牙狼バニ〈GAROBANI〉   作:亜希羅

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 続けて投下。第2話です。
 この話は一応全体的流れとしては、アニメ版T&B沿いに進める予定ですので、トニー少年が大暴れする巨像事件の話です。
 後、いまさら注意することでもありませんが、モブが出ます。
 苦手な人はご注意ください。


#2 陰我 Apart

 金色の月光、皓々として

 闇の慟哭を蹴散らす。

 其の煌めき、鋼の鎧に満つる刻、

 黄金の騎士とならん。

 

 

 

 ――魔戒詩編第七十四節より

 

 

 

  #2. 陰我~影は常に、汝のそばにあり~

 

 

 

 「そんな!何でいきなり仕事を辞めなきゃいけないんですか!!」

 「君、NEXTなんだって?」

 クラーク=カストは、女上司に食ってかかった。

 デスクにつく彼の女上司は嫌味なまでに冷酷だった。

 できる女そのものの彼女は、カストよりもはるかに若く、出世街道まっしぐらと噂されている。

 「困るんだよね。履歴書にもそれならそうと記載しておいてくれなきゃ。

  これ、立派な書類偽装だよ?」

 NEXTだったら採用なんてしないくせに!

 済んでのところで喉から出そうになったその言葉をカストが飲み込んだのは、意地だった。

 「うちの会社は信用が第一。書類偽装なんてする人間はいらないんだよ。」

 ニッコリ笑って、麗しの女上司は綺麗にマニキュアを塗った指で書類を差し出しながら最後通牒を突きつけた。

 「近日中に、辞表を提出してよね。」

 

 会社を出て、カストはとぼとぼと帰路についていた。

 さして大きくない金融会社に彼が就職できたのは、ほとんど奇跡と言ってよかった。

 彼が就職しようとしていたころ、NEXTに対する差別はひどく、さして殺傷能力がほとんどない能力――頬がよく伸びるとか、大量の汗をかくなどビックリ人間の範疇を出ない能力者であっても差別の対象だった。

 まして、カストの能力は中途半端の一言に尽きた。

 ほんの二十秒だけ、身体能力を五倍にできる。ただ、それだけ。

 普通の人間というには強すぎ、ヒーローのような職に就くには弱すぎる。

 そんな彼が選んだのは、結局大多数のNEXTがそうしているように社会に隠れ住むことだった。

 何とか就職して、上司にせっつかれ、部下からは文句を言われながらも職務を全うする日々。

 しかしそれももうおしまいだ。上司にNEXTであることがばれてしまった。

 辞表を提出するように言われた。もし言うことを聞かなければ、退職金すらないクビだ。

 しかし、三〇代をとうに過ぎたカストの年齢では、再就職も厳しい。

 八方ふさがりだ。どうすればいい?

 

 

 

 「お客さん、もう閉店だよ。」

 カウンターに伏せていたカストは我に返った。

 彼は結局酒に逃げたのだ。浴びるようにカクテルを呷り、気持ち悪くなってトイレで吐いて、それでも飲み続け。

 とうとう見かねた店主にストップをかけられた。別の店にはしごする気にもならず、代金を払って店を出た。

 千鳥足で夜のブロンズステージを歩くカストは、ドンっと誰かに肩をぶつけた。

 「おじさーん。オレ達にぶつかって来るなんて、いい度胸してんなぁ。」

 ついてない時はとことんついてないものだ。

 明らかに柄の悪い若者の集団に絡まれることとなったカストは酔いが回ってぼんやりした頭でそう考えた。

 

 

 

 薄暗い路地裏に引きずり込まれたカストは、散々殴り蹴りされた。

 とっさに能力を発動したものの、短すぎる制限時間と、カスト自身に武術の心得がなかったことが災いし、最初は若者達もひるんだものの、すぐにハッタリであることが見抜かれた。

 「なんだよ、このおっさん!NEXTのくせに、まるっきり能力の意味ねえじゃん!」

 「能力ってのは、こう使うんだよ!」

 若者の一人に羽交い絞めにされると、別の青年がシアンに染まった瞳でカストをあざ笑った。

 バキィッ!

 強烈な打撃を頬に受け、カストは汚い地面に倒れ込んだ。

 「ひゅー!さすがエンツォさん!半端ねえ能力!」

 「確か、右腕だけ、ダイヤに変化できる能力、でしたっけ?」

 「おうよ。こんなおっさん、へでもねえよ!」

 笑い合う若者たちをしり目に、地面に倒れ込んだカストは血の味のする唇をかみしめた。

 歯の具合もおかしい。確実に何本か折れたに違いない。

 こんなの間違ってる。

 能力者というだけで差別され、その能力者同士でも、こんな落差がある。

 ――俺に、もっと、力があったら・・・!

 『力が欲しいのか?』

 ぬっと近くの壁から異形の顔が出てきた。

 白目だけはめ込んだような目が、カストを見据える。

 「ひ、あ」

 『力が欲しいならくれてやる。代わりに』

 貴様をよこせ。

 カストが人間としても意識を保てたのはそこまでだった。

 

 

 

 不夜都市シュテルンビルトに朝が訪れる。

 まばゆいばかりのネオンサインは姿を消し、朝もやの立ち込める中を新聞配達の青年が駆け抜けていく。

 近道として、彼はカストが引きこまれた裏路地に入りこんだ。

 まだ二十件ばかりノルマのある彼に、休む時間はない。

 カツッ。

 何かかたいものを蹴飛ばした青年は、視線を床に向けた。

 「何だコレ?ガラスか?危ないな・・・。」

 拾い上げ、彼は首をかしげた。

 「昨日までこんなもの散らばってなかったのに・・・。

  変なの。」

 すぐに手の中の欠片を落とすと、彼は新聞の束を抱え直し、走り出した。

 路地裏に散らばる、透明な破片の群れ。

 それらは朝日を受け、ダイヤモンドのように輝いた。

 新聞配達の青年は気がつかなかった。ちょうどゴミ箱の影になるところに、大きな塊があったことに。

 そしてそれが、人間の右手首から先の形をしていたことに。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 キィンッ!

 剣撃が漆黒の闇にとどろく。

 見事な直刃の長剣をふるうのは、黒髪に褐色の肌の、中年の男――虎徹だった。

 年の割に細身だが、漆黒のレザー服を身にまとっているため、余計その細さが強調されているように思われる。しかし、筋肉は付いているだろう。

 でなければ、かれこれ一時間近く長剣をふるい続けているにしては、呼吸が乱れていないことに説明がつかない。

 虎徹の立つ所だけスポットライトが当てられたようにぼんやりと明るい。

 虎徹は琥珀色の双眸を険しくしかめ、長剣をふるった。

 キィキキキィンッ!

