牙狼バニ〈GAROBANI〉   作:亜希羅

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 それでは、第23話投下します。
 冒頭はさらわれちゃった楓ちゃんと執事と家政婦です。執事マジ切れ五秒前。マーベリック逃げて、超逃げて。・・・いや、スタイリッシュに開き直ってたから、前言撤回。そのままロトワングと一緒に切り刻まれろ。精神的に追い込まれると、周りを見ずに最も安易な手段に飛びついちゃうのは兎と一緒だと思うんですよね、彼。
 さて、ここで各階の対戦模様を復習しましょう。
 【1階エントランス】セシリー&焼肉コンビ(炎&牛)VS鉄騎
 【中間階 屋内カフェ】夜空コンビ(月&空)VSギギ
 【上層階 階段踊り場】折紙&ガールズヒーロー(青薔薇&龍)VS布道ラムダ
 何ですのん、この偏りまくったラインナップは。作者の趣味なんですけどね。
 ラムダの仮面の下が露わになったところで後篇に続きます。
 あ、鉄騎の構成が公式とだいぶ違いますが、ラムダが改造しまくったためということにしておいてください。
 
 おじさんは死ぬかもしれない一歩手前状態なのにアンドロイドとタイマン張る羽目になりました。やっぱりマベはもみじおろしにするべきかもしれません。
 何とか逃げ出した楓嬢を、記憶を書き換えて廃人にする気満々ですし。でも家政婦に投げられてから、執事に刻まれそうになりました。ざまぁ。
 斉藤さんもこっそり活躍。・・・すいません、視点があっちゃこっちゃして読みにくいですね。もうちょっと何とかならないものですかね?
 ギギがガ●ダムみたいなことをやり始めました。いくら同じ会社だからって、そんなところからネタを引っ張ってくるなんて、やっぱり私の発想は貧困ですね。
 ラスボスがなかなか降臨してくれません。あれもこれもと欲張るからですかね。それとも執事とマベが出張ったせいかしら?
 書きたいこと〈バトル〉をぎっちり詰め込んだら、話がなかなか進まず、次話に続きました。ごめんなさい。(いい加減長ったらしくてうざいくらい思われてるでしょうねぇ・・・。)
 しかも兎の出番がないって・・・。


#23 血戦

 光の恭順者、闇の隷属者、

 相見えん。

 爪牙を向けあい、鉄火を持って闘争す。

 偏に、重ならぬ理ゆえに。

 

 

 

 

 ――魔戒詩編第三十一節より

 

 

 

 

  #23. 血戦~それぞれの戦い~

 

 

 

 

 大通りを一台の車が突っ切っていた。

 運転席の静流は、制限速度ぎりぎりを維持しながらハンドルを切り、後部座席では、マクシミリアンが手当てを終え、燕尾服を着こみ、割れた眼鏡を新しいものにかけ直していた。

 「迂闊でした。すっかり油断していました・・・。」

 眼鏡を押し上げ、マクシミリアンが呻いた。

 「あのアンドロイドが一体しかいないと思っていたのが間違いでした。

 旦那様たちがご出陣になられてから、襲ってきて、よりにもよって楓お嬢様を目と鼻の先でさらわれてしまうとは・・・!」

 ――悔しがってますけど、マクシミリアンさんもしっかり反撃してましたよね?

   あのアンドロイドのスーツを傷だらけにしてましたよね?

 静流はそう思いながらも、それを口には出さなかった。

 おそらく、今のマクシミリアンは、あのアンドロイドを操る技術者を前にしたら、即行で鱠にするだろう。そのくらい彼は怒っているに違いない。顔が全く笑ってないのだから。

 「・・・大丈夫ですか?」

 「ご心配なく。アバラ二本ほどにヒビを入れられただけです。

  簡易サポーターで固定しましたので。」

 しれっと答え、マクシミリアンは救急セットを座席下にしまう。

 「問題は、お嬢様の方です。」

 「さらったということは、少なくとも、危害を加えられることはないと思いますが・・・。」

 「ええ。」

 頷いてマクシミリアンは考え込む。

 「お嬢様と最後に接触したのは・・・。」

 「私です。」

 静流がバックミラー越しにうなずいて見せた。

 虎徹が行ってから、楓の頭を撫でて彼女をねぎらったのだ。

 「私の能力は脱出や潜入に向いてはいても、戦闘向けではないんです。

  楓さんが無茶をしなければいいんですけど・・・。」

「お嬢様は、そういう所は旦那様に似られたのか、無鉄砲なところがあるようですから・・・。」

 ため息交じりにつぶやくマクシミリアン。

 「とにかく、奴らがお嬢様を盾に使う前に、なんとしてもお救いしなければ・・・!」

 「はい!」

 頷いて、静流はハンドルを切った。

 一路、ジャスティスタワーに向かって。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「鏑木虎徹を殺すんだ・・・。

 そうすれば、きっと・・・。」

 ぶつぶつ言いながら、マーベリックは多数設置されたモニターの前を、檻の中の熊がそうするように行ったり来たりしていた。

 その目は血走り、七三分けの白髪は乱れ、完全に常軌を逸していた。

 マーベリックは認めたくなかった。自分の今までの行いが、バーナビーを救うどころか、逆に殺す手伝いをしていたなんて、認めたくなかった。

 バーナビーが連れ去られてから、間もなく気が付いたマーベリックは打ちひしがれながらも考えた。どうしたら友切たちがバーナビーを殺すのをやめるだろう?

 その時思いついたのが、奴らが執拗に殺そうとしていた鏑木虎徹の存在だった。

 あの男を殺して、その首なり死体なりを差し出せば、きっと連中は考え直すはずだ!

 幸い自分にはロトワングという手駒がいる。ウロボロステロの第二弾準備のために招き入れた男だが、あの男のアンドロイドなら、きっとできるはずだ。

 ・・・愛するエミリーの遺作を人殺しの兵器として使うのに罪悪感を感じなかったといえば嘘になるが、バーナビーを救うためだ、きっと彼女も許してくれる。

 その後、あの連中が考え直さないうちに、ロトワング共々記憶を改ざんして、バーナビーと一緒に海外に逃げよう。

 そうだ。自分のたくらみがうまくいかなかったことなんてない。

 マーベリックは血走った目で、モニターの中を駆け抜ける虎徹を睨みつけた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 騒がず、おとなしくして、隙をうかがう。

 万一、敵に捕まった時、どうすればいいかというセシリーのレクチャーを思い出しながら、楓はその通りにしていた。

 『いイ、楓〈アホルン〉。あなたは怒るでしょうけど、これははっきり言わせてもらうワ。

 あなたは弱イ。NEXT能力が強力だろうと、所詮あなたは十歳の、経験足らずの女の子ヨ。

 魔戒騎士はもちろん、ヒーローズが束になってかかってきたら、確実に、あなたは負けるワ。』

 目の前で口汚くモニターを罵りながらキーボードを叩く男に嫌悪の視線を向けながら、楓は考える。

『もし、万が一、あたしも執事〈バトラー〉もいない場所で敵に拉致されても、無理に敵を倒そうとしないデ。

 あと、どんなに頭にきても、癇癪を起こしたり、相手の神経を逆なでして怒らせてはダメ。

 自分の状況――コピーしている能力の種類、拘束の様子、出入り口の場所と、敵戦力を把握するノ。』

 楓は素早く出入り口に目を走らせた。

 自分の背後にある、四角い鉄の扉。

 敵戦力は、自分をさらってここまで連れてきたあのアンドロイドがいる。この部屋にはいないが、おそらく呼べばすぐにやってくるだろう。となれば、無理やり力づくで突破は得策ではない。

 自分の状況はといえば、後ろ手で手錠(どうやら非NEXTと思われているらしく、ただの手錠だった。)をかけられ、床に座らされただけだ。

 そして、一番肝心な現在のコピー中の能力は。

 ――静流さんだ。

 昨夜教えてもらった、あの中年の家政婦さんの能力。

 ――この部屋から逃げるのは簡単。でも逃げ切れるかはわかんない。

 一通り考え、楓はそう結論を出した。

 逃げられないならチャンスをうかがえ。

 楓はそう考え、目の前の男――ロトワングを見つめた。

「クソッ!たかだかガキ一人連れてくるだけで、私の最高傑作を傷だらけにしやがって!あの」

 そこから先は楓には理解できなかったが、おそらくスラングの類だろうと思った。

 ・・・もし、この場に彼女の父親や、忠実な執事がいれば、彼らは激怒して武器を抜いていただろう。

 そのくらい、十歳の女の子には聞かせられたものではなかった。

 ともあれ。

 ロトワングは悪態交じりに、キーボードを叩いてアンドロイドのセッティングを変更する。

 「目標・・・化け物ども〈ヒーローズ〉・・・!

