牙狼バニ〈GAROBANI〉   作:亜希羅

7 / 28
 それでは、第5話を投下させていただきます。アニメ版T&Bのバニーの誕生日をさらっと流して、一気にアニメ版第6話をミックスしました。
 ちょっと兎ちゃんとおじさんの距離が縮んだかなと思ったら、また兎が距離をとりました。もう!素直になりなさい!君、扱いにくいんですよ!
 そして青薔薇さんが予想以上にかわいらしくなりました。炎はお色気担当と言ってるけど、彼女を動かすのは楽しいと、この話で気が付いてしまいました。他の素敵SSで、彼女が活躍するわけですね。
ついでにあれもこれもと欲張ったらベンさんと斉藤さんも出張ってきました。旧魔戒業組です。第2話後篇の謎が明らかになりますよ。


#5 劫火

 その韻、哀嘆の声に似たり。

 嫣紅の腕に抱かれ、焦熱の舌に玩ばれば、

 哀惜も愁嘆も須らく、

 万物を灰燼と帰す。

 

 

 

 ――魔戒詩編第一三二節より

 

 

 

  #5. 劫火~炎の使い手の憂鬱な日と、兎の怒り~

 

 

 

 「ハッピーバースデイ、バーナビー!」

 とある路上にて、ヒーローたちは新人ヒーローの誕生日を盛大に寿いでいた。

 つい先ほど、“ヘラクレスの涙”というダイヤモンドが強奪され、バーナビーのバースデイを祝おうとしていたヒーローたちは、その犯人を捕らえたばかりだ。

 連行される犯人を見送り、ヒーローたちはバーナビーを囲んで祝いの言葉を述べていた。

 ちなみに、犯人を捕らえたのはバーナビーである。本来犯人を捕まえたのはスカイハイだったのだが、プレゼントに何がいいのか尋ねた彼に対し、バーナビーがポイントと答えたのを真に受けて、そのまま犯人〈逮捕ポイント〉を本日の主役に渡したのだ。

 クールでスマートをウリにしているバーナビーが、珍しく照れくさそうにしまった、ほほえましいエピソードである。

 

 

 

 「えー?!バニーちゃん、今日、誕生日だったのかよ?!」

 夕食を終えてソファに陣取ってテレビを見ていた虎徹は声を張り上げた。

 『ありゃま。にやにやしやがって。』

 「なんで俺に教えてくれなかったんだよぉぉ。」

 一緒にお祝いしたのに!

 苦笑するようなザルバ(今は虎徹の指にははまっておらず、専用のストックホルダーにチョコンと納まっている。)をよそに、虎徹が不満そうに口をとがらせた。

 バーナビーが耳にしようものなら、「必要ありません。」とクールにばっさり切り捨てるだろう光景である。

 「では、プレゼントだけでもいかがでしょう?」

 「プレゼント?」

 食器を片付け終え、エプロンを外しながらやってきたマクシミリアンに、虎徹は訊き返した。

 「多少日が遅れても、それなら立派なお祝いになるのではございませんか?」

 「むう。なるほど・・・プレゼントか・・・。」

 『兎坊やの性格なら“いらない”って突っぱねそうなもんだがなぁ。』

 考え込む虎徹に、ザルバは茶々を入れた。

 そうかもしれない、と虎徹やザルバの愚痴を聞いてバーナビーの人柄をぼんやり掴んでいるマクシミリアンは思ったが、口に出さないことにした。

 せっかく主人がやる気になっているのだ。一流の執事は主人の行動にアドバイスは入れるが、余計な横槍は入れないものだ。

 『それに、虎徹〈お前〉が単独で選ぶのもどうかと思うぜ?

  お前、趣味悪いし。』

 「何だとう?!」

 『いつも楓に文句つけられてるじゃねえか。』

 「っ!!!」

――ああ、ザルバ殿、それは旦那様も重々ご承知なのですから、あえてそれをはっきりおっしゃることもないでしょうに・・・。

 脳天に特大の鈍器を食らったような顔をした虎徹に、マクシミリアンは遠い目をした。

『こないだなんかロックバイソンのグッズ送ったら、バーナビーの方がいいとか言われて思いっきりへこんでたくせによ・・・。』

 「親友の応援して何が悪いんだよ?!」

 『まあ、俺もあの兎坊やのどこがいいかはわかんねえがなあ?

  何処がいいと思う?虎徹?』

 「え~っと、顔?」

――楓お嬢様・・・少し見ぬ間にすっかり面食いになられたようですね・・・昔の奥様に似てきたようで・・・。

 魔戒騎士と魔導輪の漫才に、執事はこの場にいない主人の娘に思いを馳せた。

 

 

 

 もっとも、幼い彼女がこの屋敷にいた頃、マクシミリアンは執事見習いで、執事は彼の祖父が務めていたが。

 彼のフルネームはマクシミリアン=倉橋。倉橋家は代々、“牙狼”の系譜である冴島に仕えており、現在は当代当主である虎徹に仕えていることになる。

 

 

 

 ともあれ。

 何気に虎徹もひどいことを言ってるのに、ツッコミ役が不在である。

 「ん~・・・よし!」

 しばし考えた後、虎徹は一つうなずいた。

 「俺一人じゃなくて、誰かと一緒にプレゼントを選べばいいんだな?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 「なんで私なのよ?」

 「いやだったか?」

 「べ、別にそういうわけじゃ・・・。」

 ゴールドステージのアーケードを歩く男女。

 一人は白いコートにハンチング帽をかぶり、モスグリーン、白、黒を基調にしたアーバンスタイルの男――虎徹。

 もう一人は、学校帰りだろう、制服に身を包んだカリーナである。

 「今日はありがとな。おかげでいいプレゼントが見つかったぜ。」

 「べ、別に!あんたのためじゃないし!」

 にかっと笑う虎徹の手には、ビーズクッションで、ショッキングピンクのウサギのぬいぐるみ――上下の区別がほとんどつかないくたびれたデザインのそれがリボンでラッピングされて抱えられており、カリーナは頬を赤くして、つんと脇を向いた。

 どうやら照れているらしい。

 「でも兎〈それ〉でよかったの?」

 「いーのいーの。」

 尋ねたカリーナに、虎徹はうなずく。

 ちなみに、代金はこのことを聞きつけたヒーローたち(彼らは祝いの言葉を述べただけで特にプレゼントは用意してなかったらしい)と折半である。

 「ハンサムとも、知り合いだったんだ・・・。」

 「うん?まあな。」

 少しうつむいて、カリーナが小さくつぶやくと、虎徹はそんな彼女を不思議に思いながらもうなずいた。

 「俺の仕事がらみでな。

  いや~びっくりした。」

 「え?」

 「いきなり蹴りかかってきてさ。」

 「えええ?!」

 あっけらかんと言った虎徹に、カリーナはぎょっとした。

 「蹴りかかってきた?!

  何考えてんのよ、あいつ?!」

 初対面時に自分も虎徹を不審者扱いしたことを棚上げして、怒るカリーナ。

 「落ち着け落ち着け。済んだことだよ。」

 「でも!」

 「気持ちだけで十分だって。心配してくれてありがとうな、カリーナ。」

 ポンッと頭を撫でられた。

 子ども扱いしないで!セットが崩れる!

 言いたいことはあるはずなのに、手を払いたいのに、カリーナは固まってしまった。

 「どした?」

 「なななな、なんでもないわよ!」

 「顔赤いぞ?」

 「何でもないって言ってるじゃない!

