Alderamin of kaleidoscope 作:幻覚の彼女
門をくぐる白と黒の朧影。
真っ暗な凱旋門をくぐれば、
真っ白な軍服に身を包んだ部隊が彼を待ち受ける。
一面に広がる白の軍勢、その数およそ7000ほど。この国の軍隊のおよそ3分の1を任されるのはメルジオン家の宿命にして、彼の力の証である。
恐ろしいほどに静まりかえった大群勢は、背の低い少年の言葉を待っていたーー
「現刻をもって、本日の訓練を開始する。各隊長の指示の下、個人の技を高めるとともに来たるべき時へ備えよ。」
まだ威厳には欠けるその姿から鋭く解き放たれる軍への命。
ーー静寂の後、訓練は始まる。
彼が率いる約7000の軍勢はエテル軍公国連隊第一多面兵団。彼が12になった頃授けられた彼の《力》は彼の存在意義を強きものにし、そして彼に聖騎士の宿命を突きつけている。
「これより私が一連隊、計2000人を率いる。
対する5000人を率いるのは私以外の中佐以上の階級のもの。話し合い、とまでいかないだろうが戦術レベルでの意思疎通、そして戦時下の状況判断能力の向上に努めてほしい。」
公国東端に広がるベルコード軍立演習場。訓練には十分すぎるほどの敷地面積に、中央に標高1000mほどの山、そこから海へと流れる川、麓に広がる森、西部には湖と、ありとあらゆる環境が詰め込まれている箱庭のようなこの地。
そんな場所でシュロが当たり前のように告げた命令は、いつにも増してハードで流石に隊の下級兵も動揺を隠せない。
「シュロ様でもそりゃやりすぎじゃ……」
「前回までは3000対4000でずっとやってきたじゃない……ここにきて……?」
「無理するなぁ……」
シュロはしばらく険しい顔になったのち
真剣な表情を少し緩ませて、
「みんなくじ引きでどっち側か決めといてくれるかい?決まり次第 ワタシ に教えてくれ。開始は1時間後、夕刻3:30。ヨロシク〜」
真剣だったさっきとは裏腹に、シュロは余りにも軽い一言を残し、楽しげに簡易野営地へと戻ってしまった。
ーー何処と無く眠気を誘う陽の光がゆっくりと差し込む野営地。
机に突っ伏して何か考え始めたシュロのポーチから、ミラが這い出て来て少し困惑するようにヨチヨチと近寄ってくる。
「何を焦ってるのですか?これはシュロの意見じゃないはず。明らかにシュロが不安定ではありませんか。」
精霊という存在ながら、かなり憤った様子を見せ、声を荒げて問い詰める。
「ーーそもそも《貴方》は誰ですかーー」
腕から少し顔を上げた彼は、先ほどとは打って変わった細々とした蚊の鳴くような声で
「この国はそろそろ目を覚まさないといけない。夢を見ていられる微睡みの時間はもうすぐ終わるんだよ……」
「僕は、僕だ。そして、彼もアイツも、シュロ・メルジオンなんだよ。
これは永久に変わることはないし、どんな時でもシュロ・メルジオンはシュロ・メルジオンだ。」
途中から、自分に言い聞かせるように噛みしめるように呟く彼に精霊の体は震えた。
ーーこの現実は契約から10年経った今でも、突きつけられると戦慄を覚えてしまう。
「今を全力で 勝ちに行く《楽しむ》んだよ。それ以外の事は一旦シャットアウトする。行こうか、ミラ。」
力の抜け切ったように見えた身体が突如として起き上がり、その目に碧い炎をともす。
ーー精霊も今一度体を震わせて、ポーチへ戻る。
どんな時でも、この公国の人間は信じている。若き聖騎士の力を。
その身に三つの《意志》を持つ特異体質。多重人格者にして鬼才の将。
《絶勝幾重の能将》
偶然にも同じ時代を戦うことになるカトヴァーナの《常怠常勝の智将》とキオカの《不眠の輝将》に並び謳われる小国の希望は、静かにそして力強く模擬戦へと繰り出すー
「割り振りは決まったか?各大隊、うん。ヘイロ隊、ヒシバ隊、ログルス隊、プロスト隊………
あと一つは、君たちだね、ギラフレイ。」
公国きっての名発明、トロッコに乗り込む兵たちを鼓舞するように少年は叫ぶ。
「集まったみんな。命じた僕が言うのもなんだが、今日は過去にないほどの過酷な状況。でも一言言えるのは、この勝負必ず勝てるということーー
ーー聖騎士の名の下に、生きろーー」
「サー!イエッサー!!」
ーー公国歴1000年、5月8日夕刻3時30分。静寂の公国東端ベルゴール軍事演習場に風砲の音は鳴り響くー
読んでいただきありがとうございます。
お陰様で、2話目です。
公国連隊大規模軍事訓練編となります。
経験豊富なシュロですが、物語内では初陣ということになりますね。
尚、基本公国の方々は、主人公、シュロの体質を知っている設定です。ぶれぶれの彼の心身状況は敢えてここまで突飛に変化させております。
よろしければ、感想アドバイス等いただけると嬉しいです。