  残存機体、一斉出撃・・・!」

 ぶつぶつ言いながら、ロトワングはセッティングを終え、後はエンターキーでアップデートを実行するのみだ。

 いよいよキーを打とうと指を振り上げた時だった。

 プルルルル・・・!

 「ええい、このクソ忙しいときに何だ?!」

 いらいらとロトワングは呼び出し音に、やむなく作業を中断し、通信ウィンドウを開いた。

 「これはマーベリックさん・・・っ?!」

 貴重な資金提供者〈スポンサー〉にして、協力者の姿にロトワングは猫なで声で笑いかけようとしたが、マーベリックのひどいありさまに息をのんだ。

 「ど、どうしたのですか?!」

 『私のことなどどうでもいい。』

 唸るようにマーベリックが言った。

 『今すぐアンドロイドに、鏑木虎徹を殺しに行かせろ!』

 「「?!」」

 呆気にとられた表情をするロトワングとは裏腹に、楓は大きく息をのんだ。

 「やめて!」

 こらえきれずに楓は叫んだ。

 「お父さんを殺さないで!そんなことしたら絶対許さないんだから!」

 『だからどうした!』

 ウィンドウ越しにせせら笑うようにマーベリックは言った。

 『バーナビーが助かるためだったら、私は何だってしよう!

  誰が死のうが、クソガキ一人に恨まれようが、知ったことか!』

 「お父さんはバーナビーを助けようと戦ってるのよ?!」

 楓は叫んだ。

「お父さんは悪い奴のせいで自分が死んじゃうかもしれないのに、それでもバーナビーを助けに行ったのよ?!

 それなのに、まだお父さんの命を狙うの?

 あんたなんか、あのラムダとかいう悪い奴と同じよ!最低な、悪い奴だわ!」

 『ロトワング!その小娘を黙らせろ!』

 立ち上がってウィンドウに噛みつかんばかりに叫んだ楓を無視して、マーベリックは怒鳴るように命じた。

 バヂンッ!

 「キャアアアッ!」

 頷いたロトワングが衣服のポケットから取り出したスタンガンの一撃で、楓は床に倒れこみ、気を失ってしまった。

「まったく、ずっとだんまりかと思いきや、うるさく騒ぎ立てたりと、わけのわからん小娘だ・・・。」

 スタンガンをポケットにしまい、ロトワングは毒づいた。

 そうして彼は再びコンソールに向き直り、キーボードに指を踊らせ始めた。

 資金提供者のリクエストに応えるのは、受容者の務めだ。

 一体だけ命令を書き換え、再設定し始める。

 「他の化け物どもは?」

 『後回しだ!鏑木虎徹を殺して、その首を持って来させるんだ!』

 「はあ?」

 思わずロトワングは手を止めて、ウィンドウの中のマーベリックを見た。

 わざわざ化物の死体から首を持ってこさせる?意味が分からない。

 『早くしろぉ!』

 「・・・はあ。」

 怪訝そうにしながらも、ロトワングはセッティングを終えた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 鉄騎は大きな図体とは裏腹になかなか素早かった。

 バサッ!ヒュピパッ!

 セシリーは青い魔導旗を振りかざし、鉄騎から適度に距離をとる。

 「こっちの攻撃は効くのかしら?」

「あいつの装甲はソウルメタルが使われてるから通常攻撃は無理ネ。魔戒騎士の鎧のように表面が超振動はしてないから、接触は大丈夫だけどネ。」

 翼のようにも見える大きく太い腕を振り回す鉄騎の攻撃をよけながら尋ねたファイヤーエンブレムに、セシリーは魔導旗を翻しながら答えた。

 「どおりゃぁぁ!」

 ドグァンッ!

 逃げに徹する二人とは対照的に、バイソンは果敢にも鉄騎に立ち向かう。

 鉄騎の腕の一撃に耐え、そのままそれを掴むように引っ張り、巨体を引き倒す。

 「セシリー!」

 「ナイスよ!バイソンちゃん!」

 この場で唯一攻撃が通用しそうな女魔戒法師の名を呼ぶバイソンに、ファイヤーエンブレムは笑みを浮かべる。

 「よそ見しないデ!」

 ヒュワッバヂンッ!

 飛ぶようにバイソンの前に割り込んだセシリーは、魔導力を込めた界符を翳して簡易結界を展開し、矢のように迫ってきた一撃を防いだ。

 鉄騎が人面の口から放った細長い舌の一撃を。

「気をつけテ!あの攻撃はヒーロースーツだろうが、皮膚硬化能力だろうが串刺しにしてくるわヨ!」

 「ギュウ・・・すまん・・・。」

 小さく振り向き怒鳴るセシリーに、バイソンは謝る。

 「ファイヤアァァァ!」

 ガチャリッと身を軋ませながら体勢を立て直そうとした鉄騎の目を、紅蓮の炎が薙ぎ払う。

 視界をつぶされ、たじろぐ鉄騎をよそにセシリーは右の魔導旗を魔戒筆に持ち替え、虚空に魔導文字を描く。

 バウッ!バシィンッ!

 放たれた桜色の光弾は、鉄騎の白い装甲の前には通用せず、霧散してしまう。

 「クッ・・・!」

 やはりこの程度の攻撃は効かないか。

 悔しげにするセシリーに、焦げ目一つない鉄騎は容赦なく地を蹴り襲い掛かる。

 再び魔導旗を両手に、セシリーは鉄騎の突進を闘牛をほうふつとさせる華麗な動きでよけ、そのまま伸び上るような蹴りを食らわせる。

 ドギャッ!

 『ぴゃあああああっ!』

 桜色の光の粒を散らすその一撃で、鉄騎はのけぞりバランスを崩した。

 その隙にセシリーは魔導旗をしまい、大きく跳びさがる。

 「時間稼ぎをお願イ。」

 「どうする気だ?」

 身を起こす鉄騎から目を離さずに尋ねたバイソンに、セシリーはポーチの中から小ぶりな瓶や、見たこともない木の実を取り出しつつ答えた。

 「あいつの動きを止めるワ。大がかりな術式だから、準備に時間がかかるノ。」

 「わかったわ。こっちは任せて。」

 頷いたファイヤーエンブレムに頷き返し、セシリーは狩衣の袖を裾を翻し、少し離れた場所に走って移動し、床にかがみこんだ。

 「虎徹〈あいつ〉の知り合いってパワフルな女が多いよなー・・・。」

 思わずボソッとつぶやくバイソン。

 まさかあの美人然とした容貌で化物とド突き合いの殺し合いを仕事にしているとは思わないだろう。

 そう言えば、友恵も容赦なく虎徹を叱り飛ばして、場合によっては拳もお見舞いしていた。

 「あら。それはアタシのことも含んでいるのかしら?」

 「モウッ?!尻を揉むな尻を!」

 色っぽい手つきと声音でささやいてきたファイヤーエンブレムに、ロックバイソンは悲鳴を上げた。

 ズガドォンッ!

