カズマ達が王都へ移動した、ちょうどその頃。アクセルの街にあるウィズ魔道具店にて。
「はぁ……やっと開放されました。このまま休憩せずに働き続けてたら、いくらリッチーでも消滅しちゃいますよ」
店主のウィズはカウンターへ顎を付き、疲れいっぱいのため息を吐いた。
カズマの開発商品と女神のダシ汁によって魔道具店は調子を取り戻しつつあっただが、好機と見たウィズは指折りの魔道具をバニルに黙って仕入れた。使い物にならないクセモノ魔道具ばかりだとバニルから大目玉を食らい、余計なことをさせない為には働かせ続けるしかないと、ウィズはひたすら雑務をさせられ続けていた。つまり全ては彼女のポンコツが原因である。
が、それに気付くことのないウィズは、バニルが商談に向かったのを見送った後、作業の手を止めて休憩しながら文句を言っていた。
「ここは私の店なんですから、私が仕入れる商品を決めたっていいじゃないですか……そうだ! バニルさんがいない間に、ひょいざぶろーさんの所へ行ってみましょう!」
このリッチー、反省せず。ウィズはバニル不在をいいことに、取引先である紅魔の里にいる魔道具職人のもとへ行こうと画策する。善は急げと出かける準備をしようとしたその時、不意に店の扉が開いた。
「ひぃっ! 違うんですバニルさん! 決して雑用をすっぽかして出かけようとしたわけではないんです! だから破壊光線はやめて……あれ?」
バニルが帰ってきたと思ったウィズは慌てて弁明したが、店の前に立っていた人物は彼ではなかった。
彼と同じオールバックの髪型だが、髪色は銀に輝く青いコートの男。お得意様のひとり、バージルであった。
「バージルさん! ようこそ魔道具店へ! 何か入用ですか? よければ私オススメの魔道具があるんですが……」
ウィズは彼の来店を嬉しく思うと同時に、名誉挽回のチャンスと捉えて早速魔道具を紹介しようとする。だがバージルは店内の商品には一切目を送らず、中に入ってウィズの前に立つ。一言も発さず見つめてくる彼にウィズは困惑していると、彼の左手に握られていた刀を見た。彼の所持していた刀の鞘は青かった筈だが、新調したのか黒い鞘に代わっていた。
「あっ! 武器を新しく買ったんですね! 前に持っていたものは見てるだけでアクア様みたいにチカチカしてて正直怖かったんですが……そちらの武器はとても強い魔力を秘めていますね」
武器について触れて会話を弾ませようと試みるウィズ。しかしバージルは無反応のままこちらを見ているだけ。普段から不愛想な彼だが、今日はいつにも増して反応が薄い。
「えっと……バージルさん? どうかしたんですか? 私の顔に何かついてますか?」
どうにもできずウィズはバージルに問いかける。対するバージルはウィズを見つめた後、ようやく重たい口を開いた。
「成程……確かに少しは使えそうだ」
手に持っていた刀を指で押し出し、怪しく光る凶刃を見せながら。
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時は戻り、王都の前に広がる草原。その各地で響くのは、襲う者の怪声と守る者の猛声。剣と鎌が交わる音。
下級といえど悪魔は悪魔。魔王軍の雑兵より一段と強く、王都の騎士団や冒険者でも一筋縄とはいかず。戦力は拮抗していた。
そんな中、次々と悪魔をぶん殴るパワー系聖職者が一人。
「『ゴッドブロー』!」
勇ましい声と共に繰り出された聖なる拳。殴られた悪魔は水平に吹っ飛びながら砂となって消滅した。
一連の流れを見た悪魔達は赤い目を一様にその者へ向けるが、恐れ故か誰も襲い掛かろうとせず。悪魔の注目を浴びる彼女――アクシズ教徒曰く、可憐で麗しく気高い女神アクアは悪魔達へ言い放った。
「ほらほら、さっさとかかってきなさいな! それともあれかしら? 私のことが怖くてビビッて足がすくんじゃってる? やっぱ悪魔は陰湿で臆病者ばっかりね! アンタ等にはジメジメした魔界がお似合いよ! プークスクス!」
粗末で卑しく汚い言葉で、悪魔達をこれでもかと挑発する。我慢ならなかった悪魔が挑発に乗って飛びかかるも、その勇気虚しく、アクアが振り抜いた拳一発で砂塵となった。
流石は女神と言うべきか、悪魔特攻特性をいかんなく発揮するアクア。そんな彼女を、一番付き合いが長い筈の仲間達が信じられないものを目の当たりにした顔で眺めていた。
「嘘だろ……あのアクアが大活躍してるぞ」
「こんなにもアクアが頼もしく見える日が来るとは……」
