんでここに?!」

 不安そうに見上げてくる娘に、虎徹は目を白黒させる。

 その問いに答えたのはセシリーだった。

 「あら、あんたを助けに来たにきまってるじゃなイ。」

 ここでセシリーはにやっと意地悪そうに笑い、続けた。

「安心なさイ。魔戒騎士のことはしっかりばれてるし、さっき鎧つけたところもきっちり見られたかラ。」

「どこをどう安心しろと?!」

 ツッコミを入れる虎徹は顔をひきつらせていた。

 「パパ?」

 「は、はい!」

 身を離して低い声で呼びかけてきた楓に、反射的に虎徹は気をつけ!と言わんばかりに姿勢を正した。

 「おばあちゃんから全部聞いたんだからね!どうして黙ってたの?!」

「い、いや!話したら、ホラーに狙われていろいろ危ない目に遭うかもしれないし、魔戒法師の修行を受けさせなくちゃいけなくなるかもしれなかったから・・・。」

 ごにょごにょと言い訳する虎徹だが、娘は容赦しなかった。

「知らない方が危ないわよ!それに、そういうことは私に決める権利があるはずでしょ?!」

「う・・・はい・・・。」

怒られて悄然とする虎徹に、ザルバがからからと笑った。

『最強の魔戒騎士“牙狼”も、娘の前には形無しだな!』

「う・・・うっせぇ!」

とっさに左手を持ち上げ、悪態をつく虎徹。

それを皮切りに、ヒーローたちもくすくすと笑いだした。

「タイガー、カッコわるぅ。」

「ほんと。でもらしいといえばらしいわね。」

ドラゴンキッドとブルーローズが笑った時だった。

「遅くなって申し訳ございません。」

遅れて登場したマクシミリアンが歩み寄ってきた。

「おう、マックス・・・?!」

振り向いた虎徹は、執事の姿に大きく目を見開いた。

「かすり傷ですよ。少々腕の立つ大道芸人と遊んでおりまして。」

眼鏡を押し上げる執事は、燕尾服のあちこちに切り傷を作っている。

「マクシミリアンさん、大丈夫?!」

「手当は済んでおりますので、ご心配なく。」

青くなった楓に微笑み、マクシミリアンは虎徹に目を向けた。

「・・・何かおっしゃることはございませんか?“旦那様”?」

「心配かけて悪かった。」

最後の一語に謎の威圧感を込めた執事に、主人は即行で頭を下げた。

「イワンさん!虎徹さん!」

マクシミリアンに続いて登場したのは、カーディガンとスラックス姿の静流である。

「静流さん!?」

「アッバスまでエドワードさんに会いに行ってたら遅くなってしまって。

 すいませんでした。」

 目を瞠るイワンに、静流は息を切らして謝った。

「エドワード・・・?

 ! さっきのメッセージですか!?」

イワンの問いに、静流はうなずいて、手の中のボイスレコーダーを見せた。

「とても心配してましたよ。」

「・・・ありがとう、静流さん、エドワード。」

感極まって目を潤ませながらイワンはそう言った。

「助かったぜ、静流。」

「礼を言うのは私の方ですよ。ありがとうございます、虎徹さん。」

向き直って礼を言う虎徹に、静流は微笑む。

「ところで、これからどうするの?」

 ひとしきり喜び合って落ち着いたところで、口をはさんだのは、ファイヤーエンブレムだった。

 「タイガーの指名手配を何とかしないといけないんでしょうけど・・・。」

 「ご心配なく。」

 口をはさんだのはマクシミリアンだった。

 「今頃旦那様を追い回すどころではなくなってるはずですよ。」

 カチリと眼鏡を押し上げながら言った執事に、虎徹以外の全員が頭上にクエスチョンマークを飛ばした。

 この執事、別行動をするとセシリーと楓、静流に宣言はしたが、行動内容について明言まではしてなかったのだ。

「マックス。」

冷や汗をダラダラ流しながら、虎徹は問いかけた。

 虎徹は知っている。日ごろ穏やかなこの執事を怒らせることほど、怖いことはないということに。

 「お前、何をやった?」

「旦那様が貸を作ったハッカーの数名ほどに依頼して、アポロンメディアのサーバーと、CEOのPC〈パソコン〉をハッキングして、中のデータを司法局と警察局にリークしていただきました。」

 ビシィッ!