 「ギュウッ!」

 次の瞬間、突進してきた鉄騎を、バイソンは両足を踏ん張って受け止めた。

 「いいわよ、バイソンちゃん!

  ファイヤァァァァ!!」

 ボッボォォォウワッ!

 雄叫びとともにファイヤーエンブレムは、火炎を鉄騎の顔面に浴びせかける。

 ダメージが期待できない以上、彼女の攻撃は囮と目くらましに限局されてしまうが、やらないよりはマシだ。

 「おぉりゃぁぁぁぁ!!」

 鉄騎がよろめいたところを見逃さず、バイソンは動く。タックルを仕掛けて、鉄騎を転がしたのだ。

 ズガンドンッ!

 巨大な図体が転がり、タワーそのものが振動しているような錯覚すら覚える。

 ガチャガチャと立ち上がる鉄騎を、ヒーロー二人は睨みつけた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ビャビャビャウッ!

 ゴッゴォォォォンッ!

 ルナティックの放った青い炎の矢を、ギギは軽々とよける。

 高熱の炎に火災報知器が反応しそうなものだが、それらを管理しているジャスティスタワーのサーバーもダウンしているのか、うんともすんとも言わない。

 ただし、ルナティックも火事が不安らしく、かなり手加減しているようだ。

 火力を押さえているため、炎の端々が青ではなく、赤となっている。

 一方、ギギは獣じみた動きで空中に大きく跳び上がり、花飾りのついた頭を大きくふるった。

 瞬間。

 ブワッ!

 そこから虹色の粉が舞い散り、拡散する。

 「な、何だ?!」

 「?!」

 とっさに粉の拡散範囲から退避するスカイハイとルナティック。

 なんだかよくわからないが、受けないに越したことはない。そしてこの判断は正解だった。

 バヂバヂバヂッ!

 煙状になった粉がクリスマスツリー――本物のモミの木に当たった途端、電撃を受けているような火花を散らし始めたのだ。

 「スカーイハーイ!」

 ブヴワゥッ!

 粉――さしずめ毒鱗粉の危険性を目の当たりにしたスカイハイの行動は早かった。

 風で毒鱗粉をかき集め、はるか頭上に巻き上げる。

 ビァウ!ゴッゴォォォンッ!

 そこを見逃さず、ルナティックは青い炎の矢を放ち、危険な鱗粉を焼き払った。

 しかし、息をつく間もなく、ギギは襲い掛かってくる。

 四つん這いでルナティックめがけて飛びかかり、炎の矢を放つ余裕も与えずに、掌底を叩きこんだ。

 ドホォッ!

 「グゥッ!」

 とっさに跳びさがることでダメージを軽減させるルナティックだが、ギギは追撃を浴びせかけた。

 そのまま、前転をするように距離を詰め、ルナティックの頭を太ももで挟み、締め上げ始めたのだ。

 「うぐっ・・・!」

 「タナトス君!」

 スカイハイがすぐさま二人めがけて突進する。

 シャキンッ!

 音を立ててギギの右の爪が五本全部30センチばかり伸びる。そのままそれをルナティックめがけて振りかざし。

 「スカーイハーイ!」

 ビュバウッ!

 「っ・・・!」

 スカイハイが放った圧縮した空気の弾丸に頭を打たれ、ギギはとっさに動きを止める。

 ジャギンッ。

 意逃さず、ルナティックはクロスボウを持ち上げ、ギギの背中に発射口を向けた。

 肉を切らせて骨を断つ。

 いくら耐火素材製のルナティックの衣装でも、この至近距離で高熱の炎を使えば、ダメージは免れないだろう。しかし、この女のなりをした傀儡〈くぐつ〉にダメージを与えられるはずだ。

 そして、スカイハイがいる。自分が動けなくなっても、彼がとどめを刺してくれるはずだ。

 そこまでを一瞬で考え、ルナティックは引き金を引いた。

 ヒュパビャウッ!

 しかし、ギギはルナティックの狙いを悟ったのか、太ももを外し、そのまま大きく跳び上がる。

 このため、ルナティックの青い炎の矢は空振りに終わった。

 「スカーイハーイ!」

 もちろんスカイハイが追撃を仕掛ける。

 ヴバボウッ!

 空中で逃げられないはずのギギめがけて、ドリル状の突風を繰り出した。

 それでも、ギギも甘くはなかった。

 ヒュバババッ!

 ギギの姿が煙のように霞んだかと思うと、突如三つの影に分かれて飛び出す。

 このためスカイハイの必殺攻撃も空振りしてしまった。

 地に降り立った3つの影の正体は、十歳ほどの三人の少女だった。ぴっちりした黒のボディスーツは変わらないが、それぞれ、赤、緑、気の花飾りを頭につけている。しかし不気味なことにその顔はどれもギギそっくりで、無表情だった。

 「分裂したのかい?!」

 「面倒な・・・。」

 驚くスカイハイと毒づくルナティック。

 「・・・この場に女子供がいなくて何よりだな。」

 「何の話だい?」

 二人並んで言ったルナティックに、スカイハイは不思議そうに首をかしげた。

 「人の意思を残さぬ傀儡とはいえ、女子供に相手をさせるのはいささか酷であろう。」

 「ローズ君とキッド君のことかい?

  ・・・うん、そうだね。」

 背中合わせになり、どこから飛びかかられてもいいように対応する風の魔術師と青炎の断罪者に対し、三体の少女の姿をした使い魔は、正三角形を描くように二人を包囲する。

 「あの二人は、ワイルド君と折紙君のサポートくらいが一番いいんだよ。

  きっと・・・そしてきっとね。」

 苦笑するように言ったスカイハイに、ルナティックは黙ってクロスボウを構え直す。

 三体の少女が黄、赤、緑の順で飛びかかってきたのはこの直後だった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 イワンが繰り出す双剣の攻撃をラムダは少し剣を動かすだけで軽々と弾く。

 「どうした、野良犬。吠えるだけが能か?」

 「まだまだでござる!」

 ラムダの嘲りにイワンは剣を振り抜きながら言い返す。

 イワンの剣撃の合間を縫って、氷と雷撃が飛んでくる。

 ブルーローズとドラゴンキッドの援護攻撃だ。

 「うっとうしい連中だな!」

 ガギィンッ!

 「うわっ!」

 剣をはじかれ体勢を崩すイワンに、ラムダは足払いをかけるが、イワンはジャンプしてそれをよけ、距離を取るべく跳びさがる。

 「お前らは“牙狼”を殺すための手駒なんだから、すっこんでろよ!」

 「誰が手駒ですって?!」

 せせら笑うラムダに、ブルーローズはキッと眉を吊り上げた。

「手駒だろう?事件の異常性とか、証拠のお粗末ぶりとか、犯人特定までの異常なまでの早さとか、一切無視して、私たちの言うとおり、あの男を殺しに行ってくれたじゃないか!」

 ラムダの嘲りに、ブルーローズとドラゴンキッドはぐっと言葉に詰まったが、イワンは剣を構え直し、再びラムダに斬りかかりながら叫んだ。

 「もう同じ過ちは繰り返さないでござる!

  今度は拙者たちが、あの人を救う!」

 「・・・そういうことよ!」

 「うん!」

 再び武器を構え、ラムダの隙をうかがうヒーロー二人。

 「ふん!どう喚こうが駒は駒だ!」

 ヒュパッ!