  それじゃ、わたし、仕事あるから!」

 覗き込んでくる虎徹から、後ずさってカリーナはくるりと踵を返して駆けだした。

 「・・・あっち、タイタンと逆方向じゃないか?

  まあ、いいか。」

 首をひねる虎徹。

 『・・・落ちたな。』

 「?

  何の話だ?」

 『何でもねえよ、この人間磁石。』

 「???」

 半ばうんざりの入ったザルバの言葉も、やっぱり虎徹は理解できず、ウサギのぬいぐるみを抱えたまま、首をひねるしかなかった。

 

 

 

 反対方向に走ってしまったカリーナが、どうしたものかと挙動不審になっているとは、虎徹が気が付くことはなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ピンポーン♪

 定時に帰宅したバーナビーは、ネットを開いてアンダーグラウンドに潜って調べ物をしていたが、チャイムの音にハッと顔をあげた。

 夕食も忘れて調べものに熱中していたため、当然部屋の電気も点いてなく、真っ暗だった。

 ピンポーン♪

 再びチャイムが鳴る。

 言っておくが、バーナビーにはわざわざ自宅を訪ねてくるほど親しい人間はごく一部を除いていない。

 そのごく一部にしても、バーナビーは連絡を入れてるから、よほどのことがない限りわざわざ訪ねてくるはずがないのだ。

 カチリッと眼鏡を押し上げると、バーナビーはリクライニングチェアから腰を上げ、玄関に向かった。

 「よっ。」

 ガチャッと玄関の扉を上げるなり視界に飛び込んできた髭面に、バーナビーは見なかったことにして扉を閉めたくなった。

 ちなみに、虎徹の格好は昼間とは違い、すでに黒のレザー服の魔戒騎士スタイルである。

 「・・・何の用ですか、おじさん。」

 まさかあの化け物がらみじゃないだろうな?

 視線だけで問いかけてくるバーナビーに、虎徹はヘラリと笑うと、わきに抱えてたものを差し出した。

 「ちょいと遅くなったけど、ハッピーバースデイ、バニー♪

  バースデイプレゼントだ。」

 「いりません。」

 即行でぴしゃりと言い放つバーナビーだが、虎徹はめげなかった。

 「そう言うなって。

  前あがらせてもらった時から思ってたんだけど、おまえんち、殺風景すぎ。

  ぬいぐるみの一つでも置けって。」

 「ぬいぐるみって、僕は子供じゃありません。」

 「当たり前だろ?

  そうじゃなくって・・・だあっ!とにかく、黙って受け取れって!」

 虎徹はどう言いくるめようか言いよどむが、すぐに開き直ると半ば無理やりバーナビーにピンクのウサギぬいぐるみを押し付けた。

 「ちょっと!」

 「って、真っ暗じゃねえか!こんな時間まで、お前何やってたんだよ?!」

 文句を言おうとするバーナビーをさえぎって、部屋の奥を覗き込んだ虎徹が素っ頓狂な声を上げた。

 「電気くらいつけろよ!目ぇ悪くなるぞ!」

 『もうすでに眼鏡だろ?』

 「ますます悪くなるってことだよ!」

 ザルバのツッコミに言葉を返すと、虎徹は手探りで電気をつけた。

 「あーあ、顔色悪いぜ?

  ちゃんと飯食ってるのか?」

 「・・・あなたには関係ないでしょう。」

 「問答無用!」

 ふんっと鼻息を荒くして、虎徹は朗々と言い放った。

 「飯!作ってやるからちゃんと食え!」

 

 

 

 虎徹は愕然とした。

 自身の屋敷のキッチンにも虎徹の燃費の悪さに対応したかなり大きな冷蔵庫が鎮座しており、バーナビーのマンションにもそれと同等のサイズのものがあった。

 だがしかし。その中身は執事が定期補充してくれた屋敷のものとは異なり、ペットボトルのミネラルウォーター数本と、酒のつまみらしきチーズくらいしかなかった。

 「今まで何食って生きてたの?!バニーちゃん!」

 「・・・デリバリーです。」

 「栄養偏るぜ?!」

 「おじさん知らないんですか?」

 ふっとバーナビーは胸を張ってドヤ顔(ハンサムだとそんなところまで様になるのかと虎徹は思考の片隅で思った。)で言い放った。

 「サプリメントという便利なものがあるんですよ?」

 「却下だ却下!

  人工栄養なんて、天然食品からとるものとは・・・あれだ、運慶の差なんだよ!」

 「ウンケイ・・・?」

 『虎徹よぅ、それを言うなら雲泥の差なんじゃねえか?』

 怪訝そうに眉をひそめたバーナビーは、ザルバのツッコミになるほどと納得した。

 相変わらず目の前の男は語彙力がないようだ。

 「だっ!細かいことは気にすんな!

  ちょっと待ってろ!今ひとっ走り材料を買ってきてやる!」

 「え・・・。」

 バーナビーが呼び止める間もなく、虎徹は風のように部屋から飛び出した。

 ため息を吐くと、バーナビーはリビングへ向かい、ネットを閉じると、テーブルの上に置きっぱなしにしていた切り分けたパウンドケーキ――母のようなサマンサから贈られた、とってもおいしく大切なそれを宝物にそうするようにそっと箱に入れると、お節介な魔戒騎士に見つからないように寝室に持って行った。

 

 

 

 虎徹がビニール袋いっぱいに食材を持って戻ってきた(夜中でも営業しているスーパーまで行ってきたらしい。)のは、その三十分ほど後のことだった。

 「うわ!調理器具、こんなにそろってるのに、まったく使った形跡がねえ!」

 キッチンの開きを開けてまたしても仰天しながら、虎徹は左手からザルバを外してキッチンテーブルの上に置き、退魔の剣をすぐそばに立てかけると、レザー服(すでにハンチング帽と白いコートは脱いでいる)の腕をまくった。

 トントンという包丁の軽快な音を聞きながら、バーナビーは手持無沙汰にキッチンテーブルについていた。

 ――なんて面倒くさい人だ・・・。

 さっさと追い出したいのに、なんて図々しい。

 しかし、ここで喚いても、今までの行動パターンから察するに、軽く受け流されるだろう。それならバーナビーが採るべき手段はただ一つだ。

 ――さっさと納得して帰ってもらうしかないな。

 夜は化物退治をしている男が、キッチンで包丁片手に素材と奮闘しているのは、なんともおかしな光景だ。

 『虎徹が料理できるのが、そんなにおかしいか?』

 「・・・ええ。」

 話しかけてきたザルバに、バーナビーはうなずいた。

 『あれでもあいつは一通りのことはできるぜ?

  普段は面倒がって手を抜いてるだけだ。そんな余裕もないしな。』

 「ああ・・・。」

 あの化け物どもと殺し合いをしてたら、家事など二の次になるだろうな、とバーナビーはうなずいた。

 ・・・そのため、冴島の屋敷のことはマクシミリアンのような執事が切り盛りしているのだが、バーナビーにそこまで知る由はない。

 「・・・。」

 そういえば、今日はこの家でごそごそしているが、彼らの仕事〈化物退治〉の予定はないのだろうか?

 顔に出ていたのだろうか、バーナビーの疑問にザルバはしれっと答えた。

 『欠食兎坊やの飯を作るくらいの時間的余裕はあるさ。

  何より、今日はフリーだ。いっつもかっつも化物退治というわけじゃぁない。

 まあ、シュテルンビルトには、虎徹以外にも魔戒騎士はいるし、今何かあっても大丈夫だろう。』

 「他にもいるんですか?!」

 ぎょっとするバーナビー。

 魔戒騎士という職業を虎徹しか見たことがないからか、何となく虎徹と似たような人間をイメージしてしまった。

 あんなうっとうしい人間が他にもいるのか。

 『おう。もう一人な。

  と言っても、あっちはあっちで頼りねえんだよな・・・。』

 「は?」

 頼りない?