 音を立てて全員が石化した。

 「いやぁ、面白かったですよ。

  サーバーの方は、山のような使途不明金と、横領用の裏帳簿が発見されまして。

  プウィッターとニクシィの方にもアップするよう手配させていただきました。

 CEOのPCの方は、例の音声データのオリジナルが見つかったので、そちらはヨウツベにも上げるようにいたしました。これでもみ消そうとしても無駄です。」

 人の悪い笑みと共にすらすら述べる執事に、全員が思った。

 アポロンメディア、オワタ。

 「今頃強制捜査が入って、テレビ中継どころではなくなってるはずですよ。」

 「執事さん・・・恐ろしい人・・・!」

 つぶやいたのは誰か。

 いずれにせよ、その場にいた全員の胸中を代弁したことは間違いなかった。

 

 

 

 

 マクシミリアンの言葉は的中した。

 警察局も司法局も、マーベリックの息がかった人材を拘束し、アポロンメディアに強制捜査に入っていた。

 当然、OBCのスタジオも抑えられ、プロデューサーであるアニエスをはじめとしたスタッフも拘束、HERO TVは中継どころではなくなってしまったのだ。

 

 

 

 

 ピピピピッ。

 バーナビーを除いたヒーローズ全員のPDAがけたたましく鳴り出した。

 『ヒーロー諸君。』

 ウィンドウに出たのは、ヒーロー管理官のユーリ=ペトロフだった。

 色の悪い顔を険しくゆがめ、彼は続けた。

 「ペトロフ管理官?」

『司法局に届けられたデータから、サマンサ=テイラー殺害事件における鏑木氏の容疑は、冤罪である可能性が高くなりました。

 急遽、ヒーロー活動を停止してください。聞き入れない場合は、傷害・殺人未遂容疑による拘束も視野に入れます。』

 「わかってます。」

 ファイヤーエンブレムのウィンドウを覗き込んで、フェイスガードを上げたバーナビーが頷いた。

「アルバート=マーベリックは記憶改竄のNEXTでした。ぼ・・・いえ、私たちの記憶もいじられてましたが、今は本来の記憶を取り戻しました。」

 『・・・そうですか。よかった。』

 事情を説明したバーナビーに、ユーリはほっとしたようにうなずいた。

 『とにかく、警察関係者がそこに行くまでそのまま待機しておいてください。

  よろしいですね。』

 そう言い残し、通信は切れた。

 「シルヴァ、後で斉藤さんに直してもらうから、もう少し待ってて。」

 『ええ。』

 カチリとシルヴァが答えたところで、イワンは今度はそっとポケットに彼女をしまい、退魔の双剣を拾い上げた。

 「バニー。」

 ここで虎徹は覚悟を決めたように口を開いた。

 「楓も。話さなければならないことがある。」

 二人を見回して、虎徹が続きを言おうとした時だった。

 ビャオッダァンッ!

 砂柱を立て、黒と赤のコントラストのヒーロースーツを纏った人物がスタジアムに飛び込んできた。

 路地裏で虎徹を襲ったアンドロイドだ。

 「アンドロイド!」

 「みんな、逃げろぉ!」

 顔を引きつらせるバーナビーと虎徹が叫んだ。

 キュバゴッ!