 刃が、闇から迫るものを次々とはじく。

 銀色の軌跡が描かれたのはほんの一瞬。

 見事なまでの動きは、剣舞をしているようにも思われた。

 フッ。

 ややあって虎徹が小さく息をついた。

 ギシリッ。

 何かが軋むような音とともに、男の首を撥ねんとして彼の周囲をぐらぐらと揺れていた、いくつもの振り子状の刃が停止した。

 「あー!疲れたぁ!」

 先ほどまでの真剣さはどこへやら。すっかり肩から力を抜いた彼はその辺にいるおじさんそのものといった感じで猫のように伸びをした。

 シュキッ。カチン。

 それと同時に、どこから取り出したのだろうか、丹塗りの鞘に直刃をおさめ、踵を返した。

 コツンコツン。

 暗がりに虎徹の足音がうつろに響く。

 やがて、虎徹は暗がりの隅にたどり着いた。

 隅にあったのは、四角い扉。隙間から光が漏れている。

 ガチャン。

 重い音を立てて扉が開かれた。

 明るい部屋はどこか大きな屋敷のエントランスらしい。

 モノトーンの色彩のインテリアをよそに、真っ暗な部屋から出た虎徹は柱の間をすり抜け、玄関わきにたたずむ青年に歩み寄る。

 「訓練お疲れ様です、旦那さま。」

 「ん。いつも悪いな、マックス。」

 マックスと呼ばれた男――正確な名前はマクシミリアンという青年は、ニッコリとほほ笑んだ。

 名前こそ異なるが、どうやら彼もオリエンタル――日系の血が入っているらしく、黒髪を撫でつけ、虎徹よりも明るい肌に細身の優男といったいでたちだ。

 燕尾服に、眼鏡をかけた典型的な執事姿である。

「さってっと、トレーニングも終わったし、“番犬所”に顔出したら、ちょっと市内のゲート浄化に行ってくるぜ。」

 マックスの手からいつもの白いコートを受け取って袖を通しながら、虎徹はこの後の予定を彼に述べる。

 でないとこの忠実な執事の口うるさい説教が始まるのだ。

 かれこれ十年近くそうなのだから、間違いない。

 「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様。」

 恭しく頭を下げるマックスに、虎徹は苦笑した。

 「相変わらず堅苦しいな、お前。」

 「そういう性分ですので。」

 頭を上げてニッコリ笑うマックスの肩を軽くたたくと、虎徹はコートの裾を翻して屋敷の玄関を出て行った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 「それでは最後に、今期の抱負を述べていただけますか?」

「市民の皆さんの期待にこたえられるように、そして皆さんの安全を守っていけるよう、精いっぱい努力していきます。」

 シュテルンビルト、ゴールドステージある、とあるこじゃれたカフェ。

 席についてるのは、くるくるの金髪に眼鏡をかけた美貌の青年と、彼をうっとりと眺める野次馬の群れ、そして懸命にインタビューをとっている女性記者である。

 「ありがとうございました。お疲れ様です。」

 「いえ、こちらこそありがとうございました。

  雑誌の発刊を楽しみにしてますね。」

 女性記者に営業スマイルでほほ笑み、バーナビーはぬるくなったコーヒーに口づけた。

 野次馬――そのほとんどが女性である。

 史上初の顔出しヒーローとなったバーナビーは、そのルックスから早速話題沸騰中で、取材の申し込みが殺到中だった。

 ――この後は、午後からグラビアの撮影だったかな・・・。

 それがヒーローの仕事かというなかれ。

 企業に所属するサラリーマンヒーローは、何も悪人退治だけが仕事ではないのだ。出動の際の報告書の作成、マンスリーヒーローを始めとした各種雑誌の撮影やそれに載せるためのインタビュー、(これは特に肉弾戦闘が主となるバーナビーやロックバイソンに言えることだが)厳しいトレーニングがあるのだ。

 アイドルヒーローの異名をとるブルーローズなど、これらに加え、ラジオのパーソナリティやCDの録音など、もはや芸能人と大差がない。

 ――それをこなしたら、トレーニングルームに顔を出して・・・。

 この後のスケジュールの確認をするバーナビー。

 ふと視線を感じたような気がして、彼は顔を上げた。

 「きゃー!」

 「バーナビー!」

 「こっち向いてー!」

 野次馬たちが黄色い声を上げる。

 彼女達にほほ笑み返し――くどいようだが、営業スマイルである――彼は気がついた。

 野次馬たちのはるか向こうに、ハンチング帽をかぶった、特徴的な髭の男が、苦笑するような眼差しを向けて佇んでいたことに。

 バーナビーと目が合うと、彼はハンチング帽を深くかぶり直し、路地の奥へその姿を消す。

 ――あのおじさん!

 すぐに彼が誰か気がつくと、バーナビーはこの後の予定に思いを巡らせた。

――グラビア撮影まではまだ時間がある。その気になればハンドレットパワーで跳べばほんの十秒程度で行けるし。

 ヒーロー活動でもないのに能力を無駄遣いするんじゃない!

 もしも彼のこの思考を聞くものが誰か一人でもいれば、まずそうツッコミを入れていただろう。

 あわてて関係者に断りを入れ、バーナビーはカフェを飛び出した。

 

 

 

 走っているはずのバーナビーだが、どうしてもただ歩いているだけの虎徹の背中には追いつけなかった。

 ようやく虎徹に追いつきそうになった時には、彼はその辺にある塀を見上げてから、左手の指輪――魔導輪ザルバを翳した。

 すると、重い音を立てて、そこが扉のように開かれた。

 「お」

 バーナビーが呼び止める間もなく、白いコートの背はそこに吸い込まれるように消えてしまった。

 ゴン・・・。

 再び重い音を立てて扉が閉じて元ののっぺりした塀に戻る。

 その前に立って塀を見上げるしかできないバーナビーは困惑した。

 「そんな・・・。

  どうなってるんだ・・・?」

 ぺたぺたと壁を触ったり、他にスイッチがないか調べるものの、結局彼にはどうすることもできず、その場で待ち人を待つしかできなかったのである。

 

 

 

 漆黒の暗がりを虎徹は歩いていた。

 やがて、目の前がぼんやりと明るくなる。

 ぼんやり明るいものの、暗がりであることに近い空間。いつ現れたのだろうか、虎徹の目の前に立つのは、闇に溶け込みそうな燕尾服を着こなした長身痩躯の男だった。

 撫でつけた黒髪に、眼鏡をかけているのは虎徹の屋敷にいた執事のマックスと同じだが、無表情のせいで、より機械的な雰囲気が強調されていた。

 「ども!コダマさん!」

 片手を上げて朗らかにあいさつする虎徹に、コダマと呼ばれたその男は無表情に会釈を返すのみだ。

 「いつものお願いしていいっすか?」

 虎徹の問いかけに、コダマはコクリと頷くと、すっと一歩横に身をずらした。

 そこに現れたのは、狼の頭部をかたどった白い彫像だった。

 シャンッガシャッ。

 ゴウゥゥゥゥゥ・・・。

 虎徹はコートの中に隠し持っていたらしい丹塗りの鞘から剣を引き抜くと、彫像の口の中に刃を押し込んだ。

 途端にそこから白い炎が噴き出し、剣の刃を燃やした。

 すると、剣の刃から白い煙が出てきて、くねくねと一つの形を作る。

 虎徹が彫像の口から剣を引き抜くと同時に、彫像の口が新しいものを吐きだした。

 白い短剣だ。ゆるやかな曲線を描いた刃がマタギが狩りなどに使用するククリを思わせる。この中には、虎徹が斬ったホラーが封印されている。

 

 

 