 イワンと斬り合いながら、ラムダは黒服の懐に手を突っ込み、札のようにも見える銀色の金属板を取り出した。

 「駒は駒らしく駒と遊んでろ!」

 言い捨てて、ラムダは金属板に魔導力を込めて、イワンの背後にいるヒーロー二人めがけて投げつけた。

 瞬間。

 ギチギチカチャチャンッ!

 鋭い音を立てて、金属板は羽虫とピラニアを合成したような不気味なフォルムの生き物に変貌した。

 小石ほどの大きさのそれは、ギザギザの棘に覆われ、ガラスのような透明なひれのようにも見える翅を羽ばたかせる。

 「何これ?!」

 「これもホラーなの?!」

 驚くブルーローズとドラゴンキッドに、羽虫モドキ二体は容赦なく襲いかかる。

 ビビビビビ・・・!

 耳障りな羽音とともに二人に向かって弾丸のように飛ぶ。

 とっさにブルーローズは飛び退くようによけ、ドラゴンキッドは棍棒で叩き落とそうとした。

 バギャンッ!

 しかし、羽虫に触れた途端、棍棒の先についていた龍の飾りは粉々に砕けてしまった。

 「ウソっ?!」

 「ハッ!ソウルメタルにそんな玩具〈おもちゃ〉が通用するものか!」

 ぎょっとするドラゴンキッドが驚きながらも飛びのいてよけると、ラムダが嘲った。

『鎧と同じだわ!装甲表面を超振動させることで、触れるものを片っ端から破壊するんだわ!』

 「ブルーローズ殿!ドラゴンキッド殿!」

 シルヴァの声に、イワンはあわてる。

 ソウルメタルに、ヒーロー二人は対抗手段を持たない。まして鎧と同じように超振動しているなど。

 「よそ見すんなよ!私を倒すんだろう?!野良犬!」

 ガギャンッ!

 「くっ・・・!」

 嘲るラムダの剣撃をはじき、イワンは歯噛みする。

 何とか二人を助けなければ。

 距離を取り、イワンは剣先を頭上に向け、鎧を召喚する。

 ヒョウッバァンッガシャン!

 ――即行で倒す!

 「わー。鎧だー。」

 銀狼剣を構える騎士に、しかしラムダはあわてなかった。それどことかからかうように棒読み調子でそう返したのだ。

 「じゃ、私も鎧を纏おう。」

 「何?」

 ヒュパッブワッガシャンッ!

 イワンが怪訝な声を出したと同時に、ラムダは武器を元の魔戒筆に戻し、頭上に黒い光の円を描く。まるで魔戒騎士の鎧の召喚陣のように。

 途端にラムダはそこから吹き出した黒い煙のような闇に包まれ、変貌する。

 「何あれ?!」

 「あいつ、魔戒騎士だったの?!」

 ヒーロー二人がギョッとしても無理はない。

 ラムダは今や狼をかたどった鎧に余すところなく身を包んでいるのだ。

 しかもそのフォルムは。

 ドラゴンキッドは息をのんで、ラムダとイワンを見比べた。

 ――そっくり!色違いなだけだ!

 そう。イワンが纏う鎧が銀色であるのに対し、ラムダのものは漆黒。しかし、そのシルエット――牙をむき出しにしたような句と元に、鎧に彫り込まれた魔導文字の装飾まで、そっくりなのだ。

 シャリリンッ。

 ラムダが手に持つものも、魔戒筆から銀狼剣にそっくりな漆黒の双剣となっていた。

 「それじゃ、続きだ。」

 たじろぐイワンをよそに、ラムダは準備運動代わりに手の中でくるりと双剣を回転させると、そのままそれを振りかざし、突進する。

 「くっ!」

 ガギャギィンッ!

 白と黒の双剣が耳障りな音と火花を散らす中、羽虫モドキも羽音とともに、ヒーロー二人に飛びかかる。

 「きゃあ!」

 「わああ!」

 逃げ回るしかできないブルーローズとドラゴンキッドをよそに、銀と黒の騎士は双剣を打ち合いながら、踊り場を駆け抜ける。

 しかし、銀の騎士――イワンは明らかにパワー負けしていることを痛感していた。

 一撃一撃が腕が痺れるような威力を秘め、ガードで手いっぱいなのだ。

 「どうしたんだよ、野良犬!

  私を殺すんだろう?できるのかよ、そんなへっぴり腰で!」

 「くっ・・・!」

 押されるイワンに、ラムダは構えた双剣ごと斬り裂こうというかのような猛攻を仕掛ける。

 このままじゃらちが明かない。

 二人のヒーローと銀牙騎士の考えが一致した瞬間。

 鎧越しのイワンとブルーローズとドラゴンキッドは素早く目くばせした。

 ヒュパッ!キュパパッ!

 次の瞬間、イワンはラムダの一撃をはじくと、そのまま宙返りを打つように跳び上がり、双剣を羽虫モドキめがけてそれぞれ投げつけていた。

 ――バカがっ!

 がら空きになったイワンめがけて、すかさずラムダは斬りかかろうとして。

 「さあああ!」

 「そうはさせないわよ!」

 バヂバヂバヂッ!バキバキバキッ!

 「くうっ?!」

 雷撃と氷――いうまでもなくヒーロー二人の攻撃を浴びせられ、ひるんだラムダは身動きを止めた。

 バギャギンッ!

 双剣がそれぞれ羽虫モドキを串刺しにして壊し、そのままバトンのように回転しながらイワンの手元に戻ってきた。

 空中のイワンはそれだけに終わらなかった。

 ガシャンッ。

 「え?!」

 「何やってるのよ?!」

 ヒーロー二人が驚いても無理はない。

 イワンは鎧を解除して、元の黒コート姿になり、そのまま飛び降りざまにラムダに斬りかかったのだ。

 ブワッ。

 「しまった!」

 直後、ラムダの鎧も墨汁が水に溶けるように消え失せ、元の黒服姿に戻ってしまった。

 双剣も消失したラムダは防御が遅れた。

 パリンッ!

 イワンの一撃は、ラムダの白い陶器の仮面を斬り裂いていた。

 「ぐああ・・・!」

 ラムダはとっさに顔を押さえ、うつむきながら後ずさった。

『あいつのあの術は、こちらの鎧の召喚を受けて発動したわ。なら、鎧を解除すればいいわ。そうしたらあいつの術も勝手に解けるわ。

 さすがイワンね。この短時間でそんなことを見抜くなんて。』

 シルヴァの解説に、しかしイワンは油断なく双剣を構え、ラムダを睨みつけた。

 「そっか!」

 「でもそれじゃ・・・。」

 ハッとした様子のドラゴンキッドに、ブルーローズは不安そうにイワンを見た。

 魔戒騎士の一番の武器、鎧は、あの術を操るラムダの前には封じられたも同然だ。

 しかし、イワンはたじろいだ様子は見せなかった。

 鎧が使えるだけが魔戒騎士ではない。闇に屈しない、諦めない、最後まで己の中の光を信じ続けるのが、真の“守りし者”だ。

 「あーあ・・・。」

 そんな一同をよそに、ラムダは顔を押さえていた手をどけて、ゆるりと面を上げた。

 「「「『?!」」」』

 そこにあったものを見た途端、一同は息をのんだ。

 仮面の下にあったラムダの顔は、元は整った顔立ちの美男子だったのだろう。

 しかし、その右上半分は醜く焼けただれ、瞼もまつ毛もない眼球がむき出しの右目は、握りこぶしほどの大きさで、赤と金のまだらの瞳で、正常なとび色の左目と一緒に一同を睥睨してた。

 「仮面が壊れちゃったよ。でも、いいだろう?“これ”。」

 くすくす笑いながら、ラムダは右目の下を指先で撫でた。

 イワンは背筋を震わせた。

 どうやらあの仮面は邪気を封じる役目を果たしていたらしい。今、あの右目から尋常でない邪気を感じる。あんなものを体内に埋め込んで、よくラムダは発狂せずにいられるものだ。

