ゴジラ2054 終末の焔   作:江藤えそら

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久方ぶりの投稿となりました。
多忙な中での更新なので粗が多いかと思われます。


苦悶

「目標進行中。攻撃続行するも、未だ効果無し。送れ」

「タイガー2、残弾無し!」

「タイガー4、残弾無し…」

 各部隊が次々に残弾を失って落伍していく中で、健在な部隊による砲撃と爆撃はまだ続いていた。

 ゴジラは熱線を吐くのをやめ、戦車部隊が並ぶ国道へと足を速めた。

 

 ◆◆◆

 

「ゴジラ、速度上昇! 時速50km前後で国道へ向け突貫する模様!」

「戦車隊はゴジラの進行方向の国道上から退避中! 左右に分かれて残存火力を投射します!」

 通信士が現状を告げる。

「7500発の対生体徹甲弾を浴びてなお健在……。奴の体表は一体何でできているのだ……!!」

 岡崎総監はそう洩らしながら苛立たしげに机を叩く。

 

「総監!! ゴジラ周囲の空間放射線量が急激に増大中!!」

「何だと!? 」

 思わぬ報告に岡崎は狼狽える。

「奴はエネルギー生成を核融合に移行したことにより、核分裂を用いる百年前の個体よりは格段に放射線の漏洩は少ないだろう…と怪坊会の報告書にはありましたが…これは一体……」

 幹部の一人が不安げにつぶやく。

「分かるものか…!! あんな怪物の常識など…たかが人間に分かるはずがないんだ…!!」

 中田幕僚長がこぶしを握り締めながら呟く。

「戦車部隊、損耗率63%! 特科部隊、損耗率33%!」

 通信士の報告が入ると、幕僚達の表情はより一層重みを増した。

「全部隊に通達! 全車、戦域より後退させろ! 彼らはもう十分に戦った! 空爆は続行しつつ、作戦を最終段階に移行する!」

 事ここに至り、岡崎が撤退指令を下す。

「了解!」

 

 

 ◆◆◆

 

 

「全車全速後退!!」

 その教導団長の指示を待つまでもなく、各戦闘車両は左右に分かれてゴジラと距離をとっていった。

 残弾が存在する車両は後退しつつ依然として砲撃を見舞い、ない車両はひたすら全輪を駆動して後退を続ける。

 

「もう少し…もう少し踏みとどまれ! 後ろの味方が下がりきるまで残弾を撃ち続けるぞ!」

 小幡は枯れそうな声で車内の部下二名に叫んだ。

 彼らの車両の後ろを、残弾を撃ち尽くした車両が列を成して退却していた。

 

「小幡車長! 残弾は残り二発になっ…」

 砲手の山下三曹はそこまで言いかけて言葉を止めた。

「…車長、血が……」

「なんだ…? 聞こえないぞ!」

 そう問いかける小幡の口と鼻からは、とめどなく血が流れていた。

「血、血が出てます、車長! 分からないんですか!?」

 山下は血相を変えて叫び、前の座席に座る長根も「どうしたんです!?」と振り向く。

 小幡はそっと自分の口元に触れ、その指に血が付着しているのを見た。

「どうしたも…こうしたも…あるか……」

 そう呟くと、小幡は車長席にぐったりともたれかかった。

「ヤバいぞ山下! ハッチ閉めろ!!」

 長根の必死の叫びに応え、山下は戦車のハッチを閉める。

「一体何なんだ、これは!? 車長、しっかりしてください!」

 山下は半分パニックになって両手で小幡を揺さぶった。

「放射能だよ! あいつが、ゴジラが出してるんだよ!!」

 長根がそう山下に怒鳴りつける。

 

「うるせぇな……。ゴジラは……近付いてるのか……?」

 小幡は急に体力を失いながらも、二人に問いかけた。

「は、はい…。1㎞ほど先を歩いています…! 防衛ラインは…今まさに突破されるところです…!」

 動揺しながらも山下が応える。

「うぅ………」

 二人の問答のそばで、長根が呻きながら目をこする。

「真っ白だ……どうなってる……」

「長根、どうかしたのか!?」

「視界が真っ白になってる…‥意味が…分からん……」

 その返答を聞いて、山下は一瞬言葉を失った。

「長根……お前まで……」

 その症状が、放射線白内障によるものであることは一目瞭然であった。

「山下…お前が長根の”目”になってくれ…。攻撃はもういい、撤退命令が出てる…」

 小幡がやっとの思いでそう呟くと、「…了解しました!」と山下が応える。

「長根、そのまま後ろに! 俺が合図したら左に旋回、さらにバックで離れるぞ!」

「わ、分かった……」

 そう答える長根も急速に体力を失い、口からはとめどなく血が流れ落ちていた。

 