 ホラーを切ることができるソウルメタル製の剣でも、ホラーを斬るたびに刃に邪気がこびりつき、切れ味が悪くなる。

 今行っている一連の作業は、ソウルメタル製の剣からその邪気を浄化してホラーを封印し、元の切れ味を取り戻すために必要なものだ。

 ちなみに、短剣に封印されたホラーはその状態で“番犬所”からホラーの世界――魔界に転送される。

 いわゆる、強制送還、というやつである。

 

 

 

 虎徹が剣を丹塗りの鞘にしまった時だった。

 『来ていたのですか。』

 おごそかな声に虎徹が振り向くと、差し込む白い光の中に、白装束の少女三人がブランコに乗って現れた。

 髪まで真っ白な少女達は、それぞれ、赤、青、緑の双眸を持って虎徹を見据える。

 「どうも!ヒゲがダンディな方、虎徹です!」

 『能書きは結構です。

  これはどういうことですか。』

 帽子をとって朗らかにあいさつした虎徹を一言のもとにばっさり切り捨て、少女達のうち一人―― 一番左端にいる、年上らしい緑の双眸の少女が口を開いた。

 「へ?どういうことって?」

 『ホラーの返り血を浴びた人間は即刻抹殺すべし。

  “掟”を忘れたのですか?』

 訊き返した虎徹に、緑の双眸の少女が淡々と言う。

 「あ・・・もう、ご存知でしたか・・・。

  いや・・・その・・・。

  ホラーをおびき寄せる“餌”にちょうどいいかな~なんて。」

 『十七年前にも聞きましたね、その言い訳は。』

 「あう。」

 ばっさりと切り捨てられ、笑ってごまかそうとした虎徹はぐうの音も出ない。

 『あの時も言ったはずです。

 返り血を浴びた人間はホラーを引き寄せ、百日後に地獄のような苦しみとともに死に至る、と。』

 既に虎徹の顔からは笑みが消えていた。

 あるのはただ、苦いとしか言いようのない悔恨そのものといった表情だけだ。

 「しかし!」

 『“巻き込まれたものに罪はない”ですか。

  聞き飽きましたよ、そんな言葉は。』

 『いいじゃないですか。』

 口を挟んだのは、赤い目をした一番幼い少女――右端のブランコに乗っている――だった。

 『どうせ自分で責任を持つというのでしょう?

  虎徹。』

 赤い目の少女に、虎徹は目を輝かせて力強く頷いた。

 『ほら。彼もそう言ってますし。

  それに、彼は十七年前にもどうにかしたことがあります。

  なら、彼に任せるのは、ある意味では適任とも言えます。』

 『“掟”は絶対です!』

 赤い目の少女のやんわりした言葉に、緑の目の少女が噛みつくように叫んだ。

 『人界に出現したホラーを狩り、人界と魔界――二つ世界の均衡を護る。

  それこそが魔戒騎士の本領。

  それがなされるならば、人間一人の生き死になど、どうでもいいではありませんか。』

 真ん中のブランコに座る青い目の少女は興味がなさそうに、編み込んだ白髪の毛先をいじりながらそう言った。

 「では、彼の処遇は俺の預かりということで構いませんね?」

 口調こそ丁寧だったが、有無を言わせない強い調子で虎徹が言った。

 『好きなように。』

 『魔戒騎士の本領がなされるならば。』

 赤い目と青い目の少女が穏やかに言った。

 緑の目の少女はまだ不満そうだったが、やがてブランコを軋ませながら吐き捨てた。

 『勝手になさい!』

 その言葉に、虎徹は満足したように頷いて、軽く一礼すると踵を返した。

 その時だった。

 それまで脇に控えて事態を傍観していたコダマがすっと進み出た。そのまま虎徹の前に赤い封筒を一つ無言のまま差し出す。

 “赤の指令書”である。虎徹達魔戒騎士が次に討伐すべきホラーのありかが記されているものだ。

 虎徹は「どーも。」と一声かけてから封筒を受け取ると、懐から銀色のライターを取り出し、シュボッと封筒の端に独特の金緑色の火をつける。

 あっという間に炎はめらめらと封筒全体に燃え広がり。

 ブワン。

 次の瞬間、炎の隙間から銀色の光る文字列が空中に吐き出される。ルーン文字のような独特の文体――魔戒文字で綴られたそれを一字一句見逃さないように脳裏に刻んでから、改めて虎徹は踵を返し、この不思議な空間――魔戒騎士たちの上位者、管理者たちの住まう地、通称“番犬所”を後にした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 いい加減移動しないと次のスケジュールに間に合わない。

 そわそわとバーナビーが檻の中の熊よろしく、虎徹が消えた壁の前を行ったり来たりしていると、再び壁が開いて虎徹が出てきた。

 「あー・・・疲れるな~・・・。」

 ゴキゴキと肩を鳴らして、あからさまにげんなりしているようだ。

 「ずいぶん遅かったですね、おじさん。」

 「ん?

  おー、バニーちゃん?」

 「僕はバニーじゃありません!バーナビーです!」

 話しかけたバーナビーは返された虎徹の言葉に怒鳴った。

 誰がバニー〈ウサちゃん〉だ!

 「よくここがわかったなあ。」

 感心する虎徹に、バーナビーは嫌みたっぷりに言い放つ。

 「あなた目立つんですよ。

  いい年のおじさんの恰好じゃありませんよ。」

 「だっ!

  おじさん言うな!」

 虎徹はあからさまにショックを受けた顔をした。

 年に関しても格好に関しても自覚はしていたが、こうもあからさまにはっきりといわれたのは初めてだった。

 一応、虎徹がこんな目立つ格好をしているのにも、れっきとした理由があるのだが。

 「あなたなんて“おじさん”で十分ですよ。おじさん。」

 バーナビーは鼻で笑った。

 まるで迫力にもかけ、このあいだの人知を超えた戦闘ぶりはどこへやら。

 まるっきり敬う気になれなかった。

 「~~。かわいくねえな。

  折角のハンサムが台無しだぜ?」

 「余計なお世話です。」

 ツンとそっぽを向くバーナビー。

 「んで?その“おじさん”に何か用事か?」

 やりにくいと言わんばかりの顔で、虎徹が用件を促した。

 「!」

 ここでバーナビーはそうだった!逃がさない!といわんばかりの鋭い目で虎徹を睨む。

 「あなたが何者か、まだ聞いてません。

  あなた、何なんですか?」

 「あ~・・・。」

 あからさまに答えたくない様子で虎徹は視線を泳がせた。

 「え~っと・・・まあ、ホラー専門の退治屋、みたいなものかな?

  正式には、魔戒騎士って言うんだけどさ。」

 「聞いたことありませんね。」

 「だっ!

  だから普通の人間には内緒にしてるの!

  公になったら大騒ぎだろ?!」

 コミカルな動作で両腕をバタバタする虎徹。

 くどいようだが、まるっきり威厳に欠けていた。

 「胡散臭・・・。」

 「こら!そこ!口に出てる!