 『ギャノン!』

 「え?」

 金切声をあげたシルヴァに、イワンは訊き返した。

『この邪気!間違いないわ!その眼はギャノンの一部ね?!どうしてあなたがそれを持ってるの?!』

 「えええ?!」

 イワンは大声を出さずにはいられなかった。

 「ぎゃのん・・・?」

 「折紙さん、何のことなの?」

 怪訝そうにするヒーロー二人に、答えたのはラムダだった。

「太古のホラー、“メシアの牙”ギャノン。イデア戦役で奴は滅びたが、その断片は真魔界のあちこちに散らばっているらしくてね。

 琥珀の谷から行った真魔界で見つけたんだ。もともと右の眼孔〈ここ〉はがらんどうだったし、いい義眼になるからね。」

 「それが・・・拙者やタイガー殿に呪印を仕掛けた魔導力の媒体物でござるな?」

 「あたりだ。で?それを知ってどうするのかな?」

 尋ねたラムダの手には、すでに魔戒筆から再度剣に変化した武器が握られている。

 「そんなの決まってるわよ!」

 気を取り直して叫んだのはブルーローズだった。

「そんな気色悪い目玉なんて、カチンカチンにして、タイガーの刻印とやらを解いて見せるわ!」

 「うん!」

 武器を構え直すヒーロー二人に、イワンも視線を鋭くし、ラムダを睨みつけた。

 あの眼を何とかすれば、虎徹の破滅の刻印を解除できる。

 「できればいいね、それが。」

 パチンッ。

 ラムダが指を鳴らした瞬間。

 ブワワワワッ!ビビビビビ・・・!

 床に敷き詰められていたタイルが一斉にまくり上がり、例の羽虫モドキに変形した。数匹どころではない。遠目から見れば宙を舞うガラスの破片のように、数えきれないほどの数が、ラムダの周囲を取り巻く。

 「その称号と同じように、ゼロにしてやるよ!銀牙騎士!

  お前の寿命も、仲間も、この世界もなぁ!」

 絶句する三人に、ラムダは狂ったような高笑いを上げた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 虎徹は苦虫をかみつぶしたような顔で目の前の存在を睨みつけた。

 黒と赤のパワードスーツを纏った人影――アンドロイドを。

 「急いでるってのに・・・!」

 毒づいた虎徹をよそに、アンドロイドは両手からジャギンと赤く光るヒートブレードを放出する。

 『ただじゃあ、通してくれそうにねえな、虎徹。』

 「はいはい。戦えばいいんだろ、クソッタレ。」

 ザルバに虎徹が言い返した直後。

 背中とひざ裏のバーニアを使い、アンドロイドが突進してきた。

 ギャリィィンッ!

 間一髪、虎徹はコートから取り出した退魔の剣で、ヒートブレードの軌道をそらさせる。

 ――前戦った時より速い!

 戦況は不利だ。

 以前戦った時より、虎徹自身は刻印の侵食が進んで弱りつつあるし、バーナビーやスカイハイなど他ヒーローたちの助力もなく、アンドロイドは強化されて武装を増やされた状態だ。

 正面から戦うのは危険。

 そう虎徹が考えた時だった。

 ビキビキビキッ。

 「ぐああああ・・・!」

 『虎徹?!まさか!』

 たまらず虎徹が体をくの字に曲げてうめく。

 ザルバはすぐに刻印がもう虎徹の体を死亡寸前まで追い込んでいることを察した。

 もう時間がないのだ。

 ギャドンッ!ダガァンッ!

 しかし、アンドロイドはそんな虎徹の様子にはお構いなしで、ヒートブレードを押し込み、虎徹を吹っ飛ばし、近くの柱に背中から叩きつけた。

 常人ならそれだけで刻印の痛みと相まって悶絶していることだろうが、虎徹はそれをこらえきった。

 剣を構え直し、肩で息をしながら、アンドロイドを睨み据える。

 ――こいつ本当に人間か?

   精神力だけで刻印の痛みに耐えてやがるのか・・・。

 ザルバは伝説の存在――彼の二人目のパートナーをふと思い出した。

 思えば、彼も他の騎士たちが刻印で悶絶状態の中、鎧の召喚やら魔導馬の搭乗やら、むちゃくちゃをやらかしたのだ。条件は同じはずだったのに。

 ――まさかねぇ。

 いくら子孫とはいえ、現在のパートナーがあの伝説の再来になるわけがない。

 そんなザルバをよそに、虎徹はバーニアを吹かして飛びかかってきたアンドロイドに剣を繰り出した。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 楓は目を閉じたまま意識を取り戻した。

 おなかが痛い。

 バチバチという音を聞いたような気もするから、たぶんスタンガンによる火傷だ。ドラマか何かで、あれを受けたら火傷すると聞いたことがあった。

 そうっと目を開けてみると、あの腹の立つロトワングとかいう男が、モニターに向かってどなり散らしている。

「人質?!私のアンドロイドはそんなものを使わなくても、化け物ごとき!一ひねりですよ!信用できないというんですか?!」

『念のためだ!何事も保険をかけておくに越したことはない!』

通信相手はあのマーベリックらしい。

ウィンドウで相変わらず鬼のような形相で、負けじと怒鳴り返している。

『あの小娘を人質にすれば、あの男は抵抗できなくなるはずだ!

 すぐに通信を入れるんだ!』

「必要ありません!NEXT〈化け物〉ごとき、あっという間に倒して見せます!

 ほら!ご覧ください!」

ロトラングの操作で、タワー内のカメラが、虎徹の姿を映す。

 アンドロイドにいいようにいたぶられ、それでも立ち上がって剣を構え、反撃を試みる父の姿を。

 「あの男が死ぬのは時間の問題です!」

 もう我慢ならなかった。

 このままぐずぐずしていても、人質にされて、今度こそ父が死ぬかもしれない。そんなことはダメだ。逃げきる可能性が低くても、ここから逃げないと。

 楓は自分に注意がいってないことを確認すると、能力を発動する。

 カシャリッ。

 背中の後ろで、手錠がかすかな音を立てて外れた。

 床に落とさないように注意して外すと、楓はそれを床にそっと置いて立ち上がると、続いて、ポケットからマクシミリアンから預かったものを取り出した。

 『護身用のボールペン型スタンガンでございます。通販で購入できますよ。

 使い方は、ここをひねったら放電端末が出て、反対にひねったら引っ込みます。放電する場合は、こっちを押してくださいませ。』

 楓はレクチャーを思い出しながら、それに従った。

 バヂバヂバヂッ!

 「あんぎゃあああああ?!」

 わき腹に押し付けられたスタンガンを食らったロトワングは悲鳴を上げてコンソールに突っ伏した。

 『なっ・・・ロトワング?!』

 「おあいにく様!人質なんて御免なんだから!」

 モニターの向こうで目を白黒させるマーベリックに言い捨て、楓は扉に飛びついた。

 再度能力を発動させると、ピッという電子音とともに扉が開かれる。

 

 

 

 

 静流の能力は、開錠能力。それが鍵と名のつくものならば、電子、アナログ問わず、発動して接触すれば、手錠だろうと窓やドアの鍵だろうと、金庫だろうと片っ端から開錠してしまうのだ。

 

 

 

 

 背負ったリュックを揺らし、楓は薄暗い通路を出口を求めてひた走った。

 

 

 

 

 「あの小娘!こちらがしたでに出れば付け上がりやがって!」

 モニターの向こうでマーベリックは毒づき、血走った目でスーツの懐の拳銃を取り出し、弾倉に弾が装填されていることを確認する。

 もう容赦するものか。

 手足の一本撃ち抜いてから、記憶を書き換えて廃人にしてやる。その上で人質にしてやる!