 一体どういう人物なのだろうか?

 頭の中一杯にクエスチョンマークを飛ばすバーナビーに、虎徹の声がかかった。

 「待たせたな。

  虎徹特性チャーハンだ。」

 ウィンクして、虎徹はホカホカと湯気を立てる皿とスプーンをバーナビーの前に置いた。ミネラルウォーターをコップに注いで一緒に置くのも忘れない。

 「さ、召し上がれ。」

 にっこり笑う虎徹。

 どうやら食べないと納得してくれないようだと判断したバーナビーは、ため息をついてスプーンと取り上げ、チャーハンを一口食べた。

 「!」

 ――意外とおいしい・・・。

 「うまいか?」

 目を瞠ったバーナビーに、虎徹がやさしく微笑んだ。

 「っ!

  た、食べられないことはありませんね!」

 ツンとそっぽを向きながらも、バーナビーはチャーハンを掬って口に運ぶことにした。

 素直じゃない、と後にこの出来事を思い返して、ザルバが苦笑したのは余談であろう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて。

 事件が起こったのは、その数日後だった。

 ジリリリリンッ!ジリリリリンッ!

 けたたましくベルを鳴らすのは、冴島の屋敷にある昔懐かしの黒電話(ただしアンティーク物らしく金で嫌味のない装飾が施されている。)である。

 「はい。鏑木でございます。」

 優雅に電話に出たのは、もちろん、執事のマクシミリアンである。

 もうすぐ起きてくる主人のために、朝食の用意をしている彼はエプロンを身につけていた。

 「旦那様はただいまお休み中で・・・おや?」

 執事は柳眉を跳ね上げ、怪訝そうに続けた。

 「午前中にご連絡とは、どうなさいましたか?

  Ms.シーモア。」

 

 

 

 「旦那様、起きてくださいませ。」

 「うー・・・。おはよう・・・マックス・・・。」

 のそのそとベッドから身を起こした虎徹。黒髪は寝癖でぼさぼさである。

 「ふっわああああぁぁぁぁ・・・。」

 「Ms.シーモアからお電話でございます。

  どうも何か切羽詰っていらっしゃるようですので、お早めに出た方がよろしいかと。」

 大口を開けて伸びと一緒にあくびをする虎徹に、マクシミリアンは毛布を引っぺがしながら淡々と言った。

 「ネイサンから?」

 「はい。」

 目をこすって生理的涙をぬぐいながら尋ねた虎徹に、執事はうなずく。

 「昨日の件か・・・?」

 ベッドを出て、首をひねりながら、虎徹はパジャマの上にガウンを羽織り、電話へ向かった。

 

 

 

 昨日、虎徹はいつものようにホラー退治に向かった。

 少し違ったのは、ネイサンと事前打ち合わせをしたことだ。

 ネイサンはヘリオスエナジーという大企業のオーナーを務めている。そのため、虎徹と知り合ってからは、ホラーがらみかもしれない事件の調査を依頼してきたりしているのだ。

 虎徹としても、時折普通では立ち入れない場所にホラーが出現することがあり、そういう時にネイサンの力で出入りさせてもらったりするので、持ちつ持たれつの関係を築いている。

 そんなわけで、昨日もネイサンからの依頼を兼ねたホラー退治をこなし、メールで依頼完了の連絡を入れ、帰宅した。

 まさか何か不備があったのだろうか?

 

 

 

 ――あのシャンデリア叩き壊したことかな・・・?

   い、いや、大理石の柱にひびを入れたことか?!

 文句の内容を戦々恐々と予想しながら、虎徹は恐る恐る保留ボタンを押して(見た目こそアンティークだったが、そのくらいの機能追加はされているらしい)電話に出た。

 「も、もしもし。」

 『タイガー!何とか言ってちょうだい!』

 「ど、どした?!」

 電話に出るなりネイサンの微妙に野太い金切り声が耳を直撃し、虎徹は目を白黒させた。

 『アタシは無実よ!』

 「はあ?!」

 全く話について行けず、虎徹は間の抜けた声を出した。

 

 

 

「つまり、刑務所から焼死体が出て、NEXTの仕業じゃないかということになって、自然系能力の中でも炎を操ることができるファイヤーエンブレム〈お前〉が疑われた、と。」

 『そうなのよ!

  アタシに昨日、犯行は不可能よ!あんたと一緒にいたんだもの!』

 ネイサンをなだめて話を聞きだし、総合的にまとめた虎徹に、ネイサンが再び怒鳴った。

 「なるほど。俺にアリバイを証明しろってことか。」

 『ええ。頼めるかしら。』

 「ああ。ちょっと支度するから・・・昼過ぎにジャスティスタワー前でいいか?」

 『わかったわ。』

 時間指定する虎徹(少し時間に余裕があると思われるかもしれないが、退魔の剣の浄化のために“番犬所”に寄る必要がある)に答えて、ネイサンは不満たっぷりの声で唸った。

 『どこのどいつか知らないけど、失礼しちゃうわ!』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ベン=ジャックソンは、タクシー乗り場で商売道具の窓を磨いていた。

 ――忌々しい鳩め。フンならよそでしやがれってんだ。

 内心毒づきながら、きれいに磨き上げ、痕跡一つないピカピカの窓を見下ろした。

 ベンは、中年をとっくに過ぎた黒人の男で、肥満気味の大きな腹をしていた。昔はもう少しスマートだったが、鍛練を怠り、一般社会に順応しようとしたら自然とこうなったというのは本人の弁である。

 「すんません、タクシー頼んでいいっすか?」

 「!」

 ベンが振り向くと、そこには人懐っこい笑みを浮かべたハンチング帽に白いコートの男が佇んでいた。

 「おう、虎徹!

  いいぞ、乗ってけ!」

 陽気に笑いながら言うと、ベンは運転席に乗ると、後ろの席のドアを開いてやった。

 「コートの裾に気をつけろよ。」

 「だっ!もう挟まねえよ!」

 からかうように言ったベンに、乗り込んだ虎徹はコートの裾を引っ張って、完全に車内に入ったことを確認しながら言い返した。

 「どこまでだ?」

 「ジャスティスタワーまで頼んます。」

 「了解だ。」

 虎徹に答え、ベンはドアを閉め、車を発進させる。

 無線で本社に行先を告げると、そのままハンドルを切って幹線道路に出る。

 「腕の調子、いいみたいっすね。」

 「ハハッ。もう引退した身だ。」

 虎徹の言葉に、ベンは苦笑するように返した。

 

 

 

 ベン=ジャックソン。

 今でこそポセイドンラインでタクシードライバーをしているが、虎徹が魔戒騎士になる前――先代“牙狼”であった冴島正宗がこの世を去ってから、シュテルンビルトを守護していた、“牙狼”の系譜の流れを汲む、無銘の魔戒騎士である。

 しかし、虎徹が魔戒騎士になって少し経ったくらいに右腕に致命的な負傷をし、やむなく引退することとなった。(もちろん、リハビリをして、日常生活に不自由ないように動かすことはできるが、ホラーとの戦いには力不足だった。)

 彼が冴島の屋敷から虎徹の剣を持ってこれたのも、元魔戒騎士の肩書を持つからなのだ。魔戒騎士の武器――ソウルメタル製の退魔の剣は、常人には超重量を誇り、魔戒騎士の修練を受けた者にしか、持ち運ぶことすらかなわないのだ。

 

 

 

 「ところで虎徹。

  この間助けてたヒーローだが。」

 切り出したベンに、ギクリッと虎徹は肩を揺らしていた。

 「“返り血付き”だな?」

 「・・・やっぱりわかりました?」

 「阿呆。あのホラーの目つき・・・その辺の人間を見る目はしてなかった。

  極上の珍味を見る目だったぞ。」

 やはり先輩騎士には、バレバレらしい。

 虎徹は苦笑いして頭を掻くしかない。

 「ドジっちまいまして。」

 『ま、逃げろって言って逃げなかった兎ちゃんも問題だがな。

  かなりのはねっ返りだよ、あの坊やは。』

 「ハハハッ!