  だいたいこの間のホラーを退治するところ!バッチリ見てただろ!」

 胡散臭そうにするバーナビーに、ビシッと人差し指を突きつけて怒鳴る虎徹。

 「ええ。おかげさまで大変でしたよ。」

 嫌みたっぷりにバーナビーは返した。

 

 

 

 実際、あの翌日、バーナビーは苦労した。

 まず“キャサリン”にひねられた足の治療に言い訳が必要だった。

 まさかヒーローデビューしたばかりの有望株の青年が階段で足をひねりましたとも言えない。

 極めつけは、キャサリン=グレーデンと、そのマネージャーの失踪である。

 まさか、『キャサリンは怪物に変身して、マネージャーを喰い殺し、あわや自分も餌食になるところでした』とは言えない。言ったとしても誰も信じないだろうし、下手をすれば新人ヒーローまさかの乱心と精神科に連れ込まれてゴシップ誌にあることないこと書き連ねられても困る。

 二人の失踪に、キャサリンを送るようマーべリックに言いつけられたバーナビーに疑念の目が向けられたのは、ある意味当然の帰結だった。

 もしも、バーナビーの保護者にマーべリックがいなければ、今頃バーナビーの周囲はさぞ賑々しくなっていたに違いない。

 マーべリックが「キャサリンのマネージャーから、バーナビーの送迎の断りの旨が入れられていたから、今回のこととバーナビーは無関係だ」と発表していなければ、今頃バーナビーはヒーロー活動どころではなくなっていただろう。

 ちなみに、足の治療に関しても、マーべリックが口の堅い医者を手配してくれたので、事なきを得た。

 つくづくあの養父には助けられてばかりだ、とバーナビーは心底マーべリックに感謝した。

 

 

 

 「あー・・・うん。

  悪いな、いろいろ・・・。」

 バーナビーの苦労を知っていたのか、あるいは彼の口調から察したのか、とにかく虎徹は決まりが悪そうに謝った。

 「そうだ!お詫びと言っちゃなんだが、手を見せてくれ!」

 「は?」

 何か思いついたらしい虎徹がポンと手を打ったのに対し、バーナビーは胡散臭げな態度を崩そうとしない。

 「いいからいいから。」

 「こう、ですか?」

 「そうそう。」

 恐る恐る人差し指に黒いデザインリングがはまった左手を出すバーナビーの手――ヒーローらしく鍛えられ、ごつごつしたその手を、虎徹はすっと受け取り。

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 擬音に直すならこんなところだろうか。

 流れるようにすんなりと、バーナビーの中指――黒いデザインリングをはめられた指輪の隣の指に、銀色の指輪をはめ込んだのだ。

 「お。サイズぴったり。

  さすが。」

 「ちょっと!いきなり何するんですか!」

 感心したような虎徹に、バーナビーは怒鳴って左手をとり返した。

 「?!

  くっ・・・!

  抜けない・・・?!」

 あわてて新しくはめられた指輪を引き抜こうとするバーナビーだが、指輪は喰い込んでいるわけでもないのに、呪いでもかけられたかのようにバーナビーの指からびくともしなかった。

 「おじさん!これ、何なんですか?!」

 顔を上げてバーナビーが怒鳴った時には、虎徹の姿はバーナビーの前から忽然と姿を消していた。

 「あのおじさん!またしても!!」

 ぎりぎりとバーナビーは歯ぎしりして悔しがった。

 そんな彼の真っ赤なケータイが震えて、グラビアの撮影はどうなっているのかという催促の電話があるまで、あと数秒のことである。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて。その夜のことである。

 「あー、母ちゃん?

  楓、いる?」

 『こんな夜更けにかけてくるんじゃないよ!

  ・・・まあ、お前は仕事が仕事だからしょうがないんだろうけどね。』

 街灯の灯された街を、こつこつ足音を立てながら虎徹は優雅に電話をしていた。

 黒いボディのスマートフォンは、虎徹のようなアナログ人間が使うには、やや似合わない感がある。

 電話の相手は虎徹の母――鏑木安寿である。シュテルンビルトから遠く離れたオリエンタルタウンに住んでいる彼女は、畑いじりをしながら、優雅に暮らしている。

 『明日早いからってもう寝てるよ。

  楽しみにしているみたいだったよ、明日のスケート大会。』

 「そっか。今度こそ行ってやらないとな。」

 答える虎徹の声は柔らかい。

 『だからってあんまり無理するんじゃないよ。死んだら元も子もないんだからね。』

 必死な響きのある母親の声に、虎徹は苦笑する様に頷いた。

 「わかってるよ、母ちゃん。

  じゃあ。」

 プツッとここで虎徹は足を止めて電話を切ると、コートの内ポケットにスマートフォンをしまう。

 ボリッゴリッグチャグチャ・・ジュルル・・・。

 何か、硬いものを咀嚼して、液体をすするような音が、薄暗い裏路地に不気味に響いた。

 『仕事前にのんきに電話かよ、虎徹・・・。』

 「そう言うなよ、俺の活力、“護るべきもの”の確認だぜ?

  ザルバ。」

 『“護るべきもの”ね。』

 笑うようなザルバに、虎徹は気を取り直すように一つ呼吸すると、眼差しを真剣なものにする。

 辺りに満ちるのは裏路地特有の据えたような臭いの他に、濃い鉄錆にも似た生臭さだ。

 コツリ。

 再び虎徹が一歩踏み出した。

 その一角は、街灯に照らされ、奇妙に明るかった。

 明るいグレーのスーツに身を包んだ女が、あおむけに倒れ伏している。

 ウェーブのかかった茶髪は濡れたアスファルトに散らばり、青い眼は恐怖にひきつったまま見開かれいる。

 虎徹は知る由もなかったが、彼女は数日前にクラーク=カストに退職を宣告したキャリアウーマンだった。

 ビジネスバッグに詰め込まれた筆記用具や化粧品が地面に散らばり、書類が雪のように舞う中、それは彼女にのしかかり、はらわたを引きちぎって咀嚼していた。

 「ちくしょうめ・・・!

  ちくしょうめ・・・!

  NEXTが何だ・・・!

  お前こそ人間の姿をした化け物じゃないか・・・!」

 ブツリッと、それは呪詛とともに、彼女の肉を新たに食いちぎった。

 「まずいよ、お前・・・。

  はは・・・弱い奴なんてこんなものか・・・!」

 「じゃあ、その辺にしとけよ。

  化け物。」

 咀嚼していた肉を吐き捨て、それが嗤った時に、虎徹は侮蔑するように声をかけた。

 いつの間にか、虎徹の手には丹塗りの鞘に収まった長剣が握られていた。

 虎徹の声に、それがはっと顔を上げる。

 飛び散った返り血は、その口元だけでなく、かけているフレームのゆがんだ眼鏡のレンズまで汚していた。

 もっとも、眼鏡のレンズにはヒビが入り、ガラスの一部がこぼれおちているので、眼鏡としての機能を果たしていないのは明白だろう。

 それは、パッと見た限りでは、三十代の男だった。

 人種の坩堝、シュテルンビルトならではの赤毛の小柄な男は、よれよれのグレーの背広に、無精ひげを生やした、さえない印象の持ち主だ。

 これで前述のように返り血さえ浴びてなければ、さえないサラリーマンで済んでいたことだろう。

 「っと。使うまでもないか。」

 取り出しかけた銀色のライターを再び懐にしまい、虎徹はそれを睨んだ。

 かつて、クラーク=カストという人間であった、その哀れな成れの果を。

 「何だよ・・・!