 マーベリックはモニター室を出た。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ジャスティスタワーにたどり着いた静流とマクシミリアンが最初にやったのは、非常階段の使用可能の確認だった。

 結論から言って、それは可能だった。階段を上ること自体はできたが、フロア内部に続く鉄製の扉が固く施錠されていた。(どうやらスカイハイは転落防止のため格子で守られた非常階段まで確認はしなかったらしい。)

 「任せてください。」

 微笑んで、静流は能力を発動し、ドアノブに触れる。

 ガシャン。

 重い音を立てて、開錠されたドアは、今度こそ押し開けられた。

 「エレベーターへ!」

 「でも、密閉空間は危険じゃないですか?」

 「誰がエレベーターをそのまま使うと申しましたか?」

 駆け出すマクシミリアンに静流が尋ねるが、執事はそれに不敵な笑みを返す。

 「必要なのは。」

 ピンッキュパパパパパッ!

 ギンッバガッドンッ!

 「シャフトの方でございます。」

 エレベーターの扉をワイヤーで斬り裂き、残骸を漆黒の縦穴に落としながら、執事は不敵に笑う。

 ――ああ!神様!どうか楓さんの前で悲劇が起きませんように!

 静流は思わず十字を切った。

 彼女の脳内では、イイ笑顔のマクシミリアンが逃げたマーベリックを達磨にしているありさまが再生されていた。

 実現しそうで怖い。

 悲劇の役者は、一連の黒幕である友切やラムダではなく、マクシミリアンになりそうだ。

 「では、まいりましょうか。」

 言って、執事は家政婦の腰をしっかり支え、右手で単分子ワイヤーではない別のワイヤーを飛ばし、シャフト内部(ちなみに、エレベーター本体は一階にある。)を上昇し始めた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ガギィンッ!

 アンドロイドのヒートブレードの一撃を剣でそらさせ、虎徹は息を吐く。

 少しでも判断を間違えれば、彼の胴体は一撃のもとに焼き斬られる。

 こうしている間も激痛が絶え間なく襲い、常人ならとっくの昔に卒倒しているところだが、虎徹はこらえていた。

 続く蹴りを身をひねってよけ、虎徹は剣を繰り出す。

 ガギャィンッ!

 しかしその攻撃は、ヒートブレードで軽々と防がれてしまう。

 人間を超えた反応速度に、虎徹は舌を巻いた。

 今の状態では能力も鎧も使えない。とはいえ、このままではなぶり殺し同然だ。

 どうすればいい?

 

 

 

 

 息を切らして楓は薄暗い通路を走っていた。

 ガウン!ガウン!

 一定間隔で背後から聞こえるのは、銃声だ。

 恐怖に足がすくみそうなものだが、胆力だけは大人並みにある(少なくともセシリーはそう評価していた)楓は、必死に足を動かして逃げていた。

 「待て小娘ぇ!」

 血走った目でマーベリックが追いかけてくる。

 通路で鉢合わせしたのがまずかった。

 どこをどう走っているかさっぱりだが、とにかく逃げないとまずい。

 しかし、彼女の抵抗をあざ笑うかのように、やがて冷たい金属の通路は行き止まりになってしまった。

 「散々手こずらせおって。

  まあ、いい。」

 ニイッとマーベリックは歪んだ笑みを浮かべて、手の中の拳銃を、立ちすくみながらも、懸命に睨みつける楓に向ける。

 この距離ではボールペン型スタンガンを使おうとするより早く、撃たれてしまうに違いない。

 「手足を撃ち抜いてから、廃人にしてやろう。

  大丈夫、痛くないよ。」

 いよいよ引き金にかけられたマーベリックの指に力が加わる。

 その時だった。

 ポム。

 「うるさいな。」

 肩に誰かの手をかけられ、マーベリックが振り向きもせずにそれを払いのけた。瞬間。

 バシッ!ズダァンッ!

 瞬時にその手をつかみ取られ、見事な一本背負いを決められた。

 悲鳴を上げる間もなく、マーベリックは目を回し、気を失う。

 「楓さん!無事ですか?!」

 「静流さん!」

 マーベリックの背後に立ち、彼をのしたのは、ご存じカレリン邸の家政婦、藤林静流だった。

 スタントマン顔負けのドライビングテクニックといい、先ほどの一本背負いといい、何気に引き出しの多い人だ。

 楓は安心のあまり、静流に抱きつき、涙ぐんだ。

 「もう大丈夫ですよ。」

 「うん・・・!怖かった・・・!」

 頷く楓を撫でながら、静流は冷たい視線をマーベリックに落とした。

 「利用されているだけかと思いましたけど・・・最低ですね。」

 「ええ全くその通り。」

 通路に冷たく響き渡った低い声に、静流は先ほどまで感じていた怒りを一瞬にして霧散させ、ビクンと体を震わせた。

 薄暗い通路の向こう。

 シアンの燐光をほとばしらせ、眼鏡を押し上げる燕尾服の青年が、そこにはいた。

 このフロアにたどり着いた時に、手分けして楓を探していたので、二人は別々だったのだ。

 マクシミリアンは、日ごろ浮かべている柔和な笑みを完全にその顔から消し去り、冷たい視線をマーベリックに向けていた。

 「う・・・はっ?!」

 ここでマーベリックが気が付いた、あわてて立ち上がり、再び拳銃を構えようとするが。

 ピンッキパパパパパッ!ギンッ!

 その時には、シアンの光を纏った単分子ワイヤーが空を切り、その拳銃を真っ二つにしていた。

 「んな?!」

 「小便は済ませたか?神様にお祈りは?がたがた震えて命乞いする心の準備はOK?」

 末恐ろしいセリフを吐くマクシミリアンに、静流は戦慄した。

 彼は、本気〈マジ〉だ。

 「ちょ!マクシミリアンさん!楓さんの前です!抑えて!」

 「やっちゃえ!マクシミリアンさん!」

 あわてて諌める静流だが、楓も頭にきているらしく、火に油を注ぐようなセリフを言う。

 「あおらないでください、楓さん!」

 「だって、こいつ!まだお父さんの命を狙ってるのよ?!

  さっきも静流さんが助けてくれなかったら、楓を廃人にする気だったんだから!」

 そのセリフが完全に執事に火をつけたと言っていいだろう。

 「一撃で達磨にしようと思いましたが、撤回します。

  指先から少しずつ、スライスして差し上げましょう。

  手足が終わったら鼻と耳です。何なら唇もやりましょうか?」

 キュパァ・・・!

 マクシミリアンの声に応えるように、ワイヤーが蛇のようにのたうった。

 ここまできてようやくマーベリックは、自分が最後の一線を踏み越えてしまったことに気が付いた。

 「マクシミリアンさん!ダメです!楓さんがいますから!流血・残虐行為はダメですよ!」

 「大丈夫!ちゃんと目を閉じて耳栓してるから!」

 「ですから煽らないでください!」

 キャーキャー騒ぐ静流と楓をよそに、マクシミリアンはワイヤーを持つ右手を振り上げた。

 

 

 

 

 スーツの上着と頭頂の髪を頭皮ぎりぎりまで切り刻まれたマーベリックが土下座したのはこの直後だった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 何度目になるのか、柱に叩きつけられた虎徹が呻く中、アンドロイドは止めを刺すべく、取り出したビームライフルの照準を定め。

 ガグリ。

『ピー。コード認証。思考形態〈ロジックモード〉をアクティブからセーフティに切り替えます。Good night.』

 突如そんな機械じみた音声が発されたかと思うと、アンドロイドはうなだれるように硬直し、そのまま直立不動で動かなくなった。

 「へ?」

 剣を構えたまま半ば呆然とする虎徹だが、その答えはザルバがもたらした。

 『どうやら、斉藤たちがうまくやってくれたようだな。』

 