  ザルバにかかればスーパールーキーも兎坊やか!」

 口をはさんだザルバに、ベンは豪快に笑う。

 「しかしだ。」

 ここでベンは眼差しを真剣なものにして、バックミラー越しに虎徹を見据える。

 「お前、ちゃんと助けるアテはあるんだろうな?

  ただ生かして苦しませるだけ苦しませておくことほど、残酷なことはねえぞ?」

 「んなことはしねえっすよ!」

 虎徹は前に身を乗り出さんばかりの勢いで怒鳴った。

 「ヴァランカスの実も、すでにマックスに言って探させてます。

  ・・・死なせねえよ、絶対に。」

 再び座席に腰を下ろして、虎徹は真剣な目で力強くうなずいた。

 『おいおい、虎徹のお人よしっぷりは、あんたも身をもって知ってるだろ?』

 「・・・そうだなぁ。

  友恵さんの時も、そうだったなぁ。」

 独り言のように言って、ベンは思考を過去に飛ばす。

 

 

 

 後部座席の魔戒騎士が、ようやく尻から殻がとれたくらい(つまるところ、ベンから見ればまだまだヒヨコだったくらい)のころ。

 頼りない後輩はさっそくドジをした。ホラーとの戦いに知り合いが巻き込まれ、返り血を浴びてしまった、殺さずに放置しているというのだ。

 ベンは呆れた。呆れて昏々と説教した。殺生は救済という極端なことは言わない。だが、被害拡大を防ぐためにも、ホラーを引き寄せるという恐怖と苦痛と絶望の日々から解放するためにも、“返り血付き”を殺すのは、必要な措置だと思っている。

 それをこの後輩ときたら、“そんなの間違ってる。殺さずに助けてみせる。”と啖呵を切ったのだ。

 まさかそれを実現するとは、当時のベンもつゆとも思わなかった。挙句彼女と結婚して子供までもうけてしまうのだから、驚愕以上の驚愕だった。

 

 

 

 「ついたぞ。」

 キッと車を女神像を戴いた一際高いビル――ジャスティスタワーの近くに止めた。

 「サンキュー、ベンさん。」

 「また頼むぜ、虎徹。」

 代金を払って降車した虎徹に、からりと笑い、ベンは車を切り返し、去って行った。

 ふわりと白いコートの裾を翻し、虎徹はジャスティスタワーの前にたたずむピンクと褐色の人物に歩み寄った。

 「はぁい、タイガー。」

 「よお。ネイサン。

  ・・・と、アニエス?」

 「タイガー。昨日ネイサンと一緒にいたんですって?」

 片手をあげて、虎徹は隣にたたずむHERO TVの名物プロデューサーを見た。

 真剣そのものといった様子のアニエスに、虎徹はうなずいた。

 「ああ。ネイサンの行きつけの店で飲んでた。」

 もっとも、酒はほどほどにして、店を出るときには大量の水を飲んでからハンドレッドパワーでアルコールを飛ばして(代謝を百倍にするという裏ワザである)、体調を万全にしたうえでホラー退治をしたが。

 「・・・頼りない証人ねえ。」

 「おい。」

 アニエスの言葉に、虎徹は微妙に顔をひきつらせた。

 単に居合わせただけ(少なくとも虎徹にはそう見えた)のアニエスに言われたくない。

 「あなた自分のこと自覚してて?

  事件に積極的に首を突っ込む胡散臭い一般人でしかないのよ?」

 「反論できねえ・・・。」

 アニエスの言葉に、虎徹は肩を落として情けない顔をした。

 胡散臭いというのは、最近知り合ったバーナビーにさんざん言われたが、世間的には一般人でしかないというのは反論のしようがなかった。

 ――ホラーや魔戒騎士のことは守秘義務が働いてるしな・・・。

 それこそ、巻き込まれ型で不可抗力で知った人間しか、知りうることのないことだ。

 「焼死体って言ってたけど、どんな感じなんだ?」

 「だから焼死体よ。」

 尋ねた虎徹に、アニエスは何言ってるのこいつと言いたげに言葉を返した。

 虎徹は首を振って続けた。

 「焼き加減だよ。

  生焼〈レア〉とか、炭化〈ウェルダン〉とか、中間〈ミディアム〉とかあるだろ?」

 「炭化〈ウェルダン〉よ。あんたの言い方に合わせるなら。」

 答えたのはネイサンだ。

 思い出すだけ不快なのだろう。ピンクの眉とアイシャドウを寄せながら答えた。

 「ちなみにネイサンがその気になったら、どのくらい焼ける?

  炭化〈ウェルダン〉にするとして、かかる時間は?」

 「!?」

 ハッとしたアニエスは、さっそく携帯を取り出すとどこかに連絡し始めた。

 「ねえ。」

 こっそりとネイサンは虎徹に、アニエスに気取られないようにささやいた。

 「今回の事件は」

 「無関係だな。奴らは死体を残さない。」

 首を振る虎徹。

 ホラーは人間を喰らう。餌となった人間は基本的に骨も残らない。だから、世間的には失踪・蒸発扱いとなる。ホラーが餌とした人間の死体を残す理由はただ一つ。邪魔が入って食事を中断せざるを得なかったときのみだ。

 「決まりよ!タイガー!」

 電話を終えたアニエスが、嬉々とした様子で戻ってきた。

 「?

  何が?」

 「実験よ実験!

  ファイ・・・ネイサンにも協力してもらうわ!」

 ――ああ、また面倒に巻き込まれたな。

 虎徹の左の中指で、ザルバがこっそりため息をついたのはご愛嬌。

 

 

 

 「なんで俺が協力しなきゃならねえんだよ・・・。」

 『あら。友人のピンチでしょ?

  バイト代だって出すわ。』

 「そりゃ俺もネイサンの無実の証明に協力するのはやぶさかじゃねえよ?!

  だからってなんで俺がブルジョワ直火焼きにならなきゃいけねえんだよ!!」

 耳元の通信機越しにしれっと言ってきたアニエスに、虎徹はガショリッと装甲を鳴らしながら怒鳴った。

 所はアポロンメディアのラボ、シュミレーションルームである。

 虎徹が着ているのは、バーナビーとおそろい――というよりも、彼が初対面の時に着ていたピンクと灰色のプロトタイプヒーロースーツだ。これなら、耐火性ばっちりというのはアポロンメディアの専任メカニックである斉藤の談である。

 ちなみに黒のアンダースーツも着ているのだが、これを着こむとき、いささか問題があった。

 「あんたって、本当に37?」

 「37だよ!きっちり!戸籍にもそう載ってるから!」

 同じくヒーロースーツに身を包むネイサンことファイヤーエンブレムが半ばあきれながらそう尋ねると、虎徹は心外だ!と言わんばかりに吠えた。

 「でもねえ・・・ハンサム用に作ってあるはずのアンダースーツが、足の長さはともかく、肩回りが緩くて、腰回りがブカブカって・・・。」

 ついでに言うなら、足元も長さはともかく、微妙に隙間が空いている。

 ファイヤーエンブレムはじろじろと、デザイン的には完全に、サイズ的にも微妙にスーツに着られている虎徹を見やった。

 『ちょっと待ちなさい!