  お前も・・・俺を・・・化け物呼ばわりするのか・・・!」

 「人間の肉かじって平然としてる奴なんざ、化け物呼ばわりされて当然だっつーの。」

 虎徹の侮蔑に、ゆらりと“カスト”は身を起こした。

『魔戒詩編第九十四節に曰く、“汝の陰を克目すべし。陰は常に汝の傍らにあり。覚悟せよ、陰を臨む者よ。すべからくは、汝が陰を目することこそ陰もまた汝を目すると、心得るべし。これぞ、闇の招きなり。”』

 ゆったりとザルバが語り出した。

 「見られた・・・殺さなきゃ・・・。

  殺す・・・殺すぅぅぅぅ!」

 “カスト”がシアンの燐光を纏い、拳を振り上げて虎徹に殴りかかってきた。

 対する虎徹も小手調べだろうか、抜剣せずに丹塗りの鞘を携えたまま右手を構えた。

 だが、想像以上に素早い“カスト”の拳に、虎徹はギョッとしながらも何とか攻撃を避けた。

 “カスト”の拳は、街灯の柱を発泡スチロールか何かのようにあっさり砕き、その勢いのまま近くの壁を軽々と抉った。

 『ホラー“ヴィレン”だな。

 気をつけろ。やっこさん、お前のハンドレッドパワーと同等か、それ以上の馬鹿力の持ち主だぞ。』

 ぞっとする虎徹に、ザルバが飄々と解説を入れる。

 「そうかよ!なら!」

 キィン!

 虎徹もまたシアンの燐光を纏い、琥珀の双眸をシアンに輝かせた。

 「いくぜ!」

 丹塗りの鞘をコートの内にしまい、今度こそ虎徹は身構えた。

 

 

 

 いつの間にか、虎徹のかぶっていたハンチング帽は飛ばされていた。

 異形と化した男と、白いコートを纏った虎徹は、狭い路地裏の壁を蹴って、まるでシアン色の流星のように、路地裏の間を行ったり来たりしていた。

 バシンバシバシン!

 拳が、蹴りが、鈍い殴打音が路地裏に轟く。

 『おい、虎徹!

  そろそろ本気でかかれ!』

 「ああ!そうしようと思っていたところだ!

  ちょうどウォーミングアップも終了ってな!」

 ザザッと距離をとり、虎徹は再び丹塗りの鞘を携え、今度こそシャンッと直刃の剣を引き抜いた。

 これこそ、魔戒騎士の武器、ホラーに対して唯一致命傷を与えられるソウルメタル製の剣、退魔の剣である。

 薄暗い路地の中、わずかな月光に、直刃が銀色にきらめいた。

 『ちくしょう・・・お前も・・・バカにしてぇぇぇ!』

 メリメリッと音を立てて、“カスト”の纏う背広が裂けた。

 その体が風船のように膨らんだからだ。“カスト”は筋骨隆々の大男に変身していた。

 ただし、その顔は上半分にのっぺりした仮面が張り付き、牙がむき出しになった口元だけが目立った。

 ドシンと地を穿つのは、いつの間にかズボンを引きちぎって現れた、トカゲのような太い尾だった。

 整髪剤で固められていた赤毛もざんばらの鬣のように伸び、元の“カスト”の頼りなさげな風貌はどこにもない。

 「それじゃワイルドに」

 吠えるぜ!

 決め台詞をそう続けようとしたのだろう。

 しかし、虎徹はそう言うより早く、絶句して大きく目を見開いた。

 ちょうど“カスト”を挟んで向こう――大きく曲がった路地からふらついた足取りの男がフラフラと入ってきたのだ。

 男は酔っ払いであるに違いない。明るければ、確実に顔が赤いのだろう、千鳥足で鼻歌など歌っている。

 虎徹の様子を怪訝に思ったのだろう、“カスト”もまた振り向いた。

 「んえ?」

 そこで、酔っぱらいは状況を認識した。

 はらわたを食い散らかされた女の死体に、剣を携えた中年男、そして――体長二メートルを超す、トカゲのような異形。

 「ひああああああ?!」

 一瞬で酔いが醒め、青ざめた男が絶叫した。

 恐怖に腰が抜けたのか、ご丁寧に尻もちまでついて、だ。

 『がああああああ!!』

 “カスト”は増えた目撃者を消そうと、鈍器のような右手を振り上げた。

 「させるかぁぁぁ!」

 虎徹が吠えた。

 いまだ発動中であったハンドレッドパワーによる桁違いのスピードで瞬時に“カスト”の脇を回り込み、男の盾になったのだ。

 ドゴォウンッ!

 ハンマーのように振り下ろされた一撃を、虎徹はアスファルトにひびを入れながらも、頭上に掲げた剣で受け止めることに成功した。

 「どぉりゃぁぁぁぁ!」

 そのまま虎徹は雄叫びとともに、“カスト”の右手をはじいた。

 はじかれたことによってウェイトバランスが崩れた“カスト”は、もろに体勢を崩す。

 その隙を虎徹は見逃さない。

 ザゾンッ!

 素早く剣を構え直し、強烈な切り上げを喰らわせる。

 『ぎゃえええええ?!』

 顎を切られ、“カスト”は悲鳴を上げる。

 返り血を浴びないように虎徹はすばやく飛びさがる。もちろん、腰を抜かした酔っ払いの襟首をつかむことも忘れない。

 『ぐっ・・・ごっ・・・おおおおおおおお!!』

 ドシン!ズシャッ!ダンダンダンッ!

 “カスト”は苦痛にうめきながら二~三歩後ずさったかと思うと、壁を蹴って三角跳びの要領でビルの上に姿を消す。

 「あ!テメ、待てこら!」

 「ヒィィィィィ!置いて行かないでくれぇぇぇぇ!」

 すかさず虎徹も追いかけようとするが、酔っぱらいが白いコートの裾にしがみついて離そうとしない。

 ちなみに、ハンドレッドパワーはタイミング悪く時間切れ。力ずくで引きはがすわけにもいかなくなった。

 「おい、落ち着けって!もう大丈夫だから!

  あいつを追いかけないともっとやばいことに」

 「わかんないだろそんなの!!

  あああいつが戻ってくるかもしれないじゃないか!

  一人で置いて行かないでくれぇぇ!」

 何とかなだめて落ち着かせようとする虎徹に対し、あんな恐怖体験の後に一人で置いて行かれてはたまらないと酔っ払いはますます錯乱ぶりに拍車をかけて、虎徹のコートをより一層強く握りしめる。

 結局酔っ払いがコートを放したのは、それから三十分近く後のこと――虎徹が酔っぱらいを殴って気絶させた後で、その時にはすっかり“カスト”は影も形も消え失っていたのである。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 シュッシュッシュッ。

 虎徹は懐に持っていた特殊な香水を気絶している酔っ払いにかがせる。

 これもまた魔戒騎士に配給される魔導具の一種で忘却香という。その香を嗅げば、一時間前後の出来事を綺麗に記憶から飛ばす、一種の催眠忘却剤だ。

 魔戒騎士の活動は隠密行動が基本。目撃者はその記憶を消すことが義務付けられているし(もっとも、これに関しては虎徹は分別のあると判断した人間に関しては実行に移していない。)、場合によっては――例えば、ホラー狩りの妨害をしてきたときなどは――その生殺与奪を自由にする権限をも与えられているのだ。

 『やれやれ。おい虎徹、ここ最近、やけにドジる事が多いな。

  年か?』

 「だっ!