 「うわあああ!」

 「きゃあああ!」

 「ぐえええ!」

 しかし一同が動く間もなく、アンドロイドは目にもとまらぬ勢いでヒーローたちを蹴散らし、バーナビーを後ろ手にひねり上げる。

 「うああああ?!」

 「バニー?!クソッ!」

 虎徹はとっさにコートから取り出した退魔の剣を抜刀ざまに斬りつけようとするが。

 「うっ!?」

 ダゴォッ!

 「ぐああ?!」

 「お父さん!」

 バーナビーを盾にされ、ひるんだところを、強烈な蹴りをくらい吹っ飛ばされてしまった。

 そのままアンドロイドはもがくバーナビーをものともせず、背中のバーニアを使って大きく跳び上がり、スタジアムに設けられた高い位置にある客席の一角に降り立つ。

 「バニー!」

 「虎徹さん!みんな!」

 何とか立ち上がった虎徹に、バーナビーは抵抗しながら呼びかけた。

 「やかましい奴だな。」

 いつ来たのか。

 アンドロイドの隣に、黒いローブを纏い、顔の上半分に白い仮面をつけた男――ラムダが並び、バーナビーに道具でも見るようなぶしつけな視線を向けた。

 「お前は・・・!」

 バーナビーは彼に目を向け、思い出す。

 記憶を書き換えられた後、マーベリックの別邸で目が覚めた彼を、友切と共に見ていた男。

 「布道、ラムダ・・・!」

 「思い出してしまおうが関係ない。お前は“女神”の贄だ。逃がしはしないぞ、小僧。」

 名前を呼んだバーナビーを歯牙にもかけずに、蛇のような口調で言うと、ラムダは今度は虎徹たちを見下ろした。

 「まだ生きていたのか、くたばり損ない。しぶといことだね。

  胸の刻印は痛むかな?」

 「え?」

 奇妙に大きく聞こえたラムダの声に、バーナビーは何のことかわからず呆けたような顔をした。

 恐る恐る虎徹に視線を移すと、彼は。

 彼は、苦々しげに顔をゆがめ、黒いレザー服越しに胸元を押さえていた。

 「虎徹、さん?」

 「・・・っ!」

 虎徹は答えなかった。ただ険しい顔でラムダを睨みつけるだけだ。

 「やはり、何も話してなかったか。」

 嘲るようにラムダは笑った。

 「言ってやったらどうだ、黄金騎士。

  貴様のその身には“破滅の刻印”が刻まれていると。

 ヒーローどもが追い回してくれたおかげで何度も能力を発動し、もはやその寿命は風前の灯火同然だろうとな!」

 息をのむ一同に、虎徹は一層ラムダを険しく睨みつけ、怒鳴った。

 「てめえが俺に仕掛けてきたんだろうが!今すぐこいつを解け!」

 「だが断る!」

 ラムダは笑って両手を広げる。

 「礼を言うぞ、ヒーローズ、銀牙騎士!愚かな道化ども!

  黄金騎士の寿命を削る協力してくれたのだからな!」

 ヒュピパッ!

 ここでラムダは虎徹に視線を向け、懐から取り出したものを投げつけた。

 「返してやるよ。贄にも我々にも必要ないものだ。」

 カツッ。

 虎徹の足元に落ちたのは、あの日――バーナビーと喧嘩別れした日、彼に買い与えたピンズだった。

 「っ!バニーを離せ!」

 「それも断る!止めたいなら来るがいい!どうせ無駄だろうがなぁ!

  ふはははははははっ!」

 哄笑とともに、ラムダは枯れ枝のような魔戒筆を振り、その姿を闇に溶かすように消える。

 ブッババアウッ!

 硬直・絶句するバーナビーを連れて、背中のバーニアを点火し、アンドロイドも飛び出していった。

 「バニー!」

 声を張り上げたのは虎徹だけだ。

 すぐに後を追わないといけない。

 踵を返そうとした虎徹の前にセシリーが立ちはだかった。

 「どういうこト?」

 険しい顔で、彼女は虎徹を睨みつけた。

 「セス・・・。」

 「“破滅の刻印”ですっテ?