 

 

 

 『ふう。何とかうまくいったよ。』

 モニターの前で、斉藤は一息つく。

 モニターに表示されているパスワードは、ブルックス夫妻の誕生日の後に続く8ケタの番号。

 ――君はちゃんと両親に愛されていたよ、バーナビー。

 微笑む斉藤だが、すぐに表情を引き締め、今度は設置していた魔針盤に向き直った。

 「まずいな、斉藤・・・。」

 『ああ、とてもまずい・・・。』

 魔針盤を見つめるベンと斉藤の表情は硬い。

 ジャスティスタワーを中心に、邪気がどんどん濃度を増していっているのだ。

 明らかに何かくる前兆だ。

 “メシアの淀み”カナンが、降臨する。

 『頼んだよ、タイガー、イワン、セシリー。世界の命運がかかってるんだ。』

 「三人とも・・・気をつけろ・・・。」

 案じることしかできない二人は歯がゆく思った。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 「H-01シリーズは停止か。

  まあ、所詮はガラクタ人形。時間稼ぎができれば儲けものだ。」

 スッと組んでいた脚をほどいて友切は座していたソファから立ち上がる。

 「それでは我らも行くとしよう、バーナビー。

  せめて最後くらいはヒーローとして死なせてやろう。

  あのロトワングが作った悪趣味なスーツなどではなく、な。」

 ゆるりと友切が語りかけたのは、向かいの台の上に横たわる青年。

 赤と白のヒーロースーツに身を包んだまま、ヘルメットだけを外され、金髪を無造作に散らしている。

 バーナビーはまるで眠っているようにそこにいた。

 

 

 

 

 虎徹は痛みをこらえながら体を引きずるようにフロアの中心に向かっていた。

 床に墨らしき塗料で描かれた幾何学模様のような魔導陣と、その中心が淡く光っている。

 おそらくこれが女神像の中に続く転送陣なのだろう。

 しかし、そこに乗る前にとうとう倒れこんでしまった。

 「うぐ・・・!」

 『虎徹・・・!』

 胸を押さえて苦痛に呻く虎徹は、それでもふらりと立ち上がり、一歩一歩確実にそこに向かう。

――早くしてくれ、銀牙の坊主、パオリン嬢ちゃん、カリーナ嬢ちゃん。もうこいつは限界だ!

 ザルバは内心、叫びたい気分だった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 バイソンが接近戦を挑み、縫うようにファイヤーエンブレムが炎を投げる。

 二人の連携はなかなかうまくいっていた。

 鉄騎はバイソンに抑え込まれ、唯一通用しそうな舌攻撃はファイヤーエンブレムに邪魔されて、うまい具合に牽制されていた。

 しかし、とうとう痺れを切らしたのだろう。

 『ぴゃああああああ!!』

 ガッチャァァァァン!ズッドドゴガァァァァンッ!

 「うおおおお?!」

 「きゃあああ?!」

 鉄騎は甲高い咆哮を上げると、大きく跳び上がり、バイソンを巨体でプレスせんと跳躍&落下攻撃に切り替えたのだ。

 振動で床が揺れるため、ファイヤーエンブレムも悲鳴を上げて、手の中の炎を消す。

 彼女の能力は強力だが、一番危険なのが誤射による火災だ。ある程度抑えこまなくてはならない。

 これにはさすがにヒーロー二人も逃げ惑うほかはない。

 セシリーはというと、揺れる床をものともせず、スプレーラッカーに詰めている塗料を床に噴射して最後の仕上げを行っているらしい。

 「できタ。」

 カコンとラッカーをポーチに戻すと、彼女は魔戒筆を口に加え、両の手で印を組む。

 フワリ・・・。

 途端に床にまかれた砂やら塗料やらに加え、アクセントのように置かれた木の実や石で描かれた幾何学模様のような魔導陣に淡い光がともる。

 ヒュパッ!ガカッ!

 セシリーの印を組んだ手が魔導陣に振り下ろされるとともに、魔導陣が強く光った。

 瞬間。

 『ぴぎぃぃぃぃぃぃ?!』

 ガッガガッチャァァァァンッ!

 鉄騎が悲鳴を上げて、大理石の床を砕かんばかりの勢いで落下してきて、動かなくなる。

 否。動こうとはしているのだろう。

 じたばたと翼のようにも見える腕を動かしてもがいているが、まるで重石でも乗せられているかのように、その動きには力強さが感じられない。

 「ソウルメタルの重量を数千倍に上げる術を使ったワ。このフロア限定だけどネ。」

 魔戒筆を持ち直し、セシリーは不敵に笑う。

 ヒュウパッ!バッバシャァァァァァンッ!

 続き、セシリーは魔戒筆を使って空中に金色の魔導文字を描くと、そこから不思議な生き物を呼び出した。

 赤い金魚の胴に、象のような頭を持った、空中を泳ぐ不思議な魚。魔界竜の稚魚だ。

 しかも一匹だけではなく、何百という数だった。呼び出されたその群れは鉄砲水のような勢いを持って倒れこんだ鉄騎めがけて肉薄する。

 バゴドォンッ!

 その威力はかなりのものだった。

 魔界竜の稚魚の群れが直撃し、鉄騎はとうとうその装甲が変形し、ゴドリと重い音を立てて剥がれ落ちる。

 骨組のような内部に見えるのは、なんだかごつごつした石の塊だった。

 「あれが動力源の魔導石――魔界の石ヨ!

  あれを壊しテ!」

 「任せろ!おぉぉぉりゃぁぁぁぁ!」

 メギブツブチブチブチィィィ!

 咆哮とともに、ロックバイソンは鉄騎の装甲内部に手をかけ、血管を思わせる毒々しいコードを引きちぎって石の塊を引きずり出した。

 「ファイヤァァァァァ!」

 そのまま大きく放り投げられた石の塊に、紅蓮の業火が浴びせられる。

 真っ赤になった石に、止めとばかりに、セシリーが魔戒筆で衝撃波を放った。

 バゴォンッ!

 パラパラと火の粉のような破片を散らし、石は消失した。

 途端に鉄騎は、人間のような顔の中にある瞳から光を消失させ、動かなくなった。

 「うっし!撃破!」

 ガッツポーズをとるロックバイソンと、ほっとした様子で腕を組み直すファイヤーエンブレム。

 セシリーはというと、鉄騎の残骸の方に歩み寄り、魔戒筆を翳す。

 「先行く前にちょっと待っテ。これを処分しとかないとまずいワ。」

 「ああ・・・確かにね。」

 頷くファイヤーエンブレム。

 魔戒関係の物は普通じゃ手に入らない素材で構成されているため、それがタワー内に放置というのはまずい。処分してくれるというならその方がいいだろう。

 「少し待ってくれたら、一気に最上階まで連れてくわヨ。

  あたし、そっち系の移動術使えるシ。」

 「すまん。それなら頼む。」

 その言葉に即行でうなずいたのはロックバイソンだった。

 重装備の彼はヒーロースーツがとにかく重く、機動力に欠ける。エレベーターが使えない(そして使えたとしてもスーツのドリルが引っ掛かって入れない。)今、階段を上りきるまで体力が持つだろうかとひそかに悩んでいたのだ。

 「ハンサムとタイガーは無事かしら・・・。」

 ぽつりとつぶやくファイヤーエンブレムには答えず、セシリーはシャランと守りの鈴を鳴らしながら魔戒筆を鉄騎の残骸に向けた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 三体の分身に分裂したギギ――ギギルに、即席ながらスカイハイとルナティックのコンビはうまいこと連携して対抗していた。

 ギギルのうち一体がルナティックに噛みつこうとすれば、スカイハイが風を巻き上げバリアを作って防御し、別の一体がスカイハイに跳び蹴りを食らわせようとすればルナティックの青い炎の矢に攻撃され、やむなく回避に回る。

 ギョルギョルと三対の目が背中合わせのヒーローとダークヒーローを睥睨する。

 次の瞬間、二人は打って出た。

 ルナティックがギギルたち目がけて炎の矢を撃ち込み、跳び上がった3体をスカイハイが竜巻を起こすように巻き上げて三体いっぺんに拘束する。

 トドメとばかりにルナティックはクロスボウを構える。

 ビャウッ!