  まだ現役だっつーの!」

 呆れた調子で咎めるザルバに、虎徹は苦虫をかみつぶしたような顔をして、忘却香のミニボトルをコートのふところにしまう。

 『けどなあ・・・。

  この前は“鎧”の制限時間を忘れてうっかり高所から飛び降りただろ?

  そのあとは兎ちゃんを“返り血付き”にしちまったし、今度はとり逃がしだ。

  また、“番犬所”の若造りババアどもに何て言われるか』

 「あー!わかってるっつーの!

  これ以上言うなって!っていうかほんとに何も言わないで!

  どこで誰が聞いてるかわかんないんだから!」

 耳をふさいで涙目で虎徹は叫んだ。

 後半は明らかに、“番犬所”の主である三神官――三人の少女の姿をした管理者に対してだろう。

 壁に耳ありなんとやら、である。彼女たちなら地獄耳を持っていてもおかしくない。

 虎徹は常々そう思っていた。

 「とにかく、今日はもう引き上げだな。

  あいつも今日はもう何もしないだろうし。」

 疲れた調子で虎徹は剣を収めた丹塗りの鞘をコートの内側にしまい、ハンチング帽を拾い上げてかぶり直すと、踵を返した。

 白いコートの背は、間もなく暗闇に没した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 「ヤベえ!寝坊した!遅刻遅刻!」

 『だぁから早く起きろって言ったんだぜ?虎徹・・・。』

 翌朝。

 虎徹はベッドからはね起き、あわてて身支度を整えていた。

 左の中指に収まっているザルバが呆れてもの申すが、虎徹はそれどころではない。

 今日は大事な一人娘、楓のスケート大会だ。

 魔戒騎士はホラーの出現時間に合わせて自然と夜型の生活になってしまうが、だからと言って娘の大事な晴れ舞台に遅刻してい言い訳にはならない。

 急いで着こむ服は、昨夜の魔戒業中に来ている漆黒のレザー服ではない。

 亡き妻があつらえてくれた服装は、モスグリーンのシャツに、茶色のスラックス、鋲つきのネクタイは黒で、その上にハンチング帽と同じツートンカラーのベストだ。

 魔戒業での外出ではない時、虎徹はこの服を好んで着るのだ。

 ともあれ、この上にいつもの白いコートを羽織り、左手首にワイヤーを仕込んだ腕時計と数珠のブレスレットをつける。

 「旦那様!お忘れ物でございます!」

 身支度を整え、ハンチングをかぶり、いざ出発となった主を執事が呼び止める。

 ラップに包まれたサンドウィッチと買ってきたばかりらしい缶コーヒーを手渡し、マクシミリアンはにっこり微笑する。

 「食事は活力の源でございます。

 楓様にお会いなさるなり、空腹を主張されては、また“パパカッコ悪い”と言われますよ。」

 ご丁寧に声真似までした執事に、虎徹はつい先日の電話内容を思い出して再びへこみそうになった。

 『虎徹!もう時間がねえぞ!』

 「へ?だああああ!!」

 再度せかしたザルバに、虎徹は顔を上げてエントランスの柱時計を見るなり、顔を引きつらせた。

 完全に遅刻である。

 「じゃあ!行ってくる!」

 「いってらっしゃいませ。」

 バタバタと慌ただしく出て言った虎徹に、マクシミリアンは優雅に一礼を送った。

 バタンと扉が閉まったところで、彼はふと気がついた。

 「おや?」

 まさかと思い、あわてて主の寝室へ向かい。

 今度こそマクシミリアンは絶句した。

 丹塗りの鞘に収まった退魔の剣がちょこなんとベッドのわきに鎮座していたのだから。

 「旦那様!お忘れ物でございます!!」

 今度こそ執事は金切り声を上げた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その日、出社して一通りの事務作業を終えたバーナビーは一息つこうと、席を立った。

 アポロンメディアのヒーロー事業部には上司であるアレキサンダー=ロイズの他は、バーナビーと経理の年配の女性しかいない。

 ロイズは専用のオフィスを持っているので、必然的にバーナビーは経理のおばさんと二人っきりになる。

 このおばさんにしても、おばさん然とした見た目とは裏腹に必要なこと以外まるで口にしない、職務に忠実な人だったので、ヒーロー事業部は業務時間中は静まり返っていた。

 バーナビーはもともと騒がしいのは好まなかったので、願ったりかなったりではあった。

 バーナビーの美貌に惑わされ、あれやこれやと言ってきたりする方がよほど煩わしい。

 ・・・若干自意識過剰に思われるかもしれないが、バーナビーにとってこれがデフォルトなので、あまり突っ込まないでいただきたい。

 ともあれ、つらつらとそんなどうでもいいことを考えながら、バーナビーは休憩室にあるコーヒーメーカーの元へ向かった。

 紙コップを手に取ろうとしてカチリッと左手の指輪がすり合い、バーナビーは思わず眉をしかめた。

 人差し指にはめた黒いデザインリングと、中指の銀色のシンプルな指輪。

 ――まったく・・・・!

   あのおじさん・・・!

   何を考えてるんだ・・・!

 フツフツと苛立ちがわき上がって来るのを押し殺し、バーナビーは紙コップをコーヒーメーカーにセットした。

 

 虎徹と別れた後、バーナビーはああでもないこうでもないと彼から押し付けられた指輪をはずそうとした。

 しかし、指輪は梃子でも外れようとしなかった。

 最終的にリングカッター(病院などにある、指輪を切断して外す専用の機械)を利用しようと専門の病院にまで行ったが、逆にリングカッターの刃が折れて担当の医師から「この指輪は何ですか?!」と仰天されたほどである。

 ヒーロースーツを着るときは、指輪などの装飾品は外さねばならないというのに。

 仕方ないので斎藤――アポロンメディアのヒーロースーツの開発・整備を担当しているメカニックに事情を話せば、彼は指輪を一目見るなり「じゃあ、そのままでいいよ。仕方ないしね。」と蚊の鳴くようなウィスパーボイス(口元に耳を寄せねば聞こえないほどのか細い声は斎藤氏にとってはデフォルトであるらしい)であっさり承諾してくれた。

 

 

 

 このとき、バーナビーは気がつかなかった。

 バーナビーの中指の指輪を見るなり、斎藤が少し驚いたように、銀縁眼鏡の奥のつぶらな黒い瞳を見開いて、「今度は何をやらかしたんだい?タイガー・・・。」と(例の如くとっても小さな声で)つぶやいたことに。

 

 

 

 閑話休題。

 ともあれ、さっさとあの忌々しい男に会い、この指輪をどうにかしてもらわなければならない。

 何事もなければ定時には直帰できる。

 そのまま、例の調査に行こう。

 ――ついでにあのおじさんを探せばいい。

 コーヒーを手に持って、オフィスまで歩きながら、バーナビーはそう考えていた時だった。

 左手首にはめているリストバンドのようなPDAがけたたましい音を立てた。

 『ボンジュール、ヒーロー!

