――これは。
――P73偏食因子にガチ適合したラケル・クラウディウスが。
――荒ぶる神の声がどうとか電波なことを言わずに。
――マジで人類のために活動した世界線の記録である。
★
「あの、ラケル先生」
『はい。何ですかマツリ?』
フェンリル極致化技術開発局・移動要塞フライア。
無駄に金のかかった無駄の無い無駄な豪華さと巨大さと堅牢さを誇る移動要塞の一室。オラクル細胞を使用する実験のために造られたそこに、今は簡易的なベッドが置かれている。
横たわるのは白髪の少女。右のサイドバングが一房だけ赤く、さらに後ろ髪を一房だけ腰まで伸ばしてうなじの辺りで一纏めにしている。
彼女の名は
「何故ボクはこんなところに寝かされているのでしょうか?」
『昨日ジュリウスから説明があった通り、あなたにゴッドイーターの適合試験を受けてもらうためですよ』
スピーカーから流れる声はラケルのものだ。彼女はこの部屋を見下ろす小部屋――いわゆるコントロールルームに居る。マツリからも高い位置にあるガラス越しにラケルの姿が見えた。
マツリはラケルの返答を受けて昨日のことを思い返す。
「…………聞いてませんけど」
おはようからおやすみまで昨日の暮らしを見つめてみても、ジュリウスが登場すらしなかった。
『えっ』
「えっ」
『……き、聞いていないのですか?』
「昨日はジュリウスと顔を合わせてすらいません。メールとかも……今朝確認した限りには来ていないはずですね」
『…………』
――沈黙。
『……ジュリウス・ヴィスコンティ大尉、至急第一実験室コントロールルームへ出頭しなさい。繰り返します、ジュリウス、今すぐ第一実験室コントロールルームに来なさい』
艦内放送でジュリウスを呼び出すラケルの声を聞きながら、マツリは天井を見る。
……どう見てもドリルである。
(アーカイブで見たヒーローが改造されるシーンのようですね……)
と、気の抜けたことを考えていると。
『ではマツリ、ジュリウスが来る前に始めますよ』
「え゙っ」
この後滅茶苦茶適合した。
-
「よっ! とりゃあー! えぇーい!」
「……ねぇジュリウスー。なんかマツリちゃん、キャラ違わない?」
「ああ、どうも神機と接続している間は性格が変わるらしい」
「へぇー」
「いっただっきまぁーす!」
「テンション高いなーマツリちゃん」
「あの、リッカさん、どうですか?」
「これは……神機の性格、とでも言うのかな。マツリちゃんの神機は銃身を……なんというか、嫌ってるんだよ。可変型のくせして。だから
この子の変形を生かす方法は……パッと思いついたのは、銃身の代わりにもう一つ刀身をつける、くらいかなあ」
「じゃあバスターをつけましょう。重さが足りないと思ってたところです」
「なん……だと……?」
「ダメですか?」
「いや、まあ……ヴァリアントサイズとバスターなら属性的にはある程度カバーし合ってて理に適ってはいるけど……え、マジ? 持てるの? めちゃめちゃ重いよ?」
「余裕のヨタロウですよ?」
「今の俺のムーブメントは――足首の後ろ側のキュッとなってるとこだ」
「つまり今すぐブーツを脱いで裸足になればいいんですね」
「えっいいの!?」
「ええ、まあ減るもんでもありませんし」
「やったぜ! さすがマツリちゃんだ!」
「いいわけあるかぁ! いい加減にしろよハルオミてめえコラァ!」
「あらギルバートさん」
「やっべガチギレじゃん」
「……ええと」
「……何してんだお前ら」
「あ、マツリちゃん。ギルも」
「何って、ほれ、アレ」
「アレ? …………ラケル先生とクジョウ博士?」
「私たちは『九条ソウヘイの行く末を生温かく見つめる会』よ」
「クジョウ博士の狼狽えっぷりが面白……もとい、意外とイイ感じに見えるよな。意外と」
「ナナとロミオとコウタさんはともかく、レア博士まで何してんスか……」
「しかもコウタさん、意外を二回も……まあ意外なのは事実ですけど」
「おおっと、ここでクジョウ博士、ラケル博士の後ろに回ったぁー!」
「そして不審者丸出しの挙動で車椅子を押していくー!」
「意外と心開いてるのねラケル。意外だわ。あの子他人に押されるの嫌がるのだけど。ていうか私は頑なに押させてもらえないのだけど。意外だわ」
「意外言い過ぎでしょう……それはまあ、たしかにボクの主観ではいい男とは言えませんけど。
あと、ボクは何度か押しましたよ?」
「俺もたまに頼まれる」
「俺も俺も」
「あ、私もー」
「俺も一回だけ押したなー、なんかラウンジ行きたいとかで」
「…………え?」
「コウタさん、それにリヴィ? 珍しい組み合わせですね、何を見ているんですか?」
「ああ……コウタがアーカイブから発掘してきた映像作品だ」
「添付されてたあらすじのテキストがわけわかんなくて逆に興味がわいてさ」
「へえ? どんななんですか?」
「空に浮かぶ一年中真夏のような季候の島に造られたカジノ特区に遊びに来た超不幸体質の教師が事件に巻き込まれて吸血鬼になってしまい、魔術を操る少女たちと共にブラスバンド部の存続を賭けて祟り神を倒し心の欠片を集める……だってさ」
「……盛りすぎでは?」
「正直私もそう思う」
「緊急事態だよ。ここ一ヶ月、赤い雨が絶えず降り続いている。予想ではこのままだと二度と止まない。つまり――」
「大変だ博士! 漏ってる! 地下が全体的に漏ってる! 赤い雨めっちゃ入ってきてる!」
「――というわけさ。アナグラの大半は地下にあるからね、わりと本格的にマズい。
とりあえずコウタ君、バケツをありったけかき集めてくれたまえ」
「了解っス!」
「赤い雨を止める方法はわかったんですか?」
「ああ、それならラケル博士が突きとめたらしいからね。今から説明してもらおうと思っていたんだ。
ラケル博士、お願いできるかな?」
「ええ。赤い雨、あれは――」
「ベンジャミン! 聞こえないの!? ねえ、ベンジャミン!」
「ラケル先生、どうしてベンジャミンは勝手に動いているんですか!? あいつは制御中枢に損傷を受けているはずでしょう!?」
「ベンジャミンは赤い雨にさらされすぎたのでしょう。あれはもはやベンジャミンではありません――終末捕食の特異点です」
「そんな……!」
「あの時俺たちがあいつを回収できてりゃこんなことには……!」
「――――」
「そんな! ダメだよベンジャミン!」
「ベンジャミンも一緒に帰らなきゃ、意味がないんだ!」
「――――。――――!」
「ベンジャミン……ベンジャミィィィィィン!!」
大破して戦場に置き去りにされた思い出を胸に。
ベンジャミンは仲間たちのために――
例え己が二度と戻れぬとしても。
GOD EATER 2 -Benjamin's Tree-
20016年9月、全国ロードショー
「ムツミちゃんと結婚したい」
「マジかソーマお前マジか」
「ドン引きです」
正直すまんかった。
誰だよベンジャミン。