  足の長さはともかく・・・?

  それって、足の長さはバーナビーと同じってこと?!』

 「?

  足の長さは問題ねえけど。

  っていうか、バニーは俺より5センチくらい身長が高いぜ?

  腰回りも肩回りも足りなくて当然だろ?」

 モニター室から素っ頓狂な声を上げるアニエスに、何を驚いてるんだと不思議そうに首を傾げる虎徹。

 「(バーナビーには内緒にしておいた方がよさそうだねぇ。)」

 実験協力者としてモニター室にいる斉藤がきひっと笑いながら言った。

 鏑木・T・虎徹。37歳とは思えない、驚愕のスタイルの良さを誇る。もっとも、それがはたして体質によるものか、魔戒騎士の修練のたまものによるなのかは不明だが。

 『き、気を取り直して・・・。

  それじゃ、実験開始よ。』

 アニエスの言葉に虎徹はやれやれと肩をすくめると、カシャッとヘルメットの一部であるフェイスガードを下した。

 「それじゃ、いくわよぉ。

  ファイヤァァァァァァ!!」

 ゴッゴォォォォォォォゥゥゥッ!

 雄叫びとともにファイヤーエンブレムは、ヒーロースーツ姿の虎徹めがけて両手から劫火を放った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 結論から言って。

 「ファイヤーエンブレムには、能力的にも犯行は不可能だな。」

 装甲越しに蒸し焼きにされそうになった虎徹は、ヒーロースーツを脱いでから、シャワールームを借りた後、魔戒騎士のレザー服に着替え直し、黒髪をタオルでガシガシふきながら結論を述べた。

「(ファイヤーエンブレムの能力で人間を炭化するまで焼こうとしたら、軽く1時間は超えるよ。そんな悠長にしてたら、確実に看守に見つかるね。)」

 備え付けの冷凍庫から取り出してきたバニラのカップアイスを食べながら、斉藤が虎徹の言葉をつづけた。

 アニエスとネイサンは顔を見合わせて頷きあった。

 「私たちはこれから刑務所の方へ行くわ。」

 「犯行当時の状況を調べにね。」

 「そっか。

  じゃあ、俺はこの辺でお暇させてもらうよ。」

 するりとタオルを肩にかけて、虎徹が言うと、ネイサンはしなりと猫のようにすり寄り、微笑んだ。

 「ごめんなさいね、忙しい中呼んじゃって。」

 「気にすんなって。」

 からりと笑う虎徹にネイサンはにっこり笑い。

 チュッ。

 「うおわっ!」

 「何よ、色気のない声出しちゃって。

  お礼のキスくらい素直に受け取りなさい。」

 頬に口づけされて、驚愕のあまり飛び上がりそうになった虎徹に、ファイヤーエンブレムは身を離し、ウィンクした。

 「じゃあね、タイガー。」

 「今度は事件に首突っ込まないでよ。

  あ、バイト代は後日郵送にしとくわ。」

 二人がラボから出たところで、虎徹は頬についたネイサンのルージュを拭うと、アイスクリームスプーンを咥えた小柄な日系人を見下ろした。

 「どうも。斉藤さん。」

 「キヒッ。(久しぶりだねえ、タイガー。)」

 にっと笑ってあいさつした虎徹に、斉藤は独特の笑いと蚊の鳴くようなウィスパーボイスで返した。

 「(何か御入り用かな?)」

 「ワイヤー付き時計の手入れ、お願いします。

  あと、破魔符を5枚と、“リヴァートラの刻”〈回復薬〉を3つ。」

 「(代金は屋敷に請求しとくよ。)」

 虎徹が左手首から外した時計を受け取りながら、斉藤は答えた。

 『相変わらず何言ってるかわかんねえな、おい。』

 ザルバが口を開いた。

 「(やあ、ザルバ。調子はいいようだね。)」

 虎徹の左手に目をやり、斉藤が言った。やはりとても小さな声だったので、虎徹にもザルバにも何を言ってるかわからなかったが。

 「(ところで、ヴァランカスの実は手に入りそうかい?タイガー。)」

 さっそく工具で時計を解体し、パーツのチェックをし始めながら、斉藤はしれっと尋ねた。

 「もうちょっと大きな声でしゃべってくださいよ・・・。

  やっぱり知ってました?」

「キヒッ。(当然だよ。それに、バーナビーにザルバの分身を持たせてたんだ。わかる者にはわかるさ。)」

 斉藤の口元に耳を寄せ、何とか言いたいことを聞き取った虎徹に、斉藤はこともなげに返した。

 つまり、この表向きアポロンメディアでメカニックに従事している男にも、バーナビーのこと〈“返り血付き”にしてしまったこと〉はバレバレだということだ。

「(よく手入れしてるけど、ホラーとの戦いにも使ってるせいだろうね。普通のワイヤーよりも劣化が激しいね。出来上がりだ。)」

 摩耗していたいくつかの部品を取り換え、機械のように正確に時計を組み立てると、斉藤は立ち上がり、奥の部屋からずるずると古い革製のトランクを引きずってきた。

 「(ご注文の品だ。破魔符が5枚に、“リヴァートラの刻”が3つ・・・だったね?)」

 「どうも。」

 虎徹は渡された時計を左手にはめ直し、トランクから取り出された怪しい札の束と濃緑色の液が入った小さい薬瓶3つをコートの懐にしまう。

 「(バーナビーの呪いを解くときは声をかけてくれ。必要だろう?

  魔戒法師の力は。)」

 にんまり笑い、トランクを閉じた斉藤が言った。

 

 

 

 魔戒法師。それは、魔戒騎士にとって最も信頼できる協力者だ。

 魔戒騎士の使う魔導具の作成・手入れ、数々の呪符の作成や秘薬の調合のスペシャリストだ。斉藤は、シュテルンビルトに居を構える、魔戒法師の一人だ。もっとも、本人は魔導具の作成よりも、ヒーロースーツに男のロマンを捧げるほうがはるかに性に合っているらしいが。

 

 

 

 「どうも。バニーのこと、よろしくお願いします。」

 「(もちろん。)」

 ひらりと手を振ってラボの出入り口に立った虎徹に、斉藤は新しいアイス(今度は棒付きアイスだった)の袋を破きながら答えた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その夜。

 「ここ最近妙に忙しいよな~・・・。」

 『だな。』

 魔戒騎士と魔導輪は、ホラー退治の予定こそなかったものの、夜の街並み――ゴールドステージの大通りを歩いていた。

 時折ザルバが人間に憑依していない素体ホラーに反応することもあるので、夜のパトロールは虎徹にとってルーチンワークと化している。

「この街〈シュテルンビルト〉って、昔からホラーがよく出てたけど、ここ最近は週1ペースどころか、三日に一度は出てないか?」

『出てるな。』

歩きながらぶつぶつ言う虎徹に、ザルバはあっさり同意する。

『んん?』

「どした?」

『こりゃあ、ホラーの匂いだ・・・。』

「はあ?!」

昨日退治したばかりなのに?!