「まだわかりませんよ。調子乗りなアクアのことです。悪魔から手痛い反撃をもらう可能性が――」
「ちょっと! 聞こえてるんですけど! 揃いも揃って私への印象酷くない!?」
仲間からの低評価に異議を申し立てるアクア。すかさずカズマが「胸に手を当てて考えてみろ」と返すが、今までの行いはアクアにとって何の悪意もなかったので首を傾げるだけに終わる。その隙を悪魔が狙ってきたが、容易く裏拳で対処した。
「今日はすこぶる調子がいいし、悪魔ごと魔王の娘と邪神をブッ倒してやろうかしら」
「おいコラ。フラグ立たせた上に厄介事にしかならない真似しようとすんな。だからお前は駄女神なんだよ」
ついでに魔王軍の主力二人を討伐しようと画策したが、絶対にやめろとカズマが釘を刺してきた。事実、彼女達は宣言通り悪魔退治に勤しんでおり、未だ人間を襲う動きは見せていない。また相手も下級悪魔なため、二人の実力も十分に確認できず。
このまま二人を見過ごすのはアクア的にいただけないが、キレたカズマが怖いのと、バージルから四度目の拳骨を食らいそうなので大人しくすることに。
「あれ? そういえばお兄ちゃんは?」
とここで、バージルの姿を見かけていないことにアクアは気付き、周囲を見渡す。人と悪魔でごった返す戦場であろうとよく見える筈の青いコートは、どこにも見当たらなかった。
「確かに見てないな。俺も『千里眼』で確認してるけど……どこに行ったんだ?」
「単純にカズマの目だと動きを追えていないだけでは? 万物を観測せし我が邪眼は、バージルの姿をはっきりと捉えていますよ?」
「じゃあ案内してくれよ。もし嘘吐いてたなら後でバージルさんの眼帯パッチン百回耐久レースだからな」
「ごめんなさい全く見えてません。なのでその罰だけはやめてください」
「そろそろ合流しても良い頃合いだと思うが……ところでカズマ、その罰を私が代わりに受けるというのは……」
カズマ達にも彼の姿は確認できていない様子。また、ダクネスは期待の眼差しをカズマに向けていたが完全無視されていた。
そんな仲間達のやり取りを聞きながら、アクアは目を凝らしてもう一度周囲を見渡す。
「……んー?」
野原の中、冒険者と悪魔があまり集まっていない一角。そこが視界に入った時、アクアは僅かな違和感を覚えた。見間違いかと思い、目を擦ってから再度確認。何の変わりもない空間であったが、時折その場に歪みが生じていることにアクアは気付いた。夏の風物詩こと蜃気楼のようにも思えたが、女神アクア大感謝祭も終わり夏は過ぎた。蜃気楼が見えるほど暑くもない。
アクアはその場にある違和感を見過ごすことができず、首を傾げながらも既に足をそちらに向けていた。
「お、おいアクア! どこ行くんだよ!」
悪魔が蔓延る戦場で主戦力の彼女が離れるのは不安だったのであろう。カズマが強めに呼び止めるが、アクアは足を止めず。真っ直ぐ歪みの方へ向かっていった。
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「Vanish《消えろ》!」
バージルの怒号と共に八本の幻影剣が出現。全ての剣先が対峙する道化師ジェスターへと向けられ、一斉に射出される。
「ホッホッハッホッハッ!」
狙われたジェスターは、飛んできた幻影剣を軽快な動きで避け続ける。相手が幻影剣に気を取られている隙にバージルは駆け出し、ジェスターの首を狙って刀を振り抜いた。
が、彼の刃は空を切った。ジェスターの姿が消えたと思いきや、バージルの背後から道化師の陽気かつ陰湿な笑い声が届いた。
「ほーらバージルちゃん! 今度は楽しい楽しいボール遊びの時間だよ!」
振り返った先には、手に持っていた杖をかざすジェスターの姿。彼の周りにバリアのようなものが貼られると、彼の頭上に魔法陣が出現。そこから魔力の球が一斉に飛び出した。球は複雑に舞台を跳ね、四方八方からバージルへ飛んでくる。これをバージルは先のジェスターと同じように、素早い動きで避け続ける。
「道化と遊んでいられるほど暇ではない」
そう吐き捨てたバージルの手には、既に装備していたベオウルフが光を溜めていた。彼は地を蹴ると、飛び交う数多の球に一切当たることなく、舞台の中心に立つジェスターへと接近。
「ハァッ!」
勢いを乗せた渾身の右ストレートでジェスターを覆うバリアを殴った。強い衝撃音が響いた後、バリアに亀裂が入る。亀裂は瞬く間に全体を走り、ガラスのように砕け散った。無防備となったジェスターが驚声を上げる中、バージルは続く一撃を狙い左手を構え、ジェスターの顔面目掛けて振った。