 しかし、長根が車両をバックさせ始めた直後だった。

 外の光景を映し出すモニターは閃光に包まれ、同時に彼らが乗る車両は激しく吹き飛ばされた。

「わぁぁぁぁぁっ!!!」

 三人の隊員は車両の中のあらゆる箇所に叩きつけられた。

 小幡と長根は悲鳴をあげる力すら残っていなかった。

 やがて車両の動きが止まると、全身を打撲しながらも山下が何とか動き出す。

「…やられましたね……横転してます…」

 山下が言うとおり、戦車は至近距離の熱線発射に伴う衝撃波により十mほど吹き飛ばされ、国道の脇で横転していた。

「生きてますか、車長、長根……」

「山下……車両を出て…原隊に戻れ……。まだ体が動けるうちに……」

 と、小幡の掠れた声が返ってきた。

 長根は衝撃で気を失っているようだった。

「車長と長根を置いていけということですか…」

「二人を抱えて原隊に戻るのは無理だ…足手まといになる…。早くしないと…お前も被曝で動けなくなる…」

 山下は反論しようとしたが、すぐにその言葉を胸の内に押しとどめた。

 ここで押し問答をしても時間の無駄になることは明白であり、小幡の意を汲むのが最良の判断だと理解したためであった。

「了解しました。必ず…必ず友軍が助けに来ます…! お先に原隊でお待ちしております…!」

 山下は敬礼をしてからハッチを開け、外に出た。

 小幡にはもはや敬礼を返す力はなく、微かに手を動かして手を振るくらいのことしかできなかった。

 

「……っ!?」

 ハッチを開けて這いずるように車両を出た山下は、外の異様な光景に驚愕した。

 真夜中であるにもかかわらず夕暮れ時のように全体がオレンジの靄に包まれた国道には、至る所にひっくり返った車両やその残骸が転がっていた。

 周囲の木々が轟々と燃え盛り、その熱気が痛いくらいに山下の肌に伝わってくる。

 そして何よりも凄惨なのは、あらゆるところに数分前まで人の体を成していたであろう肉片や装備の一部が転がっている様相だった。

 あるところでは苦悶の表情を残したまま真っ黒に焼け焦げた隊員の死体が横転した45式機動戦闘車のハッチからはみ出ており、またあるところでは衝撃波の直撃を受けて千切れ飛んだ隊員の脚が木の枝に引っかかっていた。

 それは、まさしく戦争そのものを忠実に再現した地獄であった。

 

 その世界に面食らいながらも山下は一、二歩前に進んだ。

 彼自身も体に急速な疲労を感じ始めていた。

 が、彼の歩みは突然の大きな地面の揺れによって遮られた。

「うわっ!!」

 山下は大きくアスファルトの上に転び、咄嗟に後方を見た。

 

 そこには、オレンジの靄に紛れた巨大なゴジラの姿があった。

 彼は、山下が首を目いっぱい上に向けても頭部を視界に捉えられないほど近くに迫っていた。

 わざと出力を落とし、熱線ではなく赤い炎を吐いて森を焼き払いながら、一歩ずつゆっくりと都心の方角へと歩を進めていた。

 

「…………」

 不謹慎にも、山下が最初に抱いた感想は”美しい”であった。

 そしてそれは、同時に最後の感想でもあった。

 

 

 ゴジラは今一度、大きく咆哮をあげた。

 大気が震え、大地がその震動に共鳴する。

 

 

 

 人類の罪が生み出した大いなる神。

 それを前にしては、人類は跪くことさえも許されない。

 

 

 

 山下はしゃがみ込んだまま、血の混じった涙を流した。

 

 その直後、ゴジラが国道を、蹴って叩き割るようにして横断した。

 激しい揺れで山下はアスファルトにしがみつくのがやっとだった。

 ゴジラの脚に粉砕された衝撃で瓦礫の破片がそこら中に飛来し、車両やその残骸に当たって大きな凹みを与えた。

 そして、茫然と巨神を眺めていた山下が己の任務を思い出して立ち上がろうとした瞬間、その上半身を飛来した瓦礫が吹き飛ばした。

 一瞬にして上体が丸ごと雲散霧消し、腹から下の部分だけが十数mも吹き飛ばされて炎上する戦闘車両の中に突っ込んでいった。

 