  早速だけど、事件よ!』

 コーヒーを左手に持ち替え、右手で画像を出すなり、現れたHERO TV名物の美貌プロデューサーが不敵にほほ笑んだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 渋滞に引っかかった虎徹が、苛立たしげにハンドルを指先でトントンと叩いていた時だった。

 突如、ズズゥゥン・・・という重い地鳴りのような音が自動車を揺るがした。

 「な、何だぁ?!

  こんな真昼間から、ホラーか?!」

 ギョッとして、虎徹は姿勢を正し、周囲を見回した。

 虎徹の宿敵としている化け物どもは夜をその活動時間としている。

 なぜなら、ホラーは人間の住む世界――人界とは紙一重次元の異なる魔界に住まい、魔界と人界をつなぐゲートが開くのは夜に限定されているからだ。

 『んなわけねえだろ。匂いもしねえし。

  大方、NEXTじゃねえか?』

 ザルバが興味なさげに言う。

 「お。なるほど。」

 と、手を打ったところで虎徹は顔を引きつらせた。

 「回れ右ィィィ!」

 大急ぎでクラッチを踏んでギアを入れ直し(虎徹の車はよくいえばヴィンテージもの、悪く言えば古いマニュアル車である。)、アクセルを踏みながらハンドルを大きく回し、車をガラ空きの反対車線に突っ込ませた。

 『どした?』

 「何か来る!俺の勘がそう言ってる!」

 魔導輪の問いに、虎徹がそう答えた時だった。

 虎徹の覗いていたバックミラーに、赤銅色の顔が映った。

 「マジでぇぇぇ?!」

 虎徹が素っ頓狂な声を上げても仕方ない。

 とっさのことにザルバすらそう思った。

 それは、道路の両わきにある高層ビルほどはある、巨大な彫像だった。ブロンズの巨像がノッシノッシと歩いている。

 予知でもしたかのようにさっさと反対車線に車を走らせた虎徹はともかく、他の自動車のドライバーたちは悲鳴を上げて、一斉に車から飛び出した。

 歩道を歩く人々も我先に逃げ出す始末だ。

 彫像では入って来れそうにないちょっと狭い路地の路肩に素早く車を止め、虎徹もまた車を飛び出した。

 「何なんだあれ?!」

 『さあな。けどこのまま放置はまずいんじゃないか?

  あのデカブツの向かってる方向、見ろよ。』

 ザルバの言葉に、虎徹はハッと巨像が向かっている方を見た。

 その先はアイススケートのリング――愛しい愛娘がいる。

 「楓!」

 虎徹は今度こそ悲鳴のように叫んで全速力で駆けだした。

 

 

 

 トランスポーターに乗りこんだバーナビーは、ヒーロースーツの装着カプセルで、おもちゃの組み立てのように真紅のヒーロースーツを装着し、意気揚々でチェイサー――ヒーロースーツにそろえた専用のバイクだ――に乗って出動した。

 現場はゴールドステージの一角。

 元はビルの装飾としてあった巨像が突然動きだしたらしい。

 明らかにNEXTの仕業だろう。

 本社ビルの位置関係で、バーナビーが一番乗りになったらしい。

 ノッシノッシと歩く巨像の前にバイクを止めると、バーナビーは朗々と声を張り上げた。

 「止まれ!おとなしく像を動かすのをやめて、姿を現せ!」

 巨像は登場早々高ポイントを稼ぎ、怒涛の勢いでキングオブヒーローに迫る活躍を見せる新人ヒーローの恫喝に臆したのか、まっすぐにスケートリングのあるスタジアムへ向かう足を止めた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 いくつ目かの角を曲がるなり目にした通行止めに警官の配備を目の当たりにして虎徹はため息をついた。

 どうもヒーローの出動が決定したらしい。

 紺色の制服の警官達の話を耳にし、虎徹は眉をしかめた。

 この調子では、他の路地も封鎖されているに違いない。

 しかし、虎徹の思考に、おとなしく待つという選択はなかった。

 『それなら牛に任せちまえばいいんじゃねえか?』

 「よくねえ!」

 乗り気ではない様子の魔導輪を一喝し、虎徹は帽子をコートのポケットに押し込み、左手につけている時計を近くのビルの屋上目がけてさっと構える。

 パシュッ!

 時計についている小さなスイッチを押すと同時に、時計から小さなアンカーが先端についた極細のワイヤーが飛び出した。

 カキュウンッ!

 硬い音を立ててアンカーが屋上付近から飛び出た看板を照らすための電灯に引っかかる。

 再び虎徹が時計のスイッチを押すと、ギャンッ!と甲高い音を立ててワイヤーが巻き取られ始め、反動によってその細身の体躯をあっという間に、ビルの上に跳ね上げた。

 ついでアンカーを外し、次に打ち込む場所を見定めながら、虎徹は瞬時に周囲に視線を走らせる。

 風で白いコートの裾が翼のようにたなびく。

 見るものが見れば、ジャングルを疾駆する白衣のターザンか(ただし、木々などではなくコンクリートと文頭につくが)、ビルの狭間を駆け抜ける白い羽の鳥かと思うことだろう。

 

 

 

 だてに身一つでホラーなどという化け物と殺し合いをしているわけではない。

 虎徹にとって剣一本が武器というわけではない。

 シュテルンビルトは、地図にも載ってない裏路地が複雑なクモの巣のように入り組み、さらに大小さまざまなビルと各層〈ステージ〉を隔てる壁によって、さながら立体迷路の様相を醸し出している。

 その立体迷路の様相を頭に入れ、己の不利を悟って撤退する化け物の追撃を行うのも、虎徹にとっては必要事項だ。ワイヤーでビルの上に舞い上がるという並外れた芸当も、必要に迫られて会得したのだ。

 今やシュテルンビルトの立体迷路は虎徹にとっては庭に等しく、また剣に並ぶ強力な武器となっていた。

 

 

 

 閑話休題。

 ともあれ、虎徹が空中で視線を巡らせると、赤銅色の頭がビルの間から突き出しているのが見えた。

 ――あれか!

 何としても先回りする必要がある。

 突起物にアンカーをひっかけ、鳥のように舞い上がる。時にはビルの屋上に着地し、そのままビルの上を走る。

 そうして最短ルートを通り、何とか彫像の横に並んだ虎徹が、ふと再び像を見た時だった。

 誰かが赤銅色の彫像の頭にしがみついている。

 体格から察するに、子供のようだ。

 この子供が彫像を操るNEXTであるに違いない。

 「あの子か?!」

 思わず足を止めた虎徹に、子供はその声に気がついたように振り向いてきた。

 「止まれ!おとなしく像を動かすのをやめて、姿を現せ!」

 バーナビーが声を張り上げたのはまさにこの時だった。

 虎徹に姿を見られたことに動転したのか。あるいはバーナビーの恫喝に怯えたのか。

 ともあれ、この時、確かに一度は彫像は動きを止めたのだ。

 しかし、それも一拍の間のことで、すぐさま子供は行動に出た。

 何をどうしたのかはわからないが、巨像に左手を振り上げさせ、虎徹のいるビルの屋上をたたき潰そうとしたのだ。

 「げっ!」

 パシュッ!カシュウンッ!ギャンッ!

 ズッガォォォォンッ!

 すぐさま虎徹はワイヤーを飛ばし、別のビルに飛び移った。その直後、巨像の拳が先ほどまで虎徹のいたところに炸裂し、コンクリートが粉々に飛び散る。

 ――マジかよ・・・!