  どうしていつも肝心なことを黙ってるのヨ!」

 白いコートの襟首を掴んで彼女は怒鳴った。

 「隠し事されながら守られてる奴の気持ち、あんた少しは考えたことあるノ?!

  それだから馬鹿って言われるのヨ!莫迦!」

 ぼろぼろと泣き出しながら、彼女は怒鳴った。

 「嘘、だよね?」

 強張った顔で楓は虎徹を見上げた。

 「お父さん、死んじゃうの?

  だから、帰ってくるって・・・。」

 へなへなと楓は座り込んだ。

 今ほど感情に任せて父を怒鳴ったことを後悔したことはなかった。

 ヒーローたちは一人残らずうなだれていた。

 そんなつもりはなかったとはいえ、彼らはどう転んでも虎徹を殺す手伝いをさせられたのだ。打ちひしがれない方がおかしかった。

 うすうすおかしいと感づいていたマクシミリアンは、そっと目をそらして眼鏡を押し上げただけだ。

 静流は口元を押さえて、虎徹を見つめている。

 イワンは自分のふがいなさに歯を食いしばった。彼もまた、虎徹を殺す手伝いをさせられてしまったのだ。

 しかし、落ち込んでいる場合ではなかった。

 魔戒騎士たちも、ヒーローたちも。

 ピピピピッ!

 PDAの呼び出し音が空気を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 #21END

 GO TO NEXT!

 

 

 

 【おまけ】

 マクシミリアン曰く“少々腕の立つ大道芸人”との対決。

 

 

 

 

 マクシミリアンの操る特殊鋼糸に武器と衣服を切り刻まれ、黒服連中は悲鳴を上げて逃げ出した。

 どうやらプロ意識も低ければ、マーベリックに忠誠を誓っているというわけでもないようだ。

 残ったのはただ一人。

 「NEXTですか。なかなか腕の立つお方のようですね。」

 スタジアムの前の広場にたたずむ黒服はただ一人となっていた。

 サングラスをかけ、金髪を撫でつけた優男、といったいでたちだ。

「申し訳ございません。お嬢様との約束ですので、退いていただけるとありがたいのですが。」

 キュイッと両手の間で単分子ワイヤーを引っ張るマクシミリアンだが、相手も退く気はなかった。

「そういうわけにもいかないんですよ。一応、主人から今の上司――あのイボに従うよう、命令を出されておりまして。」

 ざりっと軽く両足を広げ、金髪男は言った。

「一応訊きましょうか。私の主人のもとで働きませんか?あなたならいい仕事をすると思うのですが。」

「お断りします。」

 ぴしゃりとマクシミリアンは答えた。

 「主を鞍替えするなど、執事の風上にも置けませんので。」

 「執事?」

 金髪男は怪訝そうに聞き返した。

 「はい。」

 マクシミリアンは答える。誇らしげな響きを込めて。

 「私は、冴島邸の執事ですから。」

 「なら仕方ない。

  死んでもらいましょう。」

 さして興味なさげに答え、彼はスーツの懐から取り出したナイフを振りかざし、執事に向かって駆け出した。

 ナイフ一本で単分子ワイヤーをどうにかできるわけがない。一体何を考えているのか。

 眉をしかめながら、マクシミリアンは腕を振った。

 ピンッキュパパパパパッ!

 極細の糸が空気をこすり上げて、男に迫る。ねらいはナイフと服。

 常人ならば、さすがに武器を失い、服が切り刻まれてまでこちらに攻撃しようとは考えないだろう。

 ところが。

 ウネンッ。

 「っ?!」

 斬り裂く手ごたえが感じられず、ワイヤーは男をすり抜けた。

 マクシミリアンが驚愕した直後。男はナイフの間合いに入り、斬りつけてきた。

 上体をそらすのが遅ければ、執事の左腕は地面に落ちていただろう。

 そのまま男はナイフを持った右手を振る勢いで連続して蹴り放つ。

 執事は糸を持った右手はそのままに、左手でそれらを何とかさばく。

 マクシミリアンの使う単分子ワイヤーは中~遠距離では絶大な威力を発揮するが、近距離戦では役立たずに近いのだ。

 距離を取りたいところだが、男はそうはさせじと、交替するマクシミリアンの後を追い迫る。

 ヒュピッ!

