職員室で見事愛の逃避行に成功した俺は未だ戸塚の腕を引っ張っていた。
「ねえ八幡!」
「おうなんだ」
「そろそろ…離してくれないかな?」
「え?」
振り返ると顔を赤らめた戸塚が手元の一点を見つめていた。思いの外近くにいた戸塚にドキッとしてしまう。落ち着け、戸塚は男だ…それでもこの可愛さは反則級だ…!一体なんなんだこの天使は。ん?手元?
「うおっ!悪い!」
慌てて戸塚の手を離す。もう少し握っていたかったが仕方がない、取り敢えず今日は手を洗うのは止めておこう。
「ううん、大丈夫。それよりさっきの話は本当?」
「さっきの話というと…」
「八幡がテニス部に入るって話!!」
あー、それな。平塚先生の暴力制裁を避けるためにもしかして咄嗟についた嘘。まさに口から出まかせである。戸塚と共に放課後を過ごせるという嬉しい特典付きではあるがやはり俺には運動部というのは向いていない。あれは…そう、汗とか涙とかそういったものが似合う奴らがやっていれば良いのだ。
「嬉しいなぁ、僕テニス部の人やスクールの人と打つことがあってもクラスの友達と打ったことなんてないんだよね!この時期に急な入部で心配かもしれないけど大丈夫!そこは僕がちゃんとフォローしてあげるから!!」
「そのことなんだが…」
「入って…くれるよね?」
「勿論だとも」
しまった。戸塚七つ道具のうちの一つ、天使の涙目により俺の嘘は一瞬で真実になってしまったじゃないか。もしかして俺は戸塚に「この壺、300万円するんだけど持ってるだけで幸運を呼び寄せることが出来るから持っていて損はないよ。買ってくれないかな?」と明らかな罠であったとしても何も疑わず買ってしまうのではないのだろうか。本当のところ?馬鹿野郎、ダース単位で持ってこい。
「本当⁉︎嬉しいな、八幡と一緒にテニスが出来るだなんて!」
「そうか、お前が嬉しいなら俺も嬉し」
「それじゃあ早速行こっか!道具とかは気にしなくて良いから!運動着は今日体育あったもんね、それで良いよ!まだ本入部とはいけないからまずは一週間仮入部だよ!」
「お、おう」
まさか戸塚の熱に押されるとは。こんなに喜んでくれて八幡非常に嬉しい。嬉しいのだが、俺にはやはり運動部は合わないだろう。何故学校で苦痛とも言える授業を受けた後に更に苦しむ必要がある?戸塚には悪いが、ここはステルスヒッキーをうまく利用して仮入部期間の間に少しずーつ影を薄めて…
「そのうち…一緒にペア組めるといいね!」
「お前に勝利を捧ぐ」
俺の入部が決まった。