「おっと残念! ボールはここにもあるんだぜ!」
が、ジェスターは口角をつり上げて笑うと、彼の足元から巨大な球が這い出てきた。バージルは咄嗟に跳び退き、器用に球へ乗ったジェスターと、彼によく似た球を見る。
「せっかくまた会えたってのに冷たいじゃない! もっと楽しく遊ぼうぜバージルちゃん!」
ジェスターの周りを再びバリアが覆うと、空中に魔法陣が現れ、再び魔力の球が射出された。先程とは違い速度は遅く、ゆらゆらと舞台を舞う。避けやすくなったかと思われた時、バージルの足元に赤い光が。程なくして、そこから赤い手がバージルを握りつぶさんと這い出た。しかしその手はただ空を掠める。
宙を舞う球と足元から現れる赤い手を避け続けるバージル。そんな彼を見ながら、ジェスターは愉快に笑った。
「暇なんてない、とか言ってたクセに結構楽しんでくれて超感激! ってか、魔人化で結界ごとブッ壊せば即クリアなのに、どーしてそうしないのかな? もしかして、外側にいる人間をうっかり巻き込みたくないのかい? あの傍若無人で自分以外どーでもいいバージルちゃんが!? 見ない間に甘々ちゃんになっちゃって! ジェスター虫歯になっちゃうよ!」
「馬鹿を言え。わざわざカードを切る必要がないだけだ。道化ごときが思い上がるな」
「だったら早く倒してみろよ! 閻魔刀がなきゃ次元も斬れないスイートボーイのバージルちゃんよぉ!」
ジェスターの高笑いが響くと共に、宙を舞う球の速度が増した。赤い手の発生頻度も同時に増えたが、バージルは冷静に回避を続ける。
しかし、ジェスターの指摘も概ね当たっていた。指摘するとすれば、外には王都の連中や、魔王の娘もいる。魔人化しないのは、一瞬とはいえその魔力を彼女等に晒すリスクを考慮してのこと。
魔人化での脱出は捨てた。だが、脱出する手立てはもうひとつあった。
「(……ここで試してみるか?)」
脳裏に過ったのは、かねてバージルが思案していた技。しかし今まで試したことはなく、下手すれば今回限りの一手で終わる危険もある。ジェスター相手に切るのは勿体ないと、バージルはすぐに考えを捨てた。
ならばジェスターを直接叩くしかない。幻影剣で攻めるか、ベオウルフで再びバリアを壊すか。相手の攻撃を避け続けながら攻め手を考えていた時だった。
ピキリと、頭上からひび割れる音が届いた。それを耳にし、バージルだけでなくジェスターも頭上を見る。彼等の視界に映ったのは、頭上の空間にヒビが入った光景。先のバリアと同じようにヒビは瞬く間に広がりやがて音を立てて空間が破れた。
破れた先に見えたのは――己が拳ひとつで結界を破った青い髪の女神。
「あっ、お兄ちゃん発見! って――なんで私落ちてるのよぉおおおおっ!?」
バージルを見つけて顔を明るくさせたのも束の間、涙目で落ちていくアクア。桃色の羽衣があればパラシュートのようにできたであろうが、彼女の手元にはあらず。重力のままに落下し、やがてジェスターの張るバリアに真上から顔面をぶつけた。
「へぶっ!?」
しばし固まった後、バランスが崩れてバリアから剥がれ落ちるアクア。その直後、バリアからひび割れる音が聞こえるやいなや、それはまたしても砕け散った。
「マジかよ」
これにはジェスターも驚きの声を上げ、床に転がり落ちたアクアを覗き見る。彼女は赤く腫れた顔面を晒し、仰向けで倒れたまま動かない。いったい何だったのかと、彼は不思議そうに首を傾げる。
――だが、狩人が虚を突くには十分過ぎる働きであった。
「
冷たい声が響いた刹那、ジェスターの首が飛んだ。彼の背後には、既に刀を振り抜いていたバージルが。ジェスターの首はそのまま床に落ちると、彼を乗せていた不気味な球も砂のように消えていった。
刀を鞘に納めたバージルは、転がっている首だけのジェスターに近寄る。彼を冷たい目で見下ろしていると、驚嘆で固まっていたジェスターの表情が道化らしい歪んだ笑みへと変わった。
「まさか女神サマが俺達のショーに割りこんでくるとは! ジェスターちゃんもビックリして首チョンパされちゃったよ!」
「御託はいい。さっさとここから出してもらおう。それとも、このまま蹴り飛ばされたいか?」
「そうカッカしなくても、俺様もこの結界もその内消えるから安心しなって! にしても、やっぱ女神サマの力は侮れないねぇ。アイツが欲しがるのも頷けるってもんだ」
ジェスターのいうアイツとは、十中八九アーカムのことであろう。本来ならアーカムとジェスターは同一の存在である筈だが、彼は他人事のように語る。