 本気でシャレにならない、と虎徹が顔を引きつらせるのをよそに、子供は虎徹を仕留めたと思ったのか、はたまた威嚇程度だったのか、とにかく次の標的を足元でちょろちょろしているバーナビーに変更したらしい。

 巨像の右足を振り上げさせ、バーナビー目がけて振り下ろした。

 「くっ!」

 キィン。

 バーナビーの纏うスーツの色が淡く輝いた。

 能力発動をわかりやすくするための仕掛けだ。おそらく、スーツの内側では、バーナビーの瞳はシアン色に輝いていることだろう。

 バーナビーは百倍にアップした身体能力のまま大きく飛び上がり、巨像による攻撃をかわした。

 虎徹がワイヤーで跳んだ方向へ。

 「え?!」

 「だッ!こっち来んな!!」

 バーナビーがギョッとした時にはすでに遅かった。

 ガゴブッ!

 虎徹とバーナビーは空中で衝突。そのどさくさで、虎徹の左手首から延びるワイヤーが二人に絡まってしまった。

 「だああ!どっち向かって跳んでんだ!」

 「それはこっちのセリフです!

  そもそも、何であなたがここにいるんですか!おじさん!」

 絡まり合ったままお互いを罵倒する二人。

 『おい、喧嘩してる場合か!前!前!』

 ザルバのあわてた声に虎徹がハッと巨像の方を振り返った時には、みの虫状態となっている二人を捕らえるべく、巨像の大きな右手が迫ってきていた。

 「っだああああああ!」

 虎徹は悲鳴を上げながらも、回避行動に出た。

 もともと自分の道具である。今回のようなトラブルが起こってもある程度どうにかできるように対応策はある。

 近くのビルの壁を蹴り、振り子のように動き、巨像の右手をかわしたのだ。

 「なっ?!」

 ここで初めて子供が声を出した。

 声の高さからして、まだ十代になったばかりの少年といったところだろうか。

 「くっ!クソ!ちょこまかと!」

 「バニー手伝え!足技は得意だろ!」

 「バニーじゃありません!バーナビーです!」

 悪態をつく少年は、シアンに輝く両目で蓑虫状態の二人を見据えながら、何とか捕まえようと巨像の両手を操る。

 しかし、そこは経験豊かな魔戒騎士と、新人とはいえ優秀なヒーローである。

 振り子運動の要領を掴むと自由な足を使って、二人は右へ左へ奥へ手前へと揺れ動き、巨像の両手をかわし続ける。

 もっとも、バーナビーはコツをつかむや否や自分勝手な体重移動を始めたので、途中からやむなく虎徹が「合わせろよ!」と文句を言いながらも、虎徹の方がバーナビーに合わせていたが。

 「スカーイハーイ!」

 ザンッ!

 独特の掛け声とともに、二人を戒めていたワイヤーが唐突に断ち切られる。

 「!

  これは・・・!」

 「うおわああああ!」

 何かに気がついた様子のバーナビーに、虎徹の悲鳴が覆いかぶさる。

 頼みの綱のワイヤーが切られたのだ。当然結果は自由落下である。

 しかし。

 ボズンッ!

 「虎徹!またお前、無茶しやがって!」

 落ちてきた虎徹を器用に抱きとめたのは、太い腕の持ち主だった。

 深緑の装甲に、肩についた金色のドリルと、雄牛を思わせる大きな角の、ヒーロースーツ。

 「アント・・・じゃなくて、ロックバイソン!」

 見上げて虎徹は声を出していた。

 うっかり中の人間の本名を呼びそうになったのはご愛敬。

 「お前、いつから高い所から落ちるのが癖になったんだ?」

 「だっ!まだ二回目だっつーの!」

 呆れた調子で問いかけたロックバイソンに、虎徹は怒鳴り返した。

 「もう、おろせよ!

  つーか、いつから俺はお姫様だっこされるようになったんだ?!」

 俺は男だ!

 言いながら虎徹はロックバイソンを押しのけるように地面に立った。

 いつの間にか、他のヒーロー達もそろい踏みとなったらしい。

 能力で宙に浮くキングオブヒーロー、スカイハイを始め、愛車を乗りこなして駆け付けたファイアーエンブレムが炎のエフェクトの入ったマントをなびかせ、ブルーローズが氷のお立ち台でポーズを決め、ドラゴンキッドが赤い棍を振りまわし、「サアッ!」と気合の入った声を上げる。

 「先輩・・・そのおじさんと知り合いなんですか?」

 いまだに発動中の能力で華麗に着地を決めたバーナビーが、怪訝そうな様子で虎徹とロックバイソンを見比べるが、二人は黙殺した。

 話よりも、目の前の事件である。

 「おい、虎徹。

  お前がいるってことは、また例の化け物がらみか?」

 腰をかがめて囁くように尋ねたロックバイソンに、虎徹は小さく「いや。」と返した。

 「昼間は出ないって言ったろ?

  あれの進行方向――アイススケートリングに、楓がいるんだよ。」

 「楓ちゃんが?!」

 ギョッとした様子で声を上げるロックバイソンに、虎徹は小さく頷いた。

 「ここは俺達に任せて避難しろって言いたいところだが・・・。」

 「当然聞く俺じゃねぇ!」

 言うなり虎徹は駆け出した。

 いつの間にかかぶったハンチング帽を飛ばないようにしっかりと押さえつけて。

 「楓のところへ行く!

  後は任せたぞ!ヒーロー!」

 「見つけたらすぐに避難するんだぞ!虎徹!」

 しっかり頷きながら、ロックバイソンは赤銅の彫像に向き直った。

 が。

 「君が犯人だね?

  とりあえず、話しあってみないかい?」

 「わあ!離せよぉ!」

 能力を使って巨像から少年を浮かばせ、同じ高さに浮いているスカイハイがフレンドリーに話しかけた。

 少年が離れた途端、赤銅の巨像は動かなくなってしまった。

 「お見事。」

 「モウ・・・。

  俺の存在って一体・・・?」

 ヒーロースーツのマスクからのぞく褐色の口元をしならせて笑うファイアーエンブレムに、猛牛を模したヒーローはがっくりと肩を落とした。

 「落ち込むんじゃないわよ、バイソンちゃん。」

 「モウッ!!

  尻を触るな、尻を!」

 スーツの堅い装甲越しとはいえ、尻を触られていい気分になるはずがない。

 ファイアーエンブレムは、その道をいく、いわゆるおネエ系である。

 ファイアーエンブレムに尻を撫でられたロックバイソンが悲鳴を上げた時だった。

 ヒュンパッ!

 ゲシンッ!

 「うわっ!」

 「大丈夫か!坊や!」

 突然近くのビルから跳び上がってきた人影が、ひとっ飛びにスカイハイを殴り倒し、能力の制御から外れた少年を抱きとめた。

 もし、この場に虎徹がまだいれば、苦虫をかみつぶしたような顔をしたであろう。

 それは、少ししわの入ったスーツを身にまとったクラーク=カストを名乗る男の姿だった。

 

 

 

  TO BE CONTINUED #2 Bpart!  




 字数制限に引っかかったので前後編に分けました。
 申し訳ありませんが、後篇に続きます。
 
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