 

 

「長根……逝っちまったのか……長根……」

 暗く、熱気に包まれた戦車の中で、息も絶え絶えに小幡は呼びかけた。

 瓦礫が車両に当たり、そのたびに大きな衝撃音と振動が彼に伝わる。

 長根の返事はなかった。

 そして今原隊へ返したはずの山下も外でバラバラに吹き飛ばされていったことなど、小幡には知る由もなかった。

 

「…………」

 小幡は血の塊をボトリと吐き出した。

「堅太郎………堅…太郎………けん……」

 目の前にはいない息子の名前を何度も呟く彼の声は、次第に聞こえなくなっていった。

 

 

【0:52 ゴジラ、呉号作戦防衛ラインを突破】

 

 

 ◆◆◆

 

 

 同刻、千葉高品多目的シェルター。

 

 

「オバケン!? オバケンじゃん!?」

 吉道は、シェルターの中にごった返す人々の中に親友の姿を見つけ、思わず大声をあげた。

「おっ……あぁ、ミッチーか…」

 吉道の姿を見つけた小幡堅太郎の声は、しかし冴え冴えとはしていなかった。

「お前もここ来てたんだな! 会えて良かったー! てかどうした? 元気なくね?」

 いつもの大人しさとは打って変わって、吉道は非日常に満ちたこの状況下で親友に出会えた嬉しさから格段に饒舌となっていた。

 一方、覇気のない堅太郎の様子はさながら普段の吉道のように大人なしく、二人の共通の友人が今の彼らを見たら誰もが訝しむであろう様子だった。

「いやー、悪ぃな……。ほら、前にも言ったけど俺の親父、自衛隊だからさ…‥今頃何してんのかなあって」

「あっ……」

 吉道は避難中に見かけた、上空を飛んでいく自衛隊の航空機の群れを思い出した。

 そして、軽率に悦びを露わにしていた己の不謹慎さを恥じた。

「あ、いや、気にすんなよ? 親父の部隊がいるかどうかも分からんし、仮にいたとしてもあのバカ親父が簡単に死ぬわけねえしな」

「ま、まあ…そうだといいけど……」

 

「実はそれよりも心配なことがあってさ……。ミッチー、九十九里のシェルターが連絡途絶えてるって話、聞いた?」

 堅太郎の言葉を聞き、吉道は数秒間言葉を失った。

「……嘘だろ?」

「SNSで見た話だからホントって断言はできないけどな。本来許可をとれば他のシェルターにいる家族と連絡をとれるはずらしいんだけど、九十九里のシェルターだけは繋がらないらしい……」

「いやデマでしょ、そんなの」

 吉道は平静を装ってそう返したが、表情に浮かんだ焦燥は隠しきれていなかった。

「そうかね。九十九里って、ちょうどゴジラが歩いてるところだぞ」

「だってさ!! 避難訓練の時聞いたじゃん! ゴジラが変な息吐いても、シェルターは平気だって! そういうふうに設計されたのがこのシェルターなんだろ!?」

 吉道は思わず語気を強める。

「そんなに人間に都合よくできてるはずないんだよ、この世は」

 堅太郎はやけに哲学めいたことを言った。

「……シェルター内でネットが繋がらないのも、設備が不十分なんじゃなくて、国が意図的に遮断してるだけかもしれないな。SNSとかでそういう事実が広がるのが嫌だからって…」

「いや、マジで考えすぎだって! てかさ、ここがダメならどこに逃げんの!?」

 吉道の額にはいつの間にか冷や汗が浮き始めていた。

「さあね。ゴジラの進行方向と違う方に全速力で向かう…とかじゃないか?」

「そんなもん、怪獣がどこ行くかなんて分からないだろ………」

 

『ここで速報です。政府は、新たに避難区域の拡大を指示しました。避難指示が出ている区域は、千葉県全域に加え、東京23区、神奈川県横浜市、川崎市、横須賀市、鎌倉市、茨城県守谷市、取手市……』

 