「ま、俺様の役目はジューブン果たせただろうし、そろそろパーティーもお開きとしましょうかね」
「なんだと?」
「じゃあなバージルちゃん! また今度遊びましょー!」
ジェスターから気になる言葉が聞こえた束の間、彼は言い逃げするよう一方的に別れを告げると、先の球と同じく塵となって消える。その後、バージルのいた空間が蜃気楼だったかのように消え、気付けば元の平原に立っていた。辺りを見渡すと、襲撃してきた筈の悪魔も幻であったかのようにいなくなっていた。
「……チッ」
逃げおおせたジェスターを前に、バージルはたまらず舌打ちする。だが、収穫がなかったわけではない。
先のジェスターは、アーカムをアイツと呼んでいた。また、アクセルの街でアーカムと対峙した一方で別の場所にジェスターが出現。二つの事柄を見るに、ジェスターはアーカムが転生特典で召喚した別の存在である可能性が高い。
それはつまり、彼の転生特典による召喚は悪魔の条件に際限が無い可能性も示唆していた。上位どころか己の半身。悪魔であればどんな存在であろうと呼び寄せられるのではと。
おまけに彼は、役目を果たしたと意味深な言葉を口にしていた。今回の襲撃は陽動かのような物言いに、バージルは不穏な気配を感じる。だがいくら思考を働かせても答えは出ず。ひとまず彼は、地面にのびているアクアを躊躇なく蹴り飛ばした。
「ひぎゃっ!?」
蹴り起されたアクアは悲鳴を上げ地面を転がる。うつ伏せになった彼女は程なくして顔を上げると、周囲を確認してから声を上げた。
「あれ? さっきの変な場所は? それに悪魔の気配も綺麗さっぱり無くなってるじゃない」
「どれもとっくに消えた。主だった道化を潰したからな」
「道化……そういえばさっき、エンターテイナーの鏡たるピエロ大先輩のような姿が見えた気がしたけど」
「そいつのことだが、奴も悪魔だぞ? まさか貴様の曇りなき眼とやらでは、エンターテイナーと悪魔の区別もつかんと?」
「へっ? ……ま、まさかそんなわけないじゃない! あの偉大なピエロ大先輩を騙るだなんて、とんだクソ悪魔がいたものね! 次会った時はぶん殴ってやるわ!」
彼女は一瞬狼狽えるも、すぐに強気な姿勢を見せて応える。しかしこれ以上詰められたくなかったのか、アクアは別の話題へと切り替えた。
「そういうお兄ちゃんは、どうしてあんな所にいたのよ?」
「先の道化による仕業だ。好きで迷い込んだわけではない。貴様こそ、どうやってあの空間に入った?」
「お兄ちゃんを探してたら、一か所だけ違和感のある空間を見つけたの。で、試しに『セイクリッド・ブレイクスペル』で殴ってみたら空間が割れちゃって」
どうやらアクアは力技で結界内に割りこんできたようだ。堕落していてもやはり女神かと、バージルは少しばかり彼女を見直す。
ふとアクアの顔を見ると、彼女は何故か得意げな顔でこちらを見上げていた。
「……なんだその顔は」
「ねぇねぇ、これってもしかしなくても、ピンチだったお兄ちゃんを私が助けたってことにならない? お兄ちゃん的に言うなら、お兄ちゃんは私に借りがあるってことよね? なら、相応のお礼も期待しちゃってもいいわよね? あっでも、私をただのナデナデで満足するようなチョロい女だとは思わないことね。まぁ強いて言うなら、王都で一番高いお酒なんてのはどうかしら?」
見直した途端にコレである。まだ何も言っていないにも関わらず勝手に見返りを期待するアクアに、バージルは怒りを通り越して呆れ果てていた。わざとらしい程のため息を吐いてから、彼は言葉を返す。
「貴様に借りなどあるわけがないだろう。むしろ今までの行いを考えれば、膨大な量となった俺への借りをようやくひとつ返したところだ。ついこの前、貴様の舞台劇にわざわざ協力してやったのを忘れたか?」
「その舞台劇もお兄ちゃんが滅茶苦茶にしちゃったんじゃない! せっかくいっぱい稼いだのに野外ステージの補修費やら何やらで削られてエリス祭に負けたんだから!」
「オーク共の暴走をあの程度で止められたのなら安いものだろう」
コートを掴んで鬱陶しく絡んでくるアクアを、バージルは目も合わせずあしらう。いっそもう一度ぶん殴って寝かせるかと思いつつ周囲を見渡すと、ちょうどこちらへ駆け寄ってくる保護者の姿が見えた。
「アクア! バージルさん!」
声を掛けながら走るカズマに、後ろからついてきたダクネスとめぐみん。ようやく来たかと、バージルは出しかけた拳を下ろし彼等と向き合う。
「やっと合流できましたよ。で……またアクアがなんかやらかしちゃいましたか?」