難しそうに唸った魔導輪に、魔戒騎士は間の抜けた声を出した。

前述のとおり昨日も退治したので、実質的に二晩連続――新記録樹立である。

 「ちなみにどこから感じる?」

 『左。あのあたりは・・・OBCの立体駐車場だな。』

 ザルバの言葉に虎徹はそちらに首を向けた。

 直後。

 ドゴォォォォォンッ!

 爆音とともに一台の車が吹っ飛ぶのをきっちり目撃してしまった。

 「だっ?!何が起こってんだ?!」

 目を白黒させながら、虎徹は立体駐車場めがけて駆け出した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 「おい!何してくれてんだ!」

 普段の女言葉はどこへやら、ドスの利いた声でネイサンは怒鳴っていた。

 黒人のいかつい男がパワードスーツを乗り回し、OBC駐車場に停めておいたお気に入りの愛車をマシンガンの乱射で吹き飛ばしてくれたのだ。

 いくらその辺の女性よりも広い度量を持ち合わせるネイサンでも、勘弁ならないことはある。

 「ファイ・・・ネイサン、無事ですか?!」

 隣に並んだバーナビーに、ネイサンは苦々しげにうなずいた。

 

 

 

 虎徹とアポロンメディアのラボで別れた後、ネイサンはその足で刑務所に向かった。

 そこでいろいろ話を聞きまわっているうちに、ネイサンの目の前で青い炎がほとばしり、またしても囚人が焼き殺されたのだ。

 濡れ衣は晴れたが、殺人を止められなかったことにかわりはなく、ネイサンは心中穏やかではなかった。

 それでも、ネイサンは自分の仕事をこなすべく、本社〈ヘリオスエナジー〉に戻ろうと、愛車を停めてるOBCの立体駐車場へ向かおうとした。

 そこで取材から引き上げてきたらしいバーナビーと偶然顔を合わせ、そのまま雑談をしながら立体駐車場へ向かったらこのザマである。

 

 

 

 身に覚えのない濡れ衣をかぶせられ、目の前で殺人を見せつけられ、止めとばかりに目と鼻の先で愛車を破壊されたネイサンは、積りに積もったフラストレーションを溢れさせんばかりに激怒していた。

 が、深呼吸してすぐに怒りを鎮める。

 激情に任せてもいい結果にならないことを、年長ヒーローである彼女は熟知していた。必要なのは如何に目的を達するかという思考力だ。

 「アタシが囮になる。」

 低い声で、ネイサンは言った。

「その間にあんたはあのバカ野郎をパワードスーツ〈あそこ〉から引きずり出してちょうだい。」

 「・・・わかりました。」

 コクリとうなずいたバーナビーは、パワードスーツをにらみつけた。

 狙われているのは自分だ。巻き込まれたファイヤーエンブレムには申し訳ないが、目の前のパワードスーツは明らかに自分を狙っている。

 どうやら“計画”がうまくいき始めたらしい。

 ――奴らのことが少しでもわかればいいんだが・・・。

 身構えながらバーナビーは小さく思考を巡らせた。

 ガシャンッ。

 パワードスーツが一歩踏み出すと同時に、ネイサンが動いた。

 「ファイヤァァァァァ!」

 ゴッゴォォォォォォォッ!

 まずは小手調べとばかりに、ネイサンは炎の奔流をパワードスーツに浴びせかけた。

 パワードスーツは熱せられて装甲が黒く焦げるが、変わらずにそこにいた。

 ジャキッ!バラタタタタタタタタッ!

 右腕に装着されたマシンガンが火を噴くが、ネイサンは炎で壁を作り、敵の視界をごまかしながら駐車場を走った。

 どうやら狙い通り、パワードスーツはネイサンを先に排除すべき目標としたようだ。

 ガシャンガシャンとネイサンを追って移動するパワードスーツ。

 そこをすかさずバーナビーは能力を発動し、眼鏡越しに両目をシアンに輝かせながらパワードスーツに飛びつくと、搭乗口のハッチをメギバリィンッ!と引きちぎった。

 顔をのぞかせる黒人のいかつい男。

 「お前は・・・!」

 バーナビーは思い出す。

 以前一日密着取材でフォートレスタワーに行った際、遭遇した爆弾事件。後からタワーに設置されていた防犯カメラの映像を解析し、その結果出てきた犯人と同じ顔だったのだ。

 ――最初から僕を狙って・・・!

 逃がすものか。

 バーナビーは男の体を機体に固定するシートベルトを引きちぎろうとした。

 ちっと男は舌打ちするや、がちんっと操縦席のバーを引いた。

 『ピーッ!自爆まであと30秒。速やかに退避してください。』

 「!」

 甲高い電子音の後、警告のアナウンスが流れる。

 ガキャンッ!

 「くっ!」

 「ハンサム!」

 ネイサンが悲鳴を上げた。

 自爆アナウンスに気を取られたバーナビーは、その隙を突かれ、パワードスーツのマジックハンドにつかまってしまった。

 宙づりにされ、うまく力を乗せられないバーナビーをよそに、男は機体から脱出する。

 男は体にぴったりしたスニーキングスーツのような黒づくめだった。

 「逃がすかぁぁぁ!」

 ネイサンが両目をシアンに光らせ、手の中で炎を野球ボールのように丸め、男めがけて投擲しようとするが、男の方が一枚上手だった。

 カキンッ。

 腰のポーチから取り出したらしい小ぶりな物体のピンを引き抜き、放り投げたのだ。

 ――手榴弾〈パイナップル〉!

 ネイサンが顔を青くしたが、違っていた。

 ガカッ!

 「うわっ!」

 「くぅっ!」

 閃光が炸裂する。ただの閃光弾だったらしい。

 「しまった・・・!」

 閃光に目がくらんだネイサンが呻く。もう光は止んでいるが、犯人は逃走したに違いない。

 「っ!

  ハンサム!」

 『自爆まで、あと10秒。

  9、8、7、6、』

 ハッとネイサンはパワードスーツを見た。

 バーナビーはしょぼつく目は放置して、何とかパワードスーツから脱出しようとしているようだが、機体がロックされたのか、びくともしない。

 「バニー!」

 怒鳴り声とともに白い影が舞い込んできた。

 ヒュパッ・・・!

 バギャァァァンッ!

 青白い光の軌跡は能力を発動している証拠だ。彼はパワードスーツに飛びつき、あっという間にパワードスーツのマジックハンドを破壊する。

 「おじさん?!」

 「上だ!」

 「はい!」

 虎徹の声に、考える間もなくバーナビーはしたがった。

 虎徹は拳を、バーナビーは蹴りを、それぞれ突き上げ、パワードスーツを天高く押し上げた。

 カッ!

 ズグワァァァァァァンッ!