 バシィンッ!

 しかし、放たれた青い炎の矢は再び一人の女性姿となったギギが伸ばした右手の長い爪に弾かれた。

 そればかりか。

 ビシュッ!

 「うわっ!」

 メットのわきをかすめた赤い閃光に、スカイハイは悲鳴を上げた。

 その拍子に拘束が解けたギギは地面に降り立ち、爪が伸びたままの右手を振った。

 バラリ。

 擬音にするならそんな様子で、ギギの右手から指がとれた。

 否。右手だけではない、すでに左手からもとれていた指がいくつもギギの周囲を浮遊している。

 ビシュッ!ヴォッ!

 そのうちの一つが、指先をルナティックに向けて瞬時に爪を伸ばした。

 先ほどの赤い閃光の正体はこれだったのだ。

 ルナティックはマントをなびかせながら攻撃をよけるが、頑丈な耐火性の素材であるはずのマントに穴が開いたのだ、直撃は遠慮したいところだ。

 「まるでファンネルだ。そしてファンネルだ。」

 以前イワンと虎徹、それからヒーローメンバー全員で一緒に見たアニメ映画に出てきたロボットが使っていた武器を思い出し、スカイハイがつぶやいた。

 「・・・それは何だ?」

 「タナトス君は知らないのかい?

  ロボット映画に出てきた武器だ!そして武器だ!」

 「・・・知らぬ。」

 憮然とした様子で返すルナティック。

 ビシュシュシュシュッ!

 次の瞬間、十本の指が爪を伸ばしてきた。

 「スカーイハーイ!」

 ビュッゴォォォォォォンッ!

 しかし、それはスカイハイの能力の前には無力だった。

 指そのものを風ではじいてしまえば爪攻撃の軌道をそらすことはたやすい。

 ビャウッ!

 スカイハイが防御を担当しているので、ルナティックががら空きだろうギギに炎の矢をお見舞いする。

 しかし、ギギはそれを回し蹴りで蹴落とし、そのまま獣のように姿勢を低く突っ込んでくる。

 ゴッゴオォォォォンッ!

 今度こそルナティックは腕から青い炎をほとばしらせ、すぐ目の前を薙ぎ払い炎の壁を作り上げた。

 通常なら、これでひるむなりコースを変更するなりするはずだが、ギギは恐怖や躊躇いという感覚そのものがないかのように、そのまま炎の壁を突っ切り、ルナティックめがけて蹴りかかってきた。

 ヒュバシッ!

 蹴りを防御し、ルナティックは仮面の下で眉をひそめる。

 焦げ臭いにおいがした。

 見れば、ギギの顔は焼けただれ、ひどい火傷を負っている。

 にもかかわらず、彼女はまるで苦痛を一切感じてないかのように変わらずに攻撃を仕掛けてくる。

 ビシュシュシュシュッ!

 「スカーイハーイ!」

 バッドォォォォウウワァァァンッ!

 スカイハイの声に怒りがこもった。

 彼もまた、ギギの異常性に気が付いたのだ。

 圧縮しきった風が弾けるように、十本の指を蹴散らし、カマイタチで八つ裂きにする。

 もはや使い物にならなくなったそれは、跡形も残さず、砂となって消えるが、次の瞬間、ギギは大きく跳び上がり、スカイハイめがけて貫手を繰り出した。

 新しく指が再生した右手で。

 「くうっ!」

 ひらりとその攻撃を躱し、スカイハイは再びルナティックと並ぶ。

 ギュッと強く両の手を握りしめて。

 「・・・ワイルド君が。」

 ぽつりと彼は言った。

 「ワイルド君が言った、“彼女を救ってやってくれ”というのはこういうことか・・・。」

 日頃の快活さは失われ、声には悲痛な響きが宿されていた。

 「苦痛も感じなければ、自分の体の一部を使い捨てにもできる。これでは、まるで・・・。」

 化物じゃないか。

 「・・・。」

 ルナティックは無言のままクロスボウを構え直し、生えたばかりの指の具合を確かめながらこちらの様子をうかがっている様子のギギを睨みつける。

 「殺すのではない。」

 ぽつりとダークヒーローは言った。

 「哀れな傀儡から、本来の魂を解放するのだ。

  もはや、残された道はそれしかない。」

 ここでダークヒーローはスカイハイをちらりと見てから続けた。

 「・・・タナトスの声は我が聞かせよう。

  ヒーロー、汝は己が信じる道をゆくがいい。」

 トドメは自分が刺すというルナティック。あるいはそれは、人を守るということを信条とするヒーローに対する彼なりの敬意だったのかもしれない。

 「・・・ありがとう、そしてありがとう。

  タナトス君、君は想像していたより優しいようだ。」

 「ルナティックだ。」

 それでも憮然と自分の名前の訂正だけは忘れないルナティック。(ここまでくればもはやわざととしか思えないスカイハイもスカイハイだが。)

 「しかし、私もヒーローだ!」

 ゴウッ!

 スカイハイの周囲で風が逆巻いた。

「人を守るのに、ダークヒーローも、魔戒騎士もヒーローもないよ!大事なのは覚悟だ!そして覚悟だ!

 スカーイハーイ!」

 ヴォッヴァウウウッ!

 風が、再び弾ける。渦巻く風はトンネル状になり、ギギを捕え、拘束する。

 ビャビャビャウッ!

 渦の中心――無風状態のそこに、ルナティックは渾身の一撃を叩きこんだ。

 ギギが再びギギルに分裂するより早く。その青い炎は彼女の胸に直撃した。

 ボウワッ!

 風にあおられ、青い炎は彼女を包み込み、燃やしていく。

 「お・・・父・・・さん・・・。」

 炎に包みこまれる直前、ギギが蚊の鳴くような声で小さくつぶやいた。

 しかし、それはすぐに炎の勢いにかき消された。

 「彼女、何か言わなかったかい?」

 「・・・知らぬ。」

 尋ねたスカイハイに、ルナティックは首を振った。

 今回ばかりは、ルナティックが己のフレーズとしている死の神が、“彼女”に慈悲を与えることを、ひそかに願った。

 「先を急ぐぞ。」

 「そうだった!そして急がないと!」

 踵を返したルナティックに、ハッとした調子でうなずいたスカイハイだが、すぐさまその足を止めることになった。

 「しまった、そしてしまった・・・。」

 「・・・。」

 二人は、スカイハイが階段へ続く通路の前に大量のテーブルセットを置いてバリケードにしたことをうっかり忘れていた。

 「すぐにどけるよ!」

 「そうしてくれ・・・。」

 あわてて風を巻き起こすスカイハイに、ルナティックはひそかにこの惨状にどう理由をつけたものか頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 #23END

 GO TO NEXT!

 

 




 よお!こう見えてもグルメで喰らう魂は黄金騎士が好みの方、ザルバだ。
 おい虎徹!しっかりしろ!
 畜生!兎坊やは術にかかって正気じゃねえし、
 虎徹は刻印が発動直前でもう虫の息だ!
 銀牙の坊主は坊主でヤベえみてえだし・・・!
 間に合ってくれ!
 次回、“降臨”。
 おい、そりゃ無茶ってもんだぜ、虎徹!
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