 シェルターの壁に設置された大きなテレビ画面では、ニュースキャスターがそう告げていた。

 都心が避難区域となったためか、このニュースは大阪のテレビスタジオから中継されている旨が下方に表示されていた。

「このタイミングで避難区域の拡大……。おかしいだろ? 既に自衛隊が駆除に向かって、国家のできうる最大限の対応は終了したっていうのにさ」

 堅太郎は皮肉っぽく笑いながら言った。

「自衛隊、負けたのか?」

「ゴジラは都心に来るぞ!」

「じゃあここの真上を通るんじゃないのか!?」

 テレビ画面を見ている避難民たちは思い思いに不安を呟く。

「親父、やられちまったかもな……」

 堅太郎は画面を見上げながら茫然と呟く。

 

『また、アメリカ国防省は先程、「同盟国の危機に対応するため、また在日米軍基地と米大使館防衛のため、今後は日本の自衛隊と統合的な作戦運用を行う準備が整っている」と発表しました』

 

 

 

 やがて吉道は堅太郎と一旦別れ、家族が待つ避難スペースへと戻った。

「…友達に会えて良かったね」

 避難スペースに一人で残っている愛菜が、皮肉っぽくそう言った。

「…あれ? 母さんは?」

「お父さんとひいお婆ちゃんを迎えに上の階に行った。ねえ、ウチも友達探して来ていい? ぶっちゃけココ、暇なんだよね」

「…………」

 愛菜の願いをよそに、吉道は深く考え込む。

 

 もしオバケンの話が本当なら、このシェルターもいずれ焼かれるかもしれない…。

 逃げるなら、まだゴジラが遠くにいる今のうちじゃないだろうか?

 もし逃げ遅れたら、本当にみんな殺されてしまう。

 シェルターの耐久性を信頼していいのだろうか?

 

「ねえアニキ、聞いてる? ウチもう行くけど、いい!?」

 愛菜が苛立たしげに尋ねる。

「いや、ちょっと待って! もしかしたらここにいちゃいけないかもしれない…」

「はぁ!? 何言ってんの? ここ避難所だよ? 頭イカれた?」

「だから……」と吉道は言いかけたが、変に妹を不安にさせるのも気が引けて、それ以上言えなかった。

「……ごめん。ちょっと混乱しててさ。友達、探して来ていいよ」

「こんなんでメンタルやられるとか雑魚かよ…。じゃ、行ってくるから」

 相変わらずどぎつい口調で兄を罵りながら、愛菜は部屋を出て行った。

 

「………」

 一人でしばらく考え込んでいたが、吉道はどうしても嫌な予感を振り払うことができなかった。

 ここで判断を間違えたら、自分も家族も全員死ぬ。

 ぐずぐずしていたら手遅れになるかもしれない。

 でも、行政の管理下に置かれているこのシェルターを抜け出すことは可能なのだろうか。

 

 吉道はいてもたってもいられなくなり、部屋を出て上階へと向かった。

 目的は、母や合流するであろう父、曾祖母に会うことだった。

 ここを出るべきか否か、両親に聞いてから判断しても遅くはないだろうと思ったためである。

 未だ外にいるかもしれない父なら、SNSの情報をキャッチしている可能性もある。

 

 慌ただしく人が行き交う階段を一気に駆け抜け、吉道は地下一階へと向かった。

 

「………??」

 息を切らしながら地下一階の入り口にたどり着いた吉道は、驚きのあまり言葉を失った。

 入り口付近は、下層よりもさらに人でごった返していた。

 だがそれは入ってくる人が多いからではなく、むしろもともと中にいた人たちがこの場に集まっていたのである。

「ここから出せ!! 出せよ!!」

「やめてください!! 下がってください!!」

「ここにいたらみんな死ぬぞー!!」

「他の方の迷惑ですから!! 戻ってください!!」

「ネットを繋がらせろ!! 情報規制断固反対!!」

 入り口では、暴動が起きていた。

 吉道や堅太郎と同じように、シェルターの安全性を信用できないあまり疑心暗鬼に陥った人々であった。

 

 ”やはり堅太郎の不安は本当なんじゃ……

 そう吉道が思った時だった。

 暴動騒ぎの声に負けぬほどの音量で大画面のニュース映像の声が轟いた。

 

『ここで速報です! 現在巨大生物は東金市を超え、千葉市から都心方面へ進行中であると情報が入りました! 付近の住民は一刻も早い避難を……』

 

 群衆は一瞬で暴動をやめ、画面にくぎ付けになった。

 そして、彼らの表情は少しずつ絶望に支配されていった。

 

【0:58 避難区域拡大】

 

【1:00 米軍第7艦隊、横須賀を出港】

 

人類生存数:92億8652万人

 

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