 現場が屋上なのが幸いした。上空に放り出されたパワードスーツは閃光と轟音を発しながら大爆発した。

 びりびりと空気が震える中、三人は安堵の息を吐いた。

 「やったな。」

 にっと笑いながらサムズアップする虎徹に、バーナビーはそっぽを向いた。

 「た、助けてくれたことには礼を言いますよ・・・。」

 ――あらあら照れちゃって。

 クールでスマートをウリにしているルーキーの意外な一面を見て、ネイサンはこっそり笑った。

 「それよりタイガー。どうしてここに?」

 「そうだ!ザルバがこの近くでホラーの匂いを嗅ぎつけたんだよ!」

 ギクリッとネイサンとバーナビーは二人同時に肩を揺らした。

 「またあの化け物ですか!!」

 『そう怒鳴るなよ、坊や。』

 「僕は坊やじゃありません!バーナビーです!」

 ザルバとバーナビーのやり取りをよそに、虎徹はネイサンに視線をやって首をかしげた。

 「濡れ衣は晴れたのか?」

 「ええ。いい気分はしなかったけど。

  それより。」

 頷いて、ネイサンはバーナビーに向き直った。

「ハンサム。あんた、あの犯人を見たとき驚いてたようだったけど、何か知ってるのかしら?」

 「・・・。」

 「言っておくけど、だんまりはダメよ。

  こっちはお気に入りの車を吹っ飛ばされた被害者なんだから。」

 視線をそらそうとするバーナビーに、ネイサンは有無を言わせずに続けた。

 「・・・以前、一日密着取材を受けた時、爆弾事件にあったと言いましたよね?

  あの男は、その爆弾を仕掛けたと思しき容疑者です。」

 「爆弾事件?」

 虎徹が口をはさんだ。

 「・・・バニー。お前、その犯人の顔、見たのか?」

 尋ねた虎徹に、バーナビーはしばし考える。

 「そういえば・・・。」

 エレベーターに乗ろうとした時、妙にきれいな身なりのメンテナンス業者とすれ違った。そのメンテナンス業者の顔が、パワードスーツの襲撃犯と同じだったかもしれない。

 そう説明してからバーナビーが頷くと、ザルバが言葉を続ける。

 『じゃあ、狙いは坊やの口封じだな。

  他に目撃者がいればついでに封じるんじゃねえの?』

 「「アニエス!」さん!」

 バーナビーとネイサンの声が唱和する。

 当事者のバーナビーはもちろん、彼の一日密着取材の企画を持ち上げたのが彼女だということに、ネイサンもまたすぐに気が付いたのだ。

 「まずいわ!彼女、この駐車場に車を置いてる!」

 「今度こそ奴を捕まえる!」

 「俺はホラー狩りがある!二人とも気をつけろ!」

 駆けだしたヒーロー二人に声をかけ、虎徹も白いコートを翻し走り出した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 アニエス=ジュベールは一日の業務を終了し、ビジネスバッグを片手に帰途に就こうとしていた。

 この後は、予約していたエステに行って、一月分の疲れを癒すのだ。

 視聴率は命だが、番組を率いるリーダーが疲れをため込み、美容を欠いてみっともない格好をさらすのは、彼女の沽券にかかわる。

 ファイアーエンブレムの疑いも張れたし、連続焼死殺人の犯人は気になるが、とりあえずそれは後でいいだろう。

 ピリリリリ。ピリリリリ。

 駐車場に入り愛車の前に立ったところで、愛用のカーマインのケータイが着信を告げる。

 「はい、ジュベールです。」

 『アニエス!すぐに駐車場から出て!』

 出るなり切羽詰ったネイサンの雄叫びが炸裂し、アニエスは眉をしかめた。

 「ファイアーエンブレム?」

 彼女は背後に立った存在に気が付かなかった。

 ガシッ!

 「うっ!」

 ドサンッ!ガツッカラカラカラ・・・!

 豪快にヘッドロックをかまされ、アニエスはビジネスバッグとケータイを取り落した。

 『アニエス?!アニエス!』

 ガウンッ!パギャッ!

 地面を滑って行ったケータイ(ネイサンの声がいまだに伝わっていた)を、銃声が一撃のもとに砕いた。

 「動くんじゃねえ。」

 「なっ・・・!」

 ドスの利いた声で、その人物は硝煙の噴く拳銃をアニエスのこめかみに突き付けた。まだ熱を持っている銃口に、アニエスはすぐに状況を把握した。

 ――ああ!ケータイさえ無事なら・・・!

 すぐにでも中継車を呼んでヒーローたちに招集をかけるのに。

 ・・・この期に及んで、自身の命よりも視聴率を優先するとは、やはり“視聴率の魔女”のあだ名はダテではない。

 「アニエスさん!」

 「アニエス!」

 ネイサンとバーナビーが駆け付けてきた。

 HERO TV名物プロデューサーを羽交い絞めにして、拳銃を突きつけるのは、もちろんパワードスーツ襲撃犯である。

 「動くんじゃねえ!このアマの頭ぶち抜くぞ!」

 「クッ・・・!」

 「ちょっと二人とも!何をやってるの!」

 人質という非常にやりにくい状況にある二人のヒーローに、アニエスは気丈に怒鳴った。

 「さっさとOBC本社に連絡を入れて!

  特ダネよ!」

 「転んでもただじゃ起きないわねえ・・・。」

 どこまで行っても視聴率なプロデューサーに、ネイサンはこんな状況だというのに苦笑いした。

 その時だった。

 ゴフゥゥ・・・。

 生暖かい風に加え、身の毛のよだつような殺気を感じ、ネイサンはとっさに振り向いた。

 一台の青い四駆。その屋根の上に、それはいた。

 かろうじて人型をしているものの、その体躯は漆黒の鱗に覆われ、とげとげしい鉤爪のような器官があちこちにある。

 ネイサンは知る由はなかったが、それは、魔界から出てきたばかりでまだ人間に憑依してない、素体ホラーだ。

 白い粘土がはまっただけのような眼で、一同を品定めしているようだ。

 「なっ・・・!」

 「?!」

 「な、何あれ?!」

 「何だああああ?!」

 ネイサンの出した声に、他の3人も素体ホラーの方に目をやり、一斉に驚愕の声を上げた。

 ギョルリッと素体ホラーは、襲撃犯の方に顔を向けた。

 ガツッヴワッ!

 四駆の屋根を蹴り、素体ホラーが跳んだ。襲撃犯めがけて。

 「シャアアアアアッ!」

 パシュッカキュウンッギャン!

 ドバダンッ!

 その瞬間、素体ホラーの足に駐車場の奥から飛来したワイヤーが絡みつくと、ホラーを引きずりよせてセメントの地面に叩きつけていた。

 「シャギャアッ!」

 「素体ホラーの一本釣りぃ!」

 ぐいぐいと左手の腕時計から伸びるワイヤーを引っ張るのは、言わずと知れた魔戒騎士、鏑木・T・虎徹である。

 ホラーは何とか体勢を立て直そうとするが、そのたびに虎徹にワイヤーを引っ張られ、地面に叩きつけられることを繰り返している。

 「早く!」

 虎徹の怒鳴り声にいち早く我に返ったのはバーナビーだった。

 ダンッ・・・!

 姿勢を低く、駆け出す。

 「貴様!」

 バーナビーの反応に、襲撃犯は拳銃をルーキーヒーローに向けようとする。

 だが。

 ガヅッ!

 「あんぎゃああぁぁぁ!」

 「さっさと放してちょうだい!

  このトウヘンボク!」

 アニエスのピンヒールで足の甲をえぐるように踏まれた(しかも罵倒付きで)襲撃犯は、人質を放してよろめいた。

 その隙に彼女はさっと逃げ出した。入れ替わるようにバーナビーが肉薄する。襲撃犯は涙目でそれでも彼らに拳銃を向けたが。

 ボジュッ!

 「ぐああああっ?!」

 「ブルジョワ直火焼き、手加減バージョンよぉ。」

 拳銃を持った手をネイサンの投げた小さな火の玉に焼かれ、拳銃を取り落した。

 左手に炎を灯し、右手で投げキッスをするネイサンをよそに、バーナビーは大きく足を振りかぶり。

 ゴッ!