 ナイフが執事の左ほおをかすめた。

 ヒュビビビビッ!

 それを皮切りにするかのように、執事の体のあちこちが掠めるように切り裂かれる。

 その傷からつうっと血が垂れる中、執事は右手を振り上げた。

 ピンッキュパパパパッ!

 再びワイヤーが空気を切り裂き、伸びる。

 頭上へ。

 ギンッ!

 ガッギャァァァンッ!

 頭上の街灯を斬り落とし、叩き落としてきたのだ。

 バギャァンッ!

 地面に叩き落された街灯が、飛びのいた両者の狭間で砕けたガラスを散らばらせる。

 カチリッとマクシミリアンは眼鏡を押し上げ、口を開いた。

 「NEXT・・・察するに液状化能力ですか。」

「ええ。スカイハイに能力を明かしてくれたおかげで、相性のいい能力の私が出向いてきたんですよ。」

 自信たっぷりに笑う金髪男の体が、ゆらりと水面のように波立った。

 マクシミリアンの“糸”が効かなかったのは、接触する直前に、液状化して、攻撃を無効化されてしまったからに違いない。

 しかし、男の自信をマクシミリアンは鼻で笑い飛ばした。

 「フフ・・・。」

 「何がそんなにおかしいのですか?」

 「いえいえ、大道芸のようだと思ってしまいまして。」

 ピクッと金髪男はサングラスに隠れた眉を動かした。

 「種明かしありがとうございます。対処法に見当が付きました。」

 「ハッタリご苦労様です。」

 にっこりほほ笑むマクシミリアンに、金髪男はひきつりそうな口元でそう言った。

 「今すぐ切り刻んであげますよ!」

 ナイフを振りかざし、男が再び突っ込んでくる。

 ピンッキュパパパパッ!

 マクシミリアンの糸が、液状化した男の体を、急所を避けて貫いた。

 「通用しないと言ってるでしょう!」

 「その通り。ですが、熱ならどうでしょう?」

 「何?」

 しれっと言ったマクシミリアンの言葉に、男が怪訝そうに眉をしかめた。瞬間。

 ジュワウッ!

 「ぐああああっ?!」

 突如男の体から蒸気が吹き上がり、彼はバッタリ倒れ伏した。

 「今、ワイヤーは高速で振動し、高熱を発しています。

  大したことはございませんよ、摂氏に直してざっと200℃ほどですので。」

 末恐ろしいことをしれっと言ってのけるマクシミリアン。

「私の能力は“ワイヤーを思うがままに操るNEXT”。思うがままになのだから、私が思えば、この程度、造作もないんですよ。

 それに、」

ぴかりと逆光で眼鏡を光らせながら執事は言った。

「言ったでしょう?“斬るだけが能と思ったら大間違い”と。」

 

 

 

 

 執事が遅くなったうえ、怪我していたのは、こういうわけでした。

 お前はどこの魔界医師だ?!

 

 




よお!実は破滅の刻印のことがバレてほっとしてる方、ザルバだ。
 隠しごとってのは、いい気分がしねえんだよな。
 とはいえ、このままだと兎坊やの命もシュテルンビルトも危ない。
 助けに行くしかねえよな、虎徹。
 何?マーベリックが逃げたから、ヒーローズも行くって?
 仕方ねえな、遅れるなよ!
 次回、“牙城”。
 待ってろ、坊や!今助けに行くからな!
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