「違うわよ! むしろ私がお兄ちゃんを助けたんだから!」
「お前……ずっとお粗末な頭だとは思ってたけど、そんなバレバレの嘘まで吐くようになっちまったのか」
「なんで信じてくれないのよぉおおおおっ!」
普段の行い故か、真っ先にアクアのやらかしを疑うカズマ。アクアがダル絡みする相手をカズマに変える中、バージルはここで何があったのかをカズマ達に話した。
「なるほど……悪魔が一様にして消えたのも、その道化を倒したからか」
「うぐぐ……出し惜しみするあまり、結局今回も爆裂魔法を撃てずに終わってしまいました。この爆裂寸前の爆裂欲はどこに向けて発散すればいいんですか!?」
戦いは無事に終わったが、ひとり不完全燃焼だった者がいるようで。めぐみんは杖を強く握りしめて歯痒いと嘆く。何故かバージルを恨めしそうに睨んできたが、彼は一切気にせずカズマに尋ねた。
「魔王軍からの来客は?」
「大人しく悪魔狩ってましたよ。今は……アイリス達と一緒にいるみたいっすね」
どうやらヤサカとウォルバクに怪しい動きは見られなかったようだ。『千里眼』で遠方を見つめながら、カズマはそう答える。依然として彼女等の真意は掴めないままだが、明確な敵意を感じられなかったのも事実であった。
このまま監視役として残る必要もない。そう思ったバージルは、懐からテレポート水晶を取り出しながらカズマに告げた。
「俺は先に街へ帰る。あの二人は貴様に任せた」
「へっ? ちょ、バージルさん!?」
慌ててカズマが呼び止めてきたが、既にテレポート水晶は光を放っていた。眩い光がバージルを包み、彼の姿は忽然と消えた。
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『テレポート』でアクセルの街へと帰ったバージル。これ以上アクアのお守りをしたくないのも僅かながらに含まれていたが、主な理由はジェスターの意味深な言葉。気がかりだった彼は街に残したクリス達の様子を見るべく、先に街へ戻ってきたのだった。
テレポート先である自宅兼事務所に降り立ったバージルは、すぐさま場所を移動する。向かう先は隣のカズマ達が住む屋敷。彼等が留守にしている間、クリスとタナリスが屋敷の番をすると王都へ移動する前に話していた筈。彼は駆け足気味になりながら、屋敷前へと辿り着く。
まず彼の目に入ったのは、玄関前の庭にいたケルベロス、ネヴァン、アグニ、ルドラ、ネロア、タナリス。扉付近にはゆんゆんが立ち、彼女の背後にはシルフィーナとこめっこの姿が。庭の中心にはミツルギが
地べたに座り、そんな彼を介抱するように隣へ座るセシリー、クレメア、フィオ。唯一、クリスの姿だけが見当たらなかった。
バージルは彼等の姿を一瞥してから庭に入る。バージルの存在に気付いた彼等が一様にしてこちらを見た途端、その場にいたほとんどの者が臨戦態勢を取った。
「アンタ……よくもキョウヤを……!」
中でもクレメアは剣を握り、強い怒りが見える目でこちらを睨んできた。隣のフィオも怯えこそすれど短剣を構え、周りの悪魔達も身構える。ゆんゆんの背後にいたシルフィーナは怯えた様子で隠れ、一方のこめっこは声を荒げて威嚇してきた。まるで彼女等に酷い仕打ちをした後のような歓迎だが、当然バージルにそんな真似をした覚えはない。どういうことだと疑問に思っていると、ミツルギがこちらを見上げながら口を開いた。
「師匠は……本当に師匠ですか?」
彼の問いかけは、バージルの疑問を更に深めるものであった。どういうわけか疑われているようだったので、バージルは彼の目を真っ直ぐ見て答える。
「俺は俺だ。依然変わりはない。その様子だと何者かに襲撃されたようだが……ここでいったい何があった?」
「……クレメア、フィオ。武器を下ろしてくれ。大丈夫、この人は紛れもなく師匠だよ」
バージルの返答を聞いたミツルギは、側近の二人に戦闘態勢を解くよう告げる。二人は戸惑う様子を見せたが、彼の指示に従い剣を納めた。
「ゆんゆん、すまないけど君から話してくれないかい? 僕は途中で気を失ってしまったからね」
「は、はい……」
他の者達も警戒を解く中、ゆんゆんはバージル達がいない間に起こった出来事を語った。
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バージル達が王都へ向かった、少し後のこと。カズマ達の家である屋敷の前にて。
主がいない間、留守を預かるのは屋敷に滞在していたこめっことシルフィーナ。更に、そんな彼女等を見守る者が四人いた。