 えぐるような一撃が、襲撃犯のこめかみを直撃した。

 「かっ・・・!」

 衝撃で横を向いた襲撃犯は、そのまま倒れて気絶してしまった。

 「!!!」

 ハッとバーナビーは息をのんだ。

 横を向いた拍子に見えた、襲撃犯の首の後ろに、刺青がある。円を描くように己の尾を咥えた蛇と、それを貫く一本の剣の意匠。

 ――見つけた!やっと・・・手がかりが・・・!

 エメラルドの瞳に暗い炎を宿し、バーナビーが襲撃犯を拘束しようとした時だった。

 「シャアウッ!」

 「っ!

  限界か!」

 いよいよ激しく暴れ、ワイヤーの拘束から逃れようとする素体ホラーに舌打ちし、虎徹はワイヤーを大きく振り回した。

 ドッゴンッ!

 ザッザザァァァァ!

 駐車場の端に投げ飛ばされ、素体ホラーは地面を滑る。

 その際にはずれたワイヤーを巻き取り回収し、虎徹は退魔の剣を片手に素早く素体ホラーの前に躍り出る。

 シャンッ!

 『油断するな!虎徹!』

 「わかってる!

  ワイルドに吠えるぜ!」

 抜刀するや、虎徹はザルバに剣の刃を滑らせてから、剣先を頭上に向けてヒョウッと円を描いた。その軌跡が金色に輝き、虎徹を包み込む。

 金色の虎を模した鎧姿、黄金の魔戒騎士、牙狼の登場だ。

 「ええええ?!

  何よあれぇぇぇ!」

 アニエスが素っ頓狂な声を上げた。

 ――あーあ、一番面倒な人間にばれたわよ・・・。

 ネイサンは背中にアニエスをかばいながら遠い目をした。

 視聴率の魔女に格好の取引材料を提供してしまったのだ。虎徹本人はそんなことは意図してなかろうと、出されたもので使えるものは使う。そういう女性なのだ、アニエス=ジュベールという女性は。

 「シャアアアアッ!」

 素体ホラーが鉤爪を振り回し、騎士めがけて飛びかかった。

 騎士は鉤爪による攻撃を、牙狼剣一本ですべてさばき斬り、距離をとると、勢いよく踏み込んだ。

 斬ッ!

 一閃。一撃で素体ホラーは袈裟懸けに真っ二つになっていた。

 ザランッ!

 断末魔を上げる間もなく、素体ホラーは一瞬で砂になって消える。

 ガシャンッ。

 ガラスの割れるような音を立てて、虎徹の体から鎧が光の粒子となって剥がれ落ちる。

 「タイガー!」

 ビクッ!

 アニエスの怒声に、虎徹は大きく肩を震わせた。

 どうしよう。逃げたい。逃げてなかったことにしたい。

 百戦錬磨の魔戒騎士がたじたじになっているのをものともせず、アニエスはネイサンを押しのけ、つかつかと虎徹に歩み寄り、彼の前に立った。

 きっと眦が吊り上っている。

 「ア・・・アニエス?」

 恐る恐る話しかけた虎徹に、ややあって、アニエスは大きくため息をついた。

 「それで?」

 「え?」

 「他に隠し事はないのか訊いてるのよ!」

 聞き返したタイガーを見上げて、アニエスは詰問した。

 「あ、アニエスさん?

  まさかさっきのことをテレビで報道しようなんて」

 「するわけないでしょ!

  私にだって番組に映していいものと悪いものの分別くらいあるわ!」

 腰が引け気味の虎徹に、アニエスはかみつくように叫んだ。

 「だいたい誰が信じるっていうの?!

  100%、ヤラセだと思われるのがオチよ!」

 「ですよねー・・・。」

 肩を竦めるアニエスに、虎徹は苦笑いした。

 グイッ。

 「その代わり!きっちり説明しなさい!」

 「わ、わかったわかった。」

 コートの襟首を掴んで凄むアニエスに、虎徹はかくかくと頷くしかない。

 ――最強の魔戒騎士、“牙狼”も形無しだよな?

 そういえば嫁の尻にも敷かれていたと、魔導輪ザルバが虎徹の中指で思った。

 

 

 

 ――これで安全か・・・。

 ホラーが退治されたのを確認してから、バーナビーは動くことにした。

 いまだに気絶している男のベルトをはいで、その両の手を後ろで拘束する。

 ようやっとつかんだ手がかりだ。絶対に逃がさない。

 そう思っていたのに。

 チリッ。

 「!」

 横目でバーナビーの所在を確認した虎徹は、視界の端をかすめた青い光に大きく目を見開いた。

 「バニー!!」

 パシュッ!ビインッ!ギャンッ!

 「うわあっ!」

 虎徹が飛ばしたワイヤーは、バーナビーの右手に絡みつき、主のもとに彼を引きずりよせた。

 その直後のことだった。

 ビャッ!ゴッゴワァァァァァァ!

 突如飛来した青い炎の矢が拘束されたまま横たわる襲撃犯に命中した。

 ひとたまりもなかった。

 悲鳴も上げることなく、襲撃犯はあっという間に人の形をした炭になってしまった。

 「う・・・うわあああああ!!」

 バーナビーの喉から絶叫がほとばしる。

 気が狂ったかのようにワイヤーを無理やり引きはがし、炭化した死体に駆け寄るが、もはやあとの祭りだった。

 「「っ!」」

 虎徹とネイサンは同時に、立体駐車場の外をにらんだ。

 街路樹の近く――街灯の上に立つ、異質な人物。狂ったように赤い月を背景に、青を基調にしたヒーロースーツのような衣装をまとい、青い手形をつけたような仮面をつけている。マントから突き出した手にはクロスボウが握られ、目元からは青い炎がほとばしっていた。

 その人物が口を開いた。

 「我が名はルナティック。

  偽りの正義を唱えるヒーローたちに代わる、正義の代行者である。」

 「ルナティック・・・?」

 虎徹が怪人物の名を繰り返した時だった。

 「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」

 バーナビーが悪鬼のような形相で烈火の如き雄たけびを上げながら、ルナティックに向かって飛び出そうとした。

 「バニー、よせ!」

 「そうよハンサム!まだ1時間経ってないわ!」

 虎徹とネイサンが懸命にいさめようとバーナビーを押さえつける中、ルナティックはその身から青い炎をほとばしらせ、夜空に飛び立った。

 まるでもう用は済んだと言わんばかりに。

 「くそぉっ!」

 金髪を振り乱し、歯噛みするバーナビーの様子は明らかに尋常ではなかった。

 「おい、落ち着けって、バニー。」

 「落ち着いてられるか!」

 なだめようとした虎徹を血走った眼で睨みつけ、バーナビーは白い歯をむき出しにして怒鳴りつけた。

 「こっちは両親を殺されてるんだ!!」

 「へ・・・?」

 唖然とした虎徹の言葉が、夜の立体駐車場にむなしく響いた。

 

 

 

 

 #5END

 GO TO NEXT!

 





 よお!定位置は虎徹の左の中指な方、ザルバだ。
 兎ちゃんも、あれで苦労してたってこったな。
 だからって、虎徹に八つ当たりした挙句仕事さぼるか?普通。
 にしても、あのルナティックとかいうやつも、変な奴だよなあ?
 んん?なんで魔戒騎士のことを知ってるんだ?あいつ。
 おいおい、兎ちゃん、こっちにまで八つ当たりすんなって!
 次回、“狂月”。
 おい虎徹、アルバイトはいいがホラー退治もしっかりやれよな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。