「し、シルフィーナちゃん! こめっこちゃん! 私も遊びに入ってもいい……かな?」
「えっ? えっと……」
「ゆんゆんとあそぶとピリッとくるからヤダ」
「えぇっ!?」
二人の遊びに加わろうとしたゆんゆんは、こめっこからバッサリと断られ酷くショックを受ける。そんな彼女等のやり取りを見守っていたタナリスとクリスが口を開いた。
「確かに、最近ゆんゆんに触れたら高い確率で静電気が流れてきてたんだよね」
「まぁ季節も秋ですし、ゆんゆんちゃんはよく雷の魔法を使ってるから、流れやすいんじゃないですか?」
「雷……」
クリスの発言の中にあった雷というワードが引っかかったゆんゆん。体質もあるのではとクリスは推測していたが、これまでの人生で静電気が流れやすいと指摘されたことはない。
ここ最近の出来事で、雷に関すること。思い辺りがあったゆんゆんは、その元凶と思われる者に顔を向けた。
「ネヴァンさん! 私の身体に何かしましたか!?」
「えっ?」
屋敷の日陰で、トマトジュースを飲みながらのんびりしていたネヴァン。突如ゆんゆんから詰められた彼女は、首を傾げながら返答した。
「別に変なことはしてないわよ。あったとしても、貴方が寝てる間にコッソリ私の魔力をちょっとずつ流し込んでるだけだし」
「絶対それ! そのせいで静電気が流れやすくなって、こめっこちゃん達から嫌われたんですよ!?」
「私を使い魔として使役する以上は私の力にも慣れてもらわなきゃいけないんだから、必要なことよ。一応貴方の身体に影響が出ないよう微量にとどめてたんだけど、ちょっと多過ぎたかしら?」
ネヴァンは謝罪のつもりか、舌を出して頭を小突く茶目っ気ポーズを取る。ゆんゆんとしては文句のひとつも言いたかったのだが、自分の為を思っての行動だと知った彼女は怒るに怒れず。力なくその場で項垂れた。
「なるほどナァ。最近俺様の毛がゴワゴワすンのも嬢ちゃんのせいだったのか」
「ふむ……我も主に氷の力を嫌がらせで流し込んだことはあるが、ゆんゆんと違い、主はやたらと喜んでいたな」
「我らの主は彼奴をドM騎士と呼んでいた」
「どえむ? どえむとは?」
「ドMというのは――」
二人のやり取りを眺めながら、会話を交える悪魔達。またこの場にはミツルギもおり、フワフワ浮かんでいるベルディアと共に彼女等を見守っていた。
ダクネスより、こめっこ達の見守りを任されたクリスとタナリス。せっかくなら遊び相手は多い方がいいと、ゆんゆんとミツルギも屋敷へと招き入れることに。女神様の為ならばとミツルギは即決。ゆんゆんも、願ってもないお友達からのお誘いに歓喜し、屋敷へとやってきた。
カズマ達を見送った後、彼女達はこうして二人の面倒を見ているが、こめっこから時折無茶ぶりをされる以外は特に問題は起こっていなかった。こめっこから拒絶されたゆんゆんは、落ち込みながらミツルギ達のもとへ。
「うぅ……私は仲良くしたいだけなのに……」
「きっと皆が戻ってくるまでには仲良くなれるさ」
「向こうはなんだか面倒事っぽかったし、少なくとも滞在は一週間以上かかるんじゃないかな? 王女様もカズマとは積もる話があるだろうし」
「当たり前に受け入れてますけど、王女様と顔見知りって結構なことですよね? カズマ君もスミに置けないなぁ」
『王族とのコネもあり、女神に悪魔に半人半魔とも知り合いで、起動要塞デストロイヤーすらも止めた冒険者……事実だけ並べるとあの小僧凄まじいな。いずれは魔王様か殿下とも知り合うんじゃないか?』
ベルディアの話した可能性をゆんゆん達は否定し切れず、苦笑いを浮かべる。その予想が大当たりしているとはいざ知らず。
ミツルギの言う通り、彼等が戻ってくるまでまだ時間が掛かるであろう。それまでにもっと、めぐみんも嫉妬するほど二人と仲良くなるにはどうアプローチしていくべきか。ゆんゆんがお友達大作戦を練ってる、そんな時であった。
「……あれ?」
不意にミツルギが声を漏らした。彼の顔を見ると、屋敷の正門方面へ顔を向けたまま動かない。どうしたのかと気になりゆんゆんも同じ方向を見ると、彼女の目に見知った人物の姿が映った。
青いコートに白銀の髪――カズマと共に王都へ経った筈の、バージルである。
「師匠! もう戻られたのですか?」
思わぬ帰還にミツルギは驚きながらも彼に駆け寄る。忘れ物でもあったのか、カズマ達に面倒事を任せて自分だけ先に帰ったか。ゆんゆんも彼の帰宅に驚く一方、めぐみん等ではなくてよかったと安堵する。こめっこ達と仲良くなれない様を彼女に見られた時には、延々と弄られていたであろう。
「よかったねクリス。バージルが早く帰ってきて。君、バージルが王都に向かってから寂しそうに彼の家の方を見てたからさ」
おちょくる気満々の口調でタナリスはクリスへ話しかける。最近、彼と気になる関係になりつつあるクリスも嬉しいのではないかと。ゆんゆんも反応が気になり彼女に顔を向ける。
が――クリスの表情は、どうしてか酷く怯えた様子であった。汗もどっと吹き出し、呼吸も荒れている。ゆんゆんの予想と反する反応を見せていたクリスは、やがて叫ぶようにミツルギへ告げた。
「ミツルギ君! 今すぐそいつから離れて!」
彼女から発せられたのは、警告。何故クリスはバージルに対して強い警戒を示しているのか。普段のやり取りを見ているだけに不思議に思ったゆんゆんであったが、その真意をすぐに知ることとなった。
バージルに近寄ったミツルギの腹を――刃が貫いた。
「……えっ?」
困惑の声がミツルギから漏れる。信じがたい出来事を目の当たりにし、この場にいる誰もが驚愕していた。ただ一人、彼の腹を自らの刀で貫いていたバージルを除いて。
バージルは刀を持つ手に力を込め、ミツルギへ更に深く突き刺す。血反吐を吐いて苦しむミツルギを前に、バージルは彼を突き放すように刀を抜いた。
ミツルギはそのまま後ろに崩れ、仰向けに倒れる。庭の緑がミツルギの血で染まる中、それを目撃してしまったシルフィーナが悲鳴を上げた。
「い……いやぁああああっ!」
「シルフィーナちゃん!」
ゆんゆんは真っ先に彼女がいた屋敷の扉前へ駆ける。傍にいたこめっこも自分の背に隠し、腰元の短剣を抜いてバージルと対峙する。
どうしてバージルはミツルギを刺したのか。たとえ修行だったしても、皆の目がある前で彼がこんな真似をするとはゆんゆんには思えなかった。疑問が渦巻く中、ゆんゆんはミツルギを見下ろすバージルの目を見た。
彼の――冷え切った悪魔の目を。
「っ……!」
ゆんゆんは上げそうになった悲鳴を抑え、短剣を強く握りしめて息を呑む。。
こちらを人とすら認識していない虚ろな目。だがその奥から身も凍るほどの殺意と、強敵と幾度も戦ってきたゆんゆんの心すら恐怖で縛る、圧倒的な魔を感じ取った。今のゆんゆんには、決してこめっこ達の前から逃げ出さず対峙するだけで精一杯であった。
「ハァッ!」
しかしそこに、勇敢に飛び出した者が一人。魔力の刃を形成した鎌を手に飛び掛かった、タナリスである。彼女は躊躇なくバージルに鎌を振り下ろしたが、相手は涼しい顔で攻撃を避けた。対峙したタナリスは鎌を差し向けながら彼に問いかけた。
「単刀直入に聞くよ。君、誰だい?」
「貴様は……堕天した女神だったか」
「僕を知らないってことはクロだね。つまり、遠慮なく斬りにいってもいいわけだ」
「下界に堕ち、本来の力を失った貴様が俺を斬るだと? 話に聞く通り、女神というのは自惚れが過ぎるな」
バージル――否、バージルを騙る謎の男は、タナリスの挑発を嘲笑う。
刹那、彼の姿が消えた。次にその姿を見た時、彼はタナリスの背後に立ち、既に抜いていた刀を納めんとしていた。
「奴の代わりに伝えておこう。もう貴様に用はない」
彼の声と共に、鞘へ納まる音が鳴る。瞬間、タナリスの身体は斬り刻まれ、鮮血が飛び散った。
「がはっ……!」
「タナリスちゃん!」
たまらず叫ぶゆんゆん。友達が傷つけられて飛び出したい衝動に駆られたが、今動けば背後のこめっことシルフィーナに危険が及ぶ。ゆんゆんはぐっと堪え、バージルらしき男を睨んだ。
そんな彼女の思いに応えるかのように、ネヴァン、ケルベロス、アグニ、ルドラが一斉に男へ飛び掛かった。対する男は顔色ひとつ変えずに柄を握る。
「無駄だ」
男はほんの一瞬だけ刀を抜いた。本物と違わぬ神速の抜刀が彼等を襲う。悪魔達の奇襲は届くことなく、一様にして地面に倒れた。
まさに無双。タナリスもネヴァン達も倒れ、こちらに標的が向くと感じたゆんゆんはいつでもネロアを出せるよう身構える。
男の目がこちらを捉えた時――彼の背後にいた、魔剣の勇者が再び立ち上がった。
「だっ!」
血を流しながらも『ソウルリンク』を発動して立ったミツルギは、魔剣をバージルめがけて横に薙ぐ。その動作を見たゆんゆんはすかさずネロアを召喚。ネロアは男の背に向かって突撃し、鋭い爪を振りかざす。
「遅い」
男は再度刀を抜き、先にミツルギの剣を弾いた。振り向きざまに、背後から迫っていたネロアを逆薙ぎで真っ二つに斬る。そして再びミツルギの方へ振り返ると、彼に向かって刀を横に一閃。攻撃を仕掛けようとしていたミツルギは咄嗟に魔剣で防いだが、男の重い一振りは止められず、ミツルギは横に吹き飛んでいった。庭を囲う瓦礫の壁を壊し、壁の向こうに消える。ネロアもたった一振りが致命傷に至ったのか、肉体は影となって消え、地面にコアを晒してしまう。
男はコアを見下ろすと、刀を突き立てんと刃を下に向ける。ネロアが危ないとゆんゆんは短剣片手に飛び出そうとした時――視界の端で、眩い光が煌めいた。すかさずそちらを見ると、収まる光の中から現れたのは、紺色の修道服に身を包んだ銀髪の女性。聖堂でも見た、クリスの本当の姿――女神エリスであった。彼女の姿を見た男はネロアにトドメを刺すのを止め、エリスに向かって歩き出す。対するエリスは男を捉えると両手を前にかざし、強く唱えた。
「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!」
男の足元に魔法陣が浮かんだのも束の間、そこから光の柱が立ち上った。上位悪魔すら屠る最強の光魔法。ましてや女神の手によるものとなれば、その力は絶大なもの。
だが――その光から男が飛び出してきた。エリスが驚く中、男は瞬時に彼女の懐に入ると、その腹に拳を入れた。
「うっ……!」
男の重たい拳にエリスは耐えきれず、一撃で気を失う。倒れたエリスを見た男は、どういうわけか彼女を担ぎ上げると、屋敷の外に向かって歩き出した。
「オ、オイオイオイッ! アイツ行っちまうぞ! どうすりゃいいんだよコレ! 鶏の俺様じゃどうにもできねェけどよ! つーか何なんだよアイツ! バージルちゃんじゃネェのか!?」
目的は不明だが、エリスを連れ去ろうとしているのは確かだ。しかしミツルギとタナリス、悪魔達は起き上がる様子もなく、ネロアもコア状態から回復していない。ここでゆんゆんが飛び出しても、足止めにすらならないであろう。背後で怯えるシルフィーナ達もいる。悔しいが、今は彼女達を守るしかない。
と思った矢先であった。彼女の意に反するように、背後にいたこめっこが突如として前に出た。
「銀髪のおっさん! このままおめおめと逃げかえれると思っているのか! この私が相手になろう!」
「こめっこちゃん!?」
魔王軍幹部が相手でも物おじしなかった胆力の持ち主。こめっこはゆんゆんの声を無視し、男と対峙して戦う構えを取る。呼び止められた男は振り返ると、酷く冷めた目でこめっこを睨む。彼の目を見てシルフィーナは小さく悲鳴を上げたが、こめっこは動じない。しばらく睨み合いが続いた、そんな時であった。
「なー!」
「ちょむちゃん!」
こめっこを守らんと、ここまで影に隠れていたちょむすけが飛び出した。ちょむすけは先のネロアのように飛び掛かると、男の腕に嚙みついた。男はしばらくちょむすけの好きにさせていたが、鬱陶しくなったのか軽く腕を振ってちょむすけを無理矢理振り払った。地面を転がったちょむすけは立ち上がると、歯を剥き出しにして威嚇する。そんなちょむすけをまじまじと見つめた後、男は呟いた。
「ただの猫かと思ったが……あの女同様、少しは使えそうだ」
次の瞬間、抱えていたエリスもろとも男の姿が消える。気付けばちょむすけの背後に周り、男はちょむすけを空いている片手で掴んだ。ちょむすけはジタバタと抵抗するが男からは逃げられず。
「ちょむすけを返せー!」
それを見たこめっこが、ちょむすけを助けんと走り出した。男は向かってきたこめっこを見ると、彼女を蹴ろうと足を上げた。ここでゆんゆんは咄嗟に駆け出し、こめっことの間に入って彼女を守るように抱き締めた。故に男の蹴りはゆんゆんの背中へ当たる。
「がっ……!」
痛烈な痛みと共に吹き飛ばされ、屋敷の入口まで転がり戻される。痛みを堪えながらもゆんゆんは立ち上がり、男を見る。男は心底興味が失せた目でゆんゆんを見下し、彼女に告げた。
「無様だな。貴様程度の力では、何も守れはしない」
男はそう吐き捨てると、エリスとちょむすけを攫って屋敷から去っていく。追いかけようとしたのも束の間、男は光に包まれて姿を消した。ゆんゆんもよく知る『テレポート』の光。追跡はもはや不可能となった。
男の行方も気になるが、今はとにかく皆を助けなければ。ゆんゆんはこめっこ達に屋敷の中で待っているよう伝えた後、回復魔法が使えるプリースト――セシリーのもとへ『
TVショーに自ら出演して司会の質問にもちゃんと答えて誰も斬らずに番組ゲストを全うしたコミュパワーマシマシのネトフリ版鬼いちゃんとは大違いだぁ……。